酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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サイクルモード'09 (その6)

サブフレームがフロート構造になっているため、左右だけでなく前後にも落ちにくく、ダンシングができる3本ローラーということで話題をさらったインサイド・ライドの「E-motion」ですが、このパテントをエリートが買ったらしいという噂は少し前に聞いていました。

elite_e-motion.jpg
Elite E-motion

エリートのブースにそれが展示されていると俄然興味をそそられます。が、名称もまんま「E-motion」と変わっていません。要するに、権利関係をそのまま買い取ったということなのでしょう。ここに展示されていたのは、現物が間に合わなかったのか配色が変っただけで構造そのものもオリジナルのままですが、商品説明のパネルにはエリートお得意の「パラボリックローラー」と称する両端が糸巻き状に高くなっているローラーが採用され、フレームの意匠も配色も全く異なったものでした。

e-motion_商品説明
E-motion 商品説明パネル
パネルだけのカットを撮り忘れていたので上の写真から切り出しました。
見にくいかも知れませんが、エリート独自のパラボリックローラーが採用され、
フレームの形状も配色も展示品とは全く異なっています。


ここから推測しますと、エリートがこれから発売するE-motionはインサイド・ライドからの単純なOEMではなく、エリート自身が全面的なプロデュースを行うということなのでしょう。とはいえ、発売時期も価格も未定ということで、完全に肩すかしを食った感じです。

インサイド・ライドのブランドで国内に入ってきたときは定価15万円ほど(税込)とかなり高価で、私の物欲は強制終了となりました。が、エリートブランドならば世界的なシェアが大きいでしょうし、国内はカワシマサイクル・サプライの扱いになるでしょうから、それなりに広い販路が見込まれます。以前に比べればより大きなスケールメリットが期待できる分だけ価格を抑えられるかも知れません。要注目ですね。

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MOTOREX BIKE GREASE 2000

当blogの初期にグリスガンをご紹介ましたが、「グリスガン 自転車」でググると1番目に「グリスガン」でも4番目にヒットする(本稿執筆時)せいか、当blogでは屈指のアクセス数になっており、今月だけ(12/29日まで)でもこれらのキーワード検索で34回のアクセスがありました。

昨年のサイクルモードでもシマノのサービスカーに置かれていたそれをご紹介しましたが、ついにあのグリスガンを正式に採用した自転車用グリスが現われました。ノズルの仕様がリオグランデのアレと同じロングタイプで私やシマノのメカニックの方が用いている短いものとは違いますが、それ以外の造りは全く同じです。配色もなかなかクールですね。

自転車マナーアップTシャツキャンペーン
自転車マナーアップ!オリジナルTシャツキャンペーン

近年の自転車ブームでルールやマナーに反した乗り方をしている人が急増しているようですが、それに釘を刺すイベントも催されたいました。自転車は軽車両ですから、原則として車道を通行しなければならず、歩道を走って良いのは「自転車通行可」の標識があるところのみであるとか、左側通行という極めて基本的なルールさえ知らない莫迦者が山のようにいます。そうした人たちを何とかしておかなければ自転車文化そのものの発展にも良くないと考えたのでしょう。

自転車マナーアップトークショー
人垣が凄く、カメラを頭上に差し上げてノーファインダーで撮ったため、
構図はかなり酷くなってしまいましたが、TBSのプロデューサーであり
「自転車ツーキニスト」という言葉の生みの親でもある疋田智氏
(中央のスキンヘッドの人)を中心にマナー向上を喚起する
トークショーも行われていました。


特に疋田氏は車道を右側通行している大莫迦者を見かけると「逆走すんな! ボケッ!!」といった感じで注意しているそうで、あの風貌でいきなり言われたら普通の人にはかなり効果があるでしょう。

今回のサイクルモードは全般的に自転車ブームを受けてカジュアル系の自転車やアパレルなどが増え、増床された分もそちらを中心に拡大したようです。マナー向上キャンペーンのようなイベントも、やはり自転車ブームが招いた「量の増加による質の低下」を抑えようという考え方なのでしょう。こうした流れ自体は決して悪いことではなく、裾野が広がることで全体的な底上げにも繋がるでしょうから、むしろ歓迎すべきことかも知れません。このイベントの主催者が目指している方向性は正しいと感じました。

「その1」でも触れましたようにジャイアントやキヤノンデール、コルナゴといったビッグネームが欠場するなど残念な部分もありました。今後もカジュアル系が勢力を増すのはともかく、個人的にはコンペティティヴなバイクが減少していくようなことにならないよう祈るばかりです。現状としてはあまり浮かれ過ぎたところがなく、何よりコンパニオン目当ての忌々しいカメラ小僧がいないという点でも非常に好感が持てるイベントなだけに、規模の拡大は必要性を感じませんが、東京サイクルショーのように消滅しないよう頑張ってもらいたいところです。

飽きっぽい日本人のことですから、この自転車ブームもいずれは一段落してしまうでしょう。が、ブームが過ぎてもサイクリストとして残る人はそれなりにいるでしょうから、ブーム前より多くの人口を抱え続けることになると思いますし、以前のような敷居の高さはかなり払拭されています。猫も杓子もといった状態が収束してからが文化としてより本格的な成熟期に入ると考えるべきでしょう。サイクルモードは今後も市況や流行など時代を映す鏡となると思いますが、個人的にはそういう存在で良いと考えています。

(おしまい)
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サイクルモード'09 (その5)

MERIDA_MIYATA.jpg

スペシャライズド、スコット、GT、マングースといったそうそうたるブランドのOEMを手掛け、ジャイアントに次ぐ台湾第二のメーカーとして充分な実力を持っているメリダですが、日本国内の展開はあまりパッとしませんでした。それは常々ビジネスパートナーとして選んだブリヂストンサイクルのアンカーブランドとマーケットの傾向や価格帯が被っているからではないかと言われ続けていました。

今年の8月にブリヂストンはメリダとの販売契約を解消するとプレスリリースしました。リンク先にあるブリヂストン側の理解も全くその通りで、契約解消の理由を“当社のトップブランド「アンカー」の成長と、メリダ社の高級化路線のバッティングによるもの”としています。

これでメリダが何の断りもなくいきなりミヤタと組んでいたら何だかえげつない感じになっていたところですが、ブリジストンのプレスリリースにも“新代理店として「宮田工業株式会社」を起用したいとの申し入れがあり、当社もこれに同意した”と書かれているように両者は決して喧嘩別れしたわけではなく、至って紳士的だったようです。

メリダのほうがブリヂストンより国際的なシェアや競争力を持っているのは間違いありません。こうした立場を考えれば、ブリヂストンとのビジネスが上手くいかないなら日本市場の戦略を見直すに当たってメリダ側から一方的にブリヂストンとの契約を打ち切るといったパターンもあったと思います。

が、彼らは新たなパートナーと組みたい旨を申し入れるなどブリヂストンに対してキチンと筋を通しました。こうした真摯な態度は非常に好感が持てますね。中国や韓国のように反日教育を施したり反日感情を煽るような情報操作をしている国と異なり、台湾は親日的と言われますが、そうした国民性によるのでしょうか? それとも、単にメリダの社風がそうなのでしょうか? ま、その辺はよく解りませんが、この一件で私はメリダを大いに見直しました。

ミヤタは古くからオランダのコガと提携しており、コガ・ミヤタというブランドは私が中学生のとき初めてロードレーサーを買うとき、ボロボロになるまで見たミヤタのカタログ(ロードレーサーやランドナーなどスポーツサイクルの専用カタログ)の中でも最高級モデルとして掲載されており、ただただ憧れるしかなかった雲の上のような存在でした。いまでもコガ・ミヤタはFullPro2Lightを筆頭に中~高級モデルが中心ですから、アンカーほどメリダのラインナップとぶつかることもないでしょう。

メリダもジャイアントに倣って早くからヨーロッパに拠点を置きました。ドイツのシュツットガルトにメリダ・ヨーロッパを設立し、デザイン・設計・開発部門を完全にヨーロッパへ移管して既に10年以上が経過しています。台湾資本ながらヨーロピアンブランドと変らないブレインが設計しているのはジャイアントと同じです。今度こそはメリダも日本で確固たる足掛かりが得られるよう期待したいところです。

CHERUBIM_SPEEDMASTR.jpg
CHERUBIM SPEEDMASTR

細身のクロモリチューブを生かした流麗なフォルムでセンスの良いフレームワークを見せてくれるケルビム(今野製作所)ですが、今年はハンドルやステム回りもオリジナルパーツとした見事な仕事ぶりを見せつけていました。写真のスピードスターはアームレストが存在しないゆえ普通にDHポジションをとれるのか微妙ではありますが、この造形はもはや現代彫刻というべき領域に踏み込んでいるような気がします。

