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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

コードレスはやっぱり便利

かつて、電動ドリルはオモチャのような安物を除いて殆どが業務用で、ホームセンターに並んでいるそれもプロユースのものばかりでしたから、私のようなアマチュアは指をくわえて見ているしかありませんでした。それがニッカドバッテリーを搭載したコードレスになると輪をかけて高価になりましたが、ここ十何年かの間にこうした電動工具は劇的に安くなり、いまや有名メーカーのそれも充分にリーズナブルといえる価格帯になりました。

ウチのカーポート脇にある物置にはエアーコンプレッサーを備えており、以前はタイヤのローテーションなどでエアーインパクトレンチを使っていました。が、バッテリー駆動の電動インパクトレンチ(WRCなどのラリーカーに車載されているような高価なものではなく、リョービの比較的安いモデルですので、能力的にはさほど高くありませんが)を入手して以来、コンプレッサーを回す機会がめっきり減りました。

そんなこともあって、タイヤの空気圧を調整するためのエアキャリーに充填する以外に使う機会が殆どなくなり、コンプレッサー本体のタンク容量やモーターの能力が大きくても電力とスペースの無駄だと判断しました。そこで、そのエアーコンプレッサーは自転車イジリをする廊下の脇に移し、クルマ用にはもっと小さなオイルレスコンプレッサーに入れ替えました。

yamada_ATC-99L.jpg
ヤマダ エアキャリー ATC-99L
定価は117,600円(税込)と非常に高価ですが、
某有名ネットオークションで新品未使用が
半額近い安値で出品されていました。
開始時の価格では絶対に落ちないだろうと思い、
落札する気などなく、軽い気持ちで入札したところ、
他に入札者が現れませんでした。
これは出品者がカテゴリーを誤ったと見るべきでしょう。
「自動車、オートバイ > 工具 > タイヤゲージ」なら
もっと高値になって私が落札することもなかったでしょうが、
「住まい、インテリア > 工具、DIY用品 > エアーツール」
のカテゴリーで出品されていました。


このエアキャリーを入手する前も安物の小型サブタンクを使っていました。それ以前はエアーコンプレッサー本体からホースを延ばしていたのですが、長いホースを取り回すのも巻き取って片付けるのも邪魔くさかったゆえ、長いホースを用いなくても済むようにこうしたアイテムを使うようになった次第です。

こうしてコードやホース等の呪縛から解き放たれていくと、昔からコードがあって当たり前というアイテムでもコードレスにならないかと思うようになっていくわけですね。ですから、そうしたアイテムを見つけると半ば衝動的に買ってしまうことがあります。そうして購入してしまった2つのコードレスアイテムがこの連休に活躍してくれました。

この連休は会社のクルマを持ち帰って洗車したり車内に掃除機をかけたり、色々手入れしたのですが、メインの作業はバックカメラの取り付けでした。以前はバックカメラなど必要ないと思っていましたが、昨年買ったプリウスにそれが付いていて、バックで駐車するときなどに非常に便利だということを知り、それに慣れて11ヶ月が過ぎました。

今年の3月に入れ替えになった社用車は経費節減ということでパッソになってしまったのですが、以前からウチの会社のクルマにはバックカメラなど付いていませんでしたから、この代替えで付けてくれとリクエストできるような状況ではありませんでした。

ただ、ディーラーオプションのナビ(最廉価モデルですが、DVD-ROMなので情報量としては不自由ありませんし、当然リバースレンジでバックカメラに切り替わる機能もあります)が付いていますので、社外品の安いカメラとハーネスを買って来てDIYで取り付ければ7000~8000円くらいの出費でバックカメラ付きになります(純正なら部品代だけでもその2~3倍はします)。ということで、そのDIYをこの連休を利用してやることにしたわけです。

正味の作業時間は2時間程度だったと思いますが、電源ケーブルの長さが足りなくて途中で買いに行ったり、ビデオケーブルのピンプラグがナビに繋がるハーネス側もカメラに付属していたそれも両方ともオスだったので、メス-メスの中継プラグが必要になり、それもまた買いに行ったり、そうこうしているうちに日没でサスペンドになってしまったり、段取りが悪くて正味の作業時間の何倍も余計な時間を食ってしまいました。

