
そもそも、乗用車などの一般利用者を対象に、東京圏と大阪圏を除いた料金を土日祝日は原則1000円(一部地域では1500円程度)で乗り放題というのは、本当に高速道路の利用を必要としている人たちに殆どメリットがありません。(乗り放題の対象となっているのはETC搭載車に限られていますので、ETCの普及促進という思惑もあるのかも知れませんけど。)
ご存じのように、日本の物流の約9割はトラック輸送が担っています(輸送トン数ベースの場合)。最近は幾分落ち着きましたが、燃料価格の高騰で倒産した零細業者も少なくなく、現在でも厳しい状況に置かれている人たちは沢山います。以前、ハブボルト折損事故に関して頂いたコメントに対しても同様のことを書きましたが、業界の置かれている厳しい状況がこうした事故の遠因の一つと考えるべきです。
土日祝日の乗用車を対象とした乗り放題は遊びで高速道路を利用する人たち、即ち、利用しなければしないで生活に支障があるわけでもない人たちを喜ばせるだけです。本当に高速道路の利用を必要とし、現在死活問題に直面している人たちは平日3割引の恩恵しかありません。大手に多い長距離便にとってはそれなりのメリットもあるでしょうが、倒産の危機に瀕している零細業者には中・近距離も多いですから、大した福音となっていないように思います。
もちろん、この政策が実施されたら高速道路の利用者が増え、多少の経済効果も見込めるでしょう。が、これまで控えられていた乗用車の利用が増えるとなれば、その分だけCO2の排出も増えることになってしまうでしょう。
ネットを眺めてみますと、「一般道を走っている人が高速を使うようになればエネルギー効率が上がってCO2削減になる」という人もいますが、これは根本的な読み間違いを犯しています。そもそも、これは地域振興を狙った経済対策とされています。人の流れる道筋が変わっただけでは経済効果など得られませんから、経済対策たり得ません。
土日祝日乗り放題という政策は、要するに自動車の利用を促し、行楽客を増やし、カネを使わせ、それによって経済効果を得ようという目論みです。利用者が増えれば渋滞も増える懸念も高まりますから、CO2の排出が増えることはあっても減るようなことはまずないでしょう。メディアは何故こうした政策に反対しないのでしょうか?
彼らの中には「青森から大津まで現在は21,750円かかっているのが1000円になる」などと、非常に極端な例を示しているところもあり、半ば面白がっているようにも見えます。が、「経済効果が生じるレベルで自動車の利用が増えれば、その分だけCO2排出量も増加する」という至極当たり前のことに考えが至っていない単細胞ぶりもまた相変わらずです。
彼らは日頃から「CO2の排出削減は急務」とか「待ったなしの状況」などと盛んに叫き散らしています。やっても無駄なコンビニの深夜営業規制の提案に対しても、どちらかといえば歓迎するような傾向が見られます(少なくとも朝日新聞と中日新聞は賛成の立場です)。以前、当blogでも「発電所は急に止まれない」と題したエントリで取り上げましたが、朝日新聞の社説などはこう書いています。
化石燃料を燃やす人類一人ひとりの生活の結果が、地球の負荷になる。だれかが何かを我慢し、生活の形を変えて、地球の重荷を減らす。
難しいことだが、豊かな地球を子や孫に残すため一歩を踏み出さなければいけない。便利さを犠牲にしてでも。
しかし、今回の値下げに対して「遊び目的の高速道路利用者を増やし、徒にCO2排出量を増やしかねない政策などけしからん」といった主旨の論調は見られません。例えば、10月31日付の毎日新聞の社説では
8月末の対策に盛り込まれ、既に実施されている高速道路料金の再引き下げ措置にも問題が残る。この間、原油価格が1バレル=60ドル台まで軟化しており、原油価格高騰対策は影響の甚大な業種への経営支援などを除けばピークは過ぎている。メリハリというのならば、再検討が必要だったはずだ。
という程度ですし、同じく10月31日付の中日新聞の社説も
高速道路の料金引き下げも休日に重点を置いた結果、一般家計の行楽などに恩恵があっても、肝心の経済活動に対する刺激効果にはやや疑問符が付く。
と同じような論調です。他紙も大手については目を通してみましたが、この是非について殆ど論評の対象になっていません。
以前にも同じようなことを書きましたが、彼らの知能が救いようのないレベルにあるのか、地球温暖化問題など本当は茶番だと解っている偽善者たちなのか、どちらかということでしょう。どちらにしても、政府のこのダブルスタンダードを許している時点で、日本のジャーナリズムは終わっています。また、この政策に文句を言わない環境省も全く同様です。