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消防車は如何にして事故を起こしたか?

ローカルなニュースだったので気付きませんでしたが、静岡県三島市でこんな事故があったそうです。

消防車バックし車や住宅に衝突

 29日午前11時35分ごろ、三島市中島で、資材置き場の火災の消火活動をしようとした三島消防署の消防車が急に後退し、停車していた乗用車と住宅に衝突した。家の中には女性(44)ら2人がいたが、けが人はなかった。
 三島署によると、同消防署の男性消防司令補(53)が運転席から降車し、消火活動の準備をしていたところ、消防車が後退したという。同消防署によると、消防車のサイドブレーキはかかっていたが、シフトレバーがバックに入っており、水圧を上げようとエンジンと連動しているポンプの回転を上げたら車が後退したという。

(C)asahi.com 2008年12月30日


マニュアル(以下MT)車でこうした状況はまずあり得ませんから、事故を起こした消防車はオートマチック(以下AT)車に間違いないでしょう。この事故の直接的な責任はもちろん運転していた53歳の司令補にありますが、この状況が確かなら消防車を作った側にも問題がないとは言えないと思います。

「作った側」というのはベース車両を作っているトラックメーカーやそれを消防車に仕立てる架装メーカーではなく、これらのメーカーに製作仕様を指示した三島市消防本部の器材担当と見るべきです。いずれにしても、こういう暴走事故が起こらないような安全設計を施しておくべきでした。

私は前職で特殊車両のプロデュースを8年近くやっており、何度も経験していますが、消防車や空港用特殊車両などは複合的な安全設計を施してきました。特に空港では車両同士の事故はともかく、相手が飛行機の場合は大事に(下手をすれば新聞沙汰に)なり、補償金額も桁違いになりますので、安全機構は消防車以上に入念なものを導入するのが普通です。

私は東京消防庁の車両にも関わりましたし、国内大手の航空会社やそのグループ会社の車両にも関わりましたが、私がそれらでやってきた仕事の殆どはこの種の事故を想定し、未然に防ぐ安全機構を施してきました。その具体的な部分をお話しする前に、まずは基礎となるポイントをザッとご説明しておきます。

asahi.comの記者は「エンジンと連動しているポンプ」と書いていますが、消防車のポンプに限らず、ダンプカーやクレーン車、ミキサー車なども架装された機械や機構を動かすために車両のエンジンから動力を取り出しています。これをPTO(Power Take Off)といいますが、用途に応じて動力を取り出す場所がトランスミッションだったり、フライホイールだったりします。消防ポンプ車の場合はエンジンの出力を100%取り出すためにフルパワーPTOという方式を用います(詳しくはコチラをご参照下さい)。

ミキサー車の場合、積載した生コンクリートが固まらないようにアジテーターを回し続ける必要がありますから、フライホイールから動力を取り出して走行中も作動できるようにします。が、消防車、殊にポンプ車の場合は原則として停車した状態で運用しますから、走行状態でPTOが作動しないようにするのが普通です。この場合、電気的な「インターロック機構」を設けるわけですね。

一般の方にとっても身近なインターロックはMT車の「クラッチ・インターロック」でしょう。MT車は駐車時にギヤをローないしリバースに入れておくのが定石ですが、ニュートラルに戻すのを忘れてスターターを回し、暴走させてしまう事故が増えたそうです。この対策としてクラッチペダルを踏み込んでおかないとスターターが回らないという安全機構が今日の乗用車では当たり前になったわけですね。

余談になりますが、私が運転免許を取得したときは踏切などでエンコしてエンジンがかからなくなったとき、ギヤをローないしリバースに入れてスターターを回せば少しの距離なら走れるから緊急避難のために覚えておくようにと習いました。それも今は昔というわけですね。

ハナシを戻しまして、消防車などのPTOインターロックはユーザーの要望によって作動条件が微妙に異なりますが、例えばパーキングブレーキを引くのはもちろん、ATのセレクターレバーがNレンジないしPレンジに入っていなければPTOも入らないといったパターンが多いと思います。空港用車両の場合、このとき誤ってセレクターを動かしてインターロックが作動し、PTOが不意にOFFとなって作業に支障を来さないよう、セレクターレバーの動きを固定する機械的なインターロックも併用する場合があります。

いずれにしても、NレンジやPレンジ以外ではPTOが入らないという、ごく初歩的なインターロックを設けていればasahi.comで報じられたような暴走事故は防ぐことができたハズなんですね。この程度のインターロックなら比較的簡単な電気配線で済むものですから、コスト的にも大したことはありません。東京消防庁などでは至極常識的な装備で例外なく導入されていますが、こうしたインターロックを何故設けていなかったのでしょうか?

今回の事故は初めからRレンジに入っていたのか、あるいは背負った空気呼吸器のエアボンベか何かをぶつけてセレクターレバーのロックボタンを押し、その拍子にレバーも動かしてしまったのか(ま、そう簡単に起こることではありませんが)、詳しい状況について記事を読んだ限りでは全く解りません。が、現場では突発的に何が起こるか解らないということを想定して製作仕様を決定するべきで、その辺の認識の甘さを感じます。

また余談になって恐縮ですが、こうしたインターロック機構を逆手にとって、わざと間違った使い方をする馬鹿者もたまにいますので、仕様設計については難しい部分もあります。例えば、パーキングブレーキをPTOスイッチ代わりに使う(つまり、普段からPTOスイッチをONにしておき、Nレンジに入れてパーキングブレーキを引けば同時にPTOもONになるといった使い方をする)横着者も出てきたりするんですね。

そういう横着者に限って上物のスイッチを切り忘れ、信号待ちか何かで停車してNレンジに入れてパーキングブレーキを引いた途端にPTOが入り、上物の機械を暴走させて事故を起こしたりします。人間の愚かさは底なしですから、何をしでかすか予測するにも限度があるでしょう。

こうしたケースを防ぐためにはPTOスイッチも電子式として、一度PTOがOFFになったら再びPTOスイッチをONにする操作をしない限りPTOが入らないようにするとか、PTOスイッチを操作してOFFにしないままPTOが入る条件から外れる状態になったら警報ブザーを鳴らすとか、さらに複雑なインターロックが必要になったりします。ま、人間に合わせて機械を設計するといっても、故意に間違った使い方をする人間にも対応しようと思うと安全機構も果てしなくなりかねないわけですね。


ところで、ここまでasahi.comの記事が正しいことを前提に書いてきましたが、産経で報じられている事故状況は全く異なっています。

火災現場で消防車が物損事故 静岡

 29日午前11時40分ごろ、三島市中島の倉庫資材置き場で発生した火災の消火に出動した三島消防署員(53)が現場到着直後、消防車のハンドル操作操作を誤り、近くに止めてあった乗用車と家屋の壁に衝突した。けが人はなく、消火活動に影響もなかった。

 三島署の調べでは、消防車は停車の際、近所に住む大工の男性(50)宅に止めてあった乗用車の前方バンパーに衝突、止まりきれずに家屋の壁にぶつかった。衝突で消防車の後方ステップ部が破損した。

(C)MSN産経ニュース 2008年12月30日


ローカルニュースとはいえ、ここまで状況が乖離しているのは尋常じゃありません。どちらが誤報なのか、どちらも誤報なのかは解りませんが、どんな取材をしたらこういうことになってしまうのでしょう? この三島市の消防車は如何にして事故を起こしたのか、謎は深まるばかりです。

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