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東京都の「ディーゼル車NO作戦」とは何だったのか? (その4)

以前にもMDIのエアカーについて述べたとき触れましたが、トヨタは毎年9000億円を超える開発費を環境対策技術や将来へ向けての技術開発に投じているそうです。一方、東京都の条例が策定される際にトラックメーカーは散々翻弄されましたが、彼らも排ガス対策技術のためだけに毎年100億円を超える予算を注ぎ込み、年々厳しくなる国の規制強化のスケジュールに間に合わせるべく、血の滲むような努力を重ねていました。

あまり詳しいことは書けませんが、私は某トラックメーカーのエンジンR&D部の方と懇意にさせて頂いていた関係で、研究施設を見学させて頂いたことがあります。当時の担当部長の特別な計らいで通常は社員でも部外者立入厳禁のベンチテストルームまで見せて頂きました。様々な手立てを用いて研究されているそのレベルの高さに私は心底驚愕するとともに、あの石原知事でもこれを見れば「怠慢」などと口が裂けても言えないだろうと思いました。

ディーゼル車の排ガス規制やその対応に関して、国も自動車メーカーも、惰眠をむさぼっていた人間などいなかったでしょう。もしかしたら、竹下内閣時代に運輸大臣を務めていながら、こうした経緯を知らなかった彼だけが惰眠をむさぼっていたのかも知れません。また、大衆メディアの排出ガス規制に関する認識もズブのド素人そのもので、東京都のぶち上げた子供だましのアドバルーンにまんまと乗せられたという格好だったのでしょう。

ここで少し解説しておきますと、ディーゼルエンジンで問題となる主な排出ガスの成分は以下の4つになります。

(1) 窒素酸化物(以下NOx)
(2) 硫黄酸化物(以下SOx)
(3) 粒子状物質(以下PM)
(4) 炭化水素(以下HC)

SOxに関しては前々回でも触れましたように、燃料の精製段階で脱硫処理してやれば、その分だけ抑制することができます。HCというのは未燃焼の燃料です。また、このほかにも極々わずかに一酸化炭素も出ますが、ガソリンエンジンほどではありません(もし、一酸化炭素中毒で自殺したいと思われる方はディーゼルエンジンではまず無理だと思いますので、ガソリンエンジン車の使用をお勧めします)。

上記のうち、前二者と後二者では素性が異なります。前者は燃焼温度が高く、完全燃焼しやすい状態になるほど多く排出されます。一方、後者は不完全燃焼の状態で生じるもので、燃焼温度が低いほど条件は悪くなるわけです。

特に問題になるのは光化学スモッグや酸性雨などの原因になるとされるNOxと、気管支疾患の原因と考えられているPMですが、これらは要するに二律背反の関係になります。NOxを減らそうと思って燃焼温度を下げれば、不完全燃焼となって燃えかすのススなどを主体とするPMが増え、PMを減らそうと思って燃焼温度を上げれば、大気中の窒素と酸素が筒内で反応し、NOxが生成されてしまいます。つまり、両方を同時に減らすのは非常に難しいことなのです。

ですから、国土交通省は自動車メーカーに対して排出量削減技術の進捗具合を打診しながら、実現可能なスケジュールで段階的に排ガス規制を実施し、初回にも触れたとおり、昭和54年、昭和58年、平成元年、平成6年、平成10-11年、平成14年、平成17年と、小刻みに規制値が引き上げられていったのです。

これに対して、2000年2月の時点で東京都が検討していた具体的な規制の内容は以下の2点になります。

・DPF(粒子状物質減少装置)を装着していないディーゼル車は、都内(島しょを除く東京都全域)を運行することができない。
・都内登録のディーゼル車は、DPFを装着しなければならない。

つまり、東京都が規制したのは(3)のPMだけです。全体のバランスなどは無視してこれだけを減らせと言ってきたに過ぎません。

もちろん、日本の自動車メーカー本体でも後付けのDPFは開発されていました。しかし、ヒーター式は電力供給のためにオルタネーターの容量アップなども必要な場合があったり、ヒーターの寿命も考慮する必要があったり、色々な課題が山積していました。一方、酸化触媒を用いる方式は機械的な構造がシンプルなもので済みますが、能力や燃料の適合性などにネックがあった時代でしたから、そのあたりも整理しながら開発を進めていかなければならない状況だったわけです。

東京都の条例案の検討が始まった当初は自動車メーカーに何の断りもなく進められていましたから、東京都の関係者はこうした状況もあまりよく理解していなかったでしょう。彼らはこうした流れの一切を考慮せず、上述のように「とにかくDPFを装着させればそれでいい」という、非常に偏った短絡思考の条例案をぶち上げました。丁度その頃、私は某メーカーの方と一緒に仕事をしていましたが、彼はこう言っていました。

「石原さんは全てのディーゼル車にDPFを付けろと言ってますけど、例えば平成元年規制車にDPFを付けても、何も付けない平成10年規制車のほうが排ガスはずっとキレイなんですよ。平成元年規制車は最新のものよりPMの量が一桁多いですから、フィルターの目をあまり細かくすることが出来ないんですね。実用に耐えるDPFを平成元年規制車に装着しても、結局は何も装着しない最新型エンジンのほうがPMの排出量はずっと少なくなっているんです。しかも、NOxの排出量も遙かに少なくなっていますし。」

このとき、東京都は全てのディーゼル車にDPFを装着せるとしながら、それによって具体的にPMの排出量をどのレベルまで低減させればよいのかという、具体的な数値については一切示していませんでした。このことも「とにかくDPFを装着させればそれでいい」という、素人考え丸出しの単純な方針であったことを裏付けるものです。

(つづく)

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