酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

色々取付け

このお盆休みは特に遠出もせず、自転車いじりとクルマいじりに勤しんでいました。ま、自転車のほうはいつもの日常的なメンテナンスをいつもより少し丁寧にやったという程度ですけど。一方、クルマのほうはインパネ周りやAピラーの内張り、コンソールボックスなどを取り外し、カーペットをめくったりして、色々ゴチャゴチャやりました。

プリウス_インパネ取り外した図
とりあえずインパネ周りを外した状態です。
この後もっと凄い状態になりましたが、
作業に集中して写真を撮る余裕はありませんでした。


何をゴチャゴチャやっていたかといいますと、ドライブレコーダーとナビのジャンパーとワンセグチューナーの取付けです。本命はドライブレコーダーで、他はついでになりますが、ドライブレコーダーに関してはエントリを改めて詳しく書こうと思います。

で、ナビのジャンパーですが、メーカーが安全性を考慮して設定している仕組みをキャンセルするアイテムなど最初は不要だと思っていました。しかしながら、色々使っているうちに必要性を感じるようになったんですね。

私のプリウスは「S」の「10th Anniversary edition」ですので、メーカー純正のHDDナビが標準で付いてきます。それを走行中に操作できないのは別に構わないのですが、一つだけ大きな不満がありました。CDからリッピングしてMP3だか何かに圧縮してHDDにその音楽ファイルを保存しておける機能はいまや当たり前になっていますが、そのプレイリストも走行中に操作できなくなってしまうんですね。

一般道を走っているときなら信号で止まっている間に選曲すれば良いので、さほど不便は感じません。が、高速道路を走っているときはそういう訳にもいきません。聴きたいアルバムを選び直すためだけにわざわざパーキングエリアに入ったり路肩に止めたりするのも何ですし、かといって、それに行き当たるまで1曲ずつスキップボタンを押し続けるのも辛いものがありますし、却って危険な気もします。

ま、走行中にモニタを見て選択操作を行うことはあまり良くないかも知れませんが、CDやMDを差し替えるような大きなアクションを伴う状態を考えれば遙かにマシでしょう。そもそも、走行中にモニタを見るのが危険なら、ナビという商品は成り立たなくなりますし(私の場合、オプションのビーコンユニットも付けていますので、細かい渋滞情報などもバンバン表示されますし)。

そもそも、純正ナビのデフォルトでも地図の縮尺など一部の操作は走行中でも受け付けるようになっていますので、どこまでが安全な操作で、どこからが危険な操作になるのか、その明確な線引きはメーカーサイドでも出来ていないでしょう。いささか言い訳じみてしまいましたが、こうした理由でジャンパーを導入することにしたわけです。

トムス_tv-naviジャンパー

この種の商品は色々ありますが、無難なところでトヨタのオフィシャルチューニングパーツメーカーであるトムスのそれをチョイスしました。リンク先にもありますが、トヨタの販売店では取り扱っていないということで、私はネット通販で入手しました。

インパネ周りを引っぺがして、モニタ裏のコネクタを抜いて差し替え、助手席下にあるナビユニット本体まで付属のハーネスを取り回してやはりコネクタを差し替え、切替スイッチを適当な場所に貼り付ければ一丁上がりです。とはいえ、私の場合は同時に取付けた他の配線と一緒に助手席側のカーペット(フロアマットではなく、床の内張りのほう)をまくり上げてその下を通しましたので、その分だけ手間もかかりましたが。

このジャンパーはスイッチを1度押すとそこに内蔵された緑色のLEDが点灯し、走行中のテレビ視聴が可能になりますが、ナビの操作はできません。もう1度スイッチを押すとLEDが点滅状態になり、ナビの操作はできるようになりますが、テレビの視聴が出来なくなります。また、キー(プリウスの場合はパワースイッチ)オフでリセットされますので、再始動させてもジャンパーが働いていない状態に戻ってしまいます。つまり、再びスイッチを押さないと走行中のテレビ視聴やナビ操作ができなくなる仕組みです。

