リアルオープンスポーツカーS2000の生産を終了
Hondaは、リアルオープンスポーツカーとして好評を博してきた「S2000」の生産を、2009年6月末をもって終了する。
S2000は、1999年に世界トップレベルの高出力4気筒自然吸気エンジンを搭載、50:50の理想的な車体前後重量配分を実現し「走る楽しさ」「操る喜び」を具現化したFRのリアルオープンスポーツカーとして発売された。また、運動性能だけでなく、当時の排出ガス規制値を50パーセント以上下回る排出ガスレベルや、新開発オープンボディ骨格構造を採用、クローズドボディ同等以上のボディ剛性を実現し、環境への配慮と世界最高水準の衝突安全性も兼ね備えていた。その後、VGS(車速応動可変ギアレシオステアリング)の追加、タイヤサイズの変更、排気量アップなど運動性能を向上させるなど、進化を続けてきた。その結果、約9年間で国内累計2万台、全世界累計11万台※以上販売した。
※ 2008年12月末現在
(後略)
(C)本田技研工業株式会社 2009年2月27日
9年間で全世界累計11万台という生産台数は現代の量産車としてみれば決して大きな数字ではありません。一般的な乗用車と比較してもあまり意味はないかもしれませんが、日本で一番売れている小型乗用車のフィットなら日本国内市場だけで7ヶ月分の販売台数がそれくらいになります。
いずれにしても、単一車種にプラットフォーム、エンジン、トランスミッション、その他諸々、殆どのコンポーネンツが専用開発され、他への転用はなされず、それをマーケット規模が極めて小さいスポーツカーだけで成り立たせてきたのですから、これまでよく投げ出さなかったと感心すべきかも知れません。
数年前まで30年近く放送されていた某関東ローカル局の新車情報番組でパーソナリティを務めていた某自動車評論家のM本氏はこのS2000を単純に「2000ccの国産車」という括りで捉え、「高すぎる」と評していましたが、私の意見は全く逆です。
現行フェアレディのようにプラットフォームもパワートレーンもスカイラインやエルグランドなどと共用し、その開発コストを分散して償却できるやり方と違って、S2000はあの少ない生産台数で償却していかなければなりません。そうした成り立ちを勘案すればかなり割安なクルマだと見ることもできるでしょう。
例えば、開発費を200億円と仮定し、それを11万台で償却するとしたら、1台当たり18万円以上を価格に上乗せしなければ赤字になります。が、200万台で償却できるなら、1台当たり1万円で済むわけですね。
もちろん、大量生産には部品の金型代などをはじめとして、スケールメリットでコストダウンが可能な要素が山ほどあります。生産台数が少ないほど様々なポイントでコスト面の不利を抱え込むことになりますから、M本氏が「2000ccの国産車」と単純に括って高いと評したのは思慮が浅すぎるように思います。
それはともかく、これまでもS2000の生産が継続されてきた状況は非常に厳しかったと想像されます。今般、その終了が決定した背景にはやはりアメリカ市場での落ち込みが大きく関わっていると見るべきでしょう。累計11万台のうち過半数の6万5000台がアメリカで売れたそうですが、2008年の販売台数は2538台まで落ち込み、前年比41%減となってしまったそうです。全体の6割を売っていたマーケットが4割ダウンということは、それだけで1/4のマーケットを失ったということですから、これはさすがに厳しいでしょう(他でも落ちているでしょうし)。
私のS2000に対する個人的な思い入れなどについてはこれを手放したときに書いたエントリをご参照頂きたいと思いますが、この生産終了の報は「ついに来たか」というのが率直な感想です。私はこの発売当初からコンポーネンツを共有してスケールメリットを得られるような車種が他に発売されないなら、「フルモデルチェンジなしで細く長く作っていかなければ成り立たないだろう」と思っていました。約9年間に11万台で果たして開発コストや生産ラインの整備コストなどを償却し、黒字に乗せることができたのでしょうか?
このS2000の後継については白紙のようですし、NSXの後継も開発が中止されたと伝え聞いています。が、ホンダの四輪車はFRスポーツカーが原点ですから、タイプRなどのホットモデルだけになってしまうのも心情的には寂しいものがあります。
ホンダは軽自動車でオープントップのFFスポーツカーを出すのではないかという噂もありますが、できることならスズキのカプチーノのようにFRで出てきて欲しいところです。スタイリングも往年の「S」を現代的にアレンジして「S660」といったカタチで発売されたなら、かなりマニア受けするように思います。維持費の安い軽自動車なら、セカンドカーとしても維持しやすいでしょうし。景気が回復して余裕ができた暁には、是非とも検討して欲しいところです。