酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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ホンダの首脳陣は案外正直者かも (その8)

カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガー氏は、彼が溺愛するハマーに乗り続けるため、バイオ燃料や水素燃料に対応させるなど、アメリカの大金持ちがやりそうな手段(西洋人らしい免罪符的な発想と言うべきでしょうか?)を尽くして正当化させようとしてきました。が、詳細に内容を検討してみますとあまり意味がないか、むしろ逆効果になっている可能性もあります。

どちらにしても、普通の乗用車の何倍も燃費が悪いハマーにどんな小細工をしようとも、アンチエコカーである状況は打開できません。万一、ハマーをアンチエコカーでなくなるように改造できたとしても、それを普通の乗用車に施せば大変なエコカーになるハズですから、彼がハマーに拘り続けている間はどう転んでも彼の政治的指針に見合わせることができません。メディアなども彼を「環境派」に括っていますが、実際はただの偽善者か蒙昧に過ぎないと考えざるを得ません。

本筋とは直接関係ありませんが、カリフォルニア州はサーフィンの国際大会も開かれるトラッセルズ・ビーチ周辺で有料道路の建設計画を進めているそうで、地元のサーファーたちは環境破壊を懸念してこの計画に反対運動を展開しています。クリント・イーストウッド氏などもこれに同調して反対を表明していますが、「環境派」であるハズのシュワルツェネッガー知事はこの道路建設を支持しているそうです。このように昔から何度となく繰り返され、既に飽きられた環境問題はどうでも良いということなのでしょう。

同州のZEV規制にハナシを戻しまして、これが本当に意義のある政策なのか、そもそもLCAを考慮しているのか、非常に大きな疑問を感じます。例えば、電気自動車は運用段階だけ見てゼロエミッションであったとしても、資源調達や製造、廃棄にはエミッションが生じますし、運用にかかる部分も電力供給源を遡れば決してゼロエミッションではありません。

特にアメリカは電力供給の半分近くを石炭火力が占めていますから、それにかかるCO2排出量は相応にあります。三番目に大きな割合を占める原子力は間接的に核廃棄物という非常に厄介なエミッションがあることも失念してはいけません。

アメリカの電力内訳
アメリカの電力内訳

電気自動車を10%売っても、発電時を考慮すれば運用にかかるCO2排出量を10%減らせたことにはなりません。しかも、カリフォルニア州の規定では先に詳しくご紹介しました通り、性能などに応じてクレジットを与えるという方式です。リーフやi-MiEVクラスの電気自動車(タイプ2→3クレジット/台)を投入してフェーズ2(12%)をクリアしようと思ったら、総販売台数の4%売れば良いということになっています。

リーフやi-MiEVなどを売ってこのZEV規制のフェーズ2をクリアしても、発電時を考慮すればCO2排出量を4%削減できたことにはなりません。が、従来のガソリンやディーゼルエンジン車の燃費を平均で4%向上させれば、その分のCO2排出量は概ね削減できるでしょう。どちらがより現実的で実効性が認められ、無理のない政策であるかは深く考えるまでもないと思います。

例えば、最近装着車が増えているアイドリングストップ機構を活用した場合、条件によってかなりのバラツキはありますが、10%前後の燃費向上が見込めると言われています。タイプ2の電気自動車を4%売らせるよりも、カリフォルニア州で販売する内燃機関の自動車全てにアイドリングストップ機構の装備を義務づけるほうが遙かにCO2削減効果は大きくなると思います。

また、前出のJHCF(水素・燃料電池実証プロジェクト)は、インフラを含めた燃料電池車のエネルギー効率はあまり高くなく、電気自動車の1/3程度でハイブリッド車と同等としています。それは前回ご紹介しましたように、炭化水素から水蒸気改質で水素をつくる際にも、それを超高圧タンクに充填する際にもかなりのエネルギー投入を必要とするからです。この評価が正しければ、燃料電池車に与えるクレジットが電気自動車より格段に多いカリフォルニア州のZEV規制は支離滅裂ということになります。

ZEV規制の趣旨には「将来を見据えてZEVの開発を促す」という考えが含まれると好意的に理解してあげようとしても、決して納得のいくものではありません。水素燃料車は水素の貯蔵に関しては燃料電池車にも共通する部分があるといえますが、前回検討しましたようにCO2削減に寄与するとはいえないでしょう。そもそも、これを継続的に開発してきた大手メーカーはマツダやBMWくらいで、いまや完全に少数派です。それは各社とも水素の供給インフラを考慮すればエネルギー効率が悪く、あまり将来性が期待できないと判断しているからでしょう。

一方、プラグインハイブリッド車は、モーターにしても、それを制御するパワー素子にしても、回生ブレーキシステムにしても、バッテリーに関しても、電気自動車や燃料電池車に応用可能な技術を育むのに極めて有力です。また、大容量の車載バッテリーを量産するというビジネス面でも重要なステップになると期待できます。

こうした将来性に大きな差がある(恐らく環境負荷の面でも同等ではないと思われる)水素燃料車とプラグインハイブリッド車をカリフォルニア州のZEV規制は「Enhanced AT-PZEV」(ATはAdvanced Technology、PZEVのPはPartialの意)というカテゴリーで同列に扱っています。このカテゴライズは全く以て不適切といわざるを得ません。

こうしてみますと、将来を見据えたZEV開発を促進するにしては合理的な判断ができていないのは明らかです。私がカリフォルニア州のZEV規制を「狂信的」と表現してきたのは、様々な要素を検討してみると一貫性もなく、科学的でもないことが明らかになり、ありがちなイメージ先行の似非エコそのものといわざるを得なくなってくるからです。

約10年前の燃料電池車ブームのとき、トヨタもホンダも早期の市場投入を目指すと公言し、ダイムラーも電気自動車に見切りを付けて燃料電池車こそ次世代車の本命として開発資本を集中させる動きを見せてきました。が、ご存じのように完全にトーンダウンしてしまい、世間一般にはそんなブームがあったことさえ忘れ去られているように見えます。

ホンダは7月の会見の席で、伊東社長が燃料電池車について「夢をこめてやっている技術」と述べ、近い将来を担う技術ではないという状況を明らかにしました。それ以前にも本田技術研究所(自動車メーカーである本田技研工業は開発部門を持たず、それは全て別会社である本田技術研究所の仕事になります)の川鍋社長も「実際にやってみるとかなり難しい部分があることがわかってきた」と認め、その開発責任者も「50年先を見た技術と思ってほしい」と述べていました。