CHERUBIM_SPEEDMASTRステム部

ハンドルとフレームとの接合部はご覧の通りで、職人技炸裂といった感じです。こういう造形は擦り合わせで仕上げられるハンドメイドならではでしょう。逆に、大半を機械で作ってこのレベルのクリアランスを管理しようと思うと、かなりの工作精度を求められるでしょうから、生産台数によっては却って高くつくかも知れません。

ケルビムは『ロードバイクインプレッション』などのムックでも度々取り上げられますが、こうしたメディアはどちらかというとオーソドックスなモデルに集中しがちです。ケルビムのフレームはそちらも非常に素晴らしい内容ですが、他のフレームビルダーと決定的に違う個性を発揮するのは今回ご紹介したような分野かも知れません。

マスプロメーカーと違って様々な要望に柔軟に対応できるこうしたフレームビルダーのほうがトレックの色だけスペシャルなそれよりずっと高いレベルのオリジナリティを表現できるでしょう。いつかは町田にあるショップへ行って、今野さんとジックリ検討しながら私の自転車哲学を注いだ入魂の一台を作りたいと考えています。

(つづく)

サイクルモード'09 (その4)

個人的な思い出や思い入ればかり語ってレポートになっていないじゃないかという不満の声も聞こえてきそうですけど、ま、ここは完全非営利の個人blogですから、開き直って好き勝手に書かせて頂こうと思います。が、こうした傾向になってしまうのも初回に触れましたとおり今年は全般的に薄味で、あまり興味深いトピックがなかったからです。

思えば、近年は構造や規格の変化が目覚ましく、見ていても飽きることがありませんでした。ヘッドパーツに関しては独自規格が乱立して行き過ぎの感も否めませんが、長いことインテグラルヘッド化を見送ってきた保守的なトレックやコルナゴも宗旨替えしたのですから、時代の流れを感じたものです。

カンパニョーロも頑なに続けていたスクエアテーパー軸に見切りをつけてスルーアクスルクランクに寝返りましたし、それと前後してピナレロは独自規格の大口径55mmのBBを諦めました。コンパクトクランクも当たり前のラインナップになりました。上位モデルで流行したシートピラーやスルーアクスルクランクのベアリングカップをフレームに融合させるインテグラル化も一段落し、ここ数年の間に続いていたロードバイクの進化も一巡してしまったという感じでしょうか。

これまでフレームマテリアルとしてアルミやマグネシウムなど金属に拘ってきたキヤノンデールやピナレロなども上位モデルでは完全にフルカーボンへ軸足を移しましたし、同様にMTBもクロスカントリーやマラソン系のそれはカーボン化が行き渡った感じです。

逆の視点から捉えるなら、ここ数年でよくこれだけの変化が続いたものだと思います。私が知る約四半世紀を振り返っても、ビンディングペダルの登場やフレームマテリアルの脱スチール化、シフトレバーのインデックス化、リヤの段数増加、そしてデュアルコントロールレバーの登場など、進化はそれなりにありましたが、相応の時間を要してきました。

MTBは歴史が浅い分だけ著しい進化を遂げた時期もありましたが、ロードバイクは以前からかなりやり尽くされてきたと思われていましたから、状況は大きく違います。アヘッドステムのようにMTBから始まったトレンドも有効と解ればロードバイクにも応用されてきましたが、そうした大きな変化は時々起こっていたという感じで、最近ほど短期間に新たなトレンドが幾つも生まれ、変化が連続したのはあまり記憶にありません。それだけにしばらくは落ち着いてしまうのかも知れませんね。

個人的にはサイクルコンピュータのメーカーに一踏ん張りしてもらって、10万円以下くらいで導入できるリーズナブルなパワーメーターをリリースして欲しいと思いますが、どうでしょう?

キャットアイなどはカンパ互換のスクエアテーパー軸に磁歪センサを仕込んだアレの失敗で(といっても、まだしぶとくカタログには残っていますが)、サイクルモードに来られているスタッフの方には毎回リクエストしているのですが、完全に及び腰になっている感じです。そもそも、カンパのスクエア軸を使っている絶対的なユーザー数が多くないのですから、最初のチョイスが間違っていたと思います。せめてISISやオクタリンクなどにも対応させておくべきでした。

もし、ここで一度仕切り直すのであれば、2007年にパテントが失効した老舗SRMと同じ方式(クランクのスパイダーアームに歪みゲージを仕込む方式)を採用し、とりあえずシマノ互換のクランクで(例えばスギノあたりと提携して)チャレンジしたら幾らかマシな結果が得られそうな気がするんですけどねぇ。ま、私のような素人が適当なことをほざいても、関係者にしてみれば「そんなに簡単なハナシじゃないよ」と一笑に付されてしまうのかも知れませんが。

Fisher_Cronus_Ultimate.jpg
Fisher Cronus Ultimate

トレックのブースを見ても何だか惹かれるものはなく、いまさらゲイリーフィッシャーブランドのロードバイクが出てきても数年前にインテンスのそれを見ていますから全く驚きませんでしたね。(あくまでも個人的な感想です。)

会場に足を運ぶ前は現在最強のステージレーサーであるアルベルト・コンタドール選手がツール・ド・フランスで使用した実車でも見られるかと期待していました。が、色々ゴタつきながらアスタナに残留することが決まったものの、そのアスタナは器材供給元をトレックからスペシャライズドへ変更するようで、私の期待が裏切られたのもそうした兼ね合いゆえかも知れません。

トレックブースの前面に大きくスペースが割かれていたのは「世界にたった1台のあなただけのバイクを」と謳っている「Project One」というカスタムペイントを主軸としたセミオーダーバイクのサービスでした。

trek_project_one.jpg

リンク先のサイトにある「プロジェクトワン バイクを作成」というところをクリックすればそのままメニューから選択して最終的にオーダーまで対応できるように整備されるようです。まずは車種を選び、次に16種類くらいあるカラーリングの基本パターンを選びます。その半分くらいはさらに細かい配色指定に対応していますから、かなり広い範囲で好みの色が選べるようになっているわけですね。

コンポーネンツもBTOの要領で選べますし、アウターワイヤーやバーテープなどはやはり好みの色を選択することが可能で、一部のホイールはデカールの配色も変えられるようです。ですから、全ての組み合わせが何通りになるのか想像も付かないくらい膨大な数になるのは間違いありません。「世界にたった1台のあなただけのバイクを」というのもこれだけ選択肢が多岐にわたれば大袈裟な宣伝文句とはいえないでしょう。

が、所詮は見た目重視のカスタムですから、スケルトンオーダーに対応するといった硬派なものではありません。カスタムペイントといっても、元々カスタムペイント屋からスタートしたリドレーがやっているようにロゴなどの素材とイメージを伝えればデザイナーが何パターンかのデザイン案を作成してくれたり、自分でデザインしたペイントにも対応してくれたりといったサービスに比べれば大したことはありません。

こうしてみますと、彼らも「何か新しいトピックを提供しなければ」と考えている様子は伝わって来るものの、目先の変化を付けただけといった印象が拭えません。ま、それでもトレックは何かしようという意思が感じられただけマシですが、全般的にこんな調子ですから、今年のサイクルモードであまり高揚感が得られなかったのは私だけではないと思います。

(つづく)

サイクルモード'09 (その3)

高校時代に「スキー莫迦」というほどスキーに入れ込んでいる級友がいました。彼は18歳になるや普通免許を取得し、高校生の分際で(しかも受験生という立場で)ハイラックスだかパジェロだか車種は失念しましたがSUVを購入し、週末になるとスキー場に入り浸るという凄い生活をしていました。私たちが18歳の冬といえば、ホイチョイ・プロダクションズの映画『私をスキーに連れてって』が公開され、空前のスキーブームがやってきたまさにあの年です。

ふと、彼の上履きを見ると、マジックペンで色々イタズラ描きがしてあったのですが、その中でもひときわ目を惹いたのがルックのロゴでした。当時の私にとってルックといえばビンディングペダルのメーカーというのが一番最初に思い浮かぶイメージでしたが、彼にとってはスキーのビンディングメーカーということで上履きにそのロゴを手描きしていたのでしょう。

ご存じのように、ルックはスキー界で常識となっていたビンディングを自転車のペダルに応用した元祖ですが、そこから転じてフレームも手掛けるようになりました。ルックが自転車界にビンディングを持ち込む以前は、トウクリップとストラップでペダルに足をシューズごと固定するという非常にプリミティブな方法がとられていました。当初はビンディングペダルといわず、「ルックペダル」と呼ばれていましたが、それはトライアスロンやTTで用いられるDHバーが当初「スコットバー」と呼ばれていたのと同じです。

ルックペダルが出てきた当初、ベテランのサイクリストにはどちらかというと色眼鏡で見られていたような感じでした。それはまだシューズ自体の完成度が低く、引き足を使うと甲の生地が伸びがちで浮き気味になってしまい、それを嫌う人はシューズの上からストラップを巻くことで対処したといったこともあったでしょう。が、そもそも昔のサイクリストは保守的な人が非常に多かったんですね。

