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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

オバマをルーズベルトに仕立てようとする人々 (その2)

各国のメディアが今般のアメリカ大統領選を嬉々として伝えたのは、かつてない強力な話題性があったからです。党の指名レース当時から共和党が殆どオマケ扱いだったのに対し、民主党に関しては異様なまでに熱心な報道がなされていました。

女性初を狙うクリントン氏と黒人初を狙うオバマ氏、どちらが選ばれても極めて画期的な出来事ですから、彼らが熱心になっていたのも無理はないでしょう。予定調和の自民党総裁選以上に彼らが盛り上げたのは、結果が読めず、ネタとして非常に面白いからという点に尽きます。

民主党の候補がオバマ氏に決定すると、彼らはさらに現実を超えたイメージを膨らませていきました。ブッシュ政権によって疲弊したアメリカを救うスーパーヒーローは、中道の老政治家ではなく(副大統領候補に指名された彼女はバリバリの保守系ですが)、肌の色を超越した若きリベラルのカリスマというほうが遙かに絵になります。

日本のメディアも彼を美化しながら多大なる期待を寄せ、次期大統領の座を獲得したいまは、日本の学校で使われている世界史の教科書が描くルーズベルト大統領を理想像とし、それに彼を重ねているように見えます。が、前回ご紹介したasahi.comの記事のような経済政策を本当にオバマ氏が進めていくつもりなら、カーター大統領の二の舞となってしまうことが危惧されます。

カーター大統領の就任から4ヶ月後のロンドンサミットでは、第1次オイルショックで不況に喘ぐ世界経済を回復させるため、いわゆる「機関車論」が提唱されました。余力のある国が経済刺激策を講じ、世界経済回復のけん引役を担うという考え方です。そこでカーター政権は財政支出を大幅に拡大し、公共事業に投資しました。

しかし、その積極的な経済政策はインフレ圧力を強めるばかりで空回りに終わりました。そこへ追い打ちをかけるように第2次オイルショックが発生してしまったんですね。物価上昇は加速を続ける一方、景気後退が同時に進行する深刻なスタグフレーションに陥っていきました。2度のオイルショックを通じてインフレ圧力が減退しなかった当時のアメリカは、潜在的なインフレ体質を持っている状況だったということです。

そこで、FRB(連邦準備制度理事会)のボルガー議長は通貨供給量を調整しました。彼は「インフレ・ファイター」とも呼ばれ、レーガン政権でも引き続きFRB議長を務めましたが、カーター時代はこの通貨供給量の調整が景気の低迷を長引かせることになってしまったと見て間違いないでしょう。

それまで経験したことのない異常なスタグフレーションに翻弄されたカーター政権は不運なだけだったのかも知れません。が、彼が1期4年でその座をレーガン大統領に譲ることになったのは、その経済政策が失敗だったと国民に見なされた故です。自信を失いかけたアメリカ人に軍備の増強で「強いアメリカ」をアピールし、その軍事費を除く財政支出を縮小して「小さな政府」をアピールしたレーガン→ブッシュ(シニア)時代へ進んでいったわけですね。

現在、石油価格は異常な高値から徐々に従来の水準へ近づこうとしています。しかしながら、アメリカでは金利が引き下げられ、ドル安が進み、また食糧などを筆頭に物価は依然として上昇傾向が続いており、インフレ圧力は収束しそうにありません。しかも、オバマ氏はクリーンエネルギー開発の推進を公約していますから、エネルギーコストの上昇は必至です。仮に、コスト増を政府が引き受けるとなれば、政府の財政悪化はさらに深刻化するでしょう。

また、アメリカは日本のように廃材や間伐材など食糧と競合しないバイオエタノールの開発が(ベンチャーレベルではともかく)国策として殆ど進められていません。それに加えて穀物メジャーという強力な黒幕がアメリカのバイオ燃料ビジネスに大きな影響力を持っていますから、これを推進させると弊害として穀物の価格を高止まりさせる恐れがあります。となれば、物価上昇はさらに続いていくかも知れません。カーター時代のように深刻なスタグフレーションへ陥る可能性は否定できないでしょう。(既にその兆しがあるという専門家もいるようです。)

今般の金融危機に端を発した景気の悪化から立ち直りたいと思うなら、社会資本への投資などしても殆ど無駄でしょう。まず成さなければならないのは金融の立て直しに他なりません。日本もバブル崩壊後の不況は、やはり金融界が不良債権で満身創痍に陥っていたからです。日本国内では責任の所在をうやむやにしたかったのか、その不良債権処理については深く報じられなかったような印象ですが、これなくして経済の回復もありませんでした。

中国などの市場拡大が日本の景気回復の原動力となったように考えられがちですが、何だかんだと文句を言われつつも深刻な不良債権の問題を克服してきたことが重要なポイントになっていたと私は思います。中国市場への投資から企業が収益を上げていくことができたのも、その元手を金融界から調達できたゆえです。先立つものがなければ手も足も出せません。

メディアはオバマ氏の若さを度々ケネディと対比して大統領選を伝えました。いまは社会資本投資で雇用創出を狙う経済政策からルーズベルトを連想させるストーリーを描いているように見えます。が、その経済政策がカーターのような失敗に終わったなら、レーガノミクスの再興を願う声を高めていくのかも知れません。

オバマ氏はイリノイ州議会議員を8年務め、上院議員に当選したのは2004年11月のことですから、国政に携わるようになってから僅か4年です。しかも、最近1年以上は殆ど大統領選に係りきりでしたから、実質的には3年程度のキャリアしかありません。こんな素人同然の彼が大統領に選ばれてしまったのはまるで漫画のようなハナシですが、これも民主主義なので好しとしましょう。

国政でのキャリアは極めて短く、実力が全くの未知数である彼がここまでメディアに持ち上げられてしまうと、あとは落ちるしかないような気もします。ホリエモンや亀田兄弟の例を挙げるまでもなく、持ち上げてから落とす「必殺・手のひら返し」は彼らの得意技ですし。

オバマ新大統領がそんな無様な姿に描かれることのないよう、いまは祈るしかありません。

(おしまい)

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