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「なぜ、ティーダはこの時代に、2年連続、世界で一番売れている日産車になりえたのか?」
このバカバカしいナレーションのCM に失笑してしまったのは私だけではないと思います。「世界で一番売れているクルマ」でもなければ、「世界で一番売れている日本車」でもなく、「Bセグメントで世界一売れている」というわけでもなく、「日産車で一番売れている」というのでは何の自慢にもなりません。どのメーカーにも(零細なバックヤードビルダーでも)一番売れている車種は必ず一つあるのですから。
このナレーションを聞く度に「日産には他に売れる魅力的な車種がないから?」とツッコミを入れたくなりますが、日本で一番売れている日産車はティーダではなく、セレナ(2008年1~12月累計)なんですね。「なぜ、ティーダは世界で一番売れている日産車なのに、日本では二番目なのか?」ということのほうが私としては気になったりします。ちなみに、今年1月の単月実績ではフルモデルチェンジしたばかりのキューブがセレナを抜き、ティーダはノートにも抜かれて日産車では四番目となっています。
ま、こんな他愛のないハナシはどうでも良いのですが、「世界一売れている日産車」であるティーダは神奈川県の追浜工場、メキシコのメキシコ日産、中国の東風汽車、台湾の祐隆汽車製造、タイのサイアムモーターズ・アンド・ニッサンでも生産されています。
以前 、日本国内向けマーチの生産拠点が次期モデルからタイに切り替わり、追浜工場での生産はなくなる旨をお伝えしましたが、ティーダも中東向けに関しては追浜工場での生産を取りやめ、メキシコ工場のそれを振り向けることになったようです。
日産自動車追浜工場 1961年創業、1970年には業界初となる溶接ロボットが導入され、 また今日では当たり前の多車種同時生産を可能にする混流ラインも かなり早期に導入され、先進的な工場として内外に知られる存在でした。 月間8万台を出荷できる専用埠頭、基礎研究所、テストコースも隣接し、 世界の生産拠点の人財を育成するグローバルトレーニングセンターや 試乗会等が行えるコミュニケーション施設も備えています。 追浜工場の生産車種はマーチ、ティーダのほか、ノート、キューブ、ブルーバードシルフィと、いずれも同じBプラットフォームの車種です。こうして生産量が減っていけば工場の稼働率も低下し、工場そのものの規模を縮小しなければコスト的に見合わなくなるでしょう。業界筋によれば「将来的に追浜工場は電気自動車の生産拠点とする公算が大きい」と見られています。
余談になりますが、日産は電気自動車に対する優遇措置が設けられているイスラエルでルノーと共に新たなビジネスモデルを構築するプロジェクトを立ち上げました。このハナシを続けると長くなりますので詳しくは別の機会に譲りたいと思いますが、基本的に「消費者は車両を購入、所有し、走行距離をベースにバッテリーの使用量に応じた供給契約を行う」とされています。つまり、インフラ整備も含めた総合的な電気自動車普及ビジネスを展開するということですね。
追浜工場がしばらくは小規模にとどまると考えるべき電気自動車中心の生産拠点となるというハナシはまだ噂に近い段階です。が、日産は2009年度から10カ年計画で13万台/年を国内から海外の生産拠点へシフトしていくことは決定しています。その多くは大衆車になるでしょうから、追浜工場が担っているBプラットフォームの生産はかなりの部分が海外拠点へ移され、日本への逆輸入というかたちになるのはマーチだけにとどまらなくなるかも知れません。
また、日産はエンジンの生産拠点を横浜工場(MR系、VK系、VR系)といわき工場(VQ系)、国内に2か所設けていますが、これらの一部(恐らく大衆車用のMR系が中心になると思いますが)の生産拠点もメキシコなど海外へ移管するといいます。基本的に円高対策ということのようですが、ここに来て日産は海外生産へのシフトを加速させている様子が非常に目立ってきました。
日産はこうしたグローバル展開を支える強力な武器を持っていまして、2007年に座間事業所内に「グローバル車両生産技術センター(略称:GPEC)」を立ち上げているんですね。このGPECはプレス工程、車体溶接工程、車両組立工程など実際の工場と同等の設備を持ち、新車の試作を集中的に行い、治具、検査具、制御データに至るまで開発され、デジタルデータ化して量産工場にそれを転写するということを行っています。
トヨタは愛知県の元町工場に設立されたグローバル生産推進センターやアメリカのノース・アメリカン・プロダクション・サポート、イギリスのヨーロピアン・グローバル・プロダクション・センターなどがありますが、これは専らスタッフのトレーニングを主軸としているようで、日産のGPECとは異なるようです。トヨタの場合、量産工場のグローバル展開は国内の生産拠点をマザー工場とし、海外工場の手本とするようなカタチをとっているようです。
日産の場合、人材育成には追浜工場に隣接されたグローバルトレーニングセンターなどが担いますから、GPECは工場施設や生産から検査に至るプロセスの集中開発を担うというわけですね。また、この施設は開発準備期間の短縮も重要な狙いの一つですから、実際の量産工場と変わらない設備を用い、従来なら量産工場で量産試作を行う段階に練り込まれ、最適化されていく部分にまで踏み込んで標準化していくようです。ここまで徹底したシステムがあれば、世界中どこでもクローンのように量産工場を展開していけそうな感じです。
上図のように日産は6年前から海外生産の比率が50%を超えています。ま、他社も多かれ少なかれ同じような傾向が続いていますが、日産はここに来てなりふり構わず積極的に海外シフトを進めているように見えます。
日産はアメリカの広告代理店TBWAが提案した「SHIFT_ワード」というパターン、「○○をシフトする」といったキャッチコピーで様々な広告を展開してきました(現在は「SHIFT_the way you move」に統一しているようですが)。いまの彼等をこの広告風に表現するなら、さしずめ「生産拠点を海外にシフトする」といったところでしょうか。
それはともかく、こうした海外シフトが進められていくと、日本の産業が空洞化し、GDPを引き下げる要因となり、国内の雇用が失われていくことになり、国益を考えれば望ましくないことが積み上がっていきます。それこそ、派遣切りバッシングなどをやっている暇があるなら、メディアはこの状況を憂慮し、問題提起していくべきでしょう。こうした問題のほうが雇用形態の問題などよりずっと根が深く、雇用の受け皿そのものにも係る問題でもあるのですから。
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バイオディーゼル燃料はバージン油を用いる場合も廃食用油をリサイクルする場合も現実には化石燃料の投入が不可欠で、実質的にカーボンニュートラルにはなっておらず、「本当に有効なエネルギー利用になっているのか?」という点があまり明確になっていません。廃食用油のリサイクルについては
前回 述べたとおりですが、バージン油でもエネルギー収支が本当に充分な黒字になっていて効果的な化石燃料の消費削減に繋がっているのかという疑いが持たれています。
例えば、
大豆からバイオディーゼル燃料を生産するとエネルギー収支は約27%の赤字になり、却って多くの化石燃料を消費していることになる というレポートもあるそうです。ま、この種のレポートは賛否各々の持説にとって都合の良い値を採用し、意図的に結果が操作されてしまうこともあるでしょうから、どこまで信頼できるか非常に難しいところですが。
同様のハナシはよくあることで、例えば、
NGO法人の環境団体、気候ネットワークは住宅をオール電化にするとCO2排出量を69%増加させる と結論づけていますが、
財団法人中央研究所はオール電化で16%削減できる とし、気候ネットワークの試算は前提条件に事実誤認があるとしています。
ガス事業者向けサイト は前者を大々的に取り上げており、各々が自分たちの立場に都合の良いものを信じようとする対立ドグマとなっています。こうなるともう宗教紛争と何ら変わりませんね。
また、バイオディーゼル燃料の問題点はエネルギーの有効活用云々にとどまるものではありません。
以前 にも取り上げましたが、「環境に優しい」との触れ込みで普及が促進されていながら総合的な評価を受けている訳ではなく、むしろ部分的なメリットだけがクローズアップされ、イメージばかりが先行しているというケースは珍しくないようです。バイオディーゼル燃料もまさにイメージばかり先行し、デメリットが話題になることは極めて希で、例のNHKの中継車なども私が視聴していた範囲ではメリットしか伝えていなかったと記憶しています。
しかし、今月10日、
国土交通省の自動車交通局技術安全部環境課が「高濃度バイオディーゼル燃料等の使用による車両不具合等防止のためのガイドライン」を制定した旨、パブリシティしました 。一口にバイオディーゼル燃料といっても軽油のように全てがきちんと規格化されておらず、場合によっては車両に不具合を起こすことがあるそうです。
実際、同省が2006年に廃食用油由来のバイオディーゼル燃料の利用者を対象として実施したアンケートによれば、回答のあった127件のうち57件(約45%)という非常に高い頻度で不具合が発生していました。わざわざガイドラインを設けるに至ったということは、この高頻度で発生する不具合を看過できないと判断したからでしょう。
詳しくは上のリンク先にある添付資料をご参照頂きたいと思いますが、大まかに言えば軽油に植物油から精製されたFAME(脂肪酸メチルエステル)を質量分率5%超で混合したバイオディーゼル燃料は、以下のような不具合を起こすことがあるそうです。
・燃料フィルターの目詰まり
・燃料噴射ポンプの焼付き、寿命低下
・燃料噴射ノズルのコーキング、詰まり
・燃料系ホース、キャップシーリング材等の劣化、膨潤
・燃料系金属部品の腐食
・エンジン始動性低下
・エンジン回転不安定
・エンジン焼き付き
・エンジンオイルの劣化
・PM(粒子状物質)の増加
・NOx(窒素酸化物)の増加
・DPF(粒子状物質減少装置)自動再生装置の機能不全
・NOx吸蔵還元触媒システムの機能不全
・尿素SCR(NOx減少装置)システムの機能不全
・EGR(排ガス再循環)システム等の吸気系部品の機能不全
大きく分ければ、燃料系、エンジン本体、排気系や排ガス成分にかかる問題になりますが、普通に売られている軽油を使う限りにおいては滅多に起こらないトラブルがこれだけズラリと並んでしまうと、もはや「粗悪燃料」というべきでしょう。5%以下の混合燃料(B5)についてはJIS規格(
JIS K 2390 )が設けられており、特に問題はないようです。が、5%超に関して国土交通省は適切な車両改造、点検整備の実施を推奨しています。
そもそも、今日のディーゼルエンジンは排出ガスに含まれる大気汚染物質などを減らすために様々な技術が駆使されており、それらの技術はきちんと規格化された軽油に最適化されています。ですから、規格外の燃料を用いて不具合が生じたり、排出ガスに含まれる大気汚染物質が増えてしまったりするのはむしろ当然というべきなんですね。
