酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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さらなるコストダウンに邁進する自動車業界

ご存じのように今般の不況から自動車業界全般が不振に喘いでいます。各社とも在庫調整の目処は立ってきたようですが、依然として国内の新車販売は伸び悩みが続くと見られていることもあり、トヨタはヴィッツをはじめとして近くモデルチェンジが計画されている小型10車種について今後2~3年は価格を据え置く方針を固めたと伝えられています。

鋼板など原材料コストの高騰が続いていた昨秋には商用車とプリウスの値上げが敢行されました(関連記事「巧妙な値上げ戦略」)。が、その後に見舞われた不況の影響もあって原材料コストも下落に転じましたし、またプリウスについてはインサイト対策として大幅な値下げが予定されるなど(そのお陰で新型は発売1ヶ月前にして予約が5万台に迫る勢いだそうです)、情勢はこの半年余りの間に大きく転換しました。

トヨタはこれまでも世界最高レベルのコスト管理を徹底してきましたが、この小型車の価格据え置き方針を徹底した上で収益アップも目論んでいるようで、生産と開発の各部門をシームレスに連携させた「小型車原価低減特別チーム」を立ち上げたといいます。主たる方策は部品の共通化とオーバースペックの見直しなどになるようで、生産台数の減少にもスケールメリットを落とさないようにするといった思惑も見えてきます。

具体的にはメーター関係の基盤を共用したり、iQに採用されたエアコンやシート骨格などを他車にも展開するなど、外観上はいくらでもアレンジが利く部品についての共通化を進めるようです。要するに、見た目は車種のイメージに合わせて意匠を変えても、一皮むけば同じものが使い回されるという格好になるわけですね。

また、オーバスペックの見直しについては、目に触れにくい部分の瑕疵(かし)に対する基準を緩める方向で検討されているようです。具体的には、内装の内張の裏側やバンパー下面など、性能に影響のないキズについても徹底的に排除してきた従来の厳しい合格基準をある程度緩和させ、歩留まりを上げようと考えているのでしょう。

私が前職で手掛けてきたような特殊車両はそれほどシビアではありませんでしたが、乗用車に関しては仕上げやPDI(新車整備)に対する要求が日本人は潔癖症ともいうべき異常なレベルで、トヨタも馬鹿正直に付き合い過ぎた感が否めません。なので、これはむしろ正常化に向かうものといえるのかも知れません。

やや余談になりますが、輸入車の国内販売価格がかなり割高に設定されている理由はこの日本人の潔癖症による部分も小さくないと私は見ています。新車なのにキズがあるのは許せないという気持ちは解らなくもありませんが、海外では指摘されなければ気付かないような塗装の不良や、しばらく乗れば自然に付いてしまうような小さなキズなどに対して日本よりずっと大らかだといいます。

そうした基準で仕上げられたクルマをそのまま日本で売るとたちまちクレームの嵐になるそうで、正規輸入代理店の多くはPDIセンターを設け、それこそ「仕立て直し」ともいうべき徹底したクォリティコントロールをやっています。JAIA(日本自動車輸入組合)のサイトにある「PDIセンターのご紹介~輸入車の品質維持のかなめ~」ではフォルクスワーゲン・アウディ・ジャパンのPDIセンターを紹介していますが、「日本はやり過ぎているのではないか?」「なぜそこまでやらなければいけないのか?」とフォルクスワーゲン本社に言わしめるほどの検査が行われています。

VAJのPDIセンター
フォルクスワーゲン・アウディ・ジャパンのPDIセンター
素人目には気付かないようなキズや塗装の不良も
厳しいチェックで弾かれ、ご覧のように1台1台職人の手作業で
完璧にリペアされるといいます。
こうしたエピソードは福野礼一郎氏の
ホメずにいられない―オイラが出会った"ホンモノ"なヒト・モノ・クルマ
でも取り上げられています。


この超絶な検査で弾かれた瑕疵のリペアは細部にわたり、リペアでは基準を満たせない場合は再塗装や部品を丸ごと交換するケースもあるといいます。これをアフターマーケットの業者にやらせたら、正規輸入車が割高となっている分では賄えないともいわれています。正規代理店が集約的にシステマチックにやっている分、そこそこのコストでこれだけのPDIができるというわけですね。逆にいえば、日本のマーケットは瑕疵に対して病的なまでに厳しいゆえ、余計なコストを支払わされているのかも知れません。

トヨタなどはむしろそうしたマーケットのニーズに応え、その病的な部分をエスカレートさせる手助けを率先してきたような印象もあります。が、ここに来て直接目に触れにくい部分については見直しをかけるということになるわけですね。私などはDIYで色々取付けるにしても配線などができるだけ表に出ないようにしたいので、しょっちゅう内装を引っぺがしています。が、そこにキズがあるかどうかなど気にしたこともありませんし、キズがあったとしてもそれは内装剥がし工具を使って自分で付けたものかも知れませんし、全く以てどうでもいい部分ですけどね。

それはともかく、自動車メーカーはこのようにイニシアチブを取れますから、コスト削減ができる幅も広いでしょう。が、部品メーカーには「自動車メーカーの要求スペックを満たす」という大前提がありますから、独自に行えるコスト削減の幅は限定的になるのではないかと思われます。そうした中で心配されるのはやはり海外拠点へのシフトですね。

