【早坂礼子の言わせてもらえば】激安価格のクルマを作れ
(前略)
地方在住者にとってクルマは通勤や買い物に欠かせない生活必需品だ。
そのクルマが売れていない。2007年の国内販売は前年比7・6%減の343万台。軽自動車を含めても6・7%減の535万台だった。この傾向は今年に入っても変わらず、4年連続で前年割れする見通しだ。ピークだった1990年の777万台の4分の3の規模である。新車の保有期間もバブル前は平均5年だったのに、ここ数年は7年ほどに延びている。
ことに若者のクルマ離れが著しい。自動車ディーラーに聞くと来店客は家族連れがほとんど。ニートやワーキングプアの増加で、携帯電話の通信料を払うとクルマのローンを組めない若い人が多い。原油高騰でガソリンは上がるばかりだし、駐車場や税金など維持費も高い。欲しくても買えないのだ。
(中略)
インドではタタ自動車などが10万ルピー(約30万円)のクルマを開発している。インドで30万円のクルマが作れるというのなら、どうして日本国内でも作って売る努力をしないのか。クルマは100万円以上かかる買い物だと誰が決めたのだろう。ユーザーは富裕層ばかりではない。ちゃんと走って曲がって止まる足代わりで十分という人は多いはずだ。シンプルで燃費の良いクルマを激安価格で提供できないものか。バターやカップ麺と値上がりばかりの時代だからこそ、質がよくて安い商品を提供するのがメーカーの社会的使命ではあるまいか。
(後略)
(C)MSN産経ニュース 2008年6月17日
これを書いた記者は産経新聞で経済部の次長も務めたそうですが、どう考えても頓珍漢なコラムですね。
そもそも、新車が売れない最大の理由はクルマを持たない(持てない)人が増えているからではありません。何故そういえるのか? 自動車の保有台数は現在も増え続けているからです。財団法人自動車検査登録情報協会の自動車保有台数統計データによりますと、国内の乗用車(軽自動車を含む)の保有台数は今年3月末の時点で5774万4029台ですが、2年前は5727万6651台でした。この2年間で46万7378台も増えているんですね。
新車が売れない最大の理由は代替えサイクルが伸びているからに他なりません。その理由は色々あるでしょうが、現在のクルマは10年くらい普通に乗れます。バブル前といえば20年以上も前のことですから、クルマのクォリティも現在と同レベルだったわけではありません。もちろん、ユーザーの価値観も当時とは違っているでしょう。二昔も前のことを基準にして考えるほうがおかしいのです。
また、タタ・モーターズのナノは販売予定価格が30万円程度と、驚異的な低価格車ですが、これに追従するようなクルマを作って日本でも売れというのは、日本の自動車マーケットを全く理解していない暴論です。
日本には30万円以下でもナノとは比べ物にならないほど良く走り、装備も充実している中古車が掃いて捨てるほどあります。いえ、その半分くらいの価格でもちゃんと走る中古車はいくらでもあるでしょう。一方、約30万円に価格設定されているナノのベーシックモデルにはエアコンやカーラジオはおろか、助手席側のバックミラーさえありません。つまり、日本の公道を走るための保安基準を満たしていないのです。恐らく、排出ガスや衝突安全性も日本の基準を満たしてはいないでしょう。

Tata Nano
「タタ・ナノ、ヨーロッパへ?」と題したエントリの使い回しで恐縮ですが、
ナノのベーシックモデルは助手席側のドアミラーが省略されています。
インドではバックミラーなど殆ど見ないから必要ないという判断によるそうです。
日本の保安基準、排ガス基準、衝突安全基準などに対応してもなお、30万円程度の低価格に抑えるなど無理なハナシだと思います。が、よしんばこれらの問題をクリアできたとしても、マニュアルシフトのクルマなど、現在の日本ではあえてそれを望む人以外にはなかなか売れるものではありません。まして、エアコンのないクルマなど見向きもされないでしょう。
要するに、これだけ充実したクルマが溢れ返り、中古車ならオートマでエアコンもよく効くクルマがナノなどより安く手に入る日本にあって、日本の自動車メーカーが「ないない尽くしのチープカー」など作る意味がないのです。
(つづく)