バイオディーゼル燃料による不具合の事例 ご覧のように燃料タンクが腐食したり 燃料噴射ノズルにカーボンデポジットが付着するなど 高濃度バイオディーゼル燃料の使用に当たって 相応の対策を実施しないと様々なトラブルが かなりの頻度で発生するようです。 ま、この辺は使用するバイオディーゼル燃料に合わせた改造や調整などを行えば克服できない問題でもないと思いますが、何より植物油はその原料によって成分が異なります。場合によっては使用された農薬の影響を受けることもあります。FAMEに変換しても低温下での流動性やエンジン内部での熱安定性などの性状は、どのような原料油脂を使用するかに強く影響されるため、なかなか一筋縄ではいかないと思います。
バイオディーゼル燃料の原料となる油脂を特定の植物に限定し、厳しい基準を設けてしまうと、その普及の妨げになってしまうでしょう。が、広範囲で認めるとなると燃料性状の問題から最適化が難しくなり、運用に手間やコストがかかったり、却って大気汚染物質を多く排出してしまう恐れもあり、それこそ本末転倒の事態に陥る可能性も生じてしまうわけです。
バイオマス燃料の利用が本当に良いこと尽くめで問題はコストだけというのならば、政府や自治体などが補助金を出して普及を促すのも良いでしょう。しかしながら、現実には数多の問題が山積しており、そこにはエンジンや補器類のトラブルを招くだけでなく別の環境負荷を高めかねない要素も含まれます。そうした実態を顧みず、「バイオマス燃料は環境に良い」というイメージを徒に膨らませて妄信してしまうのは愚かなことです。
アメリカの新政権は風力発電や太陽光発電のほかにもこうしたバイオマス燃料開発を積極的に推進していく方針です。これを「グリーン・ニューディール」などと称することで大衆にアピールするイメージキャンペーンとして大いに盛り上がっています。その裏には穀物メジャーの影響力も見え隠れしていたりしますが、日本のメディアの多くはこれを理想的な政策であると盲信し、崇拝しています。
殆どの物事には二面性あるいは多面性があり、良いこと尽くめというケースはそれほど多くないでしょう。「持続可能エネルギー」などと呼ばれるこれらのエネルギー政策を推進しようとする人たちは良い部分を大々的にアピールする一方、悪い部分については積極的に周知させる気はないようです。ま、普通に物を作って売る場合もわざわざ欠点を宣伝することはありませんから、ごく自然な流れではありますが。
私たちが日常的に物を買うときは欠点についても確認しようとするでしょう。しかし、環境保全がらみの物やシステムを考えるときは良い部分ばかりがクローズアップされ、欠点については「これから技術が進めば何とかなるに違いない」と、極めて楽観的になってしまうことが多いように思います。さらに酷いエコミーハーたちはデメリットについて何の知識もなければ興味すらなく、メリットだけを宗教的に崇拝してしまいます。
日本の大衆メディアがイメージ先行の似非エコキャンペーンを煽動する傾向が強いのは、要するに彼等の多くがエコミーハーだからなのでしょう。
(おしまい)
バイオディーゼル燃料というと「環境に優しい燃料」「新しい燃料」と思われがちです。が、「環境に優しい」かどうかはLCAを厳密に検討しなければ確実なことはいえないでしょうし、「新しい」というイメージは完全に誤っています。ディーゼルエンジンを発明したルドルフ・ディーゼルが当初用いていた燃料はピーナッツ油でしたから、実は原点回帰なんですね。今日において一般的な自動車用ディーゼルエンジンの燃料は軽油となっていますが、その性状はきちんと規格化されており、油なら何でも良いというわけではありません。
NHKは昨年、奇抜なユニフォームで有名な卓球の
四元奈生美 選手に
四国八十八か所巡りをさせる番組 を放送していました。これに随伴する中継車「
エコロジア号 」は使用済み天ぷら油をリサイクルしたバイオディーゼル燃料を使用していましたが、もちろんそのまま用いていたわけではありません。
エコロジア号 ベースは三菱ふそうの中型トラック(車両総重量8tクラス) 二代目ファイターの初期型でしょう。 かなり古い車両(15年くらい?)になると思いますから、 NOxやPMなど排出ガスに含まれる汚染物質の量は 最新のそれと比較にならないくらい多いハズです。 これに「エコロジー」をもじった名を与えるというその厚顔は NHKらしさ炸裂といった印象です(個人的な感想です)。 以前 にも触れましたが、廃食用油をディーゼル燃料とする場合、一般的に化学処理を施してFAME(脂肪酸メチルエステル)という軽油の性状に近いものに変換して用いますが、このエコロジア号も例外ではありません。植物油に含まれるトリグリセライドからFAMEをつくる技術開発も色々進められており、最近ではアルカリ触媒を必要としないものもあります。が、いずれにしてもメタノールと熱エネルギーの投入が不可欠です。
上図はエコロジア号が「カーボンニュートラル」で運用されているとする概念図になりますが、実際には「廃食用油→バイオディーゼル燃料」のところにメタノールと熱エネルギーを投入しなければなりません。その化学処理の段階で用いられる熱源は電気ヒーターで、実質的にはカーボンニュートラルになっていません。
ついでに言わせて頂けば、食用油を採取する植物の生産にも、それを食用油に加工する際にも、昔ながらの手作業ならばともかく、今日においては現実的に化石燃料の投入が不可欠です。つまり、上図のサイクルはこれら実際に構成される要素を完全に無視したもので、都合の良いところを切り出した空論に過ぎません。
「本来は廃食用油として捨てられるものだったのだから、それを生かせるなら完全にカーボンニュートラルとなっていなくても良いのではないか?」と思われるかも知れません。が、今日ではゴミ焼却施設にボイラーを設け、その廃熱を空調や温水プールなどに利用したり、火力発電施設(いわゆる
ゴミ発電所 )とするケースも珍しくなく、廃食用油を普通に可燃ゴミとして捨ててもサーマルリサイクル(熱回収)というカタチで知らぬ間にリサイクルされていることがあります。
一方、植物油からFAMEをつくるときには、副産物としてグリセリンという物質も生じます。このグリセリンも様々な利用法はあるのですが、皮肉にもバイオディーゼル燃料の普及で供給過剰の傾向が続いており、市場価格は大幅に下落、一部では焼却処分されるなど、必ずしも有効利用されているわけではないといいます。ま、エコロジア号の場合は肥料などにしているそうですが、それとて追加のエネルギー投入は避けられません。
つまり、廃食用油にわざわざエネルギー投入を伴う化学処理を施してクルマを走らせる燃料に変換するほうが良いのか、普通の人が普通に処分するように凝固材で固めて可燃ゴミとし、ゴミ処理場で燃やして熱エネルギーや電気エネルギーをつくり、それを利用するほうが良いのか、この辺は厳密なアセスメントを行わなければどちらが有効利用になっているのか正しい判断はできません。
しかしながら、多くの人は「バイオマス燃料はエコ」というイメージが刷り込まれており、ここまで考えている人は滅多にいないでしょう。少なくとも、NHKのキャンペーンはそういうレベルにとどまるもので、大衆をミスリードしかねないという意味で非常に罪深いものだと思います。
(
つづく )
日本のメディアもアメリカの景気対策法案に盛り込まれた「バイ・アメリカン条項」について「保護主義の連鎖に繋がる」とし、極めて批判的な論評を展開していました。
朝日新聞は「議会を説得し、保護主義を寄せつけない姿を世界に見せてほしい」とオバマ大統領に期待し、読売新聞も「大統領は、問題の条項を削除するように議会を説得すべきだ」と注文を付けたように、オバマ大統領が従来から保護主義に傾倒していたことを知らない各紙の論説委員たちは、彼にこの条項の削除を願い、保護主義政策を退けるよう望んでいました。
が、その期待は当然のように裏切られ、「国際合意に沿う形で適用する」との文言は加えられたものの、条項そのものは残されたままの景気対策法案にオバマ大統領はアッサリとサインしてしまいました。
バイ・アメリカン条項が削除されなかった 景気対策法案に躊躇なく署名するオバマ大統領 しかし、何故かあれから数日を経てもオバマ大統領を批判する声が日本のメディアからあまり上がってきません。少なくとも五大紙でこの法案を承認したオバマ大統領に対する批判を展開している社説はありません。
要するに、支持率が極めて高く、世界的にも非常に好感度が高い彼に対するこの空気に呑み込まれているのでしょう。例えイメージだけあっても絶大な人気を博している人物を手厳しく批判することは逆に反感を買うのではないかと恐れているのかも知れません。
例外といえるのは日経新聞で、彼等はこの法案成立以前から既に「期待外れ」と評し始めていました。ま、この言葉が出たということは彼等もオバマ大統領のイデオロギーを充分に確認せず、自分たちが美化してきた彼に過剰な期待を寄せていたということでしょう。
日和見主義のオバマ大統領は国際的な批判が加熱する中、ABCニュースのインタビューに「貿易が世界規模で落ち込んでいる時に、米国が世界貿易より国益ばかり考えているというメッセージを送るのは誤り」「貿易戦争を引き起こさないという保障が必要だ」と述べ、バイ・アメリカン条項に反対を表明しました。これが口先だけだった結果に日本のメディアも満足はしていないでしょう。が、「国際合意に沿う形で適用する」という一文が付け加えられたのは彼の意思によるものと解釈し、寛容になっているのかも知れません。
結局、バイ・アメリカン条項が削除されなかった法案を承認したということは、彼本来の保護主義を曲げず、議会と対立する気もないということを明確に示した格好になったわけですね。ならばあの反対発言は何だったのかということになりますが、つまり大統領になる以前から彼は何も成長しておらず、スピーチが上手いだけの優柔不断な偶像ということなのでしょう。
オバマ政権が進めようとしている新エネルギー開発政策を「グリーン・ニューディール」と称え崇拝しているように、メディアは彼をルーズベルト大統領に準えようとしています。が、この二人はむしろ対極にいると見るべきでしょう。
ルーズベルト大統領は在任期間12年で史上最多となる635回も拒否権を行使したそうです。(余談になりますが、アメリカの大統領は初代のワシントン大統領が3選を固辞したことから2期までという慣例になっていました。が、ルーズベルト大統領は第2次世界大戦という有事を理由に例外となりました。後に憲法が改正され、正式に2期までと定められています。)最大で8年のところ例外的に12年務めたとはいえ、ルーズベルト大統領が行使した635回の拒否権は明らかに多く、オバマ大統領とは違って議会と対立し続けたと見て間違いないでしょう。
『ナショナル・レビュー』誌のリチャード・ラウリー氏は選挙戦中から「最近の政治家で、オバマほど計算と不実を意図的に避けていながら、計算と不実を見せつけた者がいただろうか」と酷評していました。国際世論の批判を浴びたバイ・アメリカン条項に反対する素振りを示しつつ、しかし僅かに修正されたそれを易々と受け容れた彼は、やはり「計算と不実の人」なのだと思います。日本のメディアもそろそろ彼のこうした本性に気付くべきでしょう。
ま、メディアはこれまで散々持ち上げるだけ持ち上げてきた経緯もありますから、この程度のことで全否定はできないのかもしれません。あるいはこの人気と話題性に乗じてもう少し引っ張ってやろうと考えているのかも知れません。が、何かしらのキッカケさえあれば堰を切ったかのごとく一気に流れることになるでしょう。そのキッカケがアフガン政策になるのか、何になるのか、私にはまだ解りません。ただ、本当に彼が大化けしない限り、世界中が彼に失望するのは時間の問題ではないかと思います。