一つだけ難点がありまして、このジャンパーを作動させている間だけ平均燃費を示す棒グラフが伸びなくなります。初めは速度信号をゼロとして送っていることが何らかのカタチで影響しているのかと思いましたが、瞬間燃費は問題なく表示されていますので、どういう理由でエラーが生じているのか私にはよく解りません。ま、私の場合は基本的に高速道路走行中に選曲したいという目的で導入しましたので、それ以外に使用するケースは殆どありませんから、特に大きな問題ともいえませんが。

さらについでで何となく付けてみたワンセグチューナーですが、「車載ワンセグチューナー」でググって最初にヒットした『車載用ワンセグチューナー比較』というサイトで絶賛していたフォブSDOT110というやつを導入してみました。

ま、所詮はワンセグですから、解像度が低いですし、フレームレートも15コマ/秒で動きがカクカクしますし(最近は擬似的に30コマ/秒に変換する機能が搭載されたチューナーもあるそうですが、私が購入した安物にそうした機能はありません)、全般的な画質は電波状態が良い時のアナログよりかなり劣ります。

ただ、ノイズやゴーストの類で画像が乱れることもなく、ザーザーと耳障りな雑音もなく、受信レベルが低下しても画面が停止して無音になるだけですから、そのほうが良いという人も少なくないでしょう。私の場合はジャンパーを入れたので運転中にもテレビを見ることができるようになりましたが、そうした使い方は控えるようにしています。なので、雑音が抑えられたという点にメリットを感じます。

ラジオは地デジの本放送がスタートしてもアナログ放送が終了するわけではありませんから、テレビのようにデジタルチューナーの需要はあまり生じないかも知れません。が、こうしたテレビのワンセグチューナーの印象からしてラジオの車載用デジタルチューナーが発売されたら、試しに導入してみたくなるかも知れませんね。

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お門違い (その3)

クルマを維持するには租税公課の他にも点検整備などのコストがかかります。が、そこに生じる収益の殆どは整備工場や部品メーカーなどにとどまるもので、自動車メーカー本体に返ってくるものではありません。特に販社の採算にはランニングコストにかかる収益が重要な柱になっています。

また、部品メーカーが自動車メーカーへ供給する部品は極めて薄利です。逆に、修理などで部品を単品供給する際にはちゃんと利益が載せられています。また、輸送コストも単品のほうが遙かに割高ですし、流通マージンもかかりますから、結構な金額になります。

余談になりますが、私はトヨタ部品共販でトヨタの純正部品を直接買い付けたことがありますが、「クルマ1台を構成する全ての部品をここで買ったら、新車何台分の価格になるのだろう? さらに組み立て工賃を取られたらエライことになるな」と思ったほどでした。ま、相手を選んで値引きの掛け率なども違ってくるのでしょうけど。(トヨタ部品共販の場合、私のような単発的な取引相手には代金を先に払い込まなければ注文すら受けてくれないという厳しさでした。)

それだけ部品メーカーも激烈なコストカットの中で何とかやりくりして、自動車メーカーへ部品を供給しているということですね。

例えば、ヴィッツクラスのダンパーの工場原価は1本500円ほどだそうです。アフターマーケットで売られているサスペンションキットは如何に高性能とはいえ、平気でその100倍くらいの値段が付いています。なので、俄には信じがたいことかもしれませんが、日本の自動車メーカーはそうした厳しいコスト管理で世界一の競争力を維持し、部品メーカーがそれを支えているわけです。

suzuki_altovan.jpg
Suzuki Alto Van

日本車の国内最低価格はこのクラスになるでしょうか。車両本体価格は税抜きで69万円ですが、3速オートマチック、AM/FMラジオ、マニュアルエアコン、さらには運転席と助手席にSRSエアバッグ、キーレスエントリーまで装備されています。マニュアルシフトでキーレスエントリーなしなら、さらに65,000円ほど安くなります。

「クルマは100万円以上かかる買い物だと誰が決めたのだろう。」などと無思慮な言いがかりを付けられていますが、日本では諸費用を除けば70万円ほどでこれだけ立派な新車が買えるんですね。このクルマは4ナンバーの商用車登録になりますから、租税公課も幾分安くなりますので、諸費用込みでも85万円前後といったところでしょう。これを企業努力といわずして何というのでしょうか?