ここまでマイナスの情報を公然と口にしても良いのかと、逆に心配になってしまうほどですが、カリフォルニア州の支離滅裂なZEV規制、その知事であるシュワルツェネッガー氏や日産のゴーン社長らのハッタリや偽善(もしかしたら単なる蒙昧)に辟易している私としては、ホンダのこうした正直なコメントには清々しささえ感じてしまいます。

昨今の軽薄なエコブームは詭弁や虚栄で溢れかえり、全体像や実効性を無視してイメージばかりを先行させています。燃料電池車の開発では世界屈指の先進メーカーであるホンダが「50年先」といっているような技術をいま普及させようとしているカリフォルニア州も、偏向報道を繰り返すメディアも、自己暗示にかかっているのではないかと疑いたくなってきます。

現在進行中の電気自動車ブームも10年前の燃料電池車ブームのときのように萎んでしまうのは時間の問題だろうと私は予測しています。それは何度も述べてきましたように、決定的なブレイクスルーがない状態だからです。技術的には電極に稀少金属であるコバルトを用いないリチウムイオン電池が実用化されたことで製造コストが下がってきたものの、エネルギー密度がまだまだ低いのも、充電に時間がかかるのも相変わらずです。

今後期待されるエネルギー密度の向上について、NEDOの楽観的と思われる予測でもリチウムイオン電池ではいまの2倍くらいが限界だろうと考えられています。内燃機関に代替し得る実力を目指すとしたら、リチウムイオン電池を桁違いに凌ぐ次世代バッテリーの実用化を待たなければならないでしょう。が、それは全くの「絵に描いた餅」に過ぎません。

ゴーン社長は電気自動車を増やしていくことが「地球を守ること」だとまるで新興宗教の教義を思わせる発言に至っていますが、ホンダは現状でビジネスになり得ない電気自動車を増やそうとしても地球環境に与える影響など殆どないということを認識しているのでしょう。彼らが電気自動車の発売計画を発表するに当たって、採算性度外視でカリフォルニア州のZEV規制対策に過ぎないと正直に公言しているのは、ちゃんと冷静な現状認識ができているからこそでしょう。


(おまけ)

ご存じのように、ホンダは10月8日にフィット・ハイブリッドを発表しました。その席で「フィットはプリウスと対抗できるか」というまたぞろ車格を無視した頓珍漢な質問をした記者がいましたが、伊東社長は「もともと商品が全然違う。価格帯も見た目も違う。プリウスと対抗することは考えていない」とコメントしました。

ま、これは至極当然の回答だったと思います。が、インサイトの不振を踏まえた質問に対し、あえて「見た目も違う」と言ってしまうと、逆にインサイトはプリウスと「見た目が同じ」だと認めているように聞こえてしまいます。やっぱり伊東社長は根が正直なのですかねぇ?


(もう一つ、おまけ)

日産のゴーン社長は10月22日に追浜工場でリーフの生産が開始されたことについて「本日、世界初の量産型EVである『日産リーフ』が追浜工場でオフラインされたことは、日産とルノー・日産アライアンスのみならず、すべての自動車業界において歴史的な出来事である。」と述べたそうです。

彼はi-MiEVの量産1号車が2009年6月4日に三菱自動車の水島製作所でラインオフしていたことも、自動車の黎明期はむしろ電気自動車のほうが主流で、量産型電気自動車など過去にいくつも存在していたことも知らないようです。日産はこんな無知な人に舵を任せて本当に大丈夫なのでしょうか?

(おしまい)
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ホンダの首脳陣は案外正直者かも (その7)

水素という物質も素性はあまり理解されないまま、「クリーンエネルギー」といったイメージが刷り込まれているようです。が、前述のように内燃機関で燃やした場合は窒素酸化物や過酸化水素類の排出を伴いますから、決してゼロエミッションではなく、世間一般にイメージされているほどクリーンではありません。

また、現段階で主流となっている「水蒸気改質」という方法で水素を生産する際にはかなりの量のCO2を排出していることも、様々な大気汚染物質を排出していることもあまり知られていないと思います。こうして得た水素を内燃機関で燃やすことで本当にCO2排出量の削減に寄与できているのか具体的に検討した数字を見かけることも殆どありません。この根幹となる部分が話題にならないのも、表層的な部分しか考慮されない昨今の似非エコブームにありがちな短絡思考ゆえでしょう。

例えば、東京ガスの水素ステーションで用いられる水素分離型リフォーマーを製造量30.6Nm3/hで運転すると25.1kg/hのCO2を排出するそうです。水素1Nm3の発熱量は12.8MJ、ガソリン1Lの発熱量は34.6MJですから、30.6Nm3はガソリン11.3Lに相当します。これだけの水素を作るのに25.1kgのCO2を排出していることになるわけですね。

ガソリン11.3Lを燃焼した際に生じるCO2は約26.3kgですから、このケースではこの段階まで見積もっただけでもCO2排出量の削減は5%足らずで、あまり意味がないということになってしまいます。実際には水素を作るだけではなく、これをクルマの水素タンクに充填するまでの過程にもかなりのエネルギーを必要とします。なので、現実にはもっと悪い数字になり、本末転倒という状況に至ってしまいます。(詳しくは後述します。)

水素分離改質器の原理
水素分離改質器の原理(都市ガスの場合)
実際にはこの過程にもCOやかなりの量のCO2が生じますし、
窒素酸化物や硫黄酸化物などのエミッションもあり、
決してゼロエミッションにはなりません。


こうした化学反応で水素を得る際、実際に生じるCO2を回収することは比較的容易ですが、このとき投入されるエネルギーにかかるCO2を全て回収することは現実的に不可能です。東京ガスが「オンサイトで世界初」と胸を張る「CO2分離回収を同時に行う高効率水素製造技術」の場合も改質の段階で生成されるCO2を回収することでCO2排出量を半減できるといったレベルです。ただし、CO2を回収してもどう処分するかが問題です。この点がハッキリしていなければLCAで評価することはできません。

なお、ハマーH1にはガソリンエンジンもラインナップされていましたが、大概はディーゼルエンジンです。ディーゼルに比べて熱効率が数十%劣るガソリンの熱量を引き合いに出して比較するのは不適当と思われるかも知れません。が、現実的に水素燃料を燃焼させる車載ディーゼルエンジンを実用化したというハナシは聞いたことがありません。

