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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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彼女なら441倍

中央競馬・地方競馬・競輪・競艇・オートレースの公営5競技に加え、パチンコと宝くじの売り上げを合計すると年間36兆円にも上るそうです。その約8割を占めるパチンコは公的にギャンブルではないことになっていますが、実質的にはギャンブルそのものですから、日本は世界一のギャンブル大国なるようです。

しかし、当の日本人はギャンブルというとラスベガスのカジノや何でも賭の対象にしてしまうイギリスのブックメーカーなどを思い浮かべたりして、世界一のギャンブル好きはアングロ・サクソン人と思っているのかも知れません。

何でも賭の対象にしてしまうブックメーカーといえば、アメリカの大統領選挙もやはり賭の対象になっていまして、ベットフェア・ドットコムのオッズを見ますと民主党のオバマ候補は1倍強、共和党のマケイン候補は8倍強(本稿執筆時)と、圧倒的にオバマ候補有利となっています。

次期米大統領選のオッズ

アメリカでは情報レベルが低く日和見主義の無党派層は全体の60%を占めるといいます(日本も大差ないでしょう)。そのうちどれだけの人が肌の色を克服できるかが一つのポイントになると思います。

AP通信が今月伝えた調査結果では人種を理由にオバマ候補が失う票は6%と推定されていたそうです。現在の支持率はオバマ候補が60%弱、マケイン候補は40%程度で20ポイント近い差を付けていますから、この推定が正しかったとしてもオバマ候補が逃げ切れる計算になります。

この大統領選が始まったとき、『Newsweek』誌は「アメリカは黒人大統領を受け入れる準備はできているか?」と問いかけていましたが、もうすぐその答えが出ます。

え? 441倍という数字は何かって? ベットフェア・ドットコムではどういう訳かヒラリー・クリントン上院議員にもオッズが付いていて、彼女が次期米大統領に選ばれれば441倍なんだそうです。


※日本では賭博罪が適用されますので、こうした賭には参加できません。
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寒いニュースは伝わらない

私は東京在住ですが、今朝は少し肌寒かったですね。でも、フィラデルフィアに比べたら全然マシだったようです。

NHKの『おはよう日本』で有働アナがフィリーズの本拠地、フィラデルフィアのシチズンズ・バンク・パークからMLBワールドシリーズのレポートを伝えていましたが、向こうは肌寒いどころの騒ぎではなかったようです。

フィリーズに敗れたレイズのベンチ
地元フィリーズに敗れたレイズのベンチ
岩村選手の表情が厳しいのは戦局のせいかもしれませんが、
このときの気温は10℃を下回っていたそうです。


フィラデルフィアの10月の最高気温の平均は20℃、最低気温の平均は8℃、観測史上最低気温は1972年に記録された-3℃だそうですが、今日の最高気温は10℃、最低気温は1℃だったそうですから、かなり冷え込んだようです。でも、フィラデルフィアもまだマシだったようです。

ロンドンでは一昨日の夜から昨日(10月28~29日)にかけて雪が降り、3cmくらい積もったそうです。

ロンドンの早すぎる雪1
ロンドンの早すぎる雪(その1)

ロンドンは緯度が高いのですが、暖流のお陰で冬の寒さはあまり厳しくありません。10月の平均最高気温は16℃、平均最低気温は11℃だそうですから、普通ではまず雪が降らない時期なんですね。今回の雪は1934年以来、最も早い記録だったそうです。

ロンドンの早すぎる雪2
ロンドンの早すぎる雪(その2)

アメリカでもあちこちで史上最低気温を塗り替えているそうですし、北ロッキー山脈でも史上最も早い初雪を記録したそうですし、ブラジルでは9月5日に降雪があったそうですが、これもかなり希な遅い雪だったそうです。

ブラジルの遅すぎる雪
ブラジルの遅すぎる雪

WMO(世界気象機関)も今年は大きく気温が低下していると認めています(彼らはラニーニャ現象のせいではないかとしているようですが)。いずれにしても、今年は世界的に見てかなり寒い年になっているのは間違いないでしょう。

ま、こんな断片的なハナシを以て地球温暖化が終わったとは言いませんが、日本の大衆メディアは少しでも暑くなると「地球温暖化の影響だ」とか何とか大騒ぎするくせに、寒くなったことに限って伝えないのは何故なんでしょうかねぇ?

誇大エコ広告

当blogでも「エコ替えのウソ」と題したエントリでトヨタのそれはLCAを無視したインチキ広告であることを述べました。同様の批判は多方面から相次いでいて、YouTubeには実際にトヨタへメールで問い合わせたという人からこんな動画が投稿されています。



この質問を受けたのは恐らくトヨタのお客様相談室あたりで、担当者は環境問題などに関して素人レベルの知識しかなかったのでしょう。論点をすり替え、適当にあしらったような印象で、かなり酷いものです。が、この回答をした担当者個人にあまり大きな責任はないと思います。

誰が悪いのかといえば、それは根拠がいい加減な広告を企画し、それにGOサインを出した人たちです。この代替え促進キャンペーンの内容そのものに錯誤があると認めない限り、納得させられるような回答はできません。まさかお客様相談室の担当者レベルで企業を挙げてテレビCMまで流しているキャンペーンを否定することなどできないでしょう。

さすがにトヨタもこうした状況に気づいたのか、最新のCMは以前のように「まだ使えるけど」といった表現を控え、「新しいクルマはエコ」という点に絞ってきたようです。もっとも、代替え促進のCMであることに違いはなく、代替えを早めることがLCA的に有利だという根拠が示されていないのも相変わらずですし、当blogや様々な人たちに指摘されていることが根本的に改められたわけでもありません。単に表現がマイルドになっただけです。


そもそも、環境を考えるならマイカーなど持たないのが一番です。どうしても必要なときにレンタカーを利用し、普段は公共交通機関や自転車などを利用するほうが遙かに環境負荷の小さいライフスタイルになるのは火を見るよりも明らかです。

私は世間一般に「エコロジスト御用達」のように思われているプリウスに乗っていますが、自分が環境保全に努力しているなどとは毛頭思っていません。クルマを持たないほうが遙かに環境負荷の小さいライフスタイルであることが解っているからです。私の基本的なスタンスは、自分が与えている環境負荷を棚に上げることなく認識し、偽善的な発言は慎むというところにあります。ま、開き直っていると解釈されても良いでしょう。

しかし、世の中には環境負荷について正しい認識が出来ていないにも関わらず、「自分は環境問題について常に意識している」というようなことを語る似非エコロジストたちが山のようにいます。何台も高級車を所有していながら、オスカーの授賞式などにはプリウスで乗り付けるハリウッドスターたちはその代表格といえるでしょう。彼らの場合は偽善かも知れませんが、単なる無知で思い違いをしている人もやはり山のようにいます。

数ヶ月前、TBSの情報番組『王様のブランチ』で、確か『アース』という映画のナレーションを務めた絡みだったと思いますが、俳優の渡辺謙氏がVTR出演したときのことです。同番組の映画コーナーを担当しているスウェーデン出身のタレントLiLiCo氏によるインタビューの中で、まさに上述のような現実を理解していない会話がありました。交わされた言葉は正確に覚えていませんが、だいたいの主旨はこんな感じだったと思います。

渡辺氏が「買い物の際にマイバッグを使っている」というハナシの流れになったとき、LiLiCo氏が「いつも自宅に置き忘れてついついレジ袋をもらってしまう」というと、彼は「クルマに置きっぱなしにしておけばいいんですよ。私はいつもそうしています。」とアドバイスしました。すると、彼女は「クルマを持ってないんですけど、どうしたらいいでしょう?」と尋ねたのですが、それを聞いた彼は一言「知らないよ!」と返し、その話題はそこで終わってしまいました。

これはどう考えてもLiLiCo氏のほうが環境負荷が小さい生活をしていると見て間違いありません。「レジ袋をもらわずにマイバッグを使ったほうが環境に良い」と世間一般に信じられているのも本当にその通りなのか微妙な部分はありますが、買い物へ行くのにクルマを使わなければ、その分だけ環境負荷を抑えられるのは間違いありません。

仮に買い物にクルマを使わなかったとしても、クルマを持っているか否かという時点で優劣は決しています。毎日何枚もレジ袋を消費する生活を生涯続けたとしても、それで与える環境負荷が自動車1台の生産にかかる環境負荷を上回ることはないでしょう。

この馬鹿げた倒錯エコ談話は「マイバッグを使っている人=環境のことを考えている人」という短絡思考に陥って、全体が全く見えていない愚かな状況に他なりません。ただ、こうしたハナシは決して珍しいものではありません。最近の日本はエコヒステリーがエスカレートしていく一方ですが、実際にはそれを宗教的に盲信するばかりで、科学的に実効性を検討している人はさほど多くありません。

一方、イギリスでは昨年こんなハナシがありました。プリウスの広告に使われたデータがアメリカでの一般的な走行距離を基に算出されたもので、イギリスの国内事情には合わず、誇大広告になっているといった主旨のクレームが付いたんですね。

最近もトヨタが「環境を考えるならレクサス」という内容のイメージ広告をメジャー紙に出したところ、広告監督委員会から「誤った情報を伝達した」として広告掲載全面禁止の裁定を受けたそうです。これは「レクサスに乗れば環境を改善できる」とも受け取れるような表現になっていたからのようで、消費者団体や環境保護団体から「自動車が環境に好影響を与えるわけではない」「消費者の判断基準を誤らせる」と指摘されたそうです。

同様のハナシはオーストラリアにもあります。「サーブが1台売れるごとに17本の木を植える」というキャンペーンをGMが展開し、「すべてのサーブはグリーンだ」という広告を出したところ、広告審議機構からクレームが付いたそうです。

日本ではトヨタに限らず、自動車メーカーに限らず、「環境負荷を低減させたいなら消費活動を控えたほうが良い」という当たり前のことを棚に上げ、独善的な似非エコ広告を展開しているケースが非常に目立ちます。その点についてそれなりにシビアなイギリスやオーストラリアなどで「エコ替え」の類のCMを流したら、即刻禁止の裁定が下ることでしょう。

JR東海も相変わらずインフラにかかる環境負荷を無視して新幹線と航空機の比較広告を流し続けています。これだけ毎日エコエコと唱えられていながら、ライフサイクル全般を通じて与える環境負荷を検討する「LCA」という概念を全く考慮しない部分比較の広告も何の疑問も持たれることなくまかり通っています。

以前、当blogでご紹介したエンジンスターターのようにインドの風力発電からCO2排出権を買っているから無人状態でアイドリングをしても「京都議定書が定めた日本の温室効果ガス削減目標に貢献する」などという言語道断な商品PRも全くお咎めなしです。

何でも「エコ」を謳えば良いと思っているこの低レベルな乱痴気騒ぎを見ていても、如何に「エコ」という美名がツールとして悪用されているか、日本では如何に似非エコの誇大広告が蔓延しているか解るというものです。

いま最もホンダらしい製品 (その3)

航空機も船舶も空気や水という流体から抗力を受けるという点では似た部分が沢山ありますが、同じ用語でも微妙にニュアンスは異なるようです。特に異なるのは「造波抵抗」でしょう。

船舶の世界で「造波抵抗」といえば、船首が水面を切るときに波を造ることで失われるエネルギーに由来する抵抗になります。これを減らすため、喫水線下に「バルバス・バウ」という球状の突起が設けられます。通常船首が造る波と球状船首が造る波が合成され、各々が打ち消しあってエネルギー損失を抑えられるというのが、船の世界でいう造波抵抗の低減ということですね。

一方、航空機の世界でいう「造波抵抗」とは、衝撃波の発生によるエネルギー損失に由来します。遷(せん)音速(マッハ0.75~1.25くらいの速度域)に達すると、機体周辺の気流は音速を超える「超音速」と音速に満たない「亜音速」が入り混じるようになり、音速を超える部分からは衝撃波が発生します。

音速で生じる衝撃波の見た目が、船舶が水面に波を立てて進む状態によく似ているため、「造波抵抗」とか「造波抗力」などと呼ばれているわけですね。(これも深く語っているとハナシが進まなくなりますので割愛します。)

ホンダジェットが凄いのは、エンジンの搭載位置を工夫することで、この造波抵抗を減らしてしまったところです。

主翼の上にエンジンを搭載するというレイアウトは、従来の航空機設計の概念からすれば「やってはいけないこと」の一つでした。ボーイング社の風洞実験施設にテストモデルが持ち込まれたときに失笑が起こったのもそれゆえでしょう。しかし、風洞にそれをセットし、データ測定が始まると、ボーイングのエンジニア達の表情からその笑いは消え失せたといいます。

ホンダジェット(風洞実験)
テストモデルによる風洞実験の模様

ホンダが製作したテストモデルは、マッハ0.70~0.77の亜音速領域で翼の下にエンジンがあるタイプより抵抗が減っていました。さらに、マッハ0.77~0.84の遷音速領域まで上げると、胴体と翼だけの状態よりさらに造波抵抗が減少していたといいます。

彼らはコンピュータシミュレーションを駆使して胴体と翼とエンジンと、各々の要素が発生する気流の乱れを観察し、主翼の上のあらゆる場所にエンジンを置く実験を繰り返したそうです。各々が発生させる気流の乱れが互いを打ち消し合う最適な場所を見つけ出したんですね。船舶でいうバルバス・バウが船首の造る波を打ち消してエネルギー損失を抑えるように、ホンダジェットはエンジンの搭載位置を工夫することで似たような効果を得たということです。

