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SRMを食べながらSRMの混入に大騒ぎする日本人

昨日、吉野家が仕入れたアメリカ産牛肉にSRM(特定危険部位)の「脊柱」が混入していたということで、新聞やTVニュースなどが大きく報じていましたね。

吉野家向け米国産牛肉に特定危険部位

農林水産省と厚生労働省は23日、牛丼最大手の吉野家向けに伊藤忠商事が輸入した米国産牛肉に、牛海綿状脳症(BSE)の原因物質が蓄積しやすく、輸入を認めていない「特定危険部位」の脊柱(せきちゅう)が混入していたと発表した。特定危険部位の混入は06年7月の米国産牛肉の輸入再々開以降初めて。問題の牛肉は、消費者には販売されていない。

beef_srm.jpg

(後略)

(C)朝日新聞 2008年4月23日



こういうニュースが流れる度に私はつくづく思います。「違反は規則がつくる」と。

脊柱は多くの国でSRMに指定されていますが、例えばEUの基準では以下の場合に限って脊柱の使用を例外的に認めているんですね。

●国産牛にBSEの発生がありそうもないと科学的に評価されたEU構成国
●国産牛にBSEの発生が報告されているか、発生がありそうだと科学的に評価されたEU構成国において、反芻動物へ哺乳動物タンパク質の給餌禁止が有効に執行された日付以後に生まれた牛。

本当はもう少しグチャグチャと条件に尾ひれが付いているのですが、短いセンテンスでは非常に解りにくくなってしまうので少し整理させて頂きました。細かいニュアンスは省きましたが、おおよそこんな感じだとご理解下さい。

一方、日本の国内基準でSRMに指定されている腸の部位は「回腸遠位部」のみですが、国際的な指標となっているOIE(国際獣疫事務局)の基準では「腸全体」をSRMとしています。日本では現在でも焼肉やホルモン焼、モツ煮込みなどで普通に牛の腸を食べることができますが、海外では原則的に禁じられているわけです。

そもそも、OIEが腸全体をSRMに指定したのは2004年のことでした。この流れに至る発端となったのは、2000年にフランス食品衛生安全庁から提出された意見書でした。その意見書では以下の理由で腸全体のリスクを唱えています。

●回腸遠位部以外の腸の諸部位も僅かではあるが、異常プリオン(BSEの原因と考えられている物質)の増殖が可能なリンパ組織、神経組織を含んでいる。
●腸のクリーニングを行っても、異常プリオンの増殖が可能なこれらの組織を全て除去することが殆ど不可能であることが顕微鏡分析で確認された。
●これらの部位がマウスにBSEを感染させた例がないなど若干の実験的根拠はあるものの、マウスでの実験が牛から牛への感染よりも敏感とはいえず、これを科学的に保証するものではない。

こうした理由からフランス食品衛生安全庁の意見書は「回腸遠位部以外の感染性も否定はできない」とし、腸全体にもリスクが存在すると結論づけています。

これを受けてEUの科学運営委員会も同年にこの意見書を支持する意見書をOIEに提出しました。それから3年半ほどの審議を経、日本の反対意見を棄却し、OIEは腸全体をSRMに指定したというわけです。日本の反対意見が棄却されたのは、ひとえに有効な科学的根拠が示されなかったからでしょう。

当時の亀井善之農水相は「風評被害と申しますか、それらの問題につきましては、国民、消費者の皆さんに正確なリスクコミュニケーションと、こういうことも努めなければならないと思います」とコメントしていました。科学的根拠を伴わない日本政府の見解は、科学的根拠を伴うOIEの決定が日本に「風評被害」をもたらすかもしれないと懸念していたわけです。故人をなじるのも何ですが、彼は「風評」の意味を理解していたのでしょうか?

日本政府はこのOIEの決定を批准せず、国内基準を維持しました。その理由は、世界で唯一全頭検査を行っている日本でこうしたリスクは極めて低いからというものでした。しかし、その舌の根も乾かぬ2004年7月初旬、全頭検査で月齢の若い個体でも漏れなくBSE感染を確認できるのか検討しなければならない旨、日本政府は初めて公式見解として発表しています。

ちなみに、そのタイミングは参院選直前で、しかも自民党が票稼ぎのために「曽我ひとみ・ジェンキンスファミリー、ジャカルタで涙の再会」をお膳立てし、メディアの目は全て選挙とこの再会劇に集中している時分でした。政府はこの隙にひっそりとプレスリリースしたというわけです。例の9.11テロ当日、イギリスの政府関係者が「今日は政府にとって都合の悪いことを発表するには最高の日だ」と発言して大ヒンシュクをかったそうですが、いずこも考えることは同じということですね。

上述のように日本政府は国産牛に全頭検査を実施しているためリスクが低く、腸全体をSRMに指定する必要はないとしてOIEの決定を批准しませんでした。が、それから3ヶ月も経たない8月下旬、月齢の若い個体は異常プリオンの蓄積レベルが低く、現在の検査薬の感度ではBSE感染を全頭検査で漏れなく確認できるとは限らないという国際的な常識に沿う公式見解を初めて示しました。

こうして日本政府がリスクは低いとしていた根拠の一部が崩れたにもかかわらず、また科学的根拠を示すこともなく、OIEがSRMと指定している腸の消費が日本国内では認められ続けているんですね。何故、誰も説明を求めようとしないのか不思議で仕方ありません。単に牛モツが食べられなくなるのは嫌だからということでしょうか?

ま、それはともかく、EUでは条件付で認められている脊柱の混入で大騒ぎする一方、国際的に認められていない腸が何の疑いもなく消費されているというのが、BSEを取り巻く日本の状況なんですね。日本と海外のスタンダードが異なるのは、その背景に様々な事情が交錯しているからだと思います。なので、どちらがどうとは明言しがたいところですが、今回の騒動も傍から見ていると実にバカバカしいと思われるものでした。

テーマ:食に関するニュース - ジャンル:ニュース

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