中日新聞が圧倒的なシェアを握っている名古屋圏はトヨタのお膝元でもあるせいか、同紙は社説で自動車業界絡みのネタを取り上げる機会が比較的多いように感じます。しかし、立場は一方的といって良いほど労働者サイドに大きく偏っています。
以前 、当blogで取り上げた今年1月7日付の社説は派遣切りを感情的にひたすら批判する内容で、法改正を以てこれを禁止するよう求め、以下のような言いがかりというべきことまで書かれていました。
自動車や電機産業などでの最近の派遣社員や期間従業員の解雇ラッシュは目に余るものがある。経費節減や役員報酬カットなど自助努力もしない段階から派遣切りでは、国民の理解は得られまい。
以前に述べたことの繰り返しになりますが、トヨタの場合は管理職約8700人の賞与が10%カットされたり、3月期の役員賞与はゼロとなる予定だったりします。ま、この一節はトヨタに向けて発せられたものというわけでもありませんが、「自動車メーカーは非正規雇用を切る前に経費を節減しやがれ」という意思が込められているのは間違いありません。しかし、昨日(2月19日)付の社説ではこんなことを述べています。
賃上げ要求 不況だから意味がある 人員削減や賃金カットが広がる中、トヨタ自動車など主要労組が春闘要求を提出した。賃上げは困難との空気だが、要求無くして労働者の待遇改善はない。労組は全力を挙げて交渉に臨むべきだ。 (中略) 〇七年十月まで続いた戦後最長の景気拡大でも労働者の所得は減り続けた。春闘で訴えている所得分配のゆがみ是正や物価上昇による所得目減り分の回復などの要求は理解できる。不況克服には従業員の士気向上が不可欠だろう。 一方、経営側は今年の賃上げに否定的だ。トヨタ自動車幹部は「賃上げどころか賃金維持分の確保すら極めて難しい」とベア拒否の構えだ。苦しい経営事情はわかるがここは一段の配慮を求めたい。 主要企業の労使交渉は三月中旬の集中回答日に向けていよいよ本格化する。春闘は中小企業労働者のほかパートや障害者など非正規労働者の待遇改善にもつながる。連合は賃上げや雇用対策で成果を上げ、ナショナルセンターとしての責任を果たしてもらいたい。 (C)中日新聞 2009年2月19日
企業が投じられる経費には限りがあり、人件費もまた上限を設定していない企業などあり得ないでしょう。まして、コスト管理ということにおいてトヨタほどのレベルでそれを徹底している企業は世界的に見ても多くありません。そんなことはほんの僅かでもこの業界を眺めたことのある者なら知らないわけがありません。
トヨタは基本的に無駄なコストを許しませんから、初めから余裕は設けられていないでしょう。正規雇用の賃金を引き上げれば、必然的に非正規の雇用そのものを減らすなど、何らかの方法で調整が必要になってくるハズです。現実問題として正規雇用のベースアップと同時に「非正規労働者の待遇改善にもつながる」ような労使交渉が可能だとしたら、それは現在と正反対の景気拡大局面でしかあり得ないでしょう。この不況下でそれが可能だと信じているこの論説委員の思考回路がどうなっているのか、私には想像もつきません。
中日新聞は「経費節減や役員報酬カットなど自助努力もしない」などと言いがかりを付けるような社説を書いておきながら、僅か1ヶ月半足らずでベースアップ(=経費増大)要求を応援する社説を書いています。こうした矛盾に気付いていないのは企業経営の基本を全く理解していないからでしょう。労働者の立場に立つことは決して悪いことではありませんが、視点がブレまくった独善的な主張を展開しているようではジャーナリズムとしての信頼を損なうだけです。
今般の不況を受けてF1から撤退したホンダのチーム売却先は様々な噂や憶測が飛び交い、未だ不透明な状態が続いています。当初は前身のB.A.R時代にチームを指揮したデイビッド・リチャーズ氏率いるプロドライブが有力ではないかという噂がまことしやかに囁かれ、当blogでも
それに乗じた憶測で適当なこと を書いたりしました。
このとき私は充実した設備やスタッフを抱えるチームゆえ、かなり楽観的に見ていました。が、やはりF1チームの運営というのは大変なコストがかかりますから、タダ同然で買収できたとしてもスポンサーの獲得から組織全般のコスト管理にかなりの困難がつきまとうことになるでしょう。開幕まで約40日に迫ってもまだ売却先が決まらないということは、こうした難問を解決する具体的なプランを提示した引受先が現れていないからかも知れません。
ただ、ここに来てBBCの電子版で「ホンダは18日、英国に本拠を置くF1チームの売却で、英ヴァージン・グループが交渉相手の一つであることを認めた」と伝えたり、ロイターもホンダに近い筋の人物から「彼ら(ヴァージングループ)からチーム買収のオファーを受けた」という情報を得た旨を伝えています。
イギリスの実業家リチャード・ブランソン氏率いるヴァージングループは過去にジョーダンと小額ながらスポンサー契約を結んだこともありますし、ブランソン氏はB.A.Rの共同創設者であるエイドリアン・レイナード氏の友人であり、ビジネスパートナーでもあるそうです。また、ヴァージンアトランティック航空の日本法人は昨年まで4年にわたって佐藤琢磨選手のパーソナルスポンサーでもありました。
一方、スーパーアグリの消滅以降シートを失った佐藤選手は、トロロッソのテストを受けるも叶いませんでした。現在はレッドブルのリザーブドライバーのシート獲得を模索している旨も伝えられていますが、それが実現したとしても今年はシーズン中のテストが禁止となっていますから、出番はかなり限られてしまうでしょう。
ヴァージンカラーのロンドンタクシーの ステアリングを握る佐藤琢磨選手 ま、ヴァージングループによる買収から佐藤選手の起用に至るというストーリーはプロドライブのリチャーズ氏とカーリン・モータースポーツのトレバー・カーリン氏との提携話と大差ないくらい細い線かも知れません。が、ファンとしてはどうしても希望的観測を巡らせてしまいます。
現在はかなりの円高ポンド安ですから、イギリス企業にしてみれば日本は狙い目の魅力的な市場となっているでしょう。また、今年はヴァージンアトランティックの東京~ロンドン就航20周年の節目にも当たります。実際、「アニバーサリーフェア」としてロンドンまで往復4万円からというキャンペーンを展開しているくらいですから、ここは佐藤選手を起用したプロモーションでさらに盛り上げる手も有りではないかと思います。
それはともかく、ホンダのF1チームを引き継ぐ契約はもうボチボチ締結されなければ開幕に間に合わなくなる恐れが生じてきます。現在の状況を見ると以前ほど楽観できそうにありませんが、チームの消滅だけは何としても回避して欲しいところです。
キリン・ファイアのテレビCMで福山雅治がランサー・エボリューションのメンテをしている
『マ、イイカ』篇 がオンエアされていますが、どうもあの工具の使い方が素人じみていて非常に気になります。
彼が手にしているのはラチェットアダプターにスライドTハンドルを組み合わせたものです。ラチェットアダプターをご存じない方のために説明しておきますと、これはラチェット機構の上下にメスとオスの差し込み角が設けられたもので、一般的に丸形のラチェットハンドルに用いられるヘッド部がベースになっています。
KTC NEPROS NBRA3 件のCMで使われているのはスナップオンのTM67Aあたりかと思いますが、 これは私が愛用しているKTCネプロスのラチェットアダプターです。 もちろん、これ単体で大したトルクはかけられませんから、上部にあるメスの差し込み角にハンドルを取り付けて使用しますが、定番はやはりスライドTハンドルとの組み合わせになるでしょう。また、下部にあるオスの差し込み角にはエクステンションバーを取り付けるのも定番で、Tレンチにラチェットが組み合わさったような工具として用いるのが一般的です。
世間一般の認知度はあまり高くないかもしれませんが、ハンドツールを扱ったムックなどではよく紹介されますから、このジャンルに興味のある人の間ではよく知られているでしょう。実際に使ってみるとこれがなかなか便利で、私も好んでよく使うアイテムの一つです。最初にこれを商品化したのはスナップオンになると思いますが、日本でもずいぶん前からKTCやコーケンなどから類似品が発売され、一部では定着してきたと思います。
で、件のCMですが、福山雅治(というより、彼に演技指導した演出家)がこの工具を使いこなせていないと思うのは、Tハンドルの中心付近を持ってラチェット機構を用い、往復運動で使っていたからです。
そもそも、Tハンドルを使うメリットというのは、まだ締め付けが緩い仮締めの状態(あるいは、高トルクが必要なくなってきた状態からの緩め)で迅速に作業を進められるという点にあるんですね。Tハンドルに人差し指(ま、他の指でも構わないと思いますが)を添え、クランクを回すような感じで円を描くようにクルクルと回してやれば、ラチェットで片道が空回りとなる往復運動より遙かに素早くボルトやナットを締めたり緩めたりできるわけです。
障害物があってハンドルを動かせる範囲が限られていたり、大きなトルクをかけるためにリーチの長いハンドルを用いる場合などを除き、往復運動ではなく回転運動になるような工具の動かし方をするほうが作業のスピードアップにつなげられる訳ですね。
ラチェットアダプターにスライドTハンドルを組み合わせたこのアイテムを有効に使いこなすとしたら、まずは上述のように指先でクランクを回すような要領で早回しし、大きなトルクが必要になる本締めの段階になってきたらTハンドルをスライドさせてリーチを長くし、ラチェット機構を活用して締め込んでいくというパターンがベストでしょう。緩めるときはこの逆になるのは言うまでもありません。
こうすれば小さなトルクで回せる段階は素早く、大きなトルクが必要になってもハンドルをスライドさせるだけでそこそこのリーチがあるラチェットハンドルに早変わりしますから必要なトルクがかけられ、いちいち工具を持ち変える必要もありません。工具を持ち替える時間も無駄にしないアイテムともいえるでしょう。
逆に、こうした使い方をせず、CMで彼がやっているような使い方なら、普通のラチェットハンドルでもできることです。ハンドルではなくヘッドの部分を持って捻るように回してやれば状態としては殆ど同じになるわけですね。こうした使い方は少しラチェットハンドルに慣れた人なら誰でもやっているでしょう。
ラチェットアダプターは丸形のヘッドと同じ機構を用いていますから、見た目では駆動方向が解らないというデメリットがあります。また、ラチェットハンドルほどメジャーでないゆえマーケット規模も小さく、その分だけ値も張ります。普通のラチェットハンドルでできるような使い方をするのなら、わざわざコレを使う意味がないと思うんですけどねぇ。
私も本職の担当業務では基本的に工具を持つ立場にありませんが、何だかんだと工具が必要になる場面が巡って来ます。趣味で自転車をバラしたり組んだり、かつては愛車のユーノス・ロードスターにウマ(リジットラック)をかけて一日その下に潜り込んでいたこともありましたので、工具の扱いについてド素人というレベルではない自負もあります。が、プロのメカニックの方に比べると、格段に劣っているのはよく自覚しています。