余談になりますが、シマノが600シリーズ(現在のアルテグラの先祖)で初めてインデックスシステム(シフトレバーにクリックストップを設け、中段のギヤを扱いやすくしたもの)を投入したときも「子供のオモチャ」と酷評する人が結構いましたし、シマノもそうした声を予期していたのか、そのインデックスをキャンセルできる機構も備えていました。

また、クリンチャータイヤ全盛となったいまでは信じられないことかも知れませんが、当時は「チューブラー使いにあらずんば、ロード乗りにあらず」という時代でしたから、クリンチャーなんて使っていたら半人前の初心者と見なされました。ま、昔はこの世界もバリバリの体育会系で、他のスポーツと同じく様式だけでなく、器材に関しても頑固な人が多かったということですね。でも、あのベルナール・イノーが真っ先にルックペダルを使い始めたのは日本のサイクリストにも少なからぬ影響を与えたと思います。

イノーは現役の選手時代から自分の名を冠したフレームを使用し、1985年に5度目のツール・ド・フランス総合優勝を果たしたときもそれを駆っていましたが、程なく彼はルックと密接な関係になっていきました。現在でも同社の技術アドバイザーとしてフレーム開発にも影響力を持っているといいます。

イノーは6年間を過ごしたルノーチームを離れ、1984年に健康食のチェーン店を展開するラ-ヴィ-クレールをメインスポンサーとした同名のチームを立ち上げました。彼が引退した翌年の1987年には東芝・ルック・ラ-ヴィ-クレールと名を変えました。一時代を築いたこのチームを通じてイノーとルックの関係は今日に続く深いものに育まれていったのでしょう。

このラ-ヴィ-クレールのジャージがまた実にハイセンスで、個人的にはこれを超えるデザインは現在に至ってもないと思っています(あくまでも個人的な趣味の問題ですが)。モチーフとなったのはオランダの抽象画家ピエト・モンドリアンの代表作である「Composition with Red,Yellow and Blue」でした。以前、グリコのガムのCM(←リンク先はYouTubeですからいきなり音が出ます)で柴咲コウさんが同様にこれをモチーフとしたワンピースを着て踊っていましたが、ラ-ヴィ-クレールの黄金時代を知っている私としてはこの配色を見るとついつい反応してしまいます。

ですから、今年のサイクルモードに展示された「ルック586モンドリアン」のカラーリングには感慨深いものがあります。

LOOK_586_MONDRIAN.jpg
LOOK 586 MONDRIAN
プレミアムコレクション・スペシャルペイントモデルと書かれていますが、
希望小売価格522,900円(税込)と表示されていましたので、市販されるようです。
ペイント以外では従来の586と大きな違いはなさそうですが、
非常に完成度の高いフレームですから、変えるところがないのでしょう。


ベースはカーボン柄ですし、昔のルックのカーボンフレームとは違ってスコットあたりがやり始めた肉厚は薄く径は太いファットチューブにルックもかなり傾倒してきました。が、この鮮鋭なトリコロールはその名の通りモンドリアンの世界そのもので、あのラ-ヴィ-クレールを彷彿とさせ、私にとっては非常に懐かしく感じます。

さらに余談になりますが、このフレームの前で私の母と同世代と思しき初老の女性が熱く語り合っていました。走り仲間なのでしょうが、一昔前ではちょっと考えにくい光景でしたね。それだけスポーツサイクルのユーザー層が厚くなり、裾野が広がっているのだと思います。

彼女たちの会話のレベルからして近年のブームでロードバイクの魅力に取り憑かれたようで、齢は重ねていてもこのフレームを見て往年の名チーム、ラ-ヴィ-クレールに結び付くことはないのでしょう。ま、このカラーリングから四半世紀も前の光景を思い浮かべ、懐かしさに浸る私は、要するにすっかりオッサンになってしまったということですね。

(つづく)

サイクルモード'09 (その2)

昨年のシマノはロード用の旗艦コンポーネンツであるデュラエースのフルモデルチェンジに加え、その変速系を電動化した7970シリーズを出品して大いに話題をさらいました。が、今年はロード用セカンドグレードのアルテグラがフルモデルチェンジされたというのが一番のトピックで、昨年の爆発的な動きに比べるとかなり地味だったといわざるを得ません。

フルモデルチェンジを受けて6700シリーズとなったアルテグラが7900シリーズのデュラエースと完全互換ではないとの旨は当blogでも早い段階にお伝えしましたので、それ絡みのアクセスが結構ありました。いまでも時々そうしたキーワード検索でアクセスしてこられる方がいますが、既にシマノから正式なチャートが発表されていますので、そちらを参照されたほうが間違いないでしょう。

アルテグラ6700シリーズ

シマノは価格を改定するときもそうですが、釣り具部門に比べて自転車部門のパブリシティが雑すぎます。特にコンポーネンツに関しては価格と重量と互換性は誰もが気になるところです(私はシマノに軽さをあまり期待していませんから、重量よりも互換性のほうが気になるくらいです)から、製品の正式発表と同じタイミングで公表しておくべきです。

互換性が保たれているに越したことはありませんが、そのためにコストアップに繋がってしまったり、技術開発の足枷になってしまうのも問題です。そういう意味で適度の変化は許容しなければならないでしょう。が、それを許せないというユーザーが沢山いるのも現実で、「シマノ商法」だの何だのと文句を言われたりします。

もっとも、カンパニョーロなども互換性が保たれないことはよくあることです。例えば、同じ10sでもフロントディレイラーのウルトラシフトとクイックシフトではレバー比とシフターのワイヤー巻き量が異なりますので、完全互換ではありません。しかも、この規格はグレードや発売時期で五月雨式に変わっていますからシマノより解りにくいと思います。

こうした例からしても、互換性を保たない仕様変更はシマノだけがやっていることではなく、これを以てコンポの入れ替えを促そうとするようなセコイ商売と勘ぐるのはどうかと思います。そもそも、「シマノ商法」と騒いでいる人でどれだけの人がシマノ以外のメーカーの動きをキチンと捉えているのか疑問を感じます。

シマノが公表しているカタログスペックはかなり正確である(特に重量はマヴィックなどと違って非常に正直な値を出してきます)ということと、リコールの発表や製品交換の動きが良い点などで信頼しています。また、スモールパーツの供給体制やその価格も適切だと思います。が、価格改定や互換性などの公表がスムーズではないという点、特にロード系パーツなどは明らかにヨーロッパより情報が遅いところが気に入りません。

また、完組ホイールのマニュアルに記載されているスポークテンションの参考値も全然アテになりませんので、買ったらすぐに実測した値を記録しておいたほうが間違いないようです。ついでにいえば、ディープリムのようにデカールのセンスが見た目に大きく影響するようなところでもシマノはライバルに比べてイマイチなのがあまり好ましくないところでしょうか(ま、この辺は競技志向の強い方にはどうでも良いところでしょうけど)。

私の場合、主にコストパフォーマンスの高さからシマノを選ぶことが多いのですが、だからといってシマノ信者というわけでもなく、中学生の頃から四半世紀を超えて彼らとの付き合い方が自然に身についたということなのかも知れません。

ところで、今年もシマノはサポートカーを展示していました。車両は昨年展示されていたものと全く同じで、中身もそれほど大きくは変わっていません。が、昨年は置かれていなかった振れ取り台が今年はこれ見よがしに置いてありました。これがまた猛烈に贅沢なもので、ため息しか出て来ません。

シマノサポートカーの車載振れ取り台1

私は定番のパークツールTS-2を愛用していますが、その上級モデルとしてラインナップされていたTS-3(定価は確か13万円強)です。しかも、ダイヤルゲージがミツトヨのデジタルゲージにモディファイされています。調べてみましたところ、ABSデジマチックインジケータ 543-551 ID-F125というモデル(標準価格45,000円)だと思われます。これを2つ備えていますから、TS-3との合計で定価なら20万円オーバーです。これ以上贅沢な振れ取り台はそうそうないでしょう。

シマノサポートカーの車載振れ取り台2

TS-3の造りの良さはいつ見てもTS-2とは比べものになりません。安いネットショップなら10万円未満で買えましたから、私もいつか手に入れてやろうと思っていたのですが、数年前に生産中止になってしまいました。いまでもたまにネットオークションに出てきますから狙い澄ましていれば入手できなくはないでしょうけど、やはり新品で買えるうちに買っておけば良かったとかなり後悔しています。ま、手に入らなくなると欲しくなる気持ちも倍増するというのは人のサガというものなのでしょうけど。

シマノサポートカーの車載コーヒーメーカー

メカニックの方が一服するときに使っていると思しきコーヒーメーカーとミルはイタリアのデロンギ製です。実は、ミルのほうは私も全く同じものを愛用しています。一般的な日本製の電動ミルはミキサーと同じように羽根が高速回転してコーヒー豆を叩き割っていくタイプが一般的ですが、そうした方式は摩擦熱による風味の劣化や粒度のバラツキが大きく、微粉も生じやすく、あまり褒められたものではありません。が、このミルは臼で挽く低回転コーン式で、手動式と遜色ない挽き上がりになります。