ま、それはどうでも良いハナシですが、このとき用いたコードレステスターとコードレスハンダごてはどちらも比較的安価なものですが、非常に使い勝手が良く、重宝しました。

電源をシガーライターソケットなどから取るのは私の趣味ではありませんので、ACCのヒューズから取っているのですが、既に別のアイテムのためにその方法で取り出していましたので、コードの途中から電源取り出しコネクターを使って分岐させました。

こうしたとき、ちゃんと通電するかテスターで確認するのがセオリーで、以前はワニグチクリップが付いた検電テスターを使っていました。が、素手でアースが取れるコードレステスターは非常に使い勝手が良く、作業もスムーズに進められました。

コードレステスター
ストレート・コードレスコードテスター
ボディはステンレスになっており、ここを素手で握って
もう一方の手で金属部分に触れるだけで通電が確認できます。
単5電池2本を必要としますが、コードが届く範囲内に
クリップを噛ませられる場所を探さなくて済むのは便利です。


こうして取った電源をカメラに繋ぐわけですが、カメラから出ている電源ケーブルは非常に細く、ギボシを直接噛ませられなかったため、適当な太さのケーブルを介してギボシを付ける必要がありました。もちろん、導線同士を寄り合わせただけではいつ接触不良を起こすか解りませんから、当然ハンダ付けということになりますが、これもコードレスで簡単にクリアしました。

bp645.jpg
ウェラー・電池式コードレスハンダごて BP645
昔からガス式などもありましたが、これは単3電池3本で駆動します。
電池式ということで能力的には全く期待していませんでしたが、
わずか15秒ほどで使用可能な温度に達しますし、
電池の種類にもよるでしょうが48分連続使用可能が謳われています。


ハンダごてといったら「good」ブランドの太陽電機産業ハッコーホーザンなどしか知りませんでした。この「ウェラー」というドイツブランド自体知らず(会社そのものはアメリカのクーパーハンドツールズに買収されているようですが)、業務用など本格的なモデルも手がけているメーカーだということはこれを買った後で知りました。ですから、買うときはあまり期待していなかっただけに、この「ちゃんと使える」性能と機動力の高さ、しかもこの価格ですから、感動的といっても過言ではありません。

ガス式のハンダごてはライター用のブタンガスで対応できるものも少なくありませんが、どうあがいても単3電池ほどの簡便さはないでしょう。特に私はたばこを吸いませんから、ハンダごてのためだけにブタンガスボンベをストックしておくのも面倒です。が、単3電池ならいくらでも用途がありますし、どこのコンビニに行っても(売り切れでない限り)置いていないこともありません。

ということで、今回は作業前に確認を済ませておくべき部分で段取りが悪かったこともあって、貴重な休日の時間を少々無駄にしてしまいました。が、こうした便利なツールにいくらか助けられたところがあります。この種の便利ツールはハズレが多いアイデアツール(というより、アイデア倒れツール?)と紙一重ですが、今回ご紹介した2点はいずれも「大当たり」だったようです。
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ラチェットアダプターの正しい使い方

キリン・ファイアのテレビCMで福山雅治がランサー・エボリューションのメンテをしている『マ、イイカ』篇がオンエアされていますが、どうもあの工具の使い方が素人じみていて非常に気になります。

彼が手にしているのはラチェットアダプターにスライドTハンドルを組み合わせたものです。ラチェットアダプターをご存じない方のために説明しておきますと、これはラチェット機構の上下にメスとオスの差し込み角が設けられたもので、一般的に丸形のラチェットハンドルに用いられるヘッド部がベースになっています。

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KTC NEPROS NBRA3
件のCMで使われているのはスナップオンのTM67Aあたりかと思いますが、
これは私が愛用しているKTCネプロスのラチェットアダプターです。


