酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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ホンダはインサイトで多くのことを学んだに違いない (その5)

走行時には常にピストンが動き続ける現在のホンダのハイブリッドシステム「IMA」は、現状でのハイブリッド車に用いるならともかく、エンジンを稼働させずに電気自動車として走る機会も多くなるプラグイン・ハイブリッド車にそのまま応用すると相応のエネルギーが無駄になります。

ホンダのこのシステムは単純にバッテリーの容量を増やし、モーターを高出力なものにしても、そのままではプラグイン化に向きません。ホンダはこのシステムの次を準備しておかないと、プラグイン・ハイブリッド車の市場投入が本格的になってきたらトヨタとの差がさらに大きなものになってしまうでしょうし、場合によっては日産に抜かされてしまう可能性さえ否定できません。

ホンダのIMAはこうしたデメリットがある一方、既存の車種にも応用しやすいというところが大きなメリットといえます。ホンダはそれを最大限に活用してフィットやインサイトと同じ「グローバル・スモール・プラットフォーム」と称するプラットフォームを用いる車種を中心として、広くこのハイブリッドシステムを展開する計画だといわれています。

ま、いまの段階ですぐにプリウスのようなプラグイン化も容易な新システムに切り替えるのは無理でしょう。フィットにもインサイトなどと同じシステムを導入するのは開発費を償却する頭割りの台数を稼ぐためにも至極常識的な判断といえます。

ここでフィット・ハイブリッドに望むことは、やはりインサイトの轍を踏むことなく、クルマとしてのバランス、殊にコストと品質のバランスでは妥協せず、高いレベルに纏めてもらいたいというところです。Bセグメントは特に価格性能比に厳しい激戦区ですし、このクラスのハイブリッド車はトヨタも未経験です。そういう意味でホンダは先駆者になるわけですから、それに恥じない仕事を期待します。

プリウスのオーナーがフィット・ハイブリッドに買い替えるというケースは滅多にないでしょう。現実的にはフィット・ハイブリッドでハイブリッド車を初体験する人が圧倒的に多いと思います。そういう人たちにハイブリッド車のポテンシャルを低く見切られてしまうのもあまり望ましいことではありません。やはりホンダには頑張ってもらいたいところですね。

ただ、本当に出来の良いフィット・ハイブリッドが発売されたら、それこそインサイトの運命が決してしまうかも知れません。かといって、インサイトと差を付けるためにフィット・ハイブリッドの価格設定を低く抑え過ぎるのも問題で、ガソリンエンジンだけのフィットとの兼ね合いも重要になってきます。現状ではどうあがいても利益率を高く設定できないハイブリッド車にユーザーがなだれ込んでしまうと、商売としての旨みがなくなるだけ損という状況になりかねません。

こうしてみてもインサイトの位置づけはかなり中途半端だったように感じます。フィット・ハイブリッドの価格設定をインサイトに近づけることも車格や両者のキャラクターを考えれば難しいでしょう。「ホンダは格好だけの専用車に寄り道せず、初めからフィット・ハイブリッドをリリースすべき」といった意見も聞かれましたが、フィット・ハイブリッドの位置づけを考えると、やはりそうすべきだったのかも知れません。

これまで述べてきましたように、インサイトはプラグイン化に向かないシステムゆえ発展性も乏しく、技術面においてはプリウスほど感心できるクルマではありません。が、ビジネス面で見ればそれなりに野心的だったと思います。そして、その世界戦略はホンダの思惑通りにいかなかったと結論づけても差し支えないでしょう。

最も当て込んでいたアメリカでは当初計画の30%にも届かない惨憺たる状況ですから、国内の最初の10ヶ月間で計画の約2倍売れたのが救いだったとはいえ、全体では目標を達成できそうにありません。堅調だった国内も今年に入ってガタ落ちという有様なのはこの連載の初回に詳しくお伝えした通りで、今後も厳しい状況が続くものと思われます。

ま、これは一般論ですが、想定内でそこそこ順調にいくよりも、想定外のことが起こって色々考えさせられたほうが結果的には得るものが大きかったりします。インサイトの売れかたを見ていますと、やはりホンダは大いに考えさせられ、その分だけ勉強になったのではないかと思います。それを今後に生かせるかどうかですが、ホンダくらいのメーカーならあまり心配する必要もないでしょう。

あくまでも個人的な希望ですが、ホンダにはこれまでのIMAと違うプラグイン化にも応用しやすい新たなハイブリッドシステムをできるだけ早い段階で投入して欲しいと思います。どうせやるなら全体的な技術レベルもプリウスに肉迫するところを目指し(いきなり追い越すのは無理でしょうし)、今度こそプリウスと本気の勝負をしてもらいたいところです。それでプリウスを負かすことができなくても、ライバルとしてマトモに戦えるだけでも、それはホンダにとって重要なステップになるでしょう。

IMAは既存の車種を利用してハイブリッド車のラインナップを拡大するには都合の良いシステムです。蒙昧な環境相が思い描いている稚拙な政策に乗っかるなら威力を発揮できるシステムといえるかも知れません。もっとも、当のホンダも「今後10年間でのモデルチェンジの回数を考慮すると、開発と商品化には時間的制約がある」として環境相が発表したロードマップの対応には「支援策を講じていただきたい」と述べていますが。

簡便な方法から次第にハイレベルなものにステップアップしていくのも一つの方法として間違いではないと思います。そのステップアップのタイミングを見定めるのも難しいとは思いますが、発展性の乏しいシステムで引っ張り過ぎるのも得策ではありません。初代インサイトから11年、初代シビック・ハイブリッドから8年以上になるのですから、そろそろ本気で次のステップの具体的なスケジュールを検討すべきでしょう。

福井社長の発言通りならホンダがプラグイン化も見据えた2モーターシステムの開発に着手したのは1年くらい前のようです。ホンダもハイブリッド車では先行してきたメーカーですが、この10年くらいの開発ペースはあまり褒められたものではないように思います。