旧武蔵工大時代から水素燃料に入れ込んできた東京都市大が日野自動車と共同開発したマイクロバスもベース車はディーゼルエンジンですが、スペックシートには「予混合火花点火式」と記載されており、ガソリンエンジンと同じ仕組みです。シリンダブロックなど主要バーツは流用しつつ、シリンダヘッドの直噴ノズルが付くあたりを改造してスパークプラグを設けたのかも知れません。

ちなみに、私たちの身近で運行されているCNGバスは天然ガスを燃やして走っていますが、これもディーゼルエンジンではなく、上記の要領で改造された予混合火花点火式、つまり、ガソリンエンジンと同じ方式になります。

シュワルツェネッガー知事のハマーがどのような改造を受けているのか詳細は報じられていないようですが、一品モノで水素燃料のディーゼルエンジンが開発されたというようなことはまず考えられません。もしそんなことになっていたら、もっと大きく報じられていたに違いないでしょう。

常識的に考えれば、上述のようにディーゼルエンジンをガソリンエンジンと同じ仕組みに改造するか、かつてラインナップされていたガソリンエンジン仕様車を用いるか、ハマーのエンジンベイに丁度良い大きさのガソリンエンジンに換装するか、H2以下のガソリンエンジン車を用いるかし、水素燃料に対応する改造を施したといったところでしょう。

いずれにしても、ベース車の段階で普通の乗用車に比べて何倍も燃費が悪いハマーを水素燃料で走らせたところで、エンジンの仕組みがどうあろうと、LCAで考えれば到底エコカーと呼べるレベルに至らないのも、CO2排出量の削減に寄与しないのも間違いありません。それ以前に、改造という余計なステップを踏んでいる分だけ余計な資源が投入され、普通に量産されているハマーより環境負荷が大きくなっていると考えるべきでしょう。

しかも、同じ水素を用いる燃料電池のような効率の良いエネルギー変換方法と違って気体の水素を内燃機関の燃料にすると、その体積エネルギー密度は恐ろしく低くなります。液体ならその限りではありませんが、水素の沸点は-252.6℃ですから、一般的な乗用車に液体水素の貯蔵タンクを装備するのは非現実的です。水素吸蔵合金もまだまだ開発途上ですし。

気体水素タンクを搭載したハマーH2
気体水素タンクを搭載したハマーH2
これはシュワルツェネッガー知事が所有しているものではなく、
2004年にカリフォルニア州との共同実験のためにGMが試作したもので、
やはり、高圧タンクに気体の水素を貯える一般的な方式です。
彼の個人所有のハマーも同様の改造が施されている
と考えるのが妥当でしょう。


昨年の東京モーターショーのレポートでもお伝えしましたマツダのプレマシーハイドロジェンREハイブリッドは、その名の通りハイブリッド化することで燃費をかなり向上させているそうですが、やはり高圧タンクに詰めた気体の水素を用いる水素燃料車ですから(厳密にいえばガソリンも共用できるバイフューエル車ですが)、水素燃料による航続距離はたかだか200km程度です。

ベース車の段階で桁違いに燃費が悪いハマーを同様の貯蔵方法による水素燃料車にしたら、よほど大容量のタンクを装備しない限り電気自動車にも劣る非実用的な航続距離しか得られないでしょう。少なくとも、上の写真程度の容量では近距離用シティコミューターとしてもかなり限定的な使い方しかできないと思います。それ以前に、本気で環境のことを考えるのなら近距離用シティコミューターとしてハマーを用いること自体が実に莫迦げた発想だということに気づかなければいけません。

問題はまだあります。先にも少し触れましたが、こうした気体のままの水素をタンクに貯蔵するとき、その量を稼ぐためにかなりの高圧に圧縮されています。そのためにコンプレッサーを駆動する電力がまた莫迦になりません。何せ、一般的な水素ステーションでも300気圧、近年では700気圧対応というところもありますが、それだけの高圧に気体を圧縮するには、相応のエネルギーを必要とします。

上述した水素をつくる際に生じるCO2の計算も、水素分離型リフォーマーを運転する際にかかるエネルギーやそのとき化学反応で生じる分だけを検討した数字です。つまり、それを圧縮してクルマの水素タンクに充填するまでのエネルギーは考慮されていません。一般的にもこうした部分はまず無視されてしまい、どのような状況になっているか触れられることも滅多にないでしょう。

そこで、色々調べてみましたところ、JHCF(水素・燃料電池実証プロジェクト)の報告書に使えそうなデータがありました。ちなみに、JHCFというのは日本政府と自動車メーカーと燃料関連企業などが燃料電池自動車と水素ステーションの実用化を目指し、合同で実証試験を行うという組織です。

千住水素ステーションの投入電力

これは先にも触れました東京ガスが運営する千住水素ステーションの電力投入を纏めた図です。供給量51.2Nm3/hで運転すると、トータルで34.6kWくらいの電力を消費し、その半分以上がコンプレッサーで水素を圧縮するために用いられているというわけです。先程と同様の計算でいきますと、ガソリンに換算して18.9Lに相当する水素燃料を300気圧クラスの車載高圧タンクへ充填するまでにほぼ23kWhの電力が消費されることになります。

東京電力のCO2係数で計算しますと、ガソリン1L相当の水素燃料を充填するだけで、0.5kgを超えるCO2を排出することになってしまいます(アメリカは電力供給の半分近くを石炭火力が占めますから、さらに悪い数字になると思います)。ガソリン1Lを燃やす際に生じるCO2は約2.3kgですから、水素燃料を充填するためだけに同じ熱量のガソリンを燃やしたときに生じるそれの2割を超える余計なCO2を排出してしまう計算になるわけです。

もちろん、これは施設によって多少バラツキがありますし、発電にかかるCO2係数でも差が生じますから、そうした点も考慮しなければなりません。が、いずれにしても現状では水蒸気改質で作られた水素を超高圧タンクに貯蔵するのが燃料電池車でも水素燃料車でも常識です。トータルでのエネルギー効率でいえば水素燃料車がガソリンエンジン車に大きく劣っているのは間違いありませんし、化石燃料の利用効率で水素燃料車がガソリンエンジン車に勝るとは考えられません。