もちろん、これ単体で大したトルクはかけられませんから、上部にあるメスの差し込み角にハンドルを取り付けて使用しますが、定番はやはりスライドTハンドルとの組み合わせになるでしょう。また、下部にあるオスの差し込み角にはエクステンションバーを取り付けるのも定番で、Tレンチにラチェットが組み合わさったような工具として用いるのが一般的です。

nepros_nbra3(2).jpg

世間一般の認知度はあまり高くないかもしれませんが、ハンドツールを扱ったムックなどではよく紹介されますから、このジャンルに興味のある人の間ではよく知られているでしょう。実際に使ってみるとこれがなかなか便利で、私も好んでよく使うアイテムの一つです。最初にこれを商品化したのはスナップオンになると思いますが、日本でもずいぶん前からKTCやコーケンなどから類似品が発売され、一部では定着してきたと思います。

で、件のCMですが、福山雅治(というより、彼に演技指導した演出家)がこの工具を使いこなせていないと思うのは、Tハンドルの中心付近を持ってラチェット機構を用い、往復運動で使っていたからです。

キリン・ファイア『マ、イイカ』篇

そもそも、Tハンドルを使うメリットというのは、まだ締め付けが緩い仮締めの状態(あるいは、高トルクが必要なくなってきた状態からの緩め)で迅速に作業を進められるという点にあるんですね。Tハンドルに人差し指(ま、他の指でも構わないと思いますが)を添え、クランクを回すような感じで円を描くようにクルクルと回してやれば、ラチェットで片道が空回りとなる往復運動より遙かに素早くボルトやナットを締めたり緩めたりできるわけです。

障害物があってハンドルを動かせる範囲が限られていたり、大きなトルクをかけるためにリーチの長いハンドルを用いる場合などを除き、往復運動ではなく回転運動になるような工具の動かし方をするほうが作業のスピードアップにつなげられる訳ですね。

ラチェットアダプターにスライドTハンドルを組み合わせたこのアイテムを有効に使いこなすとしたら、まずは上述のように指先でクランクを回すような要領で早回しし、大きなトルクが必要になる本締めの段階になってきたらTハンドルをスライドさせてリーチを長くし、ラチェット機構を活用して締め込んでいくというパターンがベストでしょう。緩めるときはこの逆になるのは言うまでもありません。

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こうすれば小さなトルクで回せる段階は素早く、大きなトルクが必要になってもハンドルをスライドさせるだけでそこそこのリーチがあるラチェットハンドルに早変わりしますから必要なトルクがかけられ、いちいち工具を持ち変える必要もありません。工具を持ち替える時間も無駄にしないアイテムともいえるでしょう。

逆に、こうした使い方をせず、CMで彼がやっているような使い方なら、普通のラチェットハンドルでもできることです。ハンドルではなくヘッドの部分を持って捻るように回してやれば状態としては殆ど同じになるわけですね。こうした使い方は少しラチェットハンドルに慣れた人なら誰でもやっているでしょう。

ラチェットアダプターは丸形のヘッドと同じ機構を用いていますから、見た目では駆動方向が解らないというデメリットがあります。また、ラチェットハンドルほどメジャーでないゆえマーケット規模も小さく、その分だけ値も張ります。普通のラチェットハンドルでできるような使い方をするのなら、わざわざコレを使う意味がないと思うんですけどねぇ。

私も本職の担当業務では基本的に工具を持つ立場にありませんが、何だかんだと工具が必要になる場面が巡って来ます。趣味で自転車をバラしたり組んだり、かつては愛車のユーノス・ロードスターにウマ(リジットラック)をかけて一日その下に潜り込んでいたこともありましたので、工具の扱いについてド素人というレベルではない自負もあります。が、プロのメカニックの方に比べると、格段に劣っているのはよく自覚しています。

もちろん、プロといってもピンキリですから、中には「プロのくせに解ってないな」と思わせる人もいます。が、本当に凄い人は判断も動作も何もかもが素早く的確で、一切の無駄がないんですね。やってはいけないことと知りつつ作業性を重視して(例えば、ホイールナットのインパクトレンチ一気締めとかを)やってしまうプロもいますが、一流のプロはそういう不適切なことは原則としてやらないんですね。

