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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

フェラーリもポルシェもない自動車博物館 (その3)

自動車博物館としては日本最大の規模を誇るトヨタ博物館ですが、常設展示が行われている155台(模型やモーターサイクルも含みます。四輪の実車だけなら120台くらいでしょうか?)のコレクションの傾向は私の感覚からしてみますとやはり偏っていると言わざるを得ません。

私たちの世代は小学生の頃にスーパーカーブームという洗礼を受けましたから、その頃が一つのピークになっています。なので、1960~70年代くらいの外国車、殊にフェラーリやランボルギーニといったイタリアのスーパースポーツは格別です。また、中高生になれば現実的にそう遠くない将来手が届きそうな存在だった日本車に憧れたものです。なので、80年代の日本車も私たちの世代にはかなりの訴求力があります。

当時の私はF2からF1へ至るホンダのモータースポーツ活動に熱狂していました(詳しくはこちら)。この頃に発売されたバラードスポーツCR-X・Siに搭載されたDOHCエンジンのヘッドカバーはF1などのそれとよく似た意匠で、それがホンダのイメージ戦略だということは薄々感じつつも、かなり興奮したものです。『モーターファン』の別冊、ニューモデル速報『CIVIC Si & BALLADE SPORTS CR-X Si ホンダDOHCのすべて』が発行されたのも1984年でしたが、当時中学3年生だった私は表紙がボロボロになるほどこれを繰り返し読んだものです。

しかし、トヨタ博物館の常設展示は戦前の外国車と、1970年代前半までの日本車というコンセプトですから、リアルタイムで憧れたクルマたちがスッポリと抜け落ちているわけです。

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Toyota Carolla Levin

今回は特別展でこのAE86が展示されていました(やはりデロリアンのアレと同じように、すぐ傍らには『頭文字D』の単行本が展示されていました)が、当時の私はアンチトヨタを標榜して憚らなかったんですね。このクルマはむしろ仮想敵の筆頭でしたから、個人的には特別な思い入れがありません。

強いていえば、PSソフトの『グランツーリスモ』を新規でプレイし始めたばかりの段階で手持ち資金がないとき、コレの中古車で地道に資金を貯めるといった格好でお世話になったくらいでしょうか?(『グランツーリスモ』をやったことのない人には何のハナシか解らないかも知れませんが。)


恐らく、トヨタ博物館の常設展示は私達の親やその少し上の世代の共感を呼ぶのではないかと思います。同館がオープンしたのはいまから19年前になりますが、その頃のトヨタのエライ人たちは私の親と同じくらいか少し上の世代でしたから、そうした意向が働いたのかも知れません。(あくまでも個人的な憶測です。)

この世代の人達が初めてクルマを持てるようになったのは1960~70年代くらいになると思います。そのせいか、トヨタ博物館のコレクションも、この当時の日本車はかなり充実しています。彼らにとってはノスタルジーに浸れる空間になっているでしょう。

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Toyota Corolla

この初代カローラは2ドアですが、私の父が初めて買ったクルマはこの4ドア版になります。ウチがこれに乗っていたのは私が生まれる前から幼児くらいまでの間でしたから、このカローラについては殆ど記憶にありません。その頃のアルバムを見ると写真に写っていることから、私にとっては何となく馴染みがあるといった程度の存在です。

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Isuzu 117 Coupe

これなどは私が小学生の頃もまだ生産が継続されていましたので、ハッキリと覚えています。この美しいスタイリングはベルトーネを離れてイタルデザインを立ち上げる前、カロッツェリア・ギアのチーフデザイナーを務めていた時代のジョルジェット・ジウジアーロの作品であるとか、初期のカタログ写真を撮ったのは篠山紀信だったとか、そうした蘊蓄は全て大人になってから身につけました。それでも、近所の月極駐車場にとめてあったこのクルマを見ては「カッコイイなぁ」と思ったものです。

特に初期モデルはリヤガラスからトランクリッドに連なる抑揚の効いた曲面構成が圧巻でした。これはセミハンドメイドだからこそ可能だったのでしょうけど、そのせいか少量生産のプレミアムスポーツカー並みともいえる供給体制で、月産わずか50台程度だったそうです。

当然、そんなクルマを安売りするわけにもいかず、クラウンが100万円そこそこ、スカイラインGT-R(C10系)が150万円くらいで売られていた当時、172万円もしたクルマでしたから、如何に特別な存在だったか解ります。ま、後に生産性向上のためにディテールを甘くして、大幅値下げされた後期モデルからたくさん売れるようになったわけで、ウチの近所にあったのも多分そちらだったと思います。要するに、コストダウンという「会社の都合」は今に始まったものでもないということですね。

(つづく)
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テーマ:自動車全般 - ジャンル:車・バイク