前述のように、高級車というコストを吸収しやすい方向へ逃げたとはいえ、日産もEV走行可能でプラグイン化も難しくないと見られるハイブリッドシステムをフーガに搭載して今年中には市販を開始します。それを徐々にコストダウンしながら下位グレードに展開していけば、それなりの競争力を持つようになるかも知れません。

マツダもトヨタからのライセンス供与というカタチになりますが、3年以内にハイブリッド車市場への参入を目指しています。また、以前にもご紹介しましたように、トランスミッションメーカーもハイブリッドシステムを内蔵したそれを開発し、虎視眈々と参入を目論んでいます。

アイシンAW_HD10
アイシンAWのFF2モーターハイブリッドシステム(HD-10)
「シリーズ式とパラレル式の長所を融合した」と謳うシステムで
駆動用と発電用それぞれのモーターとインバーターを
トランスアクスル内に一体パッケージしているとのことです。
システムの一部にはトヨタとダイハツのパテントも含まれるようですが、
そのライセンスを含めたコンプリートでの供給も不可能ではないでしょう。
このシステムを採用すれば全てを自社開発するよりは容易に
ハイブリッド車を作れるかも知れません。
(コスト面で競争力を持たせられるか否かは別問題ですが。)


ホンダはインサイトで「安くすれば良いというものではない」ということを学んだハズですから、プラグイン化も見据えた次世代システムの開発を急ぐでしょう。そうでなければせっかくのアドバンテージを何年後かには手放すことになるかも知れません。私はホンダがそこまで先見性のないメーカーだとは思いませんので、次なる一手に期待しています。

(おしまい)
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ホンダはインサイトで多くのことを学んだに違いない (その4)

私はインサイトに対してかなり厳しい評価をしてきましたが、それはコストダウンのためにとられた手法がプリウスとは比べるべくもない安易さだったことと、それでいながらプリウスの威を借りるようなスタイリングをまとって技術的な内容が解らない人を惑わせてしまったところが看過できなかったからです。初めから(見た目も含めて)ホンダ自身がプリウスとの違いを鮮明にし、メディアを利用したPRも分相応にとどめていたなら、ここまでの酷評はしなかったと思います。

プリウスが3代目へモデルチェンジするに当たって行われたコストダウンは実に濃密で、パイオニアであるトヨタがそのリードをより広げるための意地みたいなものも感じられました。特に興味深いのはパワーコントロールユニットに関する部分です。少々込み入ったハナシになりますが、ザッと纏めてみましょうか。

プリウスもモーターを駆動するパワー素子にIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を採用していますが、そのIGBTは車載デバイスとしての信頼性を向上させるため温度センサーと電流センサーを同時に1チップ化しており、これは世界初になるといいます。また、作成プロセスを工夫することでコレクタ電極付近に電子と正孔が再結合して消失する層(再結合層)を設け、スイッチング時のオン抵抗が大きくなるのを抑制し、エネルギー損失を抑えています。

驚くべきことにトヨタはこのパワー素子を内製しているそうです。逆にいえば、こうした車載用のスペシャルなパワー素子が一般に存在しないから自分たちで作ったということなのかも知れません。今後はより効率の良いSiC(炭化ケイ素)を用いたパワー素子の開発が進められていく方向ですが、まだSiCウェーハの直径は4インチになったばかりで非常に高コストであるのがネックです。実はデンソーもそのSiCウェーハを内製していますから、トヨタはそうした点でも優位にあるといえるでしょう。

2台目プリウスではそのパワー素子の裏にセラミック製の絶縁基板を設け、そこに銅製のブロックを配置しました。これらによって素子の放熱を行っていたのですが、絶縁基板とブロックとの熱膨張率が異なっていると歪みが生じて破損の原因になります。それを避けるため、ブロックは銅にモリブデンを加えた合金として熱膨張率をセラミック基板に合わせていたのだそうです。

が、これがなかなかコストのかさむ部材だったそうです。そこで、3代目ではセラミック基板にアルミ合金のパンチングメタルを挟んで放熱板にロウ付けし、熱膨張率が合わなくても金属の弾性を利用して歪みを吸収することにしたといいます。

また、初代は274Vだった走行用バッテリーの電圧を2代目は201.6Vへ下げているのですが、モーターへは昇圧回路によって500Vにアップコンバートされています。こうすることによって初代では33kWだったものとほぼ同じサイズのモーターで50kWの出力が得られました。発進・加速時に充分な出力を得たことでより燃費特性を向上させるとともに、EV走行モードを設け、モーターだけでも少しの距離なら走れるという仕様を加えることができたというわけです。これはプラグイン化を容易にするという伏線にもなっているでしょう。

が、この昇圧回路がまた2代目ではコストのかさむ部分でした。プリウスの昇圧回路もコイルを用いますが、そのコアとなる素材を吟味してやらないと磁歪が生じて「磁歪音」という耳障りなノイズが発生します。電車の場合、特に車内騒音に対してあまりシビアではない在来線ではこうしたノイズ対策を重視しない傾向があり、鉄ちゃんの中には独特の音階で変化する磁歪音を楽しむ人もいるようですが、乗用車ではこれを何とかして抑えなければ苦情の元になりかねません。

2代目プリウスでは、ケイ素を6.5%加えた0.1mm厚の鋼板の表面を絶縁して重ねたものをコイルのコアに用いていました。ケイ素を含ませることと、0.1mmという薄さが磁歪の発生を抑えていたわけです。が、ケイ素と鉄は密度が3倍以上違うために電気炉では拡散しにくく、鋼板の表面からケイ素を浸透処理させる方法がとられていました。これがまた処理に時間がかかることからコストがかさむうえ、この薄い鋼板を重ねたコアの製作も工程が多く、やはりコスト高に繋がっていたといいます。

3代目では表面に絶縁層を設けた鉄粉を高圧で固め、それをコアとして用いることで工程を大幅に減らし、磁歪が発生することも許しました。しかしながら、軟質樹脂を用いたフロートマウント構造とすることで、昇圧回路を収めているユニットの外へ磁歪による音や振動が伝わるのを抑えたといいます。