ホンダジェット(主翼の圧力分布)
シミュレーションによる主翼とエンジン周りの圧力分布

一般的なビジネスジェットはプラット&ホイットニーとか、ロールス・ロイスなど、レディメイドのエンジンを用いますが、彼らはこれも自らの手で開発、GE(ゼネラルエレクトリック)と共同で改良を重ねてきました。その製造はGEと折半で事業化し、スペクトラム・エアロノーティカル社のビジネスジェットにも採用が決まったそうです。

現代の航空機は主翼が燃料タンクを兼ねるのが常識になっています。航続距離を伸ばすためにその容量を大きく取ろうと思うと、どうしても翼厚が厚くなり、空気の圧力抵抗が増えてしまいます。そこで、ホンダは「自然層流翼」と呼ばれる最先端の翼の開発も進めてきました。

これは翼の形状を工夫することで層流領域を拡大(乱流の発生を減少)させ、摩擦抵抗を減らそうというものです。(スミマセン、これも深く語っているとハナシが進まなくなりますので、非常に大雑把な説明だということをご承知おきください。)

また、表面の摩擦係数を抑えるため翼面にはあえてCFRPなどを用いず、高レベルに研磨されたアルミ合金製のそれを採用しているそうです。このように空気抵抗の低減や自前のエンジンで効率を追求するなど、細部にわたって徹底的な対策を実施したことで、同クラスのライバルより約40%も燃費を向上させたといいます。

さらに、左右のエンジンをつなぐ桁が機内を貫かない分だけ有効スペースも増し、同サイズで胴体に直接エンジンを搭載する方式のものより約30%のスペース拡大を実現したといいます。エンジンの振動や騒音が客室に伝わりにくくなっているのも前述のとおりです。

余談になりますが、このホンダジェットが2007年のグッドデザイン賞に選ばれたのは、同賞選考委員にしては珍しく良いセンスだと思いましたが、結局は金賞に終わり、大賞に選ばれたのは三洋電機のニッケル水素電池エネループのソーラー充電器や懐炉などの商品群だったところが、やはり彼ららしいところですね。



ホンダジェットは私の日常から最も遠い世界のホンダ製品で、一生ご縁はないでしょう。が、こういうチャレンジングな製品を開発するホンダが私の大好きなホンダです。これはあくまでも私の主観ですが、いまは次第に損なわれつつあるホンダらしい仕事というのはこういうものではないかと思います。

(おしまい)

いま最もホンダらしい製品 (その2)

化粧品の製造販売で有名なノエビアは、アメリカから航空機部品、シミュレータ、パイロット用ヘルメット、パラシュート、航法用コンピュータなどの輸入事業からスタートした会社だそうです。現在でもグループ内にノエビア・アビエーションという航空関連会社があるのはその名残でしょう。化粧品のCMに飛行機が度々出てくるのはそうした絡みと見て良いと思います。

ガルフストリームG550
Gulfstream G550
このG550は現在もオンエアが続けられている
ノエビア化粧品のテレビCM「ガルフストリーム・シリーズ」でも
お馴染みですね。


さて、一般的なビジネスジェットのエンジン搭載位置は、ご覧のように胴体後部の側面というのが定石です。これはこれでデメリットもあるのですが、一般的なジェット旅客機のように翼の下にエンジンを吊り下げるのも様々な問題があります。

一番の問題となるのは乗降性です。最近はターミナルビルにボーディングブリッジを設けるのが当たり前になってきましたので、旅客機の胴体が高くてもあまり問題ありません。旧来のパッセンジャーステップ(乗降用の階段,タラップとも)を用いる場合でも、胴体の高さが一般的な機体なら空港にパッセンジャーステップ車を配備して皆で使い回すことが出来ますから、コスト面で大きな問題はないでしょう。

しかし、ビジネスジェットで旅客機並みの高さに胴体を持っていくのは構造的にかなり困難です。中途半端な高さに胴体を持ってくると、専用のステップを立ち寄る空港毎に置くか、自前のステップを機体に作り込んで機内スペースを犠牲にしなければなりません。仮に一般的な旅客機並みの高さが可能だったとしても、時間的な制約から逃れられないでしょう。

そもそも、ビジネスジェットを使いたいというエグゼクティヴたちは、時間短縮を第一に考えている訳ですから、着陸したらとっとと移動したい訳ですよ。ボーディングブリッジやパッセンジャーステップ車は旅客機の運航スケジュールとの絡みもあるでしょうから、望むタイミングで利用できるとは限りません。なので、貴重な時間を奪われたくないというのであれば、単独での乗降が可能なほうが良いわけです。

胴体を低くしてやればステップも短くて済みますから、ドア部に備え付けることが容易になり、素早く乗り降りができるようになります。空港のボーディングブリッジやパッセンジャーステップ車を利用するのに比べると手間もコストも時間もかからないというわけですね。

コミューター機のステップ
Bombardier CRJ100
ANAグループのアイベックス・エアラインズの
50人乗りコミューター機ですが、
搭乗はご覧のようにドア部に作り込まれた
ステップを使用します。


胴体の位置を低く抑えたままエンジンを主翼に吊り下げても問題のないレイアウトもあります。軍用の輸送機などによくあるパターンですが、胴体の上部に主翼を設置する高翼機ですね。しかしながら、これにも様々なデメリットがあります。

ボンバルディアDHC-8
Bombardier DHC-8
例の胴体着陸で有名になったボンバルディアDHC-8シリーズは
ジェットではなくターボプロップですが、
典型的な高翼コミューター機といえるでしょう。


高翼機というのは、ご覧のような姿になります。荷重を主翼に吊り下げますから、胴体側面の強度や主翼との接合部の強度を確保するため、構造重量が重くなりがちです。また、不時着時も胴体が真っ先にクラッシュしやすいため、乗員の生存率も低くなるといわれています。低翼機ほどグランドエフェクト(地面効果)が生じないゆえ着陸時には有利だったり、メリットも色々ありますけどね。

ま、あとは見た目の問題もあるでしょう。これは主観の問題なので何とも言い難い部分はありますが、高翼機を見ると輸送機やセスナのようなイメージを抱き、戦闘機に多い低翼機のほうが格好いいと思う人は少なくないと思います。

低翼機で翼下にエンジンを吊り下げると、着陸時の胴体の位置を高くしなければならないことから前述のような乗降性の問題が生じます。それに加えて、エンジンが地面に近くなるほど余計なゴミを吸い込みやすく、トラブルの原因にもなりやすいと考えられます。上の写真のガルフストリーム機もそうですが、胴体側面に搭載する場合もなるべく高い位置に置くケースが多いのは、そうしたことが理由の一つです。

もちろん、低翼にして胴体後部にエンジンを搭載する一般的なビジネスジェットの構成にも欠点があります。こうしたレイアウトの場合、エンジン取付部の強度を確保するために左右のエンジンを桁でつなぎ、胴体との接合部も充分に補強してやる必要があります。そのため、機体後部のスペースが奪われ、機内の前後長が犠牲になってしまいます。

また、胴体とエンジンが近いと、両者の間で気流が大きく乱れやすいため、空気抵抗が増加しやすいという欠点もあります。スピードが伸びなくなったり、燃費が悪化するなどのデメリットにつながってしまうわけですね。おまけに、エンジンの振動や騒音も主翼に搭載するより居住スペースへ伝わりやすくなってしまうという問題もあります。

ホンダは、このマーケットへ新規参入するに当たって、こうしたデメリットを克服すべく、チャレンジャーらしい思い切ったアプローチをしてきました。それが主翼上部にエンジンを搭載するというタブーへの挑戦です。

(つづく)

いま最もホンダらしい製品 (その1)

最近のホンダはトヨタみたいだ。

そんな風に揶揄されるようになって軽く10年は経ったような気がします。私が大好きだったホンダは、二輪メーカーでは王者でも、四輪メーカーとしては若く威勢の良い中堅メーカーだったあの頃です。

ま、今日の自動車産業は超大手メーカーのグループに属すか、独立を守るなら自ら規模を拡大していくか、そのいずれかに舵を切らなければ生き残りは厳しくなるばかりでしょう。ホンダはいまのところ後者を選んでいますから、その大所帯を維持するにはマスマーケットのニーズに応え、盤石な販売網を確保し、結局トヨタ的にならざるを得ない局面は増えていくわけですね。これはやむを得ないところだと思います。

しかし、彼らが航空業界への参入を期して立ち上げたプロジェクトは何だか久しぶりにホンダらしさを感じる良い仕事をしているように思います。

ホンダジェット
HondaJet N420HA

あまり飛行機に詳しくない方でもお気づきかと思いますが、このクラスのビジネスジェットとは明らかに雰囲気が違いますね。その最大のポイントはエンジンの搭載位置が主翼の上になっているからです。このクラスのビジネスジェットがエンジンを搭載する場所は胴体の後部測面が常識です。といいますか、主翼の上にエンジンを置くということ自体がかなり非常識な部類になります。前例がないわけでもありませんが、普通はやらないんですね。

何故やらないかといいますと、主翼の上面の気流を乱したくないからです。

揚力

ご存じのように、飛行機の翼は上図のような断面形状となっており、翼の前縁から後縁まで空気が流れる時間に殆ど差がありません。ということは、カーブを描いている翼の上面を流れる空気のほうが遠回りをする分だけ、下面を流れるそれよりスピードが速くなります。気流が速いほうが気圧が低くなりますので(ベルヌーイの定理)、下面より気圧の低い上面側へ翼が吸い上げられていきます。

これを「揚力」といい、飛行機が空中に飛び上がることができるのは、この力の作用によるというわけですね。(実際はもっと複雑で、この原理を巡っては様々な論争もあるようですが、それに触れているとハナシが進まなくなりますので割愛します。)

ですから、翼の上面に気流を乱すような障害物を置くと気流の速度が低下し、揚力も減少すると考えられることから、ずっとタブーになっていたわけです。いえ、私も初めてホンダのビジネスジェットの画像を見たときは「いくら初めてでも、コレはないだろう」と思いました。

しかし、ホンダは闇雲にこうしたエンジンレイアウトを採用したわけではなかったんですね。詳しくは後述しますが、実はかなり緻密な計算をした上でこのレイアウトで行こうということになったそうです。

そうして出来上がったテストモデルがボーイング社の風洞実験施設に持ち込まれたとき、やはり同社のエンジニア達から笑いが起こったといいます。「基本も知らない素人め」との思いから沸いた失笑に違いなかったでしょう。

ホンダがこのようなエンジンレイアウトを採用したのは何故か? それは従来のビジネスジェットには構造的に様々な制約があり、ホンダはそこをブレイクスルーしようという大きな野心を抱いていたからです。

(つづく)

フランス人は世界一

これはあくまでも私の主観によるものですが、スポーツイベントの企画力、特にレースの企画力で世界一なのはフランス人ではないかと思います。

例えば、自動車の世界3大レースというと、モナコGP、ル・マン24時間、インディ500になりますが、このうち前二者はフランス人が企画したものです。また、かつて世界3大ラリーといわれた、サファリ(2002年で終了)、モンテカルロ、RAC(現在はウェールズ・ラリー・オブ・グレートブリテン)の前二者もやはりフランス人の企画したものです。さらに、デザートラリーの最高峰といえば俗にいうパリダカですが、これもまたフランス人が企画しました。

競馬は個人的な価値観からあまり好まないのですが、その最高峰といえば、フランスの凱旋門賞になるでしょう。ま、ヨットレースとかエアレースなどの最高峰はフランスじゃありませんし、例外もたくさんあります。なので、あくまでも私の主観ということですが。

さて、私たちサイクリストにとっての一大イベントは、何といってもツール・ド・フランスです(イタリア人にいわせたらジロ・デ・イタリアになるかも知れませんが)。動くお金の額もそうですし、テレビの視聴者数も観客動員数も、他のサイクルスポーツを圧倒する最大のイベントです。観客動員数に関しては、沿道で観戦している人たちを全て観客としてカウントするなら、あらゆるスポーツの中で世界最多になるというハナシもあります。

そのツール・ド・フランスの来年のコース概要が先日発表されました。

ツール2009コース図

何よりもうれしいのは、2005年を最後に行われなくなっていたチームTTが復活することですね。私は1985~91年までNHKが放送していたそれで洗礼を受けた世代ですが、TTバイク(当時は前後異径ホイールの「ファニーバイク」と呼ばれるものでした)を見て驚愕し、これに跨ったレーサーたちが美しいフォーメーションで疾走していく様に「自転車競技はこんなに格好いいものだったのか」と圧倒されました。それだけに思い入れも深く、ここ3年ご無沙汰だったことを寂しく思っていましたので、非常に楽しみです。

一番の見所は、やはり最終日前日でしょうか。「魔の山」あるいは「プロバンスの巨人」などの異名をとるモンヴァントゥがゴールとなります。モンヴァントゥといえば、2000年の第12ステージが有名でしょう。残り6kmでマルコ・パンターニが仕掛け、6人が脱落、最後はランス・アームストロングとの一騎打ちとなったあの名勝負の舞台となりました。

ツール2000モンヴァントゥ

この山はアルプスから地中海へ吹き下ろす乾燥した冷たい地方風「ミストラル」の影響で、山頂付近は草木もあまり生えない非常に殺伐とした風景が続きます。冬は非常に気温が下がり、水分が染み込んだ岩が凍結を繰り返して粉々に割られ、白い石が山肌を覆っています。何ともいえない不気味な雰囲気のこの山は、ツール史上最初の死者を出したことでも有名です。

