酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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ル・マンはディーゼル強し (その2)

2007年のデトロイトショーでホンダの福井威夫社長が「ディーゼルには偏見があるので、ディーゼルという言葉を使わない方が良いかもしれない」と記者団に発言したことがありました。私はこれを聞いて非常に腹が立ちましたね。こうしたユーザーを見切ったような言葉遊びは無礼千万ですし、何よりディーゼルエンジンの排ガス浄化という難しい技術革新(関連記事はコチラ)に努めて来たエンジニアたちをも莫迦にしていると思いました。

ディーゼルエンジンの排ガスは高度な技術で見違えるほどクリーンになってきましたし、吹け上がりやパワー感もガソリンエンジンと遜色ないレベルに達しているものは少なくありません。そうした実情を丁寧に説明して偏見を取り除き、理解を得ようとするのがユーザーに対する誠実な態度というものですし、エンジニアたちの努力に報いることにもなります。また、全般的なイメージの悪さも様々な形で払拭していくのがメーカーの務めというものでしょう。呼び名を変えて違うエンジンであるかのように思わせようというのは、姑息な発想と言わざるを得ませんし、下手をすれば市場の混乱を招きかねません。

ホンダはこれまでもモータースポーツでその存在感を示してきましたが、特に福井社長はHRC(ホンダ・レーシング・コーポレーション)の取締役を務めるなど、長くレース畑を歩んできた人でもあります。中でも1978年のWGP(ロードレース世界選手権)の最上位カテゴリーだった500ccクラス(現在のMotoGPに相当)へ復活したときの逸話はいまでも語り草になっています。

4サイクルエンジンにハンデキャップが設けられていなかった2サイクル時代に、あえて4サイクルで挑み、しかも長円形ピストン(←リンク先はPDFです)という無謀とも思える野心的なエンジンを搭載したNR500の開発は入交昭一郎氏がイニシアチブを執っていたようですが、柳瀬弘一氏、吉村年光氏らと並んで福井氏もその数人の若手によるプロジェクトに加わっていました。

NR500のピストン
NR500のピストン
俗にUFOピストンとも呼ばれたこれは8つのバルブと
2本のコンロッドに組み合わされましたから、
要するに2気筒を1気筒に繋げてしまった感じです。
このお化けみたいなピストンをV型で4つ連ね、
最終的には130ps/19,500rpmを達成したそうです。
この技術は耐久レース向けのNR750で楕円ピストンに
発展しています。


この特殊なピストンおよびシリンダは独特の形状から筒内の渦流生成が極めて良好で火炎伝搬の特性も優れており、高出力を得るために超ショートストロークとしても高い効率を得られたそうです。ただ、特殊な構造ゆえ極めて高い加工精度が要求され、信頼性や耐久性などの面で彼らはたっぷり苦しめられたといいます。このチャレンジによる戦績は惨憺たるものでしたが、あの当って砕けた若々しさというのも実にホンダらしく、このエピソードは私の中で殿堂入りです。

それから四半世紀近くを経、従来のWGP500ccクラスは500cc以下の2サイクルと990cc以下の4サイクルとが混走になり、名称もMotoGPへ変更されました。このとき楕円ピストンを使用する場合は重量ハンデが負わされましたが、2007年から2サイクルが禁止になったのに伴い、楕円ピストンも開発費がかさむなどの理由から禁止されることになりました。見方を変えれば、FIAはあのときのホンダのチャレンジをちゃんと記憶しており、近年になって再評価していたということですね。

もし、「ディーゼルという言葉を使わない方が良いかも」などという下らない言葉遊びを提唱したのが豊田一族の社長だったなら、私は失笑しても失望はしません。豊田一族などに初めから希望など持っていませんから。しかし、この言葉を発したのは福井氏で、私は彼のキャリアを知っていただけに、ショックは小さくありませんでした。(逆に、こうしたことがありましたから、第3期F1活動の終了を彼が宣言したとき、私はあまりショックを受けませんでした。)

レース畑を歩んできた福井社長が率いるホンダなら、「レースでディーゼルエンジンのイメージをリファインさせてみせる」くらいのことを言って欲しかったと心底思いましたね。ま、私の勝手な思い入れが過ぎただけなのかも知れませんが。

しかし、ディーゼルに代わる何か別の名前を考えてプロモーションするくらいなら、予算的にいきなりル・マン24時間は無理だとしても、せめてグループAの市販車改造クラスでも総合優勝を狙えるニュルブルクリンク24時間をディーゼルエンジン車で制覇してみせるくらいのことはやって欲しいところです。1998年にはシュニッツァー・モータースポーツのBMW320dがディーゼルエンジン車として初めて総合優勝した前例もあるのですから。

こうしてみますと、アウディやプジョーのアプローチは至って正攻法だと思います。ル・マンというモータースポーツ界でも屈指の伝統と格式を誇り、四輪の耐久レースとしては誰もが別格と認める最高峰のレースでディーゼルエンジンの悪いイメージを払拭しようとしているわけですから。福井氏は彼らの爪の垢でも煎じて飲むべきだと思いましたね。もっとも、あれ以降「ディーゼルという言葉を使わない方が良いかも」といった発言はしていないようですから、思い直したか周囲に諭されたのかも知れませんけど。