CO2排出量にしてもリフォーマーで生じたそれを回収しなければ2割近く増加してしまうものと考えられます。リフォーマーで生じたCO2を回収したとしても、その処分方法次第ではLCAで本当に削減できているといえるのか、非常に怪しくなってきます。そもそも、こうして回収する方法はまだ開発されたばかりで普及はこれからでしょうし、例え普及したとしてもLCAで見て数十%削減できていれば良いところでしょう。

こうしてみれば、シュワルツェネッガー知事の水素燃料で走るハマーにどんな小細工がされていようとも、環境負荷の大きいアンチエコカーであることはまず間違いありません。多分、LCAで検討すればバイオディーゼル燃料で走らせているほうがマシだと思います。彼もまたありがちなイメージだけで満足してしまい、LCAを平気で無視し、全体で見れば本末転倒になっていることに気付かないのび太くんのように頭の悪い似非エコ信望者か、人を欺いても平気な偽善者かどちらかに断定できるわけです。

なお、私もクルマ好きでモータースポーツなども(専ら見るほうですが)楽しみにしている人間ですから、自動車文化には様々な楽しみ方があっても良いと考えています。道楽で燃費の悪いクルマに乗ることも私個人の価値観では無下に否定できません。が、公人としてCO2排出削減を強硬に唱えるなら、プライベートでも言行不一致は認められないでしょう。シュワルツェネッガー知事が大きな矛盾を抱えているのは火を見るよりも明らかです。

(※ここでの計算に用いたCO2排出量はいずれもCO2換算です。)

(つづく)

ホンダの首脳陣は案外正直者かも (その6)

中国のBYDオートは倒産した西安秦川汽車を買収して2003年に設立された新興自動車メーカーで、親会社のBYDが世界第3位のリチウムイオン電池メーカーであることから、当然のように電気自動車やハイブリッド車の開発を進めてきました。その甲斐あってフォルクスワーゲンとの提携を取り付けたり、アメリカの著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が2億3000万ドルも投じて約10%の株式を取得したり、ここ数年で目覚ましい展開がありました。

こうした状況に加え、同社が開発した電気自動車は航続距離330kmを豪語していることなどから日本のメディアにも注目されてきましたが、その出鱈目な販売戦略が破綻しつつあるようです。日経ビジネスオンラインの『BYDが失速、急成長のつけ―ディーラーの相次ぐ脱退で露呈したお粗末な販売戦略』によりますと、高い粗利と手厚いリベート、電気自動車投入計画の提示などによって巧みに勧誘されたディーラーはこう述べているそうです。

「当時、電気自動車は影も形もなかったが、BYDから『今加盟すれば後で必ず儲かる』と言われた。結局、高収益も電気自動車もいまだに実現していない。そろそろ潮時だ」
「今思えば、BYDが出した好条件はできるだけ多くの加盟店を勧誘するための“絵に描いた餅”に過ぎなかった」
「BYDのリベートは、常識で考えれば達成不能な目標に基づいていた。例えばある月に80台の販売目標を達成したら、翌月は150台、翌々月は250台を課せられるという具合だ」

ま、これなどもペテンに近いハナシではあります。「オマハの賢人」などと呼ばれるバフェット氏ですが、世界最大の投資持株会社バークシャー・ハサウェイの筆頭株主であり、会長とCEOを兼ねる人物でもありますから、この電気自動車バブルに乗じて成長株を保有し、バブルが弾ける前に売り抜けるといった算段なのかも知れません。(あくまでも個人的な憶測です。)

こうしたマイナスの情報はこの電気自動車ブームに水を差すと思われているのか、あまり大きく報じられません。日経ビジネスオンラインは当blogで何度もご紹介してきました池原照雄氏のコラム『電気自動車の「現実」が見えてきた―「i-MiEV(アイミーブ)」、電池のコスト・大容量化で分厚い壁』など、楽観論しか扱わない一般メディアとは一線を画すバランスの取れた報道で個人的には大変好感が持てます。

かつての燃料電池車ブームのときもそうでしたが、メディアは大した根拠もないまま「現在は多少困難な状況でも技術の進歩で近い将来に解決できる」とイメージさせるような論調で捲し立て、マイナスの情報は意図的に排除してブームを煽り、大衆をミスリードするといったパターンをこれまでにも何度となく繰り返してきました。その度に乗せられてしまうことのないよう、受け手ももう少し冷静になるべきでしょう。

そもそも、一方的な情報しか扱われないと、その通りにならなかったときには非常にバツが悪くなり、その話題に触れたくないという空気に支配されるものです。そうなると、どのように事態が展開したのかといった冷静な分析も反省もせず、ほったらかしにして忘れ去るだけです。そうして忘れてしまうから、しばらくすると再び一方的な情報で乗せたり乗せられたり、同じような空騒ぎのループにハマってしまうことになるのです。過ちを教訓にできなければ進歩もありません。

かつての燃料電池車ブームは1987年にカナダのバラード・パワーシステム社が耐久性の高い固体高分子形燃料電池を開発したところから始まりました。1990年代中頃には各自動車メーカーが開発に名乗りを上げ、1997年の東京モーターショーは燃料電池車が話題を独占したといっても過言ではないでしょう。もちろん、メディアもこのブームを散々煽り、10年後には燃料電池車が本格的に普及し始めていると思わせるような空気を創っていました。が、それはもう忘却の彼方というわけです。

恐らく、この電気自動車ブームもかつての燃料電池車ブームのときのように次第にトーンダウンし、10年経っても日産のゴーン社長が豪語しているような状況にはならず、メディアもこのネタが飽きられた頃には放ってしまういつものパターンが繰り返されることになるのだと思います。その頃までには彼らも次のネタを探し当て、再び無責任なブームを仕立てて煽り、いまメディアに乗せられて電気自動車に期待感を高めている人たちも、しばらくしたらブームがあったことさえ忘れ去り、再び別のブームに乗せられてしまうのでしょう。

そこへいきますと、「採算は取れない」と正直に公言しているホンダにも電気自動車をやる気にさせたカリフォルニア州のモチベーションの高さは凄いというほかないでしょう。彼らは1990年代からしつこくZEV規制を続けており、その狂信ぶりは筋金入りです。知事のシュワルツェネッガー氏もよほどの蒙昧なのか偽善者なのか、やはり実効性を無視したイメージ先行型です。自動車メーカーはこうした人たちに従わなければならないことを莫迦莫迦しく感じているかも知れません。

