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オバマ政権は米自動車産業を何処へ導くのか? (その2)

経営破綻したクライスラーの債権処理において、有担保債権に対する弁済率が僅か28%であったのに対し、UAW(全米自動車労働組合)が有する担保権のない劣後債権に対しては43%という高い弁済率であったことが批判されています。そもそも、担保権のない債権がこのような優遇措置を受けていたら「劣後債権」という言い方自体がおかしなことになってきます。こうしたインチキがまかり通るのは、UAWがオバマ政権にとって非常に重要な支持基盤であるという以外に納得のいく説明をつけることはできないでしょう。

以前、GMについて述べたときにも触れましたが、アメリカの自動車産業がこうした状況に至った大きな要因の一つが「強すぎる労組」の存在でした。厚遇を求める労組によって企業年金や医療費補助などのレガシーコスト(GMの場合は新車1台あたり1000~1500ドルともいわれています)が膨れ上がっていったことが収益率を低下させ、財務状況を悪化させていった元凶だという人もいます。私も今回の経営破綻の原因がそれだけによるものとは考えませんが、非常に大きな要素の一つであったのは間違いないと見ています。

クライスラーのケースで有担保債権より優遇されたUAWの劣後債権というのは、こうした企業年金や医療費補助などの未払い分がその大半を占めているものと見られます。いまここに至って、一般の債権者の財産よりこうしたレガシーコストを優先するということは、これまでに何度となく繰り返されてきた「労組への譲歩」というスタンスから何も変わっていないことを示すものです。これでは業界の体質改善など期待できず、むしろ増長させてしまう可能性さえ懸念されます。

新生クライスラーの筆頭株主はアメリカ政府でもなければ経営を主導することになったフィアットでもありません。もちろん有担保債権者たちでもありません。過半数となる55%の株式が割り当てられたのはオバマ政権の支持基盤であるUAWです。これまでストライキなどを武器として経営者に厚遇を迫った彼らは、これから筆頭株主として新生クライスラーの経営者たちと対峙することになるわけです。

一方、UAWに割り当てが予定されている新生GM株は17.5%にとどまっています。アメリカのメディアはこれを好意的に報じたようですが、日本のメディアでもありがちな取材不足を露呈するもので、表面的な数字に踊らされ、上手く煙に撒かれただけのようです。

いすゞとGMの提携やトヨタとGMの提携なども取り成してきたビジネスコンサルタント、ということはGMに関してかなり深いところまで知っているであろうジェイ・W・チャイ氏(彼の奥さんは私が尊敬してやまないモーターアナリストのマリアン・ケラー氏)は、このGMの再建計画について「実態はさらなるUAW優遇」と批判しています。彼のレポートにあるGMの再建計画におけるUAWへの処置を箇条書きにしてみますと以下のようになります。

・VEBA(UAW退職者および家族に対する健康保険基金)への未払い分200億ドルのうち、100億ドルは現金によって支払われる

・残りの100億ドルは新生GMの株式によって補填される

・新生GM株17.5%に加え、65億ドルの優先株をVEBAに発行して年間9%の配当(5億8500万ドル)を約束

・25億ドルの約束手形を発行して金利年9%(2億2500万ドル)で2017年まで3回分割払いされる

つまり、当面は合計8億1000万ドルもの現金が毎年UAWの管理下にあるVEBAに振り込まれるというわけです。この見返りとしてUAWが譲歩したのは2015年までストライキを行わないということと、有給休暇を1日減らしたこと、医療費補助の項目からバイアグラの購入を外すことくらいだといいます。こうした実態をチャイ氏は皮肉たっぷりにこう評しています。

シナリオ通りに新生GMが立ち上がれば、米国で最も生産性の高い企業として生まれ変わり、「世界のトヨタ」といえども大変な苦戦を強いられることになるのでしょうね。なにしろ、UAW組合員1人当たりに約100万ドルもの国費をGMとクライスラーの救済に投入するわけですから。



インディアナ州の年金基金の運用を担うマードック財務担当官がクライスラーの優良資産の売却を差し止めるよう最高裁に求めたのは前回触れたとおりですが、そのとき彼は「オバマ政権の超法規的措置が認められれば、アメリカの資産は海外に逃避するだろう」と述べていました。

これはクライスラーの債権者にとどまらないもっと広範囲の悪影響を端的に示すものです。倒産した自動車会社を一時的に国有化しながら、投資家や債権者の財産が大きく損なわれる一方、政権の支持基盤は優遇されるという無秩序を許してしまうと、もっと真っ当な債権処理ができる国へ投資したほうがリスクは少ないと判断され、資本の海外流出が加速しても不思議ではないでしょう。

オバマ政権は超大型倒産となったGMとクライスラー両社の再建に当って、債権者の財産より自身の支持基盤であるUAWの利益を優先しました。その一方で債務削減に応じなかった債権者を「反国家的な態度」とまるで反逆者のごとく罵りました。もし私が資本家だったとして、このような誹りを受けたなら、この業界には二度と投資すまいと誓うでしょう。

普通の企業や個人が借金を踏み倒せば与信度はガタ落ちになり、その後は借金しにくくなるのが当たり前です。これまで投資してきた人たちへの弁済を軽々しく考え、無下に扱えば、これからの投資も募りにくくなるということに彼らは気づいていないようです。民間からの投資を得ずに今後もずっと国有としてやっていくつもりなら関係ないかも知れませんが、民間企業として再生させたいというのであれば最初のボタンを掛け違えているような気がします。

オバマ政権はアメリカの自動車産業を何処へ導こうとしているのでしょうか?

(おしまい)

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