また、普通のミキサータイプの電動ミルは手に持って挽きムラが生じないように振りながら、細かさは刃を回している時間でコントロールしなければなりません。が、このミルは予め粒度の細かさをダイヤルでセットしておけば、豆を投入して電源連動のタイマーをセットするだけで勝手に挽いてくれるため、手間もかかりません。シマノのメカニックの方が豆の挽き上がりに拘ってこれを選んだのか、それとも豆を挽くために余計な手間を取られない点を買ったのか、その両方か、いずれにしても良いチョイスだと思います。

ということで、シマノの新製品については殆ど語りませんでしたが、それだけ個人的に興味を惹かれるものがなかったということですね。ま、シマノといえども毎年毎年大きな話題となるようなニューモデルを出し続けるのは無理なのでしょう。

(つづく)

サイクルモード'09 (その1)

昨年の秋に突然の膝痛で35kmくらいを殆ど片足で漕いで帰宅したという悪夢のような経験をして以来、自転車に乗る機会がだいぶ減ってしまいました。いまでも調子が悪いときは20km足らずで違和感を感じたりするものですから(調子が良ければ全然平気ですが)、距離を稼ぎたいときは自宅(クルマで遠征するときはそれを停めている駐車場)を中心とした周回路になるようにして、出発点から何十kmも離れたところには行かないようにしています。

当blogは最初の1年半くらい自転車ネタがかなりの割合を占めていました。いまでもBD-1の20インチ化をご紹介したエントリは毎日のようにアクセスがありますし、自転車用のグリスガンを取り上げたエントリケスデパーニュのマークが「毛ガニ」と読めるというエントリ(これなどはいつの間にかWikipediaにリンクが張られていました)などはかなりの頻度でアクセスがあります。

しかしながら、左膝に故障を抱えるようになってからは乗ったり弄ったりする機会が減少し、そうした話題も激減してしまいました。それに加えて、今年はカメラ熱が再燃してしまったことも影響しているでしょう。例年なら自転車に使っているハズのお小遣いがかなりカメラ関係に流れてしまいました。これだけ自転車ネタが減ってしまったからにはプロフィールの写真もいい加減見直したほうが良いかも?と思うようになってかなり経ちますが、面倒なのでそのまま放置しています。

ということで、私自身の自転車に対する熱がやや冷め気味になっている昨今ですが、今年もサイクルモードには行ってきましたので、また好き勝手に私見を述べさせて頂こうと思います。

例年は11月初旬に開催されていましたが、今年は1ヶ月遅れとなりました。東京(実際には千葉県ですが)の会場はいつもの幕張メッセですが、例年の1~3ホールに加えて今年は4ホールまでとなり、スペース的には拡張されました。ところが、残念なことにコルナゴ(アパレルのコルナゴ・モーダは除く)やジャイアントキャノンデールといったビッグネームが不参加となり、全般的に見てもスポーツサイクルに関しては少し薄味になってしまった印象です。

特に気になったのはプロ選手が使用した実車の展示が激減してしまったことです。以前はツール・ド・フランスなどで活躍している超一流選手が実際にレースで使っていたバイクが何台も展示され、細かいアレンジなど参考になるところもあり、興味津々で見たり写真を撮ったりしたものです。が、今年は申し合わせたかのように各社ともこうしたスペシャルなバイクを殆ど持って来なかったのが非常に残念でした。

また、このイベントはプロ選手をはじめとしてこの世界の有名人が(鶴見辰吾氏のような自転車好きで知られる芸能人なども)トークショーに出演したりして、こうした人たちに会えるというのも良いところなのですが、今年は例年より少なかった印象です(私が行ったタイミングが悪かっただけかも知れませんが)。

一方、個人的にはあまり興味がないカジュアル系のバイクは多くなった印象で、展示ホール西側の端っこのほうには電動アシスト自転車のブースが並び、スロープを上って電動アシストの効き具合が試せる専用の試乗コースまで設けられていました。こうした傾向からしても、昨今の自転車ブームでマーケットが広がり、マニアよりももっと広いユーザー層に訴えかける方向で力が入れられていたような印象です。

電動アシスト自転車のブースと試乗コース
電動アシスト自転車のブースが集まった一角と試乗コース
先鞭を付けたヤマハを筆頭にブリヂストンやパナソニックなど
(後二者はスポーツサイクルのブースと分けて二本立てです)
電動アシスト自転車の専門ブースが並んでいます。
そのすぐ傍らには専用の試乗コースが設けられ、写真右端に見えるように
スロープをしつらえて法改正でよりアシスト量が大きくなったそれを
体験できるようになっていました。


以前にも触れましたが、かつてはサイクルモードと比較的近い時期に東京ビッグサイトで「東京サイクルショー」というイベントも開催されていました。コチラはカジュアル系やホームセンターなどの販路に乗るような安い自転車、台湾や中国などの部品メーカーの協会がブースを構えて日本の輪業界に売り込むといった方向がメインでした。

BD-1やブロンプトンといった小径車の輸入代理店であるミズタニ自転車や、ダホンの輸入元であるアキボウなどはサイクルモードと東京サイクルショーの両方に出店していましたが、どう見ても後者のほうに力を入れていたようでした。また、これらの小径車専門店として名高い(私がBD-1を購入したショップでもある)サイクルハウスしぶやも以前は東京サイクルショーに出展していました。

ジャイアントやピナレロなども東京サイクルショーでは比較的安価なロードバイクも展示していましたが、やはりクロスバイクや小径車などカジュアル系がメインでした。実際、客層も明らかにそちら側の人たちばかりで、胸に心拍センサを巻いてすね毛を剃って、気合いを入れて走るといった人はほぼ皆無といった感じでした。

その東京サイクルショーは2007年に「Tokyo Bike Biz」と改称し、それまでの総合自転車ショーからビジネス見本市に模様替えされました。招待状を受けた販売店などの業界関係者しか入場できず、私のような一般客はお断りという徹底ぶりで、その年からカジュアル系ブランドやショップなどもサイクルモードへ軸足を移したような状態だったと思います。

そのTokyo Bike Bizは僅か一度で消滅してしまったようで、昨年あたりからさらに旧東京サイクルショーの出展者がサイクルモードになだれ込むようになったのでしょう。今年はさらに展示ホールを増床してそれに対応したといった感じでしょうか。以前はもっとスポーツ色の濃かったサイクルモードですが、東京サイクルショーが挫折してしまった影響なのか、次第にカジュアル色を強めて来たといった印象です。(あくまでも個人的な印象ですが。)

ま、それはそれで悪いことではないと思いますが、できればジャンルを分けて出展者のブースを整理するような工夫が欲しくなってきました。例えば、本格的なスポーツサイクルが中心のメーカーとカジュアル系しかないメーカーを分け、その間に両方やっているメーカー配置するといった格好で、できるだけ色分けしながら配置したほうが見やすくなると思います。

そこまでできないというのなら、せめて部品メーカーや用品、工具、ケミカル、アパレルなどを纏めるといったカタチで、自転車メーカーとそれ以外くらいは色分けしたほうが良いように思います。現状ではあまりにも雑然とし過ぎていて、端から順に見ていくと頭の中で情報が整理しきれなくなってしまいそうです。ま、ドンキホーテの店内が落ち着くという人なら現状のほうが良いのかも知れませんが。

(つづく)

Googleの抵抗?

園田義明氏のblogで以下のように指摘されていますが、どうやらGoogleはクライメートゲート事件にあまり深入りされたくないようです。

<拡大するクライメートゲート>グーグルゲートも浮上中!