そうはいっても、カリフォルニア州の市場規模は侮れません。2009年は新車販売台数が1975年の水準まで低下したといっても100万台強に達しています。これは全米の約10%を占め、乗用車普及率で世界トップクラスを誇る韓国の市場規模にも匹敵します。日本市場と比べても1/4に近い規模ですから、ここでトップシェアを握っているトヨタはもちろん、GMやフォードを上回って2位に付けているホンダも決して軽視できないでしょう。

シュワルツェネッガー知事の支離滅裂ぶりは彼の愛車を見れば良く解ります。彼は軍用のM998四輪駆動軽汎用車「HMMWV(ハンヴィー)」を痛く気に入り、熱烈にこの民生化を望みました。そうしたリクエストに応えて作られたのが「ハマーH1」で、市販第1号車も彼に納車されました。いわば彼はハマーの生みの親です。が、この巨大なクルマの実燃費は10mpg(マイル毎ガロン)程度、つまり4km/L少々といわれています。

HUMMER_H1.jpg
HUMMER H1
シュワルツェネッガー氏の熱烈なラブコールに応え、
軍用車両ハンヴィーを民生化したのがこのハマーH1です。
全幅は2.2m近く、車両重量は3tを超える巨体ですから、
これで燃費が良いわけがありません。
さすがのアメリカ人でも乗り心地を含めて持て余す人が多いようで、
H2はシボレー・タホをベースとして普通のSUVと同じような構成になり、
H3ではミディアムサイズのシボレー・コロラドをベースとすることで
さらに小型化されました(といっても充分アメリカンサイズですけど)。


元々軍用に作られたハマーH1は高い走破性を求めて地上高を稼ぐために「ハブリダクション」という機構を採用しています。ですから、単なる四輪駆動車より重くなり、機械抵抗も増しているハズです。このクラスの軍用車両としては比較的軽量で全般的によく纏まっているのでしょうが、一般市民が乗るクルマとしては明らかに過剰で、価格の高さも踏まえて常識的に判断すれば、カネ持ちの道楽グルマの範疇にドップリ漬かっていると評さざるを得ないでしょう。

ハブリダクションのカットモデル
ハブリダクションのカットモデル
リダクションギヤを用いてドライブシャフト上方にオフセットさせることで
動力伝達系全般を相対的に高い位置に設けられるようになり、地上高が稼げます。
なお、車軸中心部から伸びている細いパイプは走行中にもタイヤの空気圧を調整できる
CTIS(Central Tire Inflation System)のエアを通す配管で、
こうした機構を設けやすいという点もハブリダクションのメリットといえます。
一般のSUVにも馴染みのないこれらの機構は主に軍用車両で用いられてきましたが、
それは道なき道を走破する必要性など、過酷な環境で運用されるゆえです。
舗装路はもちろん、多少の不整地で必要とされることは殆どないでしょう。
個人所有のクルマとしてみれば明らかにオーバースペックだと思います。


そのため、ハマーはアメリカでも「Gas-guzzler(ガス食い)」の悪名高く、しばしば批判の的になってきました。ちなみに、Wikipedia(英語版)の「Gas-guzzler」の項では思いっきりこのクルマの写真が掲載されています。シュワルツェネッガー知事はいまでもこのハマーを何台か所有しているそうです(一時は6台持っていたとされています)が、やはりことある毎に批判されてきました。

彼は以前からバイオ燃料に対応するよう改造したということで「カーボンニュートラル」で運用していると言い張ってきたようです。が、バイオ燃料を製造する際に投入されるエネルギーを無視しなければそのような強弁は成り立ちません。

バイオ燃料のほうが投入エネルギーが多く、石油よりCO2排出量が多くなるという試算もあるようですが、政府関係機関の資料では削減できているとする試算しか見たことがありません。どちらが正しいのか判断は難しいところですが、どちらにしてもLCAでCO2排出量がゼロになっているレポートは存在しません。ま、当然のハナシですが。

例えば、経産省の『バイオマス燃料のCO2排出等に関するLCA評価について』(←リンク先はPDFです)というレポートによりますと、下図のようにバイオディーゼル燃料は製造プロセスにおけるCO2排出量が非常に多く、LCAで見ればせいぜい6割程度の削減にしかなっていません。

BDFと軽油のCO2排出量評価の比較
軽油の燃焼時の値を1とした場合の相対的な指標になるそうです。
バイオ燃料そのものはカーボンニュートラルと考えられるため、
点線で示された燃焼時のCO2排出量はゼロと見なせますが、
実際には完全なゼロではなく、+αがあると考えられます。
燃料の組成が一定ではないため正確な値は不明だそうですが。
いずれにしても、茶色で示されている製造などのプロセスには
かなりのCO2が排出されており、菜種由来のバイオディーゼル燃料は
石油から精製された軽油の5倍くらいになり、LCAではせいぜい6割減
といったレベルにしかならないようです。
(なお、この図の元はリンク先の18頁にありますが、
そのまま縮小すると非常に見づらくなってしまうため、
解りやすいようにCO2排出量の部分だけを抜き出しました。)


ハマーはプリウスなどハイブリッド車の5倍くらい燃料を食うクルマですから、これをバイオ燃料で6割引にしたところで、ハイブリッド車の2倍くらいのCO2を排出している計算になります。これでは、五十歩百歩も良いところで、決して褒められたものではありません。他にもバイオディーゼル燃料には様々な問題点が山積していますが、過去に詳しく述べていますのでここでは繰り返しません。(関連記事:『バイオディーゼル燃料も問題山積』)

また、最近のシュワルツェネッガー知事は、このハマーを水素燃料車に改造したので「ゼロエミッション」になったと豪語しているそうですから、彼の倒錯ぶりには恐れ入るしかありません。「水素を燃やしても水しか出ないのでゼロエミッションである」という解釈は現実を完全に無視するものです。

水素燃料も高温高圧の筒内で燃やせば大気中の窒素と酸素が反応し、ガソリンほどではないものの窒素酸化物が生じます。また、ガソリンなどでは生じない過酸化水素類も発生しますので、これらの後処理を怠れば大気を汚染することになります。

近年では「CO2を出さないこと=ゼロエミッション」と考えてしまうような錯誤も起こりがちです(それだけ地球温暖化問題が最重要の環境問題であるという認識が広がっているのでしょう)が、人為的温暖化説という仮説が否定されれば、それこそCO2などエミッションと見なす必要などなくなるでしょう。

