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ハブボルト折損は不可避なのか? (その2)

国土交通省が自動車メーカーや自動車関係団体に対してハブボルトの緊急点検を実施するよう指示する一方、「大型車のホイール・ボルト折損による車輪脱落事故に係る調査検討会」を設置したのは2004年4月のことでした。

中日新聞の社説でも触れられているとおり、同年2月に北海道でダンプカー(日野自動車)の車輪が脱落して2人を死傷させる事故が発生しています(運転していた運送会社社長は後に業務上過失致死傷罪で有罪判決を受けています)。国土交通省が車輪脱落事故について本格的な調査に乗り出したのはこの事故の約2ヶ月後のことですから、常識的に考えてこの死傷事故がきっかけになっていたと見るべきでしょう。

ま、それはともかく、この調査では様々な分野から報告を募っており、社団法人・日本自動車機械工具協会は「インパクトレンチの問題点を調査したところ、エア圧の管理不良、締付時間の管理不良、適正な能力のレンチ選択不良等により、過締め傾向にある。」と報告しています。

実際、私が自動車業界人だった頃に散々現場を見ていますが、エアーインパクトレンチで一気締めしてトルク管理なんてやらないというのが普通でした。

余談になりますが、一昨日の『報道ステーション』では自動車重量税の暫定税率期限切れの絡みで車検を5月に延期する人が増えているという話題を取り上げていました。その取材で中小の自動車整備工場に行ってカメラを回していましたが、そのカメラの前で思いっきりインパクトレンチでのホイールナット一気締めをやっていたのには笑いました。ま、映っていたのは乗用車でしたからトルク管理の義務はありませんが、私はこの映像を見て「こんな工場に愛車の整備は任せたくない」と思いましたね。

実は、日本のトラックは左側(助手席側)のハブボルトが逆ネジになっています。要するに、制動時にかかるトルクで締っていく方向にネジ山が切られているということですね。これについて、某トラックメーカーの技術の方と話をしたとき、「伝統的に逆ネジを使っているので何とも言えませんが、日本ではホイールナットのトルク管理が等閑だということも考慮されてきたからでしょう。」というようなことを言っていました。

「向こう(ヨーロッパ)ではホイールナットもトルク管理をキッチリやるのが常識だそうですから、現在は逆ネジなんて使っていませんし。」とのことで、実際、ベンツやボルボやスカニアなどのヨーロッパ製トラックも輸入されていますが、みんな左側のハブボルトもISO規格の順ネジになっているそうです。

日本ではホイールナットのトルク管理がいい加減というのはトラック業界では誰もが認めるところでした。そこで、2007年には「自動車点検基準」(省令)と「自動車の点検及び整備に関する手引」(告示)が改正、同年4月から施行されました。大型車についてはホイールナットを規定トルクで締め付けることや、12ヶ月の定期点検時にはホイールを外してボルトを詳細に点検すること、日常点検でもホイールナットの脱落や緩み、ハブボルトの折損など異常がないことを点検するよう義務付けられたんですね。

また余談になりますが、国土交通省の検討会の報告書などから、こうした法改正の動きを察知した私は、老舗トルクレンチメーカーである東日製作所の株を買っておこうかと思いました。が、調べてみたら同社は未上場でした。


大型車のホイールナット用トルクレンチ
締め付けトルクは650N・mを超えるものもあるため
レンチの全長は1300mmを超える巨大なものになっています。
また、差し込み角が表裏に設けられており、
逆ネジには裏返して対応する方式が一般的です。


このように車輪脱落事故について、問題の把握と対策の実施は4年も前から進められ、昨年には法令も改正されていたわけです。このとき、整備事業者に対しては罰則も設けられました。にもかかわらず、死亡事故が繰り返されてしまったのは、要するに使用者レベルまで徹底されていなかった故でしょう。整備事業者に罰則があっても法定点検や日常点検を遵守しない使用者に罰則がなければ片手落ちもいいところです。

国土交通省のサイトのトップページ右上にはサイト内検索があります。ここへ「車輪脱落」というキーワードを入力して検索すれば上記に関するようなプレスリリースや資料の類が山ほどヒットします。数時間かけて読み込んでいけば、これまでの経緯がかなり詳しく解るハズです。

が、大衆メディアは何故こうした情報を精査しようとしないのか、私には全く理解できません。それこそ、バス運転手の誕生日プレゼントがどうのこうのといったどうでも良い話を取材をしている暇があったら、こうした経緯をきちんと把握しておくべきです。

中日新聞が社説で金属疲労について頓珍漢なことを書いたのはご愛敬として、触れられていた同様の事故例などは恐らく自社のデータベースから過去記事をつまみ食いした程度でしょう。国土交通省のサイトをほんの数時間覗くだけでもっと深い内容に突っ込んでいけたハズなんですが、そいういう勉強はしていなかったというわけですね。

中日新聞の社説で少しだけ褒めても良いと思ったのは、ありがちな感情論に突っ走らなかったことです。加害者に対する批判もありましたが、これは至極常識的な意見と見るべきもので、無意味なバッシングにはなっていなかったと思います。また、「運輸当局」即ち国土交通省に対しても一応は注文を付けていた点も好しとすべきでしょう。

しかし、一介の会社員である私が片手間で(しかも非営利で)書いているblogで示せる程度の経緯すら全く知らずに社説を書いているようでは、大手新聞社として情けないことです。ま、私の場合は元業界人という強みもありますが、業界の事情が解らないのなら、解る人間に意見を仰げば済むことです。そんな取材など新聞社なら朝飯前だと思うんですけどねぇ。

(おしまい)

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コメント

はじめまして。脱輪事件について調べていて、このプログを発見しました。私もトルク管理の問題と思います。それも、締めすぎが原因です。
緩むと、ドライバーに怒られるので、締めすぎちゃうのです。緩んで当然、それを確認して増し締めするのが整備でしょ・・・と思わない人が増えました。
ただ、ひとつ解せないのは、2004年頃から、何故、脱輪事故が多くなったのでしょう。車両がデリケートになったのでしょうか?

  • 2008/06/16(月) 00:52:53 |
  • URL |
  • ゆうゆう #-
  • [ 編集]

ゆうゆうさん>

初めまして。ご高覧頂き有り難うございます。

私も専門家ではないので断定的なことはいえませんが、
ハブボルト折損による車輪脱落事故の原因として
インパクトレンチなどによる過締めは最も主要なものになると思います。

>ただ、ひとつ解せないのは、2004年頃から、何故、脱輪事故が多くなったのでしょう。車両がデリケートになったのでしょうか?

この疑問についてはデータを見ながら詳しく検討したほうが良いと思いましたので、
改めて記事にしてみました。
http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-163.html

宜しかったらご参考までに御一読下さい。

  • 2008/06/16(月) 23:39:26 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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