技術屋が理想を追求すると、何か問題が生じているときはその原因となる要素に直接対策を講じ、後処理的な手法は極力使いたくないと考えがちです。2代目プリウスの場合は熱膨張率の違いによる歪みの問題も磁歪の発生も素材を工夫することで元から断ったわけですが、3代目ではそうした拘りを捨てました。最終的な品質に影響のない部分はより合理的な対策に転換したといったところでしょうか。

くどいようですが、こうした技術もまた電気自動車に通じるもので、トヨタはこうして大規模マーケットを相手にしながら性能の向上とともにコストダウンの手法についても着々と腕を磨いているわけです。高性能バッテリーが手に入りさえすれば「電気自動車は簡単」などと寝言のようなことを言っている人たちは、こうしたメーカーの努力を何一つ知らないのでしょう。

他にも色々ありますが、プリウスの開発陣はこうして品質を確保したまま、ユーザーの目に触れない部分で徹底的にコストを削る努力を重ねてきたわけです。それに比べますと、インサイトはあからさまに内装のグレードを落とすとか、エアコンのコンプレッサーの電動化を諦めるといった安易な方向に逃げてしまいました。プリウスでは巧みな合理化でコスト削減が行われたのに対し、インサイトは単なる安物で妥協したといった印象です。(あくまでも個人的な感想です。)

インサイトの販売状況が芳しくなくなってきたのはその報いであると私は感じていますが、だからといってホンダにはこのまま引き下がって欲しくありません。当blogでも何度か書いてきましたが、私はS2000を新車で購入して約5年半乗っていましたし、中高生の頃にはF2やF1で活躍したホンダの熱狂的なファンでもありました。いまでもホンダは好きなメーカーで、トヨタは企業としてみればむしろ嫌いな部類になります。

私は是々非々主義ですから、メーカーとしてはホンダのほうが好きでも、ハイブリッド車を見比べればインサイトよりずっと高度なことをやっているプリウスに好感を持っています。ま、個人的な好き嫌いなど他の人にはどうでも良いことでしょうけど、メーカーとして好きなホンダにはハイブリッド車でもトヨタに負けないものを作って欲しいと願っています。もちろん、すぐにとはいいませんが。

発売は今秋とも噂されているフィット・ハイブリッドもシステムはインサイトなどと同じ「IMA (Integrated Motor Assist)」と称する方式が採用されるそうです。つまり、フライホイールを薄型のモーターに差し替え、比較的容量の小さいバッテリーを搭載し、その名の通りエンジンのパワーアシストを主体とする方式です。

IMAの概念図

モーターはフライホイールも兼ねていますからクランク軸と直結状態で、モーターのみの走行時や減速時に発電機として用いる際にもクランクが回り続け、ピストンも動き続けることになります。もちろん、そうした際に燃料噴射は行われませんし、ホンダお得意の可変バルブシステムで弁機構を停止し、できるだけフリクションを抑えるようになっています。

が、やはりクランクとピストンとそれを結ぶコンロッドは動き続けるわけで、それにエネルギーが奪われることになります。つまり、モーターのみの走行も、減速時のエネルギー回収も、遊星歯車の空転でエンジンとの機械的な繋がりを断つことができるプリウスやワンウェイクラッチが介在するアイシンAWの方式に比べると効率が劣る仕組みなんですね。それゆえプラグイン化に向かないのですが、そんなことはホンダも充分に認識しているでしょう。

プリウスは走行用モーター(減速時にはエネルギーを回収する発電機になります)とは別に、走行時にも停止するエンジンを再始動させるセルモーターと走行時の余剰エネルギーや減速時のエネルギーを回収する発電機を兼ねたもう一つのモーターを搭載しています。これらのモーターとエンジンとアクスルを繋ぐ遊星歯車による動力混合/分割機構で構成されるハイブリッドシステムは、かなりの部分が特許で守られています。つまり、知的所有権の問題も深く絡んでくるわけですね。

ホンダの福井社長は「トヨタがすべての特許を持っているわけではないし、トヨタのシステムがベストだとも思わない」と述べ、大型車への搭載やプラグイン化にも適している2モーターのハイブリッドシステムを開発すると公言しています。が、そのプロジェクトがスタートしたのはどうも昨年のようです。12年も前にそれを市販化しているトヨタと、それから10年以上遅れて同種のシステム開発に着手したホンダとはやはり取り組み方に大きな差があるように感じられます。

(つづく)

ホンダはインサイトで多くのことを学んだに違いない (その3)

私は莫迦みたいに高価で実用性の低い航続距離しか持たない電気自動車に対して台当たり百何十万円というガソリンエンジン車が1台買えてしまうような高額な補助金を支給しながら無理矢理普及を促すより、順番的にはプラグイン・ハイブリッド車を間に挟むべきだと考えます。バッテリーの性能向上と価格の低下をプラグイン・ハイブリッド車に反映させながら、電気自動車へソフトランディングさせるほうがずっと現実的で、歪みの少ない方法だと思うからです。

莫大な税金を投じて電気自動車を普及させるということは、クルマを持たない生活を送っている人たち(クルマを乗り回している人たちよりずっとエコな生活をしている人たち)にも余計な負担を強いることになります。本当に環境のことを考え、エネルギーの有効活用を望むなら、クルマに乗る人を減らすべきです。が、いま行われているような電気自動車の優遇政策はクルマに乗らない人が損をするという歪みをもたらします。

そういう意味でもトヨタように電気自動車よりもハイブリッド車を重視して車種を増やし、バッテリーの性能向上を睨みながらプラグイン・ハイブリッド車を展開していき、いずれ純粋な電気自動車へ移行する機会を窺うといった筋道を選択肢の一つとして用意しておく考え方に私は賛成です。

