インドのタタ、圧縮空気で動くクルマ発売
(前略)
長距離旅行などの場合には多種の液体燃料を使用できるバーナーで空気を暖めることで圧縮空気の圧力を高め、800kmの走行もできるようになるという。
(後略)
(C)carview 2008年3月27日
「バーナーで空気を暖めることで圧縮空気の圧力を高め」るということは、要するに圧搾空気の圧力を抜いて冷たくなったそれで大気の熱を奪うというヒートポンプの原理は完全に成り立たなくなり、大気の熱を利用するという説は崩壊します。
また、大気熱の利用云々を別にしても、以前「エアカーの実態 (その2)」で解説したような、ピストンで空気を圧縮して高温になった筒内へ圧搾空気を吹き込み、それが膨張する力を取り出すといった原理もかなり揺らいでしまいます。このバーナーを用いるという情報が正しければ、MDIの空気エンジンは単なるエアモーターでしかないということになるでしょう。
また、コンプレッサーを駆動するのが電気モーターであるなら、電気エネルギーを使って空気を圧縮し、その時に生じた熱を捨ててタンクに圧搾空気を蓄え、その圧搾空気を取り出しながらバーナーで熱を与えて圧力を割増し、エアモーターを回すという仕組みになります。熱を捨てて再びバーナーで熱を与えるというのは無駄以外の何ものでもありません。
もちろん、こうした熱エネルギーの収支を無視しても、蓄えた圧搾空気から取り出せるエネルギーがコンプレッサーを駆動する電気エネルギーを上回ることなど絶対にあり得ず、むしろかなりの損失が生じます。それならば素直に電気モーターでクルマを走らせたほうがずっと効率が良いでしょう。
このバーナーを用いるという報道も事実なのかよく解りません。このハナシは調べれば調べるほど訳の解らない尾ひれが付いて来るんですね。しかも、そうした情報には全く一貫性がなく、何が正しい情報なのかも解りません。いずれにしても、情報が錯綜している現状は情報源であるMDIが悪いのか、それを伝えるメディアが悪いのか、両者とも悪いのか、いずれかになるでしょう。

MDIの空気エンジン
詳細な原理は明かされず、断片的で一貫性のない
怪しげな情報が錯綜する謎のエンジンといった感じです。
それにしても、全くのプロトタイプ然とした佇まいで、
とても市販が近いとは思えない雰囲気です。
(あくまでも個人的な感想です。)
このように根本的な原理について矛盾する情報がいくつも乱立しているのは、そもそもMDIがきちんと基本原理を説明しないからでしょう。何故、彼らは公明正大に自分たちの発明の中身を公開しないのでしょうか?
公開したら真似される?
んなアホな。公開しなければ簡単には真似できない飲み物や食べ物のレシピじゃないんですから。機械モノの作動原理なんて分解されればすぐにバレます。彼らは来年には市販すると豪語していますが(本当に市販できる日が来るのかどうか解りませんが)、彼らの作ったエンジンが人手に渡り、それに価値があると解った途端にそれは分解され、原理が白日の下にさらされるのは間違いありません。
真似されたくないのなら、その仕組みを公にして国際特許を取得し、知的所有権を守るというのが機械モノの発明においては鉄則中の鉄則です。まして、MDIが豪語するような驚異的な性能が本当に得られるのであれば、世界中の自動車メーカーがこぞってそのパテントを欲するでしょう。MDIはライセンスを与えることで莫大な富が転がり込むことになるハズです。
(つづく)