酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

プリウスのジレンマ

先のデトロイトモーターショーでトヨタは家庭用電源から充電可能な「プラグイン・ハイブリッド」を実用化する旨パブリシティしました(国土交通省の認可は昨年7月に受けているそうです)。これはより電気自動車に近い使い方もできる、ユーティリティの拡大と見て良いと思います。検討中のマイカー買い換えで候補に挙がっているプリウスですが、こうした情報を聞いてしまうと、かなりそそられてしまいます。

priusplugin.jpg

が、目処は2009年末ということで、2年近く先の話になります(恐らく、フルモデルチェンジで採用ということでしょう)。その前に私のS2000は車検が切れてしまいますので、そこまで待つつもりはありません。

さて、件のプリウスですが、私もメカニズムやその運用システムにはそれなりに興味があったので、以前にも色々調べたことがありました。が、環境性能についてはあまり詳しく調べたことがなかったんですね。ハイブリッドカーであるプリウスは環境に優しいエコロジーカーという認識が定着していますし、私も当時は特に大きな疑念を抱いていませんでした。

しかしながら、最近は環境問題にかかる書籍やネットからの情報に触れる機会が増えてきたこともあって、LCA(生産されてから最終処分されるまで製品の生涯を通じた環境負荷の評価)などの考え方も理解するようになり、色々な疑問も感じるようになってきました。

殊に、プリウスはバッテリーや電気モーター、制御用のインバータなど特別な部品や構造の製造プロセスにはより大きな環境負荷がかかると想像されますので、それと良好な燃費から差し引かれる分とを突き合わせてみなければ本当に環境負荷の小さいエコロジーカーといえるか判断はつかないわけですね。

そこで、プリウスがどれだけ環境負荷の小さなクルマなのか、この機会に調べてみようと思いました。第三者機関による資料などもあれば良かったのですが、私の調べた範囲では見つかりませんでしたので、トヨタの公式資料(どこまでシビアに調査されているのかは解りませんが)をとりあえず精査してみることにしました。

トヨタのサイトにあるプリウスの環境仕様を見てみますと、ちゃんとLCAの実施結果が示されていました。これは好感が持てます。少なくとも、「新幹線のEgo主張?」のエントリで触れたような子供騙しの部分比較でないだけ遥かにマトモといえます。

prius_lca100000.gif

これがそのLCAによる性能比較ですが、やはり素材製造や部品製造といったイニシャルの環境負荷はプリウスのほうが大きいということが解ります。あれだけ大容量のインバータ(金属シリコンの精製には膨大な電力を要します)を使用していることに対して素材製造時のCO2排出量が見合っているのか、やや引っかかる部分もあります。が、イニシャルの環境負荷が同クラスのガソリン車をかなり上回っている実態はほぼ予想通りです。

やはり、プリウスが最終的に同クラスのガソリン車を逆転するのは、「走行にかかる環境負荷が小さい」というところなんですね。要するに燃費が良い分だけ排出ガスが少ないため、イニシャルでかかる環境負荷をランニングで相殺・逆転するということになるわけです。

ならば、走行距離が少なければ少ないほどそのメリットは生きてこないということになります。トヨタが示したLCAは生涯走行距離10万kmという常識的な条件によりますが、これより走行距離が少なければイニシャルの環境負荷などを含めたライフサイクル全般の環境負荷でプリウスが逆転できなくなる可能性も充分に考え得るわけです。

そこで、走行距離を減らし、それにかかる環境負荷を単純計算で減らしてみることにしました。生涯走行距離が4~5万kmあたりになるとかなり微妙な感じになってくるのですが、3万kmまで減らしてみますと下図のような状況になりました。(あくまでも単純計算によって走行にかかる環境負荷をトヨタの示した10万kmから70%減少させ、3万km相当としたものです。厳密なアセスメントに基づくものではないのでそこはご了承下さい。)

prius_lca30000.gif

こうなるともう、プリウスの敗北といって差し支えないでしょう。ま、この生涯走行距離3万kmを10年で消化すると年間走行距離が3000kmとなりますから、あまり一般的とはいえないかも知れません。でも、週末しか乗らないという人で、その度に60km程度しか走らないのであれば、プリウスは同クラスのガソリン車より環境負荷の高いアンチエコカーとなる可能性が高いわけです。