もちろん、プロといってもピンキリですから、中には「プロのくせに解ってないな」と思わせる人もいます。が、本当に凄い人は判断も動作も何もかもが素早く的確で、一切の無駄がないんですね。やってはいけないことと知りつつ作業性を重視して(例えば、ホイールナットのインパクトレンチ一気締めとかを)やってしまうプロもいますが、一流のプロはそういう不適切なことは原則としてやらないんですね。
「原則として」と付したのは、不適切な処置でもやらなければ前に進むことも後に戻ることも出来ないことが現実には起こるからですが、その辺は臨機応変に対応し、単なる手抜きとしては絶対にやらないということです。それでいて、他の誰よりも作業が早かったりするんですね。そういう人は常に頭を使っているので、傍から作業を見ているだけで「おお、なるほど!」と思わされるシーンがよくあります。
ま、缶コーヒーのテレビCMごときに「おお、なるほど!」というシーンを望みはしませんが、「ちゃんと解ってるね」と思わせるだけでもかなり違ったと思います。「妥協ゼロ。糖分ゼロ。」というキャッチコピーなのですから、プロのメカニックに監修させるなどしてCMの演出も妥協することなく徹底して欲しかったところです。
とはいえ、まだメジャーとは言い難いラチェットアダプターを使っていたところはチョットだけ褒めてあげたいと思います。あのアイテムはもっと普及して、価格ももっと下がって欲しいというのが私の長年の希望ですから。
先日 、日本の地球温暖化対策について「魂がこもる」かどうかという精神論を展開していた日経新聞の社説を批判しました。このとき、「これは日経に限ったことではなく、殆どの大衆メディアについていえること」と述べましたが、産経新聞はずっとマトモな考え方ができているようです。
温室ガス中期目標 数値の背比べは国益失う 2020年までに二酸化炭素に代表される温室効果ガスを、日本国内でどの程度削減するかという中期目標について、6つの案が示された。 首相官邸の「地球温暖化問題に関する懇談会」によってまとめられた選択肢である。1990年比で、25%減らすものから逆に7%増える案まであって幅は広い。 (中略) 日本が定めようとしている中期目標は、COP15に向けた国際交渉で意味を持つものだ。地球環境問題での主導権獲得に意欲的な欧州連合(EU)は、すでに20~30%減という目標を示している。 日本もそれに準じるか、それ以上でなければならないという声がある。本当にそうだろうか。ここは冷静に考えることが肝要だ。 日本が出している温室効果ガスは、世界全体の約5%にすぎない。しかも率先して省エネを進めてきた。必死の努力でさらに50%の削減を達成しても世界の排出量のわずか2・5%が減るだけだ。それぞれ20%前後を占める米国や中国の半減とは意味が違う。 (中略) もう一度、提言しておきたい。ムードにあおられ、高すぎる中期目標を設定することは禁物だ。日本が過重な負担を抱え込んだ京都議定書の二の舞いは避けたい。 (C)産経新聞 2009年2月15日
環境問題に対して中途半端な興味しかない多くの人は、その対策の具体性や実効性や実現可能性はもちろん、それ以前にその現象が環境問題として成り立つものなのかという根本的な部分に対する科学的な理解も不充分だったりします。こうした人たちは「環境保護」という美名の下にパワーゲームが繰り広げられていても気付くことはまずありません。彼等の殆どはイメージキャンペーンに過ぎないものでも正義であると盲信していますから、「国益」という言葉を聞いた瞬間に拒絶反応を示すでしょう。
産経新聞の社説の見出しは禁句にも近いその言葉が用いられているところから画期的ともいえます。が、これは逆に本文を読む前から強い先入観を与え、大きな反感を買ってしまう恐れもあり、「諸刃の剣」的な難しさがあるように感じます。とはいえ、内容については欧州諸国の理論に乗せられてしまった日経新聞のような精神論ではなく、殊に「日本が過重な負担を抱え込んだ京都議定書の二の舞いは避けたい。」という結びの一文は、こうした認識が全くできていない多くのメディアと一線を画すものと評価すべきでしょう。
そもそも、京都議定書は従前から酸性雨問題など越境環境問題をツールとしたパワーゲームで交渉戦術を鍛え上げてきた欧州諸国にまんまと乗せられた不平等な取り決めだったと見るべきです。京都会議が開催されたのは1997年の12月ですが、温室効果ガスの排出削減義務の基準年が1990年とされたのは、彼等にとって極めて好都合な条件だったからです。
日本のエネルギーコストの高さは世界屈指で、それゆえ非常に早い段階から省エネを徹底してきました。また、日本国内の石炭産業は1980年代に「輸入炭との競争条件の改善はみこめない」という政府の縮小方針から一気に衰退しました。相対的にCO2の排出量が多くなる石炭から石油や天然ガスへの切り替えが進められ、一つの資源に偏らないバランス重視のエネルギー政策も展開されてきました。
京都議定書の基準年となっている1990年には、日本の一次エネルギー供給に占める石炭の割合は16.6%まで低下していました(ま、その後は石油の割合を10ポイント近く引き下げてきた絡みもあり、石炭の割合は増えていますけどね)。一方、当時のドイツは27.0%、イギリスも21.4%と、石炭依存の割合が日本より大きく、CO2排出量の削り代が大きかったのは間違いありません。
また、よく耳にするのが「東西ドイツの統一がまさに1990年で、これ以降に旧東ドイツの非効率な工場が旧西ドイツ側の技術を投入した効率の良いものに切り替わっていった」というストーリーです。ま、これなどは大局的すぎる印象が強く、どれだけ信頼すべき要素と見るか難しいところではありますが、いずれにしても欧州諸国がエネルギー効率の改善に向けて本格的に動き始めたタイミングが日本よりずっと遅かったのも間違いありません。
それまで日本ほど省エネに積極的ではなかったヨーロッパの-8%に対し、より先行していた日本が-6%という大きな負担を約束した京都議定書は、決して公平なものではなかったと見るべきです。そもそも、この-6%という数値は環境省(当時は環境庁)の大雑把な試算こそありましたが、その中身は極めて抽象的で、逆に具体的な積算を行っていた経産省(当時は通産省)の「現状維持が精一杯」という意見を全く無視したものでした。そればかりでなく、-6%でどれだけ温暖化の抑止に効果があるかという科学的な検討も全く成されていない、単なる精神的な目標に過ぎませんでした。
現在でも、GDP当たりの一次エネルギー消費量で日本に敵う省エネ先進国はないでしょう。日本より進んだ環境保護立国と信じられているドイツでさえ、GDP当たりの一次エネルギー消費量は日本の1.4倍を超え、省エネに関してはまだまだ大きく劣っていると言わざるを得ません。
こうしてみれば、産経新聞の「必死の努力でさらに50%の削減を達成しても世界の排出量のわずか2・5%が減るだけだ。それぞれ20%前後を占める米国や中国の半減とは意味が違う。」という主張は正鵠を射ており、自国内の排出量削減に大きなパーセンテージを掲げることが国際貢献に繋がると信じている人たちがどれだけ短絡思考に陥っているか解るというものです。
私は地球温暖化が人為的に引き起こされた気候変動であるとする仮説は全く支持していませんが、いずれ枯渇する化石燃料の消費を削減していこうとする努力は大切なことだと考えています。ここで本心から化石燃料の消費削減を進めていこうと思うのなら、国を問わず削減できる見込みの大きい部分から手を付け、日本で早くから導入されてきた先進的な省エネ技術を広く世界へ展開していくほうがより効果的であり、実効性の高い対策となるのは間違いありません。
しかしながら、欧州諸国はひたすら国別の削減義務にこだわり続けています。しかも、20年近くを経た現在もなお、彼らにとって都合の良い1990年を基準年として譲る気は微塵もありません。それは「CO2排出枠」という名を借りた「化石燃料消費枠」を定め、安価で埋蔵量が豊富な石炭資源を悪者とすることで、先進国はずっと先進国であり続け、後進国はずっと後進国であり続けるよう、不平等な国際規範を定めるのがその目的だからなのでしょう。彼等が独善的な規範を創り上げ、世界を席巻してきた事実は一般的な世界史の教科書を見ても解ることです。
折角、化石燃料依存を抑える良い契機を迎えているのですから、日本は無様な「事なかれ主義」を捨てるべきです。相手を出し抜く交渉術を競ってきた欧州諸国を相手に真正面からぶつかっていくならば、かつて捕鯨問題で欧米諸国からもタフネゴシエーターとして一目も二目も置かれた
小松正之 氏のような人材を起用していく必要があるでしょう。が、その小松氏もまた「事なかれ主義」によって潰されてしまいましたから、日本政府にそのような高望みをするのは無理なのかも知れません。
産経新聞のような意見は少数派で、多くは欧州諸国の理論に乗せられています。その時点で既に勝負は付いているのかも知れません。
当blogに設置しているカウンターは
FC2の無料カウンター ですが、同じIPアドレスからのアクセスは1日1回しかカウントしない、いわゆる「ユニークアクセス」で1日の正味の訪問者数に近い数字がカウントされるものです。カウンターにカーソルを合わせると当日と過去7日のアクセス数が確認できる棒グラフが表示されますが、ここ1週間くらい障害が発生しているようです。
最初は「アクセス解析のほうと比べて差が大きくなってきたとかな?」といった感じでしたが、当日のカウントが何時間も伸びないかと思うと、ほんの一瞬の間に何十も増えていたりして、要するにカウンターそのものは動いていてもその積算が反映されるまで何時間も滞っているといった感じになってきました。
2月13日には午前10時くらいにチェックしたとき表示された43のまま停止してしまい、その後のアクセスは全て翌日分に積算されてしまったため、353という当blogの1日の最多アクセス数を100くらい上回る異常な乱高下となってしまいました。
カウンターの
最新障害情報・メンテナンス情報 にもこの不具合が報告されており、カウンター自体は作動しており、アクセス数のデータそのものは失われていないそうで、週間カウントなどに反映されないトラブルについて復旧作業中とのことです。
ちなみに、アクセス解析のほうのカウント(本稿執筆時)は以下の通りです。
最近1週間は1日平均210強くらい、±30程度で安定していますね。それに対し、カウンターのほう(本稿執筆時)は以下の通りの乱高下です。
ま、トータルのカウントは狂っていないようですし、週間カウントはログがずっと残るわけでもありませんから、復旧すれば特に問題はありませんけどね。実際、当blogにおいでになる方でこのカウンターをチェックされている方など滅多にいないでしょうし。
これで有料ならボロクソに書いていたかも知れませんが、無料ですから仕方ないでしょう。アクセス解析のほうはログインしなければならず、携帯からのチェックが面倒なので、早いところ復旧して欲しいところですが。
環境対策は徹底的に感情論を排除し、単なる思い込みや偏った推論ではなく、常に科学的な根拠に立脚していなければなりません。科学的な根拠が軽視あるいは無視された環境対策は一般市民の努力や税金などが無駄になるばかりでなく、場合によっては環境保護の観点からも逆効果になることさえあり得るからです。
既成事実化された環境問題が科学的に誤りであると判明し、それまでに注がれてきた努力や税金が全くの無駄だったという事実を誰もが認識した場合、その既成事実化を進めたキャンペーンの規模が大きければ大きいほど深刻な疑心暗鬼を引き起こしてしまいます。下手をすれば意義のある環境対策も含めた全ての信用が失われ、人々のモチベーションを崩壊させてしまうこともあり得るでしょう。