しかし、産経新聞の早坂礼子はあのコラムをこう結んでいます。

主力の北米市場の景気が減速しているうえ、円高傾向の為替レートや、鋼材など原材料費の高騰などで自動車各社の業績は今後、悪化が避けられない。それでも利益は少なくないはずだ。もうけた分は株主や社員だけでなく、市場創造で消費者にも返してほしい。


彼女の発想は「自動車メーカーはたくさん儲けているのだろうから少しは還元しやがれ」といったところなのでしょう。しかし、最も業績の良いトヨタとて、全世界の年間生産台数900万台強に対して純利益は1兆6500億円弱でしかありません。つまり、百万〜何百万円という価格帯の商品を売って1台平均18万円そこそこしか儲けていないわけです。率を見れば決して大きいとはいえないでしょう。

自動車メーカーは1台売ってこの程度の利益しか得ていませんが、国や地方自治体などの税収はこの何倍にもなります。例えば、クルマを購入するときにかかる租税に取得税と消費税がありますが、各々車両価格の5%にもなります。(軽自動車の取得税は3%です。また、低公害車や福祉車両なども取得税が減免されるケースがあります。)

もう少し具体的に考えてみましょうか。例えば、車両本体価格180万円の小型乗用車が新車で1台売れたとしましょう。このとき、取得税9万円、消費税9万円が発生しますから、行政には合計18万円の税金が入り、最も業績の良いトヨタの収益1台平均と同じ分だけイニシャルで搾取することになるわけです。

ランニングのほうはさらに大変です。例えば、1.5超〜2.0リッター以下のガソリン車、燃費は15km/L、これを買って10年間、毎年1万km乗ったとしましょう。この場合、10年間の自動車税は39万5000円、重量税は7万5000円、10万kmを15km/Lで走ると消費するガソリンは約6666リットルになりますから、ガソリン税は35万8630円になります。つまり、この例で考えますと、行政は10年間で83万円近い税収を得ているわけです(いずれも現在の暫定税率が維持された場合の計算結果です)。

上記2例を全部合計しますと、100万円を超えるレベルに達します。この例で考えれば、最も業績の良いトヨタの1台平均の利益を5倍以上も上回る税収を国と地方自治体は得ているということになるわけですね。しかも、上述のように自動車メーカーは部品メーカーに血の滲むような努力を求めてコストダウンさせるなど大変な葛藤の上で1台平均たったの18万円ですが、行政は何の努力もせず自動的に入ってくる100万円です。

こうしてみれば、自動車メーカーの利益と国や地方自治体の税収、どちらを還元させるべきかは火を見るよりも明らかでしょう。

もちろん、税金は還元するために徴収されることになっています。が、必ずしもそうなっていない現実は誰しもが認めるところでしょう。例のマッサージチェアやカラオケセットなど言語道断ですが、道路整備の名目でも様々な利権がうごめき、官僚の天下り先を作るためのバラマキになっているケースが少なくないという実態も皆さんよくご存じかと思います。

しかも、今年の5月13日に出された『道路特定財源等に関する基本方針』(←リンク先はPDFです)には、取得税や重量税、ガソリン税などの道路特定財源が2009年度から一般財源化されることが明記され、自動車の利用には全く無関係なことにこれら税金の一部が使われることが閣議決定しているのです。

