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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

APS-Cサイズも悪くない (その1)

以前にも述べましたが、私は「35mm判フルサイズフォーマットの価格がこなれるまでデジタル一眼は買わない」と早い段階で決心していました。というのも、私が愛用してきたキヤノンのEOSシリーズも例に漏れず普及価格帯はAPS-Cサイズゆえ、保有しているレンズ(特にズームレンズ)が非常に中途半端な画角になって使いづらくなってしまうと考えたからです。

例えば、標準ズームはF3.5から始まる28-105mmとかF2.8通しの28-70mmなどを常用していましたが、キヤノンのAPS-Cサイズをフルサイズに換算するレート1.6を乗じると28mmは44.8mm相当の標準レンズになってしまいます。標準~望遠域というレンジはズームレンズの黎明期にはよくあるパターンでしたが、今日ではまるで通用しません。広角ズームで20-35mmというのも持っていますが、フルサイズに換算すると32-56mmという準広角~標準域になってしまい、これまた如何ともしがたい中途半端さです。

フルサイズ用のレンズをAPS-Cサイズに用いる場合、望遠系はより望遠になるだけですから大きな問題はないでしょう。が、標準域以下の画角をカバーするズームレンズはやはり専用のそれに揃え直さなければ非常に中途半端で使い辛いことになってしまいます。ところが、当初はそのラインナップが脆弱だったことが大きな懸念材料でした。

APS-Cサイズの普及価格帯デジタル一眼が各社から出揃ったのは2000年前後でしたが、当時は専用交換レンズのラインナップが乏しく、特に広角ズームやF2.8通しの大口径ズームはしばらく発売されませんでした。大口径が必要な場合は単焦点レンズを使うという手もありますが、広角は高価な14mm(キヤノンの場合22.4mm相当)や魚眼などの特殊なものを除いて、単焦点レンズでも対応できませんでした。

キヤノンに関していえばEF-S10-22mm F3.5-4.5 USM(フルサイズ換算で16-35mm相当)が発売されてようやくこの状態が解消されたわけですが、それは2004年11月のことですから、普及価格帯のデジタル一眼が出てきて5年くらい空白状態が続いたわけです。これが発売されたのはアマチュア向けフルサイズ機の第一号といえるEOS 5Dが発売される約10ヶ月前のことです。

EF-S_10-22mm.jpg
EF-S10-22mm F3.5-4.5 USM
鏡筒の質感やズームリングの操作感はEF20-35mm F3.5-4.5 USMにソックリで、
ズーミングしても全長が変化しない構造なのも全く同じです。
EF20-35mm F3.5-4.5 USMから乗り換えても全く同じ感覚で使えますが、
よりワイドな16mm相当から始まっている上、画質面も大幅に進歩しています。
3枚の非球面レンズが採用されたせいか、歪曲収差が非常に小さく抑えられ、
蛍石並の低分散を誇るスーパーUDガラスの恩恵か、色収差の補正も良好です。
全般的にシャープで、周辺部の解像度の高さは昔のものと全く比較にならず、
設計が新しい分だけ優れた画質が得られるといった印象です。


ちなみに、サードパーティからはシグマ12-24mm F4.5-5.6 EX DG ASPHERICAL HSMというレンズが2003年11月に発売されていましたが、これはフルサイズ用ですから、APS-Cには大きさや重さという点でややアンバランスですし、何よりPLフィルターが(普通のやり方では)使えないという欠点があります。

さらに、同じAPSーCサイズを謳っていてもメーカーによって微妙にサイズが異なっているのも気になるポイントでした。例えば、ニコンとキヤノンではニコンのほうが若干サイズが大きく、焦点距離をフルサイズに換算するレートもキヤノンの1.6に対してニコンは1.5と微妙に違います。もっと細かいことをいえば、同じメーカーでもモデルの新旧でイメージセンサのサイズがコンマ1~2mmくらい違うのはザラです。

また、キヤノンにはプロ用のEOS 1DにAPS-Hサイズ(最新のMarkIVの場合27.9×18.6mmでフルサイズ換算レートは約1.3)もあります。2003年にはオリンパスからE-1というフォーサーズシステム(4/3型=17.3×13mmで、フルサイズ換算レートは約2.0、アスペクト比が3:2ではなく、4:3になります)が発売され、フォーマットは統一されるどころか混沌としていく一方という印象でした。