また、水素も製造プロセスに相応の環境負荷は生じているのですが、やはり無視されがちです。現在はコストや効率などの理由で炭化水素から「水蒸気改質」という方法で作られるのが一般的で、アメリカでもその殆どは天然ガスや石油などから作られています。つまり、再生可能エネルギーでもないのです。その水蒸気改質で水素ガスを得る際にも現実には一酸化炭素や窒素酸化物、硫黄酸化物などのエミッションがあります。

もちろん、この過程にはやはり熱エネルギーの投入を必要とし、化学反応の際にもCO2が生じます。つまり、LCAで見ればちゃんとCO2を排出しており、この点でも決してゼロエミッションとはいえないのです。そもそも、ハマーのような超絶に燃費の悪いクルマは燃料を水素にしたところでエコカーと呼べるとも思えません。良い機会なので次回に具体的な数字を挙げて検討してみましょうか。

(つづく)

ホンダの首脳陣は案外正直者かも (その5)

何度も繰り返しで恐縮ですが、現在の電気自動車は補助金抜きに成り立ちません。大金持ち相手のニッチな市場や、逆にゴルフ場のカートに毛の生えたような簡易的なものはどうか解りませんが、大手自動車メーカーが手掛けるような普通の乗用車の範疇になる電気自動車が補助金を必要としなくなる目処はしばらく立たないでしょう。どこよりも先んじて電気自動車を個人向けに発売した三菱自動車が今後の展開を述べるに当たって「ユーザーの負担額」と断っているのですから、それは間違いないと思います。

しかしながら、電気自動車の購入に当たって交付される補助金にも限度があります。日本の場合、電気自動車に交付される政府の補助金は経済産業省の「クリーンエネルギー自動車等導入費補助事業」にかかるもので、今年度分は123億7000万円までです。これを全て消化したら追加予算が認められない限り、それ以上の補助金は出ません。(現状では先着順で超過分には交付されないでしょう。)

なお、地方自治体でも電気自動車に補助金を交付しているところはありますが、全体から見れば少数ですし、予算や交付金額もかなりマチマチですので、ここでは触れません。こうした情報につきましては、環境ビジネス.jpの自治体別エコカー補助金一覧がほぼ網羅できていると思いますので、興味のある方はリンク先をご参照いただくと良いでしょう。以下、このエントリでいう「補助金」は、経済産業省のクリーンエネルギー自動車等導入費補助事業にかかるものを指します。

日産のリーフには1台あたり77万円の補助金が交付されますから、123億7000万円をこれで割っても(つまり、リーフが電気自動車の国内市場を独占した場合でもという意味です)1万6065台分で尽きてしまう計算です。現在のプリウス並みの国内販売台数を目指すとしたら、1年間に30万台売らなければなりません。国内の電気自動車市場をリーフが独占したとしても、現在の予算では5%強しか賄えないことになります。

もし、リーフ30万台分に100%補助金が交付されるよう予算を組んでもらうとしたら、リーフが独占したとしても現在の約20倍となる2300億円強に引き上げてもらう必要があります。が、それは老若男女を問わず、マイカーと無縁な生活を送っている人に対しても、国民1人につき2000円近い負担を強いることになってしまいます。

現実にはリーフの市場独占などあり得ないでしょう。富士重工は初めからあまりやる気を感じませんでしたが、三菱はリーフに対抗してi-MiEVを値下げし、補助金を差し引いたユーザー負担額がリーフの299万円より15万円安く設定されました。そもそもi-MiEVは軽自動車ゆえに維持費も安くあがります。航続距離は両者ともメーカー公称値で160kmとされ、この点ではほぼ同等と見るべきでしょう。

もちろん、車体寸法は全く違います。リーフの全幅は1,770mmでi-MiEVより295mmも広く、プリウスと比べても25mm広いワイドボディです。明らかに北米市場を重視していることが覗える立派な体格ですから、居住性などもi-MiEVとは大きな差があるでしょう。

両者とも決して安価とはいえませんから、これを買う個人ユーザーは比較的所得水準が高めの層になるハズで、維持費の安さより居住性の高いリーフを求めるケースが多くなるかも知れません。が、企業などがこれを導入するとしたら、それは企業イメージの向上が主な目的になるでしょうから、より割安な方を求める傾向が強くなると思います。

ついでに言いますと、この補助金制度には車種ごとに耐用年数が設定されており、それよりも前に廃棄したり売却するなどしたら補助金を返還しなければなりません。自家用軽自動車は4年、それを超える乗用車は6年となっていますので、電気自動車の性能の低さに嫌気がさして売り払いたいと思っても、i-MiEVは4年、リーフは6年我慢しなければ補助金を返さなければなりません。そういう意味ではi-MiEVを選んだほうが無難かも知れません。

今年度の123.7億円という予算は昨年度の4倍増になるそうで、仮に毎年4倍増が繰り返されたとしても、2012年度は1979.2億円ということになります。これをリーフとi-MiEVが同じ台数で分け合った場合、各々6万6607台分になりますが、それでも現行プリウスが国内で発売されてから1年で売れた台数の2割強にしかなりません。

もちろん、補助金の予算に懸念がなくても、電気自動車が順調に売れる保証など何処にもありません。リーフよりユーザー負担額が15万円安く、維持費の面でも有利なi-MiEVは今年4月に個人向けの販売が開始されました。が、案の定、あまり売れていないようです。それは「メディアが騒いでいない」という状態からして明らかで、好調に販売台数を伸ばしていたら2代目インサイトの発売直後以上の大騒ぎになっていたのは間違いありません。

そのインサイトの受注状況に陰りが生じ始めたとき、自動車評論家の国沢光宏氏が自身のblogで「自動車メーカーは“売れていれば受注台数を発表し、厳しければ黙っている”という解りやすい反応をする」と書かれていたように、メーカーは悪い数字をあまり公表したがりません。i-MiEVの販売実績が具体的に伝わってこないのもそれゆえでしょう。が、状況証拠を重ねていてもあまり説得力がありませんね。なので、i-MiEVを買う人が漏れなく行う手続を洗ってみることにしました。

i-MiEVは上述のように値下げされ、ユーザー負担額は当初の320万円から現在は284万円になっています。が、元の価格は現在でも398万円と非常に高額です。つまり、国から交付される補助金は114万円にもなるわけで、これだけの大金を交付してもらわなくても良いという奇特な人は滅多にいないでしょう。ですから、この補助金の申請を受け付ける機関(次世代自動車振興センター)の受理状況を確認すれば、大体の傾向が掴めるハズです。

