酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

発明のハナシも鵜呑みは禁物

白熱電球を発明したのはトーマス・エジソン

私も子供の頃そう教わってから最近まで、ずっとそう認識していました。が、これは誤りだったんですね。これに限らず、「発明者」と誤解されている人物は結構いるようです。こうしたケースは「改良によって実用レベルに達し、普及に大きく貢献した」とか、「発明の権利を巡る複雑な関係が誤解されたカタチで伝わった」というパターンが多いように思います。

例えば、冒頭に挙げた白熱電球の発明ですが、これはイギリスのジョセフ・ウィルソン・スワンが最初だと見られています。炭素のフィラメントに電気を流すと発光するという現象は19世紀中頃には知られていたそうですが、空気中の酸素と反応するなどして寿命が極めて短く、「白熱電球」という製品にはなりませんでした。スワンは1878年にこれを極めて真空度の高い密閉ガラスの中に置くことで、およそ40時間点灯する白熱電球を発明したそうです。

ジョセフ・ウィルソン・スワン
Joseph Wilson Swan

エジソンは翌1879年にフィラメントを竹の繊維から作ることで1200時間くらいまで寿命を延ばし、実用品として成り立つように改良しました。スワンとエジソンは特許を巡って法定での争いを繰り返したそうですが、1883年に和解、エジソン&スワン電灯会社を設立して白熱電球の生産を独占したといいます。

一方、権利関係の問題で発明者が誤解されているケースでいえば、多くの日本人が信じているこの事例を指摘しておかなければならないでしょう。

フロッピーディスクを発明したのはドクター中松

私もつい最近まで「フロッピーディスクを発明したのはドクター中松で、日本のメーカーに売り込んでも見向きもされなかったのに、アメリカへ持って行ったらIBMが飛びついた」といった感じのフィクションを信じていました。が、これも全くの出鱈目といって良いでしょう。

フロッピーディスクそのものの特許を初めて取得したのはIBMになりますが、大元となる技術は1969年にクリフォード・ダウソンらによって発明された「磁気記録ディスク組立体」と見て良いでしょう。では、ドクター中松はどのように関係しているのでしょうか?

ドクター中松とIBMとの間に交わされたフロッピーディスク関連の契約はドクター中松が持つ16の特許使用権を供与するということになっているそうです。が、その中身については公表されていません。ま、この種の契約は守秘義務を設けるのが一般的ですから、公表されないのはむしろ当然のことだと思います。

株式会社ドクター中松が発行している『誰がFLOPPYの発明者か』というパンフレットによれば、「シートに面積型に記録再生する媒体とドライブ」の発明が1947年、「フロッピー媒体とドライブの世界初の中松特許出願」が1948年、「フロッピー媒体とドライブの中松特許を許可」されたのが1952年11月20日となっています。が、これは彼の勝手なこじつけで、全く関係のないものだと思います。

というのも、ジョン・フォン・ノイマンがストアドプログラム方式の電子計算機を提唱したのが1945年、ペンシルバニア大学で製作された世界初のコンピュータENIAC(これもコンピュータの定義などを含めて様々な異論はありますが)を完成させたのが1946年ですから、ドクター中松がその翌年にフロッピーディスクの基となる技術を発明したと言い張るのは無理があるでしょう。

彼がこのタイミングで出願した特許で関連のありそうなものは「重色レコード」と「積紙式完全自動連奏蓄音器」の2件くらいで、いずれの発明も印刷等による面積型録音法の基礎技術です。これは記録紙に線条を印刷するなどして音声データを記録し、光学的に読み取って再生するというものです。光学式の録音技術も既に存在していましたから、彼の発明は記録方式が独自であっただけと見るべきでしょう。

こんな発明がフロッピーディスクとどうつながるのか、私の頭では全く理解できませんが、あの「天才」の頭では「紙というフロッピーな媒体に情報を記録する発明」がフロッピーディスクにつながってしまうのでしょう。

そもそも、1952年に取得した特許ならば、20年後の1972年には失効しているハズです。ドクター中松がIBMと契約を交わしたのは1979年の2月ですから、特許が失効してから6年3ヶ月も経ってからIBMがそのライセンスを求めるなどということは絶対にあり得ません。

『誰がFLOPPYの発明者か』にはフロッピーディスクのジャケットに設けられた窓の下にある2つの切り欠きや、ジャケットの内張り、ハブを補強するリングなどもドクター中松の特許であるため、「ご使用のフロッピーディスクは、ライセンスされたもの以外、中松パテントに抵触するでしょうからご注意ください」と書かれているそうです。

また、日本IBMの広報は、このライセンス契約について「IBMが自ら開発した製品を日本で売るに当って、将来、中松さんとの間に摩擦が起るのを避けるためのもの」とコメントしています。

カメラのオートフォーカスを巡る特許裁判で日本の大手各社がアメリカのハネウェル社にしこたま搾り取られた例はつとに有名です。関連技術に少しでも類似点があった場合、その権利関係をきちんと法的に処理しておかないと、後になって莫大な権利使用料をふんだくられることが特にアメリカではよくあるんですね。ですから、彼らは知的所有権に関して異常なまでに神経質なのでしょう。

要するに、IBMがフロッピーディスクを日本で発売するに当たって、日本で出願されている特許とほんの僅かでも類似点があると考えられる関連技術については、その権利者と事前にライセンス契約を結んでおき、後々トラブルに発展する芽を摘んでおこうと考えたのでしょう。その中にドクター中松が有している特許が幾つかあったというのが真相だと思います。

このライセンス契約に盛り込まれていたであろう守秘義務によって、IBMとドクター中松との契約詳細は公表しない(できない)のでしょうが、彼はああいう性格ですから、それを逆手にとってあたかもフロッピーディスクを発明したのが自分であるかのように触れ回っているのでしょう。メディアもその事実関係を全く確認せずに彼の主張を垂れ流すという「いつものパターン」でこの都市伝説が出来上がったのだと思います。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://ishizumi01.blog28.fc2.com/tb.php/249-0301a62a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

まとめ

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。