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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

東京都の「ディーゼル車NO作戦」とは何だったのか? (その2)

現在主流となっている酸化触媒とフィルターを組み合わせたDPF(粒子状物質減少装置)の元祖であるジョンソン・マッセイの「CRT」はディーゼル燃料の品質に縛りがありました。当時の日本では殆ど流通していなかった含有硫黄分が5ppm以下の低硫黄軽油を要求するものだったんですね。

ヨーロッパに供給されている石油は北海油田産も多く、その原油は硫黄分が少ないため、硫黄分を取り除く「脱硫」は技術的にもコスト的にもさほど難しくないそうです。が、日本が輸入している原油の9割近くはアラブ産で硫黄分が非常に多いといいます。そのため、北海油田産より脱硫は容易ではないと言われ、当時は低硫黄軽油の生産も殆ど試験段階でしかありませんでした。

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ジョンソン・マッセイのCRT

ジョンソン・マッセイのCRTに低硫黄ではない通常の軽油を使用すると、排出ガスが酸化触媒を通過する際に硫黄分が酸化して硫酸ミストとなり、それがフィルターの目詰まりを引き起こす原因となってしまいました。また、その硫酸ミストは粒子状物の排出レベルを測定する際に使われる濾紙に付着してしまうことから粒子状物質と見なされ、逆に数値を悪化させるなどの問題もありました。あの段階においてこの装置の普及は見込めない状況だったわけです。

現に、私もかなり早い段階でジョンソン・マッセイの日本法人へ日本車へのフィッティングが可能か否か問い合わせていました。その回答は、「適合試験の結果や低硫黄軽油の供給体制に対する懸念から市販の予定はない」といったものでした。それからしばらくして同社は「どの車種に適合できるのかが非常にあいまいなために一般にはこのままの形では販売しない事にいたしました」と、この段階での市場展開を見合わせる表明をしました。

似たような装置はアメリカのエンゲル・ハード(2006年にドイツのBASFに買収されました)も手掛けていました。こちらは低硫黄軽油を要求しないもので、台湾ではスタンダードとなっていました。最大の理由は政府から百数十%の助成金が出たからです。

こうした装置を装着するには車両を工場に入れるため、その間の運行はできなくなります。台湾政府は助成金で減収となる分を補償したということでしょう。そうした理由から、エンゲル・ハードの「DPX」は台湾であっという間に普及しました。が、当時の日本では走行条件などに応じた細かいチューニングなど同社の供給体制、販路などが整っていない状況だったと記憶しています。

国内メーカーの製品も前回ご紹介したようにイビデンの構内フォークリフト用など一部特殊なものについて市販されているケースもありましたが、トラックやバス用としては試験段階だったり、フィッティングの目処が立たず性能を保証できる段階ではなかったり、という状況でした。

つまり、東京都が「ディーゼル車NO作戦」を発動し、全車にDPFの装着義務づけを画策していた頃、既に試験段階を終えて本格的な市販を開始していたDPFで日本国内の状況に問題なく対応できる製品は殆ど存在しなかったということです。

前回の冒頭で触れた東京都建設局の保有車両を代替えする入札案件では、その開発途上にあったDPFを装着するよう仕様書に書かれていた故、不調に終わったのは当然の結果でした。

しかし、この指名競争入札にある一社が指名されなかったことが様々な憶測を呼びました。それまで「東京都と癒着しているのではないか?」という噂さえ流れていたある自動車メーカーの系列販社が指名から外された理由は何だったのか?

「癒着の噂に抗するため」という人もいましたが、その前後の状況も踏まえて考えてみますと、元々癒着というほどの関係はなかったと私は思います。

(つづく)
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東京都の「ディーゼル車NO作戦」とは何だったのか? (その1)

かつて、東京都建設局の保有車両を代替えする入札案件があえなく不調に終わったことがありました。それは、仕様書に書かれたある一つの条件がネックとなっていたからです。この時点では各社ともこの仕様に対応できなかったという以外に、不調となった理由はありませんでした。

この時点というのは、1999年に石原知事がメディアを集めてペットボトルに入れた粒子状物質をまき散らし、「トラックが1km走ると、これだけの煤をまき散らす」といったインチキパフォーマンスを行い、「ディーゼル車NO作戦」を発表した半年くらい後のことです。

PMを示す石原
ペットボトルに詰めた粒子状物質を示す石原知事
この写真は件の記者会見ではなく、
燃料電池バス運行開始式典でのパフォーマンスですが、
インチキであることに違いはありません。


あのパフォーマンスの何がインチキだったのか?

まず、一口にトラックといっても、最大積載量2tクラスの小型トラックと、10tクラスの大型トラックではエンジンの総排気量に最大で4~5倍くらいの差がありました。また、ディーゼル車の排出ガス規制も昭和54年、昭和58年、平成元年、平成6年、平成10-11年と段階的に厳しくなっていきました。当時最新だった平成10-11年規制車と、当時も現役で走っていた平成元年規制車では、粒子状物質の排出基準も桁違いだったんですね。

つまり、トラックを1km走らせたといっても、それが大型トラックなのか小型なのか、排出ガス基準はどの段階のものなのかで粒子状物質の排出量は何十倍も異なります。それを十把一絡げに「これくらい」としたのは素人を騙すインチキ以外の何ものでもありません。もっとも、このパフォーマンスを思いついた人間も素人だったのでしょうけど。

石原知事が誰に入れ知恵されたのかは解りません。が、あのペットボトルに入れた粒子状物質がどのような条件で出てくるのか説明がなかったことから推して考えれば、東京都は国によるディーゼル車の排出ガス規制がメーカー各社の実現可能な技術開発の進捗度合いを見ながら段階的に進められていたことなど全く知らなかったのは間違いありません。

現に、私はメーカーの方と何度も話をしていましたが、この当初はみな異口同音に「東京都はメーカーに何の相談もなく、マーケットの実態も把握せず、一方的に規制しようとしている」と語っていました。

あのとき石原知事は「国は怠慢」だから「東京から変えていく」と息巻いていました。しかし、彼は元々自民党の国会議員として国政を担ってきました。そればかりでなく、彼は竹下内閣時代に自動車の排出ガス基準を策定する管轄官庁である運輸省(当時)の長、運輸大臣まで務めた人物です。つまり、彼は自分の過去を怠慢だったと認めたことになるわけです。しかし、そのことを指摘する大衆メディアは存在しませんでした。

つまり、あの記者会見場にいた全ての関係者は自動車の排出ガス規制について、どんな仕組みで策定され、どのような条件が科せられているのか、何も知らないズブのド素人ばかりだったということです。

東京都は当初、ディーゼル車を都内の道路から閉め出すとでもいわんばかりの鼻息でした。しかし、それが非現実的であると解ると、代替え可能な小型トラックはガソリン車に置き換えても輸送コストは大して上がらないと主張、「ガソリン車に替えられる小型貨物車を代替した場合の影響は宅配便を例にとれば、1個740円の荷物が4円値上がりして744円になるだけ」という、どこまでアテになるのか解らない机上計算で持説を誇示していました。

一方で、ガソリン車への代替が不可能な中大型車については都内に入ってくる全ての車両にDPF(Diesel Particulate Filter:粒子状物質減少装置)の装着を義務づけるという方向へ転換していきました。

しかし、この段階でのDPFはまだまだ研究途上といった状況で、一般向けで実用レベルに至っているものは殆どありませんでした。特殊用途ではイビデンのセラミック事業グループなどから市販されてはいました。が、粒子状物質で目詰まりしたフィルターを車両から取り外してヒーターで焼くというもので、構内で使用されるフォークリフト向けの製品がボチボチ出始めた程度でした。東京都が求めていた車両に搭載したまま再生できる方式はまだこれからといった状況だったわけです。

現在では酸化触媒とフィルターを併用し、フィルターを連続再生させる方式が一般的です。これは酸化触媒を通すことで排出ガスに含まれる未燃焼物質の酸化を促し、フィルターに捉えられた粒子状物質も触媒で生じる物質を利用するなどして上手に燃焼してやろうという考え方です。その先駆けとなったのはイギリスのジョンソン・マッセイでした。彼らの「CRT(連続再生トラップ)」と呼ばれるDPFは、しかし、当時の日本で供給されていたディーゼル燃料に適合するものではありませんでした。

(つづく)

あっちもこっちも

ヨーロッパのサイクルロードレースをご覧になっている方でUCI(国際自転車競技連合)とグランツールの主催者たち(特にツール・ド・フランスの主催者ASO)との軋轢がずっと続いていることをご存じない方はいらっしゃらないでしょう。日を追うごとに悪化する両者の関係でしたが、今月になって堰を切ったようにUCIプロチームの間でもアンチUCIの流れが加速しました。

これもご存じの方は少なくないと思いますが、今年のツール・ド・フランスの休息日だった7月15日、UCIプロ17チームが来年のプロツアーライセンスの更新を行わないと表明、UCIプロツアー崩壊の危機に直面しています。

伏線となったのは今年3月に開催されたパリ~ニースでした。このクラシックレースもツール・ド・フランスと同じASOの主催になりますが、ASOはUCIの介入を認めず、FFC(フランス自転車競技連盟)の管理下で執り行われることになりました。これに激怒したUCIは同レースにエントリーしていたチームにボイコットを要請する書簡を送ったり、FFCに制裁金1万スイスフランを科すなど、醜い争いとなりました。

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UCI会長パット・マッケイド

これに端を発するかたちでフランス籍のUCIプロチーム、コフィディスが来年のプロツアーライセンスを更新しないと表明、年間約2500万円にもなるライセンスフィーに不満を募らせていた他チームもこれに続き、上述の通りツール休息日の表明に至ったという状況のようです。

ま、UCIとASOの小競り合いはどっちもどっちという感じではありますが、UCIプロチームもアンチUCIに回っている状況ですから、彼らの中ではUCIの傲慢さについて行けなくなったということかも知れません。

で、自動車レースの最高峰、F1も同じような状況に陥っているんですね。

F1を主催するFIA(国際自動車連盟)はエンジンについて「2012年まで5年間の開発凍結」としていた規定を2011年から大幅に変更、「現行より20%燃費を向上させ、2012年以降も毎年燃費を向上させる」とした方針へ転換したところ、各チームから総スカンを食ったとのことです。来シーズンのエントリー締め切りは今月末、しかし27日現在参加表明を行ったチームはなく、こちらも事態が紛糾しています。

FIA会長のマックス・モズレーがこの方針を強力に推し進めているそうですが、年々膨れあがるチーム運営予算削減を目的として「エンジン開発凍結」という規定が導入されたばかりです。各エンジンサプライヤーは開発要員を整理し、体制を変更した途端にこの方針転換ですから、これにはついて行けないという主張も無理はありません。

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FIA会長マックス・モズレー

ま、燃費向上というのはもっともな方針にも思えますが、たったの20台、テストカーを含めてもその数はたかが知れているF1マシンの燃費を20%向上させたところで、環境負荷や資源の利用効率向上という観点では精神論に近いハナシになります。

むしろ、輸送のために膨大なエネルギーが投入されながら世界中を転戦する現在の開催スケジュールを見直したほうが遙かに効果的でしょう。私がF1を見始めた1980年代初頭は欧米中心でアジアでの開催はなく、年16戦しかありませんでした。しかし、2005年には19戦まで膨れあがり、興業重視路線をばく進中です。まずはこれを是正すべきでしょう。


振り返ってみれば、F1にしてもサイクルロードレースにしても、常に醜い争いがつきまとってきました。が、私はいずれも20年以上見てきましたので、もはや慣れっこになりました。以前にも書いたような気がしますが、自分たちに都合の良いよう線を引くため、知略・謀略を巡らせるのはヨーロッパ人たちの文化なのでしょう。おそらく、何十年経っても同じようなことが繰り返されているのだと思います。

発電所は急に止まれない

私もCO2温暖化説云々は別として、有限である化石燃料は少しでも先の未来へ残すべく、省エネを進めようという意向に諸手を挙げて賛同します。が、実効性の伴わない(宗教じみた)精神論は排除すべきだと考えています。

