ホンダ、16万台回収し無償修理 鍵構造に不具合
ホンダは22日、軽乗用車「ザッツ」16万8594台(02年1月~07年6月製造)を回収して無償で修理する改善対策を国土交通省に届け出た。安全上、本来はギアを「P」(パーキング)にしないと鍵が抜けない構造だが、ギアをP以外の状態にしたままエンジンを切る動作を繰り返すと電気回路に不具合が生まれ、Pにしなくても鍵が抜けてしまう恐れがあることがわかったためという。
23日以降、利用者と連絡をとり、関連部品を改良品に交換する。この不具合では、横浜市の女性(69)が昨年9月、バックをする際に使う「R」(リバース)にギアを入れた状態で鍵を抜いて降車したところ、車が動き出した。止めようとした女性は車の下敷きになり、大けがをした。
(C)asahi.com 2009年1月22日
三菱ふそうのクレーム隠しの一件を見ていても、メディアが自動車のリコール制度を正しく理解しているとは思えませんので、一般の方も「改善対策」についてはあまりよくご存じではないかと思います。いずれ三菱ふそうの一件についても詳しく書こうと思っていますので、自動車のリコール制度についてもそのときに詳しく書こうと思います。ここでは概要だけザックリとご説明しておきましょう。
「改善対策」というのは不具合の改修のため自動車メーカーが国土交通省に届け出る制度という点では「リコール」と同じなのですが、根本的に異なる部分があります。リコールと改善対策とは「道路運送車両の保安基準」を満たさなくなる恐れがあるかないかという点が異なるんですね。つまり、「リコール」は公道を走行できる(車検に合格する)条件を満たさなくなる恐れのある不具合が対象となり、「改善対策」は公道を走行できる条件を満たしているものの、安全上もしくは環境保全上の理由で改善すべき不具合が対象になります。
そもそも「Pレンジ以外でキーが抜けてはいけない」という条件は道路運送車両の保安基準はもちろん、その他の法令でも義務づけられているわけではありません。あくまでも自動車メーカーが自主的に設けている安全基準によるものなんですね。なので、このホンダの不具合は「リコール」ではなく「改善対策」となるわけです。
このような不具合の届け出は日常茶飯事で、毎回取り上げていたらblogのネタに困らないでしょうが、すぐに飽きられてしまうでしょう。今回に限ってわざわざ取り上げたのは何故かといいますと、先日「消防車は如何にして事故を起こしたか?」と題したエントリで取り上げた三島市の消防車暴走事故とメディアの扱いが大きく異なっているからです。
三島市の消防車暴走事故は、それを報じた朝日と産経で状況が全く異なっていますので、どちらが真実なのか判断しかねます。が、仮に朝日の報道が正しかったとしたら、Rレンジのままポンプの操作を行った消防官のミスが事故の直接的な原因と見て間違いないでしょう。
一方、今回のホンダの改善対策にかかる事故例として示された横浜市の女性のケースも、Pレンジに入れず、充分にパーキングブレーキを効かせていなかった(パーキングブレーキをかけ忘れていた?)ことが事故の直接的な原因と見られます。
三島市の消防車暴走事故はPTOインターロックという極めて初歩的な安全装置が装備されていなかった(あるいは装備されていたのに正しく作動しなかった?)ことが事故の構成要因の一つであるにも拘わらず、その点についてメディアからは一切指摘されませんでした。
一方、横浜市の軽自動車暴走事故もキーインターロックが正常に作動しなかったことが事故の構成要因の一つといえます。メディアにもその点がクローズアップされていますが、個人的にはインターロックの設計ミスというのも酷な気がします。
そもそも、この不具合は「Pレンジ以外でイグニションのオフを繰り返す」という普通ではあり得ない操作を繰り返すことによって、インターロックの電気回路が損傷してしまったことが原因となっています。駐車してエンジンを停止する際にはPレンジに入れるという常識的な操作を行っていれば、このような不具合には至らなかったわけです。
恐らく、この横浜市の女性は普段からPレンジ以外でイグニションをオフにするという常識的とはいえない操作を繰り返していたのでしょう。そして傾斜があるにも拘わらずパーキングブレーキをシッカリかけないという初歩的なミスを重ね、動き出したクルマを止めようとして立ちふさがって轢かれたという状況だったのでしょう。私の個人的な感想としましては、ホンダの過失はゼロに等しいと言っても良いくらい極めて軽微なものだったと思います。
以前、「人間の愚かさは底なしですから、何をしでかすか予測するにも限度があるでしょう。」と書きましたが、このキーインターロックを設計したホンダの担当者もまさかPレンジ以外でイグニッションをオフにするような常識的とはいえない操作が繰り返されるとは思っていなかったでしょうし、そうした状況を想定したテストは行われなかったのでしょう。
実際、この改善対策対象車においてPレンジ以外でキーが抜けしまったのはこの横浜市の例を含めて2件のみ(事故に至ったのは横浜市の1件のみ)とのことです。17万台近く生産されたうち2件ということは、8万何千人に1人しかいない「常識的なクルマの扱い方ができない人」が引き起こしたトラブルという見方もできるでしょう。
私の視点では三島市の消防車暴走事故も横浜市の軽自動車暴走事故も基本的に同類と考えます。が、状況を勘案すれば、後者のほうが「作った側」の落ち度はずっと小さかったように感じます。しかし、メディアによる両者の扱われかたは全く逆といっても過言ではないでしょう。この改善対策の件についてはNHKのニュースでも報じられていましたが、上述してきたような事柄をきちんと理解していなければ、事故の原因はクルマの欠陥によると印象づけられてしまいかねない内容でした。
特に酷いのは時事通信社で、とんでもなく乱暴な端折りかたをしており、事実の歪曲といえるレベルの滅茶苦茶な記事になっています。
ホンダ「ザッツ」に改善対策=16万台、駐車中動きだす事故も
ホンダは22日、軽乗用車「ザッツ」に、駐車ブレーキをかけ忘れたまま駐車した場合、車が動きだす恐れがあるとして、国土交通省にリコール(回収・無償修理)に準じた改善対策を届け出た。対象は2002年1月から07年6月までに製造された16万8594台。
(C)時事通信ドットコム 2009年1月22日
こうしたゴミのような記事を書く程度の低いメディアに騒がれる乗用車メーカーはつくづく気の毒に思います。