確かに私も検索していておかしいと思った。

つい最近までグーグルで‘cli’と入れるとclimategateが出てきた。
グーグル・ニュースなんて‘cl’だけでもclimategateが選択できた。
そのため本ブログはクライメートゲート(climategate)と表記。

ところが今では‘clim’まで入れてようやくクライメート・ゲート(climate gate)が選択できる。
(あっ、今はclimate gateも出てこない!こりゃ不思議)

なにやらここでも疑惑が浮上中。グーグルゲート(Googlegate)に発展か。

ここまできたらもう爆笑するしかありませんね。

(C)園田義明めも。 2009年12月5日


同様のことは日本語でも起こっていることに私もかなり早い段階で気づいていました。検索キーワードの候補を先読み表示する「Googleサジェスト」が働いて、当初は「クライメ」くらいで「クライメートゲート」が候補として表示されましたが、現在(12/13)の時点では「クライメートゲート」というキーワードがGoogleサジェストから完全に削除され、候補として表示されなくなってしまいました。(※追記をご参照下さい)

そればかりでなく、当初は「クライメートゲート事件」というキーワードで検索すると1番目か2番目くらいにヒットしていた日経Ecolomyの「地球温暖化データにねつ造疑惑」も何日か前からヒットしなくなってしまいました。(面倒なので上位200件までしか確認していませんが。)

いまのところASCII.jpに池田信夫氏が連載しているコラムなどが上位でヒットしますし、ニュース検索には主要メディアの報道も引っかかってきますが、それにしてもキーワード検索だけでは国内の主要メディアの報道は殆どヒットせず、Wikipediaや個人のblog、ネット掲示板やそれらの孫引きのように社会的な信用度が高くないサイトばかりが並ぶのは異様です。極めて零細な当blogでさえ「クライメートゲート事件」で16番目、「クライメートゲート」で103番目にヒットする(いずれも本稿執筆時)ということを考えると、作為を感じずにはいられません。

そもそも、「さけとう」まで入力すれば当blogのタイトル「酒と蘊蓄の日々」が候補として表示されるくらいGoogleサジェストは細かいキーワードまで網羅しているのですから、「クライメートゲート」が表示されないというのは普通の状態ではあり得ないことです。これは間違いなくGoogle側に作為があってコントロールしていると断言して良いでしょう。(※追記をご参照下さい)

ま、Googleはアル・ゴア氏をシニアアドバイザーに迎えて再生可能エネルギーをはじめとした、いわゆる環境ビジネス(といっても、本当に環境に良い営みとなるのか否かは別問題ですが)に参入していますから、この一件はできるだけ限られた人の目にしか触れられたくないのでしょう。しかし、ここまで露骨に工作するようでは、本業である検索サービスの信用にも関わると思うんですけどねぇ。

Google本社ビル屋上のソーラーセル
Google本社ビル屋上のソーラーセル
最大出力1.6MWになるソーラーセルでピーク時の約30%の電力を賄えるそうです。
同社グリーンエネルギー本部長ビリー・ワイル氏は日経Ecolomyのインタビュー
「環境活動はチャリティーではなく投資だ」と言い切るとともに、
「石炭よりも安くクリーンなエネルギーを5年でつくれるように開発を進めていきます」
という蒙昧な人にありがちな大風呂敷を広げていました。
あと3年しかありませんが、風呂敷をたたまないで済むように頑張って下さい
としか言いようがありません。


そうは言っても、Googleなしでは私も色々困りますから、批判もそこそこにしておかなければならないのが「痛し痒し」といったところですが。


追記:本稿執筆前に散々確認したので「クライメートゲート」というキーワードがGoogleサジェストから削除されていたのは間違いないハズですが、いま試してみたところ何故か復活していました(「climategate」も復活しているようです)。まさか、ブロガーたちの批判を聞き入れたとは考えられませんが(アクセス解析のログを見ますと、当blogにも毎日Googlebotが巡回しているようですが、本件とは何の関係もないでしょう)。

ただ、ニュース検索を除くと主要メディアの記事が殆どヒットせず、日経Ecolomyの記事もヒットしない状態は続いています。田中宇氏の生々しいレポートもヒットしませんから、やっぱり疑わしい部分は残ります。そもそも、「クライメートゲート」で8700件くらいしかヒットしない(本稿執筆時)というのも不自然でしょう。ちなみに、「酒と蘊蓄の日々」でさえ4800件くらいヒットします(といっても大半は当blogと関係ありませんが)。

ま、ブラックボックスになっているところを外から色々つついてみても不毛なのかも知れませんね。

テレビ東京が門松を飾ることは許されない

昨晩、テレビ東京のニュース番組『ワールドビジネスサテライト』を見ていて思わず失笑してしまいました。「温暖化問題 アメリカの本気度は?」という3分半ほどのレポートで、またぞろ宗教的かつヒステリックな価値観を開陳していたからです。件のレポートはいまのところ同番組のサイトで見られるようですから、まずはコチラをご覧下さい。

冒頭でオバマ政権が温室効果ガスは「健康に有害」であるため、議会の判断とは別に政府独自の判断で排出削減が可能になるという理屈も大いに引っかかるものでした。が、何を根拠にそのようなことを言っているのか詳しく伝えられていませんでしたので、とりあえすここではスルーします。

私が失笑してしまったのはそれに続く話題で、バージニア州にあるスニッカーズギャップツリーファームという農場を取材したものです。アメリカではクリスマスツリーに本物のモミの木を使って飾り付けをする家庭が多く、取材された農場では客に好きな木を選んで切らせるというサービスをしているそうです。

アメリカではこのシーズンになると普通のショッピングモールなどでもクリスマスツリー用のモミの木が手軽に買えるようです。映画『リーサル・ウエポン』でメル・ギブソン氏が演じる主人公リッグス刑事が登場するシーンは、麻薬の売人を囮捜査で逮捕するという展開になりますが、その舞台となったのもクリスマスツリー用のモミの木が並んでいる店先でした。

WBS_アメリカの本気度は?1

ワールドビジネスサテライトのレポートでは、こうしたクリスマスツリー用のモミの木が全米で毎年2500万~3000万本が売られているとか、価格は1本約7000円で成長には8年かかるといった情報もちりばめつつ、上の画像のように切り株を意味ありげに捉えたカットを差込みながら、モミの木を買いに来た客に対してこんな質問を浴びせていました。

「木を切るのに環境のことを考えた?」

WBS_アメリカの本気度は?2

クリスマスツリー用に植えられたモミの木を切る行為が環境破壊だとでも言いたいのでしょうか? そんなことを言い始めたら、林業や生花業ひいては農業も水産業も全般に環境破壊ということで批判しなければなりません。野生のモミの木を無計画に切っているという状況だったら批判するのは当然ですが、農場が計画的に植林したそれを消費することまで環境問題に結びつけていたら、ありとあらゆる人類の営みも同様に扱わなければなりません。

「地球温暖化のために育てているわけじゃないからかまわない」

客の一人が答えたこれが正論であって、あのような質問をするほうが非常識なのです。恐らく、「木を切ること=悪」といった短絡的な発想があのような莫迦げた質問を生んだのでしょう。偏向した価値観で物事を歪めて捉えているのか、単なる世間知らずなのか、どちらにしても程度の低い考え方に違いありません。

また、同レポートではCNNの調査結果として「米国だけでも温室効果ガスを削減すべき」という質問に「YES」と答えた人が2007年は66%だったのに対し、2009年には58%に減っているということも伝えていますが、それは偏った情報しか伝えない日本と違ってアメリカでは人為説を疑う情報も沢山流れているゆえの健全な反応であると見るべきかも知れません。

WBS_アメリカの本気度は?3

レポートの最後に差し込まれたこのカットでカメラに向かって無邪気に手を振っている少女はまさか自分たちが極東の情報鎖国で宗教的な偏向報道の素材として使われているなどとは夢にも思っていなかったでしょう。テレビ東京のこの無思慮で無神経なレポートは非常に罪深いものです。

クライメートゲート事件は大山を崩せるか? (その4)

クライメートゲート事件について積極的に情報を求めておられる方ならご存じかと思いますが、この一件で暴露されたホッケースティック曲線の改ざんに関する疑惑について日本語で書かれたレポートの中で最も具体的な情報が得られるのは12月2日に配信された田中宇氏のメールマガジン『田中宇の国際ニュース解説』でしょう。

地球温暖化めぐる歪曲と暗闘(1)』と題されたそれには具体的な出典を示しながら詳細に書かれていますので、より深く知りたいという方はリンク先をご参照頂くとよいでしょう。ここではアウトラインに私なりの補足を加えた形で纏めてみたいと思います。

ホッケースティック曲線は西暦1000年以降の気温の変化を纏めたものですが、当然のことながら1000年前に信頼できる気温の記録などありませんでした。そのため、前述のように木の年輪や珊瑚、氷柱などに残された痕跡を頼りに当時の気温を復元したとされています。

ガブリエル・ファーレンハイト(華氏は彼が考案した温度の単位です)が純度の高い水銀を用いた温度測定技術を開発した18世紀くらいから気温の測定についても精度が格段に向上しました。とはいえ、当時は地球規模での気温測定などなされておらず、そのデータを参考にしても地域が偏ってしまいますから、そのまま採用することはできません。

こうした古気候曲線を作成するに当たって自然界の痕跡から得られた指標値と実測値を繋ぎ合わせることは決して珍しいことではありません。問題はその継ぎ目をどのように処理するかということになるわけですね。

国立環境研の江守氏も日経Ecolomyに連載しているコラム『温暖化科学の虚実 研究の現場から「斬る」!』で、この事件を『過去1000年の気温変動の虚実』と題して解説していますが、その中で問題の部分を「うまくつながって見えるように研究者がデータを操作していたのではないか、ということのようです」とオブラートを何百枚も重ねたような解釈をしています。しかしながら、田中氏のレポートではもっと生々しいデータ操作の様子が伝えられています。

CRU(イーストアングリア大学気候研究所)所長のフィル・ジョーンズ氏がホッケースティック曲線を作成したマイケル・マン氏に宛てたメールの中には「下落を隠す(hide the decline)」という表現があるそうです。このことから、指標値と実測値の継ぎ目を気温の下降期にあった1960年代に設定し、その下降度合いを小さく見せかけるように操作されたと見られています。