こうした立場からいわせて頂けば、朝日新聞の社説は今日も笑止千万でした。例によって短絡的な発想で、見当違いの似非エコ精神論を開陳していたからです。

身近な省エネ―便利を少し我慢しよう

 コンビニエンスストアの深夜営業を抑制しようという動きが各地で起きている。地球の温暖化を食い止めるため、電力の消費を身近なところから減らそうという考えからだ。

(中略)

 そう思いながら夜の街を歩けば、省エネにつなげられそうなものが次々と目に飛び込んでくる。大音響が響き渡るゲームセンターやパチンコ店、やけに明るい歓楽街のネオン、24時間営業のレストランや飲食店……。

 とはいえ、一律に規制するのは乱暴だ。社会的な機能を評価したうえで、利用者とサービスの提供者の双方が、例えば営業時間などの便利さや手軽さを少しずつ我慢して、生活のあり方を変えていく。そうした積み重ねで省エネの暮らしをめざしたい。

(中略)

 化石燃料を燃やす人類一人ひとりの生活の結果が、地球の負荷になる。だれかが何かを我慢し、生活の形を変えて、地球の重荷を減らす。

 難しいことだが、豊かな地球を子や孫に残すため一歩を踏み出さなければいけない。便利さを犠牲にしてでも。

(C)朝日新聞 2008年7月28日


石原都知事も以前からコンビニの深夜営業を規制したいとする同様の意向を示していましたが、このように物事の一部分しか見ない単純な発想で論を進めていくのは、世の中の仕組みについて無知であることを露呈するものです。彼らは「何故、深夜電力が割引料金になっているのか」ということを全く理解できていません。

電力供給というのはピーク需要に余力を持って対応できるような体制が整えられていますが、一方ではオフピークの余剰電力を如何に有効利用するかということで様々な技術が開発されています。日本では揚水式水力発電が比較的大規模な対策として導入されてはいますが、やはり決定打となるレベルには程遠いものがあります。

原子力は始動や停止に大変なコストがかかりますから、事故や点検時以外に止めることは殆どありません。逆に、出力調整が比較的容易な石油火力やガス火力、貯水池式水力などは昼と夜とで電力供給量を変化させています。しかし、自動車などもアクセルの開閉を頻繁に行うより一定に保ったほうが燃費が良くなるように、発電も出力はできるだけ一定に保ち、それに最適化して設計されたプラントを運用するほうがエネルギー効率は良くなります。

電源の組み合わせ
電源の組み合わせ

上図は電気事業連合会による電力供給力の資料になりますが、この山と谷をできるだけ近づけ、平準化を進めることがエネルギーの利用効率を高めることにつながるわけです。つまり、

減らすことに意味があるのはピーク時の電力需要であって、オフピークではない

ということです。電力会社が深夜の電気料金を割引き、その需要を拡大しようとしているのも平準化を進めようという考え方に基づくもので、「ディマンドサイドマネジメント」と呼ばれています。こうした意味においては、例の「ライトダウンキャンペーン」の類も実質的な効果は殆どなく、精神的な自己満足に浸るものでしかありません。


新聞社が「省エネを推進しよう」というのなら、まずは新聞そのものの在り方について根本的に考え方を改め、手本を示して見せるべきでしょう。この電子化が進んでいる世の中にあって、紙に印刷したそれを毎朝毎夕全国に配達するといった極めてエネルギー効率の悪い旧態に甘んじている状況こそ、そろそろ本気で見直すべきです。

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スペイン人3連覇!

この原稿を執筆しているいま現在、最終リザルトが確定しているわけではありませんが、皆さんもご存じの通り昨日の第20ステージ、個人TTで総合順位の逆転を許さなかったCSCのカルロス・サストレが今年のツール・ド・フランス総合優勝を事実上決めました。

ツール総合優勝を確定的としたサストレ

ミゲル・インドゥラインやランス・アームストロングといった圧倒的な王者がいないときは混戦状態になるものですが、想像以上の大接戦で実に見応えがありました。ま、私の予想はことごとくハズレましたが、先が読めなかった分だけ楽しめましたから、個人的には大変満足しています。

昨日の個人TTに関しては、近年トラックでTTの強化に力を入れてきたカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)が思ったほどふるわず、ステージ優勝をさらったシュテファン・シューマッハ(ゲロルシュタイナー)から遅れること2分5秒の7位に沈んだのが大きかったと思います。

サストレはこのところエヴァンスに2~3分の遅れをとるのが常でしたから、1分34秒のマージンでは逃げ切れないと思っていました。しかし、昨日は29秒しか差を縮めさせず、ステージ12位に踏みとどまったのも予想以上の出来でした。

第19ステージまで総合4位につけていたエヴァンスに対して1秒勝り、総合3位だったベルンハルト・コール(ゲロルシュタイナー)が昨日のTTの序盤、エヴァンスのタイムを上回っていたのはビックリしました。最終的にはエヴァンスに逆転を許しましたが、山岳賞の獲得と3位入賞を決定的にしたのは実に立派です。

そもそも、近年はツールで山岳賞選手のポディウムフィニッシュというのがありませんでした。10年以上遡れば、リシャール・ヴィランク、トニー・ロミンゲル、クラウディオ・キアプッチ、ベルナール・イノーなどが記録しています。ま、イノーなどは言わずもがなですが、ヴィランクにしてもロミンゲルにしてもキアプッチにしても、歴史に名を残す偉大なレーサーでしたから、これは凄いタレントが現れたのかも知れません。


ところで、フランス人最後のツール覇者は1985年のベルナール・イノーになります。この年、落車による鼻骨骨折などで苦境に立たされたイノーより、同じラ・ヴィ・クレールのグレッグ・レモンのほうが上位につけていました。が、チームオーナーのベルナール・タピはレモンに対して約3000万円の特別ボーナスと引き替えにチームオーダーでイノーに勝たせたと伝えられています。この年までイノーとローラン・フィニョンでフランス人5連覇という黄金時代でしたが、それ以降、フランス人は1度も総合優勝していないんですね。

その後、もっとも強かったのはアメリカで、レモンとアームストロングで10勝しています(レモンはチームオーダーで損をしましたし、初優勝のシーズンオフには猟銃の誤射事故に遭って全盛期の2年を棒に振っていますので、これらがなければもっと勝っていたかも知れません)。その次に多く勝っているのがスペインで、ペドロ・デルガド、インドゥライン、オスカル・ペレイロ、アルベルト・コンタドール、そしてサストレの5人で9勝になります。

それにしても、アームストロング引退後の混沌とした時代にスペイン人の3連覇というのは、それだけスペインの選手層の厚さを物語るものだと思います。(一方、イタリア人はジロで最近20年に13勝しているにも関わらず、ツールでは最近40年でマルコ・パンターニの1勝のみというのは、猛烈なジロ志向の強さを物語っていると思います。 )


今年の結果につながる一番の鍵となったのは、やはりラルプデュエズでの攻防で、CSCのチーム力の勝利だったと評すべきでしょう。1人の絶対的なエースを強力なアシスト陣で勝たせるというアームストロングらの必勝パターンより、今年のCSCのチーム戦略はずっと見応えがありました。個人的には大いに賞賛したいと思います。

あとは一昨年のようなレース後の大どんでん返しがないことを祈るばかりです。

テーマ:自転車ロードレース - ジャンル:スポーツ

やはりエヴァンスか?

今年のツール・ド・フランスもいよいよ大詰めとなりました。当blogの更新もちょくちょくお休みさせて頂きましたが、最大の理由はこのツールをTV観戦していたためです。(もっとも、サボり癖がついてしまった気もしますので、今週末にツールが終わってもこの調子は続くかも知れませんが。)

それにしても、第17ステージは非常に見応えがありました。超級を含む本格的な山岳ステージで山頂ゴールとなるのはこの第17ステージが最後でした。なので、今年のコースが発表された当時から最大の山場はこのラルプデュエズになるだろうと目されていましたし、その期待を裏切らない内容になりました。

ご存じのようにこのステージまでマイヨジョーヌを守ってきたCSCは、それを着るフランク・シュレクで優勝候補本命のカデル・エヴァンスを釘付けにし、それまでエヴァンスから41秒遅れの総合4位に付けていたカルロス・サストレを独走させてステージを制しました。

ラルプデュエズを制するサストレ

フランクからサストレへマイヨジョーヌを受け渡すチームプレイを見せ、総合順位でもサストレとフランクで1-2体制になったわけですね。名将ビャルヌ・リース監督が練り上げた戦略どおりに運んだのか、あるいは実力派揃いのCSCの選手達が状況を読みながら見事に立ち回ったのか、その辺は解りませんが、ここまでのステージで彼らにできることは全てやったという感じです。

あそこはエヴァンスに対して8秒リードしていたフランクをアタックさせるべきだったという人もいますが、あの状況では間違いなくエヴァンスも食らいついていって、フランクのアタックだけは許さなかったでしょう。逆に41秒ビハインドがあったサストレだったからこそ、エヴァンスはアタックを許したのだと思います。山でのアシストが足りないサイレンス・ロットとしては、この両者を同時にマークするだけの余力もなかったでしょうし。

激闘の第17ステージに続く第18ステージでは総合上位に変動なく、この原稿を執筆しているいま現在、第19ステージで選手達が戦っている真っ最中ですが、前半に3級と4級の山岳はあったものの、終盤は下り基調です。なので、上位陣は明日の個人TTに備えて体力を温存、集団ゴールでタイム差は付かないというパターンになるでしょう。

ということは、エヴァンスとサストレとの差は1分34秒、フランクとは僅か10秒のまま、明日の第20ステージ、53kmの個人TTへ突入することになるでしょう。順当に行けばフランクの総合優勝は絶望的、エヴァンスとサストレの実力差からしても逆転の可能性は低くないと思います。

サストレも個人TTが苦手というほどではなく、これまでも比較的上位に食い込んでいます。が、やはりエヴァンスのほうが一枚も二枚も上を行きます。過去3年、ツールでの個人TTの戦績(山岳TTと距離の短いプロローグは除く)を比較してみましょうか。

2005年・第20ステージ (サンテティエンヌ:55km)
エヴァンス 1h13m52s (7位)
サストレ 1h14m56s (12位)

2006年・第7ステージ (サン・グレゴワール~レンヌ:52Km)
エヴァンス 1h03m33s (11位)
サストレ 1h03m54s (18位)

2006年・第19ステージ (モルズィヌ~マコン:57km)
エヴァンス 1h11m26s (8位)
サストレ 1h12m27s (20位)

2007年・第13ステージ (アルビ:54km)
エヴァンス 1h07m48s (2位)
サストレ 1h10m35s (26位)

2007年・第19ステージ (コニャック~アングレーム:55.5km)
エヴァンス 1h03m35s (2位)
サストレ 1h06m08s (16位)

昨年のヴエルタでも第8ステージ(カリニェーナ~サラゴサ:52.2km)でエヴァンスがサストレを1分43秒リードしていますし、最近の実力差は明白といって良いかと思います。

CSCとしてはラルプデュエズでエヴァンスに対して3分くらいの差を築いておきたかったところです。それだけの差があれば、如何に個人TTを得意としているエヴァンスとて、逆転は難しくなっていたでしょう。が、1分34秒差ではエヴァンス有利というのが私の個人的な印象です。

ただ、ミスやアクシデント一発で逆転不可能になる恐れも充分考えられますから、予断を許すことは出来ません。「ラルプデュエズを制した者は総合優勝できない」というジンクスを覆したのは、あのランス・アームストロングでした。サストレもそれに続くことができるのでしょうか? いよいよ目が離せなくなってきました。

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ツバルの虚と実 (その3)

ツバルのゴミ問題が異常事態といえるのは、政府が危機感を微塵も感じておらず、何の手立ても打とうとしないところです。前々回ご紹介した『Newsweek(日本版)』以外にもネット上でこの惨状を伝えている人達は沢山います。「ツバル ゴミ」でイメージ検索すれば画像も沢山見つかりますので、改めてご紹介しましょう。

