酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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皇帝復活

今年のツール・ド・フランスでは史上最多勝のランス・アームストロング選手(37歳)が引退から復帰して見事にポディウムに立つ活躍を見せましたが、F1でも史上最多勝のミハエル・シューマッハ選手(40歳)の復帰が正式に決定したそうです。

先のハンガリーGPの予選でブラウンGPのルーベンス・バリチェロ選手のマシンから脱落した約800gのサスペンションスプリングがフェラーリのフィリペ・マッサ選手のヘルメットに275km/hで直撃し、その衝撃で脳震とうを起こしたマッサ選手はそのままタイヤバリアに激突しました。

事故直後のマッサ選手
事故直後のマッサ選手
左目の上のあたりを負傷しており、
ヘルメットもその付近が破損しています。


一時は意識不明に陥ったというマッサ選手の代役を巡っては色々噂されていました。ひとつはシューマッハ選手の復帰、ひとつは以前から何度となくフェラーリへの移籍が噂されてきたフェルナンド・アロンソ選手がルノーとの契約を精算してフェラーリ入りするのではないかとするもの、ひとつはフェラーリのテストドライバーであるルカ・バドエル選手が昇格するなどです。

余談になりますが、アロンソ選手は以前からフェラーリにラブコールを送っていたようで、昨年くらいから何度も「既にフェラーリと契約を結んでいる」といった報道がありました。が、今年のドイツGP後のインタビューでは本人がそれを否定しています。

さらに余談は続きますが、今年のツール・ド・フランスの覇者であるアルベルト・コンタドール選手とアロンソ選手は同じスペイン人で年齢も近く仲が良いということと、アロンソ選手がマクラーレン入りしたときにマクラーレンのスポンサーとなったスペインのサンタンデール銀行とを結びつけた噂がメジャースポーツ紙などでも書き立てられてきました。

曰く、来年からアロンソ選手がフェラーリ入りし、それにサンタンデール銀行も付随し、ついでにサイクルロードレースではコンタドール選手をエースとした新チームをアロンソ選手が関わりながら立ち上げ、そのスポンサーもサンタンデール銀行になるといった流れです。ま、サンタンデール銀行はアロンソ選手がルノーへ戻った後もマクラーレンのスポンサーとして残っていますから、彼との結びつきがそれほど強固であるようにも見えません。そういう意味でも全般的にかなり強引な印象が否めないストーリーではあります。

ハナシを戻しましょうか。現実問題としてシーズン半ばでいきなりルノーがナンバーワンを手放すというのも考えにくいことですし、そもそもアロンソ選手はルノーに義理もあるでしょう。ここでフェラーリのシートが空いたからといってシッポを振ってそれに飛びつくのもえげつないハナシです。ルノーと契約を解除するとなれば高額の補償金が求められることにもなるでしょうし、さすがにアロンソ選手の電撃移籍はないだろうと思っていました。

が、シューマッハ選手の復帰についても私には俄に信じがたい噂話に聞こえていました。常識的に考えてテストドライバーの昇格というのが妥当な線だろうと思っていただけに、シューマッハ選手の復帰決定はかなり意外でした。ま、今期不振のフェラーリだけにメディアの注目を浴びるなど商業的な思惑みたいな匂いもしますが。

F1の過去を振り返れば、ルイジ・ファジオーリという選手が53歳で優勝しています。が、それは1951年のことですから、現在とはマシンの性能が全然違います。特に現在は空力的に強力なダウンフォースを発生させ、高性能なタイヤでグリップしますから、コーナリングスピードはまるで比べものになりません。その遠心力でドライバーは強烈なGにさらされます。近年のF1ドライバーは例外なく筋肉を強化し、首回りを異常に発達させているのはそのせいです。ドライバーに求められる肉体的な能力は58年前と現在とでは比較にならないでしょう。

ホンダの第2期活動の初期、ケケ・ロズベルグ選手とともにウィリアムズFW09のステアリングを握っていたことから私はジャック・ラフィット選手のファンになりました。私がオンタイムで見てきた中では恐らく彼が最も高齢ドライバーで、43歳までF1で走っていました。ラフィット選手の場合はF1デビュー自体が非常に遅く、31歳という現在では考えられないような年齢だったんですね。(1952年にはアルスール・レガーという選手が53歳234日でF1デビューしてますが。)

ラフィット選手にとって最後のレースは1986年のイギリスGP(7月13日)で、決勝スタート直後の第1コーナーで多重クラッシュに巻き込まれ、両足を複雑骨折してそのまま引退となりました。この年は全16戦で件のイギリスGPは9戦目、しかもこのときラフィット選手が所属していたのはリジェという下位チームでした。が、それでも前半で14ポイントを獲得していたため、この年のドライバーズチャンピオンシップで8位になっています。

この年は14チームから延べ32名のドライバーが参戦していましたから、シーズン中間までの獲得ポイントで年間ランキング8位というのは凄いことです。仮にあの事故がなく、後半戦も同じペースでポイントを稼ぎ、単純計算で14ポイントの2倍の28ポイントになっていたとしたら、フェラーリのステファン・ヨハンソン選手を上回る5位になっていたでしょう。その上の4人はマクラーレンのプロスト選手、ウィリアムズのマンセル選手とピケ選手、ロータスのセナ選手という凄い顔ぶれです。なので、あれだけの重傷に至らなかったら、まだしばらくは現役を続けていたに違いないでしょう。

シューマッハ選手は引退後もフェラーリのアドバイザーというポストでチームに関わり続けてきました。このシーズンオフにもタイヤテストに参加し、昨年のマシンF2008をドライブしていますので、レース本番に耐える身体に仕上げてくればそれなりの走りはできるのではないかと思います。復帰初戦は来月23日のヨーロッパGPだそうで、それに向けてチームとともにトレーニングプログラムを遂行していくそうです。

気がかりなのはマッサ選手の容体で、意識はシッカリしているといいますが、件の事故で左目の上の骨を損傷し、左目の視力を失うかも知れず、選手生命の危機とする報道があるかと思えば、視力障害の懸念はなく、骨折もなく、10日ほどで退院できるとするものまでかなり情報が錯綜している感じです。

10日ほどで退院できるような軽傷なら1ヶ月近いトレーニング期間を経てシューマッハ選手を復帰させるというのも釈然としないハナシになってきます。この辺の情報はもう少し精査して伝えてもらいたいものですね。
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この男は何勝できるのか? (その2)

今年のツール・ド・フランスを制したアルベルト・コンタドール選手と同じスペイン人で1990年代前半に圧倒的な王者として君臨したミゲル・インドゥライン選手は、大柄な身体(身長188cm、体重80kg前後)に似合わぬ山での強さと、圧倒的なTTの実力とでツール5連覇と2度のダブルツールを成し遂げました。(同じ年にツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアを制すると「ダブルツール」といいますが、同じく三大ツールであるはずのブエルタ・ア・エスパーニャとツールあるいはジロとブエルタではダブルツールと言わないのが慣例になっているようです。)

コンタドール選手は逆に小柄(といっても身長は176cmですからロードの選手としてはさほど小さくもないのですが、体重が60kg台前半に絞られている分だけ華奢に見えるのでしょう)に似合わぬTTでの実力と、当代随一と評すべき圧倒的なヒルクライムの能力で、今年はライバルを寄せ付けない見事な勝ちっぷりでした。

気になるのは、インドゥライン選手の全盛期にあまりの圧勝ぶりから「面白くない」という評も少なからずあったことです。ま、彼の場合はキャラクターそのものが闘志を剥き出しにするタイプとは真逆で、普段から温厚で大人しく、基本スタンスはTTを除いて「風林火山」でいうところの「動かざること山の如し」という印象が強くありました。

山でも強く、個人TTでライバルとの差を広げるといった必勝パターンはベルナール・イノー選手やグレッグ・レモン選手、ランス・アームストロング選手など現代のツールで複数優勝を遂げた選手にはおおよそ共通するものといえます。要するに、そういう必勝パターンがあってこそコンスタントに勝ちを狙えるということでしょう。が、インドゥライン選手の場合は自ら山で仕掛けるというパターンがあまり印象に残っておらず、ライバルが登りで脱落していってもペースを保って粘り勝つといったイメージがあります。

実際には彼もリーダージャージを着る選手として最低限の仕掛けはしていたと思うのですが、何せ同世代にクラウディオ・キアプッチという山で大暴れする凄い選手がいましたから、あの果敢なアタックを連発したキアプッチ選手の印象があまりにも鮮烈で(漫画の主人公のモデルにもなったくらいですから)、インドゥライン選手のそれは霞んでしまい、あまり記憶に残らなかったのかも知れません。

アームストロング選手の7連覇時代は前述のヤン・ウルリッヒ選手やマルコ・パンターニ選手などツールで総合優勝の経験がある実力者との対決も見物でした。が、現在のコンタドール選手にそこまで比肩するライバルはいないような気がします。彼は山でも積極的に仕掛けてレース全体の流れを変えることのできる実力者ですし、これまでにもそうして勝ってきましたからインドゥライン選手のような評を受けることはないかも知れません。が、強力なライバルがいなければやはり面白みも半減します。

アームストロング選手はしばらく現役を続けるようで、ヨハン・ブリュイネール監督と共にアスタナを出て新チームを立ち上げるのではないかと噂されています。一方、ドーピングによる出場停止処分が明けるアレクサンドル・ヴィノクロフ選手は今年7月2日に復帰宣言をしており、アスタナ入りを強く希望しているといいます。そもそもは彼の母国カザフスタン政府の肝いりで彼を勝たせるために組織されたアスタナですから、ヴィノクロフ選手が戻ればコンタドール選手もアスタナに残ることはないでしょう。

もっとも、彼ほどの実力なら引く手あまたです。また、イタリアのガゼッタ・デッロ・スポルト紙やスペインのマルカ紙は、F1ドライバーのフェルナンド・アロンソ選手と組んで来年フェラーリのスポンサーになると噂されているスペインのサンタンデール銀行をメインスポンサーとした新チームを立ち上げると報じています。ま、アロンソ選手自身も彼のマネージャーも全面否定していますけど。

いずれにしても、このまま行けばコンタドール選手とアームストロング選手は別々のチームとなって余計なしがらみを排除した純粋な対決が見られることになる可能性が高まると思います。アームストロング選手については年齢との戦いもありますが、女子にはジャンニ・ロンゴ選手という凄いヒト(もしかしたらヒトではなくサイボーグかも?)がいますから、こうなったらどこまでいけるかチャレンジして欲しいところです。

ロードTTでフランスチャンピオンを守ったロンゴ選手
ジャンニ・ロンゴ選手(写真中央)
彼女は1958年生まれですが、いまでもバリバリの現役です。
オリンピックの初出場は1984年(25歳)のロサンゼルスからで、
昨年(49歳)の北京まで7大会連続出場しています。
オリンピックでの最高位は1996年(37歳)のアトランタになり、
ロードで金、ロードTTで銀を獲っています。
1992年(33歳)のバルセロナでもロードで銀、
2000年(41歳)のシドニーでもロードTTで銅でした。
今年6月(50歳)のフランス選手権ではロードで3位に甘んじましたが、
ロードTTでは2位に30秒以上の大差を付けてチャンピオンを守りました。
この写真はその表彰式の模様ですが、両隣の選手の親と同世代でしょう。
しかも、彼女は文武両道で、数学学士、経営学修士、
スポーツ経営学では博士号も持っているそうです。


ヴィノクロフ選手もかなりの実力者ではあります。が、あと1ヶ月半ほどで36歳になりますから年齢的にはアームストロング選手と大差なく、やはり年齢とも戦わなければならないでしょう。加えて、彼は落車によって目論見が大きく狂わされることも度々ありますので、そうした点も要注意でしょう。

例えば、直前のツール・ド・スイスで落車して骨折してツール・ド・フランスを欠場したことが2度(2002年と2004年)もあります。2007年は優勝候補筆頭に挙げられ、結果的に血液ドーピングで陽性が出て競技を離れることになりましたが、序盤戦の遅れてはいけないタイミングで落車してタイムを失い、そのときに負った膝のケガから山岳で不振に喘ぎました。

かつてはアームストロング選手の後継を担うと期待されたイヴァン・バッソ選手(31歳)もドーピング絡み(実際には血液ドーピングの準備をしていた未遂のようです)で出場停止処分となっていましたが、昨年のジャパンカップから本格的に復帰しました。今年のジロではあまり見せ場をつくることなく総合5位に終わり、ツールをスキップしてブエルタに照準を合わせているといいますので、ここで真価が問われることになるのかも知れません。

トラックレースの選手でもあるブラッドリー・ウィギンス選手(29歳)は、昨年の北京オリンピックでパーシュート系2冠、世界選手権ではマディソンも獲って3冠となり、ロードでもTTスペシャリストというべき脚質でした。が、今年はジロの山岳で粘りを見せたかと思うとツールまでにさらに体重を2kgほど絞って上位争いで後れをとらないヒルクライムの能力を見せ、見事なまでにオールラウンダーへと変身を遂げました。アームストロング選手に37秒差まで迫り、ポディウムまであと一歩だっただけに今後が期待されます。

次代を担う若手の成長株としては前回ご紹介したアンディ・シュレク選手が筆頭、ヴィンチェンツォ・ニバリ選手やロマン・クルージガー選手あたりがそれに続く感じでしょうか。かつての実力者達も一時引退やドーピング絡みの出場停止からカムバックし、昨年までに比べて選手層が厚くなってきたといえるでしょう。が、それでもコンタドール選手は頭一つ以上リードしているように見えます。

私はいまのところ特に入れ込んでいる選手がいませんので、コンタドール選手が独走してしまうよりも強力なライバルと高いレベルで競り合っているところが見たいと願っています。レベルの低い混沌は願い下げですが、現在のコンタドール選手を苦しめるようなライバルが現われればそれは非常にハイレベルでの闘いになりますから、そうした実力を発揮できる選手が台頭してくることに期待しています。

コンタドール選手ファンの方には申し訳ないと思いますが、私はインドゥライン選手やアームストロング選手のように連覇を重ねるより、彼が勝ったり負けたりするツールを見たいと願っています。なので、あくまでも個人的な希望としてはあと3~4勝くらいが丁度良く、そこに割って入る選手が何人か出てくれば最高だと思います。ま、非常に勝手な希望ではありますが。

ところで、今年のツールで個人的に最も印象に残ったのは最終ステージのパリで別府史之選手がアタックを成功させ、7人の逃げ集団をリードしたあの走りでした。

パリでトップを引くフミ
パリで逃げ集団のトップを引く別府選手
市内中心の周回コース1周目を過ぎたあたりで
渾身のアタックを決めてそのまま最終周まで逃げました。


例年はこうしたアタックが決まっても大きなリードを築く前にメイン集団に吸収されるということが繰り返されるものですが、今年は周回コースに入って最初のアタックが成功したまま一時は30秒以上の差を付け、残り約5kmまで持ちこたえました。別府選手は逃げ集団の中でも特にトップを引く時間が長く、誰の目にも終盤のレースをリードしていたように見えたでしょう。

ツールは全ステージでゴール付近にスピーカーを置き、オフィシャルスピーカーのダニエル・マンジェス氏のアナウンスがゴールシーンを盛り上げます(この人は1976年からこの仕事を続けており、私が知るツールのゴールシーンには必ずこの人の声が響いてきました)。パリでは至るところにそのスピーカーが置かれ、周回コースでゴールラインを何度も通過しますから、彼の名物アナウンスも何度となく入ります。今年のパリはマンジェス氏が何度も「ベップ」とか「ジャポネ」とか叫んでいましたから、私はJスポーツの中継を見ていてゾクゾクしました。

以前「やはり日本人である私としては7月26日にシャンゼリゼを疾走している彼らの姿を見たい」と書きましたが、先頭を引いてあの石畳の周回コースを駆け抜ける日本人選手というのは、私にとって夢の中でしかあり得ないシーンでした。それだけに中継を通じて目に飛び込んでくる光景が本当に起こっていることだという実感になかなか繋がらなかったくらいで、鳥肌が立つやら目頭が熱くなるやら、近年のツールでここまで感動したことはないというほどでした。

敢闘賞の赤ゼッケンを手にする別府選手
敢闘賞の赤ゼッケンを手にする別府選手
そのステージで最も果敢な走りをした選手に贈られる敢闘賞ですが、
今年の最終ステージの敢闘賞は当然のように別府選手の手に渡りました。


彼はまだ26歳です。第2ステージで5位に入った新城幸也選手もまだ24歳です。この二人の更なるステップアップも楽しみになってきました。

(おしまい)

この男は何勝できるのか? (その1)