「原則として」と付したのは、不適切な処置でもやらなければ前に進むことも後に戻ることも出来ないことが現実には起こるからですが、その辺は臨機応変に対応し、単なる手抜きとしては絶対にやらないということです。それでいて、他の誰よりも作業が早かったりするんですね。そういう人は常に頭を使っているので、傍から作業を見ているだけで「おお、なるほど!」と思わされるシーンがよくあります。

ま、缶コーヒーのテレビCMごときに「おお、なるほど!」というシーンを望みはしませんが、「ちゃんと解ってるね」と思わせるだけでもかなり違ったと思います。「妥協ゼロ。糖分ゼロ。」というキャッチコピーなのですから、プロのメカニックに監修させるなどしてCMの演出も妥協することなく徹底して欲しかったところです。

とはいえ、まだメジャーとは言い難いラチェットアダプターを使っていたところはチョットだけ褒めてあげたいと思います。あのアイテムはもっと普及して、価格ももっと下がって欲しいというのが私の長年の希望ですから。

逆ネジ対応トルクレンチ (その3)

デジラチェというKTCの電子式トルクレンチは、従来の機械式に慣れた私にとって違和感のある製品でした(あくまでも個人的な感想です)。特にあの「カチッ」という振動のシグナルは力をかけている手の感覚と非常に密接につながるものですから、こうした手応えがあるほうが反射的に対応しやすいと思います。

もし、私にこうした製品のプロデュースをやらせてもらえるなら、設定トルクに達したところでビープ音を鳴らし、同時にバイブレーターで手応えを演出し、機械式から持ち替えても違和感なく使えるような工夫を施していたでしょう。TVゲームのコントローラーなどはかなり前からバイブレーターを仕込み、様々な演出に利用してきたのですから、これを応用するのはアイデアとして悪くないと思うのですが。

さて、私の「逆ネジに対応するトルクレンチ」というリクエストに行きつけの工具店のスタッフの方が提案してくれたのはシグネット72110でした(当blogでも以前に写真だけ登場していますが)。これを見た瞬間、私はこう呟いていました。「おお、なるほど、リバーシブルですか。」

シグネット72110
SIGNET 72110

これは差込角をスライドさせてレンチを裏返してやれば、本体の機構が従来どおりでも逆ねじに対応できるというアイデアです。

シグネット72110ヘッド部
通常の順ネジは写真左のような状態で使用しますが、
逆ネジに対応するときは写真右のように差込角をスライドさせ、
表裏を逆に用いて使用します。


私は同社の「サイレント・ラチェット」と称するワンウェイローラークラッチのギヤレスラチェットハンドルを持っていたのですが、その差込角の部分がこれと同じスライド式で、時計回りと反時計回りは裏返すという方式になっていました。それゆえ常用のラチェットハンドルとしては使い勝手が悪く、友人に譲ってしまいましたが。

以前、「ハブボルト折損は不可避なのか?」と題したエントリでトラックのホイールナット用トルクレンチに触れましたが、あれも考えかたは全く同じです。あのときご紹介したものは差込角が両面に出っぱなしになっていますが、スライド式はよく見ないと普通のラチェットヘッドと殆ど区別が付かないスマートさが良い感じです。

同様のものはプロクソンなどからも発売されていますが、お店の人曰く、「プロクソンのものは副尺が付いていないので微調整にやや難ありですね。また、シグネットはこのトルクレンチの発売に当たって日本でも校正を受けられる体制を整えてきましたから、より精度を気にされるのでしたら断然こちらのほうがお勧めです。」とのことでした。

以前にも触れましたが、トルクレンチは測定器具ですから、必ず定期的な校正を受けなければ精度は保証されません。アマチュアで使用頻度が低い場合、あまりナーバスに考えることはないかもしれませんが、校正を受けられるメーカーのほうが無難ですし、長い目で見ればお得かもしれません。このシグネットの場合も校正費用は5,000円くらいかかるそうですが、買い直すことを考えればずっとお得です。