ツバルのゴミ_2
建物と椰子などの茂みの間をゴミが埋め尽くしています。

ツバルのゴミ_3
民家の庭先までゴミが押し寄せています。

ツバルのゴミ_4
家電製品などもそのまま投棄されています。

ツバルのゴミ_5
クルマもそのまま投棄されています。

ツバルのゴミ_6
浜辺や茂み、建物などを除く空きスペースが
殆どゴミで埋め尽くされてます。


アルピニストの野口健氏もツバルを訪問し、アピサイ・イエレミア首相と会談しているそうで、その模様は彼の公式サイトでも紹介されています。ただ、彼も温暖化人為説を鵜呑みにしており、「ツバルは地球温暖化による海面上昇によって沈む島」という世間一般の認識と全く同じ先入観を持っているようです。が、そんな彼をしても『ごみに埋まるツバル』というレポートでこう述べています。

海面上昇の前にごみによって滅びやしないかと思わせるほどごみの島だ。


また、同レポートにはこうあります。

 海面上昇に対しては熱弁を振るうイエレミア首相だが、ごみに関しては質問してもさほど関心がなかったように感じられた。首相に限らず島民にごみに関して意見を聞いてみてもやはり気にしている様子がなかった。これは環境教育がなされてこなかった事と、以前は捨ててもごみになるような物がなかったのが、急激に生活習慣が変化し、以前と同じようにプラスチックやガラス、金属を捨てればすぐに土に戻るものだと考えているようだった。温暖化による被害でツバルは日本、台湾を筆頭に豪州やニュージーランド、イギリスなどからあらゆる援助を受けているが、ごみ問題に関しての援助はなされていない。またツバル政府にもごみ処理計画なるものはないに等しいとのことだった。


何故、ツバルではゴミ処理を行わず手当たり次第に投棄し、汚水処理を行わず海に垂れ流し、サンゴ礁を掘削して道路建設の骨材にしたり、元々洪水が発生していた低地の沼を埋め立てて居住区を拡大するなど無計画な土地利用を行っているのでしょうか? 『Newsweek(日本版)』のレポートによれば、それはツバル政府が腐敗しているからのようです。

(前略)

 今では住民1万2000人の半数近くが、増え続けるゴミと青い海のはざまで暮らしている。政府はゴミ問題に対処する力あるいは意思がなく、外国の支援もほとんど無駄になっている。
 昔ながらの生活の術は忘れられ、食料は輸入食品(大半が缶詰)に頼りきっているありさま。食品の包装材は、フォンガファレ島を中心とするフナフティ環礁を汚染する主要な原因の一つとなっている。
 今では小さい島や環礁を離れたり、外国へ移住する人が後を絶たない。ツバル政府は彼らを「温暖化難民」と呼ぶが、政治の失策をごまかす言い逃れにすぎないとみる向きもある。

(中略)

 この国では、政府が経済を牛耳っている。政府は漁業権やインターネット上のドメイン名「.tv」の売却益などでも稼いでいるものの、主な収入源は外国からの援助だ。

(中略)

 外国援助への依存は腐敗を生みやすいが、ツバルも例外ではない。ドイツのNGO(非政府組織)トサンスペアレンシー・インターナショナルは04年の報告書で、ツバルの「閣僚は国内外の会合などに出席する際、滞在期間を延ばして不当な日当を受け取ったり、私的な海外旅行に公費を流用している疑いがある」と指摘している。
 南太平洋諸島の大半の国で、政府関係者は毎年かなりの期間を海外出張にあてる。収入はそれほどでもない彼らの多くがオーストラリアやニュージーランドに別荘を持ち、子弟を海外で学ばせている。
 政府関係者の懐は潤っても、緊急に対処すべきゴミ問題に外国からの援助金が投じられる気配はない。ゴミの山はどんどん大きくなるが、ゴミ処理計画を実施しようという政府の動きはみられない。

(後略)

(C)Newsweek日本版 2007年7月11日号


ツバルのサンゴ礁の白化現象やマングローブの森が失われようとしている状況を生んでいる直接の原因がゴミや汚水、無計画な土地利用によるものなのかどうか、具体的なデータを見ていませんので私には判断できません。が、昔から高潮時に洪水が発生していたその場所に居住区を拡大したことが、洪水による被害を拡大している要因の一つとなっているのは間違いなさそうです。

こうした状況を鑑みれば、各国のメディアがツバルで起こっている被害の全てを地球温暖化による海面上昇のせいにしているのは、偏向報道というより誤報というべきかもしれません。政府の無策から誰が見ても解る環境破壊が進んでいても、それは世界中どこにでもあることゆえ目して語らず、海面上昇との因果関係が不明瞭な洪水を「先進国が引き起こした気候変動による被害だ」と断定的に伝えるのは、誠実なジャーナリズムの対極に位置する姿勢ではないかと思います。

もっとも、虚構で大衆をミスリードするパターンは、地球温暖化を彩るエピソードとして決して珍しいものではありませんが。

(おしまい)

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ツバルの虚と実 (その2)

ツバルは環礁ですから、固い岩盤の島ではなく、サンゴ礁に土砂などが堆積してできた島になります。環礁の形成過程にはダーウィンの沈降説が有力だと思われますが、いずれにしても、サンゴ礁が維持されるには、刺胞動物門・花虫綱に属する「動物」であるサンゴがストレスなく生息できる環境が必要です。

サンゴ礁を形成する造礁サンゴは例外なく褐虫藻という藻類を共生させ、光合成によってつくられた炭水化物を栄養源としています。この褐虫藻が減少してしまうのが、いわゆる「白化現象」です。このサンゴの白化現象は一般に地球温暖化による海水温の上昇の影響だとされることが多いようですが、これだけを原因とするのは拙速に過ぎます。

人為的温暖化説を既成事実化したがっている国立環境研究所でさえも、この点については慎重な所見を述べています。

温暖化による長期的な海水温の上昇に加え、短期的な海水温の上昇がエルニーニョなどの気候的な原因でも引き起こされます。1997~1998年に世界的に大規模な白化が起こった年は、高水温がエルニーニョによってもたらされました。沖縄周辺では2001年と2007年夏にも白化が起こりましたが、これは全世界的な現象ではなく、沖縄周辺での暖水塊の発生によるものと考えられています。

また、高水温だけでなく、淡水や土砂の流入、強光などすべてのストレスが白化を引き起こします。これらストレスの複合効果も考慮しなければなりません。高水温と強光、高水温と淡水・土砂流入の複合効果によって白化が起こった可能性が指摘されています。


要するに、海水温の上昇だけでなく、塩分濃度や日照条件など、サンゴの生息にかかわるあらゆる環境の変化によって白化現象は生じ得るというわけです。また、サンゴは水質の悪い海には生息できませんから、海が汚染されれば、やはり白化や死滅の危機に直面します。

ツバル天然資源・環境省環境局長のマタイオ・テキネネ氏は今年6月に日本の外務省が主催した「太平洋島嶼国の環境と支援を考える国際シンポジウム」でこう述べています。

サンゴは、熱ストレスに弱い。ツバルのサンゴは少しずつではあるが白化が起きており、今後、増えていくとみられている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、今後30~50年間、毎年、白化現象は起こると予測している。サンゴ礁は、高潮の最初の防護壁で、サンゴの白化が起きると島民の主たるタンパク源である魚類も減ってしまう。


しかし、ツバルのサンゴにとっての脅威は海水温の上昇だけではありません。同シンポジウムでは東大大学院教授(沿岸海洋学・環境変動論)の茅根創氏が講演の中でこう述べています。

人口増により増えた生活用水や豚の飼育に伴う汚水が垂れ流されている。これらの排水が海水の富栄養化をもたらし、サンゴや有孔虫の生育力を弱め、海水面上昇の最初の“防護壁”になる環礁、砂浜の成長を阻害している。



ツバルの養豚場
汚水を垂れ流しにする養豚舎
首都フナフティでは食用に約4500頭の豚が飼育されていますが、
排泄物や雑排水を処理する施設はなく、汚水はそのまま
ラグーン(環礁に囲まれた浅い環湖)や外洋へ垂れ流されています。
この写真右手にもやはりゴミの山です。


一方、南太平洋地域環境計画の報告では、フォンガファレ島の道路建設にあたって、骨材を採取するためにラグーン側のサンゴ礁を掘削、そこへ海岸の砂が流入するかたちで侵食が進んでいるといいます。政府がところ構わずゴミを投棄したり、野焼きを行っているような国ですから、この道路開発計画とそれに伴うサンゴ礁の掘削に合理的な環境アセスメントが行われていたとは考えられません。

また、前回引用した国立環境研究所の所見にも重なりますが、元々は人が住んでおらず、昔から洪水が発生していた沼地などを埋め立て、人口増加に対応するための居住区を拡大した点も看過できません。こうした無思慮な土地利用が洪水の被害を拡大しているのは間違いないでしょう。

これらの実情を勘案すれば、ツバルが直面している環境問題というのは彼らの無計画な行動のしっぺ返しになる部分も少なくないと考えるべきです。つまり、これは世界中どこでも見られる典型的な環境破壊であって、彼らの被害が地球温暖化せいであると結論づけるのは事実を歪曲する行為になるでしょう。

(つづく)

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ツバルの虚と実 (その1)

南太平洋の島国、ツバルといえば「地球温暖化による海面上昇で水没の危機に瀕している国」というイメージが完全にすり込まれてしまいました。しかし、個人的な結論を先に述べさせて頂きますと、「地球温暖化の被害者」「先進国の所業のしわ寄せを被る哀れな小国」といったイメージは、メディアなどによるセンセーショナリズムに煽られた結果であり、虚構に近いものだと思っています。

全世界の海面上昇は1961年から2003年まで平均1.8±0.5mm/年と見られています。一方、オーストラリア政府(国際開発局)の出資により、ツバルで信頼できる潮位の観測が始まったのは1993年からで、2005年までの12年間の海面上昇は平均4.3mm/年と、比較的大きな値になっています。が、これは短期の観測結果ゆえ、エルニーニョや短期的な潮汐変動などの影響を除いた値ではありません。長期変動の傾向がきちんと把握されていないのが実情というわけです。

いずれにしても、10年単位で数cm程度でしかない海面上昇だけで深刻な洪水を説明するのは無理があります。というのも、南太平洋応用地球科学委員会の報告書によりますと、ツバルの高潮時の海水面は平均海水面から1.2mも高くなるそうですから。10年でたかだか数cmの海面上昇が洪水の決定的な主因であると考えるのは非現実的です。

そもそも、ツバルでこうした洪水が発生するようになったのは最近のことではありません。イギリス王立協会が保有している100年前のツバルの地質図には首都フナフティのあるフォンガファレ島はラグーン(環礁に囲まれた浅い環湖)側の高地に100人程度の集落があるだけでした。中央低地は沼地などからなり、そこでは海水が湧き上がる現象が見られたという記述も残されているそうです。

現在、洪水に見舞われている地域もまさにこうした低地になります。つまり、解っているだけでも100年前から繰り返されてきた現象で、その頻度についてはともかく、近年の地球温暖化による海面上昇によって生じるようになったと考えるのは明らかに誤りです。

日本の国立環境研究所(以下、環境研)の江守正多氏(地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室室長)はNHKをはじめとしてテレビ番組にもよく出演しており、「地球温暖化人為説」を盛んにプロパガンダしています。彼らの公式見解は「温室効果ガスの増加が最近の温暖化の主要な原因であることはほぼ間違いない」というもので、この仮説を既成事実化したくてしたくてどうしようもない機関になります。

その環境研にあっても、ツバルの洪水を地球温暖化による海面上昇だけのせいにはしていません。

ツバルにおける海水の湧き出しによる洪水の深刻化は、潮位だけでなく、島の地形、土地利用、地下水、降水、波力など複数の要因が関わって生ずる現象であると考えられますが、その全体のメカニズムは十分に解明されていません。しかしながら、原因と疑わしきものをいくつか挙げることが出来ます。