昨年、当blogでもツール・ド・フランスの優勝予想をしてみましたが、大穴狙いということもあり、結果は見事にハズレでした。今年は頭抜けた選手が一人でしたから、あえて予想するまでもないと思い、止めておきました。案の定、その頭抜けたアルベルト・コンタドール選手が危なげなく勝ちましたね。

ツール2009ポディウム
表彰台は1位だけ一段高くなっていますが、
3位のアームストロング選手だけ小さく見えるのは
2位のアンディ・シュレク選手が186cmと長身だからでしょう。


予想外だったのはランス・アームストロング選手の活躍で、3年間のブランクもさることながら、37歳という年齢に加え、今年3月24日にブエルタ・ア・カスティーリャ・イ・レオンで集団落車に巻き込まれて鎖骨を骨折するという災難にも遭っていました。

今年初めて出場したジロ・デ・イタリアではアスタナのエースナンバーを付けていたものの、トップから16分近く遅れて12位に終わり、同じアスタナのリーヴァイ・ライプハイマー選手からも10分以上遅れる結果だっただけでなく、得意の個人TTでも上位に顔を出すことなく終わりました。ですから、まさかパリでポディウムに上がるとはツールが始まるまで思わなかったというのが正直なところです。

昨年の優勝予想では大穴狙いで推したアンディ・シュレク選手が今年のツールで着実に成長している様子が見られたのは何よりだったと思います。彼はクライマーとして超一流で、お兄さんのフランク・シュレク選手が滅法苦手な個人TTもそこそこの実力を持っています。そして何より、まだ24歳という若さですから、まだまだ伸び代があります。

コンタドール選手がツール初優勝を飾ったのも24歳のときでしたが、ほぼ総合優勝間違いなしという状況だったミカエル・ラスムッセン選手にドーピングの疑いがかけられ、棄権に追い込まれて順位が繰り上げられた格好でした。そのラスムッセン選手はツールの期間中十数回におよぶ検査で一度も陽性になりませんでしたが、その前段で抜き打ち検査のために義務づけられた所在報告で度々虚偽を繰り返したという疑いが強まり、ツール期間中にチームから追放されるという前代未聞のリタイヤでした。

コンタドール選手の2007年の優勝は「棚ボタ」だったといったらさすがに言葉が過ぎるでしょう。が、この年の彼は今年のアンディ・シュレク選手と見比べて圧倒的といえる実力差があったようにも見えませんでした。特に第19ステージの個人TTでは総合優勝を争っていたリーヴァイ・ライプハイマー選手に2分18秒、カデル・エヴァンス選手にも1分27秒の大差をつけられ、普通の山岳スペシャリストでオールラウンダーではないという印象を強く抱かせる内容だったと思います。

しかし、その翌年くらいからTTでもメキメキと実力を付けてきた感じで、今年のツール第18ステージではTTスペシャリストのファビアン・カンチェラーラ選手を抑えて優勝を飾るなど、TTでも超一流の実力を見せつけました。山岳もTTも最高レベルに達した現在のコンタドール選手に比べればアンディ・シュレク選手はやはり見劣りします。昨年に比べて着実に成長していることを思えば将来はコンタドール選手の良きライバルとして大いに期待したいところですが。

前人未踏のツール7連覇を達成したアームストロング選手のツール初制覇は1999年ですから27歳のときですが、コンタドール選手はまだ26歳で既に2勝です。彼を脅かすような選手が今後も現われず、現在の実力を維持し続ければ2桁の大台に乗せることも不可能ではないかも知れません。ただ、コンタドール選手のようにツール初優勝と新人賞を同時に果たした選手は良いところまで行ってもなかなかツールでは勝てないというジンクスもあります。

例えば、プロ2年目の23歳で初出場ながら優勝したローラン・フィニョン選手の場合、その1983年は同じルノーのエースだったベルナール・イノー選手の故障欠場で大抜擢されての快挙でした。翌年にはラ・ヴィ・クレールを立ち上げてルノーを去ったイノー選手とガチの対決となりましたが、その当時最強の王者をアルプスで叩きのめし、連覇を飾るという順風満帆のスタートを切りました。が、8秒というツール史上最小の僅差で惜敗した1989年を例外として、膝の故障や体調不良などツールでは良い成績を納めることなく終わっています。

また、22歳で初出場2位を果たしたヤン・ウルリッヒ選手は翌1997年に23歳の若さで優勝を遂げました。が、ご存じのようにランス・アームストロング選手と同じ時代に全盛期を迎えたことと、何よりシーズンオフの不摂生でブクブクに太ってシーズンインし、体型すらマトモに整えられないということが何度かあった調整下手が彼のポテンシャルを引き下げてしまった感も否めません。アームストロング選手がいなければあと3勝はできていたでしょうし、アームストロング選手のようにストイックな選手生活を送っていたら立場が逆転していたかも知れません。

プロサイクリストにあるまじき体型のウルリッヒ
プロサイクリストにあるまじき体型のウルリッヒ選手
これは2006年のジロ・デ・イタリア第11ステージのときのものです。
この膨れ上がった腹は何か詰め物をしているのでは?と噂になりましたが
正真正銘、100%混じりっけなしの贅肉です。
この無様な体型で彼は50kmのTTを平均58.48km/hで駆け抜け、
2位のイヴァン・バッソ選手に28秒差をつけてステージ優勝しました。
が、山では思うように走れず、第19ステージでリタイヤしました。


逆に、アームストロング選手のあの強さは睾丸のガンが肺や脳まで転移し、生存確率50%を宣告され、それを見事に克服してカムバックしてきた精神的な強さに支えられていた部分もあったように思います。1986年にアメリカ人としてツール初優勝を遂げたグレッグ・レモン選手もその翌年4月にいとこと狩猟に出掛けて誤射され、瀕死の重傷を負ったものの、2年後にカムバックして2連勝しました。

死線をさまようような経験をすると人の精神は強くなるとすれば、コンタドール選手もツール初優勝の2年前に脳の多孔性血管腫で死の淵を経験し、約半年間の入院生活を余儀なくされています。彼の精神的な強さはアームストロング選手らに通じるものがあるのかも知れません。

(つづく)

アメリカではプリウスとインサイトの明暗が分かれた

以前お伝えしましたように、アメリカ市場でのインサイトは当初の販売目標に対して6割程度しか売れていないそうで、少々苦戦しているようです。日本の専門メディアはマニア寄りでメーカーの提灯持ちのような記事が多い傾向にありますから、インサイトの硬めの足回りをスポーティと評価したり、それなりに持ち上げている感じです。が、欧米のメディアの中には散々な評価を下しているところも少なくないようで、特に乗り心地の悪さと後部座席の居住性の悪さがかなりの悪評を買っているようです。

消費者向け情報誌『Consumer Reports』のロードテストでは「小型ハッチバックとワゴン」の部門でブービー賞(22車種中21位)になってしまったそうです。また、イギリスの辛口ジャーナリスト、ジェレミー・クラークソン氏によるレポートがタイム誌の電子版に掲載され、「シートはハムスライサーの上に座っているような酷さで、座っていると骨がだめになってしまいそうだ。インサイトには他にも良くない点がたくさんある」と酷評されています。

なお、クラークソン氏はインサイトの乗り心地が相当お気に召さなかったらしく、別のところでは「恐らく、いま買えるクルマの中で最悪のクルマ」「もう二度と乗りたくない」「試乗中に『木にぶつけてやりたい』と思ったのはこれが初めてだ」とまで語っています。

デトロイトショーで発表されたインサイト
デトロイトショーで華々しくデビューしたインサイトですが
アメリカ市場での売り上げと欧米のメディアによる評価は
あまり芳しくないようです。


日本の自動車専門メディアとしてはかなりの古参(創刊は1962年)で、批評を加えた自動車誌としては日本初とされる『CAR GRAPHIC』は、個人的に比較的硬派な部類ではないかと思います。その電子版にあるブリーフテストでもインサイトに対する評価は辛く、★印による総合評価が5点満点で2点という低いものになっています。特に乗り心地については以下のように熟成の甘さが指摘されています。

さすがホンダだなと思わせるのはスポーティに走らせた時のフットワークの良さだ。ステアリングの効きは素直で、後輪の追従性も理想的。限界はタイヤなりで決して高くはないが、コーナリングそのものを堪能できる味つけとなっている。
しかしながら、乗り心地の粗さは、その代償としても受け入れ難いレベルにあるのも事実である。とにかく走らせている間中、常にヒョコヒョコとした上下動に晒され続けるのは、一体どうしたことなのだろう? 始終浮き足だったような接地感も、どっしり落ち着いた印象を欠く。
率直に表現すれば、安っぽい乗り味。いくらスポーティさ重視でも、もう少しやりようがあるはずだ。


もちろん好みの問題もあるでしょうが、本来インサイトはハイブリッドカーを幅広い層に乗ってもらいたいということを目指したクルマだったハズですから、スポーティな方向に味付けする必然性など全くなかったわけで、そのために乗り心地を犠牲にするのでは本末転倒というべきかも知れません。

現在の技術ならスポーティであっても乗り心地と両立させる方法はいくらでもあるでしょう。が、その辺はコストとの兼ね合いもあります。兎にも角にも安さ第一のインサイトには高いハードルとなっているのかも知れません。ならば、マニアの方向を向くのではなく、一般のユーザーに馴染みやすい乗り心地の良さを取るべきでした。

他にも様々なインプレッションを見て回りましたが、乗り心地や居住性以外に多かった悪評は「内装が軽自動車並みに安っぽい」というもので、フェルディナント・ヤマグチ氏の試乗レポートにもこう書かれています。

インサイトのこれはちょっとどうもなぁ

1: 内装の安っぽさ。この価格で売り出したのだから文句は言えないが、あと5000円、いや1万円出すから内装を何とかして欲しい。コーナーリング時に内装のアチコチから発生するキシミ音が寂しい。それとあの軽自動車的な響きのする軽く薄いドア開閉音。これも何とかならないか。

(後略)


要するに、ハイブリッドカーとして画期的な安さに仕上がったものの、結局は目に見える部分でも、肌で感じられる部分でも、徹底してコストダウンされているということで、全般的に品質と価格を見比べると決して割安になどなっていないということのようです。同じ価格帯の普通のクルマと比較すると明らかに安っぽく、ハイブリッドシステムで割高になった分を別のところで削っているだけということですね。

価格は200万円前後なのに軽自動車と大差ない質感に抑えるようなコスト配分をしているということで、3代目プリウスのようにハイブリッドシステムの根本的な部分に大ナタを振るってコストダウンした(というハナシの詳しくは後日に改めて述べたいと思います)というわけではなさそうです。それで最廉価グレードは装備の違いも考慮すればプリウスのほうがむしろ割安といえる状態ですから、これではマトモな勝負にはならないでしょう。

日本では発売前から予約が5000台に達し、実車を見ないままインサイトを買った人が5000人をかなり超える人数になっているようすが(プリウスはさらにその4倍近く予約で受注しましたが)、世界的に見渡してもここまでクルマを信用買いする国はあまりないでしょう。ブームに踊らされやすい日本人とアメリカ人とでは国民性も違うでしょうし、アメリカでは日本ほどCO2温暖化説が盲信されているわけでもありません。

さらにいえば、日本のような減税や補助金が大々的に導入されているわけでもないでしょう。元々ガソリンの価格も安いですし、実際、原油価格が下落に転じてからアメリカでは低燃費車の売り上げに急ブレーキがかかりました。

追記:このエントリを投稿した直後、アメリカでも低燃費車への買い替えの助成金制度が始まり、当初の予算10億ドルがすぐに底をつき、20億ドルの追加予算が組まれているそうです。ま、いずれにしてもその効果が現れるのは8月以降ということになりますが。

そもそも、アメリカでは金融危機からGMとクライスラーの倒産を経て新車の販売が非常に苦しい状況へ陥っていました。今年1月に前年同月比で約40%も減少していた販売台数は徐々に回復してきましたが、それでも5月は31.1%減、6月も30.6%減という状態だそうです。アメリカ市場でインサイトの売れ行きが悪い要因としては、こうしたことも少なからず影響しているのでしょう。

が、一方のプリウスは爆発的なブームになっている日本と状況は違うものの、アメリカでの6月の販売台数12,998台は前年同月比で6.1%増というまずまずの数字になっているそうです。上述のようにこの不況で全体では30.6%減、ガソリン価格の低下で低燃費車の売り上げが落ち込み、安くなったとはいえ依然として普通のクルマより割高感が残されているハイブリッドカーですから、それを踏まえれば充分に健闘しているといえるでしょう。

といいますか、そもそもプリウスは日本での当初目標を10,000台/月としていましたから、6月に日本国内で22,292台を販売したということはEXの2,000台を除いても何処かから10,000台ほど捻り出さなければならないわけで、そのしわ寄せがアメリカ向けにいっていないとも限りません。ま、アメリカでの受注状況やバックオーダーがどの程度なのか解りませんから何ともいえませんが。

日本ではまだ受注残を抱えているインサイトの受注状況が現在どうなっているのか、ホンダは口をつぐんでしまいました。ま、それは自動車評論家の国沢光宏氏が言うように芳しくない証拠なのだと思いますが、なまじスタートダッシュが強烈だっただけにその惰性で登録台数など外から見える数字では現状が解りづらいところです。

アメリカではマーケットそのものの状況が昨年よりかなり厳しいハズですが、プリウスは前年同月比で6.1%増となっていますから、あちらでは両者の明暗がハッキリ分かれたと見て良いでしょう。日本でも受注残が尽きるであろう数ヶ月後にはインサイトの登録台数が目に見えて減少すると私は読んでいますが(あまり自信はありませんが)、「ただ安くすればよいというものではない」という評価がいずれ日本でも下される日が来るように思います。

たまにはマトモなことも述べるけど・・・

私の会社があるのは都内某所で、昨日(7月22日)の午前中は雨だったり曇りだったりで昼過ぎに少し晴れ間が覗きましたが、日食の時間帯はシッカリ雲がかかっており、ホンの一瞬だけ雲がやや薄くなったときに欠けた太陽がボンヤリと見えたかな?くらいの状況でした。

NHKなども特別番組をやっていましたが、科学的な理解を深めるというよりも単なるイベントとして扱っている部分が殆どで、「人生観が変わった」とかその種のコメントを引き出すような内容が鼻に付きましたね。ゲストの松本零士氏など「奇跡」という言葉を何度も発していましたが、皆既日食など観測可能な地域が海上のみの場合も含めれば最近10年間に8回ありました。この地球上では毎年のように起こっていることですから、奇跡という程ではないと思うんですけどねぇ。部分日食なら年に2~4回くらいの頻度になるようですし。

確かに、地球の衛星である月が太陽と同じくらいの視直径となる大きさと距離になっているというのは奇跡的かも知れません。が、それを言ったら地球に生命が誕生し、それが長く育まれてきたのも、太陽の大きさやそこまでの距離、大気の組成や水の分布などなど、様々な要素が奇跡的に好条件となっているゆえですから、「奇跡的」という側面で地球や宇宙の神秘に切り込んでいけばキリがないハナシになってしまいます。

素直に感動している人たちの気持ちに水を差すつもりは毛頭ありませんが、折角たくさんの人が太陽に注目した一日になったのですから、これを好機と捉えてもう少し太陽についての造詣を深めるような内容を盛り込むべきだったように思います。メディアは日頃から子供たちの理科離れがどうのこうのと騒いでいますが、彼ら自身が理科離れしていることもその原因のひとつではないかと思います。

そういう意味で産経新聞の今日の社説は珍しく良いことが書かれていました。

皆既日食 感動を英知につなげたい

 多くの人がテレビ画面にくぎ付けとなり、息をのんで見詰めたことだろう。日本で46年ぶりの皆既日食である。

(中略)

 しかし、残念ながら青空に恵まれたのは太平洋の硫黄島周辺に限られた。中継もそこからだった。最適地のトカラ列島などは雨に妨げられた。この天候のいたずらで考えたいことがある。

 野外で研究するフィールドサイエンスの苦労だ。生態学や海洋学などでは、研究室の外で過ごす時間が多い。いくら努力しても天気が悪ければ、データの入手は不可能だ。実験室で装置を扱う分子生物学や化学などとは大きく異なる点である。

 政府の科学技術担当者は、この違いへの理解を欠いていないか。近年の政策をみていると、そうした危惧(きぐ)を抱いてしまう。一律に短期間での成果を求めることに無理がある研究領域が存在することを、再認識すべきであろう。

(中略)

 皆既日食は、印象的な現象だ。上手に学習に利用すれば天文学や幾何学の入り口となり、歴史への関心につなぐ糸口にもなる。皆既の始まりと終わりの瞬間に燦然(さんぜん)と輝くダイヤモンドリングにも似た知的感動である。