残念なことに、現実には「環境対策」とされていながら科学的根拠を逸した「イメージキャンペーン」でしかないケースも非常に多く、またそうした事例が蔓延していることから「正しい環境対策はどうあるべきか」といった概念そのものが存在していないのではないかと思わされることがよくあります。そういう意味では今日の日経の社説もまさにこうした概念が存在せず、極めて精神的な主張になっています。
国の理念と志が問われる排出削減目標 地球温暖化防止のポスト京都の枠組み交渉で日本が示す温暖化ガスの排出削減の中期目標について、政府は4分類6案を軸に検討することを決めた。中期目標は国際交渉での日本の発言力を左右する。日本の低炭素社会の方向も決める。説得力と志のある目標を求めたい。 6案は2020年に1990年比で7%増から25%減まで幅がある。選択肢として様々な案があるのはよいが、削減でなく排出増の案まであるのは驚くしかない。場合によっては国際社会に背を向けるつもりというメッセージなのか。世界が削減を議論するなかで排出増の選択肢を残した感覚は疑わざるを得ない。 素案は首相直轄の懇談会の下部にある検討会で議論してきた。そこで多様な意見がかわされるのはいいが、数値の議論に終始しているのは極めて残念である。日本は地球の温度上昇を何度以下で抑えるつもりなのか。その原点を明確にしなければ中期目標に魂がこもるまい。 (中略) 欧米では景気対策として温暖化防止に絡めた「グリーン・ニューディール」政策に力を入れている。太陽電池や風力など新エネルギーの投資で雇用を創出し、低炭素社会への移行を早める決意は固い。 (後略) (C)日本経済新聞 2009年2月13日
以前 にも述べましたが、ヨーロッパが掲げている排出削減目標には全く根拠がありません。どのような技術やシステムがいつ頃までにどの程度の規模で導入されていくといった具体的な内容が積算されているわけではなく、耳触りの良い政治スローガンでしかないんですね。
例示されている「グリーン・ニューディール」などもその典型で、風力や太陽光など高価なエネルギーの開発を推進していくことが本当に景気対策たり得るのか甚だ疑問です。また、これら不安定電源の変動損失を技術的にどう克服するのか具体的な検討がなされているようにも見えません。
どれだけ崇高な理想を掲げていても、実現可能な裏付けがないのなら「絵に描いた餅」でしかないということにこの社説を書いた論説委員は全く気づいておらず、これはもう「哀れ」としか言いようがありません。また、「魂がこもる」などという精神論の下で環境問題を議論するなど論外中の論外です。
仮に、実現可能なスケジュールを具体的に検討し、結果的に7%増という選択肢を採用しなければならないとしても、根拠のない夢のような目標を掲げるよりはマシというものです。いい加減な約束をして守れないくらいなら、守れる範囲の約束をするというのは古今東西を問わぬ社会常識です。こうした常識のない人間に社説を書かせるべきではありません。
もっとも、これは日経に限ったことではなく、殆どの大衆メディアにつていえることですけどね。この問題の根深さはこうした部分にもあると見るべきでしょう。
私が1年近く前まで乗っていたS2000のインテリアも決してオシャレではなく、近年のレースカーで常識となっているそれをイメージしたというデジタルメーターもデザイン的に見るべきものはありませんでした。全般的に無骨で、それを「スパルタン」と言い換えれば簡単なのかも知れませんが、デザイナーが良い仕事をしたと思える部分はなかった印象です(あくまでも個人的な感想です)。
マツダや日産は時々気合いを入れ、ペルソナとかティアナのようにインテリアデザインを売りにしたクルマを発売することもあります。が、日本のメーカーは全般的にそれを等閑にする傾向があり、ホンダもオシャレと思ったりカッコいいと思ったりした記憶がありません(あくまでも個人的な感想です)。
インサイトのインテリアも未来的なイメージが膨らむ夢のあるものを狙ったのかも知れませんが、造形的な美しさという点で成功しているとは思えません。わずかな視線移動で直感的に感じることができるメーター配置というようなことを謳っていますが、メーターバイザーの上に脈絡なくポッコリと乗っかっているスピードメーターは非常に無粋な感じです(くどいようですが、あくまでも個人的な感想です)。
もっとも、このメーターこそプリウスとの真っ向勝負を避け、低価格化と同時にホンダが発想を転換して(ある意味、開き直って?)採用した「ドライバー教育」の大きなポイントとなる部分といって差し支えないでしょう。上の写真ではこのスピードメーターの背景色がブルーになっていますが、この色はエコドライブができているほどグリーンに変わっていくのだそうです。
コーチング機能のイメージ 新型インサイトに採用されたエコドライブのアドバイス機能は、「コーチング機能」と称されていますが、最も目に付く位置に最も頻繁に見るメーターを置き、また数値やグラフなどではなく視覚的なイメージとしてエコドライブができているかどうかを常にドライバーに意識させることを狙っているのでしょう。背景色でエコドライブ度を知らせるこれは「アンビエントメーター」と称されていますが、その判定基準はやはりアクセルワークとブレーキングになるようです。このアクセルワークやブレーキングについてはさらに専用のインフォメーションが設けられています。
従来のメーターが備わるその中央に配置されたタコメーターの内側には「マルチインフォメーション・ディスプレイ」と称する表示スペースが設けられています。ここには「エコドライブバー」と称するインジケーターを表示し、加速や減速の度合いを視覚的に解りやすく示すことでエコドライブの大敵である急発進・急加速や急制動などを抑え、適切なアクセルワークやブレーキングを理解するためのアドバイスとするようです。
加速時はバーが右に、減速時はバーが左に伸びるそうですが、できるだけクリアゾーンに収るようにし、バーの伸びが小さいほどエコドライブになっているとされています。また、その評価がスピードメーターの背景色「アンビエントメーター」と連動しているため、常にこのバーの動きを目で追う必要はなく、自然に視界に入ってくるその色でイメージ的に伝えようということなのでしょう。
さらに、「ティーチング機能」と名付けられた評価機能も設けられています。「コーチング機能」で示されたインフォメーションのログなどが残され、どれだけエコドライブが出来ていたか採点されるそうです。その結果も蓄積されて、どれだけエコドライブのスキルを身につけてきたか、その成長度合いをグラフなどで示したりする機能も設けられています。これは努力を継続する良い動機付けにもなると思いますし、プリウスの燃費データ表示よりずっと直接的にエコドライブを促すものといえるでしょう。
ティーチング機能のイメージ メーカーオプションのHDDナビを装着すると、ナビの液晶画面を用い さらに詳しくエコドライブ度を分析、アドバイスしてくれるそうです。 昔なら、このように出しゃばった機能は敬遠されたかも知れません。「クルマに運転技術を採点されるなどゴメンだ」と思う人もいたでしょう。ホンダもその辺を憂慮して心を砕いたのかも知れません。その表示方法などについてはより解りやすく、尚かつ嫌味にならないよう、様々なパターンを試して機能を絞り込んできたような雰囲気を感じます。少なくとも、私の印象としてこのようなインフォメーションであれば全く違和感なく受け容れられます。
実際のところ、カラオケでどれだけ上手く歌えたか(というより、「どれだけ楽譜どおりに歌えたか」でしょうか?)という採点機能も喜んで使う人は沢山いますから、機械に判定されたり指南されたりすることに全く抵抗のない人も沢山いるでしょう(私はカラオケの採点機能など使いたくありませんけど)。
現在はユーザーの省エネ意識もかつてないレベルに高まっていますから、むしろこうした機能は望まれ、ゲーム感覚で楽しむ人も少なくないと思います。ま、かく言う私もプリウスの燃費データを見て結果が良ければ満足し、悪ければ残念に思いますますから、ゲーム感覚で楽しんでいる部分は確かにあります。
ただ、普通に乗れば誰でも20km/L前後くらいはいける現行プリウスに対し、クルマの言い付けを忠実に守って大人しく走ってもそれと大して変わらなかったり、劣っていたりするほど新型インサイトの実燃費が悪かったとしたら、幻滅される恐れもあります。実際、以前にも
プリウスが27.8km/Lだった条件でシビックハイブリッドは18.3km/Lだったという例 をご紹介しましたように、ホンダの実燃費はカタログ値より大きく劣る傾向がありますから、可能性として充分にあり得ることです。
新型インサイトの低価格は非常に大きな訴求力になっていると思いますが、新型プリウスが発売された暁には現行プリウスが10万円程度の価格差で迎撃態勢に入ると予告されています。姿形はよく似ていますが、考え方はかなり異なる両者に対してマーケットがどのような評価を下すのか、私の興味は益々深まってきました。
ここでホンダに対して一つ注文をつけたいのは、「エコカー」とか「グリーンマシーン」などと標榜しておきながら環境負荷に対する評価が全く不充分で、ありがちなイメージ先行になっているところです。公式サイトにある「
燃費・環境性能 」で「ひとりでもたくさんの人にハイブリッドカーを届けることができれば、地球全体としてCO2の排出を削減することができるはず。」と述べていますが、その根拠となるデータは現在のところ何一つ示されていません。
ハイブリッド車はモーターやバッテリーなどが普通のクルマより余計に搭載されていたり、その容量が普通のクルマに搭載されているそれよりずっと大きかったりします。また、それらを制御するためのインバータなど生産時に大変なエネルギー投入が必要な半導体デバイスも必要になりますから、その分だけイニシャルでかかる環境負荷が大きくなりがちです。
つまり、ただ「燃費が良い」というだけで「環境負荷が小さい」と結論づけるのは、部分比較による不正確な情報になりかねないわけです。
以前 、当blogでもプリウスについて単純計算で比較してみましたが、生涯走行距離が短いほどハイブリッド車はアンチエコカーとなる可能性も高まってくるというジレンマを抱えています。
プリウスの場合、評価結果を指数で示すなどやや疑問な点こそありますが、一応LCAを示し、
従来のガソリンエンジンだけのクルマと生涯にかかる環境負荷にどの程度の差が生じるか比較しています 。ま、これとて第三者機関による評価ではないようですから、どこまでアテになるのかは解りません。が、何も検討せず何も示さず、ただイメージだけを伝えるよりはマシでしょう。
こうした評価を一切行わず、青空と緑の大地と子供の絵を掲げてイメージに訴えかけようとするインサイトのプロモーションは、宗教的な領域にとどまっているといわざるを得ません。環境問題についてきちんと勉強している人には「環境負荷に対する評価の仕方でもホンダはトヨタに大きく遅れをとっている」といった印象を抱かれてしまいかねません。
当blogにも「プリウス LCA」というキーワード検索でアクセスされる方が時々います。それだけ「ハイブリッド車=エコカー」という世間一般の認識に疑いを持っている人がいるということでしょう。こうした核心を突いてくる人たちの存在を軽視し、適当なところで見切ってイメージ戦略に走るようでは、いつまで経ってもプリウスを超えるようなクルマを作ることなどできないかも知れません。