使用方法は極めて常識的です。指定トルクのプリセットはグリップエンドのロック機構を引っ張って解除し、ハンドルを回してメインゲージの指針を合わせます。メインゲージは1目盛り1N-mですので、小数点以下はハンドルの前端に刻まれている副尺で合わせます。ハンドル1回転あたり2N-mになっていますので、0.1N-m刻みの副尺はハンドル半周で1N-m分が刻まれています。トルクをプリセットしたらグリップエンドのロック機構を押し戻せばスタンバイ完了です。

私が持っているトルクレンチの中でもっとも古いのはクルマいじり用に使っているもので、メインのゲージがシャフトに直接刻印されています。当時はこうしたものが普通でしたが、このシグネットや以前にご紹介した東日のように小窓が設けられていてそこに目盛りが印刷されたゲージが覗いているタイプのほうがずっと読みやすく、合わせやすくて良いように思います。

シグネット72110ゲージ

このシグネット72110で強いて難点を挙げるなら、差込角にソケットを装着する際、指で押さえておかないと、スライド式のそれが反対側に出っ張ってソケットが装着できないということくらいでしょうか。ま、通常のラチェットハンドルのように頻繁に差し替えるような使い方をするものではありませんし、そもそも構造上致し方ないでしょう。(逆ネジ対応である必要がないという人にとっては邪魔くさい機能でしかないでしょうけど。)

で、自転車いじりに使う場合、例えば順ネジの左ワンを取り付ける際は下の写真のように普通に使います。

左ワン取付時

一方、逆ネジの右ワン(イタリア規格を除く)を取り付ける際も裏返すだけで、使い方は全く同じです。

右ワン取付時

これで以前のように左ワンを締めたときの手応えを覚えておいて、その手応えの記憶を頼りに右ワンを締めるといったプリミティブな方法は必要なくなりました。

デジラチェには今でも興味はありますし、インターフェイスもそれなりに練られていて一度使えば迷うことはないと思います。が、多機能ゆえ機械式のシンプルな使い勝手に比べると煩雑な印象は拭えません(あくまでも個人的な感想です)し、あの違和感はすぐに馴染めそうもなく、私はこの機械式のリバーシブルトルクレンチを選びました。

ま、好みの問題も多々あるでしょうし、私の場合は機械式に身体が馴染んでしまっているため、このインプレッションはそうした部分を差し引いて読んでもらったほうが良いと思います。逆に、初めて使ったトルクレンチがデジラチェという人にとっては機械式のほうが使いにくく感じる可能性も否定しません。

(おしまい)

逆ネジ対応トルクレンチ (その2)

自転車に用いられている逆ネジは右BB(イタリア規格は順ネジですが)や左ペダルなどで、いずれも緩み防止が目的になるのでしょう。また、いずれもネジ径が大きく、多少の過締めではネジ山を舐めてしまうこともそうそうないと思います。なので、気にしない人はこんなところに厳密なトルク管理など必要ないと思われるでしょう。

いえ、私もそう思いますが、マニュアルに指定トルクが明記されているところについては、できるだけそれに従わないと気持ち悪いといいますか、キッチリとトルク管理して組み上げると完璧な仕事をした気がするとか、そういう気分的なところが大きいわけです。プロで職人気質の方にしてみれば、「何を素人臭いことを」と思われるかも知れませんが、そもそも私は素人ですし、自分の感覚はあまり信用していませんので。

ということで、逆ネジ対応のトルクレンチを物色しました。まずは老舗の東日を当たってみましたが、プリセット式で逆ネジ対応は生産ライン用の単能型か、トラックやバスの足周り用くらいしかなかったんですね。

東日のものは単能型でも専用工具で設定トルクをアジャストできるようになっているのですが、その際にはテスターが必要になります。ということで、一般的な使用条件では現実的といえません。