 日本での大型日食の再来は、意外に近い。平成24年5月21日に関東から九州南部にかけての広い範囲で見事な金環食が観測できる。3年後を楽しみにしたい。

(C)産経新聞 2009年7月23日


殆どのメディアが「次に日本で皆既日食が見られるのは26年後」という情報を伝えている一方、3年後の金環食を伝えるメディアがあまりにも少なかったことに私は驚きました。産経新聞の社説はこれもちゃんと抑えているという点でも悪くない出来だったといえるでしょう。

ついでですので、金環食について補足しておきましょうか。

改めてご説明する必要はないかも知れませんが、月の公転軌道も楕円を描いています。なので、地球との距離が変化します。近地点距離(地球から月まで最も近くなる距離)と遠地点距離(同様に最も遠くなる距離)の差は約43,000kmもあるんですね。今回のように皆既日食となるのは月が地球に近く、視直径が太陽と同じかそれ以上になるときで、2012年は月が今回より遠くにあるため、月の視直径が太陽より少し小さくなってしまいます。こうしたとき、月の周囲に太陽がはみ出して見える金環食になるわけですね。

2012年に東京で見える金環食
2012年5月21日に東京で見られる金環食
これは午前7時34分の状態をシミュレートしたもので、
この33秒後、太陽と月の中心がかなり近い位置に重なります。


26年後といったらかなり先のハナシですが、3年後といえば次の夏季オリンピックの年です。しかも、その範囲は日本列島に広くかかり、下図の青線の内側にいれば太陽の前に月がすっぽりと収まってしまう金環食を見ることができます。

2012年の金環食が見られるエリア
青い線の内側にいれば金環食を見ることができ、
赤い線の上にいれば太陽と月の中心がほぼ重なる
キレイなリングを見ることができます。


今回の皆既日食はトカラ列島や硫黄島など南方の島嶼しか皆既帯が通らず、それ以外の地域は部分日食しか見られませんでした。2012年の金環帯は上図のように非常に広い地域を跨ぎますから、より多くの人が今回より凄い日食を見ることになるでしょう(晴れればですが)。そういう意味でも2035年の皆既日食より、まずはコチラを大きく伝えておくべきだったと思います。

また、産経新聞の社説では以下の部分も悪くない意見だったように思います。

 今回の皆既日食で考えさせられたことが、もうひとつある。「専用の日食グラスを使わないと失明の恐れがある」という警告の大合唱だ。煤(すす)をつけたガラスで眺めた今の大人の世代や途上国の子供たちが失明したのか。

 教えるべきは、長く見続けないという常識であり、望遠鏡でのぞくといった絶対にしてはならないことだ。社会全体が過保護になってしまっては、人間に必要な判断力の成長をゆがめてしまう。


1981年7月31日の部分日食のとき、小学生だった私は夏休みの最中で、ガラスに煤を付ける方法を父から教って観察しました。オモチャみたいな顕微鏡を持っていた私は、そのスライドガラスにロウソクの火を当てて煤を付けました。が、最初は加減が解らず、濃く付け過ぎて何も見えなかったり、薄過ぎたり、子供なりに試行錯誤したものです。もちろん、日食が始まる前にこうした準備をしたわけですが、約60%欠けただけの太陽をこれで見ても何ら異常は生じませんでした。

実際には煤だと赤外線の透過率が高く長時間観察を続けると網膜にダメージを与える恐れがあるということと、上述のように適切な濃さにするのが難しかったり、触ると取れてしまうなど扱いの難しさもあったり、様々な難点があるため推奨できないということのようです。が、可視光はかなり減光できますので、産経新聞の社説でも指摘しているように要は程度の問題でしょう。

今回推奨されたビクセンの日食グラスも長時間の使用は避け、連続して太陽を観察するのも2~3分程度を目安とするように推奨されています。ということは、より安全ではあるけれども如何なる条件や使い方にも耐えるような完全無欠なものではないということでしょう。

といいますか、一部で配布された件の日食グラスには遮光プレートが入っていないものやズレているものがあるという不具合もあったそうです。この不具合に気付かない人はまずいないと思いますが、人間の作るものですから完璧ではないということですね。週刊東洋経済がこれを知ったら許してくれないかも知れませんが。

ま、メディアとしては立場上ベストな方法を伝えるべきだというのは解ります。が、従来から用いられてきたこれらの方法についてココにも「一部の方法については、正しい理解のもとに行えば危険を伴わないものもあります」とあるように、「正しい理解」という部分についてもっと深く掘り下げるべきでした。

駄目な方法は何処が駄目なのか、やり方次第では危険が伴わない方法はどういった点に注意しなければならないのか、そうした部分についてもっと詳しく伝えるべきだったんですね。良い方法と悪い方法とを二色に塗り分け、悪い方法には×印を付すだけという単純な捉え方が科学的に物事を考えない悪癖につながり、理科離れを加速させる元凶であるようにも思えます。

ま、産経新聞の意見も少々荒っぽい感じではありますが、個人的にはこうした風潮に一石を投じたのは良かったように感じました。

ただですね、当blogでも批判しましたが、産経新聞といえば過去に小中学校への携帯電話の持ち込み禁止を「当然である」とする社説を書いているんですね。携帯電話にしても教えるべきは節度をわきまえた使い方であって、闇雲に禁止してしまうのでは「人間に必要な判断力の成長をゆがめてしまう」ことになるでしょう。こういうダブルスタンダードを許しているところが産経新聞のレベルの低さと言わざるを得ませんね。

3年後に期待

ご存じのように今日はトカラ列島で皆既日食が見られるということで報道番組などでも盛んに伝えられています。私が住んでいる東京でも75%近く欠ける部分日食が見られることになっています。が、どうも予報では曇りがちのようですから実際に見られるかどうかは微妙な感じですね。75%くらいの部分食では暗くなりませんから、完全に雲がかかってしまうと日食だということに気付くこともできないでしょう。

となると、気になるのはその次の日食ですが、来年1月15日に沖縄で約62%、東京で約3%の部分食が見られるそうです。2011年の6月2日にも東北地方より北で部分食が見られるそうですが、宗谷岬で12%程度ですから、ま、大したことはありませんね。

個人的に期待したいのは2012年5月21日です。ドリカムの歌にもあるのでご存じの方も多いかと思いますが、この日は鹿児島から水戸あたりまで日本列島を斜めに貫くように金環食が見られます。東京や大阪、名古屋などの主要都市も金環食になりますから、今回よりも多くの人がダイナミックな天体ショーを楽しめるでしょう(晴れればですが)。

残念なのは月曜日で東京の最大食(約97%)が午前7時34分33秒になってしまうところですね。私の場合、通勤時間にかかってしまいますので、ゆっくり見てなどいられません。

その次は?

細かい部分食は沢山あるのですが、日本で見られる皆既日食は2035年9月2日になります。この日は狭いながらも本州を皆既帯が通ります。能登半島から水戸あたりを貫きますので、この線上にいる方は約2分ほどと短いながらも皆既日食が見られます。東京でも99%以上欠けますから、どこかへ見に行かない限りは私の人生で最も大きく欠ける日食になるでしょう。ま、26年後のことですから、東京に住んでいるかどうか解りませんけど。

ミニチュアモデルはイマジネーションを掻き立てる

大抵の男の子はミニチュアが好きだと思います。私も子供の頃はよくミニカーで遊びましたし、中学高校時代には田宮模型のプラモデルをよく作りました。特に、1/20スケールには「レーシング・ピット・チーム」というクルーのフィギュアと工具類などのアクセサリがセットされたものがありましたので、これを用いてピットの情景を作ったりして、色々な思いを馳せたものです。

tamiya_racing_pit_team.jpg

以前はミニチャンプスやイクソ、エブロなどの1/43スケール、オートアートの1/18スケールの精密なミニチュアカーを買いあさっていました。次第に置き場に困ってきたので数年前にこのコレクションは止めましたが、いまでも自宅や職場のデスクの上にお気に入りのミニチュアカーを飾って、時々眺めています。

MAZDA787B.jpg
MAZDA 787B (LeMans Winner 1991) by AUTOart
これはオートアートの1/18スケールで写真はリヤカウルを外し
ドライバーズシート側のドアを開放した状態ですが、
フロントカウルも外せるようになっており、内部のメカも
細かいところまで精密に再現されています。
ステアリングとフロントホイールが連動するというギミックもありますが、
カウルを留めるピンにちゃんとワイヤリングが施されていたり、
ラジエータのメッシュにはエッチング部品が奢られていたり、
手が込んでいるだけに眺めていても飽きません。


さすがにこの歳になるとカーセブンのCMのゆうこりんみたいな遊び方はしませんが、大人の鑑賞にも堪えるディスプレイモデルを眺めていると童心に返ってしまうもので、様々なイマジネーションが沸いてきたりします。私などはイラストを描くのも趣味だったりしますので、こうしたミニチュアを手にとって様々な角度から眺めてみて、イメージを膨らませたりすることもあります。

こうしたイメージというのは頭の中だけで思い描いているだけより、こうしたミニチュアを弄んでいると増幅されたりして、イメージをより具体的なカタチに持って行く手助けになってくれるような気がするんですね。イスラム教のように偶像崇拝を禁じた宗教もありますが、仏教やキリスト教やヒンドゥー教など、多くの宗教が彫像や絵画などを通じてイメージを具体的に伝え、信仰の助けにしてきたというのもこうしたところに通じるのかも知れません。

ところで、私が子供の頃はジョージ・ルーカス監督の『スターウォーズ』が一世を風靡しました。私もこのシリーズが大好きで、エピソードIV~VIまでの3部作は何度も繰り返し見ました。多くのシーンで精巧なミニチュアが用いられ、ハリーハウゼンが開拓したストップモーションアニメを究極的に進化させたあの仕事には惚れ惚れしたものです。

余談ですが、ピクサーの長編CGアニメ『モンスターズ・インク』に登場する寿司バーの店名は「ハリーハウゼン」となっていました。ちっとも和風ではないネーミングでかなり強引な気もしますが、それも先達に対する敬意ということで好しとしましょう。

しかし、同じ『スターウォーズ』シリーズもエピソードI~IIIはちっとも面白くありませんでした(個人的な感想です)。多くのシーンが実写とほとんど区別の付かない洗練されたCGで再現されたわけですが、何だか心に響くものが足りないような気がするんですよねぇ(くどいようですが、個人的な感想です)。

ルーカススタジオの今昔
クロマキー合成は日本ならブルーバックが用いられることが多いと思いますが、
白人には瞳が青い人がいますから、そこが抜けてしまうことがある欧米では
グリーンスクリーンを用いるのが一般的なんだそうです。


やっぱり、イマジネーションを掻き立てるクリエイティブな仕事の現場というのは、右のようなグリーンスクリーンの前ではなく、左のようなスタジオなんじゃないかという気がします。

東洋経済のキヤノン叩きは明らかな虚偽報道である (その5)

東洋経済が不当にキヤノンを叩いた記事は「利益追求のため製造請負に依存し、現場の品質管理が低下しているゆえに不具合が多発しているのではないか?」というストーリーを導こうとしています。が、これまで述べてきましたように、キヤノンの不具合で製造現場の品質管理に関係している可能性が否定できないのは最近4年間に1件しかありません。その1件も確実に結び付くとは言い難く、ましてやこの1件では到底「多発」といえる状況ではありませんから、このストーリーに無理があるのは明白です。

そもそも、「不具合を多発させるような手抜きをしているから収益が上がっている」といった発想自体が根本的に間違っています。製造業の実情という以前に、世の中の仕組みをもう少しリアルに理解できていれば、決してこのように短絡的な思考パターンにはまることもないでしょう。やはり、この入社2年少々の記者はまだ社会人として未熟なのかも知れません。また、こうした記事を精査せずに垂れ流した東洋経済は経済ジャーナリズムというにはあまりにもお粗末で、低俗なゴシップ週刊誌と同レベルと見るべきでしょう。

確かに、品質管理のレベルを下げればコストダウンになるでしょうから、利益率を上げることは可能かも知れません。が、それは不具合を放置した場合に限ります。不具合を公表して相応の対策を実施するとなれば、結局は品質管理を本来あるべきレベルに引き上げなければなりませんから、ラインの立ち上げから見直しがかかるまでの期間しかコストダウンできないことになります。また、後からラインに修正をかけるくらいなら、立ち上げのときからその必要がないようにしておいたほうが修正にかかる余計な追加コストも避けられるように思います。

もちろん、それでハナシは終わりません。市場に出回ってしまった製品を回収し、不具合の対策を実施するとなれば、それはもう莫大なコストがかかります。手抜きによって少々のコストを抑えたところで製品回収となれば桁違いのコストを吐き出してしまうでしょう。つまり、不具合を多発させてその対応に追われるくらいなら、初めから不具合が出ないように管理を徹底していたほうがむしろコストを抑えられるということです。

この記事が描こうとしている「キヤノンの高収益は不具合の多発に支えられている」といったストーリーは、キヤノンが不具合を公表せず、製品の回収もせず、放置しているような状態だったなら当てはまるかも知れません。が、彼らは実際に不具合を公表し、製品を回収して対策を実施しています。不具合の内容が製造現場の品質管理に繋がるものなのか否かも検討しなかった上に、こうした初歩的な認識も欠けている支離滅裂な記事の問題点を編集段階で誰も指摘しなかったのは、キヤノンに対する悪意があったか、ジャーナリズムとして全く無能なのか、どちらかということになるでしょう。後者なら東洋経済こそ品質管理が杜撰と言うべきですね。

個人的な感想としましては、EOS 5Dのミラー脱落というのは確かに酷いハナシだと思いますし、自分の身に降りかかったとしたら腹も立ったでしょう(それでも「恐怖体験」などと取り乱すことのない自信はありますけどね)。EOS 1D MarkIIIなどのAF用ミラーの問題もプロ仕様の最上級機であることを考えるとお粗末と言わざるを得ません。このこと自体についてキヤノンを擁護する必要などないでしょう。

私はEOS 5以来、15年以上キヤノンユーザーをやっていますが、彼らに対する不満がないわけでもありません。もちろん、私はキヤノン信者というわけでもありません。フィルムとデジタルを合わせて国内10ブランド、海外4ブランドのカメラを愛用してきたくらいですから。

ついでに言いますと、私はアンチニコンでもありません。EOS 1Nを手に入れる前段にニコンF4を本気で買おうと思っていた時期もありました。結局レンズを揃え直すほど経済的に余裕がない身分ですので止めましたけど。ニコンとはあまりご縁がなかったのは確かですが、引伸機(印画紙にフィルムの画像を焼き付ける機械で、私はLPLのC7700プロを所有しています)のレンズにはずっとELニッコールを愛用してきました。

私は製造業に身を置く人間ですから、絶対に不具合を起こさない完璧な製品を作り続けるなど不可能であることは身に染みて解っています。実際、私が関わった仕事で不具合が起こり、ユーザーに頭を下げに行ったことも1度や2度ではありません。

そういう立場から言わせて頂けば、不具合を出さないよう努力するのは当然ですが、それでも至らずに出してしまった不具合には誠実に対応するのがメーカーとして当然の務めなんですね。キヤノンもニコンもソニーなども出してしまった不具合や、それに対する向き合い方に大きな違いを見出せませんし、各社とも対応に問題はなかったと感じています。

私が東洋経済に対して許せないと思うのは、こうしたメーカーの取り組みを正当に評価せず、キヤノン以外の各社の不具合も把握できないような低レベルな調査と、キヤノンの不具合が製造現場に直結する内容なのか否かの検証もせず、噂話レベルの証言を寄せ集めてキヤノンだけが利益追求に走って不具合を多発させているとする虚偽の報道をしているところです。「相次ぐ製品不良が何らかの異常を告げていることだけは確かだ」という結びの一文は、要するにこれを書いた記者が予め用意していたストーリーの根幹を成すものなのでしょう。

この記者の頭の中には初めから「高収益を上げながら派遣切りを敢行した憎きキヤノンを糾弾すべし」という安っぽい正義があったのかも知れません。それに沿った取材で虚構をでっち上げていることに本人も気付かないまま記事を書き上げてしまったのかも知れません。(あくまでも個人的な憶測です。)

書いた本人としてみれば正義感に駆られていただけなのかも知れませんが、思慮の浅い人間の正義感ほどアブナイものもありません。こういうタイプは正義の御旗を振りかざすと道筋などお構いなしに暴走してしまうことがよくあります。暴力行為で新聞沙汰になる教員なども実は真面目な正義漢で、己の主観で正しいと信じて振るった「正義の鉄拳」が生徒に大けがを負わす結果になってしまったとか、教員の暴力が黙認されていた時代にはこういう事件も時々ありました。

