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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

愚者は同じ過ちを繰り返す

これまでも何度となく触れてきましたが、三菱ふそうのクレーム隠しが発覚した2004年、三菱車に車両火災が発生する度にメディアはこれを大きく取り上げ、あたかも三菱車だけが頻繁に燃えているといった誤った印象を形成してしまいました。しかし、毎日平均20台くらいが燃えていながら、報じられたのが三菱車だけだったことから、この一件は偏向報道の具体例として松永和紀著『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』やWikipediaの「偏向報道」の項にある「一方的なバッシング・過度の肩入れ」でも紹介されています。

いまメディアが大きく報じている新型プリウスのブレーキ関係の不具合(トヨタはまだ正式に不具合とは認めていませんが、ここでは便宜上「不具合」と標記することにします)も結局はABS絡みの制御系プログラムに原因があったとのことで、一般的なABS装着車にも見られる不具合と大きな差異は認められません。

これは車両火災の実態を知らぬまま三菱車の火災だけしか扱わなかった偏向報道と全く同じで、ABSに関する不具合の前例を全く調べず、実態を知らぬまま新型プリウスの一件のみを問題視するという状況になっています。彼らに進歩を期待するのは無理なことなのでしょうか?

ABSの不具合については先にもご紹介しましたようにいすゞエルフ(および同型のOEMである日産アトラス)やシトロエンC3およびC2のようなハードウェアに因むものも何件かありましたが、今回のプリウスと同じく制御プログラムの問題、即ちソフトウェアに因んでリコールやそれに準ずる改善対策となったケースはさらに多く、決して希なことではありません。ABSの制御プログラムの不具合でリコールおよび改善対策となった実例を以下に列挙してみましょうか。

1999年に届出のあったダイハツ・ミラ等の26,166台、2000年に届出のあった日野中型トラック・中小型バス等の14,766台、2005年に届出のあった三菱ふそう大型バス等の2,243台、2006年に届出があったトヨタ・エスティマの18,149台、2007年に届出のあったジープ・チェロキー等の1,985台などです。

全てのリコールおよび改善対策をしらみつぶしに確認するのは大変な手間がかかりますので、ここで取り上げたのはサーチエンジンで「ABS リコール」「ABS 改善対策」で検索してヒットした案件だけです。なので、漏れがある可能性も低くないと思いますが、少なくとも最近11年の間にABSの制御プログラムの問題で制動距離が長くなる恐れがある不具合は以上のように5件ありました。2年に1回くらいのペースで起こっていたということですね。

また、トヨタの対応に批判が集まっていますが、「対応が遅い」というのは当たらないでしょう。上に挙げたリンク先をご覧頂けばお解りのように、発売から1~2年して対応しているケースが殆どで、三菱ふそうのケースでは最大で16年経過しているものもあります。要するに、こうした前例を全く把握せずに新型プリウスの発売からまだ9ヶ月弱しか経過していない段階でトヨタへの批判を高めているという状況です。

確かに、トヨタのメディア対応も酷いものでした。当初「調査中」としておきながら一夜明けたら「先月出荷分からプログラムを修正して対策済み」と翻してしまったのはお粗末としか言いようがありません。トヨタ内部でもマトモな意思疎通ができていなかったということで、こうした点は批判されても仕方ありません。それに加えて、修正を行ったからにはやはりプログラムが適切ではなかったということですから、国土交通省への報告をしておくべきでした。この点は私もトヨタに対して大いに批判しておきたいところです。

しかしながら、不具合そのものは直接の原因がABSの動作を制御するものか、ABSを働かせるために回生ブレーキから摩擦ブレーキに切り替える際の動作を制御するものかの違いこそあれ、全く同種の問題であって、新型プリウスのそれだけが問題視されるのは公平性を欠くものです。無知は偏向報道に直結するという、三菱車の火災問題と同じ過ちをそっくりそのまま繰り返してしまったわけです。

また、こんな出鱈目な報道が横行しているのも笑止千万です。

不具合の改修方法には、不具合の原因が設計や製造段階にあったことを認める「リコール」と、自主的な改修である「サービスキャンペーン」などがあるが、トヨタの今回の対応には国内でも批判が強まっており、「リコールせざるをえない」(業界関係者)との見方もある。


この「業界関係者」がどういうレベルの人なのか解りませんが、日本における自動車のリコール制度のイロハも知らないようなド素人の意見を拾ってどうするのかと思いましたね。

(2月8日追記) 今般の新型プリウスの件でトヨタはまだ欠陥を認めていないということが頭にあって書き進めていたため、少し言葉が足りませんでした。以下のように赤字の部分を付け加えさせて頂きました。

日本の制度では自動車メーカーが国土交通省に不具合情報を報告したら、その処置をどうするかメーカーと見解が食い違っていても最終的には国土交通省が決めます。それには「リコール」「改善対策」「サービスキャンペーン」の3つありますが、メーカーが「サービスキャンペーン」に該当すると主張してもどれに該当するかを最終的に決めるのは国土交通省であって、メーカーが勝手に判断することはできません。

「リコール」「改善対策」「サービスキャンペーン」の違いは何なのか、メーカーの報告以降の手続きがどうなっているのか、詳しく述べていると長くなってしまいますので、いずれ別にエントリを設けることにします。が、日本のメディアは3度も繰り返されたクレーム隠しの問題を経、三菱ふそうのときはあれだけ猛烈なバッシング大会を繰り広げておきながら、リコール制度については何一つ勉強してこなかったということです。

ちなみに、ABSに関するリコールや改善対策の前例からしますと、制御プログラムの改修で済んだものは殆どの場合がリコールに準ずる「改善対策」になっています。私が知る範囲ではジープ・チェロキー等の1件が「リコール」になりましたが、上記5件中4件は「改善対策」となりました。一般にハードは「リコール」、ソフトは「改善対策」になる傾向が強いように見られますが、この辺は紙一重なのでしょう。

なお、ABS絡みの不具合で「サービスキャンペーン」となった前例は、ABS警告灯が誤作動するとか、通常のブレーキとして正常に作動するもののABSが働かなくなるといったケースがありました。いずれも欠陥とはいえないレベルの軽微なものですね。

こうした前例に照らしますと、プリウスのケースも「改善対策」もしくは「リコール」に該当する可能性が高いと思われます。が、いずれにしても国土交通省に届け出て正式に対応するとなれば、トヨタが「サービスキャンペーン」を主張してもどのカテゴリーに属することになるのか最終的な判断をするのはトヨタではなく、国土交通省自動車交通局技術安全部審査課の仕事です。

こうしたことは専門家に聞けばすぐに解ることですが、そうした取材も行わず、前例の確認も怠って、ただ流れてくる情報の受け売りに終始しています。日本中がこうした低レベルな報道に翻弄されるのは実に情けないことです。もう少しマシな報道ができるようになって欲しいと望むのは無い物ねだりなのでしょうか?
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