派遣切り:日産、三菱ふそうでも迫る解雇 /神奈川
いすゞの見直し対象からも外れた「派遣社員」。日産自動車と三菱ふそうトラック・バスでも、同じように失業の危機にさらされている人たちがいる。【吉田勝、笈田直樹】
◇「理不尽」「不公平だ」 「派遣会社がケアを」--追浜工場
全国の派遣社員2000人全員を来年3月までに削減する日産自動車。横須賀市の追浜工場では、数百人規模の人減らしが進む。
派遣社員の男性(26)は今月16日「1カ月後に解雇」と通告された。地元の高知県で自動車用品店に勤めていたが、「給料がいい」と聞き京都の派遣会社に登録。1年2カ月間、追浜工場でエンジンの組み立て作業などを担当してきた。
派遣切りを職場で耳にしたのは先月末。「私の契約は3カ月更新で、先月末になければ大丈夫かなと思っていたが……。理不尽だ。給料とは別に4万2000円を支給すると言われたが、何の足しにもならない」と憤る。退職後は実家に戻り、失業保険で暮らすほかはないという。
(後略)
(C)毎日新聞(地方版) 2008年12月25日
「切られた側」の言い分しか取り上げず、「切った側」の言い分を完全に無視しているこの記事は、「両論併記」というジャーナリズムの原則を全うしていません。暗に派遣切り批判を展開するもので、記者が感情を発散させただけに過ぎず、公平中立な報道姿勢とは対極にあります。このように生産調整に伴う人員調整で批判的な報道が繰り返されると、メーカーはイメージダウンにつながります。表立っては口が裂けても言わないでしょうが、本音ではかなり迷惑に感じていることでしょう。
そのせいと短絡することはできませんが、この追浜工場の主要車種であるマーチの生産拠点が2010年に予定されているフルモデルチェンジに伴って、タイのサイアムモーターズ・アンド・ニッサンへ移されることになりました。
日産 追浜工場での生産中止 「マーチ」タイから逆輸入
日産自動車が、小型車「マーチ」を2010年に全面改良する際、生産を追浜工場(神奈川県横須賀市)からタイの工場へ移管し、日本に逆輸入して販売することが16日、明らかになった。日産は09年3月期連結営業損益が赤字に転落する見通しで、為替の円高傾向が続いている中でコスト削減を狙う。
(中略)
新型マーチは、フランス自動車大手ルノーと共同開発する車台を使い、タイの工場で製造。日本のほか、東南アジアでも販売する予定。追浜工場では代わりに、10年に発売する電気自動車などを製造する見通し。
日産は、欧州で販売する小型車「マイクラ」も英国の工場での生産を10年に終え、インドの新工場へ移すことを既に決めている。
(C)FujiSankei Business i 2009年1月17日
マーチはモデル末期ということもあって近年は大きくシェアを失っていますが、それでも昨年1~12月実績で4万7000台近く、軽自動車を除いた車種別新車販売台数では18位にランクされています。トップ10に1車種のみ、20位以内に5車種しかランクインしていない日産にとって、マーチは屋台骨を支える主力の一台であることに違いありません。そのマーチの代わりに生産されるのは新発売される電気自動車とのことですから、規模が桁違いに小さくなるのは必至です。
以前ご紹介したとおり、ホンダのフィットアリアは既にタイ製を逆輸入してきました。が、これは現地や東南アジア地域でシティという名で売られているモデルを日本市場にも投入した、いわば隙間狙いの車種です。マーチのような日本国内向け主力車種の生産拠点が海外へ全面的に移されるというケースは過去に例がないでしょう。
ま、イギリスのサンダーランド工場で行ってきたヨーロッパ向けのマーチ(現地名:マイクラ)の生産もインドに新設される工場へ移すということですし、日産はこの生産拠点の変更を「為替の円高傾向が続いている中でコスト削減を狙う」と説明しているようですから、単純に派遣切りバッシング対策と見るのは乱暴すぎるかも知れません。
しかし、コスト面だけを考えるなら、円高でなくてもタイで生産したほうが有利であることに違いありません。タイへの移転で約30%のコストダウンになると試算されているそうですが、円に対するバーツの下げ幅は20%程度でしかありません。従来の為替レートでも充分に安く生産できたということですね。また、このバーツ安は昨今の政情不安を受けたものですから、政情が安定すれば従来の水準まで戻す可能性も低くないでしょう。
純粋に利益だけを追求するのであれば、これまでも日本国内での生産に拘る必要はなかったハズです。あくまでも個人的な憶測に過ぎませんが、海外へ生産拠点を移すメリットとして雇用調整が容易で需要の高下に対応しやすいという点が今般の騒動で再認識されているに違いないと思いますし、この決定に至った要因の一つを構成しているような気がします。
高級車などは「Made in Japan」も付加価値の一つとなるため、日本国内での生産は続くでしょう。が、生産台数が多く、ギリギリのコスト管理が要求される大衆車は今後どんどん中国やインドやタイなどへ生産拠点が移されていくことになるでしょう。メーカーサイドは明言を避けてあまり表沙汰にはならないかも知れませんが、舛添厚労相や野党やメディアや世論などによる派遣切りバッシングは、生産拠点の海外流出を加速させる要因として影響していくように感じます。
そもそも、この派遣切り問題で叩かれたメーカーは日本国内に生産拠点を維持し、その分だけ雇用を創出してきた企業ばかりです。任天堂のように自社工場を持たず、全て外注として雇用創出には直接的に貢献してこなかったいわゆる「ファブレス企業」がこのようなバッシングを受けることはありませんでしたし、今後もないでしょう。
これを不条理と言わずして何と表現すれば良いのか解りませんが、このような状況は派遣切りバッシングを展開してきた彼らが世の中の仕組みを理解していないゆえに生じているのです。