こうした状況ではシグマタムロントキナーといったレンズメーカーなども辛いのではないかと思いました。彼らは同じレンズのマウントを変えて各社に対応することでマーケットの守備範囲を広げていますから、このようにフォーマットが不揃いであればそれが足枷となり、商品開発が進めにくいのではないかと思われました。

フルサイズに参入していたり、銀塩一眼レフカメラの生産も継続しているニコンやキヤノンなどもAPS-Cサイズ専用とフルサイズ用、異なるフォーマットで別々にレンズのラインナップを展開していくとなれば開発費も製造ラインも二重に投資しなければなりません。そんな非効率な状態がいつまでも続くのだろうか?という疑問もありました。

こうしたフォーマットの不揃い状態はイメージセンサのコストダウンが解決してくれるのではないかと私は見込んでいました。つまり、何年かして35mm判フルサイズのそれが普及価格帯に入ってくれば、あまり時を置かずにフルサイズがスタンダードに戻るのではないかと想像したわけですね。

そもそも、APSやフォーサーズなど小さなフォーマットはレンズの焦点距離も短くなります。焦点距離が短くなれば同じ明るさのレンズでも被写界深度が深くなり、主題を浮かび上がらせるために背景をぼかすといった表現の幅が小さくなります。凝った画づくりを求めようとするときに不利になるこれらのスモールフォーマットは安価なエントリーモデルなどに残されるくらいで、その専用レンズのラインナップは純正もサードパーティもそれほど拡充しないかも知れないと思ったわけです。

が、こうした予想は見事にハズレました。結局、EOS 5Dで先鞭を付けたキヤノンだけでなく、ニコンやソニー(旧ミノルタ)からもプロ用のハイエンド機に比べればリーズナブルといえるフルサイズ機が発売されましたが、それはハイアマチュア向けといった位置づけに収まっています。中級機以下は依然としてAPS-Cサイズで埋め尽くされ、オリンパスがフォーサーズで孤軍奮闘している状態なのはご存じの通りです。

レンズ開発の問題も、メーカーによっては従前からエントリーモデル、中級モデル、上級モデルと3つくらいのラインナップがありましたから、フルサイズ用を上級モデルとし、APS-Cサイズ専用とはグレードで棲み分ければ二重投資も回避できます。

実際、昨秋に刷新されたキヤノンのレンズラインナップではフルサイズ用で中級以下のズームレンズが僅か2本になってしまいました。春のカタログには5本ありましたから、3本も落とされてしまったわけで、棲み分けが進んできたという印象がより強くなりました。EOS 5DやEOS 1Dsなどのフルサイズ機を使う人は、「L」と称する上級ラインナップを買って下さいというわけですね。ま、そのほうがバランスが良いのは確かですが。

ペンタックスやオリンパスは現在に至るもフルサイズ機を発売していませんが、この2社は銀塩時代から既に一眼レフ市場ではジリ貧状態で、AF時代にはプロ用のハイエンド市場に参入しませんでした。彼らは今後一眼レフカメラ市場から撤退することはあってもフルサイズ機の市場に参入することはないのかも知れません。

銀塩時代は35mm判フィルムを使う必要から各社ともそれに合わせてフォーマット自体は統一されていましたが、カメラに固定されたイメージセンサで画像を写し取るデジタル時代にはフォーマットそのものの互換性はあまりシビアである必要がないということなのでしょう。レンズマウントなどは大昔から互換性など重視されませんでしたし。

こうしてフォーマットの不揃い状態が放置されたままフルサイズに収斂されることもなく、しかしメーカー間で多少のブレを残したAPS-Cサイズが一眼レフカメラの主流を成す状態が確固たるものとなりました。中級以下とそれ以上との棲み分けは今後も続いていくでしょうが、どうやら多くの人はフルサイズを必要としていないようです。

ま、現実問題としてフィルムに比べればAPS-Cサイズでも解像度など多くの面でそれを凌駕していますから、被写界深度の深さなど一部の表現手段が少々スポイルされるくらいは大きな問題ではないのかも知れません。これは単焦点レンズが当たり前だった時代からズームレンズ全盛時代へ移行したときと同じような道筋をなぞっているような気もします。ズームレンズの便利さと引替えに「明るさ=被写界深度の浅さ」が損なわれたという状況に似ているといえるかも知れません。

(つづく)
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