これまで何度となく述べてきましたが、世間一般に期待されているほど早く電気自動車の普及は進まないでしょう。既に市販が始まっている三菱のi-MiEVは満充電から正味で80kmくらいしか走れません。私が所有している2代目プリウスは燃料の残量が6Lを切ると警告が出ますが、私が普通に運転すれば6Lの燃料で140~170kmは走れます。現在の電気自動車はプリウスが燃料の残量警告を発してから走れる距離の半分というごく限られた中で使いこなさなければならないわけです。

ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなら仮に燃料切れとなってもJAFを呼べばその場で解決します。私はその会員になっていますから燃料代の実費だけで済み、すぐに走れるようになります。が、電気自動車のバッテリー切れは勢いレッカー移動という大袈裟なことになってしまいます。JAF会員なら15kmまで無料ですが、それを超過したり非会員だったりすれば700円/kmという料金を取られてしまうわけですね。それで急速充電器のある充電ステーションへ運んでもらっても、充電のためにそれから30分の足止めを余儀なくされます。

私などは燃料の残量警告が出ると充分な航続距離が残されていると解っていながら少々落ち着かなくなってきます。実際には10段階の表示単位で示される既存の燃料計の他にもトラストのTOUCHという車載コンピュータから情報を読み出すモニタを装着していますから、燃料消費量を0.1L単位で把握できます(ちゃんとキャリブレーションすればかなり精度は高いと思います)から、それほどヤキモキする必要もないのでしょうけど、根が心配性なのでしょう。

i-MiEVもそうですが、イマドキの電気自動車にはバッテリーの残量から残りの走行可能距離が表示されるのが当たり前になっているようです。とはいえ、常にそのようなカウントダウンを見ながら走るというのは私のような心配性にはかなりスリリングでしょう。

人によってはすぐに慣れてしまうかも知れませんが、私は自分でクルマを運転するようになって20年くらい経っても残量警告が出ると落ち着きません。i-MiEV程度の航続距離しかない電気自動車を所有したら乗る度にこうしたスリルを味わうことになってしまうのでしょう。

電気自動車の推進派は「充電インフラがなくても家庭用100V電源が使えるから自宅でも充電できる」などと宣伝します。が、自宅にカーポートがあるならばともかく、月極駐車場などの保管場所を借りている人や集合住宅などに住んでいる人はそれもかなり難しいことになってきます。自宅で充電できるといっても、その環境を容易に整えられる人がどの程度の割合になるといったデータを私は見たことがありません。そうした現実を無視して徒に楽観論を吹聴するのは無責任というものです。

もちろん、プラグイン・ハイブリッド車も自宅で充電できない人たちにとっては大したメリットがありませんから、充電インフラが拡充しなければそういう人たちに買ってもらうのは難しいでしょう。が、プリウスのようにモーターだけでも普通に発進できるハイブリッド車ならバッテリーの容量や充電用のソケットを装備するか否かでプラグインとそうでない普通のハイブリッドとを作り分けるのはさほど難しくないでしょう。

商品ラインナップとしても同一車種のグレード違い程度で振り分けることが可能でしょうから、別に純粋な電気自動車を持つよりメーカーにとっての負担も軽くなるハズです。そうした点でプリウスのような方式は非常に有利になってきます。実際、プリウスのプラグイン・ハイブリッド仕様も動力系はプラグインでない普通のそれと変わりませんし。

しかしながら、現在ホンダがインサイトやシビック・ハイブリッド、CR-Zに採用している方式は単なるパワーアシストに近いもので、発進時には必ずエンジンを始動しなければなりません。モーターの動力だけで走行できるのは40km/h前後のごく限られた速度レンジにとどまります。この方式では他にも色々問題がありまして(詳しくは次回に)、プラグインへの発展性が非常に難しい方式だといわざるを得ません。

なお、日産がフーガで予定しているそれもモーターの出力が50kW(約68ps)とそこそこのパワーがあり、モーターのみのEV走行が可能になっているようです。もちろん、バッテリー容量が限られていますからプリウス同様に走れる距離は大したことないと思いますが、そうした性能を持たせておくのは今後の発展性を考えれば重要なポイントと言えるかも知れません。恐らく、日産のシステムもプラグイン化を視野に入れているのだと思います。

低出力モーターと容量の小さいバッテリーで殆どパワーアシスト的な用いられ方をするホンダの方式も現状においては悪くない選択といえるでしょう。が、この方式でのプラグイン化はかなり難しいと思います。一般的に、次世代を担うようなシステムにあって発展性が限られるのは失敗に繋がるケースが多く、私はあまり良い判断だと思いません。もちろん、ホンダもその辺は弁えていて、次のステップを準備しているようですけど。

(つづく)

ホンダはインサイトで多くのことを学んだに違いない (その2)

ホンダは案外しぶといメーカーですから、インサイトの国内販売台数が激減したといってもすぐに引っ込めたりはしないでしょう。初代はオールアルミボディで売れば売るほど損をするようなクルマだったようですから、あまり引っ張るのは得策ではありませんでした。現行は利益率こそ低いようです(実際、CR-Zのほうが利益率が高いことをホンダは認めています)が、ちゃんと利益を出せるクルマだといいます。

シビック・ハイブリッドも慢性的に売れない状態が続いていながら1回のフルモデルチェンジを挟んでラインナップに残し続け、8年以上踏ん張ってきました。シビック・ハイブリッドとインサイトの価格差は最廉価モデルで40万円程度、最上級モデルで65万円程度になりますが、販売台数は桁違いですから、ラインナップを維持するのはインサイトのほうがずっと楽でしょう。

トヨタとてハイブリッドシステムの基本技術に関しては開発費を別口で計上しています(トヨタは年間1兆円近い技術開発予算を割いており、ハイブリッド車や燃料電池車など様々な基礎研究やシステムの開発もこの予算で行っているそうです)からハイブリッド車の収支も何とかなっているのでしょう。

恐らく、そうした開発費を丸ごと乗せていたら初代プリウスはどうあがいても黒字になどできなかったでしょう。現状においてもハイブリッドシステムの開発にかかった総費用をトヨタのハイブリッド全車種で頭割りして償却できるか微妙なところだと思います。