イギリス人として初めてマイヨ・ジョーヌに袖を通したトム・シンプソンがこの地で絶命しました。NHKの番組では「40度を超える暑さと疲労のため、この地で力尽きました」というナレーションが入っていましたが、それはあまり正確なものとはいえないでしょう。もちろん、西洋人にとって縁起の悪い数字が3つも重なっていたからでもないでしょう。

トム・シンプソンの慰霊碑
トム・シンプソンの慰霊碑
1967年7月13日、第13ステージで、総合13位だった彼は
この場所で亡くなりました。


彼が着用していたジャージのポケットからアンフェタミン(覚醒剤の一種)が入ったアンプルが3本見つかり、そのうち2本は空になっていたといいます。現在ではあり得ないハナシですが、当時のドーピング事情はこんなものだったのですね。

それはともかく、いつものツールのパターンであれば最終日の前日か数日前に個人TTが入り、本格的な山岳ステージはその前に終わっています。このタイミングに本格的な山岳ステージを持ってくるというのはかなり珍しいパターンになると思います(ツールより山岳の割合がずっと多いジロでは珍しくないかも知れませんが)。しかも、そんじょそこらの山ではなく、あのモンヴァントゥですから、正直「やられた!」と思いましたね。

ツールが別格に思えるのは、いつもこういうサプライズを模索しているからなんでしょう。やっぱりフランス人の企画力は凄いと思います。


近代スポーツの歴史を振り返りますと、その概念や競技そのものを発案する能力ではイギリス人が抜きん出ていたと思いますし、(ヨーロッパ人にとっての)新大陸で次々に新しいスポーツを生み出していったアメリカ人も凄いと思います。が、イベントの企画という点においては、やはりフランス人の存在感が際立っていると思います。

現在、世界最大のスポーツイベントである近代オリンピックもフランス人のピエール・ド・クーベルタン男爵が企画しましたし、テレビ視聴者数ではそれを上回るというサッカーのワールドカップもフランス人のジュール・リメが企画しました。やはり、フランス人の企画力は世界一だと思うのですが、いかがでしょう?

不都合でもない真実

地球温暖化人為説の伝道師としてアメリカ副大統領時代より世界的な知名度を上げているアル・ゴア氏ですが、彼の映画『不都合な真実』は2007年10月10日、イギリス高等法院に「科学的な誤りが9箇所ある」と指摘されたことをご存じの方も少なくないと思います。もっとも、その指摘事項はIPCCの評価報告書との食い違いなどから内容が誇張されているといったものが多い印象ですし、全般的な内容やメッセージについては妥当とされましたけどね。

不都合な真実(書籍版)
不都合な真実
構成の殆どは写真などのグラフィックで、
結論へ至る過程の理論を解説するのではなく、
視覚的なイメージで訴えかけるばかりで
科学的な要素は極めて貧弱です。
それにしても、こういう変形サイズは
本棚への収まりが悪く、邪魔くさくて困ります。


私の視点からは9箇所どころの騒ぎではなく、誤りとまでは断言できない疑問点も含めたら、ほぼ全編が指摘事項になってしまいそうな勢いです。それを全部取り上げていくとなると膨大な作業になり、それこそ書籍版の何倍ものボリュームを要することになるでしょう。なので、ここでは解りやすいところから1点だけ指摘することにします。

イギリス高等法院からも「地球温暖化でキリマンジャロの雪が解けたとの指摘は科学的に証明できない」と指摘されていますが、問題視されたその部分は書籍版ですと42~43頁に掲載されています。「明らかに、私たちのまわりの世界に、ものすごい変化が起きている。」との見出しと共にこんな写真が載ってるんですね。

キリマンジャロ(1970)
キリマンジャロ(1970年)

「この写真は、1970年のキリマンジャロだ。有名な雪と氷河が写っている。」というキャプションが付いています。その見開きで対比されているのが次の写真です。

キリマンジャロ(2000)
キリマンジャロ(2000年)

「たった30年後の姿だ――氷も雪も激減している。」と付されています。では、現在はどうなっているでしょうか?

キリマンジャロ(2008)
キリマンジャロ(2008年)

今年の1月に『The New York Times』の電子版でキリマンジャロ登山の模様を伝えるレポートに用いられていた写真です。ご覧のように2000年より明らかに雪氷が増加していますね。

そもそも、積雪量や降雪量は気温だけに支配されるような単純なものではありません。例えば2005~2006年の冬、日本海側の豪雪地帯は記録的な大雪となりました。いわゆる「平成18年豪雪」ですが、国道405号が積雪のために通行止めとなり、新潟県津南町と長野県栄村の約190世帯が孤立するという事態にまで至りました。

この豪雪は気温が低かったことだけが直接の原因ではありません。2005年の夏から秋にかけての気温が例年よりかなり高めで、日本海の水温も例年より1~2℃高くなっていたことが要因の一つと考えられています。つまり、海水温が高かったことから水蒸気の発生量が多くなり、雪雲をより発達させたために降雪量も増えたとする考え方です。

いずれにしても、写真というのは瞬間しか記録できません。冠雪のように激しく変動するものの一瞬を切り出して天変地異だ何だと騒ぐのはナンセンスというものです。

もし、キリマンジャロの雪氷の変化が地球温暖化と関係があるというのであれば、気温や降雪量など科学的なデータを収集し、充分に検討した上で合理的に論を進めていくべきです。2枚の写真を並べ、各々に上述のようなごく短いキャプションを付けるだけで他に何の説明もなく、徒にイメージを植え付けようとするのは似非科学に属する手段です。

『不都合な真実』の書籍版では私たち否定的・懐疑的な立場の人間から出されている指摘を「誤解」として掲げ、それに反論しています。が、根拠が不明瞭だったり、コンセンサス主義に傾倒していたり、およそ科学的な反論になっていません。

「気温が上がっていない場所がある」という指摘に対しては「気候は想像を絶するほど複雑なシステムなので、気候変動の影響はどこでも同じというわけではない」と反論しています。が、これはキリマンジャロの冠雪が変動している写真を比較したことが全くの無意味であることを自ら認めるものです。

もう一つ、これはアル・ゴア氏への個人攻撃のようになってしまいますが、約束を守っていないので批判しておきます。

昨年、彼はテネシー州にある自宅でのエネルギー消費量がアメリカの一般市民の平均と比べて約20倍に達していることを暴露されました。省エネを呼びかけている伝道師が、実は大変な浪費家であると明かされ、多方面から批判を受けていました。それについて善処する旨を誓ったハズですが、あれから1年経ってさらに10%もエネルギー消費量を増やしているそうです。

『不都合な真実』の306頁には「自宅の省エネを進めよう」と謳い、省エネ型の照明を選ぼうとか、冷暖房の効率を上げようとか、無駄な待機電力を減らそうとか、真っ当なことがたくさん書かれていますが、彼自身は何一つ実践していないということですね。

地獄のソウルは天国へ生まれ変わる

日本でも長きにわたってサイクリストの受難が続いています。自動車の普及が進んでいった1960~70年代、それに伴って自転車との接触事故が増加していきました。そうした状況を受けて自転車専用道の整備を前提とし、緊急避難的な措置として自転車が歩道を走行できるように道交法が改められたのは1978年のことでした。この姑息な法改悪は、しかし前提条件がほぼ完全に棚上げされたまま時間だけ流れ、30年が過ぎ去ってしまいました。

お陰で、「軽車両である自転車は本来車道を走行しなければならない」という原則を殆どの人が忘れ去ってしまいました。また、運転免許を取得した瞬間に全ての記憶がリセットされた阿呆ドライバーは自転車が車道を走っていることが許せず、クラクションを鳴らしたり幅寄せしたり、時には罵声を浴びせるなど、傍若無人に振舞うという体たらくです。

こうして歩道に押し上げられた自転車ですが、走りながら携帯電話を操作する大莫迦者が増加していることなども手伝って、歩行者を死傷させる事故が増えてきました。そうした状況から批判の声が上がるようになり、国土交通省や自治体などもようやく重い腰を上げはじめました。現在はモデル地域を設定して自転車専用レーンなどを設置し、その様子を伺っているような状況かと思います。

もっとも、そうした計画を進めているのは普段から自転車を利用していない人たちなのでしょう。歩道を分割したり、車道をわずかに削って最小限の幅員しか確保していないためにゆっくり走っている人がいたらたちまち渋滞してしまったり、狭い幅員でも無理矢理対面通行にしたり、非常に走りにくいケースも少なくないようです。結局、利用者のことを真剣に考えるつもりはないのかも知れません。

一方、韓国は日本にも劣るサイクリスト地獄だといいます。中央日報の記事「乗れば悪口を言われる自転車…道路の構造が問題」によりますと、自転車を通勤手段にしている人の割合は日本の14%、オランダの27%に対し、韓国はわずか1.2%、ソウル市内に限っては0.8%に過ぎないそうです。ステイタスなどの問題もあるようですが、もっとも大きい理由は道路事情の悪さにあるようです。それゆえ、安全面の懸念から自転車通学を禁止している学校も少なくないそうです。

そうした韓国にあって、ソウル市が全域に大規模な自転車専用道を整備するというニュースが入ってきました。

ソウル全域に自転車道、2012年までに2百キロ

【ソウル21日聯合】ソウル市は21日、自転車で都心に通勤できるよう道路の1車線を減らし、2012年までに207キロメートルの自転車専用道路を造成することを骨子とした自転車利用活性化総合計画を発表した。

 ソウル市は同事業により、現在1.2%にすぎない自転車輸送分担率を2012年に4.4%、2020年には10.0%まで引き上げることができると予測している。また、自転車利用の活性化は原油高の克服に加え大気質の改善、乗用車の利用抑制による渋滞の解消、駐車問題の解決、健康増進による社会的費用の減少と「一石五鳥」の効果を上げ、年間5745億ウォン(約44億円)に相当する便益が得られるものと見込んでいる。

 総合計画によると、まず清渓~千戸軸や市庁~始興軸など都心に進入する4つの軸(70キロメートル)と、東西・南北地域をつなぐ13の軸(137キロメートル)に自転車専用道路が造成される。あわせて、漢江の自転車専用道路の幅を4メートル以上確保することで高速走行を続けられるようにする。特に漢江と都心の自転車専用道路の連結に向け、2012年まで漢江にかかる橋の19カ所に自転車用エレベーター設置することにした。また、清渓川と大学路、古宮とオフィスが密集する都心地域にも自転車専用道路循環網7キロメートルが構築されるほか、都心地域での公共レンタル自転車の導入も検討されている。

 自転車の通行量が多い蘆原圏域、松坡圏域、汝矣島圏域などには自転車を便利で安全に利用できるよう、2012年までに自転車用信号など多様な便宜施設を整えた自転車親和タウン12カ所を造成する。蚕室駅や新道林駅など自転車駐輪需要が300台を超える地下鉄16駅には、ロッカーとシャワー室を備えた自転車専用駐輪ビルを建てる。

 ソウル市は先月初め、自転車政策を体系的に推進するための専門担当部署「自転車交通推進班」を広域自治体で初めて新設した。呉世勲(オ・セフン)市長は「21世紀の都市はエネルギー・環境問題に適切に対応しなければ成長を期待できない。今回の事業を通じ自転車を生活の中の交通手段として定着させ、ソウルを環境にやさしい都市に発展させたい」と話している。

(C)聯合ニュース 2008年10月21日


ソウル市の計画で優秀なのは、「自転車専用道路の幅を4メートル以上確保することで高速走行を続けられるようにする」とか、「自転車駐輪需要が300台を超える地下鉄16駅には、ロッカーとシャワー室を備えた自転車専用駐輪ビルを建てる」といった具合に、サイクリストが何を求めているのかきちんと把握しているところです。

日本は「とりあえず自転車が走れる専用レーンをつくればいいんだろ」的な発想で、事故が多発している現状に対する批判をかわすためとも受け取れるような次元の低い計画も見られますが、ソウル市の計画は入念なリサーチが行われ、その結果を踏まえて検討が重ねられたのだと思います。環境対策としても重要な位置づけとし、専門部署も新設されたとのことですから、「本気度」が日本とは全く違うように見えます。

東京都は破綻が確実な銀行に400億円もの追加出資をしたり、三宅島で危険なレースを企画することはあっても、こうした取り組みは全く考えていないのでしょう。石頭知事もとい、石原知事は環境対策として実施したところで何の効果もないであろうコンビニの深夜営業規制を検討しているようですが、ソウル市のように建設的な取り組みには興味がないようです。

もっとも、日本の道路行政は国と自治体の縄張りも色々ありますから、一筋縄ではいかないのかもしれませんけどね。

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暴走知事、三宅島をゆく

三宅島復興の起爆剤として開催されている「チャレンジ三宅島モーターサイクルフェスティバル」で名誉会長を務める石原知事がスピーチしましたが、またいつもの調子で暴言を吐いていましたね。YouTubeにその模様がアップされていましたので、とりあえずご覧頂いたほうが早いでしょう。(いえ、最近はサーバーのキャパが不足気味のようですから、時間がかかるかも知れませんが。)



「何人かの人から聞きました」という噂(知事本人が「噂」と明言しています)で、ホンダがメディアに対して「もしこの取材(記事)を載っけたら、絶対に広告出さない」と圧力をかけ、このイベントを潰そうとしているといった主旨を述べ、大激怒しています。

