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高速道路の値下げは逆モーダルシフトを引き起こした (その1)

貨物の輸送手段は大きく分けて陸運と海運と空輸の3つがあります。日本国内の貨物輸送量(重量×輸送距離)で空輸の占める割合は1%にも満たないため、中心は陸運と海運になります。このうち海運は40%弱、残りの60%強が陸運になりますが、陸運の90%以上をトラック輸送が担っています。要するに、日本国内の貨物輸送は60%弱がトラック輸送、40%弱が船舶輸送、残りの数%が鉄道輸送、コンマ数%が航空輸送ということです。

トラック輸送がこれだけのシェアを握っているのはその柔軟性にあると見て良いでしょう。特に日本ではトヨタのカンバン方式に代表される「ジャスト・イン・タイム」の要求がコンビニの商品配送から個人向け宅配便の時間帯指定サービスに至るまで広く深く浸透しています。こうしたことから、運行の時間や経路などでフレキシブルに対応できるトラック輸送が強みを握ってきたといったところでしょう。

一方で、トラック輸送も「ハブ&スポーク」という考え方が導入されており、ターミナル間の集約的な輸送を大型トラックが担い、その先の細かい配送を小型トラックが担うといった合理化も進められてきました。そうした管理体制が充実してくると、ターミナル間輸送をエネルギー効率が高く、渋滞の影響を受けない鉄道輸送に置き換えてはどうかという考え方も生まれてきます。

もっとも、現実問題として鉄道貨物は路線もターミナルも旅客輸送ほど充実しておらず、また運行本数にも限りがあることなどから、まだまだトラック輸送に取って代わるだけの実力が備わっているとは言い難い状況です。が、同じくエネルギー効率の高い船舶輸送と共に鉄道輸送を見直す動きは強まっていて、「モーダルシフト」という言葉も以前より耳にする頻度が高まってきました。先日のNHK『週刊こどもニュース』でも海運が取り上げられ、この「モーダルシフト」という言葉が使われていました(エコという部分の認識に錯誤があったのはいつものことですが)。

この「モーダルシフト」は「輸送手段の転換」といった意味になりますが、専らエネルギー効率の低い自動車や航空機から効率の高い船舶や鉄道へ転換することを示します。例えば、国土交通省の調査によりますと、鉄道で1トンの貨物を1km運ぶのに消費するエネルギーは494キロジュールとなり、これはトラックの1/5程度とされています。こうしたことから、低炭素社会への移行(これで地球の気候変動を防げると考えるのは誤りだと思いますが、化石燃料の依存を抑える一方策と考えれば一概に悪とはいえないでしょう)が叫ばれる今日にあって、以前よりさらにクローズアップされてきたわけですね。

一方、日本国内の旅客輸送量(人数×輸送距離)も自動車が他を圧倒するシェアを握っています。

旅客輸送の分担率
国内の旅客輸送の輸送機関別分担率
注釈にありますように、1990年まで軽自動車と自家用貨物車は
カウントされていなかったということを考慮しますと、
ここ30年くらいは自動車と鉄道の分担率に関しては
大きな変化はなかったと見るべきかも知れません。


上図は4年前までのデータですから、新車の販売台数が落ち込んでいる最近の動向は把握できません。もっとも、メディアは新車販売台数の減少と若者のクルマ離れについて大騒ぎしていますが、以前にも述べましたように代替サイクルが伸びていることと、若年ユーザーの縮小を上回る高齢ユーザーの拡大などから、国内の乗用車の保有台数そのものは現在も微増を続けています。

日本の乗用車保有台数

乗用車の保有台数が減少していない以上はその利用率が増減することで他の交通機関(といっても日常的に競合するのは専ら鉄道でしょう)との分担率が微妙に変化するカタチになると考えられます。ここに影響を及ぼすのは専ら景気動向や燃料価格などの変動によるのだと思います。もちろん、高速道路料金の影響も決して小さなものではないでしょう。

特にクルマを持たず、レンタカーを利用している人たちはこうしたコストの変動に敏感で、かなり流動的に振る舞うものと想像されます。近年ではこうした人たちを取り込んだカーシェアリングが物凄い勢いで拡大していますから、この層は旅客輸送分担率の変動にかなり大きな影響を与えていくことになるような気がします。

カーシェアリング車両台数と会員数
日本のカーシェアリングの車両台数と会員数
ご覧のようにここ数年で4~5倍増という
物凄い増加率で推移しています。


貨物輸送においては随分前から言われ続けてきたモーダルシフトですが、旅客輸送については鉄道会社(特に東海道新幹線を運行しているJR東海)を除いてモーダルシフトを積極的に唱える人たちは案外多くない印象です。特に大衆メディアは若者のクルマ離れで不要な乗用車の保有が減少しようとしている状態を喜ぶべきこととは捉えておらず、むしろ経済面を憂慮してこれを嘆くような論調が目に付く印象です。

確かに、自動車産業は日本の基幹産業であり、波及する分野は機械工業だけにとどまらず、エレクトロニクスやケミカルなど、裾野は広範囲に渡っています。さらに、損害保険やローン、リースといった金融面でも自動車は無視できない大きな存在です。ですから、クルマが売れなくなることによる経済的なダメージは決して小さくないでしょう。

しかしながら、「経済成長と環境保護は両立できるもので、経済成長を言い訳に環境保護の手を緩めてはならない」というのが大衆メディアの(特に朝日新聞や日経新聞などリベラル系の)常套句になっています。これを正論として貫こうと思うのなら、自動車の保有台数が減ってもそれに耐え得る経済社会の構築を望むのが筋というものです。

例えば、彼等はあの胡散臭い「グリーン・ニューディール」とやらが有効なものだと言い張っているわけですから、自動車産業のように環境負荷を生むだけのものなど擁護せず、自然エネルギー開発などに全力を注ぐよう望むべきでしょう。そして、風や太陽の光で作った電気を利用した鉄道にモーダルシフトすることを促し、自動車の保有や利用そのものを減らしていくことを推奨すべきです。彼等の抱いている理想が幻想ではないという前提でのハナシですが。

しかし、彼等はライフサイクル全般の環境負荷を無視して燃費の良いクルマに買い替えれば環境負荷を抑えられるなどいう根拠を逸した偽善的なトヨタの「エコ替え」の片棒を担ぐような立場です。先日取り上げた朝日新聞の社説もまさにそうしたインチキな概念で書かれています。

ま、彼等にしてみれば自動車メーカーは大切な大切な大口の広告主様ですから、その提灯持ちのような論調になるのは世の中の力関係として当然ではありますけど。そういう立場でいい加減なイメージ先行の環境論を唱えるから、勢い偽善めいて胡散臭くなるのです。

(つづく)

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