(おしまい)
ハイブリッド車として最も重要な性能である燃費について、新型インサイトはスペックを見た限りシビックハイブリッドから全く進歩していません。エンジンやモーターの出力は異なっています(小さくなっています)から、全く同じでないことは確かですが、ハイブリッドシステムのチャートなど説明資料を見ても全くといって良いほど変わったところが見られないんですね。
以前にも述べましたように、現行プリウスは68psという強力なモーターを搭載していますから、渋滞などの発進→低速走行→停止を繰り返すような場面でもバッテリーの残量が少なくなければエンジンを始動させなくても対応できます。また、エンジンとモーターの出力特性の違いを補完し合う最適化も高次元で行えるというメリットもあるでしょう。プリウスの実燃費の落ち込みが比較的小さく済んでいるのは、こうしたことも寄与しているのでしょう。
が、新型インサイトのモーターは14psに過ぎず、初代インサイトやシビックハイブリッド同様にモーターのみでの発進が出来ないようです。発進する度にエンジンを始動させなければならず、そのためにはスターターも回しますから、ガソリンと電気エネルギーの両方を消費することになります。渋滞などではプリウスより実燃費の落ち込みが顕著に出るのも従来通りではないかと想像されます。また、エンジンとモーターが出力特性を補完し合う最適化もプリウスの水準には至っていないでしょう。
新型インサイトも従来のホンダのハイブリッド車同様、低速巡航という極めて限られた場面でしかモーターのみの走行ができず、基本的にモーターはエンジンのアシスト役に徹するという仕組みがそのまま継承されています。このため、トランスミッションが不要なプリウスと異なり、新型インサイトは従来同様トランスミッションを用いて変速する必要があるわけですね。
インサイトが採用しているトランスミッションも、やはり従来同様CVTです。これは無段階で減速比を変えることが可能なため、エンジンの効率が良い回転域を維持しやすく、歯車を用いるトランスミッションより車速とエンジン回転数を最適化しやすいというメリットがあります。
しかしながら、CVTは潤滑されているプーリーとベルトの摩擦係数が約0.1と小さいため、伝達力に対して10倍以上の圧力でベルトを挟まないとスリップしてしまいます。ベルトを挟む圧力は油圧によりますが、その油圧を発生させるポンプを駆動するためにエンジン出力が奪われてしまうというのがCVT最大の欠点です。また、プーリーとベルトとの間にはかなりの摩擦熱が生じますから、その分だけエネルギーを失っているという欠点もあります。
プリウスは高出力モーターゆえ大きく重く、それを駆動するバッテリーも大きく重く、動力混合/分割に遊星歯車が用いられます。が、エンジンの次に重い部品であるトランスミッションが不要で、トータルでは殆ど重くなっておらず、上述のようなトランスミッションが抱えるデメリットを回避できているという点でも非常によく練られたシステムだと思います。
新型インサイトもシビックハイブリッドも、フライホイールの代わりに組み込める非常に薄くコンパクトなモーターを採用しており、ホンダは「シンプルで軽量コンパクト」という点を強調しています。加えて、コストダウンも容易という点が新型インサイトの低価格を実現し、ホンダをこの方式に傾倒させているのでしょう。今後もフットなどのコンパクトカーにもこの方式でレトロフィット(後付け)に近いハイブリッドを展開していく可能性が示唆されています。
が、これは裏を返せば、新型インサイトはハイブリッド専用車でありながら、レトロフィットと同列のシステムでしかなく、プリウスのように専用車として徹底的に作り込まれたものではないといえるでしょう。プリウスのハイブリッドシステムを「本格的」とするなら、インサイトのそれは「簡易的」というべきかも知れません。
ハイブリッド専用車としての作り込みやその実力でプリウスとの真っ向勝負を避けたホンダは、低価格化でプリウスが欲しくてもなかなか手が出せなかった客層の開拓を期しています。また、これと同時にプリウスではまだ本格的に手がつけられていなかった省エネ運転を積極的に促そうとする「ドライバー教育」という部分に切り込んできた発想の転換(ある意味、開き直り?)にも私は注目しています。
現行プリウスにもエンジンやモーターの稼働状態を示す「エネルギーモニタ」、区間燃費や5分毎の平均燃費、回収エネルギーの指数を示す画面表示が設けられています。特に燃費データという「結果」は私も少なからず気になります。
以前 、「燃費を気にしながら走っていると、それが一つの「成績」みたいに感じてきますから、下がってくるのは心情的に面白くない」と書きましたが、この燃費データは省エネ運転を習慣とする動機付けにもなっています。
しかしながら、プリウスのエネルギーモニタはどのようなアクセルワークをしたらエンジンの稼働を抑えられるかの目安にはなりますが、それはドライバーが積極的に意識し、自主的に探っていかなければならないことで、どのようなアクセルワークが省エネ運転になるかという具体的な「指導」はありません。もちろん、どのようなブレーキングをしたらより回生ブレーキを有効活用でき、効率よくエネルギーを回収できるかといったこともプリウスは教えてくれません。
私の場合はネット上に綴られている諸先輩方の経験を参考にさせて頂いて、普段は(冬場を除き)26km/Lくらいで走らせていますが、プリウスの特性を積極的に学ばず、それを引き出すテクニックを用いず、従来のような乗り方をしていたなら、ここまでの燃費になっていなかったのは間違いないでしょう。本気モードでの省エネ運転に徹すれば私の技術でも30km/Lくらいはいけますし、さらに凄い技術をお持ちの方は40km/Lにも乗せられるといいます。「ドライバーの意識とテクニックによって燃費は変わる」という部分において、ハイブリッド車は普通のクルマ以上に差がついてしまうようです。
ホンダは「クルマの性能でプリウスに及ばないなら、運転する人間の性能を向上させよう」と考えたのでしょう。これはある意味でクルマに出しゃばらせる考え方ともいえますが、ドライバーの意識やテクニック次第で1.5倍、下手をすれば2倍も差が付くのであれば、ここを見過ごす手はありません。そもそも、低価格になったとはいってもまだ依然としてイニシャルコストに割高感のあるハイブリッド車をあえて選ぶ人たちは、こうしたアドバイス機能を邪魔に感じることもないでしょう。
(
つづく )
ご存じのように一昨日(2月6日)、ホンダからハイブリッド専用車の新型
インサイト が発売されました。注目される価格は189万円からということで、噂通りの低い水準に抑えられましたね。既に予約が5000台に達しているとのことで、滑り出しはほぼパーフェクトというべきでしょう。
肝心の燃費は10・15モードで30.0km/L、JC08モードで26.0km/Lと公表されました。現行プリウスの10・15モードは35.5km/L、JC08モードは29.6km/Lですから、やはり見劣りする性能にとどまりました。といいますか、10・15モード燃費が30.0km/Lということは、シビックハイブリッド(MXB)の31.0km/Lにも劣りますから、この数字だけを単純に見比べれば「退化した」といえなくもありません。ま、より実走に近いとされるJC08モードでは0.2km/Lだけ良くなりましたので、現状維持とすべきかも知れませんが。
ということで、新型インサイトはホンダのハイブリッド専用車として、その性能が磨き込まれてきたということではなさそうです。実際、ハイブリッドシステム構成も動作パターンもチャートを見た限りではシビックハイブリッドと全く変わっていないようですし。要するに、最も注力されたのは「コストダウン」ということでしょう。
これに加えて、シビックハイブリッドがプリウスほど注目されなかった原因を分析し、方向性を修正した商品企画にも重きが置かれたように見えます。例えば、シビックハイブリッドは普通のシビックと外観上では殆ど区別が付かず、見た目にアピールする要素が実質的に存在しなかった点でかなり損をしていた側面もあったでしょう。
プリウスが築き上げてきたハイブリッド車のイメージは極めて強力で、ハイブリッド車の代名詞としてその名は世界中で通用するレベルに達しています。近年では絶滅に向かっていた5ドアハッチバックのスタイルは逆に新鮮でもあり、見た目のイメージとして強くアピールするものがあったでしょう。翻って、シビックハイブリッドはただの4ドアセダンで、いま最も飽きられ、若者から「オヤジグルマ」と敬遠されがちなボディスタイルです。
そこで、ホンダはプリウスが築き上げてきた強力なそのイメージをチャッカリ拝借し、世間一般に浸透しているハイブリッド専用車のイメージ(=プリウスのイメージ)と重なるスタイリングを採用し、見た目の「らしさ」を演出したのかも知れません(あくまでも個人的な憶測です)。
新型インサイトのハイブリッドシステムや全般的な完成度は、資料を見た限りにおいてシビックハイブリッドから大して進歩しているようには感じません。が、
以前 にも述べたように価格設定からビジネス面は上手いところを突いてきたと思います。また、新型インサイトはそのハイブリッドシステムの総合力でプリウスより劣っている点を認識した上で、違った方向から燃費低減を狙うコンセプトを提案してきたところは興味深いものがあります。「エコアシスト機能を活用することで、実用面で燃費を向上できる」とアナウンスされているのがそれです。
現行フィットもそうですが、最近のホンダのインテリアは デザインのためのデザインといいますか、脈絡のない無駄な造形が入り組み、 デザイン専門学校生の卒業制作にありがちなわざとらしさが鼻につきます。 個人的な趣味で言わせて頂けば、このゴチャゴチャとうるさいインパネ周りを見ただけで このクルマを選ぶ気が萎えてしまいそうです(あくまでも個人的な感想です)。 エコアシストというのは燃費優先の走行モードと、ドライバーにエコドライブをアドバイスしたり、その結果を評価する機能になります。燃費優先の走行モードについては大したものではないと思いますが、ドライバーへのアドバイスと評価については発想の転換といいますか、プリウスではあまり徹底されていなかった考え方だと思いますので、注目したい機能です。
まずは燃費優先の走行モードが大したことはないと思う理由について述べておきましょうか。ホンダはこれを「ECONモード」と称していますが、アイドルストップの時間を長めにしたり、エアコンの稼働を省エネ優先としたり、エンジンの回転数を抑えめにするといったことを自動的に行って燃費を向上させようというものだそうです。曰く、「乗る人がストレスを感じないレベルで、燃費を優先するモード」とのことです。
が、これを額面通り受け止めるべきではないように思います。「ストレスを感じさせない」ということは、裏を返せば「物足りなさは感じさせる」ということかも知れません。燃費優先で快適に走行できるなら、わざわざモード設定する必要などなく、標準でそのようなマネジメントプログラムにすれば良いということになります。
これはあくまでも想像になりますが、この「ECONモード」とやらは人によってエアコンの効きが良くないとか、加速が鈍いとか、全般的になまくらな印象を与えてしまう可能性があるのだと思います。これをON/OFFできるようにし、初めから割り切ってもらえば、文句を言う人もそれほど出てこないと見込んでいるのではないでしょうか?
