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エアカーの実態 (その2)

MDIのエアカーは「圧搾空気で走る」と報道されていました。しかし、MDIの説明によりますと、圧搾空気の圧力だけなく、シリンダ内に取り込んだ空気をピストンで圧縮して生じる熱を利用する仕組みになるようです。一瞬「なるほど」と思ってしまいそうですが、よくよく考えてみますと、これはこれで大いに疑問です。疑問点は沢山ありますが、やはり一番は彼らが言うような原理が本当に成り立つものなのか? ということです。

結論から先に言ってしまいますと、圧搾空気の圧力を除いたエネルギーの動きを見た場合、こうした原理が成り立つのなら、このエンジンは「第一種永久機関」に相当すると思います。

このエンジンが出力として取り出す動力エネルギーは、筒内へ吹き込まれた圧搾空気が膨張するその圧力によります。その空気を膨張させる熱源はピストンによって圧縮された空気の熱です。そのピストンを動かす動力エネルギーは、筒内へ吹き込まれた圧搾空気が膨張する圧力です。その空気を膨張させる熱源は・・・ハナシが堂々巡りになってしまいましたね。

「熱源から熱エネルギーを取り出して動力に変換し、その動力によって生じた熱を熱源に回収する機関」これはまさに永久機関そのものです。第一種永久機関は「熱力学第一法則(エネルギー保存の法則)」に反することから実現不可能であることは理論的に証明されています。

では、MDIの空気エンジンが実際に動き、エアカーを走らせることができるのは何故でしょうか? それは要するに機関の外部から別のエネルギーが投入されているからです。

前回示したエコキュートは、気体(CO2)を圧縮して熱エネルギーを取り出しますが、その気体を圧縮するコンプレッサーを駆動するのは電気モーターです。つまり、電気エネルギーを投入して熱エネルギーを得ているわけですね。

ディーゼルエンジンの場合も、空気を圧縮した際に生じる熱を利用して燃料に着火していますが、その圧縮に必要な動力エネルギーは軽油などのディーゼル燃料を燃焼して得られる熱エネルギーが源になっています。

MDIの空気エンジンに外部から投入されるエネルギーは何でしょう? 考えられるのは圧搾空気の圧力のみですね。MDIの空気エンジンが動き、実際に自動車を走らせているそのエネルギーの源は、要するに圧搾空気の圧力ということになるでしょう。私が考えるMDIの空気エンジンの実態は以下の通りだと思います。

ただのレシプロ式エアモーターを複雑なカラクリで違うもののように見せかけているだけ

確証こそありませんが、間違っていたのは「圧搾空気で走る」とした報道ではなく、MDIの理論のほうではないかと私は思います。もし、実質的に圧搾空気の圧力だけで走っているのであれば、これはチョロQやゴム動力の模型飛行機と大差ありません。乗用車として如何に効率が悪く非現実的かは「圧搾空気で走るクルマ」でも述べたとおりです。

MDIは当初から最高速度100km/h前後、航続距離200kmくらいと吹聴してきました(その時々や車種によって多少数値が違っているようで、誤報かも知れませんが、航続距離800kmという情報もありました)。しかし、5年前に初公開された試作車は僅か7km少々しか走らなかったそうですし、このデータも彼らの口から伝えられたもので第三者による実測データではないようです。

そのときから効率を上げるよう改良すれば理論的に航続距離200kmくらいはいけると豪語していたようです。要するに、それくらい言っておかないと実用性がないとみなされ、出資を募ることは望めないのでしょう。

また、同社は試作車を初公開した5年前から、具体的な走行データは殆ど示さないまま、どこまでアテになるのか解らない理論値ばかりを前面に並べ立てて「来年には市販できる」と言い続けてきました。しかし、5年を経過した今に至っても「来年には市販できる」と同じセリフを繰り返しています。要するに、来年くらいと言っておいたほうが、出資を募りやすいのでしょう。

空気エンジンの発明者であるギー・ネグレなる人物は1991年にMDIを創業しました。恐らく、この会社は空気エンジンのアイデアを売りに投資家から出資を募り、その資本を試作機の開発や人件費などの支出で食いつぶしてきたというのが実態でしょう。少なくともこの17年間は売り物になる商品がないまま、つまり利益を上げることなく過ぎてきたようです。

guy_negre.jpg
空気エンジンとそれを発明したギー・ネグレ
この決めポーズからして如何にも胡散臭い雰囲気です。
(あくまでも個人的な感想です。)


現状では恐らく何の収益源も持っていないであろうMDIが会社として存続していられるのは、件の空気エンジンに対する「夢」に出資者がいるからで、インドのタタ・モーターズもそれに賭けたということでしょう。日米欧の主要自動車メーカーは見向きもしないベンチャー企業にタタは出資したわけですが、「成金の世間知らずが怪しげなビジネスに出資して騙された」というパターンになってしまうのか否か、暖かく見守っていきたいと思います。(タタには日本の銀行も出資していることですしね。)

それにしても、ドクター中松の「中松エンジン」もそうですが、この種の発明が次から次に出てくるのは何故なんでしょう? 永久機関が可能だと思っている人が後を絶たないからなのか、作動原理を理論的に精査すると永久機関になっているということに気付かない人が沢山いるからなのか、何なのかよく解りませんね。

(おしまい)



2008年5月11日追記

圧搾空気のエネルギーがどんなものか書いてみましたので、こちらも是非ご一読下さい。→「圧搾空気なんてこんなもの

テーマ:自動車全般 - ジャンル:車・バイク

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  • 2012/11/13(火) 18:46:30 |
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