接ぎ木を60年代からではなく40年代からにしていたら「今が世界的に気温の最も高い時期だ」とは言えなくなっていた。


と田中氏は伝えています。余談になりますが、日本のメディアにも取り沙汰されている「trick」よりも、この「hide the decline」というキーワードのほうがネット上では話題になっています。YouTubeにこれを茶化した非常に手の込んだ動画がアップされているのもアチコチで紹介されるようになりました。



田中氏のレポートではこうしたデータ操作についてかなり具体的に触れられています。前述のようにサーバーから持ち出されたのはメールだけではなく、プログラムのスクリプトなども含まれています。データをグラフ化する際に異常値を排除したり数値のない年次を補完する修正がなされる真っ当な処理のほか、結果のグラフが温暖化傾向を示すよう、1960年以降の数値に人為的な処理を加えるスクリプトがいくつか見つかっているそうです。

そのファイルや操作された数値についても具体的に示されていますから、単なる推測ではなく、ちゃんとした根拠を伴っているわけですね。それが本物だと確認されれば、かなり決定的な物証になるでしょう。これまで確認されたメールなどの例からして、持ち出されたスクリプトなどのファイルも本物である可能性が高く、こうしたデータ操作がなされた可能性も高いように思います。これが闇に葬られることがなければ、それこそIPCCの評価報告書の信憑性は地に落ちるかも知れません。

なお、田中氏のレポートでは

「すでにIPCCはホッケーの棒のグラフを採用していないのだから、論争は過去のものだ。温暖化人為説はすでに事実として確立した理論だ。疑問を挟む人は無知な素人か、石油会社の回し者だろう」といった「解説」をするようになった。


とありますが、2007年に発行された(現在のところ最新の)第4次評価報告書「政策決定者向け要約」にホッケースティック曲線は載らなかったものの、同じ第4次評価報告書のフルレポートでは第6章の図6.10に11種の古気候曲線の1つとしてホッケースティック曲線は残されていたんですね。(実は、私も第4次評価報告書では削除されたと思っておりまして、そのようなことを当blogでも過去に書いてしまったことがあります。お詫びして訂正します)。

AR4_古気候曲線1
IPCC第4次評価報告書のフルレポートに採用された古気候曲線
マン氏のホッケースティック曲線の他にも10の古気候曲線が紹介され、
バラツキこそあるものの温暖化していることには違いない
と印象づけるようなグラフが並んでいます。
しかし、中世の温暖期はもっと高温だったとする人も沢山いますので、
この段階でも情報を取捨する作為があった可能性は否定できないでしょう。


AR4_古気候曲線2
解りやすいようにマン氏のホッケースティック曲線だけ色を残し
他をグレイスケールに変換してみました。
その作業をして感じたのは、ホッケースティック曲線のレイヤーは深く、
他のグラフが幾重にも重なって非常に解りにくくなっているということです。
第3次評価報告書ではホッケースティック曲線を単独で載せたにもかかわらず、
第4次評価報告書ではこれを残しつつもあまり目立たないようにしている
という印象です。(あくまでも個人的な感想です。)


IPCCの最新の評価報告書でもマン氏のホッケースティック曲線はまだ生かされているわけで、江守氏や東北大学の明日香氏ら人為説支持派の論客たちは、そのことを理由にマッキンタイア氏のデータを改ざんしたとの疑惑を拭い、マン氏を擁護するような立場をとってきました。彼らにとってIPCCは絶対的な存在ということのようです。

が、いまにして思えば、IPCCはあの一連の論争を経てホッケースティック曲線の信憑性の低さを素直に認め、第4次評価報告書では切り捨てていれば良かったのです。IPCC自身がメンツを保ちたかったのかIPCCにおけるジョーンズ氏らの影響力が強かったのか理由は解りませんが、下手にこれを残してしまったことが却って裏目に出たと見るべきかも知れません。

いずれにしても、今回暴露された情報はホッケースティック曲線だけにとどまらず、様々な部分に波及するものです。例えば、シミュレーションをやっている当人がその精度の甘さを嘆くようなメールも見つかっています。また、懐疑派を「間抜けども」と侮蔑したり、懐疑派の論文の査読や発表を妨害するような工作をしてきたことが窺えるメールも見つかるなど、地球温暖化を既成事実化してきた人たちの悪質さが取り沙汰されています。

ま、それを言ったら明日香氏らも懐疑論を出鱈目だと決めつけ、それに対抗する「懐疑派バスターズ」を結成して懐疑派をまるで害虫のように蔑視してきたわけですから、彼らの心根は同じところに繋がっているのでしょう。懐疑派を代表する槌田氏の論文が気象学会の機関誌に掲載を拒否されたり同学会の定期大会で講演を拒否されるなど、日本にも似たような動きがありました。こうした状況は野党時代の民主党がよく用いていた「数の暴力」という言葉がピッタリと当てはまるように思います。

このクライメートゲート事件がどのような結末に至るのかまだ予断を許すことはできません。が、暴露されたメールやファイルの中身が事実だとして、これが公に認められることになれば、地球温暖化問題そのものの信憑性が疑われ、その根幹が崩れることになるかも知れません。

なお、国立の研究機関に所属する科学者という立場をわきまえず、大した根拠もないまま断言することを躊躇しない江守氏は、日経Ecolomyの連載コラムで今回の事件についても以下のように断言しています。

過去1000年の気温変動に関するIPCCの結論が万が一これに影響を受けたとしても、いわゆる「人為起源温暖化説」の全体が揺らぐわけではまったくないことに注意してください。第1回のコラムで説明したように、「人為起源温暖化説」の主要な根拠は、「近年の気温上昇が異常であるから」ではなく、「近年の気温上昇が人為起源温室効果ガスの影響を勘定に入れないと量的に説明できないから」なのですから。


彼にとって自分たちが創り上げてきたシミュレーションは絶対であると言いたいようです。この10年あまり気温が上昇しなかったこともマトモに予測できなかった極めて精度の低いシミュレーションにしがみつくことしか彼らに生きる道はないということなのでしょう。

(とりあえず、おしまい)

クライメートゲート事件は大山を崩せるか? (その3)

現在の米大統領を選ぶ選挙活動が始まった頃のことでした。ある候補にメディアから「あなたは地球温暖化を信じますか?」という質問があったことをテレビ朝日の『報道ステーション』が伝え、メインキャスターの古舘氏は大きなため息に続いて「信じますかって・・・」と呆れ果てたような口調でつぶやき、「アメリカはまだそんなことを言っているんですか」というようなコメントを吐き捨てました。

ここまで一方的な認識が浸透している最大の原因は、はやり日本のメディアが地球温暖化問題に関していつも偏向報道を繰り返してきたところにあると思います。懐疑論には一切耳を貸さず、そんな議論はとっくの昔に終わっており、人為的に引き起こされた気候変動は科学的に疑いようがないという前提で日本のメディアの殆どはそのスタンスを決してきました。

こうしたことが続いてきたこれまでの状況を鑑みますと、前回のエントリに頂いたコメントでご紹介頂いた毎日新聞の『地球温暖化:英の科学者に「根拠」データ操作疑惑』という記事にある

科学者の間では「温室効果ガスだけが原因と強調しすぎるのは問題」との声も絶えない。


という一文は私にしてみれば「ようやく目を覚ましたか」と声を大にして言いたい非常に感慨深いものでした。

毎日新聞だけでなく、この週末に新聞各紙はようやく態度を改めたのか、少しずつではありますが、クライメートゲート事件を報じ始めました。例えば、朝日新聞は昨日(12/6)の朝刊の社会面で小さな扱いでしたが『盗まれた「温暖化」メール騒動 冷ます声明発表』という記事を載せました。また、前回ご紹介した11月26日の同紙夕刊に載った記事も『盗み出された「温暖化」メール 論争に火 陰謀説も』というヘッドラインに変わりましたが、昨日から電子版にも掲載されるようになりました。

さらに、日本経済新聞にも『温暖化、データ改ざん? 研究者のメール見つかる』という記事が載り、産経新聞も『英で気温変動データ改ざん疑惑温暖化懐疑派が巻き返し?』という記事が載りました。読売新聞は電子版をサーチしてもヒットしませんでしたが、5大紙のうち4紙で報道を確認できました。日本のメディアもようやく重い腰を上げ始めたようです。

今日(12/7)からCOP15が始まり、途上国はこの問題をカードとして切ってくる可能性があると彼らも気付き始めたからかも知れません。BBCのレポートでもサウジアラビアがIPCCの評価報告書の信憑性について懐疑的な立場で主張してくるのではないかと予想しているように、中東の産油国がこのクライメートゲート事件を足がかりに攻勢をかけてくる可能性も指摘されています。