知事本人も大相撲の八百長疑惑と同じく明確な根拠がないことを認めていますが、そんないい加減なことでホンダを名指しし、批判(というより誹謗中傷)を展開しているのが、また実に彼らしいところですね。

そもそも、このイベントは石原知事のいつもの「思いつき」で動き出したと記憶しています。私もザックリと経緯は見てきたつもりですが、ホンダがこれを妨害するメリットが何処にあるのか全く見当も付きません。

彼は「ホンダが反対するのにはそれなりに理由があったでしょう。しかし、違ったかたちでドラッグレースも含めてね、去年やってね、注目をある程度集めたら、それが気に入らなかったのかどうか知らんけども、(中略)何でホンダみたいな大企業がそれを潰そうとするんだよ!」と吼えています。

ご存じのように、当初このイベントは三宅島の外周路約30kmを閉鎖し、マン島TTレースを真似た公道レースをメインとして企画されたものでした。このとき、東京都と日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)はどのように運営すべきか、元ホンダワークスのライダー宮城光氏に意見を仰いだんですね。同氏が実際に三宅島へ視察に行って出した結論はこうでした。

・幅員が6~7mと狭く道路沿いに家屋や石垣などがある。緩衝材などで対策しても安全性は不十分。
・都内の総合病院まで最短40分かかり、救急設備も不十分。
・車両の安全地帯がなく、事故の場合は二次災害が懸念される。
・絶対に公道レースはやってはいけない。
・サーキットを作るべきだ。


また、世界選手権で入賞経験のある難波恭司氏も東京都に以下のようなリポートを提出しています。

現状では選手に「死ね」というようなもの。レースに危険はつきものだが、選手は安全性が確保されて初めて危険に挑める。命知らずとは違うということを石原知事に理解してもらいたい。


ついでに、この頃レースの実現可能性を私なりに考え、備忘録として纏めた雑文も紹介しておきましょう。

日本でモナコGPやマカオGPなどのような公道レースをやろうと言い出せば、反対意見は必ず出てくるだろう。ただ、これらは数十台のレースカーが同時に走行する普通のレースだが、マン島ツーリスト・トロフィーは1台ずつ走行するタイムトライアル方式のレースゆえ、転倒やコースアウトなど基本的に単独事故となる。他車との接触や多重クラッシュなどは走行間隔の空け方にもよるが、それら4輪の公道レースとは根本的に異なるだろう。

条件的にはWRCなどのラリーイベントに近似していると思う。日本でも既に北海道でWRCが開催されているが、オンボードカメラの映像などで見た限りでは幅員のない両側に木が立ち並ぶ林道もコースに設定されていたように思う。

しかし、こうしたレースを三宅島で開催するということ自体に疑問がある。

三宅島は現在(2007年2月)でも多量の火山ガスを放出しており、それに含まれる有害な二酸化硫黄の量は今月16~23日の観測結果でも2300~3600t/日に及ぶ。日本全体で人為的に排出されている(工場や自動車の排出ガスなどに含まれる)二酸化硫黄は3000t/日程度だから、これと同等の二酸化硫黄が日本の国土のわずか0.015%に満たないこの島で放出されていることになる。

また、現在でも三宅島へ上陸する際にはガスマスクの携行が義務づけられている。雄山から海岸へ向かう火山ガスの高濃度区域は2箇所あるが、いずれもコースを横切っている。開催時期まで火山活動の状況に変化がなければ、ガスマスクの携行ないし着用が義務付けられたオートバイレースになるかも知れない。こんなレースは前代未聞だ。私の目には奇行としか映らない。


現在でもホンダの関係者である宮城氏がレースの開催について意見を求められ、反対の立場をとったのは事実ですが、ヤマハのライダーだった難波氏も同様の意見を述べていますから、レース経験者として「反対」は共通見解だったのでしょう。

もっとも、「安全性に懸念なし」と太鼓判を押して死亡事故でも起こされたら、道義的に責任の一端を担わなければならないでしょうし、大衆メディアの吊し上げを食うことにもなるでしょうから、どうしても反対寄りになるとは思いますけどね。

ま、ホンダの関係者に反対意見を突きつけられたことに対する逆恨みからあのような発言に至ったのかどうかは解りません。が、ホンダのみならず、国内4メーカー全てが東京都の協力要請を断っている状況でホンダがメディアに圧力をかけたというのなら、明確に根拠を示さなければなりません。居酒屋で酔っぱらって吐いた言葉ならともかく、都知事として公の席での発言ですから、相応の責任というものがあるハズです。それにしても・・・

「どれだけ大きな会社か知らんけども、やっぱりホンダの広告欲しいから書かんでしょう。記者なんて今日一人も来てない。」「これだけのイベントに、関係者の、要するにメディアが一人も来ない。こんなね、おかしな現象ってないでしょ?」

と豪語していましたが、有名バイク誌を含む16社33名が取材のために現地入りしていた事実を彼は知らなかったのでしょうね。

ともかく、こんな風に単なる噂話を振りかざして怒りをぶちまけられたのでは、イベントの雰囲気を損なうだけだと私は思うんですけどねぇ。恐らく、参加者の中にはホンダユーザーもいたと思いますが、あれだけ悪し様に言われたら気分を害したのではないかと思います。

来年のこのイベントにホンダユーザーが何人参加するのか、私は非常に気になるところですが、彼の暴走状態の頭ではそうした配慮など全くなされていなかったのでしょう。

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科学と似非科学の違い

あれからもう1年半くらい経ちますが、関西テレビが制作していた『発掘!あるある大事典2』の捏造問題を受けて、各メディアの反応は批判と自戒が相半ばしていたような印象でした。週刊誌業界と違って、新聞やテレビの報道局などは仲間意識が強いのか、同業者の不祥事には比較的冷静に対処しているように見えます。

時期的に近かった不二家に対する批判報道と見比べると、関西テレビに対するそれは遙かに手ぬるいものでした。「明日は我が身」と思い、自分たちのときにあまり手厳しく叩かれないようにとの思いが交錯していたのかも知れません。が、実際のところはどうなのでしょう?

ま、それはともかく、件の捏造問題を受けて、朝日新聞は科学欄に「科学と科学のフリをした似非科学をどう見極めるか」といった主題のインタビュー記事を載せていました。この取材に応じたのは科学哲学者の伊勢田哲治氏(名古屋大学情報科学研究科准教授)という人物です。

反証あってこそ科学

というこの記事の見出しに全てが集約されていると思います。全文を引用すると長くなりますので、ポイントだけ抜粋します。


(前略)

――科学とは何かを突き詰めて考えるのが「科学哲学」ですね。その立場から、「あるある」事件をどう見ますか。

「表面的に科学的に見えるパーツを集めているけれど、科学の方法論は全く採用していませんでしたね」

――科学の方法論とは?

「一番オーソドックスなのは、反証主義です。仮説に合うデータではなく、むしろ矛盾するデータ、つまり反証を集めようとする。反証が出そうな実験をし、それでも仮説が生き延びたら一応認めてあげようというのが科学です」

(中略)

「実際の科学は単純な反証主義で動いているわけではありません。科学と科学でないものの間には大きなグレーゾーンがあって、線を引こうとしても明確な線引きはできない。ただ『典型的な科学』は存在するし、反対に『典型的に科学でないもの』もあります」

――二つを分けるものは何でしょう。

「仮説の内容というよりは、仮説に対する態度が大きなファクターです。大した根拠のない仮説から研究を始める科学者はいます。科学者であれば単なる仮説として扱いますが、疑似科学をやっている人は、根拠がなくても確立しているかのように言い、不利な証拠が出てきても無視します」

(後略)

(C)朝日新聞 2007年4月6日


私も伊勢田氏の科学哲学については諸手を挙げて賛同します。仮説に不都合な証拠を突きつけられても適当な言い逃れで真摯に対峙しようとしなかったり、初めから無視したりする一方、都合の良いデータばかりを並べ立てるだけでは科学とはいえません。

そういう意味で、地球温暖化人為説は似非科学に属する条件をほぼパーフェクトに満たしているといえるでしょう。


Climate Change 2007
The Physical Science Basis

IPCCの評価報告書は「Science」を標榜していますが、
再現能力の未熟なコンピュータシミュレーションによる予測と
人為説に都合の良いデータがばかりを羅列している状態で、
「反証」という概念は全く存在しません。
そして、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の
上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によって
もたらされた可能性がかなり高い。」と結論づけています。
(「可能性がかなり高い」とは確率90%以上と定義されています。)

亜光速で宇宙旅行?

よく深夜に海外の(主にアメリカの)通販番組を日本語に吹き替えて放送してますね。ま、私はあまり興味がないので積極的に見ることはありませんけど。でも、突然知り合いが出てきたので、思わず見入ってしまいました。

先日、風呂上がりにテレビをつけたら、たまたまそのテの番組で「日本のユーザーの声」みたいな感じで差し込まれるカットが流れていたのですが、前職の同僚が出ていてビックリしました。

彼女は退職してフランスに渡ったのですが、当初は語学留学みたいな感じだったと思います。あまり良く覚えていませんが、フランスではネット関係のビジネスが日本ほど進んでいないから、そちら方面で何かやってみたいとか何とか言っていたような気もします。一度帰国した際に会ったとき、向こうで同棲している年下の男性と近いうちに結婚するようなことを言っていたのはよく覚えていますが。

その後は全く音信不通で、フランスに定住してしまったのか日本に戻っているのかさえ知らぬまま、十数年経ったでしょうか。

で、いきなりテレビモニタの向こうに彼女がいたわけですよ。幼い子供と、あごの下にタプタプと肉を弛ませたフランス人の旦那と共に。

「どういうツテで出演することになったんだろう?」などと私は一人つぶやいていました。

それにしても、私より2歳年上だった彼女が、1歳年下になっていたのは何故なんでしょう? 光速に近いスピードで宇宙旅行でもしてきたのでしょうか?

北極海の氷は減ったときしか報道されない

以前にも触れましたが、「北極海を人工衛星で観測するようになって以来、海氷が最も大きく後退した」ということで、昨年の夏は大衆メディアが大騒ぎしていました。あそこまで海氷が減ってしまう状態はどのコンピュータシミュレーションでも予測できなかったことから、「想定を30年も上回る異常なペースで温暖化が進んでいる」とか「25年以内に夏期の北極海は海氷が消失してしまうかもしれない」などと盛んに煽っていましたね。

北極海海氷面積の予測と実測の比較
赤い実線が観測データ(2007年まで)になります。
それ以外はシミュレーションによる再現および予測データですが、
その結果は全くアテにならないと判断すべきでしょう。


しかし、今年の夏は昨年のように北極海の海氷が話題になりませんでした。何故でしょうか?

北極海海氷

北極海の海氷が最も少なくなる時期は毎年9月くらいです。上掲の画像データは昨年と今年の10月13日ですから、ピークより1ヶ月程度遅いものになると思いますが、ご覧のように今年の海氷面積は昨年と比べものにならないほど増えていることが誰の目にも明らかですね。

大概のメディアは南極のオゾンホールについても大きく発達したときだけしか伝えず、毎年初夏になれば消失してしまうという事実(詳しくはコチラ)を伏せています。彼らは自分たちが唱える脅威論に好都合な情報は鬼の首を取ったように報じますが、逆に不都合な情報は黙殺するということを続けてきました。今回もその繰り返しということですね。

そもそも、北極海の海氷の分布について人工衛星での観測が始まったのは1970年代からですが、当時は1940年代後半くらいから30年くらい続いていた気温下降のボトムに近い時期でした。

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当時は多くの気候学者が寒冷化の進行を危惧しており、氷河期に突入する予兆ではないかとの議論も少なからずなされていました。殊に北極圏の寒冷化は顕著で、冬には北極海が海氷で埋め尽くされ、海氷が増加していくことで北極海沿岸の海路が大きく制限される状況を問題視する向きもあったといいます。

また、人工衛星での観測が始まる前に関しては具体的なデータが極めて乏しく(米ソが北極海の海氷下に潜水艦を展開してデータを集めていたともいわれますが、それは重要な軍事機密ゆえ門外不出になっているとのハナシもあります)、昨年の夏以上に海氷が後退したことが過去にあったか否かもよく解っていません。

ということは、北極海の海氷が減少傾向にある近年が異常なのか、冬場には海氷に閉ざされていた30年ほど前が異常だったのか、基準となる「正常な分布状態」がどの程度になるのか、それは誰にも解らないでしょう。

加えて、人工衛星のデータも完璧ではないという人がいます。夏場には海氷の上部が溶け、水が溜まることがあるのだそうですが、人工衛星の画像ではそれが海面なのか氷上の水溜まりなのか確実に区別できるわけではないとの理由です。

現に、アラスカ大学国際北極圏研究センター所長の赤祖父俊一教授は、北極海での夜間作業中に人工衛星の画像を見ながら海氷がない場所で観測船を航行させていたところ、危うく海氷に囲まれそうになったことがあるといいます。

このように、人工衛星の画像を見た印象では海面が露出しているように見えても、実際に現場へ行ってみると氷上の水溜まりだったという場合もあり、その画像を元に海氷面積を求めたデータより実際の海氷面積のほうが大きい場合も充分に考えられるという訳ですね。

いずれにしても、大衆メディアが伝えていることはほんの一側面に過ぎません。物事の一側面しか伝えないというのは偏向報道以外の何ものでもありません。以前、ツバルについても述べましたが、地球温暖化問題を取り巻くエピソードについて、調べれば調べるほど世間に認識されていることとは全く違う側面が次々に見えてくるのは何故なんでしょうか?