これは要するに先行投資ですね。ハイブリッド車の技術は電気自動車とも燃料電池車とも共通する部分がたくさんあり、将来に向けたステップとしても非常に有意義であるといえます。トヨタやホンダのように体力のあるメーカーはこうしたカタチで早々にハイブリッド車の本格的な市場投入を果たしたわけです。

が、世界的に見ればそれはかなり例外的といえます。そうして本格的なマーケット投入を進めれば、試験的な販売とは比べものにならないほど多くの人に扱われることになりますから、より厳しい洗礼を受けることになります。それは様々な形でメーカーを鍛え上げることになりますから、非常に意義のある経験ができるでしょう。

2代目インサイトのレベルであっても補助金に「おんぶにだっこ」状態で自立できない電気自動車を細々と売るのとは比べものにならないほどの情報が集まっているでしょう。プリウスのブレーキ問題のようにヒステリックに騒がれてしまうこともあるでしょうが、アレはアレで回生ブレーキシステムをより洗練させることに繋がっているハズです。

こうした視点で捉えれば、例の騒動もやはり大規模マーケットを相手にしてきたからこそ得られた糧といえるでしょう。トヨタやホンダはこうした経験を着々と積んでいるわけで、実戦を経験していないメーカーとはどんどん差が開いていくと思います。

軽薄なメディアはゴルフ場のカートに毛の生えたような零細メーカーの電気自動車をも一緒くたにしながら「電気自動車は簡単」と寝言のようなことをいいますが、そういうメディアに限ってプリウスのブレーキシステムがどうしてあのような問題に繋がったか全く理解しておらず、電気自動車も同様の複雑なブレーキシステムが必須であることを失念しているわけです。

販売台数が落ちたとはいえ、インサイトは日本国内に10万近く、海外にも4万程度のユーザーを得たわけですから、それはホンダにとっての財産といえるでしょう。ホンダがハイブリッド車をより高い次元に引き上げるのはこれからと考え、今後に期待したいところです。

日産もハイブリッド車を実験的に少数(100台限定)販売した経験がありますが、トヨタやホンダが本格的な市場参入を果たして約10年間、その後を追うことなく過ごしてきました。今年中に発売される予定となっているフーガもかなりの高額となるセグメントで、絶対的なマーケット規模が大きくありませんから、プリウスやインサイトのような大衆車ほど多くのユーザーを相手にするわけではありません。

ハイブリッド車も技術的にはそれなりに成熟してきましたが、全体としてはやはり追加コストに見合った付加価値としてマーケットの理解を充分に得ているとは見なし難い状態です。ビジネス的にはまだまだ高い障壁がそびえているからこそ、本格参入を果たせないメーカーが多いのでしょう。日産が高級車に逃げたのもコストを吸収しやすく、そうした理解を得やすいマーケットゆえだと思います。

インサイトは全般的にチープに作ることでコストを抑えたわけですが、マーケットが落ち着いてくると冷静にその安普請を見透かされてしまったといったところでしょうか。私も東京モーターショーの展示車やディーラーの試乗車などで実物に触れ、軽く試乗もしていますが、200万円前後の価格設定にして目に付く部分もあそこまで安っぽくて良いとしたホンダの判断は正しくないように感じました。

当然のことながら、プリウスも同じ価格帯のガソリンエンジンだけで走るクルマよりは装備や内装のグレードなどの面で若干見劣りする部分があります。が、インサイトほどあからさまではありませんし、多くの人が納得できるレベルをキープしているゆえにあれだけの台数が売れていると見るべきでしょう。それだけトヨタのコスト管理は巧みだということです。

特に3代目は排気熱再循環システムを導入したり日本で初めて冷却水ポンプまで電動化するなど徹底して効率アップに努め、それでいてあそこまで価格を抑えました。メカニズムの価値が解る人にはとんでもないバーゲンセールだということが理解できるでしょう。また、インサイトとのレベルの差もそれなりにクルマのことが解っている人ならすぐに見抜けることです。

実際、トヨタから正式発表される前段でも最廉価モデルは205万円になるという情報が流れていましたが、ホンダの商品統括責任者である阿野氏は「あの価格で出してビジネスが回るのならば、トヨタさんは本当に凄い会社だなと思う。」とコメントし、半信半疑といったリアクションでした。プリウスのあの内容であの価格が実現できたのはとんでもないことだと解る人には解ることなのです。

ホンダはシビック・ハイブリッドで兼用車ゆえの訴求力の低さを学んだとの旨を述べていましたが、専用車であってもただ安くすれば良いわけではないということをインサイトで強く感じ取ったと思います。もっとも、トヨタがあそこまでプリウスを値下げして徹底抗戦に出たことのほうがホンダにとっては大きな痛手で、あそこまでの値下げがなければインサイトがもっと売れていたのは間違いないでしょう。

先駆者が開拓したマーケットへ参入するにも節度を弁える必要があるとホンダは改めて思い知らされたでしょう。えげつなくプリウスそっくりのフォルムを採用し、「エコカーは、作っただけじゃエコじゃない。みんなに乗ってもらって初めてエコなんです」といったテレビCMを流し、聞きようによっては「トヨタはハイブリッドカーを作ってきたけど、それほど多くの人に乗られていない」と受け取れるような宣伝を展開したのは、トヨタにしてみればかなり挑戦的と感じられたでしょう。

本来であれば車格の違いから無難に棲み分けができ、利益率を上げることができていたであろうプリウスをトヨタは大幅に値下げし、その分だけ利益を減らし、インサイトの購入を考えている客層にも比較検討されるような土俵に乗せました。そうした決意に至らしめたのは、ホンダの戦略がトヨタにとって見過ごすことのできないものだったからでしょう。実際、「ホンダはトヨタの虎の尾を踏んだ」というコメントもありましたし、「TH戦争」というフレーズも飛び交ったのですから、そう認識している人は少なくないでしょう。

