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いま最もホンダらしい製品 (その3)

航空機も船舶も空気や水という流体から抗力を受けるという点では似た部分が沢山ありますが、同じ用語でも微妙にニュアンスは異なるようです。特に異なるのは「造波抵抗」でしょう。

船舶の世界で「造波抵抗」といえば、船首が水面を切るときに波を造ることで失われるエネルギーに由来する抵抗になります。これを減らすため、喫水線下に「バルバス・バウ」という球状の突起が設けられます。通常船首が造る波と球状船首が造る波が合成され、各々が打ち消しあってエネルギー損失を抑えられるというのが、船の世界でいう造波抵抗の低減ということですね。

一方、航空機の世界でいう「造波抵抗」とは、衝撃波の発生によるエネルギー損失に由来します。遷(せん)音速(マッハ0.75~1.25くらいの速度域)に達すると、機体周辺の気流は音速を超える「超音速」と音速に満たない「亜音速」が入り混じるようになり、音速を超える部分からは衝撃波が発生します。

音速で生じる衝撃波の見た目が、船舶が水面に波を立てて進む状態によく似ているため、「造波抵抗」とか「造波抗力」などと呼ばれているわけですね。(これも深く語っているとハナシが進まなくなりますので割愛します。)

ホンダジェットが凄いのは、エンジンの搭載位置を工夫することで、この造波抵抗を減らしてしまったところです。

主翼の上にエンジンを搭載するというレイアウトは、従来の航空機設計の概念からすれば「やってはいけないこと」の一つでした。ボーイング社の風洞実験施設にテストモデルが持ち込まれたときに失笑が起こったのもそれゆえでしょう。しかし、風洞にそれをセットし、データ測定が始まると、ボーイングのエンジニア達の表情からその笑いは消え失せたといいます。

ホンダジェット(風洞実験)
テストモデルによる風洞実験の模様

ホンダが製作したテストモデルは、マッハ0.70~0.77の亜音速領域で翼の下にエンジンがあるタイプより抵抗が減っていました。さらに、マッハ0.77~0.84の遷音速領域まで上げると、胴体と翼だけの状態よりさらに造波抵抗が減少していたといいます。

彼らはコンピュータシミュレーションを駆使して胴体と翼とエンジンと、各々の要素が発生する気流の乱れを観察し、主翼の上のあらゆる場所にエンジンを置く実験を繰り返したそうです。各々が発生させる気流の乱れが互いを打ち消し合う最適な場所を見つけ出したんですね。船舶でいうバルバス・バウが船首の造る波を打ち消してエネルギー損失を抑えるように、ホンダジェットはエンジンの搭載位置を工夫することで似たような効果を得たということです。

ホンダジェット(主翼の圧力分布)
シミュレーションによる主翼とエンジン周りの圧力分布

一般的なビジネスジェットはプラット&ホイットニーとか、ロールス・ロイスなど、レディメイドのエンジンを用いますが、彼らはこれも自らの手で開発、GE(ゼネラルエレクトリック)と共同で改良を重ねてきました。その製造はGEと折半で事業化し、スペクトラム・エアロノーティカル社のビジネスジェットにも採用が決まったそうです。

現代の航空機は主翼が燃料タンクを兼ねるのが常識になっています。航続距離を伸ばすためにその容量を大きく取ろうと思うと、どうしても翼厚が厚くなり、空気の圧力抵抗が増えてしまいます。そこで、ホンダは「自然層流翼」と呼ばれる最先端の翼の開発も進めてきました。

これは翼の形状を工夫することで層流領域を拡大(乱流の発生を減少)させ、摩擦抵抗を減らそうというものです。(スミマセン、これも深く語っているとハナシが進まなくなりますので、非常に大雑把な説明だということをご承知おきください。)

また、表面の摩擦係数を抑えるため翼面にはあえてCFRPなどを用いず、高レベルに研磨されたアルミ合金製のそれを採用しているそうです。このように空気抵抗の低減や自前のエンジンで効率を追求するなど、細部にわたって徹底的な対策を実施したことで、同クラスのライバルより約40%も燃費を向上させたといいます。

さらに、左右のエンジンをつなぐ桁が機内を貫かない分だけ有効スペースも増し、同サイズで胴体に直接エンジンを搭載する方式のものより約30%のスペース拡大を実現したといいます。エンジンの振動や騒音が客室に伝わりにくくなっているのも前述のとおりです。

余談になりますが、このホンダジェットが2007年のグッドデザイン賞に選ばれたのは、同賞選考委員にしては珍しく良いセンスだと思いましたが、結局は金賞に終わり、大賞に選ばれたのは三洋電機のニッケル水素電池エネループのソーラー充電器や懐炉などの商品群だったところが、やはり彼ららしいところですね。



ホンダジェットは私の日常から最も遠い世界のホンダ製品で、一生ご縁はないでしょう。が、こういうチャレンジングな製品を開発するホンダが私の大好きなホンダです。これはあくまでも私の主観ですが、いまは次第に損なわれつつあるホンダらしい仕事というのはこういうものではないかと思います。

(おしまい)

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