テーマ:環境問題 - ジャンル:ニュース

消えないセキュリティソフト

セキュリティソフトをノートンからカスペルスキー(以下カスペ)に切り替えた話はかなり前にしましたね。ノートンは2007年版までしか知りませんが、ことあるごとに嫌というほどの存在感を示していたノートンに比べると、カスペは裏方に徹してシッカリと仕事をしてくれている印象が強く(個人的な感想です)、ノートンに戻すつもりは全くありません。

で、これも以前お話ししたとおり、3ヶ月ほど前に常用のノートPCが昇天して買い替えました。それにはマカフィーがバンドルされていましたので、そちらのほうが良ければ乗り換えても良いかな?と思い、90日のライセンス期間一杯まで使ってみることにしたんですね。

マカフィー
これは製品版のパッケージです

アンチウィルスなどメインの機能で出しゃばらない感じはカスペとの差を殆ど体感できませんでした(Amazonのカスタマーレビューではバンドルされていた無料版から製品版に変えた途端に重くなったとの情報もありますが)。セキュリティの能力もたぶん決定的な差はないような気がします(個人的な感想です)。

それはともかく、ブラウザのプラグインで「McAfee SiteAdviser」というフリーソフトもプリインストールされていました。「知らないうちに危険なウェブサイトを閲覧しないために検索結果の横に赤、黄、緑で安全性を知らせます」というもので、検索サイトの検索結果に危険度を知らせる3色のアイコンが付されます(細かい機能はよく知りませんが)。ま、あまり役に立った印象もありませんでしたけどね(個人的な感想です)。

ある日突然、そのツールバーが勝手に表示され、グーグルツールバーは表示されなくなるというトラブルが発生しました。「ツールバーを固定する」のチェックを外してみたところ、グーグルのほうは表示されるようになりましたが、マカフィーのそれは消しても消しても頁を切り替える度に表示されてしまうんですね。

そのツールバーの分だけ表示スペースが食われ、正直なところかなりイラッとさせられました。なので、そのサイトアドバイザーとやらだけアンインストールしてみました。すると案の定、全て正常な状態へ戻りました。やはり悪さをしていたのはコイツだったと見て間違いないでしょう。

本体のセキュリティソフトとは関係ありませんが、こうして印象が悪くなったマカフィーを使い続ける気にもなりませんでしたし、今月初旬にはカスペの2009年版も発売になっていましたので、またカスペのお世話になることにしました(2008年版のカスペのライセンスも残っていますが、2ヶ月足らずですから、年末の繁忙期にまた処置するのも面倒ですので)。ということで昨日、2009年版のカスペを入手し、入れ替えることにしました。

カスペ2009

定石通りマカフィーをアンインストールし、タスクトレイからもインストールされているプログラムの一覧からもマカフィーが消えたことを確認し、もちろん再起動もし、カスペをインストールしようとしました。ところが、何故か競合するソフトを削除するようにといった旨のコーションが現れ、マカフィーのそれが示されていました。

どこかに削除しきれず、手動で削除しなければならないファイルが残っているのかと思い、それらしきルートを色々当たってみました。隠しフォルダや隠しファイルなども全て表示させ、散々探し回ったのですが、結局何も見当たりませんでした。

既にマカフィーは作動していませんので、PCは殆ど丸裸状態になっていたと思います(ウィンドウズに付属しているセキュリティ機能がどれだけ働いてくれるか解りませんが)。さすがにこの状態でネットに繋ぎたくはありませんでしたので、別のPCで調べてみますと、同じようなトラブルがかなり頻繁に発生しているようなんですね。実際、「マカフィー」でググってみますと、関連のキーワードで「マカフィー 削除ツール」というのも出てくるくらいですし(ノートンでも出てきますが)。

マカフィー・サポートの「マカフィー・コンシューマー製品がアンインストール出来ない時の対処方法」に書かれていた説明はあまり解りやすくありませんでしたが、これは同社に限ったことではないので不問としましょう。ともかく、削除ツール「MCPR.exe」をダウンロードして実行したところ、アッサリと問題は解決しました。

これが何年も使い続けた古いPCで、ソフトをインストールしたのもかなり前のことで、その後に色んなソフトが出入りして、レジストリもグチャグチャになっていたとか、そういう状況なら「ま、仕方ないか」と思います。が、買ってからまだ3ヶ月のPCで、その辺はかなりキレイに使ってきたつもりですから、何となく納得いかない感じです。

私はPC複数台体制でやっていますから、別のPCでネットから情報を得て無難に対策を実施できました。が、1台しか持っていないという人だったら、これはかなり不安な思いをしたのではないでしょうか?

セキュリティソフトを入れていない状態のPCをネットに繋ぐのがどれだけ危険なことかは想像に任せるしかありませんが、それが如何に危険なことであるかを誰よりも盛んに宣伝しているのは当のセキュリティソフトベンダーです。よほどのことがない限りこんな状況に陥らないよう、万全の上にも万全を期して設計すべきでしょう。

ということで、さようならマカフィー。もう二度と会うことはないでしょう。

ノーベル賞を受賞し損ねたバス運転手

今年のノーベル化学賞を受賞した下村脩氏は「緑色蛍光タンパク質の発見と開発」の功績を認められたわけですが、単独受賞ではなく、同じ分野の研究者であるマーティン・チャルフィー氏、ロジャー・ヨンジェン・チエン氏との同時受賞になります。この栄光の影で対照的な境遇にいる一人の人物がアメリカのメディアでクローズアップされています。

この緑色蛍光タンパク質を発見したのは下村氏ですが、チャルフィー氏やチェン氏はこれを応用する基礎づくりに多大なる貢献をしました。両氏とも、この緑色蛍光タンパク質の遺伝子をある人物から譲り受け、その後の研究の礎としています。

チャルフィー氏やチェン氏にその遺伝子を提供した人物が、いまアメリカでクローズアップされているダグラス・プラシャー氏です。当時、彼は下村氏と同じウッズホール海洋生物学研究所の職員で、下村氏が発見した緑色蛍光タンパク質の遺伝子を解析、その配列を明らかにするという極めて重要な研究を成した人物です。

プラシャー氏はその遺伝子を用い、まさにチャルフィー氏らと同様の研究に挑んでおり、チャルフィー氏の最初の論文はプラシャー氏との共著だったといいます。が、その後は成果が上げられなかったのか詳しい状況は解りませんが、プラシャー氏は研究費の支給が打ち切られ、失業に追いやられてしまいました。

その後、エネルギー省やNASAでより応用に近い研究を行ってきたものの、約3年前に再び失業、現在は当面の生活のためにアラバマ州はハンツビルのトヨタ販社、ビル・ペニー・トヨタで送迎バスの運転手をしているそうです。

初期段階の研究過程において、彼が深く関わり、大きな成果を残した分野から3人のノーベル賞受賞者が誕生し、そのうちの2人は彼が提供した遺伝子がその出発点になっていたといっても過言ではないでしょう。このことについてどう思うか問われた彼は以下のように答えたそうです。

「私にはノーベル賞受賞者のような能力が全くないので、恨むような気持ちは一切ない。ただ、研究のことを全て忘れてしまう前に何らかの研究職に就きたい。」

プラジャー氏が現在置かれている境遇に至る経緯について私は何も知りません。ベースボールプレイヤーに例えるなら、過去に一度だけ大きな試合の重要な場面でホームランを放って活躍した以降は大した成績を残せないままメジャーから降格、下位リーグで燻りながらついに放出されてしまったというパターンに似た状況なのかも知れません。

傍目にはこうした想像しかできませんが、世界一の基礎研究大国ともいうべきアメリカでさえ、このような人物を出しているのが現実ということなのでしょう。プラシャー氏のような重要な功績を残した人物が送迎バスの運転手という浪人生活に甘んじていることは決して望ましい状態でないのは確かだと思います。

浪人といえば、日本も非常に深刻な状況です。大学院博士課程を修了した若者が就職難に喘いでいる現状をご存じの方も少なくないでしょう。

1991年に大学審議会が打ち立てた「大学院生倍増計画」によって、1991年には320だった大学院の数が2007年5月には598に増え、院生も約10万人から約26万人に増加しています。急増した彼らの約25%が就職できない「浪人博士」となっている現状は、むしろ若者の修学意欲をくじくもので、計画の失敗を意味するでしょう。

博士課程修了者数と未就職者の推移
博士課程修了者数と未就職者数の推移
2004年以降はアルバイトを未就職とカウントしないイカサマで
見た目の就職率を上げようとするトリックを仕掛ける
末期状態に陥っています。


「大学院生倍増計画」の答申を受け、政府の補助金が増額されたことが大学院と院生の増加につながりました。しかし、結局はその受け皿を熟慮していなかったツケとして「高学歴ワーキングプア」の猛烈な増加につながってしまったわけです。この計画の欠陥を見抜ける「目利き」がいなかったことが、失敗の大きな要因といって良いように思います。

日本政府は「日本人のノーベル賞受賞者を向こう50年間で30人に」などという前時代的な国威発揚を思わせる科学技術基本計画を進めていますが、政府の研究費援助資金が増額されても、それが有効に分配されなければ優秀な人材とその研究が実を結ぶ助けになるとは限りません。

派手な花に目を奪われ、それが実を結ぶことのない徒花と気づかずにカネを注ぎ込んでしまうようではあまり意味がありません。つぼみが小さく、色味が地味でも、価値のある実を結ぶかどうかを見極めることの出来る「目利き」を育ててこそ、援助資金の増額も意味を持つのだと思います。

やはり、カネもヒトも、生かせるかどうかは評価機能が重要な鍵を握るのだと私は思います。

ノーベル賞に縋る権威主義者たち

当blog初回のエントリスタート1ヶ月のエントリでも触れましたが、私はいまから6~7年前に当blogと同名のメールマガジンを友人・知人相手に細々と配信していました。2001年12月は繁忙期で休刊中だったのですが、ノーベル賞創設100年の節目と野依良治氏が化学賞を受賞したことに触れるため、特別増刊号というかたちで配信しました。

このとき、私は近いうちにノーベル賞を受賞しそうな日本人科学者を15人くらい列挙したのですが、「物質の最小単位"クオーク"が6種類あると予言した」という理由で今年受賞した小林誠氏と益川敏英氏の両名も挙げていました。実験によって6種類のクォークの存在が全て確認されたのは2002年ですから、その前年の予想になります。ま、科学に少しでも興味のある人なら誰でもできた予想でしょうけど。

今後受賞できそうな日本人は誰かという予想はここではあえてしませんが、傾向としてはどんどん高齢化が進んでいくのは間違いないと思います。というのも、ノーベル賞が現在の授与規準を変えない限り「1部門につき1年に3人以内」「生前受賞」が原則だからです。

日本政府はよく死んでから国民栄誉賞などを与えたりしますが、ノーベル賞は生きている間に与えるんですね。つまり、死ぬまでにもらえなかったら、どんなに凄い功績を残したとしてもアウトということです。また、近年の科学の進歩はもの凄い勢いですから、このペースで授与していたのでは、それに値する人をさばききれず、順番待ちの間に亡くなってしまう人が増えていくかも知れません。

今年、化学賞を受賞した下村脩氏は87歳ですが、これは歴代1位タイ(1966年のペイトン・ラウス氏、1973年のカール・フォン・フリッシュ氏に並ぶ記録)になります。下村氏は「緑色蛍光タンパク質の発見」という功績が評価されたわけですが、このタンパク質の応用が確立されてきたのが比較的最近ということもあり、40年以上待たされたわけですね。こう言っては大変な無礼になりますが、もし下村氏が日本人男性の平均寿命で亡くなっていたら、受賞を逃していたわけです。

私が件のメールマガジンで書いたことなど、完全に忘れ去っていましたが、こんなことを得々と述べていたんですねぇ。一部抜粋してみます。

(前略)

昨年の白川英樹の化学賞受賞で調子に乗った彼らは、平成13年度から5年間の「科学技術基本計画」で「日本人のノーベル賞受賞者を向こう50年間で30人に」と謳った。この計画は与党3党の「21世紀型研究開発に関するプロジェクトチーム」で了承され、研究援助資金として投じられる国費はこれまでの約40%増と決まった。

いわゆる族議員たちの票集めの道具となっている高速道路やトンネルや橋など、下らない社会資本に消えていく国家予算を考えれば、ずっと有意義といえる。しかし、金をばらまけば良いだろうという発想がまた相変わらずだ。これまでも価値判断能力を欠いた公共投資で何度となく失敗を喫している日本政府だが、また同じ過ちを繰り返すのは目に見えている。

(中略)

「日本人のノーベル賞受賞者を向こう50年間で30人に」とは、「日本は学術研究の評価をスウェーデン王立科学アカデミーやカロリンスカ研究所に委任します」と宣言しているに等しい。確かに、ノーベル賞も様々な問題を抱えてはいるが、「世界で最も権威ある賞」という認識は国際的に揺らいでいない。しかし、権威あるものの尻馬に乗って満足してしまうとは、あまりにも情けないではないか。

いま、日本が本当に取り組まなければならないことは、ノーベル賞受賞者を増やすことではない。ノーベル賞に勝るとも劣らぬ評価システムをつくり、的確な価値判断が出来る人材、いわば「目利き」を育成することである。そして、こうした高度な評価能力を末端の教育現場まで啓蒙し浸透させることこそ、望むべき政策である。これを果たし、無駄な公共事業に浪費されていく国家予算を研究機関等へ正当に分配することが出来るようになった暁には、黙っていてもノーベル賞受賞者は増えていくに違いない。

『酒と蘊蓄の日々』(メールマガジン版・特別増刊号) 2001年12月 一部加筆訂正


7年前の私が書いたものですが、実に偉そうですね。え?いまと大して変わらない?