まず、上述の近年の短期的な平均潮位の上昇傾向は、その原因の候補の一つです。また、月・太陽と地球の位置関係によって起きる潮の干満と潮位の季節変動との組み合わせにより、毎年春先に記録される年間最高潮位は約4年半の周期で上昇・下降することが分かっており、年間最高潮位は高い年と低い年で10cm以上の差があります。この年間最高潮位の周期的変化は平均潮位の変化傾向には直接影響しませんが、大きな洪水が生ずるのは、その年間最高潮位が発生する時ですので、これもまた島の住民が証言する洪水被害の深刻化に関わりがあるかも知れません。

さらに、20世紀に続いた人口増加にともない、1970年代以降に、沼沢地を埋め立てて出来た低地にまで居住地が拡大されてきたことが分かってきました。それらの地域の中には、春先の高潮時に海水面以下となるところもあり、海面上昇に対して脆弱な地域への居住者が増えたことになります。そのような社会的条件の変化も、高潮時の洪水被害増加に関わりがあると考えられています。


以上が環境研の見解(一部抜粋)になりますが、やはり大衆メディアが伝える短絡的な結論ではなく、それなりに慎重な評価を行っているようです。

ただ、環境研は現地での詳細な調査活動など行っていないと思います。潮位の観測データなどは検討しているようですが、現地では他にも深刻な環境問題が山積しています。そのうちいくつかは洪水に影響する可能性が否定できないものです(詳しくは次回に述べます)が、それらについては殆ど触れていないのが何よりもの証拠です。

ところで、先々週の土曜日、NTVで『北京開幕直前 さんま&櫻井翔 栄光への道SP』という番組を放送していました。この中で元女子レスリング選手の山本聖子氏をレポーターとして北京オリンピックのツバル代表、陸上女子短距離選手を取材していました。が、やはり一般にイメージされがちな青い海と白い砂浜、牧歌的な生活を送っている現地民の映像ばかりが流され、ツバルが直面している現実からは完全に目を背けていました。その現実とは・・・

ツバルは海に沈む前にゴミに沈む国

ということです。ツバルは首都フナフティの近郊を中心として島のあちこちにおびただしい量のゴミが投棄されています。その理由は政府がゴミの焼却施設を作ったり、計画的な最終処分場を確保するなど、常識的なゴミ処理の手立てを行おうとしないからです。そのため、民家にゴミの山が迫っている地域がいくつもあります。

ツバルのゴミ
フォンガファレ島のゴミ投棄現場
『Newsweek(日本版)』2007年7月11日号に掲載された
首都フナフティ近郊にあるゴミ投棄の現場写真です。
右手の建物には衣類などの洗濯物が干してありますから、
実際に人が住んでいる民家であるのは間違いないでしょう。


上述のNTVの番組もそうですが、日本のメディアもツバルの現地取材を何度となく行っています。しかし、このような写真や映像は決して流されることがありません。それは要するに、彼らが「事前に準備したストーリーに合わないから」というのがその理由なのでしょう。

(つづく)

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ルービックキューブをチューンナップ

以前応募したユニクロとのコラボでGoogleのルービックキューブが当たるという懸賞にはハズレましたが、普通のルービックキューブは複数個持っています。ま、ルービックキューブについて私は大した造詣もありませんし、最近よく目にするスピードキューブのように複数個のキューブをまとめてそろえてしまうような尋常じゃないテクニックなども持っていません。普通の人間がゆっくり解く普通のパズルといった程度です。6面を揃えるのにかかる時間は調子がよくて1分半くらい、普通なら2分前後といったところですから。

で、このルービックキューブですが、1980年に日本で発売されたときはツクダオリジナルが版権を持っていたのですが、現在はメガハウスというところになります。そのせいかどうかはともかく、現在のものは昔のものよりギシギシと動きが渋く、シールの耐久性も低く、明らかに品質が低下しています。

動きの悪さはケミカルでかなりのレベルまで改善されます。当初、樹脂を侵さない潤滑オイルということでレスポのチタンスプレーを試してみたのですが、滑りが良すぎて落ち着きが悪く、また効果の持続期間も短く、全般的にイマイチでした。次に試したのはワコーズのシリコーングリースで、これはドンピシャでした。適度なフリクションに長期の持続性、恐らくルービックキューブのチューンナップ用としてこれを超えるケミカルはそうそうないと思います。

耐樹脂ケミカル

動きが改善されると余計に気になるのがシールの劣化です。しばらく使うとこんな感じになってしまうんですね。

ルービックキューブ(シール貼り替え前)

そもそも、白いベースフィルムに顔料で着色したと思われるところへクリアフィルムを貼るというのでは耐久性など期待できません。クリアフィルムが剥がれてくるとこそから色が落ちてきますし、そもそもバインダー(接着剤)の質も良くありません。また、これだけ厚さがあると却って指に引っかかりやすく、端のほうがめくれやすくなるものです。

一応、スペアも販売されています。価格改定前は確か600円だったものが現在は500円に値下げされましたが、それでも安いとは思えませんし、あの耐久性ではそうそう貼り替える気にもなりません。

これならベースフィルム自体に色がついているカッティングシートのほうが遙かに優れているだろうと思った私はそれを自分で加工して貼り替えてやろうと考えていました。が、カッティングシートを小分けに買っても6色だと高くつくだろうと思いましたし、それを加工するのもかなりの手間です。

6面各々9つの正方形に切り分け、合計54枚作らなければなりません。さらに、剥がれにくくなるよう、その角を丸く切り落とす必要もあります。となると、216の角を丸めなければなりません。カッティングマシンでもあれば別ですが、手作業では大変な手間になりますし、何より私はこうした単調な作業が死ぬほど嫌いです。ということで、アイデアとしては悪くないと思ったものの、実際にやる気にはならず、しばらく放っておきました。

しかし、最近は上の写真のように大きく剥がれてきて、さすがにみっともなくなってきました。なので、あきらめてメガハウス純正のシールを購入しようと思いました。ところが、メガハウスのサイトのどこを当たればよいのかすぐには解らず、これは「ルービックキューブ シール」でググったほうが早かろうと思い、そうしてみました。

すると、メガハウスのそれではなく、CSKiTというルービックキューブ用カラーステッカーキットを販売しているサイトが1番目にヒットしました。もちろん社外品になりますが、「厚さ0.075mmの屋外中期用マーキングフィルムを使用しています」とありました。薄く耐久性の高いカッティングシートという、まさに私が考えていた、それそのものです。

即行で購入して貼ってみますと、これがかなりのものでした。元のシールを剥がした後処理(粘着剤の除去など)をしっかりやっておかないと、わずか0.075mmしかないフィルムですから凸凹になってしまいますし、そもそもこの種のフィルムを貼る際には気泡を作らないようなテクニックも必要です。

ま、その辺はあまり得意ではないので不覚にも出来てしまった気泡には針で小さな穴を開けて中の空気を追い出すようにしたり、色々ありましたが、純正より100円安くてこれだけのクォリティで、貼りやすいように転写シートも付属しています。さらに、貼り損じた際の予備も付属していますし、この内容なら大満足です。

ルービックキューブ(シール貼り替え後)

純正のシールは数日も使うと端のほうからクリアフィルムが浮き気味になって、一週間もたたないうちに剥がれ始めますが(使用頻度によって多少は異なると思いますが)、CSKiTのシールに貼り替えて一週間ほどではびくともしません。これは間違いなく純正とは比較にならない耐久性を発揮してくれるでしょう。

メガハウスからはスピードキュービングキットというネジ止めで簡単にバラせ、給脂しやすく、専用ワックスを付属し、またネジの締め込み具合でフリクションも調整できるというハイグレードモデルも発売されています。が、ネジの蓋となるプレートが破損しやすいという悪評が高く、シールのクォリティも通常モデルと変わらないようです。

通常モデルでもケミカルチューンでそれなりのものが作れますので、個人的にはシールではなく着色した樹脂プレートをインレイワークではめ込み加工したハイグレードモデルを作ったほうが売れるような気がするんですけどねぇ。

ダブルスタンダード

昨今の原油高は「投機マネーによる影響が大きい」とされてきましたが、ここ数ヶ月の間に「原油供給不足」の声も徐々に強まってきたようです。この辺は都合の良いストーリーをそれらしき立場の専門家や専門機関の所見として伝えたりして、世論を巻き込んでいくいつものパターンになるのかも知れません。ま、実際のところはよく解りませんが。

そんな布石を打っておいて、原油増産の方針を示すという展開など、小説だったら単純すぎて見向きもされないでしょう。

クウェート首相、原油増産方針を説明 額賀財務相と会談

(前略)

高騰が続く原油価格について、クウェート側は中期的な原油増産の方針を改めて説明する一方、投機マネーの監視など先進国側の努力も要求。原油価格の安定には消費国と生産国が共同で対処する必要があるとの認識で一致した。

(中略)

会談では、現状は日量260万バレルの生産量を2020年までに段階的に同400万バレルまで増やすというクウェート側の増産方針について、額賀財務相が歓迎を表明。それに対し、ナセル首相は「産油国としての責任を果たすのは義務だ」と述べ、方針通りに増産していく考えを強調した。

(C)日経NET 2008年7月17日


サウジアラビアも現在は970万バレル/日ですが、来年半ばまでに新施設を稼働させ、1250万バレル/日に引き上げると伝えられています。これまで増産に消極的だった流れから、増産に梶を切り始めたのは「増産しなくても価格高騰で充分な増収が期待できる」という思惑から「多少の増産でも原油価格の大幅な下落はないだろうから、高く売れるうちにたくさん売っておこう」という思惑へ移行しはじめたからかも知れません。ま、これも実際のところはよく解りませんが。

一方、旧丸善石油(現コスモ石油)で原油調達を担当した経験もある、いわば石油の需給動向に関するプロだった福田首相もかねてから原油増産を望むコメントを繰り返してきました。今般、額賀財務相もクウェートの原油増産方針を歓迎するということで、日本政府としてのスタンスはハッキリしましたね。

それにしても、こうしたニュースが流れてメディアからも世論からも批判が起きないのは不思議で仕方ありません。日本のメディアも世論もほぼ例外なくCO2温暖化説を盲信しており、大衆メディアはことあるごとにCO2の排出削減は「待ったなし」とか「急務」などと煽っています。しかし、原油増産はCO2排出増加に直結します。CO2の排出を削減しなければいけないと本気で考えているなら、何としても増産を阻止し、消費削減を断行していくのが筋というものです。

もし、「原油増産=CO2排出増加」という図式を理解していないのであれば、これはもう救いようのないアホということになります。が、解っていながらこれを容認しつつ、「CO2排出削減は急務」と騒ぎ立てるのはダブルスタンダード以外の何ものでもありません。どちらに転んでも情けないハナシです。

「電車、バスが人気」「芝刈り機も手動に」 ガソリン高騰で米国に異変


(前略)

思わぬ活況にわいているのが、芝刈り機業界だ。きれいに刈りそろえられた庭の芝生がステータス・シンボルになる米国だが、エンジン式芝刈り機では燃料費がかさむ。そこで、手間がかかるとして見向きもされなかった手動式芝刈り機に人気が集まった。売り上げは前年比で70%増と爆発的な伸びを示している。

(C)MSN産経ニュース 2008年7月17日


これはほんの一例に過ぎませんが、アメリカでさえこうした動きをもたらしているわけですから、昨今の原油価格高騰がエネルギー消費削減の強烈な後押しになっているのは疑いの余地がありません。しかし、原油増産はこうした動きに水を差すことになるでしょう。ま、政治的には「原油増産の流れを示すことで投機筋の動きに水を差す」というのが狙いなのでしょうけど。

いずれにしても、CO2排出削減が叫ばれる一方、原油増産は容認されるこの矛盾が看過されているのは、要するに地球温暖化問題など初めから茶番だからなのでしょう。もしこれが茶番ではないというのなら、これまでCO2排出削減に消極的なアメリカを「自国の経済優先」と散々批判してきた立場で原油増産を歓迎するなど言語道断で、容認することも決して許されることではありません。これを好機と捉え、徹底的にもがいてみせるべきです。

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新型エピック登場!

