酒と蘊蓄の日々

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アメリカ人は小型車を憎んでいる (その2)

朝日新聞の社説が指摘するように、ビッグ3が日欧のメーカーほど燃費改善に努力してこなかったのは事実でしょう。が、燃費を良くする技術を磨き、日本やヨーロッパの中小型車と競合する車種を主軸とした道を選んでいれば、現在の経営状態がもっとマシになっていたという保証もありません。総合的な技術力は高くても小型車を作り慣れていないメーカーが手を出して成功するとは限らないものです。

実際、世界屈指の技術力を持っていると思われるダイムラーも小型車では大苦戦しています。メルセデスの初代Aクラスは完成度の低さから散々な評価でしたし、現行モデルもBMWのミニほど成功していません。また、スウォッチの企画で始まったスマートは2007年にようやく黒字となりましたが、1994年の創業から利益が出せない状態がずっと続いてきました。言い出しっぺのスウォッチはとっくの昔に完全撤退し、ダイムラーの完全子会社となっています。2006年夏までの累計赤字は約4000億円に達し、現在でも撤退や身売りの噂が絶えません。

仮にビッグ3が早い段階から方針転換を行い、コンパクトで燃費の良いクルマを開発していたら、本当に経営状態の悪化を免れていたといえるでしょうか? ダイムラーのように苦戦し、却って体力を消耗していたという状況は否定できるのでしょうか? もしかしたら、アメ車らしい魅力を備えた大型車の開発に注力し、ピックアップという大きなマーケットを育んできたからこそ、ここまで持ちこたえていたのかも知れません。

あの計算高いトヨタでさえ今般の不況による市場縮小のスピードを読み切れず、大量の在庫を抱え、工場の稼動率を下げ、人員を整理し、ここ何カ月かの間に利益予測を3度も下方修正しました。結果を見て後から言うのは簡単ですが、先を読むのは非常に難しいことです。朝日新聞(に限りませんが)の論説委員やアル・ゴア氏は、ビッグ3の経営悪化の原因を燃費向上の努力を怠ったゆえだと短絡的に結論づけていますが、これは結果だけを見て自分の論旨に都合良く解釈し、業界の実情も知らずに好き勝手な主張を展開しているに過ぎません。

少々ハナシは飛びますが、80年代に北米市場でミドシップエンジンのお気軽スポーティーカーがブームになりました。フィアットX1/9の要領でFFのパワートレーンをミドシップに移したリーズナブルなポンティアック・フィエロがスポーツカスタムのベースに最適という理由で人気を博したんですね。このブームはそれほど走りに入れ込まない都市部の若者にも飛び火し、クールなパーソナルコミューターといった捉えられ方で大ヒットに繋がりました。トヨタもこのマーケットに参入すべく、フィエロの下位グレード以下となる車格として投入したのがMR2です。

ポンティアック・フィエロ
PONTIAC FIERO

ホンダもこれに続くべく、トヨタとは逆にフィエロの上位グレード(GTと称するV6エンジン仕様)以上となるモデルの開発を進めていたところで大問題が生じました。自動車保険の料率が大きく見直され、ドアの枚数が少ないほど、座席数が少ないほど、保険料が高くなってしまったんですね。2ドア2シーターを維持するには莫大な保険料がかかるようになり、ファッションでこれに乗っていた人たちはアッサリと見切りを付け、金持ちや気合いの入ったスポーツカー乗りだけが残るという状況になってしまったわけです。

ホンダはかなりの開発費を投入していながら、発売前にマーケットが見る影もなく縮小してしまい、回収の見込みが立たなくなってしまいました。そこでこのスポーティカーの開発を途中で方向転換させ、プレミアムスポーツカーに仕立て直し、そうしてリリースしたのがNSXだったというのが専らの噂です。プレミアムとするためにアルミボディが奢られ、エンジンも専用開発のものに改められましたが、エンジンベイはベースとなったレジェンド用V6ユニットと互換性をもつことになったのはこうした理由によるというわけです。

ま、このNSX転用説については状況証拠を繋ぎ合わせた噂に過ぎませんが、保険料率の一件で2ドア2シーターのマーケットが大きく損なわれたのは事実です。ついでに言わせて頂けば、マツダRX-8がエキセントリックな観音開きの4ドアになったのも、ランサーエボリューション(PSの『グランツーリスモ』でアメリカの若者にその存在が知られ、ラブコールを受けて発売されたといわれています)が大人気を博したのも、この4ドア4シーター以上に有利な保険料率が無関係ではなかったと私は見ています。