ま、それはともかく、このときに述べたことは大筋で間違っていなかったと思います。また、ノーベル賞は全ての学問を網羅するものではありませんから、ノーベル賞が対象としている分野とそうでない分野を政府が差別するようなことがあってはなりません。「日本人のノーベル賞受賞者を向こう50年間で30人に」などという日本政府の科学技術基本計画は、そういう意味でも不適切な政策と言わざるを得ません。

ですから、先の記者会見で益川氏が述べていた言葉は、私にとって非常に感慨深いものがありました。

益川敏英

「最もうれしかったのは2002年に理論の正しさが実験で証明された時で、それに比べればノーベル賞は世俗的なこと。
「我々は科学をやっているのであって、ノーベル賞を目標にやってきたのではない。

ボディシェーバー (その3)

一般消費者向けの製品というのは基本性能を上手に引き出す最適設計がなされていても、その性能は簡単に伝わらず、商品価値を訴える力としては弱かったりします。

パナソニックのボディシェーバーER-KA50はその網刃やトリマー周りの設計が体毛処理に上手く最適化されており、私としては非常に満足度の高い性能を有していると思います。が、これは実際に使ってみないとなかなか解らない部分です。そもそも、こうした商品が自分にとって必要かどうか迷っている人に強くアピールする要素にはなりにくいでしょう。

こうしたときには付加価値を解りやすくアピールするため、何らかのギミックを仕込むというのがよくあるパターンですね。このボディシェーバーの場合はロボットアニメを見て育った男子にウケそうな「変形」というギミックが仕込まれています。

ボディーシェーバー(ストレッチハンドル)

「ストレッチ3-wayハンドル」と称するこれはハンドルを変形させることで腿の裏やふくらはぎなど手が届きにくい部分も剃りやすいとメーカーは謳っています。が、実際にハンドルをストレッチさせると刃を当てる角度が不安定になりがちですし、クリックストップで角度をキープしますからそれほど落ち着きが良いわけではありません。少し力を込めたりすると動いてしまうこともあり、邪魔くさく感じることもあります。なので、私はそれほど使いやすいと思いませんでした。

ただ、これは使う条件によるかも知れません。私の場合は椅子に座って処理しますので、膝を曲げたり伸ばしたり、脚を自由に動かせますし、体重を椅子に預けて上半身を大きく動かして様々な姿勢で剃れますので、ストレッチハンドルの必要性は感じません。が、例えば狭いユニットバスやシャワールームの中で立った状態など、脚の曲げ伸ばしや上半身の姿勢が限られるといった場合などは、このハンドルを上手に活用したほうが剃りやすいかも知れません。

ボディーシェーバー(付属コーム)

もう一つのギミックは、厚さの異なるコームが3つ付属しているところでしょうか。トリマーをせり出させてこれを装着すると、各々3mm、6mm、9mmと、コームの厚さに応じた長さにトリミングできます。毛を残しながら適度な長さに揃えることができるというもので、剃ってしまうのは抵抗があるものの、清潔感のある適度な長さに整えたいという人向けということでしょう。ま、私にとっても一般的な自転車乗りの皆さんもにとっても、特に必要のないものだと思いますが。

こうしたものを排除して、もっとシンプルにまとめてもらったほうがコストを抑えられたのは間違いないでしょう。が、逆にこうしたものを設けることで購買層が広がり、マーケットを維持することができるというのであれば、無下に否定はできません。こうした便利な製品でも商業ベースに乗らず、生産中止になってしまうくらいなら、裾野を広げて販売数量を確保するためのオマケに文句を言うべきではありませんね。

刃の耐久性については購入してからまだ1週間少々ですので具体的なコメントはできません。が、少なくとも普通のひげ剃り専用電気シェーバーよりはマシなように作ってあるでしょう。メーカーは普通の電気シェーバーと同じく外刃は1年、内刃は2年での交換を推奨しています。替刃は実売価格で内外とも各々1000円弱ですで、これも非常にありがたいですね。

それ以前に、本体価格が7000円程度と比較的安価です。私が現在使っているアーキテックの替刃と変わらないんですね(ヨドバシならポイントバック分も含めて全くの同額です)。なので、私の場合はすぐに元が取れてしまうでしょう。ひげ剃り専用シェーバーですね毛処理を兼ねると刃の消耗を猛烈に早めてしまうことは先にも述べてきたとおりで、このボディシェーバーを導入したほうがコスト面でもメリットがあると思います。

気に入らない点もないわけではありません。バッテリーがニッケル水素なのは良いとして、充電器にセットすると点灯する赤いLEDのパイロットランプはかなり微妙です。一般的なパターンでは充電中に赤く点灯、充電が完了すると緑に変わるとか、充電中は点滅で、充電完了になると点灯しっぱなしか消灯かといった感じで点灯状態が変化するものですが、これは単に充電器へ正常にセットされたことを示すだけのものです。

また、バッテリーの残量を知らせる表示もありません。いつも充電器に押っ立てておいて、使い終わったらそこに戻せば支障はないと思いますが、ひげ剃り用シェーバーはこの種のインフォメーションが装備されていて当たり前ですから、いささか物足りないといいますか、不親切といいますか、モデルチェンジの際には検討事項として欲しい部分です。

なお、『サイクルスポーツ』誌の記事では「家計への優しさ」で普通のT字カミソリを5つ星、ボディシェーバーを3つ星としていますが、これはどう考えてもイニシャルコストしか見ず、ランニングコストを完全に無視した評価ですね。

普通のT字カミソリはシェービングフォームだのアフターシェーブローションだのを消費しますし、男性向けのそれは基本的にひげ剃り専用ですから、刃が大して持ちません。私がかつてカミソリ負けに悩みながらそれを使い続けていた頃の経験からして、数回の処理で交換が必要でした。女性向けのむだ毛処理用T字カミソリは使ったことがないので解りませんけど。

パナソニックのボディシェーバーはイニシャルで7000円ほどになりますが、替刃の交換は上述のように外刃が1年毎、内刃は2年毎と推奨されていますから、2年間で3000円弱です。メンテナンスオイルや電気代なども極めて微々たるものです。もちろん、頻度にもよるでしょうが、年間を通してずっとすね毛を剃っているという人なら、こちらのほうが圧倒的に有利なのはまず間違いないでしょう。

それなりの頻度で処理するなら、ランニングコストがイニシャルコストを逆転するのにあまり長い時間はかからないと思います。ですから、あの記事を書いたライターはすね毛処理をあまりやっていないのか、単に思慮が浅いのか、どちらかになると思います。ま、あの記事のお陰でこのボディシェーバーに出会えたのですから、あまり扱き下ろすのも不義理というものですが。

それはともかく、すね毛処理は電気シェーバー派という方や、皮膚が弱くカミソリ負けに悩んでいるといった自転車乗りの皆さんには、パナソニックのボディシェーバーER-KA50は強力にプッシュしたいアイテムです。T字カミソリで毎日手剃りして、常にツルツルにしておかなければ気が済まないという人には向かないと思いますが。

(おしまい)

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ボディシェーバー (その2)

パナソニックの男性向け体毛処理用電気シェーバーER-KA50は、替刃の型番からして女性向けのそれと同じものを流用しているようですし、ナショナルブランド時代を通じて初めての男性向けというわけでもないようです。私がこうした製品の存在に気づかなかったのは、ひとえに男性向けの美容関連家電に全く興味がなかったからでしょう。

以前のものはその存在すら知りませんでしたが、このモデルは発売されてからまだ1ヶ月そこそこ、私が購入してからまだ1週間少々ですが、私の長年の不満を一気に解消してくれた非常に満足度の高い製品でした。「餅は餅屋」ではありませんが、やはり体毛処理専用だけにひげ剃り専用より格段に使い勝手が優れています。

特に気に入っているのはトリマーですね。毛の長さがあるレベルを超えてしまうと、網刃で捉えてくれなくなりますから、普通の電気シェーバーでは剃れなくなってしまいます。T字カミソリでも伸びてしまった毛を剃るとすぐに目詰まりしてしまいますから、トリマーを使って適当な長さにトリミングしてやる必要があるでしょう。しかし、ひげ剃り専用の電気シェーバーに付いているトリマーは基本的にキワ剃り向けなので、使い勝手が良くないものが多いんですね。例えば・・・

ラムダッシュ(トリマー部アップ)

私が使っていたラムダッシュはこのようにティルトアップさせるのですが、しっかりと固定されるわけではないので、皮膚の上を滑らせるには不安定ですし、幅が22mmほどしかないので、広い面積を処理する際に少々物足りない感じです。

アーキテック(トリマー部アップ)

アーキテックは大胆にもヘッドをゴッソリ取り外して用いるのですが、写真の右側に見えるヘッドのジョイント部を下にしてやると、肌の上を滑らせやすく、その点では優れていると思います。しかしながら、幅が15mmにも満たないので、広い面積を処理しなければならないときには難渋します。また、ちょっとした剃り残しで剃りにくい長さまで伸びてしまった毛を見つけるたびにヘッドを取り外してやるのも邪魔くさいところです。こうした点を考えると、私が使ってきた中ではブラウンが一番マシだったように思います。

一方、パナソニックのボディシェーバーはトリマーを納めた状態で網刃と同じくらいの高さになっています。

ボディシェーバー(網刃、トリマー部アップ)

もちろん、この状態でもトリマーは駆動され、適度なクリアランスが確保されています。なので、進行方向にこれが来るように動かしてやるだけで、少し伸びてしまった毛をトリミングしながら、普通にシェービングすることができるんですね。一々切り替えたり持ち替えたりする必要がないのは思った以上に快適です。

また、トリマー周辺のデザインがその刃先を上手くガイドするような形状にチューニングされています。肌の上を滑らせてもトリマーの刃先が常に肌に浅い角度で接するので、ラフに動かしても痛くならない点も非常に優れていると思います。また、トリマーの幅は30mmを超えますから、広い面積をトリミングする必要があるときもあまり苦になりません。

外刃の網目はひげ剃り専用と比べるとかなり大きめですが、それだけに毛を捉えやすくなっているようです。広い面積を剃る際にはどうしても大きく動かすことになりますが、毛を捉えやすいせいか、あまり丁寧に動かさなくてもそれなりに剃れてしまいます。ただし、網目が大きいということは外刃と内刃による切断位置が毛の根元近くになりにくいということでもあります。そのため深剃りには向かず、ツルツルに仕上げたいという人には少し物足りないと感じるかも知れません。

しかしながら、この「適度な浅剃り」のお陰で埋没毛になりにくく(私の場合はこれにしてから埋没毛は全く生じなくなりました)、皮膚への負担も軽くなるわけですから、私としてはベストなチューニングだと思います。また、深剃りして毛先が深い位置まで入ってしまうと、その状態から伸び始めるときに(埋没毛になるか否かは関係なく)ムズ痒くなることがあります。が、このボディシェーバーは刃がフロート構造になっているため、強く押し当ててもそこまで深剃りにならないようです。

この辺りは、女性向けのむだ毛処理用電気シェーバーとして長年蓄積してきたノウハウが生かされているのかも知れません。私としてはあのクソ面倒くさい埋没毛穿りから解放されたのは非常に有り難いことで、それだけでも大満足しています。

(つづく)

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ボディシェーバー (その1)

自転車乗りにとって、すね毛の処理というのは一つの課題かと思います。

私も当初はシェービングフォームなどを塗って普通のT字カミソリで剃っていたのですが、元々乾燥肌で皮膚が弱いほうなので、カミソリ負けに悩まされました。愚かにも「次第に皮膚が厚くなって慣れるのではないか?」と思い、無理をしたことでかなり酷い炎症に発展してしまったんですね。これに懲りて電気シェーバーを使うようにしてからは皮膚のトラブルも殆どなくなり、とりあえず無難な状態に落ち着きました。

ただ、普通の電気シェーバーも欠点がありまして、一番のそれは刃の消耗が極端に早くなってしまうことです。私の場合、ひげもそれほど濃くはありませんが、大抵の人がそうであるようにすね毛のほうが薄いので、ひげほど念入りに剃る必要はありません。が、生えている面積はひげの何倍にも及びますから、これは物理的に至極当然のことですね。

普通にひげを剃るだけに比べると何倍も早く刃がダメになってしまいますから、交換頻度も相応に増えます。しかも、きょうびの電気シェーバーは(安物は別ですが)異様に刃の仕組みが複雑になっており、替刃も決して安価ではありません。ま、普通のカミソリも替刃だのシェービングフォームだのアフターシェーブローションだのと何だかんだコストはかかりますが、電気シェーバーは刃の交換1回で出て行く金額が大きいところがネックになりますね。

具体的には、3ヶ月ほど前まで使っていたナショナルのラムダッシュES8195の場合、取説で1年毎の外刃交換(内刃は2年毎)を推奨していますが、普通のひげ剃りだけなら私の濃さでは経験上1年半以上は持っていただろうと思います。しかしながら、すね毛も2日に1度くらいの頻度で剃っていると、半年ほどで駄目になってしまうんですね(もちろん、個人差があると思います)。替刃も外刃だけで3400円くらいしますし、2回に1回は内刃も替えていましたから、これが結構バカにならない訳ですよ。