最後にもう一点、彼女はニートやワーキングプアなどの問題にも言及していましたが、もし、ニートやワーキングプアに無償で新車を与えても、多くの場合は維持費を捻出することもままならないでしょう。これは誰がどう考えても新車価格云々の問題ではありません。こうした貧困層や不就労者の存在を社会的にどう克服していくかの問題です。

MSN産経ニュースの『【早坂礼子の言わせてもらえば】激安価格のクルマを作れ』というコラムは、日本国内の乗用車マーケットを全く理解せず、根本的な問題点を履き違え、自動車メーカーに対して無意味で一方的な注文をつけているに過ぎません。私に言わせてもらえば、このコラムは全くの「お門違い」です。

(おしまい)

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お門違い (その2)

タタ・モーターズが超低価格車のナノを開発した一番の思惑は「モーターサイクルのユーザーを取り込みたい」というものです。この辺は先進国でモータリゼーションが起こった頃と非常に良く似ています。例えば、先日訪れたトヨタ博物館にはこんなチープカーもありました。

flying-feather.jpg
Flying Feather

1954年(昭和29年)に日産系の車体メーカーだった住江製作所が製作した軽自動車です。19インチのスポークホイールはまさにモーターサイクル用のそれで、自社製のV型2気筒350ccエンジンは12.5psでした。フライングフェザーというその名の通り、徹底的に軽く作ることで非力なエンジンでも何とか自動車として成立させようとしています。

しかし、こうしたチープカーも商品であるからにはマーケットに受け容れられなければ商業ベースに乗りません。2座でフロントブレーキも省略され、特にモーターサイクル用のホイールからくる貧相な印象は、やはり理解されませんでした。フライングフェザーの総生産台数は200台弱、販売台数はわずか54台にとどまりました。ま、早々の生産中止は同社の経営悪化も要因の一つではありましたが、このクルマがそれなりに売れていれば同社の救世主となっていたに違いないでしょう。

タタ・モーターズが主要な購買層としてモーターサイクルのユーザーをターゲットにした超低価格車を企画したのは、こう考えたからかも知れません。

普通に低価格車を作っただけでは、インドでそのクラスの圧倒的なシェアを握っているスズキと勝負にならない

モーターサイクルはエアコンもラジオも、自動車に装備されているあらゆるものがありません。モーターサイクルからの乗り換えならば、「ないない尽くしのチープカー」でも売れる公算があります。4人乗れるとか、悪天候の日でも苦にならないといった点だけでも、こうしたマーケットには訴求力があるでしょう。だからこそ、構造を思いっきりシンプルに、最低限のもの以外は大胆に切り捨て、大人が4人乗れる実用的な超低価格車を開発したのだと思います。

しかし、難関は沢山あります。中古車と競合するのもそうですが、やはり昨今の原油高の影響はインドとて免れるものではありません。

これまではインド政府の補助でガソリンの値上げが抑えられてきたそうです。が、それでもこの原油高に抗うことは難しいようで、今月5日にインド国営石油会社3社が大幅に値上げを行っています。となれば、如何にシンプルで軽量なナノでもモーターサイクルレベルの燃費など望むべくもありませんから、ランニングコストの面で訴求力が大きく削がれることになります。

実際、タタ・モーターズのラビ・カント社長も「燃料の値上がりがナノの需要に水を差す恐れがある」とコメントしています。この秋に予定通り発売されれば世界一安い乗用車となるナノも、結局はランニングコストが大きな障壁になる懸念が高まっている状況なんですね。

ところで、私は現在の日本の自動車マーケットで問題になっている「若者のクルマ離れ」の傾向には趣味嗜好の変化が大きく関わっていると見ています。私が幼児の頃には、カー、クーラー、カラーテレビは俗に「3C」とか「新三種の神器」などと呼ばれ、一定の生活水準にある庶民にとっても生活必需品とみなされ、持っていないと恥ずかしいと思われるような風潮すらありました。