環境負荷を考えれば、自動車は極力使用しない方が良いというのは言うまでもありません。しかし、プリウスに関しては使用する機会が減れば減るほど通常のクルマより環境負荷が大きくなってしまうことがあるという皮肉なジレンマを抱えているわけですね。劇的な変化をもたらす魔法のような技術など、そんなに簡単に手に入れられる訳ではないということでしょう。

それにしても、環境問題を語る人達、殊に大衆メディアは何故こうしたジレンマを話題にしないんでしょうか? 単に無知で無邪気なのか、恣意的で偽善なのか私にはよく解りません。が、世間一般にはこうしたジレンマがあまり知られることもなく、良いイメージしか浸透していかないという現状が決して良いとは思えないのですが。

もし、私がプリウスを買ったとしてもエコロジストを標榜する気など毛頭ありません。どちらかといえば、ハイブリッドという特殊な機構を持つクルマである事、回生ブレーキや諸々のマネージメントについて非常に関心があり、そうしたクルマも体験しておきたいといった好奇心が先に立っている感じです。

燃料コストが安く済むことも求めたいところですが、同クラスのガソリン車と車両価格の差額でペイできるか、これも走行距離次第でしょう。走行距離が少ないほどイニシャルコストが高い分を相殺・逆転することができないという点は、やはり環境負荷と同様のジレンマですね。

そもそも、私の場合はS2000より確実に燃料費が安く抑えられるだろうということで、その分だけ自転車を積んであちこちに出かけようと考えています。ですから、差し引きゼロかプラスになる場合もあるでしょう。あるいは、浮いた燃料費で何か別のものを買ったりして、結局は環境負荷を与える消費行動をとったりするかも知れません。

無知で無邪気にエコロジストを気取るのが良いのか
知見を広めてジレンマにぶつかり、開き直るほうが良いのか

ま、どちらも同罪でしょう。私の場合は後者を選択することが度々あると思いますが、非があれば素直に認め、改善できなくとも偽善者にはならないよう努めたいところです。

テーマ:自動車全般 - ジャンル:車・バイク

コメント

そもそも、なぜ二次電池?

最近のバカみたいなハイブリッド(エコ)カー礼賛にはあきれております。
ブログ主様の冷静な記事を面白く拝見させていただいております。
以前から不思議だったのですが、ハイブリッドカーは二次電池を使用するのでしょうか。
個人的には、重たくて燃費を悪化させる要因となる上、寿命・LCAまで考えるとBestな選択なのだろうかと疑問が沸きます。キャパシター使った方が、重量・信頼性・寿命の点で良いような気もします。キャパシターの性能の向上もめざましいですし。車両の走行距離が短くなればなるほど、二次電池よりはキャパシターの方が有利な気がするんですが、検討しているメーカーとかあるんですかね?

  • 2009/06/12(金) 16:05:36 |
  • URL |
  • ねこすず #2F5iBeSQ
  • [ 編集]

連投すみません

連投すみません。
前コメントでキャパシタ・ハイブリッドの件で検討メーカーがないのかと書きましたが、日産ディーゼルがやって、モノも出ていますね。
調査不足でコメントして申し訳ないです。

  • 2009/06/12(金) 16:11:44 |
  • URL |
  • ねこすず #2F5iBeSQ
  • [ 編集]

ねこすず さん>

>二次電池よりはキャパシターの方が有利な気がする

確かに、キャパシタは充放電時におけるエネルギー損失が非常に少なく、瞬時に大きなエネルギーを蓄えたり放出したりできますし、サイクル寿命も非常に長く、低温下でも性能の低下が殆どないなどメリットがたくさんあります。

が、キャパシタは電極材料の表面にしか電荷を蓄えておくことができませんから、質量あたりの蓄電容量、つまり重量エネルギー密度が二次電池に比べて非常に小さいというところがハイブリッドカーに採用するに当たっては大きな弱点になっていると思います。

