
赤、橙、茶色の線はIPCCが社会情勢や温暖化対策の実施状況をいくつかのパターンで想定したシナリオに基づく予測、黄色は2000年のレベルで一定とした場合の予測、緑と青の線は実測(2008年のデータは7月まで)になります。
予測のほうは傾向を見るために前後数年の平均値をとったものだと考えても、今年や2004年の下降を示すことはできませんでしたね。特に最近数年は実測で顕著な下降傾向を示していますが、予測は全く逆の上昇傾向しか見えません。いずれにしても、IPCCが採用した予測データは2000年以降の8年間で0.15℃前後の上昇を示していますが、実測データにそのような傾向が見られないのは明らかでしょう。
この気温の見込み違いと同じように、シミュレーションがアテにならないことを示す事例は他にもあります。
昨年の夏、1978年から人工衛星での観測が始まって以降、北極海の海氷がもっとも後退したということが日本の大衆メディアでも大きく報じられていました。日本の海洋研究開発機構の地球シミュレータも北極海の海氷について予測していましたが、そこまでの後退は30年くらい後の状態として予測されていました。このことについて「想定を30年も上回る異常なペースで温暖化が進んでいる」と喚き立てていたメディアに私は失笑を禁じ得ませんでした。
そもそも、海氷の分布状況というのは一概に気温や海水温だけで決まるものではありませんし、2007年の夏に北極の海氷が大きく後退したことと温暖化とを結びつける科学的な根拠もありません。「海流の影響」とか、「北極振動の影響」とか、「冬場に強風が続いたことが海氷の発達を阻害した」とか、いくつもの原因説が唱えられており、科学的な結論には至っていないんですね。
北極海の海氷がシミュレーションの結果通りにならなかったことをメディアは「異常」と表現していましたが、それは盲目的なコンピュータ信仰というべきもので、シミュレーションの結果が本来のあるべき姿を示す「神託」であると彼らは妄信しているのでしょう。
しかし、こうしたシミュレーションを行っている当の海洋研究開発機構は非を認めるプレスリリースを出しています。
(前略)
この海氷の減少は、IPCC第4次報告書で予測されている北極海での海氷の減少を大幅に上回るもので、このような観測と予測の大きな差は、予測モデルでは北極海で起こっている現象が十分に表現されていないことの現れであると考えられます。
(後略)
(C)独立行政法人海洋研究開発機構 2007年08月16日
こうしたシミュレーションが実際に起こっている現象を表現できないのは、実際に起こっている現象の構成要因を全て把握できていなかったり、影響があると解っている要素でもその物理的な仕組みを充分に理解できていなかったりするからです。
地球の気候メカニズムについてはまだまだ解らないことだらけですが、当然のことながら解らないことを数式で表現することはできません。数式で表現できなければその物理現象を具体的に組み込んだプログラムを構築することなどできませんから、信頼できる精密なシミュレーションなど望めません。
では、地球温暖化の研究に用いられる気候モデルではこうした点をどのように処理して(誤魔化して)いるかご存知でしょうか?
まず、影響が小さいと想像される現象などはハナから無視されてしまうこともあるようです。が、そうでない場合は適当なパラメータを用いて観測結果に合うよう調整されます。それでも合わないときは数値の改ざん(彼らは「改ざん」とは言わずに「フラックス調整」と称していますが)というインチキまで行われているんですね。そうしてでっち上げられた結果を以って「地球の気候を再現できた」と彼らは言い張っているわけです。
ま、この辺についてはいずれ詳しく纏めたいと思いますが、兎にも角にも、このようなアテにならないツールを用いた科学的に信頼しがたいシミュレーションの結果を根拠として、国際社会の枠組みが策定されたり、年間1兆円を超える国家予算が投入されたりしているわけです。私はこうした状況を放置していることこそ、不幸な未来への歩みだと思うのですが。