もしかしたら、昔のホンダなら燃費優先の走行モードを標準とし、動力性能を最大限に発揮できるモードを「スポーツモード」としていたかも知れません。この辺はちょっとした言葉遊びみたいな気もしますが、商品コンセプトにふさわしい機能とそのネーミングは入念なマーケティングリサーチを行って決定されているのかも知れません。
(
つづく )
「NAFTA(北米自由貿易協定)は見直す。」
「日本や韓国にハイブリッド車は作らせない。これからはアメリカで作る。」
これらの発言はオバマ氏の選挙演説の一部です。彼が保護主義に傾倒していることは大統領に選ばれる前から解っていたことですが、案の定、朝日新聞の論説委員は彼のこうしたイデオロギーを全く知らなかったようです。盲目的に彼に対する期待を膨らませてきたということが今日の社説で明らかになりましたね。
バイ・アメリカン―保護主義の誘惑を断て 世界同時不況を受けて、輸入関税の引き上げや自国産業への補助金のような保護主義的な動きが、各国に出ている。そこへ、よりによって戦後の自由貿易体制の中心となってきた米国で、公共事業から輸入製品を締め出すような法案が審議されている。 問題の「バイ・アメリカン(米国製品を買う)」条項は、8千億ドル(約72兆円)を超える景気対策法案に議員修正で盛り込まれた。公共事業で米国製の鉄鋼の使用を義務づける内容で、下院が先週可決した。賛成の中心となったのはオバマ大統領の与党、民主党だ。上院では義務づけの対象品目を工業製品全体へ広げた法案を審議中だ。 これには各国から批判の声が高まっている。欧州委員会は「可決されれば看過できない」と警告。日本も二階経済産業相が先週末の世界貿易機関(WTO)の非公式閣僚会合で「昨年11月の金融サミットで保護主義防止を誓った首脳宣言の趣旨とまったく違う」と指摘し、見直しを求めた。 オバマ大統領は今週、テレビのインタビューでこれについて「貿易が世界規模で落ち込んでいる時に、米国が世界貿易より国益ばかり考えているというメッセージを送るのは誤り」「貿易戦争を引き起こさないという保障が必要だ」と述べた。もっともである。 ただ今後、上下両院の調整を経て、もしこの条項が景気対策法案に含まれたまま議会を通れば、オバマ氏も難しい立場に置かれる。拒否権を行使すれば景気対策の財政出動や減税まで遅れるし、いきなり議会と対立するのは新政権として避けたいところだろう。 そこは、世界の期待を背負って登場したオバマ氏である。いまから議会を説得し、保護主義を寄せつけない姿を世界に見せてほしい。上院は考え直して条項を削除すべきだ。 (後略) (C)朝日新聞 2009年2月5日
オバマ氏は一昨日、ABCニュースのインタビューで「バイ・アメリカン」条項について反対を表明しました。が、彼は選挙戦を通じて上述のような保護主義の姿勢を明確に打ち出し、選挙民の支持を得てきました。彼の選挙公約ともいうべき保護主義を撤回して本気で反対に回ったのか、各国の批判を見据えた上でとりあえずジェスチャーとして反対を表明しただけなのか、その辺の真相は解りかねます。
ただ、どちらに転んでも、オバマ氏はあの漫画オタク総理大臣と同じくコロコロと態度を変える日和見主義ということになります。もっとも、彼が日和見主義であるということも初めから解っていたことですけどね。
例えば、彼は対イラン政策についても度々立場を修正していました。選挙戦では人種の融和を唱えながら、親交の深かったジェレマイア・ライト牧師が白人敵視発言をしていたことが明るみに出たときの弁明も酷いものでした。当初は「私が教会にいた時には聞かなかった」としながら、黒人牧師グループから「ライト牧師を切り捨てるのか」と批判されるや、その言動を知っていたことをアッサリと認めました。
また、『ニューヨーク・タイムズ』紙のボブ・ハーバート氏には「都合のいいときだけ右に傾き、無謀なジグザグ運転の結果、ムチ打ち症にはならないまでも、幻滅されるのは目に見えている」と酷評されています。
朝日新聞の社説は「拒否権を行使すれば景気対策の財政出動や減税まで遅れるし、いきなり議会と対立するのは新政権として避けたいところだろう」としていますが、それ以前に彼がこの法案に拒否権を行使するということは、彼自身が選挙戦中も掲げてきたイデオロギーを曲げることになります。日和見主義である上、選挙民を謀った不誠実な大統領ということになりますから、そうやすやすと拒否権は行使できないでしょう。
失笑を禁じ得ないのは、オバマ氏に対して「保護主義を寄せつけない姿を世界に見せてほしい。」などと述べているところです。保護主義的な発言を何度も繰り返してきた彼に対してこんな願望を寄せるということは、この社説を書いた論説委員は彼のイデオロギーをマトモに確認してこなかった動かぬ証拠です。
以前 にも『ニューズ・ウイーク』誌で「ヨーロッパは「諸悪の根源」であるブッシュ政権の終わりに胸を踊らせながらも、オバマのイデオロギーの細部についてはほとんど点検してこなかった」という指摘がなされていたことをご紹介しました。「世界の期待を背負って登場したオバマ氏」というストーリーとそのイメージの多くはメディアによって創作されたものであったということが今後も次々と明らかになっていくでしょう。
ま、そうなったとしてもメディアは自分たちの非を認めることなく、暗に「期待外れだった」と彼に対する評価を一方的に下げていくだけでしょうけどね。いつもの持ち上げては落とす「手のひら返し」という必殺技を使って。
当blogのタイトルは『酒と蘊蓄の日々』となっていますが、以前にも何度かお話しましたように、ジャズのスタンダードナンバーでもある『酒と薔薇の日々』をもじったもので、私はあまりアルコールを嗜みません。タバコは一切吸いません。もちろん、違法ドラッグの類とは全く無縁な人生を歩んできました。が、合法な酒やタバコも違法なドラッグ類も害毒について偏ったイメージが先行している状態はあまり良いことと思えません。
今般、大麻の所持・使用で逮捕された若麒麟の問題は2月1日に
読売新聞 、
毎日新聞 、
産経新聞 が、2月3日に
朝日新聞 と
中日新聞 が社説で取り上げていましたが、どれもステレオタイプで主旨に大差ない感じです。ただ、朝日新聞はまたいつもの思い込みで大麻の害毒を誇張しており、私としては看過しがたいところです。
大麻汚染―怖さをもっと知らせねば (前略) 世界保健機関(WHO)によれば、大麻は脳に影響を与え、記憶力や学習能力を低下させる。空間がゆがんで感じられ、事故の原因になる恐れもある。無動機症候群と呼ばれる、やる気を失う精神障害にもなりかねない。 覚せい剤などに比べれば弱いとはいえ、精神的な依存も起きる。 大麻などの薬物は、何かを達成したときに脳の中で満足感を生じる「報酬系」と呼ばれる部分に作用すると考えられている。いわば生きる活力を生む源泉に働いて、依存や異常を引き起こすのが違法薬物のこわさだ。 身体への害が大きいたばこやアルコールと、単純に比較はできない。それぞれ、質の違う健康への脅威と考えるべきだ。 (後略) (C)朝日新聞 2009年2月3日
「身体への害が大きいたばこやアルコールと、単純に比較はできない」としていますが、これは全くの誤りで、特にアルコールは身体だけでなく精神にも害を及ぼすという点で、違法ドラッグの類と変わりません。
「脳に影響を与え、記憶力や学習能力を低下させる。空間がゆがんで感じられ、事故の原因になる恐れもある」「無動機症候群」といった障害もアルコールによって充分に起こり得ることです。また、「精神的な依存」については大麻よりアルコールのほうが危険度が高いという認識が支配的です。
「いわば生きる活力を生む源泉に働いて、依存や異常を引き起こすのが違法薬物のこわさだ」としていますが、これはアルコールなどの合法薬物ならば「依存や異常を引き起こさない」といった誤解を招きかねず、かなり問題がある表現だと思います。
特にアルコール依存症の問題は深刻で、重度患者の予後10年の死亡率は30~40%と見られているそうです。また、重度のアルコール依存症になってしまうと断酒以外に有効な治療法もなく、本人の意志だけで解決することが非常に困難だと言われています。さらに、禁断症状も非常に強く現れ、軽度でも頭痛、不眠、イライラ感、発汗、手や全身の震え、眩暈、吐き気などが起こり、重度になれば被害妄想や幻覚などにも悩まされるそうです。ここまで至っては違法ドラッグとの区別は全くの無意味といえるでしょう。
こうした合法薬物と違法薬物の比較は、日本のメディアではタブー視されているようです。が、大麻の危険度はそれほど高くないとする意見は海外では以前からよく言われていることです。アメリカのジョン・ホプキンズ大学のジャック・ヘニングフィールド教授によれば、マリファナ(乾燥大麻)の危険度はアルコールより低く、カフェイン程度とされています。
ポピュラードラッグの危険度比較 品目は左からニコチン、ヘロイン、コカイン、アルコール、カフェイン、マリファナ 危険度の項目は上から依存性、禁断症状、耐性、習慣性、中毒性となっています。 アルコールはヘロインやコカインといった違法ドラッグよりも禁断症状と中毒性の危険度が高い と評価され、全ての項目でマリファナより危険であると評価されています。 もちろん、これらの項目だけで薬物の危険性を判断するのは拙速というものですし、そもそもこの評価がどこまでアテになるのかも解りません。こうしたデータは何某かの求めによって都合良く纏められてしまうこともあり得るでしょう。
ただ、アルコールやニコチンなども肉体面だけでなく精神面に少なからず悪影響を及ぼすことは知られていますし、酒を嗜む人の26人に1人がアルコール依存症(日本の飲酒人口約6000万人に対してアルコール依存症の推計は230万人とされています)という状況も看過できることではありません。
一方、世界的には大麻が合法である国もいくつか存在します。他にも大麻の所持や使用が犯罪とは見なされなかったり、非合法ではあるものの取り締りや処罰の対象となっていない国は少なくありません。コーヒーショップで個人使用のための大麻の販売が容認されているオランダの例は日本でもよく知られているかと思います。
私の個人的な見解として、いまの段階で大麻の合法化に賛成するつもりはありません。とはいえ、この見解に明確な根拠もありません。「まだ充分に議論が尽くされていないから」というかなり消極的な理由によります。