もし、COP15がこうしたカタチで紛糾することになれば、日本のメディアもこの一件に触れないまま会議の模様を伝えることは不可能になります。その予防線としてCOP15が始まる前にとりあえず触れておこうということなのかも知れません。あるいは、日本でもネット上で話題になっており、「日本のメディアはこの事件もバイアスをかけて伝えないようにしている」といった批判も強くなってきた状態を看過できなくなってきたのかも知れません。

一方、朝日新聞の記事にもありますように、IPCCは12月4日にこの一件を受けても評価報告書の結論に変更なしとの立場を明確にしました。が、その理由は多くの科学者のコンセンサスが得られているといういつもの主張を繰り返しているだけです。そのコンセンサス自体が懐疑論を排除することで成り立ってきたことを臭わせるメールが見つかった今回の事件に正面から向き合うものではありません。

パチャウリ議長のコメントは「私信の不法なハッキングで起こった不幸な事件」というものでしたから、プログラムのスクリプトなど改ざんの具体的な証拠となりそうなファイルも同時に暴露された事実を知らないようです。ということは、IPCCもこの事件の全容を把握していないのは間違いないでしょう。

これから事実関係が明らかにされていく中で擁護しきれなくなったら、IPCCはホッケースティック曲線とそれを作成したマイケル・マン氏、震源となったCRU(イーストアングリア大学気候研究所)およびその関係者をトカゲの尻尾のように切り落として保身に走るかも知れません。パチャウリ議長あたりが「私たちも騙された被害者だ」みたいなことを言い出すかも知れません。

しかし、不正が事実であると認定されたなら、IPCCは評価能力の低さを素直に認めなければなりません。これまで2500名の科学者が査読したものだから確度の高い情報であるとしてきた認識は根本的に見直さなければならなくなるでしょう。

さて、当初の予定ではこのエントリで具体的にどのような不正が行われたと見られているのか触れるつもりでした。が、上述のようにこの週末は日本のメディアにも事件を取り上げる動きが見られたことから、そのこと中心にお伝えすることにしました。

ま、特別な情報ソースを持っているわけでもありませんし、既にネット上で流れている情報に付け加えるようなことも殆どありませんので、ここでは私なりの纏めという程度にしかなりません(そもそも、このblog自体が私自身の備忘録も兼ねていますし)。ということで、今回取り上げる予定だった改ざんが疑われる部分の具体的なハナシについては次回に。

(つづく)

クライメートゲート事件は大山を崩すのか? (その2)

今回のクライメートゲート事件も欧米の有力メディアが取り沙汰するようになってから既に半月以上経過していますが、日本では殆どのメディアが黙殺しています。ホッケースティック曲線の一件と同じように自分たちの立場がなくなるような腫れ物には触れず、嵐が過ぎ去るのを穴に潜って待つつもりなのでしょうか?

現在のところ、日本の主要なメディアでこの事件を扱ったのは、私の知る範囲で日経Ecolomyの『地球温暖化データにねつ造疑惑』と朝日新聞の夕刊に掲載された『盗まれたメール COP15控え波紋』くらいです。いずれも11月26日でしたから、欧米の主要メディアが騒ぎ始めてから1週間くらい遅れての報道でした。私がこの事件を知ったのは11月22日付の池田信夫氏blogです。それから4日遅れの報道ですから、タイミングとしては遅いと言わざるを得ません。ま、無視を決め込んでいる大多数のメディアに比べれば遥かにマシですが。

実は、朝日新聞の夕刊で報じられていたことを私が知ったのは数日前です。この原稿を書くのに当たって調べなおした際に引っかかってきた情報ですから、私もリアルタイムで気づいたものではありません。ですから、ほかにも見落としがあるかも知れませんが、少なくとも現段階において日本の主要なメディアはこの事件を完全に無視していると見なして間違いないでしょう。

私の実家では私が生まれる前から朝日新聞を朝夕とも購読してきましたので、古新聞をあさらせてもらったところ件の記事を見つけました。スキャナで取り込んだそれを以下に載せておきます。

朝日新聞のクライメートゲート事件報道
(C)朝日新聞 2009年11月26日 (夕刊・15面)

この記事は同紙の特派員によるレポートのようですが、全般的に伝聞調で他人事のように書かれている印象です(あくまでも個人的な感想です)。事件の概要についても全く舌っ足らずですし、ホッケースティック曲線の騒動が日本では黙殺された手前もあるのか、それに結びつけることも一切書かれていません(この記者がホッケースティック曲線の一件を知らない可能性もあります)。

しかしながら、日本では他の主要メディアがことごとく無視を決め込んでいる中でこの話題を取り上げ、夕刊とはいえ掲載に踏み切っただけでも朝日新聞にしてはよくやったと誉めておくべきでしょうか。その続報がないのは非常に残念ですが。なお、これら以外で日本語で書かれた記事としましては、Newsweek(日本版)の電子版にある『気候変動版「ウォーターゲート」の衝撃』もありますのでご参考まで。

日経も朝日同様、地球温暖化問題については科学的な考察など無視した精神論のような社説を載せていますが、約1年前に「やはり口先だけ」と題したエントリでご紹介しましたように、電子版は遙かに真っ当です。ま、保守系もリベラル系も日本のメディアの主流は判で押したように「地球温暖化が人為的なものであるのは疑う余地なし」といった立場で報道を繰り返し、逆に転んだときのことを全く想定していませんから、この事件も振れずに済むならそのままやり過ごしたいのでしょう。

とはいえ、間もなくポスト京都議定書を策定するCOP15がコペンハーゲンで始まります。CO2排出量削減義務を課せられることに抵抗している途上国はこの事件を引き合いに出す可能性も大いに考え得ることです。そうなれば日本の主要メディアも触れないわけにはいかなくなると思うのですが。

さて、このクライメートゲート事件の具体的な中身ですが、日経Ecolomyや朝日新聞の記事ではメールが盗まれたといった報じ方になっており、「trick」という言葉の意味が問題視されたり、懐疑派が文脈を無視して一部を抜き出し、曲解しているだけといった反論を載せています。が、実際にはそんなレベルで収拾が付くようなハナシではなさそうです。

前述のようにサーバーから抜き出されたのはメールだけでなくプログラムのスクリプトなども含まれています。その中には「trick」がプログラムコードとして書かれたものもあり、具体的な改ざんの要領が解るかなり決定的な物証となりそうなものも幾つか見つかっているようです。しかしながら、ここまで突っ込んだ情報は欧米のメディアでも報じられていないようで、扱いの難しい問題に発展することを恐れて彼らも慎重になっている可能性があります。

この辺りの詳しいハナシは次回に譲りますが、流出した情報がキチンと精査され、その内容の事実が確認されれば、改ざんがなされていたことが確定的になる可能性もあります。もちろん、それを嫌う多くの人たちの手によって政治的に押しつぶされてしまう可能性も否定できません。どちらに転ぶかはまだ予断を許さない状況とは思いますが、もしかしたら大山が崩されることになるかも知れません。

(つづく)

クライメートゲート事件は大山を崩すのか? (その1)

先日頂いたコメントにもありましたが、欧米の主要メディアはいま地球温暖化問題の根幹を揺るがしかねない「クライメートゲート事件」を盛んに報道しています。

「クライメートゲート」という呼称は、アメリカのニクソン大統領(当時)を辞任に追い込んだ「ウォーターゲート事件」以来、「コリアゲート」や「イラン-コントラゲート」などスキャンダラスな謀略事件に「○○ゲート」といった感じで接尾語のように用いられるようになったそれに倣ったもので、「クライメート」とは「climate」すなわち「気候」を意味します。

ウォーターゲート事件はニクソン政権当時の野党だった民主党本部があるウォーターゲート・ビルに盗聴機を仕掛けようとしたことが明るみに出たスキャンダルでしたが、このクライメートゲート事件は地球温暖化の研究において草分け的な存在で、国連のIPCC(気候変動に関する政府菅パネル)でも中心的な役割を果たしてきたグループがターゲットになりました。

それは、イギリスのCRU(イーストアングリア大学気候研究所)で、そのサーバーに何者かが侵入、外部とやりとりされた1000を超えるメールやプログラムのスクリプトなど3000を超えるファイルが持ち出され、ロシアのFTPサーバにそれが匿名でアップされるとともに、懐疑派のblogやコミュニティサイトなどへその情報が流されたという経緯になります。その中には不正の証拠となるような様々な情報があり、大スキャンダルに発展する可能性があります。

中でも注目されたのが懐疑派の間では常々話題になってきた「ホッケースティック曲線」に関わるものです。今回の事件についてハナシを進める前に、まずはホッケースティック曲線を巡る一連の騒動を振り返っておきましょうか。

当blogでも過去に何度か触れていますが、IPCCが発行した第3次評価報告書に採用された古気候のグラフは木の年輪や珊瑚、氷柱などに刻まれた痕跡から過去の気温の推移を復元したものとされました。が、19世紀以前は微少な変動しかなく、最近の100年くらいに急激な気温上昇を描くのは如何にも不自然で恣意的ではないかと問題視されました。