このところロードバイクへ傾倒している私ですが、実はMTBにも乗っておりまして、この夏のボーナスではコンポの入れ替えを検討していました(が、パソコンの買い替えを余儀なくされたのでちょっと微妙な状況です)。

現在、私が所有しているフルサスのMTBで「走れる状態」にしてあるのはスペシャライズドのS-ワークス・エピック(2005年モデル)のみですが、これの2009年モデルがアメリカのメディアで伝えられていました。もっとも目を惹くのはリヤサスがガラリと変わって他社のXCレーサーでもありがちなレイアウトになったところでしょう。

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S-Works Epic (2009)

従前のエピックは左のアッパーアームに沿うような位置にサスユニットが搭載されていました。フレームマテリアルが私の所有している2005年モデルを最後にアルミからカーボンへ変わり、サスペンションアームも左右非対称になったことで捻れ剛性が高められたり、色々変更は重ねられてきましたが、サスペンションの基本構成とサスユニットの位置関係はずっと継承されてきました。

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S-Works Epic (2008)

これは「ブレイン」と呼ばれる自動的にロックアウトとフリー状態を切り替えるカラクリを上手く作動させるためでした。2008年モデルの写真でもお解りになると思いますが、サスユニットの下のほう、ディスクブレーキのすぐ左上に、筒状の出っ張りが右上方へ向かって伸びています。これがその「ブレイン」と呼ばれるカラクリです。

ブレインユニットは要するに機械式のGセンサで、入力加速度がある一定のレベル以下であればサスペンションはロックアウト状態になり、ペダリングロスを防ぐよう設計されています(初期モデルを除き、設定値は変更可能です)。

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矢印が示すバラストが路面からの突き上げに反応してフローポートを開閉、
ダンパーのオイルラインを制限したり解放したりすることで
自動的にロックアウトとその解除を行う仕組みになっています。


2009年モデルではこのカラクリをセパレート式とし、車軸に近い位置へブレインユニットだけ持って行ったことで感度を犠牲にせず、サスユニット本体の配置をシンプルにすることで重量軽減を狙っているのでしょう。サスペンションアームがカーボン化されたことも手伝って、従来モデルより0.73ポンド(約330g)軽量化されているといいます。

しかし、フレームの前三角にサスペンション機構が絡まない従前の構造はボトル類を設置しやすく、それを用いない際は担ぎやすいというメリットにもつながっていましたので、今回のモデルチェンジは個人的に微妙な印象もあります。

ま、XCレーサーとしては軽さも非常に重要ですし、ダート走行ではボトルによる給水よりハイドレーションパックのほうが都合の良いことも多いですから、こうした変更は正解なのだと思います。また、従来のようにブレインユニットが突き出した状態ではなく、サスペンションアーム内側で守られるようにレイアウトされていますから、転倒時などに壊れにくいよう考慮された、より実戦に即した改良になるのでしょう。

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ところで、FOXはこのブレインと同様の発想になるロックアウト機構「テラロジック」を今年度モデルからやめてしまいました。確かに、初期入力でやや角のある感触、動き始めに「カクン」というか「パコン」というか、微妙に引っかかるような作動感は慣れないと違和感に直結すると思います。

また、最新のFOXはサグ(ライダーが乗った際のサスペンションの沈み量)の設定をキッチリ行えば、低速でコンプレッション側のダンピングの立ち上がりが鋭く、ロックアウトなどしなくてもペダリングによる余計なピッチングは殆ど発生しないといいます。そのため、今年度モデルにはテラロジックは不要と判断されたというのが専らの噂です。

ブレインやテラロジックのようなモーションコントロールはどうしても独特の癖が残ってしまうだけに、広く受け容れられないのかも知れません。この作動感が気持ち悪いという人もいますし。ただ、年々こうした癖が顕著に出ないような改良は進められていると思います(一説によるとFOXもテラロジックを諦めたわけではなく、改良を続けているそうですし)。

私の場合、こうした癖にはあまり嫌な印象がなく、むしろ機構の面白さに惹かれているので、サスペンションフォークもFOXのF100X(テラロジックを採用したXCモデル)をチョイスしています。要するに、前後ともサスペンションのロックアウトと解除が自動的に行われるというわけですね。(この独特の癖に馴染めない人には最悪のMTBになるのでしょうけど。)

sw_epic05.jpg
S-Works Epic (2005)
私が所有しているこのエピックにインストールしたFOXのF100Xは
通常の白塗装ではなく、トレックの完成車向けに黒塗装されたものを
特別に入手したものです。(見た目重視ということですが。)


ま、MTBだけに乗っているならともかく、ロードバイクともミニベロともお付き合いしている私の場合、数年で丸ごと新しいモデルに買い替える余裕などありません。なので、今回のエピックの大幅なモデルチェンジには興味こそありますが、食指を動かす余裕はありません。

とりあえず、近いうちにコンポを入れ替えてから数年乗って、フレームセットを入れ替え、さらに数年乗ってコンポを入れ替え、これを繰り返すいつものパターンを今後も続けていくことになりそうです。

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「エコ替え」のウソ (その2)

トヨタが盛んに提唱している「エコ替え」ですが、10年サイクルで代替えするところを3年前倒しの7年サイクルで代替えした場合を想定し、LCAでCO2排出量にどれだけの違いが出るのか検討してみました。2000ccクラスのセダンで車格を変更しなかった場合、単純計算で比較した結果は以下の通りです。(条件の詳細については前回のエントリをご参照下さい)

ecogae02.jpg
※前回のエントリで掲げたものと同じグラフです。

どう見ても前倒ししたほうが悪い結果になっていますね。ただ、製造や廃棄にかかるCO2排出量の削減幅が不明なので、その点については一定としましたから、それらの要素が1台分多く反映される7年サイクルのほうが不利な値になりそうな感じではあります。が、実はこのグラフにはハンデがあります。

そもそも、このグラフは10年×3=30年と7年×4=28年の比較なんですね。3年前倒しの「エコ替え」の方は走行時にかかるCO2排出量が2年分足りないデータなんです。この2年分の補正が難しいので30年と28年で比較しましたが、それでも3年前倒しの7年×4=28年のほうが悪い結果になっています。LCAで比較すると、トヨタの提唱する「エコ替え」がちっとも環境負荷低減につながっていないということさえ確認できれば目的を果たせますので、ややこしい補正を抜きに考えても問題はないでしょう。

もちろん、これはCO2排出量しか見ていません。トヨタの「エコ替え」のサイトで示されている環境負荷のデータがCO2しかなく、比較できるデータが他にないのですから仕方ありません。私はCO2温暖化説に否定的な立場ですから、CO2の排出が環境負荷になっているとは考えませんが、トヨタが提唱している「エコ替え」もLCAで評価すれば出鱈目で、厚顔無恥な偽善であるということを明らかにできれば良いので、こうした検討にも意味はあるでしょう。

また、自動車が与える環境負荷は他にも沢山あります。それらについても資源調達や廃棄物処理まで考慮しなければなりません。少なくとも、7年サイクルでの代替えは10年サイクルでの代替えより約30年でクルマ1台分の金属や石油などの資源を余計に消費するわけですから、「まだ乗れるけど」などといって替えてしまうのはやはりエコでないのは間違いないでしょう。

それにしても、これほど評判の悪いキャンペーンをトヨタはいつまで続ける気なのでしょうか? 間違った風潮に抗い、正しい主張を通すためにあえて空気を読まないのは良いことだと思います。が、誤った主張をゴリ押ししながら空気も読まないというのは最悪です。巷で「エゴ替え」と揶揄されるのも当然でしょう。


ところで、先般「お門違い」と題したエントリで新車販売台数が減っているのに国内の自動車の保有台数は増えている現象をお伝えしました。確かに、「若者のクルマ離れ」の傾向は明らかだと思いますし、新車販売台数は3年連続で前年度割れとなっています。が、保有台数は増えているという現象は、要するに代替えサイクルが伸びているのが一番の要因だと考えられます。

乗用車保有期間の変化(前保有車が新車)
乗用車保有期間の変化(前保有車が新車)

これは(財)日本自動車工業会調べのデータになりますが、保有期間の長期化が非常に顕著に見られます。また、こんなデータもありました。

主運転者年齢
主運転者年齢

ご覧のように、若者の比率は減少していますが、高齢者の比率は顕著に増えています。要するに、若者がクルマから離れている故、新規ユーザーのマーケットは縮小している一方、既納ユーザーのマーケットはある程度維持されており、また60歳以上の高齢ユーザーは大幅に増えているため、保有台数は減らず、むしろ微増を続けているということでしょう。

となれば、自動車メーカーとしてはクルマから離れていく若者を追いかけ、新規ユーザーの開拓を期すよりも、既納ユーザーを囲い込んで代替えを促進するといった戦略のほうが効果的です。そこへ訴えかける何かを模索したところ、このエコブームに乗じるのが良かろうという結論に至ったのではないかと想像されます。が、「まだ乗れるけど燃費の良いほうに変えたよ」などと、素人目にも嘘くさいと見透かされてしまった故、無様なまでの空回りとなってしまった訳ですね。

「エコ替え」という名の「独善的な代替え促進キャンペーン」を企画したのはトヨタ自身なのか広告代理店(トヨタですから電通でしょうか?)の提案になるのかは解りません。が、誰でも偽善と解る非常に見苦しい内容だけに、批判にさらされるのは当然のことです。

いずれにしても、トヨタ車に乗るのが非常に恥ずかしくなるので、一刻も早くこのバカげたキャンペーンを中止して欲しいものです。

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「エコ替え」のウソ (その1)

テレビCMなどマスメディアを通じてトヨタが盛ん呼びかけている「エコ替え」ですが、猛烈に評判が悪いですねぇ。

ecogae01.jpg

ま、私も最近クルマやパソコンを買い替えたばかりであまり偉そうなことはいえませんが、世間では手放しでエコカーと認知されているプリウスもライフサイクルで見れば大したことはない(恐らく普通の軽自動車のほうが優れている)との判断から、コレに買い替えた際も私は全く「エコ」を標榜していません。なので、私の場合はトヨタのような偽善がないだけマシでしょう。

以前から古い自動車や家電製品など、エネルギー効率の悪いものを長く使うより、エネルギー効率が改善された最新型に買い替えたほうが環境に良いとするキャンペーンはありましたし、国や地方自治体もこれに荷担するような動きはありました。が、これまではどちらかというと「買い替えの際にはより省エネなものを」といった傾向が強かったように思います。

今般のトヨタのように「まだ使えるけど」CO2排出量の少ないものに買い替えましょうと推奨するパターンはそんなに多くなかった印象でした。が、やはり露骨に代替えを訴えかける内容は、世間一般にもかなりの不快感を与えているようです。実際、「エコ替え」でキーワード検索してみますと、トヨタのサイトを除く殆どのサイトで批判的な意見が述べられていますし。

こうした環境負荷にかかる評価は資源調達から最終処分に至るまでのライフサイクル全般を通じた環境負荷の評価、即ちLCA(Life Cycle Assessment)で評価しなければ無意味で、部分的なデータだけでは本末転倒になる恐れがあると当blogでは何度もお話ししてきました。

新幹線のEgo主張?」と題したエントリでもインフラにかかる環境負荷を無視して新幹線と航空機のCO2排出量を比較したのはアンフェアだと述べましたし、「プリウスのジレンマ」と題したエントリでもLCAで評価すると生涯走行距離が短くなるほどプリウスはアンチエコカーになる可能性があると述べました。

この「プリウスのジレンマ」で用いたグラフは第三者機関ではなく、トヨタ自身が実施したISO14040シリーズに準拠したLCAになります。「トヨタではLCAにより相対的な環境メリットを確認することを目的としているため、評価結果は指数で示しています。」と断っている点もかなり引っかかります。