3ヶ月ほど前にフィリップスのアーキテックRQ1095に買い換えましたが、これは刃が分解不可のユニット式になっており、ヘッドを丸々交換ということになります。交換は2年毎と推奨されていて、実売価格で7000円ほどと、これまた安価ではありません(パナソニックが推奨している2年間に外刃2回、内刃1回に比べれば若干安く上がりますが)。ま、使い始めたばかりですので、すね毛処理兼用でどれだけ寿命が短くなるか解りませんけど。

余談が続いて恐縮ですが、私はブラウンが世界初の自動洗浄機能付きとして発売したシンクロ7570を購入して以来、すっかり自動洗浄機能の虜となってしまいました。ラムダッシュに買い替えたのもナショナル初の自動洗浄機能付きで、ブラウンのそれとどう違うか試してみたかったからです。現在のアーキテックもやはりフィリップス初の自動洗浄機能付きです。

話を戻しましょうか。電気シェーバーをすね毛処理に用いるもう一つの欠点は、基本的に逆剃りしないと効率よく剃れないというところですね。普通のカミソリは毛の生えている向きに逆らわないようにも剃れますが、電気シェーバーは外刃の網目の中に毛が入らなければ剃れませんから、網目の幅以上に伸びてしまうと毛の向きに順じて動かしても殆ど剃れませんし、それより短いときでも逆剃りでないと効率はかなり落ちます。

しかし、逆剃りするとどうしても深剃りになってしまいますし、きょうびの電気シェーバーはかなりの深剃りができるようになっていますので、そこが問題なんですね。この辺は個人差もあると思いますが、私は体毛がさほど太くないせいか、深剃りをするとその毛が皮膚を突き破れずに皮膚下に伸びていってしまうことがよくあります。

これはいわゆる「埋没毛」とか「埋もれ毛」というやつですね。こうなってしまうと電気シェーバーでも普通のカミソリでも処理できず、毛抜きなどで穿るしかありません。非常に手間がかかりますし、その後にきちんと消毒をしておかないと私の場合は軽い炎症を起こすことすらあります。

このように、普通のカミソリに比べればずっとマシにはなったものの、電気シェーバーに切り替えてもまだまだ様々な不満がクリアされていない状態が続いていたわけですね。しかし、先日これらを一気に解消してくれる製品にようやくめぐり合うことができました。

パナソニック・ボディシェーバー
Panasonic ER-KA50
先月、社名変更直前のパナソニックから発売されたばかりの
男性向け体毛処理専用の電気シェーバーです。


パナソニックの男性向け体毛処理用電気シェーバーER-KA50ですが、『サイクルスポーツ』誌最新号(2008年10月号)の97頁に紹介されていたことでその存在を知り、とりあえず買ってみることにしました。早速使ってみますと、「適度な浅剃り」にチューニングされているのか、「埋没毛」になりにくく、皮膚にも優しく、剃った後のケアも特に必要なく、メーカーが推奨する交換時期を信じれば刃の耐久性も充分で、替刃も非常に安価です。これは電気シェーバー派の私にとって願ったり叶ったりでした。

(つづく)

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発明のハナシも鵜呑みは禁物

白熱電球を発明したのはトーマス・エジソン

私も子供の頃そう教わってから最近まで、ずっとそう認識していました。が、これは誤りだったんですね。これに限らず、「発明者」と誤解されている人物は結構いるようです。こうしたケースは「改良によって実用レベルに達し、普及に大きく貢献した」とか、「発明の権利を巡る複雑な関係が誤解されたカタチで伝わった」というパターンが多いように思います。

例えば、冒頭に挙げた白熱電球の発明ですが、これはイギリスのジョセフ・ウィルソン・スワンが最初だと見られています。炭素のフィラメントに電気を流すと発光するという現象は19世紀中頃には知られていたそうですが、空気中の酸素と反応するなどして寿命が極めて短く、「白熱電球」という製品にはなりませんでした。スワンは1878年にこれを極めて真空度の高い密閉ガラスの中に置くことで、およそ40時間点灯する白熱電球を発明したそうです。

ジョセフ・ウィルソン・スワン
Joseph Wilson Swan

エジソンは翌1879年にフィラメントを竹の繊維から作ることで1200時間くらいまで寿命を延ばし、実用品として成り立つように改良しました。スワンとエジソンは特許を巡って法定での争いを繰り返したそうですが、1883年に和解、エジソン&スワン電灯会社を設立して白熱電球の生産を独占したといいます。

一方、権利関係の問題で発明者が誤解されているケースでいえば、多くの日本人が信じているこの事例を指摘しておかなければならないでしょう。

フロッピーディスクを発明したのはドクター中松

私もつい最近まで「フロッピーディスクを発明したのはドクター中松で、日本のメーカーに売り込んでも見向きもされなかったのに、アメリカへ持って行ったらIBMが飛びついた」といった感じのフィクションを信じていました。が、これも全くの出鱈目といって良いでしょう。

フロッピーディスクそのものの特許を初めて取得したのはIBMになりますが、大元となる技術は1969年にクリフォード・ダウソンらによって発明された「磁気記録ディスク組立体」と見て良いでしょう。では、ドクター中松はどのように関係しているのでしょうか?

ドクター中松とIBMとの間に交わされたフロッピーディスク関連の契約はドクター中松が持つ16の特許使用権を供与するということになっているそうです。が、その中身については公表されていません。ま、この種の契約は守秘義務を設けるのが一般的ですから、公表されないのはむしろ当然のことだと思います。

株式会社ドクター中松が発行している『誰がFLOPPYの発明者か』というパンフレットによれば、「シートに面積型に記録再生する媒体とドライブ」の発明が1947年、「フロッピー媒体とドライブの世界初の中松特許出願」が1948年、「フロッピー媒体とドライブの中松特許を許可」されたのが1952年11月20日となっています。が、これは彼の勝手なこじつけで、全く関係のないものだと思います。

というのも、ジョン・フォン・ノイマンがストアドプログラム方式の電子計算機を提唱したのが1945年、ペンシルバニア大学で製作された世界初のコンピュータENIAC(これもコンピュータの定義などを含めて様々な異論はありますが)を完成させたのが1946年ですから、ドクター中松がその翌年にフロッピーディスクの基となる技術を発明したと言い張るのは無理があるでしょう。

彼がこのタイミングで出願した特許で関連のありそうなものは「重色レコード」と「積紙式完全自動連奏蓄音器」の2件くらいで、いずれの発明も印刷等による面積型録音法の基礎技術です。これは記録紙に線条を印刷するなどして音声データを記録し、光学的に読み取って再生するというものです。光学式の録音技術も既に存在していましたから、彼の発明は記録方式が独自であっただけと見るべきでしょう。

こんな発明がフロッピーディスクとどうつながるのか、私の頭では全く理解できませんが、あの「天才」の頭では「紙というフロッピーな媒体に情報を記録する発明」がフロッピーディスクにつながってしまうのでしょう。

そもそも、1952年に取得した特許ならば、20年後の1972年には失効しているハズです。ドクター中松がIBMと契約を交わしたのは1979年の2月ですから、特許が失効してから6年3ヶ月も経ってからIBMがそのライセンスを求めるなどということは絶対にあり得ません。

『誰がFLOPPYの発明者か』にはフロッピーディスクのジャケットに設けられた窓の下にある2つの切り欠きや、ジャケットの内張り、ハブを補強するリングなどもドクター中松の特許であるため、「ご使用のフロッピーディスクは、ライセンスされたもの以外、中松パテントに抵触するでしょうからご注意ください」と書かれているそうです。

また、日本IBMの広報は、このライセンス契約について「IBMが自ら開発した製品を日本で売るに当って、将来、中松さんとの間に摩擦が起るのを避けるためのもの」とコメントしています。

カメラのオートフォーカスを巡る特許裁判で日本の大手各社がアメリカのハネウェル社にしこたま搾り取られた例はつとに有名です。関連技術に少しでも類似点があった場合、その権利関係をきちんと法的に処理しておかないと、後になって莫大な権利使用料をふんだくられることが特にアメリカではよくあるんですね。ですから、彼らは知的所有権に関して異常なまでに神経質なのでしょう。

要するに、IBMがフロッピーディスクを日本で発売するに当たって、日本で出願されている特許とほんの僅かでも類似点があると考えられる関連技術については、その権利者と事前にライセンス契約を結んでおき、後々トラブルに発展する芽を摘んでおこうと考えたのでしょう。その中にドクター中松が有している特許が幾つかあったというのが真相だと思います。

このライセンス契約に盛り込まれていたであろう守秘義務によって、IBMとドクター中松との契約詳細は公表しない(できない)のでしょうが、彼はああいう性格ですから、それを逆手にとってあたかもフロッピーディスクを発明したのが自分であるかのように触れ回っているのでしょう。メディアもその事実関係を全く確認せずに彼の主張を垂れ流すという「いつものパターン」でこの都市伝説が出来上がったのだと思います。

思ったほど難しくない

ルービックキューブのバリエーションモデルは、これまで難易度アップにキューブの数を増やす方向で進められるケースが目立ちました。4×4×4の「ルービックリベンジ」や5×5×5の「プロフェッサーキューブ」も持っていますが、ステップが増えるのは当然のこととして、その分だけ比較的単調な作業が増えますので、単調な作業が死ぬほど嫌いな私にはやはり好ましい感じではありません。

ルービックキューブファミリー
ルービックキューブとそのバリエーション
左手前がご存じルービックキューブ
右手前がルービックリベンジ、
奥がプロフェッサーキューブになります。


また、3×3×3の元祖ルービックキューブに比べるとどんどん複雑になって機械的な構造も苦しい感じですし、それだけに動きが非常に悪く、快適に遊べないのも気になるところでした。体積もどんどん大きくなってプロフェッサーキューブに至っては一辺が70mmもあり、50mm強のルービックキューブとは体積比で2.6倍近いボリュームへ至ってしまいました。これだけ大きいとちょっと邪魔くさい感じも否めません。

また、プロフェッサーキューブは構造的にかなりシビアなようですが、製造技術がそのシビアな構造には見合っていない感じです。一昔前の日本のメーカーならこんなに甘い品質でマーケットに出すなどあり得なかったのではないかと思えるほど、ガタガタにキューブが並んでいます。その様子から私は小学校の旧校舎にあったトイレのタイルを連想してしまい、手に取ると萎えてしまいます(あくまでも個人的な感想です)。

プロフェッサーキューブ(拡大)
使い込んで緩んだり変形したりしてこうなった訳ではなく、
初めからこんなに波打ったようなガタガタな状態でした。
苦しい設計に貧弱な製造技術が組み合わさった
低レベルな工業製品の見本のような感じです。


で、先日このルービックキューブのニューバリエーションとして「ルービックミラーブロックス」が発売されました。これは徒にキューブの数を増やすのではなく、元祖と同じ3×3×3ですが、各々のブロックを立方体ではない形状に切り分けるという、非常に画期的なアイデアでつくられています。

ミラーブロックス1
RUBIK'S MIRROR BLOCKS
この6面が揃った状態の外寸は
3×3×3のルービックキューブと
全く同じです。


センターブロック(各面の真ん中に来るブロック)の外を向いている面はいずれも正方形ですが、それ以外は各々の辺の長さが異なり、全てのブロックが異なる形状をしています。従来は各面の色でキューブの位置と向きが簡単に解りましたが、このミラーブロックスは、全て同じミラー状のシールが貼られていますから、そういうわけにはいきません。形状を幾何学的に理解し、ブロックの位置や向きを判別しなければなりません。その分だけ難易度が高くなっているというわけですね。

でも、実際にやってみますと、最初の何回かは混乱しましたがブロックの合わせ方それ自体は従来の3×3×3のキューブの合わせ方と全く同じですから、比較的短時間で要領がつかめます。一度要領を得てしまえば、従来の3×3×3と大差なくこなせるようになります。

ミラーブロックス2

崩すとこのように現代彫刻のような造形になって、見た目にもオシャレな感じです。難を言えば動かす度にカタチが変わりますので、従来の単純な立方体に比べると持ちにくく、動かしにくくなります。ま、そうはいっても動きそのものはケミカルでチューンしてやればそこそこ良くなりますから、どうあがいても引っかかったりギクシャクしたりするリベンジやプロフェッサーよりはずっとマシです。

個人的には従来のキューブももっと落ち着いた渋めの色遣いのものも出せば良いのにと常々思っていましたから、このミラー状のシールが貼られた佇まいはなかなかクールで、非常に気に入っています。それこそ、ポリッシュしたステンレスプレートをインレイワークではめ込んでしまうとか、いっそのこと全てのブロックをアルミ削り出しで作ってしまうとか、高級モデルを展開しても良さそうな雰囲気さえ感じます。ま、実際に製作するとなればもの凄く高く付くでしょうし、どれだけ市場性があるか解りませんけど。

買うのは来年だね

私は20年近く前に某美術大学に在籍していたのですが、現在は全く関係ない職業に就いています。子供の頃から絵を描くのが好きで、現在もたまに鉛筆画(先のエントリで使ったベントレーEXPスピード8のイラストも鉛筆だけでカリカリと描いたものです)とか、水彩画を描くこともありますが、それは本当にただの趣味でしかありません。

私は野外にイーゼルを押っ立てて描くのは人目が気になったり、色々気が散ってしまうのであまり好きではなく、カメラでバシバシとスナップを撮って、それを素材に自室でシコシコ描くほうが性に合っている感じなんですね。美大から籍を抜いた後にその方法に目覚め、カメラを持ち歩くようになって少しすると、気まぐれに現像も自分でやってみたくなりました。そして、そのままドップリと写真の世界の深みにハマリ込んでいった訳です。

