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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

矛盾だらけのエアカー (その1)

例のエアカー絡みのアクセスは1日に30件を超えた時期もありましたが、しばらくは1日10件以下くらいまで減っていました。5月29日にいきなりアクセス数が跳ね上がったのでログを調べてみましたら、どうも2chにリンクを張られたようですね。その後すぐに落ち着きましたが、それでも毎日5~10件くらいのアクセスが続いており、この件で全くアクセスがない日は殆どありません。NHKの例の番組から1ヶ月経ちましたが、皆さんまだ飽きていないんですねぇ。私は少し飽きてきましたが。

guy-negre_and_his_aircar.jpg
発明者ギー・ネグレと彼のエアカー
左はナンバープレートとタクシーのアンドンが付いていますが、
いずれもフェイクだと思います。(あくまでも個人的な印象です。)


私のようにMDI社のエアカーの実現可能性を検討している人もちらほら見かけるようになりました。ただ、基本的なエネルギー収支の考え方が不充分で、あまり参考にならないものが殆どです。

例えば、大気の熱をエネルギーとして利用しているのではないかという、それこそヒートポンプの「エコキュート」などと同じような発想で検討している人もいましたが、私はそれも成り立たないと思います。

そもそも、大気の熱を利用するということは、大気を取り込んで何らかの方法でその熱を奪い、取り込んだときより低い温度にしてそれを排出しなければなりません。また、熱は高いところから低いところへ一方向へしか伝わりません(要するに冷たいものは暖かいものから熱を奪うだけで、冷たいものから暖かいものへ熱を与えることはできません)から、その点も重要なポイントになります。

MDIの空気エンジンは大気の熱を利用していると推測する人は、常温の圧搾空気の圧力を下げれば「ボイル=シャルルの法則」で冷たくなることを利用するのだと考えているようです。確かに、300気圧という超高圧に圧縮された常温の空気の圧力を下げれば、かなりの低温になります。それでエンジンに取り込まれた空気の熱を瞬時に奪い、排出される空気が大気温度より低温になっている状態にすることも充分に可能でしょう。しかし、エネルギー収支を考えれば、こうした方法も上手くいかないと思います。

空気を圧縮すれば温度が上昇しますが、その熱を逃がさないようにして圧力を元に戻せば、温度も元に戻ります。圧力を下げた時に冷たくなって周囲の熱を奪うということは、つまり圧縮するときに生じた熱を捨てていなければなりません。

コンプレッサーで300気圧に圧縮する際に生じた熱を大気に捨てて常温にした圧搾空気を用い、その圧力を抜いて低温になった空気で大気の熱を奪うという仕組みでは新たにエネルギーを取り込んだことになりません。この仕組みは要するに

一度捨てた熱を回収しているだけ

ということになり、トータルのエネルギー収支を見れば相殺されていることになります。ま、こういうステップが増えれば増えるほど損失も大きくなりますから、厳密には「一度捨てた熱を回収しているだけ」という状況にもならず、かなりの損になっているでしょう。実際にこんな装置を作ったとしても、非効率なだけだと思います。

そもそも、大気の熱を取り出すヒートポンプである「エコキュート」も従来のような電気ヒーターより約30%効率が良くなっていますが、投入した電気エネルギーを上回る熱エネルギーを大気から取り込んでいるわけではありません。大気の熱エネルギーをそのまま熱エネルギーとして給湯に利用するために最適設計がなされているエコキュートでも、実態はこんなものです。

まして、電気エネルギーなどでコンプレッサーを回し、圧縮した空気の熱を捨て、その空気で大気の熱を奪い、そのエネルギーを動力に変換するとなれば、エコキュートなどよりずっと多いステップを踏むことになる分だけ効率が悪化するのは明らかです。

また、エコキュートもそうであるように、大気の熱を利用するということは昼よりも夜、夏よりも冬、温暖な土地よりも寒冷地のほうが能力は低下するという不安定な要素を抱えることになります。

定置で電力の供給を受けて運用されるエコキュートなら、気温が下がってもモーターの出力を上げてやればお湯を沸かす能力に支障はありませんが、限られたエアタンクしか持たないエアカー場合、他のエネルギー源を複合的に利用しなければ安定的な性能は得られないでしょう。

(つづく)
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