しかしながら、プリウスに関してはイニシャルにかかる環境負荷を無視してランニングにかかる環境負荷だけを比較したほうが遙かに有利なのは間違いありません。そうした点を鑑みれば、LCAによる比較を行っているだけでも新幹線の部分比較のような大きな誤魔化しがない分だけずっとマトモと考えるべきでしょう。


さて、トヨタが提唱する「エコ替え」が本当に意味のあることなのか検証するには、やはりLCAで考えなければ無意味です。しかし、自動車の資源調達から最終処分までが検討されたLCAのデータは殆どなく、私の知る範囲ではプリウスのそれ位しかありません。そこで、このデータを元に「エコ替え」が本当に意義のあることなのか考えてみることにしました。

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このCO2排出量を評価するグラフでプリウスの比較対象となっているのは「同クラスのガソリン車」ということになっています。プリウスは常々2000ccクラスのセダンに相当するといわれていますから、プレミオ/アリオンあたりがそれではないかと見られています。そこでこのデータを利用しながら、昔の同車種からそのまま新型に代替えさせることを想定して比較してみたいと思います。

ただし、10年前にプレミオ/アリオンという車種はありませんでした。これらは実質的にコロナ/カリーナの後継ということは周知の事実ですから、10年前のコロナと比較してみます。

「エコ替え」のサイトにある「あなたのクルマと燃費比較」によれば、現行のプレミオのCO2排出量は1kmあたり0.15kgになりますが、10年前のコロナは1kmあたり0.19kgになります。つまり、この10年でCO2の排出量は21%削減されているということになるわけですね。念のため他の代表的な車種でも確認してみましたが、やはり18~24%程度の削減になっているようです。

そこで、10年サイクルの代替えで21%ずつCO2排出量が削減されるパターンと、3年前倒しした「エコ替え」を想定して7年サイクルで約15%(※)ずつCO2排出量が削減されるパターンを比較してみることにしました。(※10年で21%削減されるなら、7年では21%の7割と単純計算し、15%削減されると想定しました。)

ecogae02.jpg
※製造や廃棄の際にかかるCO2排出量がどれだけ低減しているか
という具体的なデータはありませんので、走行時にかかるもの以外は
便宜上削減量ゼロとしています。


ご覧のように3年前倒しの7年サイクルによる「エコ替え」のほうが明らかに環境負荷が大きくなっていますね。製造や廃棄の際にかかるCO2排出量はもっと減っていると考えれば7年サイクルにやや不利な検討結果ではないかと思われるかも知れませんが、そもそもこのグラフにはハンデがあります。

(つづく)

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畳とパソコンは新しいほうが良い

この週末は新しいパソコン(Sony VAIO type T)の環境を整えるために奪われた感じです。まだ以前の状態とは程遠い感じですが、とりあえず日常的に大きな支障をきたさないレベルにはなったでしょうか。ま、新しいパソコンの環境を整えるのはやや面倒に感じる部分もありますが、全般的には楽しかったりもしますし。



ハード面はやはりあまり変わらない感じでしょうか。キータッチは以前より良くなりましたが、キートップの面積は小さくなりましたので、差し引きゼロといった印象です。バッテリやHDDへのアクセスを示すパイロットランプの類が見づらくなったのと、AVモード関連のボタンが非常に押しづらくなった点もマイナスですが、後者はそんなに頻繁に使うものでもないので許せないというレベルでもありません。

バッテリの持続時間は公称値で7割増ということになっていましたが、実際には2割増くらいの印象で、思ったほどではありませんでした。ま、でも無線LANをガシガシ使って4時間以上持てば私としてはOKなので、不満というほどでもありませんが。

カタログには「液晶テレビに迫る高純度(NTSC比)約72%の高精細液晶を搭載。原色をより忠実に再現します。」とあり、確かに鮮やかさはかなり増したと思います。ただ、やや大げさな印象もありまして、少し派手すぎる気もします。当blogにアップする画像は多少いじることもありますが、以前より彩度が落ちたと思われるようでしたら、それは私のパソコンのモニタの彩度が上がったせいとお考え頂いて間違いないと思います。

それにしても、OSがVistaになり、またオフィスもインターネットエクスプローラーもインターフェイスが様変わりしましたし、ソフトの変化のほうがずっと大きかったですね。なので、ハードの変化はそれほどではない感じです。

量販店なら20万円前後、例えばヨドバシは231,800円で16%ポイントバックで正味195,000円弱くらいですが、166,500円で買えましたので、まぁまぁといったところです。

内側が見えた!

先月パブリシティされた新型デュラエース7900シリーズですが、誰もが予期していたとおり、今年のツールでは大々的に投入されています。その画像もいくつか入ってきましたが、個人的に大いに気になっていたアウターチェーンリング内側と、そこに噛み合うチェーンプレートの形状は、やはり複雑なものに変わったようです。

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マルティン・マースカント(ガーミン・チポレ)のバイクにインストールされた79デュラのクランクセットですが、キモになりそうなチェーンリング裏側の形状が確認できます。

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こちらはクリスティアン・ヴァンデヴェルデ(ガーミン・チポレ)のバイクになります。長円形のスパイクピンは78デュラの後に発売されたコンパクトクランクFC-R700とさほど変わらない印象ですが、とにかく刃先の形状や、そこから一段下がったチェーンプレートを引っかけたり、スムーズに脱線させたりするためと思われる凹みなど、もの凄い作り込みになっています。

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これは私が使用している現行78デュラ(写真右上)とコンパクトのR700(写真左下)のチェーンリング内側ですが、やはり79デュラとは比べるべくもありませんね。現行のこれらも非常に優れた変速性能を持っていると思いますが、79デュラでさらにどれだけ向上したのか、大いに気になるところです。

一方、このアウターチェーンリング内側と噛み合わさるチェーンプレートの形状も単純な丸みを帯びたヒョウタン形ではなくなったようです。

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写真に向かって右上と左下が少し削られた感じになっているようですが、プレートの形状そのものが左右(進行方向に対して前後)対称ではないようにも見えます。この微妙に変化がつけられたプレートの形状とチェーンリング内側の形状が各々最適設計され、キレイに噛み合ってスムーズにインナーからアウターへチェーンを掛け替えられるように改良されたのではないかと推測されます。

今般のフルモデルチェンジで互換性を犠牲にしてもシマノがやりたかったのはコレだったのだと私は思います。

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スラムのチェーンリングは肉抜きための切削がメインといった感じでチェーンの動きに関わるような加工は78デュラと比べても複雑ではない印象です。ちなみに、写真はクリストフ・モロー(アグリテュベル)のバイクで、クランクアームは下級モデルのライバルになっていますが、チェーンリングは最上級のレッドを使用しています。プロ選手には時々いますが、モローもカーボンクランクが好みではないのでしょう。

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カデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)のTTバイクですが、カンパニョーロはスパイクピンを除いてノッペラボウといった感じです。シマノのそれと見比べてしまうと、前時代的にすら見えます。


ロードバイク用コンポーネンツの二大メーカーが相次いでフラッグシップモデルの新型を発表しましたが、ワンテンポ遅れたカンパは誰にでも解りやすい11sというスペックを引っ提げてきました。シマノにしてみれば、カンパに美味しいところをゴッソリ持って行かれたような感も否めません。

ただ、個人的にはシマノのこの地味なアウターチェーンリングとそれに最適化させたチェーンプレートのほうが技術的に高度なことをやっているように思います。

リヤの多段化はスプロケットの厚みとそれぞれの間隔を設定し、強度的に問題のないよう素材の見直しを図れば構造的には現状維持でも成立するでしょう。が、変速性能を向上させるための構造面の見直しは要素が非常に複雑です。また、製造面においても加工の手間とコスト上昇を如何に抑えるかといったマネジメントも必要になってきます。

私は決してシマノの回し者ではありませんが、79デュラのアウターチェーンリングの内側を見てしまうと、大いにそそられるものがあります。ま、これは一種のフェティシズムなのでしょう。

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結局昇天

いまから丁度2ヶ月前、愛用してきたモバイルノートが電源コネクタ周りのトラブルでついに入院となりました。そして、無事退院してきたのですが、今週あっけなく昇天してしまいました。今度は原因不明のため、基盤交換が必要になりそうとのことで、修理見積を依頼するまでもなく買い替えを決断しました。(2ヶ月前にこうなることが解っていればあの段階で決断していたところです。)

購入から3年弱というのは私が使ってきたパソコンの中では最も短命でしたが、ここまで使用頻度の高かったものも他になく、俗にいう「ソニータイマー」というより、使用環境によるところが大きいでしょう。モバイルPCとして出先でもかなり酷使してきた故、注意していても結構なストレスを与えていたと思います。

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よく見ると筐体のあちこち、モニタのフレーム周りにもクラックや欠けが散見され、満身創痍というのは大げさとしても、痛みは進んでいる状態でした。

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私がこれまで使ってきた他メーカーのノートPCも1~2年くらいでシリアルポートのピンが抜けるとか、液晶のバックライトの回路が焼けて点灯しなくなるとか、光学ドライブが死ぬとか、修理が必要なトラブルに見舞われました。が、このバイオに関しては前述の電源コネクタ周りのトラブル以外でハード面のトラブルは全くありませんでしたし、そのトラブルも私の扱い方の悪さによるところが大きかったと思います。

液晶パネルなどはLEDバックライトと極薄の導光板などの採用で僅か4.5mmの厚さしかなく、当初はかなり不安でした。が、CFRP製外板のお陰か、想像以上に堅牢だったようです。全般的にも華奢な雰囲気ではありましたが、思ったより頑張ってくれたと言えるかも知れません。

ま、いずれにしても毎日使うものですから度々トラブルに見舞われたのでは生活リズムも乱されますし、修理を重ねれば却って割高になる恐れもありますし、ここは心機一転、代替えすることにした次第です。

堅牢性ということではパナソニックのレッツノートなどが定評のあるところですが、私が使っていたバイオ type T(VGN-TX50B/B)は解像度がフルワイドXGA(1366×768)でしたから、いまさらXGA(1024×768)には戻れません。ブラウザでブックマークを左側に表示したままXGAに最適化されたサイトを閲覧するには非常に都合の良い解像度でした。

また、16:9というアスペクト比はハイビジョンと同じです。フルスペックを謳っていないハイビジョンテレビは大概これと同じ1366×768ですから、DVDビデオなどの鑑賞にも好都合です。出張が少なくない私は出先で映画鑑賞にも使うことがありますので、富士通FMVビブロ・ルークスなどのWXGA(1280×768)よりこのアスペクト比のほうが、より画面を有効に使えるので気に入っていました。

SuicaやEdyをよく使う私にはフェリカポートも非常に便利でした。Suicaの利用履歴が確認できるのは交通費の精算に重宝しましたし、Edyはネットにつながる環境ならどこでもチャージできますから、これも便利でした。

ま、他にも色々ありますが、使い慣れた環境に近いもののほうが良かろうという判断もあり、同じバイオ type Tで今年の夏モデルVGN-TZ73Bへ代替えすることにしました。

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PCカードスロットを廃し、まだ汎用性の低いエクスプレスカードを採用しているとか、HDDは1.8インチ4200rpmでトロい(BTOで2.5インチ5400rpmも選択可能ですが、かなり割高になってしまいます)など、色々ネックもあります。

が、PCカードなど全然使いませんでしたし、実際にデモ機に触ってみてもトロい印象は全くありませんでしたし、ま、そもそも一番多い用途はネットのブラウジングとテキストエディタでの雑文書きですから、マシンのパフォーマンスそれ自体にあまり高いものを求めていませんので、問題ないでしょう。

むしろ、バッテリー駆動時間が公称値で約6.5時間から約11時間へ7割も延びているなど、個人的に重視しているスペックが一層強化されている点で大いに惹かれます。最安で16万円台半ばくらい(本稿執筆時)ですから、また3年くらいで昇天されても月割りで考えれば5000円にも満たないので、これも好しとします。

それにしても・・・私が新車を購入するとパソコンが壊れるというのはジンクスになってしまったのでしょうか?

レンタカー会社に肩代わりさせるべきか?