一般的な二次電池で最も重量エネルギー密度が高いリチウムイオン電池はモノによっても使い方によっても差はありますが、だいたい150~200Wh/kgくらいになるそうで、プリウスなどに採用されているニッケル水素電池はその半分程度ですから、70~100Wh/kgくらいでしょうか。

それに対して日産ディーゼルが岡村研究所と共同開発したキャパシタは従来の2倍のエネルギー密度を実現したといっても僅か6.3Wh/kgと桁が違い、まるで比較になりません。これではトラックやバスなど重量に余裕がある車両ならともかく、乗用車には向かないでしょう。

ネットなどを眺めているとアメリカのベンチャー企業が革新的なキャパシタを開発し、これで電気自動車を作ったら5分の充電で800km走れるなどという記事も見かけましたが、その内容は漠然としていてかなり胡散臭い感じで、ありがちなガセネタか詐欺の類なのだと思います。当blogでも空気で走るクルマとか水で走るクルマなどのウソや誤魔化しを暴くエントリを設けましたが、この種の釣りネタは昔からありましたし、今後もなくならないと思います。


>重たくて燃費を悪化させる要因

これはよく指摘されることですが、プリウスの場合はトータルで見ると殆ど重くなっていないんですね。というのも、高トルクが得られるモーターのお陰でプリウスはモータだけでの発進/加速が可能ですし、リバースするときもモーターを逆回転させれば良いので、エンジンの次に重たい部品であるトランスミッションを搭載していないんです。

ハイブリッドシステムの要となる動力混合/分割には遊星歯車を用いていますが、それでも普通のトランスミッションに比べれば遥かにコンパクトで軽く仕上がっているようですから、モーターやバッテリーなどによる重量増が殆ど相殺されているのでしょう。

ホンダはもっと簡易的なハイブリッドシステムですから発進時は普通のクルマと変わらず、CVTで減速してトルクを得ていますしリバースする際も普通にリバースギヤで反転させています。ただ、モーターは専用の薄型のものをフライホイールの代わりに仕込んでいますので、余計な重量を抱えなければならないのはバッテリーや制御系くらいでしょうか。

いずれもLCA的に見た場合は大したことなく、世間一般に信じられているエコカーというのはイメージ的に大きく誇張されているだけだと思います。が、クルマの仕組みとしては色々練られていて感心する部分も結構あります(特にプリウスのほうは)。逆に、トヨタとホンダ以外の各社があまり積極的に追随して来ないのは、こうしたシステムを洗練させ、尚かつコストダウンすることが案外難しいからかも知れませんね。

  • 2009/06/13(土) 01:58:57 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

詳細に解説ありがとうございます

石墨さま

大変詳細な解説ありがとうございます。
個人的には二次電池というのはデリケートな部品ですので、動力用に信頼性に厳しい車載に搭載したというのは技術的におもしろいトピックだったと、プリウス発表時に思っていた記憶があります。
私は一時期、車載用のイメージセンサに搭載する部材の開発をしていた時期があり、信頼性に通常の半導体よりも要求が厳しかったもので、上のイメージをより強くしていました。

まぁ、エネルギー密度や機構の点からいえば、合理性はあるわけですね。MTがないというのは確かに大きいですね。

とはいえ重量・寿命・LCA・コストの面でいえば、キャパシタは二次電池よりも軽いので、ハイブリッドの別の手であることも確かだとおもいます。性能向上も著しいですし、実例もあるわけですから。

プリウスはNiMHですが、Li-IONは結構事故も多いので、GMのLGバッテリの採用は大丈夫だろうかと不安に思ってしまいます。
私は免許はあるけど自家用車は乗らないので関係ないのですが、乗っているバスの隣で車が爆発されるのはヤですね。

プリウスがエコなんて私も思っていませんし、大抵の環境規制は実態を見ないでできあがってくるものがほとんど(すべてではない)なので、私としてはバカ騒ぎを覚めた目で見ているのですが…。