しかし、今日にあっては、デジカメ、DVDレコーダー、薄型テレビをメーカーや広告代理店やメディアなどが「デジタル三種の神器」などとはやし立てても、マーケットの反応はかなり冷ややかです(私もデジカメは3台持っていますが、テレビ番組の録画はパソコンを使っていますので、DVDレコーダーは持っていません)。

しかも、昨今は環境意識の高まりから(その大半はイメージ先行のエセエコですが)、特に都市部にあってはクルマを利用しないほうが良いとする風潮も年々強まっています。その一方で趣味も多様化していますから、「クルマ以外にお金をかけたい」「自分のライフスタイルにマイカーは必要ない」と考える人も増えているように思います。また、それに応えるようにレンタカー会社などがカーシェアリングのプランを提案し始めています。

クルマが「買えない」のではなく、それ以外の趣味がクルマの魅力に勝っているから「買わない」人達に安いだけのクルマを提案するのは却って逆効果です。場合によってはチープカーの存在がクルマ文化全般のイメージを低下させかねません。

もし、「クルマ離れ」の問題を経済的な理由だけで考えるのであれば、その最大の要因はクルマ本体の価格によるものより諸経費、とりわけ維持費の高さにあると見るべきでしょう。

自動車税、自動車取得税、自動車重量税、消費税及び地方消費税、揮発油税及び地方道路税(いわゆるガソリン税)もしくは軽油引取税、自動車損害賠償責任保険料、自動車リサイクル料等々、一つの商品にこれだけたくさんの租税公課がかかるなど他に殆ど例がないでしょう。取得税と消費税、リサイクル料はイニシャルでかかるのみですが(燃料にかかる消費税は除きます)、他は自動車を維持する間、ずっとかかり続けることになります。

多くの人に自動車を保有させたいというのなら、まずはこれらを整理して減額することを望むべきでしょう。また、都市部にあってはアホほど高い駐車場料金が安くなるような方策を考えることのほうが、車両本体の価格を抑えることを望むより遥かに重要です。

(つづく)

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お門違い (その1)

MSN産経ニュースにこんなアホなコラムがありました。

【早坂礼子の言わせてもらえば】激安価格のクルマを作れ

(前略)

地方在住者にとってクルマは通勤や買い物に欠かせない生活必需品だ。

 そのクルマが売れていない。2007年の国内販売は前年比7・6%減の343万台。軽自動車を含めても6・7%減の535万台だった。この傾向は今年に入っても変わらず、4年連続で前年割れする見通しだ。ピークだった1990年の777万台の4分の3の規模である。新車の保有期間もバブル前は平均5年だったのに、ここ数年は7年ほどに延びている。

 ことに若者のクルマ離れが著しい。自動車ディーラーに聞くと来店客は家族連れがほとんど。ニートやワーキングプアの増加で、携帯電話の通信料を払うとクルマのローンを組めない若い人が多い。原油高騰でガソリンは上がるばかりだし、駐車場や税金など維持費も高い。欲しくても買えないのだ。

(中略)

インドではタタ自動車などが10万ルピー(約30万円)のクルマを開発している。インドで30万円のクルマが作れるというのなら、どうして日本国内でも作って売る努力をしないのか。クルマは100万円以上かかる買い物だと誰が決めたのだろう。ユーザーは富裕層ばかりではない。ちゃんと走って曲がって止まる足代わりで十分という人は多いはずだ。シンプルで燃費の良いクルマを激安価格で提供できないものか。バターやカップ麺と値上がりばかりの時代だからこそ、質がよくて安い商品を提供するのがメーカーの社会的使命ではあるまいか。

(後略)