『会社四季報』のように圧倒的なシェアを誇る資料本を出版し、この業界ではトップレベルの信頼を得ているであろう出版社の経済誌であっても、東大の大学院を卒業した人間が書いた記事であっても、内容を精査しなければ信用してはいけないということですね。この一件でもメディアリテラシーの重要性を再確認させて頂きました。

この一件に関するキヤノンの態度は、某都知事に名指しで中傷されたホンダ同様、「莫迦は相手にしない」というものでした。こうしたことは下手に騒ぐとさらに低レベルなメディアも食いついてきますから、週刊現代を訴えた日本相撲協会のように却って余計な憶測から莫迦げた風評を呼んでしまうことがあります。騒ぎを拡大して野次馬にたかられるだけ損ということなのでしょう。キヤノンもホンダ同様、賢い「大人の判断」をしたのだと思います。

え? 当事者であるキヤノンはスルーしたのに何故オマエは5回にも渡る連載で東洋経済を批判しているのかって? それは私のプロフィールにも書いてあるとおり、趣味だからです。

(おしまい)

東洋経済のキヤノン叩きは明らかな虚偽報道である (その4)

東洋経済はニコンやソニー(旧ミノルタ)などにも発生している不具合を取り上げず、キヤノンだけに不具合が多発しているという嘘の記事を載せています。それだけにキヤノンの元従業員の証言による工場内の様子も信憑性が疑われます。そもそも、この記者は取材対象の選び方が適切ではないように思います。初めからキヤノンを糾弾する(というより、実際には言いがかりを付けているだけですが)ストーリーを練り、それを感情的に煽るような証言を選んでいるのではないかと感じさせる部分があります。

例えば、冒頭にあるカメラマンのエピソードもトラブルが起こったという事実を冷静に伝えるものではなく、トラブルに遭った人が怒りをぶちまける感情的な描写が主体になっています。また、これによって読者の同情を惹こうとする意図も見え隠れしているような気がします。

 「あれ? なんで何も見えないんだ?」。都内に住む30代のプロカメラマンAさんが血の気の引く“恐怖体験”をしたのは昨年夏のことだ。愛用するキヤノン「EOS 5D」のシャッターを切っていると、前触れもなく急にファインダーの視界が真っ暗になったのだ。

 「何だ?」。もう1回シャッターを押すと、今度は「カラカラ」という軽い音。突然の異変にレンズを外してカメラの内部をのぞき見ると、基幹部品であるミラーが落ち、光を感知する画像センサーの上に覆いかぶさっていた。

 「仕事中に、エライことをしてくれたなという感じですよ」。Aさんは憤りを隠さない。同じカメラマン仲間には、今年初めに「5D」を購入し、使い始めた途端にミラーが外れてしまった例もあるという。「プロのカメラマンにとって、撮影中にカメラが動かなくなることが、どういうことを意味するか」――。憤ると同時にキヤノンへの信頼を失ってしまったという。


私の個人的な印象で言わせて頂くなら、このカメラマンはプロといっても大したレベルではありません。メイン機材として中級機であるEOS 5Dを使っている(仲間のカメラマンに至っては今年初めに購入したということですから、型遅れの店頭在庫か中古機になります)というのも何ですが、それ以前にちゃんとしたプロなら「機材トラブルはいつでも起こるもの」と想定していなければなりません。それに備えて常にバックアップ用の機材を準備しておくのが常識です。

秋山亮二
ドキュメンタリーやスナップを得意とする秋山亮二氏ですが、
食べていくためには広告写真もやらざるを得ないのでしょう。
前職で広報誌用の撮影のときご一緒させて頂いたことがあります。
当時の機材はEOS 1Nでしたが、予備に2台のボディを準備されていました。
上の写真はフォトグラファーの機材をクローズアップしたムックから
スキャナで取り込んだものなのでかなり荒れていますが、
比較的気軽な路上スナップでもマミヤ6とコニカ・ヘキサーの
2台体制になるそうです。


私などアマチュアとしても決して大したレベルではありませんが、フィルム時代に入れ込んでいたとき、本気の撮影に出かける際にはメインにEOS 1N、バックアップ用にEOS 5、さらにコンパクトカメラのコンタックスT2という布陣が普通でした。撮影中にカメラが動かなくなっても(昔は電子的なエラーが出てもバッテリーの抜き差しで解決することが多かったものですが)、フィルムが尽きてチェンジしている最中にシャッターチャンスが来ても、何とでも対応できるようにしていたものです。

デジタルでもメモリーカードが一杯になったり電池切れになったり、撮影の中断を余儀なくされることはあるでしょう。そういう意味でも「撮影中にカメラが動かなくなる」など日常的に生じることです。ま、メモリーや電池が尽きるというのは突然起こることでもありませんから、タイミングをはかることも可能でしょう。が、確実にタイミングが読めるとも限らないでしょうから、いかなる場合でも瞬間を逃せないというのなら、メインの他にバックアップをいつでも使えるようにしておくべきなんですね。

私のようなアマチュアでプロの使用頻度とはまるで比較にならなくても、これまでいくつものトラブルを経験しています。カメラが壊れたくらいで「血の気の引く“恐怖体験”をした」などと取り乱すのはアマチュアでも相当な初心者くらいでしょう。バックアップ用もEOS 5Dで、それも立て続けに同じトラブルを起こしたのなら解ります。が、もしそうだったら仲間のトラブルについて触れられる以前に鬼の首を獲ったかのように書かれているハズですから、そうした状況でなかったのは間違いないでしょう。

「プロのカメラマンにとって、撮影中にカメラが動かなくなることが、どういうことを意味するか」それは速やかにバックアップへスイッチしなければならないことを意味するだけで、仕事が続行不能になったり、そこまでいかなくとも暫く中断しなければならなかったり、支障をきたすようではプロとはいえません。確かに、ミラーの脱落というのは尋常ではないトラブルで、起こってはいけないことです。が、「カメラが壊れたので仕事になりませんでした」などという言い訳が通用するほどプロの世界は甘くないでしょう。

ま、この辺は単に誇張されていただけで、このカメラマンの言ったそのままのニュアンスが反映されていないのかも知れません。が、取材対象の選び方も得られた証言の中身としても、これでは有用なものといえません。こうしたエピソードを冒頭に持ってくることで読者の感情に訴え、キヤノンバッシングの流れを作るための枕にしているのでしょう。このように感情へ訴えかけるような手法というのは、客観的なデータや具体的な検証で根拠をキチンと示せないときにメディアが使う常套手段です。

実際、この記事では他社でも不具合が起こっている事実を的確にデータとして纏めることができていません。また、「品質不良のオンパレード」といっておきながら、その内容について具体的に検証していません。製造現場と無関係なものが大半であることに気づかず、この記事が導こうとしている「利益追求のため製造請負に依存し、現場の品質管理が低下しているゆえに不具合が多発しているのではないか?」というストーリーに結びつけることもできていません。

要するに、こうした感情論と噂話レベルの証言を並べる以外に論旨を補強する素材がなかったということなのでしょう。

(つづく)

東洋経済のキヤノン叩きは明らかな虚偽報道である (その3)

東洋経済はファームウェアのバージョンアップで修正された不具合についてキヤノンだけしか取り上げず、他社は「公表していない」としています。しかし、前回詳しくご紹介しましたように、これが虚構であるのは明白です。

もし、故意でなく単なる見落としだったとしたら、それはキヤノン以外のメーカーのサイトにあるサポート情報がキヤノンほど解りやすくないことが関係しているのかも知れません。例えば、ニコンはサポート情報の一覧にファームウェアのバージョンアップ情報を載せても、ファームウェアの一覧に誘導するだけで、何処がどう変わったのかは各々ダウンロードの頁に進まないと確認できないんですね。つまり、サポート情報の一覧を眺めただけではファームウェアのバージョンアップで解決された不具合を把握できないというわけです。

また、ニコンは各々のダウンロードの頁に進んでも、使用許諾がどうとか、ファームウェアAとBを両方同時にバージョンアップしろとか、機能強化された部分がどうなっているかとか、そうした情報がずらずらと並んだ後になってやっと不具合の修正箇所が示されるといったカタチになっていたりしますから、なおさら解りにくいといえるでしょう。

それに対してキヤノンはサポートメニューの「重要なお知らせ」や「お知らせ」の一覧に「デジタル一眼レフカメラEOS○○をご使用のお客さまへ」といったタイトルを載せ、クリックすれば不具合がハード由来なのかソフト由来なのかに拘わらず具体的な内容が案内されています(軽微なものは他社同様載らないこともあります)。

4年以上前の古い情報はキヤノンのサポートメニューから追えませんので、その点についてはニコンのほうが優れているといえます。が、最近3年までの情報に関して、特にファームウェアで対応した不具合についての情報はキヤノンのほうが解りやすく案内されているというのが私の個人的な評価です。また、この点についてはソニーもオリンパスもニコンとだいたい同じレベルといった印象です。なので、ニコンやソニーやオリンパスが普通で、キヤノンはそれより親切だと評すべきかも知れません。

この記事を書いた東洋経済の記者に故意がなかったとしたら、キヤノン以外のサポート情報がやや解りにくかったゆえに見落とし、他社では不具合が発生していないと錯覚していたのかも知れません。が、私のような素人がザッと調べただけでも見落とさなかったのですから、キヤノン以外のメーカーの告知方法に問題があったというより、やはりこの記者の能力が著しく低かっただけと見るべきでしょう。

情報公開が解りやすくなされていたばっかりに不具合だらけだと思い込まれてしまったのであれば、キヤノンにはお気の毒としか言いようがありません。もしかしたら、この記者が思い込みで記事を書いてしまった根底には、大量の派遣切りを敢行してメディアから袋叩きにされた大分キヤノンを「悪」と決めつけ、キヤノングループを「憎むべき守銭奴」といった先入観で評価しようとしていたからかも知れません。

メディアは得てして予めストーリーを用意しておき、それに沿った取材をし、そのストーリーに不都合な証言や情報を掴んでも握りつぶして予定調和の記事にしてしまうことが頻繁にあります。例えば、先般ご紹介したモータージャーナリストの池原照雄氏のケースもまさにそれで、彼のコメントした悲観的な意見は昨今の電気自動車ブームに水を差すものであるゆえ排除され、楽観的な意見ばかりが積み上げられ、あたかも電気自動車が近い将来を担うクルマであるかのように錯覚させてしまう報道が繰り返されているという構図になってしまいました。

こうした事例を見ても、メディアが取り上げる証言は偏向していたり信憑性がさほど高くないものと想定しておいたほうが良いかも知れません。過去にもTBSが不二家の賞味期限切れ商品再生問題を扱った報道や、テレビ朝日が日本マクドナルドの調理日改ざんを扱った報道など、元従業員の証言内容に矛盾があったり、元従業員の扱い方に演出があったなど、証言をソースとした報道の信憑性が問題になった例はいくつもあります。殊にキヤノンの場合、円満ではないカタチで製造現場を離れた元従業員も少なくないでしょうから、中には針小棒大に事実を歪めて不満をぶちまける人もいたかも知れません。(いなかったかも知れませんが。)

キヤノンは製品不良の公表が増えていることについて、「原因は機種によりさまざまだが、製造現場のホコリによるものでも、作業者の技術レベルに起因するものでもない。小さな問題であってもしっかり公表しているだけで、最近になって製品不良が増えているわけではない」(広報部)と説明する。しかし、現場から聞こえてくる声とはあまりにもかけ離れている。


前回、「不具合の中身をろくに精査しないまま徒に批判する東洋経済のようなスタンスが間違い」と書きましたが、それはここの部分を指していました。

東洋経済では「利益追求のため製造請負に依存し、現場の品質管理が低下しているゆえに不具合が多発しているのではないか?」といったストーリーを導こうとしています。が、そもそもこの記事では不具合の原因が製造現場に繋がるものなのか否かを全く検討していません。それゆえ、論旨の組み立て方が根本的に間違っていることに気付くことができなかったんですね。

この記事で取り上げられたキヤノンの不具合4つのうち、2つはファームウェアに因むものでした。つまり、この2つに関してはプログラムを開発する部門の責任範疇になるわけで、製造現場の状態やそこでどのような作業がなされているかなど全く関係ありません。

また、EOS 5Dのミラー脱落も正式な対策が実施される以前、サービスセンターでの修理後に再び脱落したというケースが報告されています。ということは、製造現場の問題ではないと見るべきでしょう。個別修理ではなく全数回収による対策の実施ということになったのもそれゆえだと思いますが、正式な対策では補強部品が追加されました。設計段階の強度計算などに問題があったか、ミラーの接着に用いられた素材(接着剤の類かと思いますが、具体的には解りませんでした)の品質などを疑うべきでしょう。

EOS5Dのミラー脱落対策
EOS 5Dのミラー脱落対策

唯一、EOS 1D MarkIIIなどのAF用ミラーの調整に係る不具合は製造現場の品質管理に関係している可能があります。が、それとてホコリなどは何の関係もないでしょう。また、こうした精密部品の取り付けや調整には専用の治具やテスタなどを用いるのが普通かと思いますが、それらの構造や精度、あるいは公差の指定そのものに問題があった可能性も排除することはできません。これだけでは作業者の技術レベルと断定することなど到底できませんから、この一例だけで状況証拠だといわれても説得力に欠けます。

このように、不具合の中身をキチンと検討しておけば、この記者が思い描いているような「製造現場の品質管理の低下が不具合多発の原因」といったストーリーに充分な裏付けとなるような不具合など発生していないことが解ったハズです。彼はキヤノンの広報の説明と「現場から聞こえてくる声とはあまりにもかけ離れている」などとしていますが、「あまりにもかけ離れている」のは彼が組み立てたストーリーと実際に起こった不具合の中身です。

こうした稚拙な記事を書いたのは入社からまだ2年少々の新米記者だったようです。が、それをフォローせず、頓珍漢な内容になっていることに気付かないまま世に出してしまったデスクの責任のほうが重いと見るべきかも知れません。

(つづく)

東洋経済のキヤノン叩きは明らかな虚偽報道である (その2)

東洋経済はキヤノンとニコンの不具合について纏める際、「製品発売時期ベース」で最近4年というキリの悪い年数を基準としました。これは露出制御に関連する電子部品の交換を行ったニコンD2HおよびD70の不具合が含まれないように情報が操作された疑いを強く感じさせるものです。

確かに、ニコンのデジタル一眼レフカメラでハード面に因む不具合はこの2機種が現在のところ最後となっており、それ以降は出ていません。が、東洋経済が設定した条件の「製品発売時期ベース」ではなく、「不具合の発表時期ベース」で見れば、最近4年間にニコンの2機種とキヤノンの3機種で大差なくなってしまいます。これは東洋経済が予め用意したストーリーに沿うよう、都合の良いデータを作り出すために仕掛けたトリックと思われます。(あくまでも個人的な感想です。)

そもそも、こうした不具合は定期的に出たり狙って出すものではありません(東洋経済が発売時期ベースで2005年以降としたのは狙い撃ちだと思いますが)。ニコンは4年前に2機種で出たきりだから優秀で、キヤノンはその後に3機種で出たから品質管理が杜撰だなどというのはとんでもない暴論です。

また、ファームウェアのバージョンアップで解決された不具合はニコンも沢山出ていますし、それで解決されたということはニコンが正式に不具合を認め、公表していることを意味するわけです。しかし、東洋経済は「会社公表ベース」としながらこうした不具合を一切取り上げていません。前回ご紹介したD700の黒点の他にファームウェアのバージョンアップで解決したニコンの不具合をザッと挙げてみましょうか。

・特定のスピードライトを使用するとAF補助光が発光しない
・特定のスピードライトを特定の条件で使用すると画像上部が暗くなる
・特定の条件で稀にホワイトバランスがずれる
・超スローシャッターで稀に縦線が生じる
・特定のレンズで稀に露出がアンダーになってしまう
・特定の条件でピントが合わずに小刻みにレンズが駆動することがある

特に最後に挙げた不具合などはEOS 1D MarkIIIのようにハード面の問題ではないものの、ニコンでもAFの不具合が出ていることを示すものです。

こうしたニコンのファームウェアのバージョンアップ情報から再編集した不具合の一覧を作成してみましたので、コチラもご参照ください。大したレベルにない不具合も取り上げていますし、異なる機種で同様の不具合が重なっていたりもしますので、かなりのボリュームになってしまいましたが、全般を見渡してもキヤノンと大きな差を感じることはできないレベルかと思います。