例の秋葉原の無差別殺傷事件から1ヶ月が経過したということで、各メディアで取り上げられていましたね。凶器に関しては専らダガーナイフの規制について論じられていましたが、それに代わるような刃物はいくらでもあります。あのとき犯人が用いた刃渡り13cmのダガーナイフに対して、例えば刃渡り30cmを超える刺身包丁のほうが殺傷能力で劣るとも考えにくいところです。なので、ダガーナイフだけに注目して規制をかけても、同様の犯罪抑止力としての実効性はあまり期待できないような気がします。

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ところで、ナイフで刺されて亡くなった方4名、負傷された方8名に対して、レンタカー会社から借りた小型トラックではねられて亡くなった方は3名、負傷された方は2名でした。トラックは一撃で3名の命を奪ったわけですから、ナイフよりずっと強力な凶器となるのは明らかです。もし、あのとき犯人が凶器をナイフに持ち替えず、歩行者天国の中でトラックの暴走を続けていたら、もっと多くの人が死傷していたかも知れません。

メディアはこうした点について殆ど触れていませんが、レンタカー会社にしてみれば、これは非常に重大な問題です。というのも、同様にレンタカーのトラックを暴走させた死傷事件で遺族に損害賠償を求められたレンタカー会社が敗訴しているからです。

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これは2005年に仙台のアーケード街で起こった事件ですが、3名が亡くなり、4名が負傷しました。このうち、死亡した女性の遺族がアーケード内の道路を管理する仙台市とレンタカー会社に約7700万円の損害賠償を求め、仙台地裁は今年の5月に市への請求を退ける一方、レンタカー会社には約6400万円の賠償を命じました。原告被告双方とも一時は控訴しましたが、6月に双方とも控訴を取り下げたため、この賠償額が確定しました。

この件に関して、原告も被告も「資力のない加害者に代わる被害弁償の意味合いが強い」との認識では一致していると伝えられていますし、レンタカー会社に対して一般市民から「レンタカー会社が賠償義務を負うのは納得できない」などの意見が寄せられているそうです。

レンタカー会社は営業許可の基準として、対人保険は最低8000万円/人をかけていなければなりません。が、このような自動車を凶器とした犯罪で保険金が支払われることはまずないでしょうから、レンタカー会社に賠償が命じられれば全て彼らが被ることになるでしょう。

仙台のケースでは「賃貸契約により、レンタカー会社が車両の運行に関する支配と利益を有する」と認められることから、自動車損害賠償保障法(自賠法)第3条の「運行供用者責任」を有すると見なされ、これを法的根拠として被告のレンタカー会社へ賠償金の支払いが命じられました。そして、これが「前例」となってしまったわけです。

仙台の事件と秋葉原の事件で使われたトラックを貸したのは偶然にも同じレンタカー会社でした。今般の秋葉原の件で同様の民事訴訟が起こされるかどうかは解りません。が、レンタカー会社としてみれば、犯罪に用いられるか否かの予見などまず不可能な状況で貸し出した車両でこうした事件を起こされ、その弁償を実質的に肩代わりさせられるとなれば、納得のいくハナシではないでしょう。私も個人的にこうした処置が適切とは思えません。

もちろん、被害者の側から見れば、奪われるだけ奪われ、加害者に資力がないゆえ、ただ泣き寝入りしなければならないというのでは無念だと思います。犯罪被害者に対しては国からの給付金制度もありますが、平成17年度のデータでは申請被害者608人に対して認定された被害者は412名、支払総額は11億3300万円でしたから、認定された被害者1人あたりの平均は275万円というレベルでした。

まずは犯罪の抑止を考えるべきでしょうが、犯罪をなくすことは不可能ですから、防ぎきれなかった犯罪の被害者に対して、もう少し厚い補償が受けられるような制度を検討すべきかも知れません。

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毛ガニじゃない

今年のツールでも総合優勝の候補に挙げられているアレハンドロ・バルベルデ(ケスデパーニュ)が第1ステージのゴール前でアタックを決め、いきなりマイヨジョーヌを奪ってみせました。が、今年はボーナスタイムが廃止されたため、実際のタイム差のまま彼が1秒だけリードしている状態というのは皆さんもご存じかと思います。

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初めてマイヨジョーヌに袖を通すバルベルデ
現在、サイクルロードレース界最高年俸選手といわれるバルベルデですが、
彼にとっては4度目のツール挑戦で初めてのマイヨジョーヌとなります。


彼は今回のツールでいくつか目標を立てているそうです(最大の目標は当然、総合優勝ということでしょう)が、「ステージ優勝すること」と「マイヨジョーヌを着ること」という二つの目標を初日にクリアできたため、「逆に、これからはもっと冷静にレースを運ぶことができると思う」とインタビューで答えていたようです。

私はそれに加えて、前哨戦となるドーフィネ・リベレでTTも制し、カデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)に「バルベルデはステージレーサーとして違うレベルに達しているようだ」と言わしめた好調ぶりをツール序盤でもライバルに見せつけることで心理的に揺さぶりをかけようとしているのではないか?という気もしますが、穿ち過ぎでしょうか?


さて、ここからハナシはガラリと変わりまして、非常に他愛のないことになっていきます。昨日のJスポーツの生中継で解説の今中さんも触れていた「ケスデパーニュのシンボルマークが毛ガニと読める」という件ですが、これはいったい何なんだと。

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メインスポンサーであるケスデパーニュ(フランス貯蓄銀行)のマークが「毛ガニ」に見えると言われると、確かにそう見えます。いえ、一度「毛ガニ」に見えてしまったら、もう「毛ガニ」としか見えないくらい「毛ガニ」っぽいマークです。

ま、でもこれは同チームのメインスポンサーがイリェスバレアルスだったとき、ケスデパーニュがサブスポンサーとして加わった直後くらいから言われていたことで、最近になって話題に上るようになったわけではありません。また、このマークの正体は、もちろん「毛ガニ」ではなく、マスコットのリスを図案化したものであることも知っている人は少なくないでしょう。

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このマスコットの名前は解りませんでしたが、
ケスデパーニュは半世紀以上も
リスをマスコットにしているようです。


つまり、「毛」と読める部分がシッポで、「ガ」と読める部分が頭で、「ニ」と読める部分が手足になるようです。とはいえ、いきなりこのマークを見た日本人が一度「毛ガニ」に見えてしまうと、やはりリスではなく「毛ガニ」に見えてしまいますね。赤い色からリスは連想できませんが、毛ガニならドンピシャですし。

で、色々調べてみましたら、このマークの変遷が解る画像ファイルを見つけました。

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当初は普通のイラストで、日本人のイメージする「可愛いリス」というより「狡猾な狐」っぽく、目つきがかなり妖しい感じですね。1965年から図案化が始まり、1968年にデザインされたものが1975年に左右反転しましたが、ほぼそのまま23年ほど使われ、いまのデザインは1991年からということのようです。

シッポの横棒が4本から3本に減ったということは、本数自体にあまり意味はないと見られます。ならば、現在のものは2本にしてしまえばヨーロッパの通貨「ユーロ」のロゴにイメージが重なりますから、銀行のマークとしてはそのほうが良かったのでは? と思いました。が、1991年というとマーストリヒト条約の前年ですから、それは無理な注文ですね。

それにしても、この「毛ガニ」の件もそうですが、ゲロルシュタイナーを「ゲロ水」と呼んだり、こういう発想はどこから出てくるのでしょう? ま、個人的には嫌いじゃありませんけど。

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5 seconds

非常に他愛のないことで恐縮ですが、以前ちょっとお話しした行きつけのうどん屋が今日オンエアされた『出没!アド街ック天国』で紹介されました。どういう基準でランキングしているのかは謎ですが、第14位でした。(向かいの焼きそば屋は16位でした。)

で、店内の様子を撮影した際、私が写っていたかも知れないというハナシですが、ホンのちょっとだけ写ってました。

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赤い矢印で示したのが私です。ご覧のように非常に小さく、しかもたったの5秒でしたから、知り合いが見ても解らないと思います。(少なくとも、私の親は解らなかったそうです。)


いま、Jスポーツでオンエアされているツール・ド・フランスの中継を見ながら書いているのですが、そちらの方が気になって、こんなバカ話はどうでも良くなってきました。誠に勝手ですが、この辺で失礼します。

また、ツールが終わるまでの3週間、更新が滞りがちになるかも知れませんが、悪しからず。

勝つのは誰だ?

間もなくスタートするツール・ド・フランスですが、各メディアの優勝予想はやはり本命がカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)、対抗はアレハンドロ・バルベルデ(ケスデパーニュ)で、これ以外の予想は殆ど見かけないくらい、ガチガチの下馬評になってますね。ま、実力や実績から見て、私もその通りだと思いますが。

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Cadel Eevans

エヴァンスの実力は山岳もTTも非常にハイレベルで、典型的なオールラウンダーとして現在最高レベルにある選手の一人だと思います。約3週間に及ぶ長丁場のグランツールで総合優勝を経験してませんが、昨年のツールは23秒という史上3番目の僅差(1989年の8秒、1951年の22秒に次ぐ僅差)で優勝を逃した状況でしたし、不安というほどの要素とはいえないでしょう。

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Alejandro Valverde

バルベルデも非常にバランスのとれた選手ですが、ツールとの相性の悪さがやや気になるところでしょうか。2005年は膝の故障で中盤リタイヤ、2006年は直前にドーピングスキャンダルで有力選手がゴッソリ出走を取りやめ、Jスポーツのサイトで優勝候補として紹介されていた選手では彼一人が残るといった事態に陥りましたが、序盤の落車で早々に姿を消しました。昨年は一時総合2位に付けるも、中盤くらいから失速、初完走は果たしたものの総合6位にとどまりました。彼の実力からしてこれは不本意な結果だったと思います。

ただ、今シーズンの戦績はなかなかのものです。ワンデークラシックのリエージュ~バストーニュ~リエージュを制しましたし、ランス・アームストロングがいつもツール前の最終調整に利用してきたドーフィネ・リベレも制しましたし、かなり調子は良さそうです。

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Damiano Cunego

ジロに傾倒する選手が多いイタリア人にあって、今年あえてジロをスキップしたダミアーノ・クネゴはツールの総合優勝を狙う旨、公言して憚りません。今年のツールは山岳の比率が高く、彼の苦手なTTは第4ステージの29.5kmと第20ステージの53kmのみで、例年ほどのボリュームがないというコース設定も千載一遇のチャンスといえるでしょう。

「ミスター・ジロ」とも呼ばれるジルベルト・シモーニをエースに据えたサエコ(当時)のアシスト選手として出場した2004年のジロでステージ4勝をあげ、シモーニからエースの座を奪って総合優勝を飾ったのは弱冠22歳のときでした。26歳となった今年、本気でツールを獲りに来ただけに、彼にも目が離せませんね。

さて、今年は誰が勝つのでしょうか?