残念ながら、車種別での状況は公表されていませんが、カテゴリーごとなら具体的な数字が解りました。プラグインハイブリッド車と原付4輪車を除く4輪の電気自動車は今年度第1回公募(4~5月)で321台、第2回公募(6~7月)で594台、最初の4ヶ月で合計915台に補助金の交付が決定しているという状況になっています。(詳しくは次世代自動車振興センターのサイトにある「補助事業の進捗状況」をご参照下さい。)

この全てが軽自動車になっていましたが、富士重工のプラグイン・ステラはi-MiEVに比べると性能面でかなり見劣りする上、ユーザー負担額が50万円も高いですし、他は一般ユーザーに馴染みのないマイナーブランドばかりです。なので、この915台の殆どはi-MiEVと見て間違いないと思います。

もっとも、これは「補助金が交付された台数」ではなく、あくまでも「補助金の交付決定通知が出された台数」ですから、中には途中でキャンセルしてしまう人もいるでしょうし、後の手続きに不備があれば欠格となってしまうこともあり得ます。また、この通知から2ヶ月後の末日までにナンバーを取得すれば良く、その後1ヶ月以内に「実績報告書」を提出すれば良いという規定になっていますから、この台数には発表時点で納車されていない分もかなり含まれているでしょう。

いずれにしても、現状では毎月230台に満たないペースですから、三菱が計画している年販4000台に少なくとも30%以上足りないペースです。プリウス並みを目指すには桁が2つも足りませんから、ゴーン社長が夢想するプリウス並みを目指すなら、この百数十倍のペースでリーフを売っていかなければ、その分だけ海外で台数を確保する必要に迫られます。

ちなみに、ハイブリッド車は海外であまり売れていません。プリウスの場合、海外での販売比率は約40%になりますが、インサイトに至っては約28%という体たらくです(いずれも現行モデルの発売から12ヶ月間の実績です)。但し、プリウスはハリウッドスターたちがこぞって乗っていた影響か、一時期北米での人気が高まりましたので、累計では約59%が海外で売れています。三菱もi-MiEVの海外販売計画を5000台/年としており、国内の4000台/年とは大差ないと考えています。

ゴーン社長が豪語する2年後に年間50万台の電気自走車を売るという計画は、一体どのような計算によって導き出されたのでしょうか? 日産はリーフの発売1年目の販売台数を国内6000台としていますが、2年目ではそれを何十倍にも拡大できるというのでしょうか? プリウスでさえ、毎月の販売台数が車種別上位30位以内にランクされるようになるまで3年半以上かかりましたが、リーフは2年目でトップ争いができるようになるとでも言うのでしょうか?

こうした状況を現実的に捉えてみますと、やはり2年で年間50万台という計画は全くの非常識で、私にはゴーン社長の言葉がただのハッタリにしか聞こえません。

ゴーン氏はミシュラン時代もルノーでも日産でも、不採算部門の切り捨てや資材調達ルートの見直しで経費を圧縮するなど、コストカッターとして辣腕を振い、短期間で赤字から黒字への転換を成功させてきました。が、彼が新しい創造的な事業を展開して何か大きな成果を上げてきたかと振り返ってみても、特に思い当たるものはありません。

彼が社長に就任してから日産の商品展開に目新しい傾向があったか振り返ってみても、旧態依然の感が否めません。実際、日産にはトヨタやホンダが持っているような売れ筋車種が乏しいという状況が何年も続いており、そうした点で彼に対する厳しい評価も時々耳にします。

彼は細かい問題点を見逃さずに経営状態を改善させるといった仕事には能力を発揮するのかも知れません。が、将来を見据えた新たな事業を展開するといった、先見性を持ちながら現実も真摯に見定めるバランスがとれた仕事をするには向かない人物なのかも知れません。いずれにしても、彼の電気自動車に関する言動は常軌を逸したもので、もはや楽観的というレベルを超越し、世間一般に誤解を与えかねない印象操作というべき領域に達しているかも知れません。

ゴーン社長の豪語する電気自動車普及のシナリオや、悲観論を意図的に排除して一方的な情報ばかり喧伝する大衆メディアに踊らされるのは賢明ではないと思います。先のエントリで頂いたコメントへのリプライにも書きましたが、現状は電気自動車を巡る情報のバランスがあまりにも楽観論に偏りすぎ、電気自動車のほうが有利とする試算も出鱈目なものが多すぎます。

以前ご紹介しましたように、テスラ・モーターズも創業から7年間ずっと赤字続きで営利企業として成り立っていません。三菱自動車も補助金頼みの状況がいつ解消できるのか解りませんし、肝心のi-MiEVは多く見積もっても国内で毎月230台くらいしか売れていません。電気自動車の市販を始めた彼らの現実を見れば、ホンダの北条取締役が語った「採算は取れない」という言葉は現実をありのままに伝えたものに違いありません。

北条取締役の正直なコメントは殆ど無視され、それがゴーン社長の具体性を欠いたコメントにかき消されてしまうような現状では、電気自動車の今後について冷静な判断などできないでしょう。

(つづく)

ホンダの首脳陣は案外正直者かも (その4)

日産がリーフの発売に合わせて設置を計画している主な充電インフラは、全国の直系ディーラー約2200店舗全てを対象としています。が、急速充電器が置かれるのはその1割にも満たない200店舗に過ぎません。これでは全国を網羅できているとはいえないでしょう。急速ではない普通充電では200V仕様でも満充電まで最大8時間かかりますから、ガソリンスタンドのような感覚で利用できるものではありません。

そもそも、日本国内にガソリンスタンドは5万店以上あります今年6月末の時点で38,600店あるそうですが、それでも地方へ行くとなかなか見つからなくて(ナビに登録されていても実際に行ってみると閉店になってるケースなど珍しくありませんし)心配になることがあるくらいです。

どれほど計画的に配置したとしても、日産が全国に設置する急速充電器が僅か200台というのでは、どこへでも安心して出掛けられるという状況にはほど遠いでしょう。ECOステーションや三菱のディーラー網など、日産以外のインフラを含めたとしても、不安が拭える状況に及んでいないのは間違いありません。

もっとも、自動車メーカーにインフラまで全て面倒を見ろというのは些か酷なハナシです。旧来の枠組みからすれば、こうしたインフラは自動車メーカーが主導的な立場になる分野ではありませんし、その普及も電気自動車の普及と共に進めていけば良いことですから、現段階であまり目くじらを立てることもないでしょう。