なお、この不具合一覧を作ったのは東洋経済の纏めた資料が如何にいい加減なものであるかを明らかにするためであって、ニコンを批判するような意図は一切ありません。詳しくは「その5」で述べますが、私も製造業に身を置く人間ですから、実情は痛いほど解っています。むしろ、こうした情報公開をキチンと行っているメーカーこそ信頼すべきで、その不具合の中身をろくに精査しないまま徒に批判する東洋経済のようなスタンスが間違いなのです。以下でソニーやオリンパスについて調べた結果もご紹介しますが、これも意図は同じです。

ソニーでは、DSLR-A100(2006年発売)にRAW形式で撮影したファイルがごく稀に付属の画像管理ソフトで開けないという不具合が出ています。一般的なコンパクトデジカメでJPEGファイルしか扱われない方はピンと来ないかも知れませんが、RAW形式は各社各様で、機種によってもフォーマットが異なることが少なくないものですから、付属の画像管理ソフトで開けないということは、パソコン上でその画像を扱えないということとほぼ同義でしょう。

東洋経済が取り沙汰したキヤノンの画像消失は起こるとしても撮影直後ですし、必ずハングアップを伴いますから、その場で画像が失われたことに気付きやすいといえます。その場で気付くことができれば被写体によっては撮り直しも充分に可能で、リカバーするチャンスも残されているといえます。が、ソニーのように自宅に戻ってパソコンにデータを取り込んでからそのファイルが開けないと解ったのであれば、撮り直しのチャンスは大きく奪われることになるでしょう。こうした状況を考えた場合、私だったらキヤノンの画像消失のほうが遙かにマシだと思います。

この他にも、DSLR-A700(2007年発売)では連写した際ごく稀にアクセスランプが消灯しなくなって操作を受け付けなくなるという不具合も出ています。この不具合も、上記の稀にファイルが開けないことがあるという不具合も、いずれもファームウェアのバージョンアップで修正されています。

また、ハード面でもボディではなく交換レンズのほうになりますが、マクロレンズのSAL100M28(2006年発売)でフードが正常に装着できないという不具合があり、回収されています。ま、これは単純に公差の指定を誤ったなどの理由でフードと鏡筒各々の取付部の径が合わなかったという初歩的なミスになるのだと思いますが。

一方、オリンパスは優秀なのか、改善内容の書き方が上手いのか、ファームウェアのバージョンアップ情報に「AF精度を向上しました」とか、「オートホワイトバランスを改善しました」といった例がいくつか見られる程度で、これらを不具合と見なせるかどうかは微妙です。意地悪な見方をすればAFの不良だったり、ホワイトバランスが崩れやすいといった不具合にも受け取れますが、この書きぶりでは製品の品質向上という風にも受け取れます。

いずれにしても、キヤノンだけに「不具合が多発」していて、他社は「製品不良を公表していない」などというのは真っ赤な嘘です。東洋経済はキヤノン以外についてちゃんと調べていないだけということなのでしょう。が、私が各社のサイトを見て回ってこの事実を確認するのにかかった時間は僅か数十分です。

素人が趣味として片手間で書いているblogの裏づけに、ほんの僅かな時間で確認できたようなことに気付くことができない取材能力では、プロの記者として救いようがありません。もし、他社の不具合情報も把握していながら、論旨の都合に合わせて取捨していたのであれば、これはもはや読者を謀る行為です。どちらに転んでも東洋経済はネット掲示板などで流布されている悪質な噂話と全く同質の、経済ジャーナリズムとしてはあるまじき低レベルな記事を載せたということです。

(つづく)

東洋経済のキヤノン叩きは明らかな虚偽報道である (その1)

以前、デジタル一眼レフカメラのキヤノンEOS 5D MarkIIの発表を受けて、私はこれを購入する予定だという旨をお伝えしました。実は既に入手して1ヶ月以上経つのですが、購入のタイミングをはかっているときに経済誌『週刊東洋経済』(以下、東洋経済)の記事がネット上でちょっとした火種になっていました。

キヤノンの一眼レフで不良事故が多発する理由、製造請負依存の死角(上)

(前略)

 2005年以降(製品発売時期ベース)、キヤノンは一眼レフカメラの新製品を12機種発売しているが、そのうち5機種で製品不良が発生している。品質不良のオンパレードと言っていいだろう(2ページ目下表参照)。その間、ライバルのニコンでは、製品不良は1機種も公表されていない。製造台数が少ないものの、オリンパス、ソニー(06年に旧ミノルタの事業を買収)などその他の一眼レフメーカーも、製品不良を公表していない。

(後略)

(C)週刊東洋経済 2009年5月14日


「2ページ目下表」というのは↓これです。

キヤノンで製品不良が多発
(注)EOS 1D MarkIIIの「AF、ミラー不具合」という標記では
AFとレフミラーの2点に問題があるように見えてしまいますが、
実際にはAF用ミラーに調整の甘いものがあるという内容です。
句読点を打ってあるのは不適切で、誤解を招くものです。
(といいますか、私はこの表を見て誤解してしまい、
キヤノンのサイト内を探しまくっても見つからず、
「EOS 1D MarkIIIのレフミラー不具合なんて出てないじゃないか!」
と東洋経済の捏造を疑ってしまいました。)


普通の人がこれを見ればキヤノンに対して「なんて酷いメーカーだ」と思われるでしょう。実際、この虚偽報道を鵜呑みにした人たちがネット掲示板などを中心に不毛な議論を重ねていたようですし。しかし、この記事は明らかにバイアスがかかったものです。見落としか故意に排除されたのかは解りませんが、実際にはニコンや他のメーカーからも不具合はちゃんと公表されています。にもかかわらず、東洋経済はキヤノンの不具合しか取り上げず、他社は「製品不良を公表していない」などという嘘の報道をしています。

まず、東洋経済は「2005年以降(製品発売時期ベース)」ニコンから「製品不良は1機種も公表されていない」としています。が、これは情報がコントロールされていると疑うべきでしょう。というのも、2003年に発売されたD2Hと2004年に発売されたD70に電子部品の不具合があり、回収して関連部品の交換を行っているからです。詳しくは以下のリンク先をご参照ください。

ニコンデジタル一眼レフカメラ D2H ご愛用のお客様へ
ニコンデジタル一眼レフカメラ D70 ご愛用のお客様へ

この回収の告知はいずれも2005年9月26日付になりますから、この記事を書くに当たってこの告知を見ていないということはまず考えられません。仮に見落としたというのであっても、それはそれでプロとして救いようのない間抜けな記者ということになるでしょう。いずれにしても、該当機種は2004年以前に発売されたものですから東洋経済が区切った「2005年以降(製品発売時期ベース)」にはかかりません。

こうしたデータは過去5年とか10年とかキリの良い年数で遡るのが普通だと思いますが、東洋経済が遡ったのは4年という中途半端な年数ですから、要するに「ライバルはゼロなのにキヤノンだけは不具合が起きている」とイメージさせるようなストーリーを作り上げるためにバイアスをかけたのはほぼ間違いないと思います。(あくまでも個人的な感想です。)

もちろん、製品の回収を要するハード面の不具合だけでなく、ファームウェアに係るもの、即ちソフト面での不具合も出ており、数としてはこちらのほうが遙かに多くなっています。例えば、上の表のにあるEOS 5D MarkIIの「画像に黒点」というのはキヤノンの公式発表で「特定の条件下で撮影した画像の一部に、黒点やバンディング(縦の帯状)ノイズが発生する」としているものに当たりますが、既にファームウェアのバージョンアップによって対策済みです。

一方、ニコンもD700(2008年発売)で「撮影メニュー内の [長秒時ノイズ低減] 機能を [する] にして撮影すると、まれに黒点が目立つことがある」という不具合が発生しており、ファームウェアVer.1.01で修正されています。

同様のトラブルがニコンでも発生していて、しかもメーカーはちゃんと公表し、キヤノンと全く同じようにファームウェアで修正しています。が、東洋経済はキヤノンだけしか取り上げず、ニコンのほうにはそんなトラブルなど起こっていないと報じているわけですね。これを虚偽報道といわずして何といえば良いでしょう?

また、EOS KissNの「画像消失」というのはEOS 1D MarkIIやEOS 20Dなどの上位機種にも発生していますが(製品発売時期ベースで2005年という東洋経済の集計基準にかからないだけですが)、これは高画質モードなどでファイルサイズが大きくなっているとき、カメラのバッファメモリからメモリーカードに書き込んでいる最中にディスプレイボタンを押すと稀にハングアップし、バッファメモリ内の画像が消失するというもので、これもファームウェアのバージョンアップで解決しています。

つまり、東洋経済が纏めた上の表はハード由来の不具合もソフト由来の不具合も関係なく集計されたものになります。が、上述のようにニコンでもD700の「黒点」をはじめとしてソフト由来の不具合は細かいものまで含めるとかなりの数が発生しています(詳しくは次回に)。東洋経済はそれらを一切取り上げず、キヤノンだけに不具合が多発しているという出鱈目な記事を平然と載せているわけです。

(つづく)

インサイトは日本でもジリ貧か? (その4)

本来であればプリウスとインサイトは価格帯もユーザー層も重なる幅はかなり小さかったハズです。業界関係者の間では今回のフルモデルチェンジでプリウスは値上げされるという見方が支配的でしたから、恐らくトヨタも当初はそうするつもりだったのだと思います。2代目も昨秋に値上げして最廉価グレードの「Sスタンダードパッケージ」は226.8万円から233.6万円になっていましたから、仮にこの価格が据え置かれていたとしてもインサイトの最廉価グレードと44.6万円、最上位グレードとも12.6万円の価格差があったハズでした。

これだけの価格差があればインサイトの上位グレードに色々オプションを加えて装備の良さを取るか、プリウスの下位グレードにオプションは最低限として車格と基本性能の高さを取るか、こうした選択を比較的狭いレンジの消費者層に求めるだけで全面的にぶつかることもなく、上手く棲み分けができていたわけです。実際のところホンダ自身もこのように目論見んでいたに違いないでしょう。

プラットフォームでいえば、3代目プリウスはCセグメント以上を担う「新MCプラットフォーム」、2代目インサイトは主にBセグメントを担う「グローバル・スモール・プラットフォーム」と称されるものになります。ま、最近はプラットフォームの共有がかなりの広範囲で進められていますから、昔の感覚では信じられないような車格の跨ぎかたをしています。トヨタの新MCプラットフォームも下はカローラから上はマークXジオやレクサスHS250hに至るものです。一方、ホンダのグローバル・スモール・プラットフォームはフィット系を中心にシビックの欧州専用車などにも採用されています。

こうした点を見ても新型プリウスと新型インサイトは1つ以上車格が異なるわけで、本来であればライバルとして扱うべきではありません。恐らく、最初からそうした見方が普通に成されていたなら、トヨタもここまでインサイト包囲網を狭めることはなかったように思います。が、世間一般はこうした車格の違いをことごとく無視して両者を同列に扱い、ライバルとして扱ってきました。そして、ホンダの低価格路線が大いに持て囃されることになり、先行したインサイトはメディアにもマーケットにも好感を持って迎えられたわけです。

確かに、ホンダとしてみれば「インサイトが安いのはシステムが安物だから」とは言いにくいでしょう。が、「システムをシンプルにしたことが価格を抑えられた理由」といった上手なアピールの方法もあったでしょう。きょうび、マッサージチェアのテレビ通販だって安さの理由を大々的にアピールし、品質と価格のバランスの良さを強調するものですが、天下のホンダが低価格の強調一本槍に近い状態だったのですから、これは頂けません。

こうしたフォローを徹底しなかった結果、メディアの暴走を許し、新型プリウスの発売前(というより発売前の受注状況が伝えられる前)まではより割安なインサイトのほうが優勢ではないかとする論調が出始めるほどでした。かつてヤマハと二輪車の覇権を巡って闘った「HY戦争」に準えた「TH戦争」という言葉まで飛び交うようにもなってしまいました。

勢いに乗っているときは気付きにくいことかも知れませんが、本来はライバル視すべきではない両者をライバルとして「トヨタとホンダの全面対決」といった構図をメディアが作り上げようとしているとき、多少勢いを削ぐ結果になってもホンダはその軌道修正を図るべきだったんですね。ホンダにしてみればトヨタも同程度の価格帯でプリウスを大安売りしてくるとは夢にも思わなかったのでしょうが、メディアの誤解を解かなかったのは結果的にホンダにとって大きなマイナス作用になってしまったと見て良いでしょう。

また、彼らは4月に供給調整によるものと思われる月間販売台数10,481台で1位(軽自動車を除く)を取ったのも、いまにして思えば余計なことだったかも知れません。この結果を受けてメディアは騒然となり、「ハイブリッドカーがトップを取ったのはプリウスにもできなかった快挙」「インサイトはプリウスを超えた」みたいな報道を引き出してしまったことで、トヨタの怒りの炎に油を注いでしまったように思います。

本来ならライバルとすべきではない両者をライバル扱いする無知なメディアにも解りやすく違いを説明する必要があると悟ったトヨタが幼稚園児向けレベルの比較広告を展開したのも自然な成り行きだったかも知れません。ま、こんな広告は知らない人も多いでしょうから大勢に影響はなかったと思いますが、トヨタにしてみればホンダはメディアの勘違いを放置して、あるいはその勘違いに乗じて調子に乗っているようにも見えたのでしょう。日本には馴染まない比較広告をあえて展開したのも、こうした状況にフラストレーションを募らせていたからこそでしょう。

ホンダはメディアを上手く利用してインサイトを勢いに乗せることに成功しました。企業がメディアを利用するなどよくあることですし、それを手助けするPR会社という存在もありますし、こうしたやり方は自体は決して悪いことでもありません。が、ホンダが失敗したのはその手綱をしっかりと握っていなかったことと、先駆者であるトヨタの心情をあまり考慮しなかったことです。

プリウスと競合する気がないのなら、初めから全く違う路線を目指し、それを明確にアピールすべきだったわけですが、その辺がかなり中途半端だったように思います。また、ホンダが意識していたかどうか解りませんが、ハイブリッドカーのパイオニアとしてトヨタが築き上げてきた「専用車の領域」へ兼用車よりスペシャルではない安物の専用車でかき回し始めたのは、トヨタにしてみれば許し難い行為に感じられたかも知れません。

かつて日本人は欧米人の発明を真似て安く作りなおし、マーケットを土足で踏み荒らして大ひんしゅくを買いまくりました。自由経済の下でも一定のビジネスマナーはあるということをこのとき学んだハズなんですね。1980年代にピークを迎えたジャパンバッシングを経験して以来、日本の自動車メーカーは特に北米市場において如何に反感を買わないよう、如何に調子づいていると思われないよう、紳士的に振る舞うかというところに神経を尖らせ続けてきました。

今回のハイブリッド専用車を巡る一連の流れを振り返ってみますと、ホンダにはそうした配慮に欠けていた部分もあったように思います。と同時に、トヨタも大人げなくムキになり過ぎたところがあったと思います。ま、どっちもどっちといったところでしょうか。世界一体力のあるトヨタですから、薄利の商売でも何とでもなるでしょうが、ホンダにしてみればやり方を間違ったような気がします。

ま、まだ新型インサイトが発売されて5ヶ月少々、新型プリウスが発売されて2ヶ月足らずしか経っていませんから、成否を結論づけるのは拙速というものですね。ただ、プリウスのほうは利益率は別として売上で見れば失敗というところへ転落することはあり得ないでしょう。問題はインサイトのほうで、アメリカでの不振が伝えられ、日本でもジリ貧の兆候が見えてきたところで、最終的にどのレベルに踏みとどまるかが注目されます。

私の予想もあまり当たりませんが、それを自覚した上でインサイトの今後を占ってみましょうか。

まず、発売から1ヶ月くらいの時点で公式発表された総受注台数18,000台と、自動車評論家の国沢氏のblogにある情報が正しいとして、5月下旬までの総受注台数42,000台を基準とし、各月の受注台数がなだらかなカーブを描くように減少していくと仮定します。登録台数は6月まで実数が解っていますからそれを採用し、その後も供給能力を現状維持と想定し、受注残に整合するよう数字を合わせてみます。受注残はその月までの総受注台数と総登録台数との差とします。こうして推測に推測を重ねて予想してみますと、以下のようなグラフになりました。

インサイトの販売状況予想
インサイトの販売状況予想(というより妄想?)

