
私が小学校高学年の頃、実際にコレに乗っている友人が数人いましたが、
シフトノブは簡単に外せるネジ込み式だったので、みんな盗まれていました。
こうした自転車はもちろん高価でしたから、買ってもらえなかった子がひがんで
犯行に及んでいたのかも知れません。
この自転車が電動シフトだったのは、ひとえにシフトレバーを「スーパーカーみたいにする」というのが目的でした。そのためだけにレバースイッチとバッテリーパックを備え、リヤディレイラーに仕込まれたアクチュエーターでそれを駆動していた訳ですね。
私の場合、あのスーパーカーブームに引きずられた男子小中学生向け自転車の恐竜時代は途中まで凄いと思っていたクチですが、後半はさすがに度が過ぎていると思うようになっていました。丸石のスーパーカーシフトが出てきた頃には私もかなり白けていましたから、個人的に特別な思い入れはありません。
余談になりますが、あの男子小中学生向け自転車の恐竜時代には過剰な装飾ゆえ鈍重になっていく一方でした。が、その反動からか、次に来たブームはブリヂストンのロードマンやミヤタのカリフォルニアロード、丸石のエンペラーといったランドナーの入門モデルといった感じのツーリング系でした。
この頃、中学生になっていた私は何故かよく覚えていませんが、このブームに乗ることもなく、クロモリフレーム(この頃はまだアルミも珍しい時代でしたが)の入門用ロードレーサーを手に入れ、現在へ至る第一歩を踏み出しました。それから7~8年くらいして大学時代の私は全て自力でコンポを入れ替えました。現在のアルテグラに相当する600シリーズで、インデックスシステム「SIS」を初めて採用したモデルになります。
思えば、シマノがSISを投入したとき、ベテランサイクリスト達からは「子供のオモチャ」と揶揄されました。ロードマンなどのシフターにはSISのような位置決め機構が導入されていましたから、ベテランたちは硬派であるべきロードレーサーにこうした初心者にも扱いやすい機構が導入されるのは好ましくないと思っていたのかも知れません。
当初のSISはレバーの付け根にダイヤルが仕込まれ、SISのクリックストップをキャンセルする機構も備わっていました。こうした機構はワイヤーが緩んだりしてクリック位置が微妙にズレるなど、トラブル時の緊急避難的な処置として設けられたのかも知れません。が、一方ではインデックスシステムを好まない硬派なサイクリストにも選択の余地を残すといった「ビジネス上の都合」も関係していたのではないかと想像されます。
こうして振り返ってみますと、男子小中学生向け自転車の恐竜時代が終息した1980年代前半くらいに電動デュラが発売されていたら、やはり「子供のオモチャ」という誹りは避けられなかったでしょう。が、あの恐竜時代は30年近くも前のハナシです。私達の上の世代の人は恐らく丸石のスーパーカーシフトなど覚えていないでしょうし、私達より下の世代はあのようなブームがあったことすら知らないでしょう。
若い人や、今世紀に入ってからロードバイクに乗るようになった人たちは、マヴィックのメカトロニックについてあまりご存じないと思います。ま、かく言う私もショップで実物を何度か眺めたことがあるくらいで、それ以上の情報は専門誌や人づてだったり、テレビ(当時はF1ブームで調子に乗ったフジテレビが二匹目のドジョウを狙ってツール・ド・フランスを中継していました)を通して見た程度でしかありませんから、偉そうなことをいえる立場でもないのですけど。
電動デュラは本格的なレース器材の新機軸として期待されています。が、目的やその完成度はともかく、電動メカそのものの存在は決して新しいわけではないということですね。それだけに商業的なリスクもあると思います。ま、シマノはネクサーブで経験を重ねてきた実績もありますから、マヴィックのような自滅はないと思いますが。
一方のカンパもEPS(エレクトリック・パワー・システム)という名の電動メカをテスト中です。同社開発部門のディレクターによれば、「製品に近い段階まで来ている」そうです。シマノのように商品としての実績はないカンパですが、電動デュラがある程度のマーケットを獲得していったら、そう時期をおかずに追随するのは間違いないと思います。(どれだけ高価になるか空恐ろしい感じですが。)

シフターはシマノと同じく手動式とほぼ同じ形状になるようですが、
ディレイラーのアクチュエーターはパンタグラフ内の空間を生かし、
非常にスマートにまとまっています。
この辺はやはり実にカンパらしい(というよりイタリア人らしい)発想で、
デザインや雰囲気にも心を砕いているところが憎いですね。
今秋のサイクルモードに電動デュラが参考出品されるのは間違いないと思いますが、それに対する来場者のリアクションに興味があるのはシマノだけではないでしょう。私も万難を排して見に行かねばと思う今日この頃です。
(おしまい)