サンゴ礁を形成する造礁サンゴは例外なく褐虫藻という藻類を共生させ、光合成によってつくられた炭水化物を栄養源としています。この褐虫藻が減少してしまうのが、いわゆる「白化現象」です。このサンゴの白化現象は一般に地球温暖化による海水温の上昇の影響だとされることが多いようですが、これだけを原因とするのは拙速に過ぎます。
人為的温暖化説を既成事実化したがっている国立環境研究所でさえも、この点については慎重な所見を述べています。
温暖化による長期的な海水温の上昇に加え、短期的な海水温の上昇がエルニーニョなどの気候的な原因でも引き起こされます。1997~1998年に世界的に大規模な白化が起こった年は、高水温がエルニーニョによってもたらされました。沖縄周辺では2001年と2007年夏にも白化が起こりましたが、これは全世界的な現象ではなく、沖縄周辺での暖水塊の発生によるものと考えられています。
また、高水温だけでなく、淡水や土砂の流入、強光などすべてのストレスが白化を引き起こします。これらストレスの複合効果も考慮しなければなりません。高水温と強光、高水温と淡水・土砂流入の複合効果によって白化が起こった可能性が指摘されています。
要するに、海水温の上昇だけでなく、塩分濃度や日照条件など、サンゴの生息にかかわるあらゆる環境の変化によって白化現象は生じ得るというわけです。また、サンゴは水質の悪い海には生息できませんから、海が汚染されれば、やはり白化や死滅の危機に直面します。
ツバル天然資源・環境省環境局長のマタイオ・テキネネ氏は今年6月に日本の外務省が主催した「太平洋島嶼国の環境と支援を考える国際シンポジウム」でこう述べています。
サンゴは、熱ストレスに弱い。ツバルのサンゴは少しずつではあるが白化が起きており、今後、増えていくとみられている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、今後30~50年間、毎年、白化現象は起こると予測している。サンゴ礁は、高潮の最初の防護壁で、サンゴの白化が起きると島民の主たるタンパク源である魚類も減ってしまう。
しかし、ツバルのサンゴにとっての脅威は海水温の上昇だけではありません。同シンポジウムでは東大大学院教授(沿岸海洋学・環境変動論)の茅根創氏が講演の中でこう述べています。
人口増により増えた生活用水や豚の飼育に伴う汚水が垂れ流されている。これらの排水が海水の富栄養化をもたらし、サンゴや有孔虫の生育力を弱め、海水面上昇の最初の“防護壁”になる環礁、砂浜の成長を阻害している。

汚水を垂れ流しにする養豚舎
首都フナフティでは食用に約4500頭の豚が飼育されていますが、
排泄物や雑排水を処理する施設はなく、汚水はそのまま
ラグーン(環礁に囲まれた浅い環湖)や外洋へ垂れ流されています。
この写真右手にもやはりゴミの山です。
一方、南太平洋地域環境計画の報告では、フォンガファレ島の道路建設にあたって、骨材を採取するためにラグーン側のサンゴ礁を掘削、そこへ海岸の砂が流入するかたちで侵食が進んでいるといいます。政府がところ構わずゴミを投棄したり、野焼きを行っているような国ですから、この道路開発計画とそれに伴うサンゴ礁の掘削に合理的な環境アセスメントが行われていたとは考えられません。
また、前回引用した国立環境研究所の所見にも重なりますが、元々は人が住んでおらず、昔から洪水が発生していた沼地などを埋め立て、人口増加に対応するための居住区を拡大した点も看過できません。こうした無思慮な土地利用が洪水の被害を拡大しているのは間違いないでしょう。
これらの実情を勘案すれば、ツバルが直面している環境問題というのは彼らの無計画な行動のしっぺ返しになる部分も少なくないと考えるべきです。つまり、これは世界中どこでも見られる典型的な環境破壊であって、彼らの被害が地球温暖化せいであると結論づけるのは事実を歪曲する行為になるでしょう。
(つづく)