ま、あまり自信のない予想ですが、もしこの通りになるとすれば、8月には受注残をほぼ吐き出し、9月くらいから受注台数と登録台数が近づいていくようになるでしょう。ただし、2月にはかなりの台数を試乗車としてディーラーが自社登録しているハズです。それがどの程度の規模になるのか全く解りませんので、この予想には反映させていません。数千台規模の試乗車があるとしたら、受注残を吐き出すのは8月ではなく9月くらいになるかも知れません。

くどいようですが、これはあくまでも推測に推測を重ねた予想ですし、不確定要素もかなり多いでしょうから、当たる自信はあまりありません。(私は誰かさんと違って推測を重ねたシミュレーションでも現実であるかのように吹聴したり、不確定な要素が山のようにある予測でも将来確実に起こることであるかのように断言してしまえるほど厚顔ではありませんので。)

不確定な要素として大きいのは、やはりホンダが受注状況を伝えなくなってしまったため、大部分が想像によるというところです。これに加えて、上述のように試乗車がどれくらい登録されているかもよく解りません。さらに、プリウスの納期は現在でも8ヶ月以上ですが、今後も長くなっていくようであればそれだけインサイトに流れる人も増えていくでしょう。

インサイトはプリウスよりスポーティなイメージが強いと評価されているようです(実際、エアロパーツの装着率はかなり高いといいます)から、タイプRまではいかないにしてもスポーティ仕様車が追加になればプリウスとは別次元のマーケットを開拓できるでしょう。そうしたイメージを牽引するモデルがあれば、それ以外の通常モデルも全般的なキャラクターをプリウスから引き離す方向にシフトしていくことができるかも知れません。

個人的にはハイブリッドのスポーツカーもアリだと思っています。その辺はいずれCR-Zが担うことになるのかも知れませんが、インサイトにもフィットRSタイプかそれ以上のスポーティバージョンをラインナップさせれば俄然面白くなるのではないかと思います。いずれにしても、インサイトは価格面での訴求力を大きく失ってしまったのですから、プリウスとは違うキャラクターを強調していくしかないでしょう。

(おしまい)

インサイトは日本でもジリ貧か? (その3)

トヨタがインサイト潰しに出たのは誰の目にも明らかでしょう。例えば、新型プリウスのメディア向け発表会の折、インサイトの簡易的なハイブリッドシステムとプリウスのそれとを比較する寸劇が展開されました(といっても具体的にインサイトとかホンダといった名が出てくることはなかったそうですが)。日本では昔から比較広告が馴染まないこともあってか、経済総合誌の週刊ダイヤモンドにも『業界騒然!ホンダ「インサイト」をコケにする トヨタ「プリウス」の容赦ない“比較戦略”』などと報道され、こうしたやり方に不快感を抱いた人も少なくなかったようです。

システムの違いを比喩的に表現した寸劇の様子
システムの違いを比喩的に表現した寸劇の様子
モーターだけでも走行可能なプリウスはエンジンとモーター双方の力強さをアピールする一方、
ライバルはエンジンのアシストに過ぎないモーターゆえ途中で力尽きるというお莫迦なストーリーだそうです。
ま、遊星歯車を介した合理的な動力混合/分割やミラーサイクルエンジン、補器類の電動化、
排気熱再循環システムなどなど技術的なハナシをしても一般メディアは記事にしないとトヨタは踏んだのでしょう。
私だったら幼児向け番組のごとき寸劇を見せられたら「莫迦にするな!」と激怒しているところですが、
やはりメディアの反応は日本でタブー視されている比較広告を問題にしたようです。


この内容はかつてペプシコーラがM.C.ハマーを起用したCMでコカコーラをコケにしたものと大差ないイメージ重視といったところでしょう。具体的なメカニズムの詳細を比較するようなものならともかく、このように他愛のない比較ならメディアには煽りのネタに使われ、ホンダファンや直感的にインサイトが気に入ったような消費者には良い印象を与えることもないでしょうから、あまりメリットはなかったように思います。

トヨタがここまで形振り構わずインサイト潰しにかかったのは、ホンダに対して強い怒りを抱き、メディアを味方に付けて勢いづいていたインサイトに危機感を抱いたからかも知れません。週刊ダイヤモンドの記事にある「明らかにホンダはトヨタの“虎の尾”を踏んだ」という業界関係者のコメントも正鵠を射ているように思います。

前回述べましたようにプリウスそっくりな外観も、トヨタにしてみれば自分たちが築き上げてきたハイブリッド専用車のイメージを横取りされたような不快感に繋がったでしょう。また、何よりホンダはメディアを上手く利用してかなり勢いづいていましたから、トヨタも通常ではあり得ないような早い段階でメディア向けの試乗会を催したり、テレビCMも発売までかなり時間があるにも拘わらず大量に流すなど、インサイトに注目が集中するのを何とか阻止しようと必死だった印象があります。

日本の自動車メーカーでマーケットリサーチをしていないというところはないでしょうから、トヨタも「どれくらいの価格ならどれくらい売れる」といった類のリサーチをやっていたに違いありません。もちろん、こうしたリサーチが必ず当たる保証もありませんから、トヨタも時々bBオープンデッキのような実験色の強いモデルを発売してマーケットのリアクションを見たりすることがあるわけですね。

今年3月初旬、ホンダはインサイトが発売1ヶ月で18,000台を受注したことを大々的に発表しました。世界的に新車の販売不振が続く昨今にあってこの爆発的な数字ですから、メディアもこれに食い付いて大きく報じました。トヨタにとって189万円という価格は想定内だったかも知れませんが、この受注台数に関しては想定を大きく上回っていたのかも知れません。

新型インサイトの当初販売目標は5,000台/月でしたから、18,000台という数字はそれを3倍以上も上回ったわけで、ホンダ自身の想定をも上回っていたと見るべきでしょう。一方、トヨタにとっても新型プリウスの当初目標10,000台/月の2倍に迫る数字ですから、ショックは小さくなかったと思います。もしかしたら、彼らがリサーチによって想定していた需要供給曲線とは一致しない結果だったかも知れません。

日本人はこうした上げ潮の勢いに影響されやすいところがあり、深く考えずブームに乗ってしまうことが往々にしてあります。そうした国民性も鑑みるとさすがのトヨタも危機感を抱いたかも知れませんし、この勢いを少しでも早い段階で削いでおきたいと考えたかも知れません。新型プリウスの価格が205万円からという第一報が朝日新聞から伝えられたのは、ホンダがあの18,000台受注という発表をした僅か3日後のことでした。

いま思えば、ホンダはプリウスとの違いをもっと強調し、車格の違いから直接競合するようなライバルではないということをアピールしておくべきだったんですね。しかし、ホンダは価格の安さを前面に出すばかりでシステムの違いはカタログなどの資料に概略だけを載せ、最も広告効果の高いテレビCMでは「エコカーは、作っただけじゃエコじゃない」「みんなに乗ってもらって初めてエコなんです」みたいな低価格路線をアピールするだけでした。(ま、見方によってはこれも比較広告といえるかも知れません。)

ハイブリッドシステムについてあまり積極的に説明することなくプリウスにそっくりなボディを被せれば、普通の人なら誰だって同じようなクルマだと思うでしょう。価格設定を低めに抑えたけれども中身は全然次元の異なるものだということは私みたいなクルマオタクでないとなかなか追求しないでしょうし、評価もしないでしょう。少なくとも一般メディアにはそんなところまでフォローするような責任感なんてありません。

これが救いようのない自動車オンチの一般メディアだけだったらまだしも、自動車の専門メディアにあっても「ハイブリッドカー頂上対決」とでも言わんばかりのライバル扱いが続いていますから(それだけ専門メディアの質も大きく低下しているということですが)、これはトヨタにしてみれば苦虫を噛み潰すような思いだったに違いありません。トヨタが莫迦みたいな値下げで徹底抗戦に出る決意をしたのも、冒頭でご紹介したようなえげつない比較広告を展開したのも、心情を汲めば解らなくはありません。ホンダはトヨタの心情を読み切れなかったゆえ、徹底抗戦の火蓋を切らせてしまったのかも知れません。

(つづく)

インサイトは日本でもジリ貧か? (その2)

自販連の集計で6月のプリウスの販売台数は22,000台を超えました。トヨタは小まめに納期を発表しており、また受注台数も10,000台上乗せされる度に発表してきましたから、これらの商から毎月の供給可能台数が推定できます。発売直後、受注80,000台で納期5ヶ月と伝えられていましたから、16,000台/月、これに2代目の継続生産となるプリウスEXの2,000台/月を加えて18,000台/月と私は想定していましたが、これを4,000台以上も上回る結果になりました。

トヨタは期間従業員の追加募集やシフトの拡大といった増産体制を整えていますが、休日出勤の復活も7月からですし、部品供給もそう簡単に増やせるものではないでしょう。発売からわずか数週間で4,000台/月という規模での増産は常識的に考えて無理でしょう。これもやはり海外向けの生産枠を国内に振り替えた可能性があります。

例えば、ヨーロッパではこれまでやや苦戦していましたから、いきなり攻勢をかけず、しばらくは供給を抑え気味にして日本国内分に一部を回し、一段落してからヨーロッパでも本格的な拡販キャンペーンに打って出るなどというストーリーも考えられます。ま、あくまでも想像ですけど。

新型プリウスの総受注台数は6月下旬の発表で20万台を超え、7月1日以降の注文では来年3月上旬以降の納車とのことです。6月までに33,207台を販売していますから、それを除いた受注残は16万7000台程度になるでしょう。これを8ヶ月で割った国内供給能力はEXを除いて21,000台/月程度といったところになります。

7月から休日出勤を復活させるなど本格的な増産体制の効果はこれから現われてくるハズですが、納期から推定される国内供給能力は上述のように6月の状況と変わらないレベルで推移することになります。とすると、やはり現状では海外向けの生産枠の一部を一時的に国内へ振り替え、増産分で海外向けの生産枠を当初計画のレベルに戻そうとしているのだと考えたほうが自然かも知れません。

いずれにしても、自動車評論家の国沢氏が言う「売れていれば受注台数を発表し、厳しければ黙っている」という法則からして、プリウスは現在も受注を伸ばしており、絶好調ぶりに些かの陰りも見られない状況なのでしょう。供給能力が維持された状態で納期がさらに延びているということは、それだけ受注状況も鈍っていないということですから、5月と6月の供給台数がほぼ横ばいなのに納期は短くなっているインサイトとの差が一層際立ってきました。

4月にインサイトが月間販売台数(軽自動車を除く)で1位を記録したとき、大衆メディアはまるでインサイトが天下を取ったかのように大騒ぎしました。手前味噌で恐縮ですが、私は10,481台という数字が普通ではあり得ないことを指摘し、「1ヶ月天下」に終わるということを予言して的中させました。こうした冷静な判断ができない彼らはそれからあまり時を置かずにジリ貧の兆候を窺わせるようになるなど予想だにしなかったでしょう。5月に8,183台まで減らしたのを供給能力の問題だと気づかず、プリウスの影響だと勘違いしたメディアも少なくありませんでしたが。

フィットのフロアパネルをストレッチし、シビックハイブリッドと大差ない簡易的なシステムからさらにエアコンのコンプレッサーを旧来の機械式に戻すなどのコストダウンで兼用車よりスペシャルではない廉価版になってしまったインサイトですが、彼らの多くはその素性を見抜くことができていないようです。最廉価グレードでは装備に差があることも気付かないまま16万円という価格差だけに注目し、「ハイブリッド専用車」という謳い文句とプリウスそっくりなスタイリングに惑わされ、両者を同じようなクルマだと勘違いしてインサイトを過大評価してしまったのでしょう。

思えば、2代目インサイトに対する私の第一印象が非常に悪かったのも、あまりにも無節操にプリウスのイメージと重ねてきたあのスタイリングにあります。当blogで初めて扱ったときもその話題でしたね。もし私が2代目プリウスのデザイナーとか開発主査といった立場にいる人間だったなら、あのスタイリングに怒髪天を衝いていたでしょう。私がトヨタの幹部だったなら、あれを見て挑戦的と受け取ったかも知れません。

ホンダもシビックハイブリッドでの経験から兼用車では訴求力が乏しいということを学習し、専用車で行く必要があったとの旨を述べています。そこでハイブリッドカーであることを解りやすくアピールする専用車らしいスタイリングとはどんなものかとホンダも様々なカタチで検討を重ねたのは間違いないでしょう。もしかしたら、プリウスのイメージが強力であるゆえそれに重ねる方向をマーケットリサーチ会社などから示されたのかも知れません。が、最終的にどのようなやり方をするかは商品企画を統べる上層部の判断によるもので、社内デザイナーは業務命令としてそれに従うだけです。

プリウスらしさを印象づける特徴はリヤのサブウィンドウなどのようなディテールではありません。ノーズからAピラーを通り、ルーフを経てテールへ至る一連のラインです。こうしたワンモーションフォルムはミニバンやコンパクトカーでは既に存在していましたが、5ドアのファストバックは絶滅寸前だったこともあって前例が見当たらず、それが2代目プリウスのオリジナリティに繋がったと解すべきでしょう。

ですから、例えばAピラーの付け根をもう少し後方へ下げ、フロントウィンドウをもう少し立て気味にし、全般的なラインをプリウスの特徴的なワンモーションフォルムに近づかないように配慮すべきだったんですね。初代インサイトもそうでしたが、ノーズからルーフへかけての面構成をオーソドックスなカタチにとどめていただけでも「似ている」という評価はずっと少なくなっていたでしょう。

コロナSF
プリメーラUK
コロナSF(上)とプリメーラUK(下)
2代目プリウス以前にもこうしたファストバックの5ドア
というスタイルの日本車はいくつか存在していました。
最近でもギャラン・フォルティス・スポーツバックなどがありますね。
これらがプリウスに似ていないのは、ノーズからルーフへ至るラインと
その面構成に明らかな角度が設けられたオーソドックスなものだからです。
ボンネットの傾斜を強め、Aピラーの付け根を前方へせり出させ、
ルーフまで一連なりのラインを構成するワンモーションフォルムという
近年の流行を取り入れると、勢いプリウスに似てしまうでしょう。


本来なら異なる車格ゆえに棲み分けできていたであろう両者をライバルであると錯覚させたのは、あのスタイリングにも一因があったのではないかと思います。両者を一緒くたに扱うメディアに「両雄の対決」という図式を作られて必要以上の煽りを受けることになり、結果的にトヨタを本気にさせてしまったのも、あのよく似たスタイリングが全く無関係ではなかったかも知れません。

もっとも、インサイトのスタイリング次第でビジネス面の結果も現状と異なっていたかどうか定かではありません。インサイトのAピラーの付け根があと数センチ後ろに下がっていたなら現状は違っていたなどとするのは、レオパトラの鼻の高さで歴史が変わっていたとするハナシと同レベルの妄想に過ぎませんし。

(つづく)

インサイトは日本でもジリ貧か? (その1)

自販連は毎月1日(土日祝日などに当たる場合はその休み明け)に前月の概況を発表しますので、6月のプリウスの販売台数が22,000台以上に達したというニュースは先週の木曜日くらいには流れていたかと思います。確定台数は概況の3営業日後に出ますので、昨日(7月6日)発表となりました。それによりますと、プリウスは22,292台、インサイトは8,782台となっていました。

主要車種の登録台数推移09.01-06
主要車種の登録台数(2009年1月~6月)
ご覧のように6月はプリウスがブッチギリ状態です。
「一人勝ち」という言葉はこのためにあるといった感じですね。
一方のインサイトはヴィッツにも抜かれ、4位へ転落です。
なお、「主要車種」としていますが、最初にこのグラフを作ったとき
今年4月から半年前までの台数が確認しやすい上位車種をピックアップました。
調べ直すのが面倒なので、上図でも取り上げている車種はそのままです。
実際にはウィッシュ(6,022台で9位)やヴォクシー(5,765台で10位)など
キューブ(4,853台で15位)より売れている車種は6つあります。


インサイトがほぼ横ばいなのはやはり供給能力の問題でしょう。以前ご紹介したブルームバーグのレポートによればアメリカでは9万台/年の目標に対し、5万~6万台程度にとどまりそうだと見込まれていますから、本来であればアメリカ市場向けとなる生産枠が毎月2,900台くらい余っている計算になります。6月の国内供給能力が8,800台弱になっているのは、国内の当初割り当て5,000台とアメリカの目標割れ2,900台と増産分900台といったカタチで賄われているのかも知れません。

もっとも、ヨーロッパでの状況が私の知る範囲では伝わって来ませんので、この数字合わせが正しいという確証は一切ありません。ただ自信を持って言えるのは、4月に10,481台を捻り出せたのはやはり供給調整によるもので、「つくられた数字」だったということです。

そもそも、この業界ではノルマ達成のためにディーラーが「自社登録」を行うなど当たり前の行為になっており、意図的に数字を操作することに対する背徳感というものをあまり持ち合わせていません。供給調整なら自社登録ほどインチキな手段とも言えませんから、なおさらでしょう。あのときメディアは「いきなりインサイトがトップを取った」「プリウスを超えた」などと大騒ぎしていましたが、まんまと乗せられただけだったということですね。

ところで、自動車評論家の国沢光宏氏のblogにはこうあります。

 自動車メーカーは「売れていれば受注台数を発表し、厳しければ黙っている」という解りやすい反応をする。全く台数を話題にしなくなったインサイトの受注台数、4万2千台程度らしい。5月までに2万7658台納車済。6月が7千台前後登録されているとすれば、バックーオーダー7千台くらいか?