やはり、順当にいけばエヴァンスだと思います。が、判を押したような予想では面白くないので、ここは大穴狙いでいきますと、アンディ・シュレク(CSC)なども気になる存在です。

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Andy Schleck

もっとも、CSCがエースに据えるのはカルロス・サストレになるでしょう。昨年が4位、一昨年は3位と、ツールでも安定した戦績を重ねてきましたし、クライマーといえる脚質の彼にとって山岳の比率が高い今年のツールは彼向きのコース設定といえます。

また、セカンドエースを勤めるのは恐らくアンディの兄、フランク・シュレクになると思います。先のツール・ド・スイスで崖下に転落した大落車(←リンク先の「Next」をクリックすると続きが見られます)の影響がないか多少不安もありますが、大きなケガはなかったと伝えられていますし、あのときも自力で這い上がってそのままレースにも復帰しましたし、特に問題はないのでしょう。

となると、順当にいけば今年初出場のアンディがアシスト役に回るのはほぼ間違いないと思います。が、約3週間に及ぶツールでは何が起こるか解かりません。個人的には彼のようなダークホースが一気に突っ走ってしまう展開が大好きなので、活躍を期待したいところです。

彼は昨年のジロで総合2位と新人賞を勝ち取った実力もありますし、そのとき難関の激坂ゾンコランでは同年の山岳賞を獲った当代きってのクライマーであるレオナルド・ピエポリ(サウニエル・ドゥバル)と好勝負を演じました。加えて、2005年には母国ルクセンブルクのTTチャンピオンにもなっているオールラウンダーです。

さらに、昨年準優勝を飾ったジロを今年はスキップし、ツール・ド・スイスで調整してくるという、近年ツール総合優勝を狙う選手たちが踏むステップを彼も踏んでいます。まだ若く経験不足も懸念されますが、逆に失うものがない選手ほど予想外の活躍をしてくれるものですから、大いに注目したいと思います。(ま、そんなに簡単に勝てるほどツールは甘くないのも重々承知してますが。)

もう一人、若手では先のツール・ド・スイスを制したリクイガスのロマン・クルージガーもちょっと気になる存在です。ま、正直なところ私は彼の素性について殆ど知りませんので、何とも言い難いところですが、先のツール・ド・スイスの超級山岳クラウセンパスで行われたTTを制した走りはなかなかのものでした。山に強い選手に有利な今年のツールでも大暴れしてもらいたいですね。


主催者ASOの独善でアスタナが排除され、ディフェンディングチャンピオンであり、現在世界最高の選手と目されるアルベルト・コンタドールが出場できないのは返す返すも残念です。が、その分だけ出場選手達には好勝負を期待したいところです。

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好都合な予見 (その3)

以前にも書きましたが、「2050年までにCO2排出量を半減せよ」という政治的指針は、以下のような仮説に基づくものです。

現在、人為的に排出されるCO2は炭素換算で毎年約63億tであるのに対し、自然による吸収は約31億tであるため、人為的な排出量を半分以下まで減らせば収支のバランスがとれ、大気中のCO2濃度の上昇も収まり、温暖化の進行もストップする。

しかしながら、人為的なCO2排出量が毎年30億tのレベルに達したのは1960年代のことです。

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半減させても無駄」と題したエントリで用いたものの使い回しになりますが、
ご覧のように人為的なCO2排出量が31億tを超過したのは1960年代後半以降です。


世間一般には、人為的な地球温暖化が始まったのは18世紀後半から19世紀前半にかけての産業革命期以降と信じられています。が、IPCCの理屈に従えば、それは1960年代後半以降にスタートしたということになります。ただし、彼らの主張そのものに不整合はありません。というのも、昨年提出された第4次評価報告書にはこうあるからです。

20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い。


要するに、IPCCの見解としては、20世紀半ば以降の気候変動は人為的ではあるものの、それ以前は人為的と断定されていないわけです。それならば、1960年代後半くらいから人為的なCO2排出量が31億tを突破して自然が吸収できる範囲を超過したゆえ、それ以降に人為的な温暖化が始まったとする仮説にも破綻はありません。(世間一般の認識とのズレは残りますが。)

ただ、それはそれで何とも釈然としないものがあります。というのも、20世紀後半以降の気温上昇が特に異常であるとは思えませんし、深刻な状況とも思えないからです。

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上下に伸びる細い棒グラフは、年毎のデータで、
実線は細かい変動を除くために10年平均の値を結んだものを
示しているそうです。


これはIPCCが採用した地球の平均気温の推移を示すグラフですが、1940年代くらいから1970年代くらいにかけて明らかに下降していることが解ります。IPCCが人為的な気候変動であると主張している20世紀半ば以降で明らかな上昇傾向を示しているのは1970年代後半くらいから1990年代後半くらいまででしかありません。

昨朝、NHKの『おはよう日本』で富士山の降雪量や雪崩が増えているのは「年々温暖化が進んでいるから」といった主旨のレポートを流していましたが、地球規模で見れば最近10年くらいは気温の上昇傾向が見られません。

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ご覧のように、大気中のCO2濃度は一本調子で上昇を続けていますが、地球の平均気温に関してはこの10年間ほぼ横ばいか、むしろ下降気味に推移しています。つまり、人為的な気候変動が始まったとIPCCの主張する20世紀半ば以降で気温が上昇していたのは、1970年代後半くらいから約20年ほど、その間に0.4℃少々上昇し、その後の10年は収束しているということになってしまうわけです。

この程度の変動なら常に繰り返されてきたことで、現に上の19世紀半ば以降の気温変化を示すグラフにもあるようにIPCCが人為的とは見なしていない1910年前後から1940年代中頃までの30年余りの間にも0.5℃近く上昇していますから、これと比べてもとりわけ異常な状況とは考えにくいでしょう。

また、自然が吸収できるCO2は毎年31億tまでとIPCCなどが言い張るレベルを超過した1960年代後半から現在まで約40年の間、気温が上昇していた期間はその半分程度でしかなかったわけです。残りの半分は何故気温が上昇しなかったのでしょうか?

もちろん、気温が決まる要素は様々ですから、他の要素が大きく作用して気温の上昇を阻んでいるだけかも知れません。が、もしそうならば、その気温を引き下げようとする要素とはいったい何なのかということをハッキリさせるべきです。加えて、その要素が弱まっていれば人類の営みとは関係なく気温が上昇することにもなるでしょうから、これまでの気温上昇にその要素の変動が無関係であったことも証明しなければならないでしょう。

人為的温暖化説ではこうしたよく解らない部分を明確に示してくれないことがしばしばです。人為説論者たちはいつもスーパーコンピュータの中に作られた「気候モデル」というブラックボックスの中で数値をイジリ倒して答えを導くわけですが、人類が地球の気候メカニズムの全てを理解していない以上、その結果が正しいという保証などありません。シミュレーションをどれだけ重ねても、それはあくまでもシミュレーションに過ぎず、「推測」の域を出ることは未来永劫ないのです。

こうして単なる「推測」に過ぎない根拠に基づく仮説をあたかも事実であるかのようにプロパガンダすることで、この地球温暖化問題は環境問題として成立しているというのが私の認識です。

メディアは実態をどこまで把握しているのか知りませんが、「待ったなしの状況」とか「一刻の猶予もない」とか、ことあるごとに大騒ぎします。彼らの救いようのない理科オンチぶりはこれまでにも何度か書いてきましたが、人為的温暖化説を支持する研究者達が繰り出してくる部分的に突出した都合の良いデータをただ鵜呑みにし、振り回されているだけではないかという気がします。

私達のように人為的温暖化説を盲信しない者の間では「クールダウンが必要なのは地球ではなく、地球温暖化問題に翻弄されている人達の頭のほうだ」とよく言われますが、私も全くその通りだと思います。しかし、間もなく始まる洞爺湖サミットで彼らはますますヒートアップしてしまうのでしょう。

(おしまい)

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好都合な予見 (その2)

同じく、朝日新聞の社説になりますが、先週の土曜日にこんなことが書かれていました。

諫早湾干拓―水門開放へすぐに動け


 福岡、佐賀、長崎、熊本の4県に囲まれた有明海。その一角にある諫早湾奥の広大な干潟をつぶして完成させた農林水産省の干拓事業に、裁判所から厳しい注文がついた。

 魚や貝の水揚げが減ったことと干拓事業には一定の因果関係が認められる。干拓地をつくるために諫早湾を堤防で閉め切ったことが、漁業にどのような影響を与えたのか。5年間、排水門を常時開門して調査しなさい。今春から始まった干拓地の農業に支障が出るとしても、やむをえない。それが佐賀地裁の判決である。

(中略)

 諫早湾干拓事業は、文部科学省の外郭団体が科学技術分野における重大な「失敗百選」に選んでいる。なにしろ干拓に2533億円の巨費をかけながら、将来の農業生産額は2%にも満たない年間45億円である。無駄な巨大公共事業の典型である。

 すでに完成した公共事業も必要なら大胆に見直す。そんな時代がきたことを農水省は肝に銘じてほしい。

(C)朝日新聞 2008年6月28日


個人的に今回の司法判断は妥当だったと思いますが、それにしてもこの社説の突っ込みはピントがズレてますねぇ。農業生産額45億円というのは年額ですから、これを事業費2533億円で割って「2%にも満たない」という計算がどんな意味を持つのか、さっぱり理解できません。まさか「1年で償却できないから無駄」といいたかったわけでもないでしょうが、いったい何を意図して「2%にも満たない」という数字を示したのでしょうか?

2533億円の投資に対して毎年45億円なら、施設の維持費を別にすれば57年後には回収できる計算になります。超高層ビルの建設事業でも償却年限が50年クラスなど珍しいものではありません。また、このまま海洋資源を切り捨てれば(その判断の善し悪しは別として)その後も農地として利用できなくなるわけでもないでしょう。有明海の干拓事業は江戸時代以前から始まっていて400年以上も前に造成された農地が今でも現役だったりするのですから。

いずれにしても、ここはこのようなカタチで突っ込みを入れる部分ではないでしょう。ま、朝日新聞の社説がピンボケなのはいつものことですから、どうでも良いハナシに約400文字も費やしてしまった私も愚かではありますが。

さて、諫早湾干拓事業ですが、これについても当然のことながら事前に環境アセスメントが行われており、計画実施にも懸念がないとする科学的な評価がなされていました。また、農林水産省九州農政局のサイトにある諫早湾干拓事業の環境アセスメントについての頁にはこうあります。

事業による環境への影響が、環境影響評価の予測に沿って推移しているかの検証を行ったところ、概ね当初の予測に沿って推移していることが確認されました


しかし、こうしたアセスメントは農林水産省にとって都合の良い調査結果を御用科学者に出させただけで、司法にも「信ずるに足らず」と判断され、文部科学省の外郭団体である科学技術振興機構(JST)にも「失敗」の烙印を押されたわけです。

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諫早湾干拓事業
JSTには「失敗百選」で公共事業での失敗例として、
利害関係未調整で事業開始、誤判断、狭い視野、社会情勢に未対応、
調査検討の不足、事前検討不足、環境影響調査不十分、計画不良・・・
他にもまだまだ沢山ありますが、よくこれだけの言葉が並ぶものだと
感心してしまうほどコテンパンに酷評されています。


一方、地球温暖化対策の指針となるデータを編纂しているIPCCですが、やはり学会のように開かれ、誰でも自由に物申せるような形態にはなっていません。原則として各国政府の推薦を受けた人間しか参画できない閉ざされた組織になっているのです。

だからといって、「IPCCは各国政府の手先だ」と断定することはできないでしょう。ただ、彼らの評価報告書には政治的な思惑など一切入り込む余地のない、朝日新聞が社説で「世界の科学者の知恵を集めた」というほど純粋な科学的評価である保証もないでしょう。

諫早湾の干拓事業費は2533億円ですが、地球温暖化対策に日本政府が投じている予算は毎年1兆円を超えます。そもそも、こうした巨費が投じられる国家事業において、これまで好き放題やってきた政治家や官僚達が、毎年1兆円超の予算を動かす地球温暖化対策事業に限っては禅僧のごとくストイックに問題と対峙していると考えるほうが不自然な気もします。

ま、実際には、この1兆円超の中から「環境負荷の小さい交通体系の構築」という名目で1200億円を超える予算が投入され、「渋滞緩和がエネルギー効率を向上させる」として道路建設などが行われていたりします。あるいは、「発電時にCO2を排出しない」という理由で原子力発電の推進にも2000億円を超える予算が割り当てられています。

もちろん、いずれも単年でおしまいではありません。毎年それくらいの予算が継続して投じられているんですね。地球温暖化対策という名目で、原発推進だけでも諫早湾干拓事業並みの予算が毎年投入されているわけです。

要するに、環境対策という美名の下、結局はいつものパターンに陥っているわけです。なのに、あまり文句を言う人がいないのは何故なんでしょうか? 環境対策と称する事業は「善行である」と多くの人が思い込んで思考停止に陥り、全てが許されてしまっているような気がするのは私だけでしょうか?

いずれにしても、この地球温暖化対策に投じられている巨費が無駄であったか否か結論の出される日が、私の生きている間に来ることを望みたいものです。

(つづく)

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