トラック用は以前にも触れましたが、左側(助手席側)のハブボルト&ナットは殆どが逆ネジになっていますので、足周り用は左右両ネジ対応でなければ製品として成立しません。が、何せ大型自動車の足周りと自転車とでは締め付けトルクのレンジが桁違いです(メーカーや車両総重量のカテゴリーによっても違いはありますが、大型トラックのホイールナットの締め付けトルクは概ね400~600N-mくらいが相場です)から、自転車にはまるで使い物になりません。

どうしたものか・・・と考えていたところ、ふと思い出しました。2005年の東京モーターショーで部品関係のセクションに工具メーカーのKTCがブースを構え、大々的にプロモーションしていたデジラチェという製品です。これは逆ネジにも対応しているということを思い出しました。

デジラチェ

単純に言えば電子式トルクレンチですが、構造はそれほど複雑ではありません。汎用のラチェットハンドルを流用し、歪みゲージをセンサとし、マイクロプロセッサや液晶表示部などを搭載したユニットで構成されています。トルクをかけた際のシャフトの撓みを歪みゲージで測定し、ドライブ部にかかっているトルクを演算するといった感じでしょう。SRMパワータップといったパワーメーターも同様に歪みゲージを応用しているのは自転車乗りで知らない人は殆どいないでしょう。

で、このデジラチェですが、プリセットしておいたトルクに達するとLEDのパイロットランプとビープ音で知らせる方式のほか、常時値が表示されていますから、トルク測定にも使用可能です。つまり、プレート形やダイヤル形のような直読式と、プリセット式のどちらとしても使用することができるわけですね。しかも、表示単位がN-mのほか、kgf-m、lbf-in、lbf-fにも対応します。ま、私の場合はN-mだけで充分ですが。

少々興味をそそられた私は実際の使い心地はどうなのかと思い、いつもクルマいじり用の工具を買っている馴染みの店に行ってデモ用のそれを使わせてもらいました。結論からいいますと、非常に特殊な印象で、従来の機械式に馴染んでいる身にはかなりの違和感がありました。

前回ご説明したとおり、一般的な機械式はプリセットしたトルクに達したら、「カチッ」という音と手応えでそれを知らせます(ドイツのハゼットなどはこれらに加えて赤いマーカーが突起するような凝ったものもありますが)。

ところが、デジラチェにはまず手応えがありません。トルク測定用の機械的な構造はハンドルユニットの取り付けとそのロック方法を除いて一切なく、基本的に電子デバイスに依存しているのですから、当然といえばそれまでですが。いずれにしても、プリセットしたトルクに達したことを知らせるシグナルは上述のとおりLEDランプの点灯とビープ音になります。

このシグナルが案外クセモノでして、実はプリセットしたトルクの90%まで達すると、ビープ音とLEDランプが断続的に作動します。要するに、「もうすぐ設定トルクになるよ」という予告として「ピッピッピッ」と鳴り、LEDもそれに合わせて点滅するんですね。で、プリセットしたトルクの100%に達すると、「ピー」と鳴りっ放しになり、LEDも点灯しっ放しになるというわけです。

しかし、機械式ではいきなり「カチッ」と来ますから、私の場合はそうしたシグナルで反射的に手の力を抜くように身体が出来上がってしまっているんですね。正直なところ、予告はじゃまくさいですし、手応えがないのも当然だと頭では解っていても、やはり違和感があります。

「何か違和感ありますね。」
「機械式に慣れた方は皆さんそう仰いますね。価格的にも最近は機械式で精度も劣らず、この半額くらいのものもありますから。単位換算が面倒とか、直読式のような使い方もしたいとか、デジタル表示のハイテクっぽい雰囲気が好みだとか、そういう方以外はあまりメリットがないかも知れません。」
「実は、このレンジの機械式は既に持っているんですが、逆ネジ対応が欲しいと思って見に来たんですよ。」
「いまどき逆ネジなんて珍しいですね。」
「自転車には逆ネジがあるんですよ。例えば・・・(略)。」
「なるほど、そうですか。逆ネジ対応ということならこちらがお勧めですよ。」

といって店員さんが持ってきてくれたのが逆ネジ対応の機械式でした。

(つづく)

逆ネジ対応トルクレンチ (その1)