シビック・ハイブリッドでも採用していたエアコンの電動コンプレッサーを諦めてハイブリッド車としての特別な仕様を減らし、フィットのフロアパネルを用いて前後のトレッドもそのまま、ホイールベースだけ50mmストレッチしたお手軽な方法で専用車を仕立て上げました。ホンダはそうして安く作った安物のハイブリッド車でパイオニアであるトヨタが築き上げてきた「専用車の領域」へ踏み込み、その市場をかき回したわけです。

それはトヨタの神経を逆撫でしたに違いないでしょうし、やはり賢明なやり方ではなかったと思います。プリウスを大幅に値下げし、販売開始前後にはあからさまな比較広告を行い、一部のディーラーではインサイトを買ってプリウスと並べ、実車同士で比較するようなこともやっていたといいます。ホンダのやり方がトヨタを本気にさせたのは間違いありません。

ホンダはインサイトのプロモーションにメディアを大いに利用しましたが、過熱する報道をコントロールした様子は感じられませんでした。先駆者に対する敬意を払わなかったことが大幅値下げによる徹底抗戦という状況をつくってしまった要因の一つになっているのだと思います。自由競争が許されている資本主義にあっても、ビジネスにはマナーが厳然として存在するということも、ホンダはインサイトを通じて再認識させられたのではないかと思います。

(つづく)

ホンダはインサイトで多くのことを学んだに違いない (その1)

4月6日に自販連から新車乗用車販売台数ランキングの確定報が、同日に全軽自協から軽四輪車通称名別新車販売速報が発表され、昨年度(2009年4月~2010年3月)の販売台数が纏まりました。プリウスが277,485台でトップとなり、2002年に261,420台でトップとなったフィット以来7年ぶりに25万台超を記録したということで話題になりましたね。

例のリコール騒動でもキャンセルはわずかで大した影響がなかったことも多くの報道で言い添えられていました。ま、あの程度であれば普通ならリコールどころか改善対策に該当していたかも微妙なところで、もしかしたらサービスキャンペーンでも済んでいたかも知れません。その程度の内容ですから、あそこまで莫迦騒ぎする必要はなかったでしょう。これは当然の結果だと思います。

また、インサイトも96,616台で10位に入り、トップ10に2車種のハイブリッド車が入ったこと、ハイブリッド車が全体の1割に達したことも話題にされました。しかしながら、今年1月からインサイトの販売台数がガタ落ちとなって以来、プリウスとインサイト各々の置かれている状況が大きく違っていることについて触れていたのは専門メディアを除いて皆無に等しく、一般紙やテレビのニュース番組でも話題にされることはありませんでした。まずは私が作成したいつものグラフをご覧下さい。

主要車種の登録台数推移09.02-10.03
主要車種の販売台数推移(軽自動車を除く)

ご存じのように3月は年度末の追い込みでいずれも台数が跳ね上がります。その反動で4月は落ち込むというのが常で、昨年の4月はそれを利用してインサイトが瞬間的に首位に躍り出るようなオペレーションをホンダはやっていたのではないかと私は想像しています。が、今年はそういう小細工ができるほどのバックオーダーはないでしょうし、それ以前にどんな手を使ってもプリウスは抜けないでしょう。

3月にはやはり年度末の追い込みでインサイトも5,397台となり、1~2月の平均3,500台弱から少し回復しました。当初の国内販売計画が5,000台/月だったことを思えばそれほど酷い数字とは言えないかも知れません。が、プリウスは昨年の3月に5,997台売っていたことを考えると安心もできないでしょう。

昨年の3月というと、プリウスは2代目の発売から6年が経過したモデル末期で、新型のCMがかなりの頻度で流されている状況でした。その発売が2ヶ月後に迫っている段階で、しかもエコカー減税/補助金も始まる直前です。買い控えにつながる悪条件が幾重にも重なっていた昨年のプリウスの状況を考慮すれば、発売からまだ1年程しか経過していない現在のインサイトの凋落ぶりが際立ってきます。

ネット上ではインサイトの販売台数が落ち込んだ原因を「CR-Zの生産による影響」とする意見も見られます。が、それでは台数が全く整合しません。CR-Zの当初販売計画は1,000台/月でその10倍以上を受注したと報じられましたが、それでもたかだか10,000台強です。

上図のようにこれまでインサイトの国内供給能力は約10,000台/月をキープしていました。1~3月の3ヶ月で30,000台供給できていたハズですが、その間の販売実績は12,344台でした。CR-Zの影響だとしたら、18,000台近い生産能力をそれに奪われたということになります。が、10,000台程度しか受注していないCR-Zの納期は3ヶ月程度といわれていますから、どう考えてもこれがインサイトを圧迫したと考えるのは無理があります。

そもそも、インサイトは欧米での当初販売計画に対して35%位しか売れていないのですから、かなりの余力があるハズです。その余力を無駄にして好調だった国内販売を大きく圧迫するような間の抜けた生産計画をホンダのような大メーカーがするとはとても考えられません。

インサイトの販売台数が激減した1月は22位でしたが、2月は24位、3月は25位と着実に順位を下げています(いずれも軽自動車を除く順位です)。トップ30から陥落する可能性も現実味を帯びてきましたが、そうなると自販連のサイトで確認できる通称名別の販売台数ランキングに載らなくなり、どの程度売れているのか具体的な数字が非常に把握しにくくなってしまいます。

思えば、発売から猛ダッシュで話題をさらったインサイトは軽薄なメディアから二輪車の覇権をヤマハと争ったあの「HY戦争」に準えて「TH戦争」という言葉まで引き出しました。が、私はインサイトの販売台数が落ち始めるのは昨年9月頃(試乗車の登録状況次第では10月頃)と予測していました。断片的な情報を元にしていたせいか3~4ヶ月遅くなったものの、私の予想は大筋で的中したといって差し支えないでしょう。

昨年4月の販売台数でインサイトがトップになったことが報じられた5月初旬、「TH戦争」などと煽動したメディアは、それから8ヶ月ほどで販売台数が激減してしまうことも、海外では最初から大不振が続いてきたことも、察する能力がなかったというわけです。

私の個人的な感想としましては、インサイトがハイブリッド車の価格を引き下げた功績は評価したいところですが、その内容はやはり「安かろう悪かろう」でした。最廉価モデルの価格差はインサイトの189万円とプリウスの205万円でわずか16万円、装備の違いを考慮すればむしろプリウスのほうが割安なのに、ハイブリッドシステム他諸々の内容も全く次元が違うということに気付かない人があまりにも多かったことに私は少々驚いていました。

昨年末までインサイトが月販1万台前後をキープしていたほうが私にとってはむしろ予想外で、それだけ直感的にクルマを買う人が多い(あるいは心情的なアンチトヨタが多い?)ことを改めて知らされたといったところです。

(つづく)

週刊新潮も目覚めた?

