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GMは小型車に消極的ではなかった (その2)

GMの経営破綻を巡る各紙の社説はどれも似たような論調ですが、ピントが外れているところも似ています。毎日新聞の社説

GM破綻の究極的な原因は、魅力のある車をつくることができなかったところにあるわけだが、この点には日本の自動車産業も留意してもらいたい。


としていますが、これもかなりピントが外れています。例えば、軍用車のハンヴィーを民生用にアレンジしたのがハマーH1ですが、シボレー・コロラドというピックアップをベースに都会的なセンスを取り入れ、かなりマイルドに仕上げられたハマーH3は日本国内でも時々見かける人気車です。それだけに右ハンドル仕様も用意されていますし、輸入開始直後には完売となり、しばらくバックオーダーを抱える状況が続きました。

ハマーH3
HUMMR H3
ハブリダクションという手法で最低地上高を稼ぎながら
全高を抑えたM998四輪駆動軽汎用車(通称ハンヴィー)を
民生用にアレンジしたハマーH1は、しかし一般の道路では巨大すぎ
アメリカの道路事情でも持て余したのか、H2、H3と次第に小型化され
(といっても普通のSUVと比べれば決して小さくありませんが)
メーカー自身が「プレミアムSUV」と称する普通のクルマに
なっていきました。


ま、私の個人的な趣味とは全く重なりませんが、ハマーにしてもシボレーのフルサイズピックアップにしても、アメ車らしいビッグスケールのクルマはそれなりの魅力を持っており、多くのファンを抱えています。殊にハマーは車両価格が高価なため、絶対的なマーケット規模こそ大きくありませんが、この種のクルマが好きな人にとっては羨望の的になっているといっても過言ではないでしょう。

しかしながら、このハマーブランドも今般の再編計画で不採算部門として中国の四川騰中重工機械に売却が決まりました。要するに、魅力のある商品を供給できていても、自動車のように初期投資が巨額になるビジネスでは特に採算ラインの見極めが難しくなるのでしょう。こうしたビジネスの基本に忠実であるなら、読売新聞の社説の見出し「GM破綻 “売れる車”が再建のカギだ」のほうが正鵠を射ているといえます。が、

最大の問題は、エコカーなどの「売れる車」を開発し、競争力を回復することができるかどうかだ。


として、「売れるクルマ=エコカー」と短絡しているところに認識の甘さを感じます。確かに、近年の風潮はクルマに限らずエココンシャスなスペックが商品付加価値の一翼を担っています(もっとも、エコを標榜していても実効性があるとは限らず、単なるイメージに過ぎない場合のほうが多いくらいですが)。日本ではプリウスやインサイトが好調であったり、いわゆる「エコカー減税」が話題になったりしている風潮から読売新聞の論説委員はこうした発想に至ったのでしょうが、現実にアメリカでエコカーが売れているかというと、それほどでもありません。

アメリカでは日本ほど「地球温暖化人為説」が盲信されていませんし、原油価格が下がったことから昨年までに比べれば低燃費車の需要は高まっていません。以前にもお伝えしたように、ホンダ・フィットやトヨタ・ヤリス(日本名ヴィッツ)やシボレー・アビオ(大宇・カロスのOEM)などのコンパクトカーは急激に売上が鈍化し、大量の在庫を抱えてきたのが現状です。トヨタやホンダはボチボチ通常の在庫期間に戻っていると思いますが、シボレー・アビオなどはまだ3ヶ月分くらいの長期在庫が残っているハズです。

日本でもエコカー減税に関してはメディアが話題にしているだけで、先月も前年比19.4%減、10ヶ月連続の前年割れという状態でしたから、効果は殆どなかったと見るべきでしょう。そもそも、アレはトヨタの独善的な代替促進キャンペーンである「エコ替え」を国策的にやっているだけですから、その辺の胡散臭さが国民に見透かされているのかも知れません。

GMが経営破綻に至るまでには様々な要因が積み重なっています。最近の短期的な要因としては、以前「木を見て森を見ず」と題したエントリでも触れたように9.11テロ以降の市場縮小にも生産調整を行わず、大量の在庫を抱えてしまった問題や、それを売りさばくためにインセンティブをバラ撒いたことから収益を悪化させ、新車販売価格の低下は下取価格の下落を招いてユーザーから敬遠される悪循環を生んだり、フィアットとの提携話が破綻して巨額の違約金を支払わされたり、他にも色々ありますが、こうした判断ミスが重なっていました。

日本のメディアが諸悪の根源としたがっている「燃費の悪いSUVに注力してきた」というハナシも、間違いではありませんが、数多ある短期的な判断ミスの一つに過ぎず、破綻へ至る決定的な要因というべきものではありません。

長期的には労働者への厚遇、とりわけ退職者に支払われる企業年金や医療費などが財政面を圧迫し続けてきました。アメリカにも公的年金制度はありますが、日本のような皆保険制度はなく、医療費の負担に関しては日本と状況が大きく異なります。とはいえ、私たち日本人の常識からすればとても考えられないコスト負担になっていたという事実があります。GM凋落の元凶はここにあるという専門家も少なくありませんし、私もGMの体力を奪っていった最大の要因がこうした「負の遺産」にあったのは間違いないと見ています。

日本経済新聞の社説は「小型車を軽視してきた」という点で正しいとは言えないものの、こうした「負の遺産」についてはキチンと述べられています。

こうなった理由の一つは「強すぎる労組」だろう。全米自動車労組はグローバル競争の現実を直視せず、譲歩を拒み、退職者向け年金負担などレガシーコスト(負の遺産)は膨らんだ。新車1台当たりの同コストは1000ドルを超えるとされ、これが米国車の価格競争力を縛った。

 労使一体でコスト削減する日本的慣行があれば、事態はここまで悪化しなかったに違いない。


GM車1台当たりのレガシーコストについては1500ドルに達しているという試算もありますが、いずれにしても従前のような体制のまま債務を積み重ねていかないようにするなら、この少なからぬ額を新車販売価格に上乗せしなければなりません。が、そうして価格競争力を失えばビジネスそのものが成り立たなくなっていたでしょう。要するに、「負の遺産」を何とかしなければ首が回らない状態に陥っていたということです。

経営破綻と前後してこの問題は概ね解消されていたようですが、こうした巨額のレガシーコストを抱えるようになっていった背景には、労組が年金や医療費をなどの保障を労使交渉の具にしてきたことと、経営サイドが安易な譲歩を繰り返してきたところによるでしょう。加えて、こうしたコストを容認してきた株主たちのチェックも甘かったというべきかも知れません。

結局のところ、小型車に関する取り組みなどGMの凋落に直接的な影響は殆どなかったでしょう。会社そのものが無駄に肥大化し、様々な既得権が足かせとなっていった典型的な「大企業病」に蝕まれていたということだと思います。今般の再建計画ではこうした無駄を徹底的にそぎ落とし、何より効率を改善していくことが最重要課題であるのは間違いありません。要するに、大型化で失敗して小型化が必要だったのは製品であるクルマより、GMという企業のほうだったということですね。

何より滑稽なのは、レーガン政権以降の「小さな政府」を否定し、「大きな政府」へ転じたオバマ政権が、新生GMの「小型化」へ向けた舵取りをするという点です。

(おしまい)

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まとめ

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