私がこうして突っ込みたくなったのは、ゴーン社長が「我々は、EVに関するすべてに携わる唯一の会社なのです」と豪語し、インフラや補助金制度についても「EVに興味を持っている世界の街に指標を提供することができます」などと電気自動車における全能の神として神託を授けることができるかのようなことを言うからです。

しかし、自動車メーカーであるからには肝心の電気自動車に関する発言には相応の責任を持ってしかるべきです。くどいようですが、僅か2年で年産50万台などという計画は荒唐無稽としか思えません。明確な根拠もなくそうした数字を掲げるのは、何処の馬の骨とも知れないベンチャー企業ならともかく、現社名になってから76年もの歴史があり、社会的な影響力もある大企業のすることではないでしょう。

日産は世界で初めてリチウムイオン電池を採用した電気自動車を市販した実績を筆頭に、何度かその販売を経験してきたものの、いずれも極めて小規模で試験的なものに過ぎませんでした。彼らも現段階では一般ユーザー向けの電気自動車を本格的に販売した実績がないのです。こうした状況では実際に何台くらい売れるかといった推測もかなりアバウトにならざるを得ません。

需要予測というのはそれほど簡単なものではありません。例えば、ホンダは現行インサイトで世界年販20万台を計画していました。供給体制が整ってからの9ヶ月間こそ日本国内では当初販売計画5000台/月の2倍前後を維持したものの、受注残を吐き出してからは失速し、最初の1年でも全世界の販売実績は計画を30%以上下回りました。

欧米では最初から大不振だったのに加え、日本でも完全に勢いを失った現在のペースでいけば、2年目はせいぜい8万台が良いところでしょう。もし、本当にこんな水準になってしまったら、当初計画20万台に対して60%以上も下回ってしまうことになります。(間もなく発売される予定のフィット・ハイブリッドに客が流れてしまったら、もっと悲惨な結果になるかも知れません。)

オールアルミボディで売れば売るほど損をするといわれた初代インサイトはともかく、ホンダはシビックハイブリッドを7年以上売ってきた実績がありながら、2代目インサイトの需要予測を大きく読み誤りました。それはトヨタにプリウスの大幅値下げで対抗されたことも少なからぬ影響があったと見て間違いありませんが、要するに確実な需要が見込める独占事業でもない限り思惑通りに運ぶ保証などないということです。

そのインサイトも発売後1ヶ月くらいまでの国内受注状況は絶好調で、累計何台受注したといった情報が一般メディアにも頻繁に取り上げられていたほどです。こうした例を踏まえますと、リーフがネット予約(あくまでも「予約」で「受注」ではありませんから、キャンセル料もかかりません)で好調だったからといって有頂天になり、電気自動車の将来も明るいと考えるのは冷静な判断とはいえません。

そもそも、世の中にはあまり深く考えず新しいモノに飛びつく人が相応にいます。そういう人たちを基準にしても全く意味がありません。以前、頂いたコメントのリプライでも軽く触れましたが、『イノベーションの普及』という著書でも知られるアメリカの社会学者エベレット・M・ロジャース氏は、イノベーション(まだ普及していない新しいモノやコト)がどのように社会や組織に伝搬/普及するか実証的な研究を行って、下記の5つの層に分類しています。

・イノベーター(革新的採用者): 冒険的で、最初にイノベーションを採用する
・アーリーアダプター(初期採用者):自ら情報を集め、判断を行い、マジョリティ(多数採用者)から尊敬を受ける
・アーリーマジョリティ(初期多数採用者): 比較的慎重で、アーリーアダプターに相談するなどして追随的な採用行動を行う
・レイトマジョリティ(後期多数採用者):うたぐり深く、世の中の普及状況を見て模倣的に採用する
・ラガード(採用遅滞者):最も保守的・伝統的で、最後に採用する

これらの分布は以下のような曲線で示されています。

ロジャースの採用者分布曲線
ロジャースの採用者分布曲線

イノベーターというのは最も革新を好む層になります。が、価値観や感性が社会の平均から離れ過ぎており、また価値判断が正しく行われないこともあり、「もの好き」と評されるような人たちもこの層に含まれます。その上、絶対的な数が少ないゆえ、影響力も小さいという層になるわけですね。

一方、アーリーアダプターは社会全体の価値観とも比較的近い位置におり、またイノベーションの価値を正しく見定めようとする人たちになります。なので、新しい価値観や利用法を示す役割を担う存在と定義されるわけですね。この層は「オピニオンリーダー」とも呼ばれます。

ロジャース氏の理論では、このイノベーターとアーリーアダプターを合わせた層、つまり普及率が16%を超えた時点で、そのイノベーションは急激に普及/拡大するとされており、こうした理論は実際のマーケティング理論やコミュニケーション理論にも広く応用されているそうです。

リーフはまだ発売されておらず、特別な催し以外では試乗することもできません。いまの段階では普通の人が普通にクルマを買う前に確認するようなことを自由に出来る状況ではありません。もちろん、上述のようにインフラを含めて様々な不安要素が山積されている現状では、相応の割り切りが必要になります。つまり、リーフの予約受付に飛びついた人たちは、ロジャース氏がいうところの「イノベーター」に占められていると考えて間違いありません。

日産はリーフの予約台数が日本国内で6000台を超え、アメリカでは2万台に達したと発表しました。メディアもそれを嬉々として伝えましたが、イノベーターが食い付いただけという現段階で順調に販売台数を伸ばせると期待するのは気が早すぎます。

2009年に日本国内で売れた新車の乗用車は軽自動車を含むと425万台ほどなります。つまり、昨年並みの需要で計算すれば、1年間に10万台くらいはイノベーターとなる人たちに買われているということになります。同様に、アメリカでは1042万台ほどでしたから、イノベーターによる需要は26万台を超える計算になります。こうしてみますと、日本で6000台、アメリカで2万台というリーフの予約台数も決して楽観できるような数字とはいえません。

上述のように、インサイトは販売開始から1ヶ月後には日本国内だけで18,000台も受注(予約ではなく受注です)しながら、2年目は世界年販10万台も無理でしょう。これを鑑みれば、リーフの予約台数が良好な数字でも、ゴーン社長がいうルノーと合わせて2年で年間50万台の電気自動車が本当に売れると期待するのは拙速でしょう。そもそも、それだけの台数を賄う補助金が支給されるかどうかも怪しいところですし。

(つづく)
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まとめ

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