例のクライメート・ゲート事件について当blogで取り上げたとき『クライメート・ゲート事件は大山を崩すのか?』と題しましたが、盲目的に人為的温暖化説を信じ切っていた日本のメディアも少しずつこれを切り崩していくことになるかも知れません。

欧米のメディアがこのスキャンダルを大きく取り上げてきたのとは対照的に、日本の主要メディアは極めて小さな扱いでお茶を濁しただけでした。世界の流れからすれば日本のメディアの反応のほうが異常というべき状態で、1月に読売新聞の社説で触れられたのは極めて画期的な出来事だったと評すべき状態でした。

先日ご紹介したWEDGEは販路が特殊なマイナー誌ゆえ、毅然とした編集方針が貫かれたのかも知れませんが、週刊新潮の最新刊(4月8日発売)にも『「地球温暖化」を眉つばにした「世界的権威」のデータ捏造!? ――根拠が消えた「CO2原因説」と巨万の「CO2ビジネス」』という記事が掲載されました。

週刊新潮_地球温暖化を眉唾にしたデータ捏造?

4ページという限られた紙幅の中でクライメート・ゲート事件の経緯を綴り、その後に次々と明らかになったIPCCの失態についても概要が纏められています。それゆえ、取り立てて目新しい情報はありませんでしたが、主要メディアがごく表面的な部分に触れるだけで他人事のように報じていたのとは異なり、肝心な部分をそれなりに抑えていると思います。何より、誰でも知っている週刊新潮というメジャー誌でここまで扱われたのはかなり画期的といえるでしょう。

もっとも、週刊新潮はこれまでにも誤報や問題のある報道を繰り返してきただけに、『「地球温暖化」を眉つばにした』という彼ら自身が眉唾で見られている恐れがあるというところがネックではありますが。

人為説支持者には「横浜国大の伊藤、東大の渡辺、中部大の武田、結局コメントしてるのはいつものメンバーじゃねぇか」と言われそうですが、人為説の脅威を吹聴しているメンバーも江守氏をはじめとした国立環境研の人たちや東北大学の明日香氏、前東大総長の小宮山氏、東工大の蟹江氏といった具合で顔ぶれはいつも同じようなものですから、それはお互い様というべきでしょう。

ところで、件の記事にはこう書かれています。

 これまで懐疑派はマイナーな存在だったが、クライメートゲート事件で風向きが変ってきた。例えば、ドイツの世論調査で、06年は調査対象の62%が“温暖化が怖い”と回答したが、現在は“怖くない”が58%だという。


2001年に第三次評価報告書が発行されたときもホッケースティック曲線が問題となり、欧米のメディアにはその捏造疑惑が大きく扱われ、論争も巻き起こっていました。その論争の中で、ドイツのハンブルク大学気象研究所のハンス・フォン・シュトルヒ氏はホッケースティック曲線を「ガラクタであり、ゴミだ」と述べたというのは以前にもご紹介したとおりです。

アメリカは言わずもがなですが、ドイツでもIPCCの評価報告書や人為的温暖化説そのものに懐疑的な人たちは少なくありませんでしたから、「これまで懐疑派はマイナーな存在だった」というのは世界的に見ればチョット違うでしょう。それは日本のメディアが偏向してそういう報道を避けてきたゆえの印象なのだと思います。

とはいえ、やはり人為説を信じている人のほうが多数派であるのは間違いないでしょう。日本や韓国のように約9割が信じている状態が異常というべきだと思いますが、ドイツでこのような世論調査の結果が出ている理由をよくよく考えるべきです。

日本のメディアはドイツを環境先進国だと崇拝し、彼らを見習うべきだとする報じ方を度々します。ま、実際にはそれほどでもなく、GDP比でのCO2排出量は日本より4割くらい多いのですから、日本のほうがエネルギーの利用効率が高いという点で彼らより勝っているんですね。風力発電や太陽光発電といった子供騙しのエネルギー政策にすっかり感化されているに過ぎないというのが私の個人的な感想です。

ただ、この記事で紹介された世論調査からも解るようにドイツの人たちも人為的な地球温暖化という仮説に対してはそれなりに冷静な受け止めかたをしていることが伺えます。彼らがこうした回答をしているのは、ひとえに日本よりも情報のバランスが取れているからでしょう。見習うべきなのはむしろこうしたところです。

そういう意味でも、週刊新潮には続報を期待したいところですね。

鋭い楔

私は通勤に都営地下鉄を使うのですが、JRの「キオスク」に相当する駅売店「メルシー」の雑誌棚に『拠りどころを失った温暖化対策法案』という非常に気になる見出しを掲げている雑誌がありました。これは『WEDGE』というタイトルの月刊総合情報誌で、どうも一般の書店にはあまり並ばないらしく、駅売店などを中心とした販路になっているようです。そのせいか、私もこれまでその存在を知りませんでした。

WEDGE_2010年4月号

気になったので手に取ってみると、横浜国大の伊藤教授やアラスカ大学の赤祖父名誉教授といった人為的温暖化論やその脅威論などに対抗する論客によって書かれた記事でした。ということで買い求めることにしました。(さすがに駅売店で立ち読みはできませんし。)

