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事故をドラマにする人々

先週の金曜日(4月11日)に東名高速道路で発生した例の事故、産廃運搬業者のトラックの後輪が脱落して観光バスに突っ込み、運転手が死亡、乗客7人が負傷したあの事故ですが、大衆メディアの報じかたはお決まりのパターンにハマっていますね。

加害者はこんなに無責任だった、こんなにいい加減だったと強調する一方、被害者の殊に亡くなったバス運転手の素性や行動などと対比しつつ、感情に訴えかけるという、いつものパターンです。

亡くなった運転手はこんなにいい人だった、絶命まで乗客の命を守るためにブレーキをかけ続けた、所属するバス会社では「師範運転手」で、指導に当たる立場の優秀ドライバーだった、当日は57歳の誕生日で、出発前には同僚運転手やバスガイドらからプレゼントを受け取っていた、などといった情報を根掘り葉掘り取材して伝える必要があったのか少々疑問です。

ま、ブレーキに関してはともかく、誕生日プレゼントなどは事故と何の関係もありません。これについては単に世間の同情を引くための要素でしかないでしょう。こうして美化できるところは徹底的に美化し、被害者に対する哀れみや加害者に対する怒りといった感情を煽れるだけ煽り、読者・視聴者がこのネタに飽きるまで引っ張れるだけ引っ張ってやろう、大衆メディアの魂胆はそんなところにあるような気がします。

日本では毎日20人くらいが自動車事故で亡くなっています。今回の事故当日の死亡者数が何人だったのかは解りませんが、あのバス運転手の他にも亡くなった人は少なからずいたでしょう。同じように何の落ち度もなく命を奪われた人もいたと思います。そうした人たちは無視され、あのバス運転手の死だけが大きくクローズアップされたのは何故でしょうか?

それは、あの事故が珍しかったからという以外に大きな理由はないでしょう。

例えば、交差点へ進入する際に安全確認を怠って歩行者を轢いて死なせてしまった、といったありがちな事故はあまりニュースになりません。こうした事故は年間に何百件も起こっていますから、一々取り上げていたらキリがないでしょう。安全確認を怠って歩行者を轢いてしまった事故と、今回のように車両点検を怠って車輪を脱落させてしまった事故と、両者を比較して加害者の過失責任に決定的な差があるといえるでしょうか?

私はこれも一種の偏向報道だと思っています。今回の事故は偶然が重なった非常に珍しいものでした。タイヤが突っ込んだバスのフロントガラスはメチャメチャに壊れ、ビジュアル的にもインパクトのある映像素材となりました。

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亡くなったドライバーの状況は如何にも悲惨でしたが、乗客の被害は最小限で済みました。そのため、ドライバーの行動はヒーロー的に扱える上、取材してみると同情を誘うようなエピソードもいくつか出てきました。

一方の加害者サイドは運送事業者に選任が義務づけられている整備管理者や安全運転管理者が全く機能しておらず、ドライバーに車両管理を任せきりにしていました。また、法定点検も怠っていたり、過積載を繰り返してきた疑いもあるなど、事故を起こしてしかるべき状況だったことも解りました。また、この業者がそうした状況に甘んじていたのは原油高による燃料価格の高騰などで経営状態が厳しくなっていたからという非常に解りやすい理由もありました。

メディアがこの事故に食い付いたのは、食い付きやすい条件や素材が揃っていたからでしょう。

今回のケースでは破断した8本のハブボルトのうち2本の破断面が錆びていたことや、法定点検を怠っていたこと、過積載の疑いもあったことなどから、メーカー(いすゞ自動車)への責任問題には発展しないでしょう。恐らく、あの錆びた破断面がテレビ画面に映し出されたとき、いすゞの関係者は「三菱ふそうの二の舞にならずに済んだ」と胸をなで下ろしたと思います。ま、いずれにしても、責任追及の矛先が向けられるとしたら、それは加害者である産廃運搬業者になるのは間違いないでしょう。

こういうとき、大衆メディアは加害者を血祭りに上げれば、それが再発の抑止力になると勘違いする傾向があります。が、「同じような事故を繰り返さないように」と本心から願うのであれば、加害者バッシングなどしても殆ど無駄です。同業者へも戒めとなるプレッシャーをかけることができたとしても、数年を経れば忘れ去られ、忘れた頃に同じような事故が繰り返されるのがオチだと私は思います。

ま、今回の加害者は大型トラック1台、中型以下8台、計9台という吹けば飛ぶような零細業者ですから、メディアも本気で叩くかどうかは微妙ですが。

自動車の点検および整備は道路運送車両法第4章に定められています。今回の事故を起こした車両で違反があったとされる3ヶ月の法定点検は、同48条で規定されています。が、これには罰則がありません。罰があっても守れない人はたくさんいるのですから、罰がなければ尚のこと法令遵守の徹底が難しくなるのは子供でも解ることです。

こうした部分をしたたかに指摘して、管轄官庁である国土交通省に厳しい注文を付けているメディアは私の知る範囲で現在のところ全く見当たりません。しかし、本当に再発防止を願うなら、こうした視点を軸に論説を展開していかなければならないでしょう。

少なくとも、事故当日にバス運転手へ誕生日プレゼントが渡されたことを伝える暇があったら、こうした法制度の実態をあぶり出し、世に知らしめるのが真摯なジャーナリズムというものです。結局のところ、今回の事故も感情に訴える劇場型報道が繰り返されただけというのが個人的な印象です。

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