(C)MSN産経ニュース 2008年6月17日


これを書いた記者は産経新聞で経済部の次長も務めたそうですが、どう考えても頓珍漢なコラムですね。

そもそも、新車が売れない最大の理由はクルマを持たない(持てない)人が増えているからではありません。何故そういえるのか? 自動車の保有台数は現在も増え続けているからです。財団法人自動車検査登録情報協会の自動車保有台数統計データによりますと、国内の乗用車(軽自動車を含む)の保有台数は今年3月末の時点で5774万4029台ですが、2年前は5727万6651台でした。この2年間で46万7378台も増えているんですね。

新車が売れない最大の理由は代替えサイクルが伸びているからに他なりません。その理由は色々あるでしょうが、現在のクルマは10年くらい普通に乗れます。バブル前といえば20年以上も前のことですから、クルマのクォリティも現在と同レベルだったわけではありません。もちろん、ユーザーの価値観も当時とは違っているでしょう。二昔も前のことを基準にして考えるほうがおかしいのです。

また、タタ・モーターズのナノは販売予定価格が30万円程度と、驚異的な低価格車ですが、これに追従するようなクルマを作って日本でも売れというのは、日本の自動車マーケットを全く理解していない暴論です。

日本には30万円以下でもナノとは比べ物にならないほど良く走り、装備も充実している中古車が掃いて捨てるほどあります。いえ、その半分くらいの価格でもちゃんと走る中古車はいくらでもあるでしょう。一方、約30万円に価格設定されているナノのベーシックモデルにはエアコンやカーラジオはおろか、助手席側のバックミラーさえありません。つまり、日本の公道を走るための保安基準を満たしていないのです。恐らく、排出ガスや衝突安全性も日本の基準を満たしてはいないでしょう。

tata_nano_leftside.jpg
Tata Nano
タタ・ナノ、ヨーロッパへ?」と題したエントリの使い回しで恐縮ですが、
ナノのベーシックモデルは助手席側のドアミラーが省略されています。
インドではバックミラーなど殆ど見ないから必要ないという判断によるそうです。


日本の保安基準、排ガス基準、衝突安全基準などに対応してもなお、30万円程度の低価格に抑えるなど無理なハナシだと思います。が、よしんばこれらの問題をクリアできたとしても、マニュアルシフトのクルマなど、現在の日本ではあえてそれを望む人以外にはなかなか売れるものではありません。まして、エアコンのないクルマなど見向きもされないでしょう。

要するに、これだけ充実したクルマが溢れ返り、中古車ならオートマでエアコンもよく効くクルマがナノなどより安く手に入る日本にあって、日本の自動車メーカーが「ないない尽くしのチープカー」など作る意味がないのです。

(つづく)

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日本にもあった (その2)

どう考えても怪しいジェネパックスの「水で走るクルマ」ですが、その発電システムの原理についてほんのさわりだけ日経BPnetで報じられていました。

ジェネパックスが水素生成のメカニズムを明らかに

(前略)

 金属または金属化合物には常温で水と酸化反応する金属を使っているとする。水と反応する金属はLiとNa、Mg、K、Caなどがある。今回発表したシステムの特徴はこの金属または金属化合物の反応性を制御して長時間に使うことを可能にした点にあるという。

 今回披露したシステムはMEA(膜/電極接合体)の燃料極内部にこうした金属や金属化合物をゼオライトなどの多孔質体に担持しているとする。水素生成反応による生成物は水に溶解し、システム中の水とともに排出される。反応が終了すれば、水素の発生も発電もストップする。

(C)日経BPnet 2008年6月16日


要するに、水を金属と化学反応させて水素を取り出すということのようですが、前回ご紹介した説明図にはインプットが「水」と「空気中の酸素」だけしか書かれていませんでしたから、全くハナシが違ってきましたね。しかも、こんな技術なら以前からありましたし。例えば、2006年に日立マクセルが水とアルミを水素発生源とした燃料電池を開発しています。