この事例は余計なコストがかかるようになれば本当にそのジャンルのクルマを愛して止まない奇特な人を除き、大多数は意外と簡単にふるい落とされてしまうということを如実に示していると思います。

CO2排出削減を本気で進めたいというのなら、こうした事例を参考にすべきでしょう。燃費の悪いクルマを購入する際には高額の税金が課せられるようにし、また燃料にも日本と同等以上に課税し、燃費が悪いクルマに乗ればイニシャルコストもランニングコストも高く付くような状況にするのです。この税収を燃費の良いクルマへの買い換えに対する補助金として再分配すれば、如何に小型車嫌いのアメリカ人とて燃費の悪い大型車に乗り続ける意欲が萎えるでしょう。また、ビッグ3もそれに応じた車種展開を迫られることになるハズです。

現に、昨年まで続いた原油高の影響で、アメリカでもそれなりに小型車が売れていました。が、その下落に伴って売れ行きも急減速し、現在は大量の在庫を抱えている状態です。例えば、ホンダ・フィットの場合は昨年7月の在庫日数が僅か9日だったのに対し、現在は125日となっています。同じく、トヨタ・ヤリス(日本名:ヴィッツ)の現在の在庫日数は175日、シボレー・アビオ(韓国の大宇カロスのOEM)に至っては427日という有様です。ま、原油高を受けた増産が裏目に出たり、需要そのものが落ち込んでいるという側面もありますが、燃料コストがかさめば自然と燃費の良いクルマが求められるようになるという事実は覆らないでしょう。

朝日新聞の社説がいうように、メーカーに対して2016年までに30%の燃費改善を求めるカリフォルニア州の独自規制が全米スタンダードになる可能性もあります。が、6km/Lくらいしか走らない巨大ピックアップの燃費を30%向上させても8km/Lに届きません。業務用にはある程度の緩和措置を設けるとしても、単なる趣味嗜好でこうした燃費の悪いクルマに乗っている人たちに対してはもっと燃費の良い車種に乗り換えさせるよう促すほうが遥かに効果的です。そのためにはメーカーに対して一律に30%の燃費向上を義務づけるより、燃費の悪い車種に対して重税を課し、燃料に対しても課税するほうが遙かに現実的で高い実効性が見込める政策となるでしょう。

しかし、計算高い政治家はこうした政策を採用しません。世界最大のクルマ社会であるアメリカでクルマのユーザーに負担を強いたり、ライフスタイルに立ち入ったりすることは、多くの票を失うことに繋がるからでしょう。そこで負担をメーカーに集中させ、燃費を全体で30%向上させろという非常に乱暴で大雑把な結論に至るわけですね。メディアも実現可能性などロクに考えず、「アクションを起こすことに意義がある」と信じ、こうした一方的な政策を安易に支持してしまうわけです。

ところで、俳優のレオナルド・ディカプリオ氏は先のベルリン国際映画祭でこんなスピーチをしていました。

多くの人が運転しているクルマのテクノロジーは100年前のものです。いまこそ、新しい技術を駆使して、奇跡のクルマを作り出す時期です。


新しい技術を駆使した「奇跡のクルマ」の誕生に期待するのも結構ですが、そのような「絵に描いた餅」で現実的な環境対策は計画できません。他の動力源の多くを駆逐して120年を超える歴史を重ねてきたガソリンエンジン車はそれだけに洗練されており、劇的な進化を望むのは極めて難しいことです。ディーゼルエンジンも115年を超える歴史を誇りますが、これほどの長きにわたってこれらを代替し得る動力源が実用化されていない事実を見据えれば、彼等がよく用いるフレーズである「明日のエコでは間に合わない」「待ったなし」といった状況で新しい動力源に期待するのは非現実的です。

朝日新聞の社説やゴア氏やディカプリオ氏が望むように、アメリカ人の「ガソリンがぶ飲み」を止めさせたいと本気で考えるのなら、彼等の小型車に対する憎しみを解き、価値観やライフスタイルを変えさせるように仕向けるほうが、見果てぬテクノロジーの進歩に夢を託すより遙かに現実的であるということを理解すべきです。

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