ホンダの折り込みチラシでは「インサイトなら夏休みに間に合います」。聞けば納期1ヶ月半といったあたりのようだ。意外にも納期の早さがインサイトのセールスポイントになっている感じ。ホンダにとっちゃ「貴重な時間を稼げる」ということを意味します。東京モーターショーくらいまでに強力な対抗策を打てたら延長戦に持ち込むことも可能。


この記事は5月下旬のものと見られますから、この段階で受注台数42,000台という情報が正しいとしたらインサイトの受注は確実に鈍化しています。というのも、3月9日までの時点で約18,000台を受注していましたから、それから3ヶ月弱で24,000台しか上乗せできていないことになります。3~5月の平均が8,000台/月くらいの受注ということになりますが、新型プリウスの発売で煽りを受けている可能性も大いに考えられます。

国内供給能力が8,800台/月に対して受注8,000台/月では納期の短縮はごく僅かにとどまるでしょうが、以前は2ヶ月程度と言われていた納期が1ヶ月半に短縮しているという情報が正しければ、現在の受注は8,000台/月のペースを維持できていないことを意味します。アメリカでは最初から振るわなかったインサイトですが、日本でもジリ貧が見えてきたような気がします。

国沢氏の言うように、インサイトの受注状況について詳しい情報が全く出てこなくなってしまいましたので、受注残を吐き出してしまうのがどの時点になるのかは何とも言えません。が、5月の8,183台、6月の8,782台といったペースを維持できなくなったら、そのときを迎えたと見るべきでしょう。

(つづく)

新型プリウスは弱点の克服に注力されたらしい (その3)

3代目プリウスで採用された電動ウォーターポンプはアイシン精機製で、トヨタとしても初採用ですが、日本車でも初めてになるようです。相応のコストアップになるウォーターポンプの電動化ですが、それだけに前回ご紹介した排気熱再循環システムと相まって、プリウスの弱点の一つである冬場の燃費悪化をかなり緩和するものと思われます。

プリウスの電動ウォーターポンプ
これまで、国産車では日産のキャラバンなどで
水冷インタークーラー用に電動ウォーターポンプが採用された
という実績はあるようですが、エンジン冷却水用としては
これが初めてだそうです。


私の経験では、2代目プリウスの場合エアコンを切っていると、かなり寒い日でもエンジン再始動の頻度は格段に減りました。エンジンの始動性を確保するための温度はそれほど高くないのかも知れません。が、いかんせん乗っている人間のほうが寒くて降参してしまいますので、冬場の燃費悪化はなかなか避けられないんですね。

これも以前お伝えしましたが、水温計がないプリウスはその変化を確認することができないため、私は故障診断用のコネクタから車載コンピュータの様々なデータを取り出せるモニタリングシステムを導入しました。私が選んだのはトラストのTOUCHというモデルです

trust_touch.jpg
TRUST GReddy Intelligent Infometer TOUCH

これで観察した範囲において通常の水温は80~90℃くらいになります(この種のデータは絶対値で出力されているとは限りませんので、もしかしたらこのシステムが推定している値になるのかも知れませんが、普通のクルマの適正水温もこれくらいですから、それなりにマトモな値ではあると思います)。冬場にフルオートエアコンを入れっぱなしにしておくと水温を上げるためにエンジンが再始動してしまうわけですが、その温度はこのモニター読みで63℃くらいになります。

これはエアコンの設定温度を低めに抑えても変わらないようで、私はこの63℃に近づくとエアコンをOFFにし、少し寒さを我慢して走行に必要な動力を得るためにエンジンが回っているときに限ってエアコンもONにするといったことを繰り返してみました。すると、燃費はかなり改善されたのですが、これを手動で延々繰り返すのは何より面倒ですし、普通にエアコンを入れっぱなしにしている状態より寒い思いもします。これで浮く幾ばくかのガソリン代を取るか、普通に快適な車内温度を取るかと問われれば、私はやはり後者を選びます。

2代目までのプリウスは機械式ウォーターポンプですからエンジンが停止すればポンプも止まり、走行中でもエンジンが止まっていれば冷却水の循環も止まります。が、エンジンが動いている間はその回転数に比例して冷却水も循環します。本来なら冷やす必要のない温度であっても、ポンプを任意に制御できないゆえ無駄に熱を捨ててしまうことになるわけですね。もちろん、オーバークールも燃費悪化に繋がります。

3代目ではこれを電動化し、稼働状態を任意にコントロールできるようになりました。エンジンが動いている間であっても適正水温の範囲内で冷却水の循環を弱めるなり止めるなりすれば、多少エンジンの停止時間が長めになっても従来より水温の低下を遅らせることができるでしょう。当然、頻繁なエンジンの再始動を抑えられることになるハズです。それに加えてポンプの動きを弱めたり止めたりすれば、それを動かすモーターによる電力消費も抑えられることになりますから、よりエネルギー効率を高めることにもなります。

これはBMWでのテストデータになりますが、ウォーターポンプを電動化すると機械式に比べてその駆動にかかるエネルギーが90%も抑えられ、燃費も2~3%程度向上するといいます。ただし、ラジエータファンの電動化に比べると費用対効果が低いとも評価されています。もっとも、これはハイブリッドカーでの評価ではありませんから、プリウスにそのまま当てはまるものでもないでしょう。特に冬場の水温低下の問題は関係ないでしょうし。

しかしながら、コストがかさむという点においてはただでさえハイブリッドシステムでかなりの追加コストがかかっているわけですから、この電動化はよりシビアな要求になるでしょう。先代までのプリウスにも電動ウォーターポンプの採用は検討されていたと思いますが、3代目で日本初となったのはそうしたコストとの兼ね合いも小さくなかったのではないかと想像されます。

インサイトはコストダウンのためにシビックハイブリッドでも採用されていたエアコンのコンプレッサーの電動化さえも諦め、兼用車よりスペシャルではない何とも微妙なハイブリッド専用車となってしまいました。一方のプリウスは細部にまでより一層の効率アップを徹底したわけで、よく比較される両者も中身を見比べれば方向性が全く違うということが解ります。それで最廉価グレードの価格差がたったの16万円なのですから、ハイブリッドカーとしての完成度とそこへ至るまでの努力を冷静に評価すれば、これは全く勝負にならないでしょう。(あくまでも個人的な感想です。)

余談になりますが、両者の最廉価グレードを比較するとプリウスLのほうがインサイトGタイプより格段に装備が良く、16万円の価格差を逆転してむしろプリウスLのほうがお買い得という意見もよく聞かれます。例えば、プリウスLはアルミホイールですが、インサイトGタイプはスチールホイール+樹脂ホイールキャップですし、プリウスLは運転席・助手席サイドエアバッグ+前後席カーテンシールドエアバッグまでも標準装備としていますが、インサイトGタイプは運転席・助手席のフロントエアバッグのみです。また、プリウスLは対応するドアが運転席のみになりますが、スマートキーも標準装備になります。

いずれもインサイトはオプションで同等以上にできますが、エアバッグが8.4万円、スマートキーは(運転席だけでなく助手席とテールゲートも対応になりますが)6.3万円です。Gタイプではメーカーオプションのアルミホイールを装着できないようで価格は追い切れませんでしたが、エアバッグとスマートキーを装着したら16万円からの残りは1.3万円しかありませんから、ディーラーで純正のアルミホイールも装着するとなれば確実に差額をオーバーします。こうしてみますと、インサイトはやはりプリウスより割高になっていますね。(それ以前に内装の質感などからして明らかに車格が違いますけど。)

ハナシを戻しましょうか。2代目から6年を経てフルモデルチェンジを受けた3代目プリウスですが、担当エンジニアたちは伊達に6年を過ごしてきたわけではなさそうです。チーフエンジニアの大塚氏によれば、ハイブリッドシステムも9割は刷新されたとのことです。元々、トヨタはネガ潰しが上手なメーカーですが、プリウスにもそれが遺憾なく発揮され、これまで弱点とされてきた高速燃費と冬場の燃費悪化もかなり改善されたようです。

ネットを眺めていますと「内外装と排気量以外は大して変わらないビッグマイナーチェンジだ」みたいなことを得々と述べている人も見かけますが、それはカタログ値で10%くらいしか改善されなかった燃費データだけを見て達観した気になっているだけでしょう。

10-15モードもJC08モードもエアコンOFFの状態で測定されるものですから、排気熱再循環システムや電動ウォーターポンプ(後者は通常走行時のフリクション低減にも効果がありますが)によって改善された冬場の燃費は反映されませんし、10-15モードは70km/h以下、JC08モードでも80km/h以下となりますから、高速燃費の向上もあまり大きく影響しません。

要するに、3代目になって克服されてきたこれまでの弱点はカタログ値を見ただけでは殆ど解らないということになります。もっとも、従来の弱点はカタログ値を見たりディーラーの試乗車で少し走ったくらいではあまり実感できるものでもなく、専門誌の長期テストによるレポートや私たちオーナーのクチコミなどで広く知られるようになったのだと思いますけど。

プリウスはこの3代目から専用プラットフォームではなくなり、既存車種との共用を図りました。それは海外での生産も視野に入れたものであることをトヨタも認めています。高速燃費の向上でヨーロッパでも売りやすくなったであろう3代目プリウスは、高い付加価値を望む先進国のマーケットを中心に、グローバル展開がさらに強化されるでしょう。これまでもハイブリッド専用車として孤高の存在だったプリウスですが、その地位は全く揺らいでいないようです。当面の課題は大幅なプライスダウンで低下した利益率を如何にして向上させるかでしょう。

(おしまい)

新型プリウスは弱点の克服に注力されたらしい (その2)

以前から何度も述べてきましたように、現代のクルマは例外なくエンジンの廃熱である冷却水の熱を利用した温水暖房を採用しています。ですから、寒い冬場に頻繁なエンジン停止で冷却水の温度が下がってしまうと暖房に適さなくなってしまうんですね。もちろん、エンジンそのものも低温状態では再始動しにくくなりますから、ある程度の温度を維持する必要があります。

こうしたことはハイブリッドカーだけでなく、アイドリングストップが電子的に制御されているクルマには多かれ少なかれ共通するでしょう。水温が下がればエンジンを再始動させて(あるいは低温時にはエンジンが停止しないようにして)水温をあるレベルに維持しようとするハズです。マツダのi-stopも燃費が10%程度向上するといいますが、冬場に水温が低下しやすいようならアイドリングストップの頻度も減り、燃費向上の効果も目減りしてしまうでしょう。

そこで注目されるのは3代目プリウスにも装備された「排気熱再循環システム」です。これはエスティマハイブリッドにもレクサスRX450hにも採用されていたものですが、排気管の一部にエンジンの冷却水と熱交換させる部分を設け、排気熱もそのまま捨ててしまうのではなく、これを利用して冬場の水温低下を防ごうというものです。

排気熱再循環システム
排気熱再循環システムの概念図
この図はエスティマハイブリッドのものですが、仕組みは3台目プリウスも同じです。
空冷エンジン時代のポルシェ911も暖房には排気熱を利用していましたが、
アレは車内に送り込まれる空気そのものを排気ガスで暖めていました。
万一、配管が腐食して穴が空いたり、振動で亀裂が入るなどすると
車内に排気ガスが侵入してしまうという非常に危険な構造でした。
このシステムでは排気管と触れるのが冷却水なのでそうした懸念もなく、
始動からの水温上昇が早くなり、暖房も早く効くようになるといいます。


また、新型プリウスでは補器類の電動化が一層進められたといいます。それが何処までなのか私も詳しく把握していませんが、エンジンの出力をそのまま利用するより様々な条件下に対応する最適化がしやすく、効率の改善にはそれなりに有効でしょう。

もちろん、これまでクランクシャフトなどからベルト駆動などで動力を得ていたものに一々専用モーターを与え、それを制御するプログラムを組むことになりますから、コストアップは必至です。2代目までのプリウスは専用のプラットフォームが奢られていましたが、3代目はオーリスやブレイドと共用化しているため、こうしたコストアップは当初の目論見では相殺できていたのだと思います。

ただ、インサイトの影響と思われる大幅なプライスダウンも敢行されていますから、最終的なコスト管理はかなりシビアな状態になっているのではないかと想像されます。ま、ユーザーサイドはお買い得になったと素直に喜んでいれば良いのですけど。

3代目プリウスのチーフエンジニアを務められた大塚明彦氏は約10%改善された燃費について「ウォーターポンプの電動化が大きく寄与した」と述べています。ウォーターポンプというのは要するにエンジンの冷却水を循環させる装置ですが、通常は吸排気バルブを駆動するタイミングベルトなり、ラジエータのファンを駆動するファンベルトなり、エンジンの動力を直接利用する機械式が用いられます。

プリウスも2代目までは機械式ウォーターポンプで、これは単純にエンジンの回転数に比例して回りますから、大塚氏の言葉を借りれば「エンジンの低回転域で必要な冷却水の流量が稼げて、高回転域でポンプが壊れなければよかった」という非常にプリミティブな仕様になっていたんですね。しかし、これを電動化してやれば低回転域でも高回転域でも適切な流量を確保すれば良く、従来のように低回転域以外でエンジンの出力が必要以上に奪われるなど、余計なエネルギーを失わなくて済む最適化が可能になるわけです。

もちろん、その最適化には制御プログラムを組む必要がありますから、そのためにエンジンの発熱量とそれに対応した冷却水の流量とを走行速度や外気温など様々な条件と付き合わせて検討し、実験し、評価し、改良を重ねていかなければなりません。傍からイメージするよりずっと手間暇も開発費もかかるでしょう。ウォーターポンプの電動化はトヨタとしてもこの3代目プリウスが初めてになるそうです。

ここまで至るともはや重箱の隅をほじくり返して少しでも効率を上げられる余地がある部分には徹底的に手を施していくといった感じでしょうか。それだけ2代目へフルモデルチェンジした際にも沢山の改良が施されていたということなのかも知れません。

(つづく)

新型プリウスは弱点の克服に注力されたらしい (その1)

従来のプリウスには弱点が二つありまして、一つは高速道路での燃費が悪化してしまうという点と、もう一つは冬場の燃費が悪化してしまうという点になります。3代目プリウスは10-15モードやJC08モードなどの走行パターンによる燃費は10%くらいしか向上していません。が、従来の二大弱点を克服するような仕様変更がなされているようで、カタログ値には表れにくい全般的な実燃費は従来よりさらに良くなっているかも知れません。

一般のクルマはストップ&ゴーがない高速道路のほうが燃費が良くなるものですが、最も燃費が良いのは空気抵抗がそれほど大きくならない60km/hくらいの定速走行だと言われています。空気抵抗は速度の2乗に比例して増加していきますから、100km/hは60km/hの約1.67倍、空気抵抗はその2乗となります。つまり、約2.78倍にまで跳ね上がってしまうわけですね。

ご存じのように、プリウスは減速時のエネルギーを発電によって回収し、加速時にそれを再利用する回生ブレーキが効果を発揮します。ストップ&ゴーを繰り返す一般道でもエネルギーの損失が比較的少なく、法定速度を遵守した場合の空気抵抗が高速道路の1/3くらいにしかならない分だけ燃費も向上するということになるのでしょう。

また、プリウスはインサイトなどと異なり、エンジンを切ったままモーターも使わず、しばらく惰性で走るといったテクニックが使えます。これを多用すれば、さらに燃費を伸ばしやすくなるんですね。ただし、このテクニックはエネルギーモニタを見ながら微妙なアクセルワークを駆使しなければならないため、その労力が求められますし、また道路状況によっては後続車のペースを乱し、最悪は渋滞の引き金になってしまう懸念もあります。そうした点もわきまえなければならないゆえ、誰にでもお勧めできる走法ではないかも知れません。

それはともかく、プリウスの高速燃費が一般道より悪化してしまうのは、上述のように一般道よりハイスピードであるゆえ空気抵抗による損失が顕著になり、またエンジンも回りっ放しになってハイブリッドのメリットが生かせないなどの理由によると考えるべきでしょう。