私も半導体・FPD業界で環境関連の仕事をしているもので、エセ環境科学というか、分かっていない人たちの盲信というか(理屈というか常識で考えていないのでしょうけど)…はイヤというほど体感しております。
日常の仕事で感じていることを石墨さまが書かれているので、今後も楽しみにしております。

  • 2009/06/13(土) 09:26:00 |
  • URL |
  • ねこすず #cYHteza2
  • [ 編集]

ねこすず さん>

>プリウスはNiMHですが、Li-IONは結構事故も多いので、GMのLGバッテリの採用は大丈夫だろうかと不安に思ってしまいます。

仰るとおりで、リチウムイオン電池はその安全性が常々疑問視されてきました。プリウスが登場したときには既に携帯電話やノートPCの電源などとして当たり前に採用されていたリチウムイオン電池ですが、やはり安全性の問題で採用が見送られ、10年以上経過しました。

ただ、ここに来て三菱の電気自動車アイミーブが間もなく発売され、プリウスのプラグイン仕様も年末くらいの発売が噂されています。富士重工も日産も電気自動車を実用化していく予定ですが、これら大容量バッテリーを要するものはいずれもリチウムイオン電池が採用されます。この10年あまりの間に様々な問題点が克服されてきたのかも知れませんね。


>私は免許はあるけど自家用車は乗らない

世間一般にエコカーと呼ばれるクルマを選ぶ人は「エココンシャスな人」と見なされがちですが、ねこすずさんのようなライフスタイルのほうが遥かに環境負荷が小さいのは明らかです。以前にも「環境を考えるならマイカーなど持たないのが一番」という趣旨のエントリ(http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-271.html)を設け、同様のことを述べましたが、何かアクションを起こしている人がエライということで、宗教的に崇拝してしまう人が多いようです。

ま、日経新聞の論説委員なども温暖化対策について精神論で社説を書いているくらいですから(http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-340.html)、これはもうどうしようもないのかも知れません。

  • 2009/06/14(日) 23:17:01 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

私は車ずきと言えるかな 
5年半前 プリウスを購入しました
時間待ちに エンジンを切れてテレビ
が 見られる バッテリー切れを気にしない車  燃費がいい割に 加速いい車  当時 セルシオに負けない 電子設備  結構 楽しめました
 350万円 今年 中古のクラウンG
を 240万円で購入 3年落ち 
車に酔いやすい 嫁さんの評価
室内の騒音が クラウンは静か プリウスは タイヤが路面を拾う 音がウルサイ ガラスの遮音性能が違う
FFの走りと FRの走りの違い
 思うように 燃費がのびない     高速 Pは20km C は13km 条件の悪い時 P18km C9km Pが24kmの道 C12km 約半分    1500と3000のエンジン・・・
半分は当たり前かな  嫁さんは
車酔いがなく 体が楽で 快適 
少し 遠くはクラウンの勝ち
また 3年落ちは 安いなあ
  

  • 2009/06/15(月) 23:05:34 |
  • URL |
  • なる #-
  • [ 編集]

なるさん>

>燃費がいい割に 加速いい車

そうなんですよね。プリウスに乗っている人は私もそうですが燃費を気遣って急発進急加速を控える傾向が強いようで、そういう事情を斟酌しない人が端から見ていると「トロいクルマ」と思われることがあるようですが、踏めばなかなか良い加速をするんですよね。

遮音性については重量が軽いほど不利ですから、プリウスの場合はそこそこのレベルしか狙っていないのは確かでしょうね。ま、プリウスは従来のヒエラルキーから外れた「クラスレス」という部分も重視されてはいますが、絶対的なコストがありますから、さすがにクラウンとの比較では分が悪いでしょうね。

私などはユーノス・ロードスターとホンダS2000を乗り継いでいきなりプリウスで宗旨替えしましたが、走りの面では全く土俵が違いますから、ナンセンスな比較はする気にもなりません。

  • 2009/06/16(火) 00:28:09 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2009/10/20(火) 09:43:15 |
  • |
  • #
  • [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://ishizumi01.blog28.fc2.com/tb.php/27-c032229f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

まとめ

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。