伊藤氏の記事は『IPCC崩壊 それでも25%削減掲げ続けるのか』というタイトルで、例の「クライメート・ゲート事件」の後に話題となったヒマラヤの氷河消失に科学的根拠がなかった問題(以下、「グレーシャー・ゲート事件」と表記します)、これまで日本の主要なメディアがことごとくお茶を濁してきたこの不始末についてその経緯を伝えるほか、他にもIPCCの評価報告書が恣意的であったこれまでの流れについて要点を纏めています。

中でも興味深かったのが、グレーシャー・ゲート事件で明らかになったIPCCのレビュープロセスが全く機能していないという批判です。核心的な部分を引用してみます。

 WGⅠの報告書を担当した氷河の専門家G・ケイザーが語ったところによれば、彼は査読が終わったヒマラヤ氷河の原稿を見て、「専門家なら誰でも分かる馬鹿げた間違いだ」とIPCCに報告したが、彼の助言は容れられなかった。つまり、問題の箇所は専門家が書いたのでもないし、専門家が目を通してもいなかったのだ。しかも統括執筆責任者のラルは後日、「間違いに気付いていたが、その方がインパクトが強くなると思った」と語っている。

 ちなみに、当該章の査読編集者は西岡秀三氏(元国立環境研究所参与)である。西岡氏はWEDGE編集部の取材に対し、書面で「必要な指導を担当著者に行ったが、十分に反映されず遺憾」と回答したと聞くが、それで済むのだろうか。

※「WGⅠ」というのは、IPCCの報告書の中で自然科学分野を扱う「第1作業部会」のことです。

これを読んだ限り、氷河の専門家も日本の査読編集者も間違いに気付いて指摘したのに無視され、統括執筆責任者も間違いと解っていながら「インパクトが強くなる」という理由でスルーさせてしまったということになります。

こんなインチキが「科学」を標榜することは許されません。「インパクトが強くなる」などという意志がまかり通るような報告書を信頼するのは、よほどの思考停止状態か、インチキだと解っていながらそれを利用しようとしているか、どちらかになるでしょう。こんな出鱈目な報告書を金科玉条のごとく崇め奉るなど言語道断です。

また、同レポートの『作られた温暖化人為説』という中見出しの後には以下のように書かれています。

 このようにして、IPCCの中立性と権威は失われた。しかし、急に失われたのではない。第3次報告書の時点で既に危うかった。この報告書の目玉は、20世紀後半の気温上昇が異常であることを示した「ホッケースティック(HS)曲線」(下図B)だった。これは、事実上捏造に近かった。



IPCC崩壊それでも25%削減掲げ続けるのか-付図
IPCCの評価報告書に採用された古気候曲線と最近の知見
上からIPCCの第一次評価報告書に採用された古気候のグラフ、
「ホッケースティック」と俗称され、問題となった第三次評価報告書のグラフ、
最新の第四次評価報告書(フルレポート)に掲載されたものに準じたグラフ、
一番下は海底から採取されたコアから過去の海表面気温を推定した最近の研究で、
昨年8月に有力科学誌『Nature』に掲載されたものだそうです。


伊藤氏のレポートで「最近の知見」として紹介されたグラフは中世の温暖期が現在よりも高温で、小氷期の気温低下もかなり顕著に現れています。また、数十年単位の変動はともかく、全体的にはIPCCの第一次評価報告書に採用されたグラフと似たような動きを示しているのも皮肉な感じです。

もちろん、この「最新の知見」として紹介されているそれも真実を正確に反映しているか否かは解りません。が、こうした研究結果は世間一般に知られることなく、IPCCが編纂し、偏向したそれしか通用しないというのは科学的な知見を政治的に歪めていることになるでしょう。

一方、赤祖父氏も『CO2起因論はなぜ正説らしくなったのか』というレポートを寄せており、コンピュータモデルに依存しきった根拠の弱さを指摘しています。赤祖父氏の専門分野である北極圏の気温変動についてIPCCが採用したモデルの計算結果と実際の観測結果を突き合わせた資料も実に興味深いものがあります。

クライメート・ゲート事件以降、ここで指摘されているような出鱈目が次々に暴かれ、Newsweek誌においても「満身創痍」と評されているIPCCの評価報告書について、日本の主要なメディアもこうしたレベルで真摯に向き合うべきでした。夕刊でコッソリ扱うとか、社会面で欧米メディアの報道を掻い摘んで他人事のように伝えるなど、あまり深入りしたくない様子があからさまに感じられました。

スポンサーの商売を邪魔したくないのか、政府の方針に逆らってお叱りを受けたくないのか、メディア同士が阿吽の呼吸で空気をつくり、それに乗っているのか、その全てか、私にはどのような力が働いているのか想像に委ねるしかありません。が、ここまで偏った情報が幅を利かせているのは非常に不健全な状態であると思います。

驚くべきことに、件の『WEDGE』も東京電力や関西電力など、例によってCO2削減にかかるイメージ先行の似非エコチックな広告が複数掲載されています。こうした記事を載せることによってスポンサーとの軋轢が生じないものなのか心配されますが、余計なお世話かも知れません。

ま、ここで記事の全容をご紹介するわけにもいきませんが、伊藤氏のレポートはネットでも読むことができます。もっとも、たかだか400円の雑誌です。件の特集は両氏合わせて7ページではありますが、興味のある方は購入された上で赤祖父氏のレポートも併せて全文に目を通されることをお奨めします。他の特集記事『補助金どっぷり 農業ぽっくり』『トヨタ包囲網をこれから絞る米国の深謀』もなかなか読み応えがありますし。

この特集ですっかり同誌が気に入ってしまった私はバックナンバーについてもネットで読める記事を何本か読みましたが、先月号の『エコでエネルギーを語るな』なども当blogで再三書き綴ってきたことと同じ方角を向いており、私は同誌の編集方針にかなり波長が合うようです。

誌名の「WEDGE」とは「楔(くさび)」のことですが、その名の通り緩みきった世の中に楔を鋭く打ち込み、それを引き締める存在であり続けて欲しいと思います。

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まとめ

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