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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

都合よく規範を使い分ける人々

オバマ政権が新設したエネルギー・気候変動政策調整官というポストに就いたキャロル・ブラウナー氏はクリントン政権で環境保護局長を務めており、同政権の副大統領だったアル・ゴア氏の熱烈なシンパだと伝え聞いています。オバマ政権は地球温暖化防止に積極的な政策を進めていくといわれていますが、こうした人事面を見ても間違いないでしょう。

キャロル・ブラウナー
Carol Browner

以前も述べましたが、日本の大衆メディアの殆どは「アメリカが京都議定書から離脱したのはブッシュ政権の主導によるもの」と誤解しており、ブッシュ前大統領を地球温暖化問題における最悪のヒールとして扱ってきました。そのブッシュ氏が退き、これまでの大統領戦を通じてアイドル的に美化されてきたオバマ氏が積極策を展開していくとなれば、「Change」が始まったと熱狂するのも無理からぬことかも知れません。

今日の読売新聞の社説「温暖化対策 経済危機克服の手段となるか」でも

オバマ新大統領が掲げる「グリーン・ニューディール」は、温暖化対策に新たな視点を示した


という崇拝ぶりです。また、今日は日本経済新聞も社説で温暖化問題を取り上げていますが、やはりオバマ政権の政策方針を好意的に捉えているようです。

排出削減目標、内向き議論の危うさ


 温暖化ガスの排出削減義務を定めた京都議定書の第一約束期間は、2012年で終わる。その次、ポスト京都の枠組みは、今年の年末にコペンハーゲンで開く国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP15)で決まる。難航が予想される国際交渉の焦点は20年までの国別排出削減目標、いわゆる中期目標である。日本でもようやくその検討が始まったが、内向きな議論が目に付き、強い既視感と危機感を覚える。

(中略)

 地球の温度上昇を何度以内に抑えるかで、IPCCは厳しい順にカテゴリー1から6まで六つのシナリオを提示している。1は産業革命からの気温上昇がセ氏2.0から2.4度で、6だと最大6.1度上昇する。欧州は1を採用している。オバマ新大統領の就任前の演説では、米国は20年までは次に厳しい2のシナリオに沿って削減し、50年までには1のシナリオに復帰するよう削減ペースを上げるという計画だ。

 削減計画の目標に、絶対的な正義や正解があるわけではない。ただ、科学的な根拠と、国際社会を納得させる合理性と説得性は不可欠だ。昨年来、国際交渉の場では国別総量目標にはふさわしくないと何回も明確に否定された、セクターごとの削減可能量の積み上げが、いまだに日本の選択肢として検討対象になっているのは、不可解というしかない。

(後略)

(C)日本経済新聞 2009年1月26日


IPCCのシナリオとそれに基づくコンピュータシミュレーションは精度が全く保証されていない単なる推測でしかありませんが、それを神託のように盲信しているのは相変わらずですね。「科学的な根拠と、国際社会を納得させる合理性と説得性は不可欠だ」といっている割に、IPCCが採用した予測通りに現実が推移してきたのか否か、日経の論説委員は科学的に確認していないようです。

気候変動の予測と実測の比較

これは以前にも用いたグラフですが、IPCCの第四次評価報告書で採用された予測は2000年以降の8年間で平均気温が約0.15℃上昇することなっています。しかしながら、実際にはその通りになっていません。

この種のコンピュータシミュレーションは最初のステップの誤差が極めて僅かだったとしても、ステップを重ねていく毎に誤差が雪だるま式に膨れ上がっていくものです。誤差の原因が端数をどこで切るかといった単純な問題でないなら、いくら世界屈指の高速コンピュータを駆使しても克服できるものではありません。上図のように最初の8年くらいでこれだけ大きな誤差があって、50年先、100年先の予測が信頼できると思い込むのは、もはや「宗教」であって「科学」ではないでしょう。

そもそも、京都議定書で日本に課せられた「1990年を基準として-6%」という温室効果ガスの削減義務に科学的な根拠などありません。「科学的な根拠と、国際社会を納得させる合理性と説得性は不可欠だ」というのであれば、科学的根拠のない削減義務を課した京都議定書を守るいわれもないでしょう。

また、オバマ政権が掲げる「グリーン・ニューディール」は風力発電や太陽光発電を大々的に開発していく旨を謳っています。が、こうした不安定な電力を大規模に取り入れるとなれば、その変動損失を吸収するのに技術的な限界も生じてくるでしょう。それをどう克服していくのか私は大いに疑問を感じています。

しかし、オバマ政権の方針を崇拝する彼等はこうした問題点を全く指摘していませんし、それ以前にこうした問題点があること自体をきちんと認識しているようにも見えません。それでいて「科学的な根拠と、国際社会を納得させる合理性と説得性は不可欠だ」というのは二重規範以外の何ものでもないでしょう。

このように地球温暖化防止を叫ぶメディアの多くは、論旨に応じて複数の規範を都合よく使い分けます。こうした矛盾を気にしないということは、要するに物事を真剣に考えていないということです。

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