確実に言えるのは、健康に関わることについて「思い込みだけで規範を定めるべきではない」ということです。特に日本は薬物の害毒についての正しい認識が明らかに不足していますし、合法か非合法かの違いだけで視点を変えてしまう論調が目立つのも問題です。そういう意味では朝日新聞のように大麻の害毒を一方的に強調し、アルコールなどの合法薬物とは全く別物扱いし、「合法薬物が精神に及ぼす危険はない」と錯覚させかねない社説を許すべきではありません。
まずは合法薬物と非合法薬物の比較がタブー視されている状況を是正し、議論を妨げるような空気を変えていくように取り組むべきだと思います。
先週末、文部科学省が児童・生徒の携帯電話について、小中学校は「持ち込みを原則禁止すべき」とし、高校は「授業中の使用禁止」「校内での使用禁止」を例示し「持ち込み禁止も考えられる」とする指針を都道府県教育委員会などに通知したそうです。五大紙の中で社説に取り上げているのはいまのところ産経新聞だけですが、彼等はこれを「当然」としています。
携帯禁止 依存脱する環境整えたい 子供の携帯電話に関し文部科学省が小中学校では持ち込みを原則禁止とする通知を出した。高校では校内の使用禁止などを求めている。通知は当然である。 携帯電話を持つ子供は急速に増え、内閣府調査では小学生で約3割、中学生で約6割、高校生で9割超が使っていると答えた。通話以外にメール交換ができる機能があり、指1本の簡単な操作で情報交換できる。 便利な一方、性や暴力など有害情報に触れたり、出会い系サイトなどで見知らぬ大人と知り合い犯罪に巻き込まれたりする事件が後を絶たない。悪口が書かれるなどいじめの温床にもなっている。対応が強く求められながら指導は追いつかない現状だ。 (中略) 地域ぐるみで携帯電話を持たせない運動により、非行を防止しているところもある。四六時中、携帯電話を手放せない子供たちの現状は変えねばならない。社会が連携して歯止めをかけたい。 (C)産経新聞 2009年2月2日
こうした「禁止」を原則とする方針で思い出されるのは「バイク三ない運動」です。「乗らない」「買わない」「(免許を)取らない」というスローガンで高校生をバイクから遠ざけ、事故を起こされて学校に責任が及ぶことのないよう保身をはかり、卒業してからなら思いっきりバイクに乗って死亡事故を引き起こしても構わないとする考え方がかつて全国に蔓延していました。
実際、こうした運動によって高校生のバイク事故を減らす効果はあったようですが、それより上の世代の事故はむしろ増えたといいます。また、こうした運動のエスカレートから福島県では生徒指導の教員が違反生徒をクルマで追走して事故死させるという事件も起こるなど、本末転倒の事態に至りました。さらに、有識者や国会議員などの間からも「バイクに乗る際のルールや危険性を教えるのが教育ではないのか」という声が高まっていきました。
こうした流れに転じて以降、生徒をバイクから遠ざけるのではなく、正しい乗り方を指導する方針に切り替える高校が全国各地増えていき、着実に成果を上げていったといいます。もはや「バイク三ない運動」は過去のものになってきたといっても過言ではないでしょう。
児童・生徒の携帯電話も基本的には同じことです。学校への持ち込みを禁止したところで放課後について規定できないのなら、携帯電話にかかる弊害から子供たちを遠ざけることはできません。そもそも、有害サイトやネットいじめなどの問題は携帯電話に限らず、パソコンによるネット利用でも同じことですから、携帯電話だけを取り沙汰するのは片手落ちもいいところです。
要するに、政府や学校サイドは「自分たちの責任のおよぶ範囲では禁止しているのだから、それ以外のところでどうなろうと知ったことではない」というのが本音なのでしょう。
文科省の通知には「学校や教委が情報モラル教育を充実させることや、保護者に携帯電話の危険性やフィルタリング機能などを説明する機会を設ける」ことを求めているそうです。本気で携帯電話の弊害から子供を守りたいというのであれば、禁止よりもまずこれこそ前面に打ち立て、徹底していくべきでしょう。
しかしながら、その「情報モラル教育」とやらをどのようなカタチで行っていくのか、具体的な指針は全く伝わって来ません。「教育」という面から見れば最も肝心な部分は単なる「かけ声」でしかなく、先んずるのは「禁止」というのでは、「バイク三ない運動」と同じ臭いものに蓋をしただけの教育放棄になるでしょう。
産経新聞は「四六時中、携帯電話を手放せない」ことを単純に害悪だと見なしているようです。ならば、自ら「中毒」と公言し、娘のサッカーの観戦中も携帯電話に目を落として夫人にたしなめられたアメリカの新大統領も徒に美化せず、その人間性を大いに批判すべきです。
多機能携帯ブラックベリーを手にするアノ人 セキュリティの問題から当初は手放すよう促されたようですが、 国家安全保障局が高度な暗号技術を導入するなど セキュリティ機能を高めるため3350ドルの予算を充て、 携帯メール中毒の新大統領に専用機が支給されたといいます。 メディアはこの専用機を「バラックベリー」と呼んでいるそうです。
冬本番を迎えてかなり顕著になってきましたが、噂に違わずプリウスの燃費が悪化しています。暖房が必要なかった時期はエネルギーモニタを見ながら本気モードの省エネ運転に徹しなくても、それなりに意識しながら走れば26km/L前後でいけました。が、暖房が必要になってからは22km/L前後で推移しており、明らかに伸びなくなりました。
ま、ガソリンの価格はピーク時に比べて40%くらい下がっていますから、燃費が20%くらい悪化しても懐が痛むというわけでもありません。しかしながら、燃費を気にしながら走っていると、それが一つの「成績」みたいに感じてきますから、下がってくるのは心情的に面白くないわけですよ。
普通のクルマですと、夏場にエアコンのコンプレッサーを回すために出力が奪われ、燃費の悪化傾向が見られると思います。一方、プリウスの場合は専用のモーターでコンプレッサーを駆動しますので、その分だけモーターで走行できる距離は短くなります。とはいえ、バッテリー残量が少なくなければ普通にアイドリングもストップしますので、全般に及ぶ影響はさほど大きくありません。私の経験上、夏場の燃費悪化は普通のクルマほど顕著には表れない感じなんですね。
冬場は普通のクルマでも始動時のアイドリング回転数が高めになるなど燃費を悪くする要素もあります。が、低温ゆえガソリンの密度が高い状態で給油しているでしょうから、その分だけ見た目の燃費を向上させる要素もあり、全体としてみれば大きな差はないかと思われます。しかしながら、プリウスの冬場の燃費悪化は上述の通り私の場合もかなり顕著に出ています。その要因はやはりエンジンの停止している時間が短くなっているという点に尽きるでしょう。
プリウスも一般的な水冷エンジン車と同じく、エンジン冷却水の熱を暖房に利用しています。シリンダブロックなどに切られたウォータージャケットを通った冷却水はかなりの温度に熱せられていますから、それをラジエーターへいく前にヒーターマトリクスへ通し、その熱をファンで室内に送ってやるわけですね。要するに、エンジンの廃熱を利用した温水暖房ということです。
余談になりますが、たまにこうした仕組みを知らずに空調スイッチを早く入れ、温度調整ノブを高温側一杯まで回しておくほうが早く暖まると勘違いしている人もいます。が、水冷エンジン車の場合、エンジンが暖まらないうちはどうあがいても暖かい空気は出てきません。冷たい空気をかき回すくらいなら水温がある程度上がるまでファンを止めておいたほうが、体感的な寒さは緩和されるでしょう。
さらに余談になりますが、993までのポルシェ911はご存じのように空冷エンジンでした。冷却水が存在しないこのクルマの場合、暖房は排気熱を利用しているんですね。排気管の一部にパイプを通し、そこで暖められた空気を室内に送って暖房します。排気管が暖まればすぐに暖かい空気が出てきますから、一般的な水冷エンジンのクルマよりずっと早く暖房が効くようになるわけですね。
しかしながら、万一その配管が腐食するなどして穴が空いてしまうと、室内に排ガスが進入して来ることになります。ガソリンエンジンの場合、排ガスには一酸化炭素も含みますので非常に危険なんですね。実際、排ガスを車内に引き込んで自殺する人もいるくらいですから。なので、空冷エンジンのポルシェの取説には排ガスの匂いがしたら窓を全開にして速やかにサービス工場へ持ち込み、点検を受けるよう書かれているそうです。
ハナシを戻しましょうか。プリウスも一般的なクルマと同じくエンジンの廃熱を暖房に利用していますが、走行中にもエンジンが停止することがあります(省エネ運転に徹するなら、如何に走行中のエンジン停止状態を長く維持できるかも重要なポイントになります)ので、気温が低いときはその熱がどんどん奪われ、暖房に適さないところまで低下してしまうことがあります。
それを防ぐために停車時でもアイドリング状態になる頻度が増え、結果として燃費が悪化してしまうということになるわけですね。普通のクルマではエンジンの廃熱利用という非常に合理的な暖房システムが、プリウスの場合はアダになっていると言えなくもない感じです。
中にはエンジンの上やラジエータの前などに保温材を仕込んで温度低下を抑え、燃費悪化を防ぐような対策を施している人もいるようです。が、プリウスには水温計がなく、オーバーヒートを知らせる警告灯しかありません。こうした対策の影響を見極める目安となるものがない状態でこれをマネするのは危険ですし、いずれにしても自己責任ということになります。私はそこまでしようとは思いませんし、あまり人に勧めるような施策とも思えません。
ただ、水温計は欲しいと思いました。実際のところ室内温度がある程度上がってしまえば少しくらい暖房を止めてもすぐに寒くなるわけではありませんから、冷却水がある一定の温度まで下がってエンジンが再始動してしまう前にエアコンのスイッチを切ってしまえば、燃費の悪化も最小限に抑えられるでしょう。
ということで、水温計をつけてやろうかとも思いましたが、イマドキは故障診断用のコネクタから車載コンピュータの様々なデータを取り出して液晶などのモニタに表示させるモニタリングシステムの類が色々発売されています。
BLITZ R-VIT i-Color TRUST GReddy Intelligent Infometer TOUCH ということで、これを導入してみようと思い至りました。といいますか、実は既に導入して1ヶ月くらい経つのですが、まだ細かいキャリブレーションが済んでいないので詳しいレポートはまたの機会に。
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まとめ