最初は父から借りたり貰ったりしたミノルタの古いMF一眼レフ(XEとかX700とか)を使っていたのですが、やはり自分のカメラが欲しくなり、初めて買ったAF一眼がキヤノンのEOS 5でした。

EOS5.jpg
Canon EOS 5
買った当初は毎日のように持ち歩いていましたが、
現在は殆ど予備機の座に落ち着いてしまって
フィルムを通す機会もめっきり減りました。


これは測離点が水平に5つ並んでおり、眼球の動き(黒目の位置など)を検出してどの測離点を見ているかカメラが認識し、「見つめているところにピントが合う」というハイテクが売りのカメラでした。が、実際には視線を検出するまでのタイムディレイが気になったり、縦位置ではその機能が未対応だったりして、発展途上の中途半端なハイテク機能はあまり使い勝手が良くありませんでした。間もなく、私はセンターの測離点だけを用い、シャッターボタン半押しのフォーカスロックでフレーミングという普通の使い方に落ち着きました。

私がEOSシリーズをチョイスしたのは、フル電子化されたレンズマウントの将来性と、超音波モーターによる静粛で素早いフォーカシングを買ったからで、この判断はいまでも間違っていなかったと思います。そんなこんなでメイン機材をEOSシリーズに定め、レンズは何本か処分したり知人に譲ったりして現在は6本、ボディは4台ですが、他にもたくさんのカメラと暮らしていますし、趣味の道具としてこれだけあれば充分ということで、銀塩カメラの保有状況は10年くらい変わっていません。

EOS_1-kiss3-RT.jpg
私が愛用しているEOSたち
現在メインで使っているEOS 1N (左)、
旅行などで荷物を減らしたいとき用のEOS kiss III (右上)
中古で買ったペリクルミラーのEOS RT (右下)


デジタル一眼がリーズナブルな価格帯になってだいぶ年月が流れましたが、私としてはシステムを引き継げるEOSシリーズしか眼中にありません。また、イメージセンサが一般的なAPSサイズでは保有しているレンズをあまり生かせませんから、35mm判フルサイズのイメージセンサでなければ買わないと、かなり早い段階で決心していたんですね。その頃はフルサイズセンサというと100万円くらいするハイエンドモデルしかありませんでしたけど。

なので、3年前にEOS 5Dが発売されたときは猛烈にそそられました。ボディだけなら40万円弱、EF24-105mmF4L IS USMレンズとのセットでも50万円弱という価格は、フルサイズセンサ機がハイエンド市場にしか存在しなかったことを考えれば大変な破格でしたから。

とはいえ、40万円弱という価格は庶民の感覚からすればやはり高価です。MTBやノートPCを買ったばかりだった私にはちょっと手が出せず、しばらく様子を見ることにしました。すると、イメージセンサにゴミ取り機能が設けられたり、他社では液晶画面のスペックも大幅に強化されり、下位モデルがどんどん充実していったわけですね。それより見劣りする部分も目立つようになって、「後継機を待ったほうが良いか?」という迷いが大きくなっていきました。ボディ価格が20万円台前半まで下がってきたときは、かなり揺さぶられましたけど。

EOS_5D-mk2.jpg
Canon EOS 5D Mark II

で、先月中旬に発売が正式発表された後継機のEOS 5D Mark IIは、全般的なスペックが私の望む内容を概ね満たしていました。ファインダーの視野率が100%にならなかった点は残念ですが、先代は約96%でしたし、Mark IIの約98%はセカンドグレードとして妥当な線だと思いますから、これも納得はできます。予想店頭価格もボディだけで30万円程度(ヨドバシならポイントバックを含む正味で27万円程度)ですから、これも悪くないレベルでしょう。

ただ、今年はクルマを買い替えたり、ノートPCを買い替えたりして、現金での大きな支出が重なりました。デジタル一眼がすぐに必要というわけでもありませんし、発売直後はたぶん品薄でしょうし、待てばいくらか価格もこなれるでしょうから、焦ることもないでしょう。

また、このEOS 5D Mark IIの売りの一つがフルHDで動画撮影可能とか、どうでも良いような機能だったりします。これはデジタル一眼も機能面や性能面でかなりやり尽くされてきた状況を表すものだと思います。ということは、待っている間に欲しい機能や性能が下位モデルにどんどん投入され、次第に見劣りしていくといった先代の状況と今回とはかなり違うでしょう。

EOSの"5"は私にとって原点といえるモデルナンバーでもありますので、今度は買わないわけにいかなくなりそうです。が、やはり来年まで待つことにしました。

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やっぱりハズレてる

先日「大ハズレ」と題したエントリで地球の平均気温の実測とIPCCに採用されたその予測とが全く異なっていることをご紹介しましたが、私が切り抜いたグラフよりもっと解りやすいグラフを見つけました。

気候変動の予測と実測の比較

赤、橙、茶色の線はIPCCが社会情勢や温暖化対策の実施状況をいくつかのパターンで想定したシナリオに基づく予測、黄色は2000年のレベルで一定とした場合の予測、緑と青の線は実測(2008年のデータは7月まで)になります。

予測のほうは傾向を見るために前後数年の平均値をとったものだと考えても、今年や2004年の下降を示すことはできませんでしたね。特に最近数年は実測で顕著な下降傾向を示していますが、予測は全く逆の上昇傾向しか見えません。いずれにしても、IPCCが採用した予測データは2000年以降の8年間で0.15℃前後の上昇を示していますが、実測データにそのような傾向が見られないのは明らかでしょう。

この気温の見込み違いと同じように、シミュレーションがアテにならないことを示す事例は他にもあります。

昨年の夏、1978年から人工衛星での観測が始まって以降、北極海の海氷がもっとも後退したということが日本の大衆メディアでも大きく報じられていました。日本の海洋研究開発機構地球シミュレータも北極海の海氷について予測していましたが、そこまでの後退は30年くらい後の状態として予測されていました。このことについて「想定を30年も上回る異常なペースで温暖化が進んでいる」と喚き立てていたメディアに私は失笑を禁じ得ませんでした。

そもそも、海氷の分布状況というのは一概に気温や海水温だけで決まるものではありませんし、2007年の夏に北極の海氷が大きく後退したことと温暖化とを結びつける科学的な根拠もありません。「海流の影響」とか、「北極振動の影響」とか、「冬場に強風が続いたことが海氷の発達を阻害した」とか、いくつもの原因説が唱えられており、科学的な結論には至っていないんですね。

北極海の海氷がシミュレーションの結果通りにならなかったことをメディアは「異常」と表現していましたが、それは盲目的なコンピュータ信仰というべきもので、シミュレーションの結果が本来のあるべき姿を示す「神託」であると彼らは妄信しているのでしょう。

しかし、こうしたシミュレーションを行っている当の海洋研究開発機構は非を認めるプレスリリースを出しています。

(前略)

この海氷の減少は、IPCC第4次報告書で予測されている北極海での海氷の減少を大幅に上回るもので、このような観測と予測の大きな差は、予測モデルでは北極海で起こっている現象が十分に表現されていないことの現れであると考えられます。

(後略)

(C)独立行政法人海洋研究開発機構 2007年08月16日


こうしたシミュレーションが実際に起こっている現象を表現できないのは、実際に起こっている現象の構成要因を全て把握できていなかったり、影響があると解っている要素でもその物理的な仕組みを充分に理解できていなかったりするからです。

地球の気候メカニズムについてはまだまだ解らないことだらけですが、当然のことながら解らないことを数式で表現することはできません。数式で表現できなければその物理現象を具体的に組み込んだプログラムを構築することなどできませんから、信頼できる精密なシミュレーションなど望めません。

では、地球温暖化の研究に用いられる気候モデルではこうした点をどのように処理して(誤魔化して)いるかご存知でしょうか?

まず、影響が小さいと想像される現象などはハナから無視されてしまうこともあるようです。が、そうでない場合は適当なパラメータを用いて観測結果に合うよう調整されます。それでも合わないときは数値の改ざん(彼らは「改ざん」とは言わずに「フラックス調整」と称していますが)というインチキまで行われているんですね。そうしてでっち上げられた結果を以って「地球の気候を再現できた」と彼らは言い張っているわけです。

ま、この辺についてはいずれ詳しく纏めたいと思いますが、兎にも角にも、このようなアテにならないツールを用いた科学的に信頼しがたいシミュレーションの結果を根拠として、国際社会の枠組みが策定されたり、年間1兆円を超える国家予算が投入されたりしているわけです。私はこうした状況を放置していることこそ、不幸な未来への歩みだと思うのですが。

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テクニクスは残された

今日から松下電器産業株式会社はパナソニック株式会社になりましたね。

元々「パナソニック」というブランドは、海外マーケットで「ナショナル」の商標が登録済みだったり、国家主義的なイメージを避けるなどの理由で設けられ、50年以上の歴史を刻んできたそうです。日本国内では1980年代中頃から音響・映像機器のブランドとして徐々にナショナルからパナソニックへ移行していったという感じでしょう。

当blogでも以前に触れましたが、私たちの世代はHi-Fiオーディオブームの折に生まれた「テクニクス」が高級オーディオ機器や電子楽器のブランドとして用いられていた時代をよく知っています。最近はターンテーブルやミキサーなどを中心としたDJ機器のブランドとして細々と展開されてきたような状況ですから、世間一般からはもはや忘れ去られた存在なのでしょう。

テクニクスが日本国内のマーケットにおいて高級オーディオ機器から撤退したのは3年前でした。これはテクニクスに限ったことではなく、ローディー(日立)や、オーレックス(東芝)や、オプトニカ(シャープ)や、オットー(三洋)など、家電メーカーのオーディオブランドは(時期の早い遅いは別として)似たような末路へ至っています。三菱電機のダイヤトーンは1999年に一度撤退し、2005年に同グループの三菱電機エンジニアリングからハイエンド市場に復活しましたが、これは非常に珍しいケースでしょう。

マーケットの縮小による影響は当然ですが、高級オーディオブランドとしてのテクニクスにとってはDCC(デジタル・コンパクト・カセット)の失敗も大きな痛手になっていたと思います。その存在を知る人も滅多にいないくらい惨憺たる結果に終わりましたが、固定ヘッドでデジタル録音/再生が可能、カセットのサイズは従来のアナログカセットテープと同じゆえ、そのアナログテープの再生にも対応するものでした。

Technics RS-DC8
Technics RS-DC8
これはフルコンポサイズの据え置き型ですが、
この他にもパナソニックブランドで
ミニコンポや1DINサイズのカーコンポ、
ヘッドホンステレオなども展開されました。


しかし、これが出て来たとき、誰しもMDとの競合を悟り、メディアの大きさでも、使い勝手でも、全般的な雰囲気でも、MDのほうがマーケットを掴むのは間違いないだろうと直感したでしょう。DCCが完膚無きまでに叩きのめされる状況は相当な素人でも予想できたと思いますし、結果もその通りになりました。

ただ、スペックを見るとDCCはかなり野心的でしたけどね。MPEGのオーディオレイヤーに似たデータ圧縮を行っているのはMDのATRACも同じですが、DCCのPASCという形式は通常記録領域が15bitであるのに加え、対数的に記録している領域が21bit相当でした。合計36bitということは理論上216dBにも達するダイナミックレンジを確保していたんですね。

ただし、DCCのPASCもMDのATRACやMP3等と同様にフーリエ変換で分解していたため、位相が忠実に再生できないことを避ける目的でサブバンドのフィルターを設けていました。このフィルターが24bitまで対応したところでDCCそのものがお蔵入りになってしまったので、最終的に24bitすなわちダイナミックレンジは理論上144dBにとどまりましたが。

話を戻しましょうか。いま「テクニクス」を知っている若者はDJやそれに興味がある人たちくらいで、大衆メディアもとっくの昔に忘れ去っていたのでしょう。パナソニックへのブランド統一が報じられたときにテクニクスの扱いがどうなるのかは全く伝わってきませんでした。

ナショナルブランドで販売されてきた家電製品は今年7月以降の製造分から全てパナソニックブランドに切り替えられたそうで、残すは在庫分だけとなるようです。が、いまパナソニックのサイトにあるDJ機器の頁を見ても、以前と変わらず「テクニクス」が用いられていますし、URLにもその名が残っています。ついでにいえば、業務用音響システムの「ラムサ」も残されたようです。

中学生の頃、友人のお兄さんが持っていたテクニクスのターンテーブルに憧れた私ですが、いま展開されているDJ用機器には正直なところあまり興味は持てません。いつか気まぐれでアナログレコードに戻りたいと思ったとしても、現在のテクニクスのラインナップでは食指が動きませんし、たぶん洋モノを狙うことになるでしょう。

復活を遂げたダイヤトーン・スピーカーは1本100万円という世界に行ってしまいました。しかも、販売形態がまた凄いことになっています。購入希望者は完全予約制の試聴会に参加し、その場で渡される申込書類に記入押印して返送、支払方法は三菱電機クレジットを通したクレジット決済オンリー、受注生産なので納品は3ヶ月後だそうです。なので、テクニクスの高級オーディオも同じような路線で復活されたら、やはりご縁はないでしょう。

もし、パナソニックがテクニクスブランドを捨てる時が来るとしたら、それはDJ機器からも手を引き、この分野から完全に撤退する時なのだと思います。

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まとめ

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