余談になりますが、Q&Aサイトなどではプリウスの高速燃費が低下する理由について「ハイブリッドシステムで重くなっているから」みたいな頓珍漢な答えがベストアンサーに選ばれていたりします。私は思わず失笑してしまいましたが、当blogで何度も述べていますように、プリウスは低速から強力なトルクを発揮する電気モーターを活用していますから、エンジンの次に重い部品であるトランスミッションがありません。後退する際もモーターを逆回転させることで対応していますから、リバースギヤを備える必要もないんですね。そのため、トータルではさほど重くなっていません。

そもそも重量が大きくなることでより大きなエネルギーを必要とするのは加速させるときや登坂するときなどで、水平な道路を等速で走行する際に重量はあまり関係ありません。関東近県でいえば中央道とか上信越道みたいに山深いところを貫くアップダウンの激しい高速道路ならともかく、平坦なところで一定の速度を保つ分には重量が大きなネックになることは殆どないといえるでしょう。

確かに、重量が増えるほど路面との摩擦抵抗も増える傾向になりますが、高速走行時に最も大きな抗力となるのは空気抵抗ですから、重さというのは高速巡航時の燃費にそれほど大きく影響しないものなんですね。あのような頓珍漢な答えが正しいと見なされ、都市伝説を育んでしまうところがQ&Aサイトや多数決至上主義の恐ろしいところです。

以前から述べていますが、私の場合2代目プリウスで大人しく走れば高速道路でも22~24km/Lくらいはいけます。普通のクルマと比べるとかなり良好な燃費だといえるでしょう。一般道よりは悪化するものの、普通のガソリンエンジンだけのクルマより優れた燃費を実現できているのは、空力特性の良さもあるでしょうけど、ミラーサイクルという熱効率に優れたエンジンを採用したのが効いているのではないかというハナシは以前詳しく述べた通りです。(関係ありませんが、あのエントリはこの辺を書いているときドツボにはまって独立させることにした次第です。)

しかし、高速道路の速度制限が日本(100km/h)やアメリカ(65mi/h=約105km/L)より緩いヨーロッパでは巡航速度が格段に高く、プリウスはやや苦戦してきました。ご存じのようにドイツとその近隣国に跨る有名なアウトバーンは速度無制限の区間があります。年々減ってはいますが、それでも全体の60%くらいでしょうか。

他のヨーロッパ諸国も高速道路の制限速度は120~130kmくらいが一般的で、全般に日米より巡航速度か高くなる傾向が見られます。ヨーロッパ車は昔からコンパクトカーでも高速走行時の安定性が高いクルマが多かった印象がありますが、それはこうした事情も無関係ではないでしょう。また、日本のコンパクトカーもヨーロッパへの本格的な進出が始まった頃から格段にその性能が向上してきた印象ですが、その事情も同様ではないかと思われます。

私は試したことがないのですけど、一説によれば140km/hでの巡航で2代目プリウスは12km/Lくらいまで落ち込んでしまうといいます。100km/hに対して140km/hというと1.4倍ですから、その2乗となる空気抵抗はほぼ2倍になりますので、そんなところかも知れません。この2代目プリウスの燃費に対し、メルセデスやBMWなどのディーゼル車は10~15%くらい上回るとのことです。日米よりさらに高いスピードで巡航する際の燃費の良さがヨーロッパでディーゼル車人気を押し上げている理由の一つになっているのでしょう。

3代目プリウスの排気量は2代目までの1.5Lから1.8Lに拡大されたのはご存じの通りですが、これはヨーロッパでの根強いディーゼル車人気に対抗するためだという見方が一般的です。中低速のトルクをより強化することで高速巡航時にもエンジン回転数をあまり上げず、燃費を稼ぐという考え方ですね。

ZVW30-01.jpg
2代目プリウスの1NZ-FXE型エンジンの最大トルクは
115N・m(11.7kgf・m)/4,200rpmでしたが、
3代目プリウスの2ZR-FXE型エンジンでは
142N・m(14.5kgf・m)/4,000rpmとなりました。
従来よりも200rpm低い回転数で
25%近くも増強されたというわけですね。


実際、Responceの記事では「80km/h近辺の燃費は30km/リットル前後と良好だった」とあります。他でも3代目プリウスの高速燃費はおしなべて28~30km/hくらいになっているようです。上述のように、私の場合2代目で大人しく走って22~24km/Lくらいで、高速道路ではどう頑張っても水平路の無風状態で28~30km/hなど不可能です。下り坂が続いているとか、猛烈な追い風が吹いているとか、特殊な条件でなければどんな達人でも3代目プリウスのような高速燃費はまず得られないでしょう。

こうした高速燃費の向上はヨーロッパでの訴求力を高めるということが主眼となっているのだと思いますが、それより巡航速度の低い日本やアメリカでも一般道に比べて劣る燃費が大幅に改善されたといえるようです。そういう意味でもグローバルマーケットを見据えた意義のある仕様変更だったのだと思います。

(つづく)

プラットフォームを開発できなければ自動車メーカーとはいえない (その2)

日本経済新聞の社説は愚かにも「電気自動車は電池さえ調達できれば比較的簡単につくれる。自動車市場の参入障壁は低くなり、新たなライバルの登場は必至。」と述べています。このような発想に至ったのは、最近あまり耳慣れないブランドの電気自動車が盛んに報道されるようになったからでしょう。

しかし、そうした新興ブランドが話題になるのは、要するに電気自動車がまだまだニッチなマーケットしか形成していないからです。まだマトモな商品になっていない電気自動車が無用に大きな期待をかけられ、メディアが空騒ぎし、とりあえず何でも良いからと情報を求め、普通なら見過ごされるような新興ブランドもクローズアップされるようになっただけだと見るべきです。

これがガソリンエンジンなら新参者も大した話題にはなりません。光岡自動車がゼロワンを発表したときは少し話題になりましたが、トミーカイラZZやヴィーマック鈴商のスパッセなど日本人が立ち上げた新興ブランドでさえ、一般メディアからは殆ど相手にされませんでした。

アメリカのテスラ・モーターズような新興ブランドも本来ならこうして無視されるレベルのクルマでしかなく、「世界に目を転じても、米国や中国の新興企業が次々に電気自動車市場に名乗りを上げている。」などと社説で触れられることもなかったでしょう(日経の社説にはテスラの名こそ出てきませんが、アメリカの新興企業といったらここをイメージしているのは間違いないでしょう)。

そのテスラ・モーターズが市販を始めたテスラ・ロードスターは日本のメディアでもしばしば話題になります。が、これは大手メーカーの量産車と根本的に作り方が違います。上掲のトミーカイラZZやヴィーマックなどに近い成り立ちで、これを大手メーカーの量産車と比較するのは全くナンセンスです。

このスポーツカーはバックヤードビルダーから小規模なスポーツカーメーカーとなったイギリスのロータスにシャシーの開発を委ね、ロータス・エリーゼなどと一部の部品を共用しながら成り立っているクルマです。もちろん、数百台/月というレベルで生産されているエリーゼ同様、テスラ・ロードスターも大手メーカーが普通に作っている量産車とは台数が桁違いですから、品質も生産技術も全く次元が異なるものになります。要するに、あのような作り方では大衆車のような大規模マーケットを相手にすることなどできません。

中国のBYDオートはテスラよりも自動車メーカーとしてずっと本格的な実力を持っています。それは初めからガソリンエンジンの乗用車を作っている自動車メーカーだからです。リチウムイオン電池のメーカーであるBYDが倒産した西安秦川汽車という中国では中堅だった自動車メーカーを買収した格好なんですね。もちろん、彼らは中国のローカル自動車メーカーですから、途上国のチープなマーケットならともかく、先進国ではまだまだ品質的に勝負にならないでしょう。

経営が苦しい自動車メーカーは山ほどありますから、資金力があればそうした自動車メーカーを買収して新たなブランドを立ち上げるのは決して難しいことではないでしょう。BYDの場合もそうしたカタチで新たなブランドが立ち上げられたわけですが、主力はあくまでも普通のガソリンエンジン車です。それをベースに電池屋の技術も加わって電気自動車やハイブリッド車が製作されたに過ぎません。

byd_f3dm.jpg
BYD F3DM
これは大衆車のF3をベースとしたハイブリッド車です。
カローラに似ている気もしますが、以前よりはずっとマシです。
当初、BYDのエンブレムはBMWのそれにそっくりでクレームが付き
BMWの7シリーズに酷似したF6メルセデスのSLに酷似したF8など
彼らも以前は中国メーカーにありがちなパクリを炸裂させていました。
ただ、電気自動車やハイブリッドシステムの実力は
それなりに評価されているようです。
今年5月にはフォルクスワーゲンと電気自動車やハイブリッド車で
技術提携する旨が発表されました。


経営の行き詰まった自動車メーカーが売りに出され、新たなブランドが立ち上げられたり、過去のブランドが復興されたり、新参者が自動車メーカーの経営を企画するなど海外ではそれほど珍しいハナシではありません。資本さえあれば門外漢が自動車メーカーをプロデュースするなど、パワートレーンが内燃機関だろうと電気モーターだろうと全く関係ありません。

例えば、BMWから僅か10ポンドでローバーを買い取ったイギリスのフェニックス・コンソーシアムは、MGの商標権を手元に残してローバー本体は中国へ売り払い、ダイムラーからスマートを買い受けてスマート・ロードスターをベースにMGブランドのスポーツカーを仕立てようと画策していた時期もありました。

しかし、大衆車のような薄利で巨大な規模のマーケットを相手にするとなれば、こうした手法はなかなか通用しないでしょう。巨大市場を形成する大衆車となれば、それを売るためのディーラー網の整備も欠かせません。よしんば、日経の論説委員が言うように電気自動車なら「比較的簡単につくれる」としても、それを売るルートがなければ全くハナシにならないというわけです。

電気自動車が台頭する時代が訪れるとして、それを支える技術がリチウムイオン電池の次世代を担う新型バッテリーなのか、燃料電池になるのか、はたまたキャパシタなどの物理バッテリーになるのか、現段階では確証を伴う予測など誰にもできないでしょう。が、もし電気自動車の時代が到来するとき、それを担うエネルギー貯蔵システムが公平に行き渡るとしたら、ベンチャー企業の出る幕などないでしょう。

もし、新興勢力が台頭して来るとしても、それは金融市場から資本を調達して潰れかかった自動車メーカーを買い取り、新たなブランドを立ち上げるような、上述のBYDに似たパターンがせいぜいでしょう。日経の論説委員が考えているように「電池さえ調達できれば比較的簡単につくれる」わけではなく、基礎となる技術力と販売網を持った生粋のクルマ屋の存在なくして大衆車などのマスマーケットへ新規参入するなどまず不可能だと思います。

もちろん、こうした端境期には勢力地図が大きく塗り替えられる可能性も充分に考えられます。が、現在でもGMやクライスラーの倒産でアメリカの自動車産業は後退し、逆に中国やインド、タイなどはどんどん力を増しています。パワートレーンが内燃機関か電気モーターかに関わらず、既に自動車産業の勢力地図は刻々と塗り替えられています。この業界はいまこの瞬間にも立ち止まってなどいないということです。

電気自動車が本格的な実用車としての能力を備えるのは何十年先になるか何百年先になるか、それともそんな時代が本当に来るのか、まだ誰も確証を得ていません。もし、そうした時代が来るとしても、そのときまで日本の自動車産業が「世界最強」でいられる保証もありません。そういう視点から見ても日経の社説はピントが外れまくっていたとしか評しようがないでしょう。

プラットフォームを開発できなければ自動車メーカーとはいえない (その1)

最近、電気自動車に過度の期待を寄せている人たちの中には「クルマが電気で走るようになれば主要パーツを買い集めて簡単に作れるようになるから、誰でも自動車メーカーを立ち上げられるようになる」などという思い違いをしている人が少なくないようです。今週月曜日の日本経済新聞の社説もまさにそういう短絡思考に陥っていました。

電気自動車がもたらすチャンスと挑戦

 地球温暖化対策の切り札として、電気自動車が注目されている。三菱自動車が軽自動車をベースに開発した電気自動車「アイミーブ」を来月発売するほか、日産自動車も来年、商品化に踏み切り、2012年には米国でも量産を始める計画だ。

 世界に目を転じても、米国や中国の新興企業が次々に電気自動車市場に名乗りを上げている。

(中略)

 電気自動車の台頭は、自動車産業の競争の構図を一変するかもしれない。エンジンの生産には巨額の投資を要する鋳鍛造設備と熟練技術が必要だが、電気自動車は電池さえ調達できれば比較的簡単につくれる。

 自動車市場の参入障壁は低くなり、新たなライバルの登場は必至。「世界最強」とされた日本の自動車産業にとっても、大きな挑戦である。

(C)日本経済新聞 2009年6月29日


仮にCO2温暖化説が正しかったとしても、電気自動車が地球温暖化対策の切り札になるとは到底思えませんが、とりあえずここは今回の本題と関係ありませんのでスルーします。

日経の論説委員は「エンジンの生産には巨額の投資を要する鋳鍛造設備と熟練技術が必要だが、電気自動車は電池さえ調達できれば比較的簡単につくれる」などという甚だしい考え違いをしていますが、彼は自動車を構成する部品群で最も開発コストがかかり、最も製造コストがかかるのはパワートレーンなどではなく、プラットフォームだということを知らないようです。

ゴルフ場のカートに毛が生えたようなチープカーならいざ知らず、普通の人が普通に使う実用車はパワートレーンが調達できれば「比較的簡単につくれる」などという甘いものではありません。自動車産業の奥の深さ、裾野の広さをこの論説委員は何も知らず、クルマをショップブランドパソコンなどと同列に考えているようです。パワートレーンをCPUやマザーボードなどに見立て、プラットフォームはそれらを収める筐体くらいにしか思っていないからこそ、このような莫迦げた社説が書けるのでしょう。

近年、自動車業界でも合併や提携など再編の動きが続いてきました。その中で常にキーワードとなってきたのが「プラットフォームの共用」です。それは、この部品群が最もコストがかかるゆえ、同一のものあるいはそれにアレンジを加えたものを広く使い回すことで、かなりのコストを抑えられるからです。このプラットフォームを開発し、生産できる(もしくは自分で直接生産しないまでも委託先の生産を管理できる)ノウハウがなければ、既存の自動車メーカーのライバルにはなり得ません。

フロアパネルひとつとっても国際市場での競争力を持った性能を得るには大変なノウハウの蓄積が必要です。普通の乗用車はこれを鋼板のプレス加工とロボットによるスポット溶接で製作しますが、プレスに用いられる金型だけでも大変な技術力と資本が投入されています。同様に溶接ロボットなどの設備も大変な巨費が求められます。これがエンジンの開発や製造に比べて簡単なものだと思っている時点で自動車産業について語る資格などありません。

全般を見渡しても然りで、自動車が市場に投入されるまでには実走によって様々な走行パターンが試され、走行性能以外にも様々な環境や使用条件を想定したテストが重ねられ、評価され、改良を受けます。それが何度も繰り返されて最終仕様が決定されるわけですが、そこへ至るまでには莫大なコストとマンパワーを要するんですね。

例えば、クラッシュテストなども実際にクルマを潰し、様々なデータを取るわけですから、相応のコストがかかります。人体ダミー(本体だけで500万円くらい、センサが増えれば増えるほど価格もアップしますが、通常は数千万円程度でしょうか)のどの部位にどれだけの衝撃加速度が許されるなど様々な基準が設けられているわけですが、それも国によって微妙に異なります。グローバルに展開する大手メーカーなら仕向地の衝突安全基準をクリアしていなければならないのは言うまでもありません。

壊れ方もキチンとコントロールされ、潰れて衝突時のエネルギーを吸収/分散するゾーン、潰れずに乗員を守る空間を確保するゾーン、それぞれを正しく機能させる設計も求められます。エアバッグ関連の部品を買ってきてポンと付ければ一丁上がりなどというレベルでないことはクルマに関してあまり詳しくない人だって容易に想像できるでしょう。

近年の大手メーカーでは、あるレベルまでコンピュータシミュレーションで様々なテストを行い、試作車で行うテストを以前より減らしているかも知れません。しかし、そうしたバーチャルなテストが意味を持つレベルまで精度を高めるには、高度なプログラムの開発能力と、それまで蓄積してきた実験データなど様々なノウハウを注ぎ込み、高価なスーパーコンピュータの上でそれを走らせなければなりません。それこそ新参者がおいそれと踏み込める領域ではないでしょう。

パワートレーンさえ調達できればクルマを作るのは比較的簡単?

寝言は寝てから言ってもらいたいものです。

(つづく)

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まとめ

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