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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

好都合な予見 (その2)

同じく、朝日新聞の社説になりますが、先週の土曜日にこんなことが書かれていました。

諫早湾干拓―水門開放へすぐに動け


 福岡、佐賀、長崎、熊本の4県に囲まれた有明海。その一角にある諫早湾奥の広大な干潟をつぶして完成させた農林水産省の干拓事業に、裁判所から厳しい注文がついた。

 魚や貝の水揚げが減ったことと干拓事業には一定の因果関係が認められる。干拓地をつくるために諫早湾を堤防で閉め切ったことが、漁業にどのような影響を与えたのか。5年間、排水門を常時開門して調査しなさい。今春から始まった干拓地の農業に支障が出るとしても、やむをえない。それが佐賀地裁の判決である。

(中略)

 諫早湾干拓事業は、文部科学省の外郭団体が科学技術分野における重大な「失敗百選」に選んでいる。なにしろ干拓に2533億円の巨費をかけながら、将来の農業生産額は2%にも満たない年間45億円である。無駄な巨大公共事業の典型である。

 すでに完成した公共事業も必要なら大胆に見直す。そんな時代がきたことを農水省は肝に銘じてほしい。

(C)朝日新聞 2008年6月28日


個人的に今回の司法判断は妥当だったと思いますが、それにしてもこの社説の突っ込みはピントがズレてますねぇ。農業生産額45億円というのは年額ですから、これを事業費2533億円で割って「2%にも満たない」という計算がどんな意味を持つのか、さっぱり理解できません。まさか「1年で償却できないから無駄」といいたかったわけでもないでしょうが、いったい何を意図して「2%にも満たない」という数字を示したのでしょうか?

2533億円の投資に対して毎年45億円なら、施設の維持費を別にすれば57年後には回収できる計算になります。超高層ビルの建設事業でも償却年限が50年クラスなど珍しいものではありません。また、このまま海洋資源を切り捨てれば(その判断の善し悪しは別として)その後も農地として利用できなくなるわけでもないでしょう。有明海の干拓事業は江戸時代以前から始まっていて400年以上も前に造成された農地が今でも現役だったりするのですから。

いずれにしても、ここはこのようなカタチで突っ込みを入れる部分ではないでしょう。ま、朝日新聞の社説がピンボケなのはいつものことですから、どうでも良いハナシに約400文字も費やしてしまった私も愚かではありますが。

さて、諫早湾干拓事業ですが、これについても当然のことながら事前に環境アセスメントが行われており、計画実施にも懸念がないとする科学的な評価がなされていました。また、農林水産省九州農政局のサイトにある諫早湾干拓事業の環境アセスメントについての頁にはこうあります。

事業による環境への影響が、環境影響評価の予測に沿って推移しているかの検証を行ったところ、概ね当初の予測に沿って推移していることが確認されました


しかし、こうしたアセスメントは農林水産省にとって都合の良い調査結果を御用科学者に出させただけで、司法にも「信ずるに足らず」と判断され、文部科学省の外郭団体である科学技術振興機構(JST)にも「失敗」の烙印を押されたわけです。

isahaya.jpg
諫早湾干拓事業
JSTには「失敗百選」で公共事業での失敗例として、
利害関係未調整で事業開始、誤判断、狭い視野、社会情勢に未対応、
調査検討の不足、事前検討不足、環境影響調査不十分、計画不良・・・
他にもまだまだ沢山ありますが、よくこれだけの言葉が並ぶものだと
感心してしまうほどコテンパンに酷評されています。


一方、地球温暖化対策の指針となるデータを編纂しているIPCCですが、やはり学会のように開かれ、誰でも自由に物申せるような形態にはなっていません。原則として各国政府の推薦を受けた人間しか参画できない閉ざされた組織になっているのです。

だからといって、「IPCCは各国政府の手先だ」と断定することはできないでしょう。ただ、彼らの評価報告書には政治的な思惑など一切入り込む余地のない、朝日新聞が社説で「世界の科学者の知恵を集めた」というほど純粋な科学的評価である保証もないでしょう。

諫早湾の干拓事業費は2533億円ですが、地球温暖化対策に日本政府が投じている予算は毎年1兆円を超えます。そもそも、こうした巨費が投じられる国家事業において、これまで好き放題やってきた政治家や官僚達が、毎年1兆円超の予算を動かす地球温暖化対策事業に限っては禅僧のごとくストイックに問題と対峙していると考えるほうが不自然な気もします。

ま、実際には、この1兆円超の中から「環境負荷の小さい交通体系の構築」という名目で1200億円を超える予算が投入され、「渋滞緩和がエネルギー効率を向上させる」として道路建設などが行われていたりします。あるいは、「発電時にCO2を排出しない」という理由で原子力発電の推進にも2000億円を超える予算が割り当てられています。

もちろん、いずれも単年でおしまいではありません。毎年それくらいの予算が継続して投じられているんですね。地球温暖化対策という名目で、原発推進だけでも諫早湾干拓事業並みの予算が毎年投入されているわけです。

要するに、環境対策という美名の下、結局はいつものパターンに陥っているわけです。なのに、あまり文句を言う人がいないのは何故なんでしょうか? 環境対策と称する事業は「善行である」と多くの人が思い込んで思考停止に陥り、全てが許されてしまっているような気がするのは私だけでしょうか?

いずれにしても、この地球温暖化対策に投じられている巨費が無駄であったか否か結論の出される日が、私の生きている間に来ることを望みたいものです。

(つづく)

テーマ:環境問題 - ジャンル:ニュース

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