水とアルミニウムを水素発生源とした燃料電池を開発
〜10ワット級の燃料電池をモバイル電源で実証〜


 日立マクセル株式会社(執行役社長:角田 義人)は、水とアルミニウムとの反応による水素発生システムを確立し、このシステムを水素発生源とした燃料電池を開発いたしました。さらにこの燃料電池を使用した10ワット(W)級モバイル電源の開発に成功し、ノートPCを動作させることができました。

(中略)

 今回開発した燃料電池は、10〜100W級の電源として用途の検討を進めています。今後、実用化に向けてさらなる開発を進めてまいります。

pefc.jpg

(C)日立マクセル 2006年4月24日


こうした水素発生システムは金属を消費します。日立マクセルのアルミと水を水素発生源とした固体高分子形燃料電池(PEFC)も1gのアルミから1.3リットルの水素を発生させるもので、アルミを消費しています。

しかし、アルミを得るにはアルミナ(酸化アルミニウム)から酸素を取り除く際に電気分解を行うため、膨大な電気エネルギーを必要とします。アルミが「電気の缶詰」と呼ばれるのはそれゆえなんですね。なので、アルミと水を反応させて最終的に電気エネルギーを取り出すという発電方法が有効な技術といえるのか、かなり微妙になってきます。

日立マクセルはアルミ廃材をリサイクルするなどの構想も練っているようですが、アルミをリサイクルするならそのまま金属素材として再利用したほうがエネルギー効率としては良いのではないか?という懸念もあります。実際、アルミは現状でも非常にリサイクル率の高い金属ですし。ま、この辺はきちんとLCA的な手法でエネルギー収支を検討しなければ最終的な評価を下すわけにはいかないでしょうけど。

いずれにしても、エネルギーを取り出すことができる物質というのは、その状態へ至る過程に(人為的か自然由来かは別として)何らかのかたちでエネルギーが投入されています。その点を無視して「環境負荷のない未来のエネルギー源」などと甘い言葉で宣伝されるものは、まず疑ってかかるべきです。

ということで、ジェネパックスの「ウォーターエネルギーシステム」が日経BPnetで報じられているとおりの原理ならば、水と化学反応させる金属の調達コストや全体を通じたエネルギー効率が本当に優れているのか否かという部分こそが重要になるわけで、「水を用いる」という部分だけを取り出して語るのは全くのナンセンスです。

しかし、ジェネパックスの説明資料(←リンク先はPDFです)を見ても「給水するだけで電気エネルギーが取り出せる」としか読めないような書きぶりになっています。水と化学反応させる金属を消費するとか、そのコストはどうだとか、その金属を得るために投入されるエネルギーと発電によって回収できるエネルギーの収支はどうなっているとか、そうした最も肝心な情報が完全に抜け落ちているんですね。(ま、コストやエネルギー収支については日立マクセルの広報にも書かれていませんが。)

また、前回のエントリに貼り付けた質疑応答のVTRの中で、「地球上から水が無くならない限り永久に電気を生み出す可能性のある技術ということですか?」という質問に対して代表者の平澤潔は「そういうことだと思います、はい。」と答えていますが、これは日経BPnetの記事と大いに矛盾します。彼がVTRで答えた通りなら永久機関に相当しますからペテンになるでしょうし、日経BPnetの記事が正しいならこのときの彼の発言は大ウソになります。どちらにしても、こんな出鱈目を真に受けるなど愚かなことです。

それにしても、『ワールドビジネスサテライト』によるレポートは実に間抜けでした。原理の確認やエネルギー収支がどうなっているのかという、重要な問題は全てスルーし、キャスターたちはピンボケなコメントに終始しています。何とも情けない限りですね。ま、元々大したレベルの報道番組ではありませんが(メインキャスターの小谷真生子などいつも頓珍漢なことを言ってますし)。

以前、「猫がムササビになる未来像を信じる人たち」と題したエントリでも書きましたが、子供の「理科離れ」などよりも、メディアのこの救いようのない「理科オンチ」のほうが遙かに危機的な状況にあると思います。

(おしまい)

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