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プリウスに似ているのは作為的だと思う理由 (その2)

モータージャーナリストの川上完氏はインサイトについての論評で以下のように述べています。

スタイリングは、一部にライバルであるトヨタ『プリウス』との近似性を言う声もあるようだが、居住性と実用性、さらに燃費の良さを追求すれば、必然的にあのようなフォルムになるのは当然だ。かつての3ボックス・セダンのスタイリングが似ていたからと言って、オリジナリティが無いとは誰も思わなかったはず。インサイトの実車を見ると、近い将来に、このプリウス/インサイト的な2ボックス・スタイルが、4ドア・セダンのスタイリングの主流になるかも知れないと思わせるほど新しい感覚のスタイルだ。


前回取り上げたリヤのサブウィンドウのように類例が沢山ある場合もそうですが、4ドアセダンのように古くから一つの様式となっているボディスタイルは真似もクソもありません。それとプリウスのようなモノフォルムでファストバックとなる5ドアハッチバックという個性的なスタイリングを一緒くたにしている段階でこの人にクルマのスタイリングを語る資質はないと見るべきでしょう。彼の言う「主流になるかも知れないと思わせるほど新しい感覚のスタイル」はトヨタが提案したものをホンダがそのまま模倣したに過ぎません。

私も以前は同様に「高速燃費を稼ぐために空力を煮詰めるとおおよそのフォルムはこうなってしまうのかも知れません。」と述べました。もっとも、その直後に「が、それでもイメージが重ならないように仕上げるのがデザイナーの仕事であり、そうした環境をつくってあげるのが開発主査の務めでしょう。」と付け加え、初めから極めて批判的だった点では全くブレていません。いずれにしても、川上氏のような「必然的」とする意見について様々な事例を勘案するにつけ、誤りであると確信するようになりました。

まず、このフォルムは居住性を追求したといえるほど優れたものではありません。プリウスもそうですが、このインサイトも全く同様に後部座席の天井が低く、座高の高い人は天井に頭が触れてしまうこともあります。実際、webCGの試乗速報によれば、180cmのスタッフがインサイトの後部座席に着座したところ、髪の毛が天井に触れたそうです。

私は身長169.5cm(座高は標準より高め)でプリウスの後部座席に座っても髪が触れることはありません。が、やはり天井の低さゆえかなりの圧迫感があります。居住性を求めるならルーフの曲率をもっと緩くし、後方への絞り込みを抑えるか、ファストバックにするのを諦めてルーフの終わりとハッチゲートの始まりにある程度角度をつけるべきでしょう。

一方、燃費についてですが、ボディ形状に関わるのは空気抵抗係数と前面投影面積になります。前面投影面積は正面から見たシルエット(シルエットなので後面から見ても同じですが)の面積ですから、全幅や全高などの外寸、キャビン上部や車体下部の絞り込み具合などにかかるものです。プリウスやインサイトに共通する特徴的なルーフからテールにかけてのなだらかなラインや全体のバランスなどに前面投影面積は直接関係ないでしょう。

燃費を良くするために空気抵抗係数を減らすべく、インサイトはプリウスと同じようなフォルムになったという見解は、他の事例と付き合わせてみますと、あまり正しいとは言えないことが解ります。

プリウスやインサイトのようなファストバックではなく、ごく普通のノッチバックでも空気抵抗係数が小さいクルマは沢山あるんですね。インサイトの空気抵抗係数はCd=0.28でなかなか良好な部類ではありますが、改めて確認してみますと、それより優れた4ドアセダンも決して珍しくありませんでした。現に、シビック(もちろんハイブリッドも含みます)もCd=0.27で若干ながらインサイトに勝っています。

シビック
ホンダ・シビック
ビッグキャビン・ショートデッキの現代的なボディスタイルです。
かなり短めのトランクリッドはルーフからなだらかに繋がって、
ノッチバックながら乱流が生じるのを上手に抑えているのでしょう。
プリウスとは全く異なる見た目ながら、空気抵抗係数は
新型インサイトより良好な値を示しています。
ついでに言えば、前面投影面積は2.04m2で
車高が高く2.16m2と大きな値になっているプリウスより小さく、
トータルではプリウスを凌ぐ空力性能といえます。


全長が短いクルマでCd値を削るのは難しいというのも確かです。Cd値を抑えるにはボディ前後(特に後方)を絞ってやるのが効果的です(ボディ表面の段差を小さくしてやる「フラッシュサーフェイス」もかなり効きます)が、キャビンやエンジンコンパートメントなどの容積を保ちつつボディ末端を絞るとなると、全長が短いほど急激なカーブを描くことになります。設計上の制約も大きくなりがちですし、デザイン的な自由度も抑えられる傾向が強くなり、何かと不利になってきます。

しかし、現実にはコンパクトカーでプリウスやインサイトよりずっと小さなボディサイズながら、プリウスには全く似ておらず、プリウスより優れたCd値を叩き出している例もあります。

アウディA2
アウディA2
ルーフ後部を絞った5ドアハッチバックですが、
プリウスやインサイトのようなファストバックではなく、
2ボックスというべきフォルムで、印象も大きく異なっています。
日本では正規代理店による取扱いがありませんでしたので、
私も実車は見ていませんけど。


インサイトのプラットフォームはホンダの「グローバル・スモール・プラットフォーム」と呼ばれるものです。フィットのそれからホイールベースを50mmストレッチした以外は殆ど同じで、サスペンション形式も変わらず、前後のトレッドも全く同じです。ホンダはテレビCMでこれを「コンパクトなハイブリッド」と称していますが、実際には全幅が5ナンバー枠一杯といえる1,695mm、全長も4,390mmになります。立派なCセグメントに属する体躯で、いわゆるコンパクトカーの部類には入りません。

しかし、アウディA2は全長3,826mm、全幅1,673mm、全高1,553mmとなっており、完全にBセグメントのコンパクトカーといえます。インサイトとプラットフォームを共用しているフィットと比べても全長で74mm短く、全幅で22mm狭く、全高で28mm高いボディサイズです。インサイトと比べると全長は564mmも短く、全幅は22mm狭く、全高は108mm高く、空気抵抗係数を減らすには(全幅を除いて)かなり不利と思われる外寸になります。が、それでいながらプリウスに似ることもなく、プリウスのCd=0.26より優れたCd=0.25実現しています。(ちなみに、初代インサイトもCd=0.25でした。)

こうした実例を見ても、「居住性と実用性、さらに燃費の良さを追求すれば、必然的にあのようなフォルムになる」という認識が誤りだということが明らかになります。そもそも、居住性、実用性、燃費の良さは今日の一般的な乗用車にはすべからく求められる性能です。あのフォルムが必然的だというのなら、何故ファストバックスタイルの5ドアハッチバックが絶滅に瀕していたのか? あのフォルムが必然的ならば、何故もっと広く採用されてこなかったのか? といった疑問が生じます。

(つづく)

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