酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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ノーベル賞を受賞し損ねたバス運転手

今年のノーベル化学賞を受賞した下村脩氏は「緑色蛍光タンパク質の発見と開発」の功績を認められたわけですが、単独受賞ではなく、同じ分野の研究者であるマーティン・チャルフィー氏、ロジャー・ヨンジェン・チエン氏との同時受賞になります。この栄光の影で対照的な境遇にいる一人の人物がアメリカのメディアでクローズアップされています。

この緑色蛍光タンパク質を発見したのは下村氏ですが、チャルフィー氏やチェン氏はこれを応用する基礎づくりに多大なる貢献をしました。両氏とも、この緑色蛍光タンパク質の遺伝子をある人物から譲り受け、その後の研究の礎としています。

チャルフィー氏やチェン氏にその遺伝子を提供した人物が、いまアメリカでクローズアップされているダグラス・プラシャー氏です。当時、彼は下村氏と同じウッズホール海洋生物学研究所の職員で、下村氏が発見した緑色蛍光タンパク質の遺伝子を解析、その配列を明らかにするという極めて重要な研究を成した人物です。

プラシャー氏はその遺伝子を用い、まさにチャルフィー氏らと同様の研究に挑んでおり、チャルフィー氏の最初の論文はプラシャー氏との共著だったといいます。が、その後は成果が上げられなかったのか詳しい状況は解りませんが、プラシャー氏は研究費の支給が打ち切られ、失業に追いやられてしまいました。

その後、エネルギー省やNASAでより応用に近い研究を行ってきたものの、約3年前に再び失業、現在は当面の生活のためにアラバマ州はハンツビルのトヨタ販社、ビル・ペニー・トヨタで送迎バスの運転手をしているそうです。

初期段階の研究過程において、彼が深く関わり、大きな成果を残した分野から3人のノーベル賞受賞者が誕生し、そのうちの2人は彼が提供した遺伝子がその出発点になっていたといっても過言ではないでしょう。このことについてどう思うか問われた彼は以下のように答えたそうです。

「私にはノーベル賞受賞者のような能力が全くないので、恨むような気持ちは一切ない。ただ、研究のことを全て忘れてしまう前に何らかの研究職に就きたい。」

プラジャー氏が現在置かれている境遇に至る経緯について私は何も知りません。ベースボールプレイヤーに例えるなら、過去に一度だけ大きな試合の重要な場面でホームランを放って活躍した以降は大した成績を残せないままメジャーから降格、下位リーグで燻りながらついに放出されてしまったというパターンに似た状況なのかも知れません。

傍目にはこうした想像しかできませんが、世界一の基礎研究大国ともいうべきアメリカでさえ、このような人物を出しているのが現実ということなのでしょう。プラシャー氏のような重要な功績を残した人物が送迎バスの運転手という浪人生活に甘んじていることは決して望ましい状態でないのは確かだと思います。

浪人といえば、日本も非常に深刻な状況です。大学院博士課程を修了した若者が就職難に喘いでいる現状をご存じの方も少なくないでしょう。

1991年に大学審議会が打ち立てた「大学院生倍増計画」によって、1991年には320だった大学院の数が2007年5月には598に増え、院生も約10万人から約26万人に増加しています。急増した彼らの約25%が就職できない「浪人博士」となっている現状は、むしろ若者の修学意欲をくじくもので、計画の失敗を意味するでしょう。

博士課程修了者数と未就職者の推移
博士課程修了者数と未就職者数の推移
2004年以降はアルバイトを未就職とカウントしないイカサマで
見た目の就職率を上げようとするトリックを仕掛ける
末期状態に陥っています。


「大学院生倍増計画」の答申を受け、政府の補助金が増額されたことが大学院と院生の増加につながりました。しかし、結局はその受け皿を熟慮していなかったツケとして「高学歴ワーキングプア」の猛烈な増加につながってしまったわけです。この計画の欠陥を見抜ける「目利き」がいなかったことが、失敗の大きな要因といって良いように思います。

日本政府は「日本人のノーベル賞受賞者を向こう50年間で30人に」などという前時代的な国威発揚を思わせる科学技術基本計画を進めていますが、政府の研究費援助資金が増額されても、それが有効に分配されなければ優秀な人材とその研究が実を結ぶ助けになるとは限りません。

派手な花に目を奪われ、それが実を結ぶことのない徒花と気づかずにカネを注ぎ込んでしまうようではあまり意味がありません。つぼみが小さく、色味が地味でも、価値のある実を結ぶかどうかを見極めることの出来る「目利き」を育ててこそ、援助資金の増額も意味を持つのだと思います。

やはり、カネもヒトも、生かせるかどうかは評価機能が重要な鍵を握るのだと私は思います。

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