近年のスポーツバイクに用いられるパーツの多くはアルミで出来ています。また、チタンやカーボンなどもかなり一般的に・・・というハナシは以前にも書きましたね。

私が自転車イジリのときメインで使っているのは、以前ご紹介した東日のMTQL40Nというワイドレンジのトルクレンチですが、これでは対応できないところがあるんですね。この種のプリセット式トルクレンチは一般的なラチェットヘッドを用いていますので、時計回り(以下、順ネジ)にも反時計回り(以下、逆ネジ)にも使えそうですが、殆どの製品は順ネジしか対応していません。

MTQL40N注意書き
ご覧のように矢印と「ONLY」の文字が刻印されており、
順ネジの締め付けにしか使えないことが示されています。
ならば、ラチェットヘッドも切り替えレバーを廃し、
逆ネジには使えないようにすべきだと思いますが、
恐らくこの部分は汎用品をどこかから仕入れているのでしょう。
順ネジの締め付け専用のヘッドを造らせると却ってコストアップに
つながってしまうのかも知れません。


この種のプリセット式トルクレンチは、予めセットしたトルクに達したときに「カチッ」という音と手応えを発しますが、その機構は大抵「トグル式」と呼ばれる方式が採用されています。

ソケットなどのドライブを装着するヘッドから伸びた腕の先にトグル機構が設けられており、ハンドル付近に仕込まれているコイルスプリングによってその機構に圧力がかかっています。スプリングの圧力でトグルの動きを抑えていますが、ヘッドにかかるトルクがスプリングの圧力を上回るとトグルが動き、「カチッ」というシグナルを発するわけですね。

工場などの量産ラインで使用されるものはトルクの設定値が固定された単能型が用いられますが、一般的なものはトルクの設定値をアジャストできるようになっています。これはトグルに圧力をかけるスプリングのプリロードを強くしたり弱くしたりする方式が一般的です。

で、そのトグル機構が順ネジでも逆ネジでも対応するものは意外に少なく、一般に売られているものの多くは順ネジ専用となっています。私が所有しているトルクレンチは4本になりますが、今回ご紹介する1本を除いて、全て順ネジ専用です。

一般的な順ネジ専用のトルクレンチは逆ネジの精度が保証されていなかったり、ものによっては逆ネジに使用すると不具合を起こして順ネジに使用する際の精度も落としてしまう場合があるそうです。この辺はものによって異なるでしょうから、取扱説明書を確認しておくべきですね。ただ、メーカーが「左右両ネジ対応」などと謳っていない限り、逆ネジでの使用は避けたほうが無難だと思います。

ま、普通は逆ネジ対応など必要ないでしょう。クルマいじりの際には必要ありませんでしたし。しかしながら、自転車には現在でもBBやペダルに逆ネジが使われています。逆ネジ対応のトルクレンチがないなら、その部分のトルク管理はあきらめるか、何らかのテクニックで対応するしかありません。私が知り合いのメカニックに教わったテクニックは以下の手順でした。

(1) とりあえず順ネジの方をトルクレンチで規定トルクまで締める。
(2) 通常のレンチに持ち替え、締めたネジを90°くらい緩める。
(3) それを元の位置まで締め込み、そのときの手応えを覚えておく。
(4) すかさず、覚えたその手応えを頼りに逆ネジの方を締め込む。

実に原始的な方法ですが、逆ネジ対応のトルクレンチがなければこれは致し方ないところです。でも、面倒くさいですし精度もイマイチでしょう。新しいフレームを買ってきて組んだり、総バラシして組み直したり、そういうことを何度かやっているうちに逆ネジ対応のトルクレンチが欲しいと思うようになり、探してみることにしたわけです。

いえ、プレート形などの直読式なら探すまでもないのですが、直読式は目盛を読みながら締め込んでいきますから、使いづらく、作業効率も悪いんですね。おまけに力を込めると針が振れますから、上手に扱わないと精度にもそれなりに影響があるでしょう。少なくとも、一度プリセット式を使ってしまった身にプレート形はちょっと・・・と誰しも思うことでしょう。

(つづく)
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