酒と蘊蓄の日々

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お門違い (その3)

クルマを維持するには租税公課の他にも点検整備などのコストがかかります。が、そこに生じる収益の殆どは整備工場や部品メーカーなどにとどまるもので、自動車メーカー本体に返ってくるものではありません。特に販社の採算にはランニングコストにかかる収益が重要な柱になっています。

また、部品メーカーが自動車メーカーへ供給する部品は極めて薄利です。逆に、修理などで部品を単品供給する際にはちゃんと利益が載せられています。また、輸送コストも単品のほうが遙かに割高ですし、流通マージンもかかりますから、結構な金額になります。

余談になりますが、私はトヨタ部品共販でトヨタの純正部品を直接買い付けたことがありますが、「クルマ1台を構成する全ての部品をここで買ったら、新車何台分の価格になるのだろう? さらに組み立て工賃を取られたらエライことになるな」と思ったほどでした。ま、相手を選んで値引きの掛け率なども違ってくるのでしょうけど。(トヨタ部品共販の場合、私のような単発的な取引相手には代金を先に払い込まなければ注文すら受けてくれないという厳しさでした。)

それだけ部品メーカーも激烈なコストカットの中で何とかやりくりして、自動車メーカーへ部品を供給しているということですね。

例えば、ヴィッツクラスのダンパーの工場原価は1本500円ほどだそうです。アフターマーケットで売られているサスペンションキットは如何に高性能とはいえ、平気でその100倍くらいの値段が付いています。なので、俄には信じがたいことかもしれませんが、日本の自動車メーカーはそうした厳しいコスト管理で世界一の競争力を維持し、部品メーカーがそれを支えているわけです。

suzuki_altovan.jpg
Suzuki Alto Van

日本車の国内最低価格はこのクラスになるでしょうか。車両本体価格は税抜きで69万円ですが、3速オートマチック、AM/FMラジオ、マニュアルエアコン、さらには運転席と助手席にSRSエアバッグ、キーレスエントリーまで装備されています。マニュアルシフトでキーレスエントリーなしなら、さらに65,000円ほど安くなります。

「クルマは100万円以上かかる買い物だと誰が決めたのだろう。」などと無思慮な言いがかりを付けられていますが、日本では諸費用を除けば70万円ほどでこれだけ立派な新車が買えるんですね。このクルマは4ナンバーの商用車登録になりますから、租税公課も幾分安くなりますので、諸費用込みでも85万円前後といったところでしょう。これを企業努力といわずして何というのでしょうか?

しかし、産経新聞の早坂礼子はあのコラムをこう結んでいます。

主力の北米市場の景気が減速しているうえ、円高傾向の為替レートや、鋼材など原材料費の高騰などで自動車各社の業績は今後、悪化が避けられない。それでも利益は少なくないはずだ。もうけた分は株主や社員だけでなく、市場創造で消費者にも返してほしい。


彼女の発想は「自動車メーカーはたくさん儲けているのだろうから少しは還元しやがれ」といったところなのでしょう。しかし、最も業績の良いトヨタとて、全世界の年間生産台数900万台強に対して純利益は1兆6500億円弱でしかありません。つまり、百万~何百万円という価格帯の商品を売って1台平均18万円そこそこしか儲けていないわけです。率を見れば決して大きいとはいえないでしょう。

自動車メーカーは1台売ってこの程度の利益しか得ていませんが、国や地方自治体などの税収はこの何倍にもなります。例えば、クルマを購入するときにかかる租税に取得税と消費税がありますが、各々車両価格の5%にもなります。(軽自動車の取得税は3%です。また、低公害車や福祉車両なども取得税が減免されるケースがあります。)

もう少し具体的に考えてみましょうか。例えば、車両本体価格180万円の小型乗用車が新車で1台売れたとしましょう。このとき、取得税9万円、消費税9万円が発生しますから、行政には合計18万円の税金が入り、最も業績の良いトヨタの収益1台平均と同じ分だけイニシャルで搾取することになるわけです。

ランニングのほうはさらに大変です。例えば、1.5超~2.0リッター以下のガソリン車、燃費は15km/L、これを買って10年間、毎年1万km乗ったとしましょう。この場合、10年間の自動車税は39万5000円、重量税は7万5000円、10万kmを15km/Lで走ると消費するガソリンは約6666リットルになりますから、ガソリン税は35万8630円になります。つまり、この例で考えますと、行政は10年間で83万円近い税収を得ているわけです(いずれも現在の暫定税率が維持された場合の計算結果です)。

上記2例を全部合計しますと、100万円を超えるレベルに達します。この例で考えれば、最も業績の良いトヨタの1台平均の利益を5倍以上も上回る税収を国と地方自治体は得ているということになるわけですね。しかも、上述のように自動車メーカーは部品メーカーに血の滲むような努力を求めてコストダウンさせるなど大変な葛藤の上で1台平均たったの18万円ですが、行政は何の努力もせず自動的に入ってくる100万円です。

こうしてみれば、自動車メーカーの利益と国や地方自治体の税収、どちらを還元させるべきかは火を見るよりも明らかでしょう。

もちろん、税金は還元するために徴収されることになっています。が、必ずしもそうなっていない現実は誰しもが認めるところでしょう。例のマッサージチェアやカラオケセットなど言語道断ですが、道路整備の名目でも様々な利権がうごめき、官僚の天下り先を作るためのバラマキになっているケースが少なくないという実態も皆さんよくご存じかと思います。

しかも、今年の5月13日に出された『道路特定財源等に関する基本方針』(←リンク先はPDFです)には、取得税や重量税、ガソリン税などの道路特定財源が2009年度から一般財源化されることが明記され、自動車の利用には全く無関係なことにこれら税金の一部が使われることが閣議決定しているのです。

最後にもう一点、彼女はニートやワーキングプアなどの問題にも言及していましたが、もし、ニートやワーキングプアに無償で新車を与えても、多くの場合は維持費を捻出することもままならないでしょう。これは誰がどう考えても新車価格云々の問題ではありません。こうした貧困層や不就労者の存在を社会的にどう克服していくかの問題です。

MSN産経ニュースの『【早坂礼子の言わせてもらえば】激安価格のクルマを作れ』というコラムは、日本国内の乗用車マーケットを全く理解せず、根本的な問題点を履き違え、自動車メーカーに対して無意味で一方的な注文をつけているに過ぎません。私に言わせてもらえば、このコラムは全くの「お門違い」です。

(おしまい)

テーマ:自動車全般 - ジャンル:車・バイク

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まとめ

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