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MD-11はやはり欠陥機か? (その2)

MD-11は危険な機体として業界内では非常に有名です。この機体の操縦経験があるパイロットによれば「“玉乗り”と呼ばれるほど、ほかの航空機と比べて安定性が悪い航空機。着陸時の軌道修正も困難だった」とのことです。これは燃費の良さを売りにするため空力的な安定性を犠牲にした結果なのかも知れません。

前回ザッとご説明しましたように、一般的な航空機は風圧中心より前方に重心を置いて基本的に機首下げとなるような重量バランスとし、水平尾翼によるダウンフォースで機体前後方向の姿勢を維持します。各々がせめぎ合う力を強くしてやればより機体は安定しますが、その分だけ空気抵抗が増し、燃費が悪化します。

そこで、MD-11には重心をアクティブに移動できるシステムが採用されました。これは「CGコントロール」と呼ばれるもので、水平尾翼内にも燃料タンクを設置して主翼にあるメインの燃料タンクとパイプで繋ぎ、その一部を後方に移して重心を移動できるようにするというシステムです。積載物による重心の移動をこれによって調整し、重心を風圧中心に近づけてやれば、水平尾翼のダウンフォースを強くしなくても機体の前後方向の姿勢を整えることができます。こうして空気抵抗を減らし、燃費を向上させてやろうという訳ですね。

md11_JAL.jpg
MD-11は重心をアクティブに移動できますので、
水平尾翼に大きなダウンフォースを発生させる必要がありません。
そのため水平尾翼は見るからに小さくなっています。
DC-10に対して全長が約10%大きくなったMD-11ですが、
水平尾翼の面積は逆に約30%小さくなっています。


このように下向きの力と揚力とのせめぎ合いを小さくするよう設計されたMD-11はピッチングが生じやすく、機体が不安定になりがちです。そこで、コンピュータによって補正を行い、安定を保つよう制御してやろうと考えられました。こうした操縦システムは戦闘機にいち早く採用されてきたもので、MD-11を開発したマクドネル・ダグラス(現在はボーイングに吸収)は戦闘機メーカーとして勇名を馳せたメーカーでもありますから、技術力に自信があったのかも知れません。

しかし、様々なセンサを用いて機体のバランスをモニタし、コンピュータが安定を保つように補正をかけると、そのセンシングから補正信号の出力までに若干のタイムラグが生じます。パイロットの操縦に対しても補正が入ると、そのタイムラグからパイロットはついついオーバーコントロールをしてしまいがちになるんですね。風圧中心と重心が近く、ピッチモーメントが小さいゆえ機体そのものは姿勢変化に敏感なのに、それをコントロールするシステムは鈍感となれば、安定を得るのが非常に困難な状況に陥りやすいことは容易に想像できます。

前回述べたJAL706便の事故もバランスを崩すきっかけとなったのは乱気流だったのでしょうが、機体の姿勢が乱れ、大きなピッチングを引き起こしてしまったのはコンピュータが介在する操縦システムによるものと見なされました。つまり、パイロットが操縦桿を引いて機首上げを意図しても操縦システムのタイムラグですぐに機体は反応せず、必要以上に操縦桿を引き続けてしまうことで過剰な機首上げ動作となってしまい、それを抑えるために機首下げを行っても、同様のタイムラグで結果的に過剰な機首下げとなってしまい、これを繰り返す過修正のループに入ってしまったというわけですね。

こうした現象を「PIO」といいます。当初、PIOはPilot Induced Oscillation(パイロットが誘発させた振動現象)の略とされていました。が、これではパイロットの操縦ミスと誤解されることが多く、現在はPilot Involved Oscillation(パイロットが巻き込まれた振動現象)と呼ばれるようになっています。実際、JAL706便の事故のとき国土交通省(当時は運輸省)の事故調査委員会もアメリカ航空当局にPIOの定義を確認していますし、この刑事裁判で検察はPIOの定義をパイロットの操縦ミスに因むものと誤解していたようです。

このPIOという現象は熟練したパイロットでも自分の入力が振動現象を構成する一因となっていることに気付きにくいそうで、入力に対するタイムラグが大きいほどその傾向が強くなるといいます。MD-11のタイムラグは0.2秒もあり、潜在的にオーバーコントロールを招きやすく、危険だと主張する専門家も少なくありません。

成田で起こったフェデックス機の事故もこうした機体の特性によるものなのか否か予断を許すことはできません。が、メディアでも取り上げられている「ポーポイズ」というピッチングはPIOでも見られる典型的な振動現象です。似たようなピッチングによる事故の前例がこれほど豊富な機体も滅多にありませんから、こうしたMD-11の特性も充分に考慮すべきでしょう。

読売新聞は「着陸失敗のMD11型機、海外でも横転事故…難しい操縦性」という記事で同機による事故の前例や如何にバランスを取り戻すのが難しい機体であるかを紹介したり、社説でも「突風に対する特性など機体の構造上の問題も調査する必要がある。」と述べるなど、それなりにマトモな報道になっていると思います。

が、産経新聞の主張「貨物機炎上 気象の急変に対応怠るな 」や中日新聞の社説「成田着陸失敗 解明急げ初の死亡事故」など、他のメディアの多くはウインドシア(異なる2点間で風向や風速が劇的に異なる状態)ばかりを問題にし、事故機の特性について散発的に報じてはいるものの、深く掘り下げようとする姿勢は感じられません。

上掲の読売新聞の記事によれば、「運輸安全委員会は同型機の操縦特性にも注目して、調査を進める方針。」とのことで、私が気になっている部分についてもキチンと検討された上で原因究明が進められそうですから、特に懸念を抱く必要はないかも知れません。

しかし、多くのメディアはこうした部分を深く考えぬまま、JAL706便の事故のようにきっかけに過ぎないかも知れない気流の乱れで片付け、真相に迫ることなく忘れ去ってしまうような気がします。ま、今回は貨物機で乗客がおらず、彼等が煽りたがる「憎悪」も生じませんでしたから、すぐに風化してしまうのでしょうけど。

(おしまい)

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  • 2017/05/09(火) 22:13:40 |
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