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タタ・ナノは低速シティコミューター? (その2)

asahi.comでは日本のメディアとして珍しく世界最安となるタタ・ナノの試乗をレポートしていたので非常に興味をそそられたのですが、いかんせんそれを書いた記者のクルマに関する造詣が浅く、私にとってはあまり価値のある内容になっていなかったのが残念でした。

例えば、「2気筒(日本の軽乗用車は3~4気筒)なので、エンジン音と振動を懸念していた」と書かれていますが、音に関してはどれだけ遮音材を奢って室内への進入を防げるかという部分もポイントになりますし、振動もエンジンマウントによって伝わりにくさがある程度左右されます。また、レシプロエンジンの振動は気筒数だけで決まるような単純なものではありません。同じ直列でも3気筒と4気筒では振動特性が全く異なりますから、「日本の軽乗用車は3~4気筒」と一括りにするのも些か乱暴なように思います。

少々込み入ったハナシになりますが、良い機会なのでレシプロエンジンの振動について少し説明しておきましょうか。「レシプロ」というのは要するに「往復運動」を意味するわけですが、質量のある部品が往復運動をすれば振動が生じるのは言うまでもありません。細部を見れば弁機構も普通は往復運動になりますから振動を生じますが、質量が小さいゆえさほど問題になりません。実際に問題となるのはピストンとコンロッドとクランクシャフトで構成される振動です。

この振動には2種類あり、1つはエンジンの重心を直線的に往復させようとする「加振力」で、もう1つはエンジンの重心を軸として回すような力を反復させる「慣性偶力」です。いずれもクランクシャフトの回転数と同じ周期の振動を「1次振動」といい、回転数の2倍の周期振動を「2次振動」といいます(1.5次といった整数倍ではない振動も生じることがあります)。さらに高次の振動もありますが、振動周期が短くなるほどそれによる影響や身体への感じやすさも小さくなる傾向がありますので、実際に問題とされるのは1~2次くらいの振動になります。

一般的にシリンダ数が偶数となっているエンジンが多いのは、2つのピストンでお互いの力を打ち消し合うように設計してやれば、特に1次の加振力を抑えやすいためです。但し、ピストンの動きだけでなくコンロッドやクランクの動きによっても振動は生じますし、「バランサー」という別部品によって振動を抑制する手法もありますから、さほど単純なハナシではありません。

例えば、直列4気筒の場合はピストンだけを見ればバランスしていますが、実際にはコンロッドとクランクによって2次の偶力振動が生じています。直列6気筒が「完全バランス」といわれるのは、ピストンとクランクとコンロッドの動きが2次振動まで全て相殺されるからですが、実際には3次振動が生じていますし、動弁系には1.5次の偶力振動が生じています。

直列3気筒の場合は3つのピストンになりますから、これで各々の力を相殺することはできません。同じ直列3気筒でも等間隔爆発と180度クランクを用いた不等間隔爆発とでは1次振動の発生が大きく異なります。また、こうした振動を抑えるためにバランサーが用いられることもありますし、バランサーを用いなくとも振動を抑制するテクニックは色々あります(これを詳しく書いているとハナシがさらに進まなくなりますので割愛しますが、パッソ/ブーンの1000ccは直列3気筒でバランサーを用いていないものの、振動面はかなり良好に躾けられています)。

ナノのような直列2気筒の場合も、360度クランクの等間隔爆発と180度クランクの不等間隔爆発では振動特性が大幅に異なります。前者は2つのピストンが同時に同じ方向へ動くため、単気筒と同じように大きな1次の加振力が生じます。一方、後者はピストンの動きが互い違いになりますから、ピストンによる加振力は相殺されるものの、大きな1次の慣性偶力が問題となります。

往年の銘車ホンダ・ライフは180度/540度という大幅な不等間隔爆発となるのを嫌ってか、等間隔爆発となる360度クランクを採用し、大きな1次の加振力を抑えるためにバランサーを用いていました。一方、フィアット500は不等間隔爆発の180度クランクを採用していましたが、その偶力振動が当初の想定を上回るレベルだったため、横置きで設計されていたエンジンレイアウトをやむなく縦置きに改め、さらにエンジンマウントにスプリングを用いてようやく許容レベルに収めたといいます。

4サイクル直列2気筒(等間隔)
4サイクルエンジンの直列2気筒で等間隔爆発にすると、
ご覧のようにピストンの動きを揃えるしかないため、
非常に大きな1次の加振力(この図でいえば全体を上下に揺する振動)
が生じてしまいます。


4サイクル直列2気筒(不等間隔)
ピストンの動きを互い違いにするとピストンの質量による
加振力を相殺することはできますが、大きな1次の慣性偶力
(この図でいえば左右のピストンの中間にある重心を軸として
回すように揺さぶろうとする振動)が生じてしまいます。
また、4サイクルエンジンでは180度/540度という大幅な
不等間隔爆発となってしまうため、エキゾーストマニホールドの
集合も相応に配慮しないと、排気干渉が問題になってきます。


4サイクル水平対向2気筒
2気筒の4サイクルエンジンで等間隔爆発とし、
振動もできるだけ抑えたいというのであれば、
シリンダレイアウトは水平対向がベストでしょう。
BMWはモーターサイクルでこのレイアウトを長年続けていますが
その拘りもバランスの良さを重視したゆえだと思います。
さらに余談になりますが、BMWは四輪用エンジンでも直列6気筒に拘り、
他社はどんどんV型6気筒へ移行していく中にあって
しぶとくその完全バランスエンジンを作り続けています。
このメーカーはエンジンのバランスにかなりの執着があるのかも知れません。


ナノの直列2気筒エンジンは180度クランクになるのか360度クランクになるのか解りませんが、「走り出しても音は全く気にならず、振動も感じない」とのことですから、振動対策のレベルは低くないと思われます。ただ、やはりこのレポートで頂けないのは、振動についても走行中の状態で評価しているところです。

先にも触れましたが、こうした振動は周期が短くなるほど体感しにくくなりますから、エンジン回転数が上がっている走行状態よりもアイドリング時に評価すべきなんですね。実際、私が社用で時々乗るパッソは直列3気筒で1次の加振力による振動が生じていますが、走り始めると殆ど気にならなくなり、逆に信号待ちなどアイドリング時には顕著になります。

ま、件のレポートは専門メディアによるものではありませんから、ここまで細かいところに噛み付くのは少々大人げないかも知れませんけどね。

(つづく)

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