ホッケースティック曲線
IPCC第3次評価報告書に掲載された過去の気温の推移
このグラフが「ホッケースティック」と俗称されるのは、
形状がそれに似ていることによります。


このグラフはIPCCの評価報告書という地球温暖化問題において圧倒的な影響力を持つ資料に採用されたことから様々なところで引用され、これを以て地球の気温はかつてないほど急激な上昇を続けているという印象がバラ撒かれることになりました。

しかし、従来の古気候学では10世紀から14世紀くらいにかけて「中世の温暖期」と呼ばれる気温の高い時期があり、その後19世紀くらいまで「小氷期」と呼ばれる寒冷期があったと考えられてきました。こうした従来の定説がホッケースティック曲線では異常に過小評価されていたことが論争を巻き起こしたんですね。

そして、このグラフを作成したペンシルバニア州立大学の気候学者マイケル・マン氏に対し、データの出典に関する追求がなされました。アメリカの共和党議員からは元になったデータの公表が請求されましたが、マン氏はこれを拒否し、またアメリカ気候学会や地球物理学連合などは政治の介入を科学者に対する脅迫だとして彼の擁護に回りました。

しばらくして、このグラフはアメリカのスティーブン・マッキンタイアという民間の鉱物研究者が調査したデータを歪曲して作られたものだとされました。また、ドイツのハンブルク大学気象研究所の教授でGKSS研究センター沿岸研究所システム分析及びモデル化担当所長でもあるハンス・フォン・シュトルヒ氏のチームが厳密な計算を行ったところ、マン氏のグラフは19世紀以前の気温の変動が過小評価されていることを確認、その旨が有力科学誌『Science』に発表されました。

シュトルヒ氏はホッケースティック曲線を「ガラクタであり、ゴミだ」と述べたそうです。データを使われたとされるマッキンタイア氏も「マン氏のグラフは私のデータを歪曲して偏向した結論を導き出している」とコメントしました。こうしてホッケースティック曲線は事実を歪曲したものだという認識が広がるに至り、欧米の有力メディアには地球温暖化問題を巡るスキャンダルとして大きく報じられました。

Wikipediaにある「ホッケースティック論争」という項には「マンらの明らかな間違いは結局のところ出典の誤記だけであり、その結論には変わりが無いとされる」と書かれ、あたかもマン氏の論文には問題がなかったように読めてしまう書かれ方がなされています。が、実際には彼が論文を発表したNature誌に対して出典の誤記があったことと結論に変更はないとの旨が自己申告されただけです。このグラフの正当性が立証されたというわけではなく、疑惑が晴れたという事実もありません。

恐らく、普通に新聞やテレビの報道番組を見ているだけの人(つまり、地球温暖化問題に関する情報を積極的得ようとしていない人)でこのホッケースティック曲線を巡る騒動があったことを知る日本人はあまり多くないと思います。それは日本のメディアがこの一件をほぼ完全に黙殺したせいだと考えて間違いないでしょう。

これが政府の圧力によるものだとしたら、日本も中国や北朝鮮並みの情報鎖国ということになり、彼らを笑うことも批判することもできなくなります。が、日本人お得意の「空気を読む」習性から阿吽の呼吸でメディア自身がバイアスをかけ、自主的に排除してしまったのだとしたら、それはそれでむしろタチの悪い問題といえるかも知れません。

いずれにしても、ホッケースティック曲線をめぐる疑惑はあくまでも疑惑であって、それを裏付けるような物証が存在しなかったのも事実です。が、今回のクライメートゲート事件でメールやファイルが公となったことから、不正を暴くかなり有力な証拠が見つかりそうな状況にあるようです。

(つづく)

利口な人はどちらに転んでも立場を失わないようにしておく

ひとつ前のエントリでご紹介した『Newsweek(日本版)』の「『環境伝導師』ゴアのプロジェクト第2章」というレポートは副題が“ベストセラー『不都合な真実』の続編が登場 元アメリカ副大統領が語る温暖化対策の青写真と意外な「進化」”となっているようにゴア氏の主張や活動に肯定的です。このレポートが5頁、ゴア氏の新著『私たちの選択』からの抜粋で構成されたコラムが1頁、合計6頁が人為的温暖化説を肯定した内容となっていました。

日本のメディアなら普通はこれで終わります。が、そうでないのがアメリカのメディアらしいところで、これら6頁にわたって人為的温暖化説を肯定的に扱いながら、その直後にわずか1頁とはいえ懐疑的な立場の意見も載せ、両論併記というジャーナリズムの大原則に従ってちゃんと釘を刺しているのは賢明なことです。いえ、本来であればこうした構成にするのが当たり前で、日本の殆どのメディアが地球温暖化問題について恐ろしく偏った報道を繰り返しているのが非常識と見るべきでしょう。

で、1頁割り当てられた異論のコラムですが、『サメと温暖化が来た、逃げろ!』というタイトルで、副題は“異論 地球が寒冷化しているという「不都合な真実」を黙殺するナンセンス”となっています。何故ここでサメが出てくるのかタイトルを見ただけでは私にも解りませんでしたが、コラムの終盤で2001年に起こったアメリカのサメパニックを引き合いに出したことからこういうタイトルになったわけですね。

2001年、フロリダ州で当時8歳の男の子が鮫に襲われて右腕と太ももの肉を食いちぎられるという事件があったそうです。メディアがこれを殊更大きく扱ったことから「大変だ!みんな今すぐに海から上がるんだ!」というムードが蔓延するパニック状態に陥ったといいます。しかし、全世界でサメに襲われた人は1995~2005年の平均で毎年60.3人、死者は毎年5.9人、アメリカでサメパニックがあった2001年も襲われた人が64人、死者は4人と平年並みで、このとき突如としてサメが凶暴化したのではないというわけです。

何らかの意図が存在するか否かはともかく、メディアが大衆を煽動するのはどこの国でもあることですし、メディアが発達する以前にも噂話などによって集団ヒステリーが引き起こされることは度々ありました。個人的には新型インフルエンザの一件も似たような匂いを感じますが、こうした問題は古今東西を問わず頻繁に起こることです。

それでも、その後に一連の騒動を教訓として生かせるか否かで大きな差がつくように思います。日本のメディアは過去を教訓として過熱報道をクールダウンさせようという自己抑制機能が滅多に働きません。殊に、地球温暖化問題についてはその偏向報道を戒めようとする気配すら感じられません。もちろん、アメリカでも一方的な情報で大衆を扇動しようとするメディアは沢山あるでしょう。が、一流といわれるところについてはやはり日本のメディアとひと味もふた味も違うように感じます。

Newsweek誌の『サメと温暖化が来た、逃げろ!』というコラムの冒頭は極めて自己批判的で、また実にシニカルな書きぶりになっています。

今週号38~42ページに掲載した記事「『環境伝道師』ゴアのプロジェクト第2章」には、「アル・ゴアの気候変動に対する考え方は、気候変動そのものと同じくらいのスピードで前進している。」という記述がある。

この表現はあまりにも失礼だ。もしそのとおりだとすれば、アル・ゴア元米副大統領の考え方が11年間全く前進していないことになる。過去11年間、地球温暖化は進んでいないのだ。

この件に関しては色々な議論があるが、少なくともコンピュータモデルがこのような結果を予測していなかったことは間違いない。

これは由々しき事態だ。将来、破滅的な地球温暖化が起きるというコンピュータモデルの予測が正しいという前提で、私たちは巨額の出費と自由の制約を絶えず迫られてきたのだから。

(後略)

(C)Newsweek(日本版) 2009年12月2日号(通巻1179号)


日本では五大紙をはじめとして大手メディアでこのような構成ができるところは一つもないでしょう。確かに、こうした構成はメディア自身が見解を統一できていない、どっち付かずの優柔不断と見なされてしまう恐れもあります。が、断定的に扱うべきでない問題をメディアが公平に扱うとしたら、こうしたスタンスであるのが当たり前で、地球温暖化問題のように科学的な理解が不充分な分野は常にこうあるべきなのです。

もし、これから寒冷化が進み、人為的温暖化説が間違っている公算が高くなったと多くの人が認識するようになったとしたら、いまの日本のメディアのようなスタンスでは立場がなくなってしまいます。そうしたときのための予防線としても人為説の反証をキチンと取り上げておくべきです。が、日本の多くのメディアはそうした危機管理能力が欠落しているのでしょう。

もちろん、Newsweek誌の報道にも偏りはありますし、下らない記事が載ることも的外れなことが書かれていることもあります。実際、「『環境伝導師』ゴアのプロジェクト第2章」も同誌のサイエンス担当記者が書いたものですが、それを同誌のコラムニストが批判しているように、前者が書いた記事の内容はかなりお粗末です。所詮、人間のやっていることですから完全無欠というわけにはいかないのでしょう。

が、少なくとも日本のメディアよりは広い視野で自分たちの身の置き場をわきまえ、どちらに転んでも立場を失わないように留意しているという点で、ずっと利口だと思いましたね。

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まとめ

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