自動車メーカー自ら主力車種の生産拠点を海外へ移管するという計画は日産を除いてまだ本格的になっていないようですが、部品に関してはその動きが顕著になってきた印象です。ここ数日の間に大手ブレーキメーカーの曙ブレーキ工業とホンダ系大手部品メーカーのケーヒンから相次いで複数の国内拠点を閉鎖するプレスリリースがありました。いずれも他の国内拠点へ集約させるとのことです。

曙ブレーキのグローバル展開としては、アメリカに2つ、中国に2つ、フランス、タイ、インドネシアに各々1つ、計7つの製造拠点を持っています。国内も館林鋳造所を除いて子会社になりますが、福島に3つ、埼玉に2つ、岡山、山形に各々1つ、計8つの拠点あり、このうち曙ブレーキいわき製造(株)と曙ブレーキ山陽製造(株)の2拠点を今年度中に閉鎖するそうです。つまり、国内拠点が6つになり、7つの海外拠点より少なくなってしまうというわけです。

ケーヒンも国内に14の製造拠点があります(アッセンブリーのみの1拠点も含みます)が、このうち2拠点を来年9月までに閉鎖、海外16拠点との差が広がってしまうことになりました。これらを以て雇用の海外流出とは言い難いところですが、相対的に海外比率が上がって国内比率が下がるということは、実質的に海外流出と同様の状況にあると見るべきでしょう。

トヨタはまだ日産のように日本向け主要車種の生産について海外へのシフトを本気で考えていないようで、「小型車原価低減特別チーム」を立ち上げたのもそれゆえでしょう。以前に取り上げた日産の「グローバル車両生産技術センター」のような施設をトヨタはまだ整備していないからなのか、それとも日産ほど切羽詰まっていないトヨタはそこまでやる必要がないのか、その辺は想像に委ねるしかありませんが。

いずれにしても、雑巾を絞って一滴の水も滴らなくなるところまできて、なおも価格競争に明け暮れるとなれば、そのときは部品のみならずクルマ全体が海外で生産され、日本へ逆輸入されるのが当たり前になってくるでしょう。付加価値が比較的低い家電ではとっくの昔にそうなっています。大衆車全般もそうなる可能性は低くないでしょう。少なくとも、来年モデルチェンジされる日産マーチがそうなることは既に決まっています。(関連記事「主力車種の海外流出第一号」)

コメント

大衆車が日本製でなくなる時

ホンダのクルマでフィットアリアというのがありますがタイ製です。以前2日間ほど運転してみましたが問題なく日本製同様でした。
アフターサービス体制さえしっかりしていれば外国組立の大衆車もアリだと思います。
ただ自動車工場は人海戦術でたくさんの従業員が必要ですが外国に工場を移されると従業員たちの職がなくなってしまいますね。それが心配。
世間のユーザーは乗用車をますます単なる道具としか見なくなっていきつつありますから希望する購入金額は下がっていく一方なのでしょう。私自身もそうです。マーチもシビックもカローラも安ければ安いほど良いと思っていますから。
昔のように高価なクルマに乗っていればエラいとか金持ちといったようなイメージは既にありません。

  • 2009/05/03(日) 07:10:23 |
  • URL |
  • 林 宏 武蔵野市 #GHYvW2h6
  • [ 編集]

林 宏さん>

仰るとおり、フィットアリアはタイのアユタヤ工場で生産されていて日本に逆輸入されているものになりますが、私の実家がフィットを保有していたとき、何度か代車でアリアのほうを借りたことがあり、私も少し乗らせてもらいました。品質的には全く遜色ありませんでしたね。そう遠くない将来、大衆車はアジア諸国からの逆輸入が増えるのではないかと思いました。

でも、国内の労働力需給が柔軟になったこともあってそうした動きはあまり大きく展開しませんでしたし、「主力車種の海外流出第一号」と題したエントリ(http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-325.html)でも書きましたが、フィットアリアは現地や東南アジア地域でシティという名で売られているモデルを日本市場にも投入した、いわば隙間狙いの車種です。マーチのような日本国内向け主力車種の生産拠点が海外へ全面的に移されようとしているのは画期的な展開といえるでしょう。

クルマはもはやステイタスシンボルでもなくなってきて、趣味性の要求も低くなり、冷蔵庫や洗濯機などいわゆる「白もの家電」のような実用性と価格の安さが求められる傾向が強くなっています。だいぶ前からモータージャーナリストの間ではこうした白もの家電化が危惧されてきましたが、ここに来てかなりその傾向に拍車がかかってきたような気もします。

トヨタの場合、カローラから始まって、コロナ/カリーナ(現在のプレミオ/アリオン)、マークII/チェイサー/クレスタ(現在のマークX)、そして「いつかはクラウン」という4ドアセダンのヒエラルキーがありました。日産にもサニー→ブルーバード→ローレル→セドリック/グロリアという同様のヒエラルキーがありましたが、もはやこれも崩壊してしまった感が否めません(日産のほうは完全に崩壊してしまったと見るべきでしょう)。

>昔のように高価なクルマに乗っていればエラいとか金持ちといったようなイメージは既にありません。

私も全く同感なのですが、実際に高価なクルマに乗っている本人たちは昔と変わらず偉いと思っている人が少なくない印象です。また、日本でも貧富の差が拡大していく傾向は年々強くなっていますから、メーカーは高級車をより高級にしていこうとする手を緩めることもないでしょうね。

  • 2009/05/07(木) 01:33:40 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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  • 2009/05/07(木) 03:20:48 |
  • |
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