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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

皇帝復活

今年のツール・ド・フランスでは史上最多勝のランス・アームストロング選手(37歳)が引退から復帰して見事にポディウムに立つ活躍を見せましたが、F1でも史上最多勝のミハエル・シューマッハ選手(40歳)の復帰が正式に決定したそうです。

先のハンガリーGPの予選でブラウンGPのルーベンス・バリチェロ選手のマシンから脱落した約800gのサスペンションスプリングがフェラーリのフィリペ・マッサ選手のヘルメットに275km/hで直撃し、その衝撃で脳震とうを起こしたマッサ選手はそのままタイヤバリアに激突しました。

事故直後のマッサ選手
事故直後のマッサ選手
左目の上のあたりを負傷しており、
ヘルメットもその付近が破損しています。


一時は意識不明に陥ったというマッサ選手の代役を巡っては色々噂されていました。ひとつはシューマッハ選手の復帰、ひとつは以前から何度となくフェラーリへの移籍が噂されてきたフェルナンド・アロンソ選手がルノーとの契約を精算してフェラーリ入りするのではないかとするもの、ひとつはフェラーリのテストドライバーであるルカ・バドエル選手が昇格するなどです。

余談になりますが、アロンソ選手は以前からフェラーリにラブコールを送っていたようで、昨年くらいから何度も「既にフェラーリと契約を結んでいる」といった報道がありました。が、今年のドイツGP後のインタビューでは本人がそれを否定しています。

さらに余談は続きますが、今年のツール・ド・フランスの覇者であるアルベルト・コンタドール選手とアロンソ選手は同じスペイン人で年齢も近く仲が良いということと、アロンソ選手がマクラーレン入りしたときにマクラーレンのスポンサーとなったスペインのサンタンデール銀行とを結びつけた噂がメジャースポーツ紙などでも書き立てられてきました。

曰く、来年からアロンソ選手がフェラーリ入りし、それにサンタンデール銀行も付随し、ついでにサイクルロードレースではコンタドール選手をエースとした新チームをアロンソ選手が関わりながら立ち上げ、そのスポンサーもサンタンデール銀行になるといった流れです。ま、サンタンデール銀行はアロンソ選手がルノーへ戻った後もマクラーレンのスポンサーとして残っていますから、彼との結びつきがそれほど強固であるようにも見えません。そういう意味でも全般的にかなり強引な印象が否めないストーリーではあります。

ハナシを戻しましょうか。現実問題としてシーズン半ばでいきなりルノーがナンバーワンを手放すというのも考えにくいことですし、そもそもアロンソ選手はルノーに義理もあるでしょう。ここでフェラーリのシートが空いたからといってシッポを振ってそれに飛びつくのもえげつないハナシです。ルノーと契約を解除するとなれば高額の補償金が求められることにもなるでしょうし、さすがにアロンソ選手の電撃移籍はないだろうと思っていました。

が、シューマッハ選手の復帰についても私には俄に信じがたい噂話に聞こえていました。常識的に考えてテストドライバーの昇格というのが妥当な線だろうと思っていただけに、シューマッハ選手の復帰決定はかなり意外でした。ま、今期不振のフェラーリだけにメディアの注目を浴びるなど商業的な思惑みたいな匂いもしますが。

F1の過去を振り返れば、ルイジ・ファジオーリという選手が53歳で優勝しています。が、それは1951年のことですから、現在とはマシンの性能が全然違います。特に現在は空力的に強力なダウンフォースを発生させ、高性能なタイヤでグリップしますから、コーナリングスピードはまるで比べものになりません。その遠心力でドライバーは強烈なGにさらされます。近年のF1ドライバーは例外なく筋肉を強化し、首回りを異常に発達させているのはそのせいです。ドライバーに求められる肉体的な能力は58年前と現在とでは比較にならないでしょう。

ホンダの第2期活動の初期、ケケ・ロズベルグ選手とともにウィリアムズFW09のステアリングを握っていたことから私はジャック・ラフィット選手のファンになりました。私がオンタイムで見てきた中では恐らく彼が最も高齢ドライバーで、43歳までF1で走っていました。ラフィット選手の場合はF1デビュー自体が非常に遅く、31歳という現在では考えられないような年齢だったんですね。(1952年にはアルスール・レガーという選手が53歳234日でF1デビューしてますが。)

ラフィット選手にとって最後のレースは1986年のイギリスGP(7月13日)で、決勝スタート直後の第1コーナーで多重クラッシュに巻き込まれ、両足を複雑骨折してそのまま引退となりました。この年は全16戦で件のイギリスGPは9戦目、しかもこのときラフィット選手が所属していたのはリジェという下位チームでした。が、それでも前半で14ポイントを獲得していたため、この年のドライバーズチャンピオンシップで8位になっています。

この年は14チームから延べ32名のドライバーが参戦していましたから、シーズン中間までの獲得ポイントで年間ランキング8位というのは凄いことです。仮にあの事故がなく、後半戦も同じペースでポイントを稼ぎ、単純計算で14ポイントの2倍の28ポイントになっていたとしたら、フェラーリのステファン・ヨハンソン選手を上回る5位になっていたでしょう。その上の4人はマクラーレンのプロスト選手、ウィリアムズのマンセル選手とピケ選手、ロータスのセナ選手という凄い顔ぶれです。なので、あれだけの重傷に至らなかったら、まだしばらくは現役を続けていたに違いないでしょう。

シューマッハ選手は引退後もフェラーリのアドバイザーというポストでチームに関わり続けてきました。このシーズンオフにもタイヤテストに参加し、昨年のマシンF2008をドライブしていますので、レース本番に耐える身体に仕上げてくればそれなりの走りはできるのではないかと思います。復帰初戦は来月23日のヨーロッパGPだそうで、それに向けてチームとともにトレーニングプログラムを遂行していくそうです。

気がかりなのはマッサ選手の容体で、意識はシッカリしているといいますが、件の事故で左目の上の骨を損傷し、左目の視力を失うかも知れず、選手生命の危機とする報道があるかと思えば、視力障害の懸念はなく、骨折もなく、10日ほどで退院できるとするものまでかなり情報が錯綜している感じです。

10日ほどで退院できるような軽傷なら1ヶ月近いトレーニング期間を経てシューマッハ選手を復帰させるというのも釈然としないハナシになってきます。この辺の情報はもう少し精査して伝えてもらいたいものですね。
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