そのアウディとプジョーですが、今年もなかなか見応えのあるレースを展開してくれたようです。やはり一強支配よりも接戦が見られるほうがどんなスポーツでも面白いものです。

昨年のル・マンは近年稀に見る接戦でアウディとプジョーがやり合っていましたが、今年はプジョーがリードし、アウディがそれに食らい付いてなかなか離されないといった展開だったようです。カーNo.8のプジョーはポールポジションから序盤の接触事故を経てもトップを守っていましたが、スタートから6時間くらいの時点で予定外のピットインとなりました。原因は左リアタイヤの装着不良という単純ミスだったようですが、その間に同チームのカーNo.9へトップを譲ることになりました。以降は上位に大きな順位変動もなく進んでいったようです。

ただ、20時間を経過した終盤にあってもトップと3位に付けていたカーNo.1のアウディとは僅か2周差だったそうですから、ケアレスミスやマイナートラブル一発でも逆転はあり得るという状況で、実力伯仲の二強が予断を許さないレースを展開していたようです。

結果を見れば1-2フィニッシュを決めたプジョーの完勝といったところですが、今年投入されたアウディR15の熟成が今ひとつだったというハナシもありますから、今後もしばらくはこのディーゼルエンジン車二強時代が続くのかも知れません。

audi_r15tdi.jpg
Audi R15 TDI
従来のV12からV10に改められたディーゼルエンジンの詳細は
明かされていませんが、大幅に軽量コンパクト化されながら、
従来通り1000Nmを超える強大なトルクを得ているといいます。
(F1は超高回転で出力を得ていますので、最大トルクは300Nm程度です。)
空力的にもより洗練されているようですが、フロント開口部の付加物に
プジョーからクレームがつくなど、よく見られる小競り合いもありました。
眩いヘッドライトはロービームがLEDになっているそうで、
バッテリーもリチウムイオン電池が採用されたといいます。


日本人である私は日本のメーカーもワークス体制で参戦し、この間に割って入って欲しいと願ったりするのですが、いまのような経済状況では難しいのでしょうねぇ。せめてテレビ中継だけでも(地上波じゃなくても良いので)復活して、スタートと中盤とゴールシーンだけでも生中継で見たいというささやかな願いは叶って欲しい今日この頃だったりします。

(おしまい)

コメント

ディーゼルエンジンのレーシングカー

ディーゼルエンジンのレーシングカーなんて???な感じですけれどそれが可能であるならぜひ日本でもレースやってもらいないなぁと思います。フォーミュラーカーがディーゼルエンジンだったらなおのこと面白いですヨネ。
私、数年前、本田技研工業の狭山製作所でアコードとCR-Vの組立工場で期間従業員やっていました(私の担当は左右の後ドアの組立)。ヨーロッパ輸出用アコードはディーゼルエンジンばかりでした。皆さんホンダにディーゼルエンジン?ってあまりイメージないかもしれませんが狭山製作所では実際、ディーゼルエンジンを組立ています。日本ではなぜアコードのディーゼル売ってないのか不思議で仕方なかったです。

石原慎太郎氏はやたらにディーゼルを嫌っているようですが自営業者のわたし的にはディーゼルは維持費の安いいいクルマだと思っているのですがこれから先どうなるのでしようかね?

  • 2009/06/18(木) 15:43:43 |
  • URL |
  • 林 宏 武蔵野市 #GHYvW2h6
  • [ 編集]

林 宏 さん>

>ディーゼルは維持費の安いいいクルマだと思っているのですがこれから先どうなるのでしようかね?

クリーンディーゼルは案外イニシャルコストがかかるものなんですね。触媒とかコモンレール式電制噴射ポンプとか、ヨーロッパの厳しい排ガス規制「ユーロ5」をクリアするための追加コストは2,500~3,000ユーロにもなるといいます。要するに、普通のガソリン車とハイブリッド車くらいの価格差になるわけですね。クリーンディーゼル+ハイブリッドという乗用車が存在しないのも、追加コストが二重にかかってしまうからというわけです。

ヨーロッパで人気のあるディーゼル車はターボで加給して低回転&リーンバーンで先代プリウス程度ならとても敵わないような高速燃費を叩き出します。高速道路で長距離を走るケースでは圧倒的に有利ということで、そういう乗り方をする人には特に支持されているようです。が、ストップ&ゴーを繰り返す市街地ではターボが充分に効かず加速感がガソリン車に及ばなかったり、燃費もハイブリッド車ほど伸びなかったり、トータルパフォーマンスはまだ万全とは言えないレベルなんですね。

プリウスが今回のモデルチェンジで排気量をアップしてきたのは、ヨーロッパでニーズの高い高速燃費の向上が主な狙いだといわれています。私のプリウスですと、高速はせいぜい22~24km/Lくらいしかいきませんが、新型は一説によると28~30km/Lくらいまで向上しているといいます。

日本のように高速道路での長距離移動より市街地での走行パターンが多いと、ヨーロッパのメーカーが力を入れているクリーンディーゼルよりハイブリッドのほうが有利なのは間違いないでしょう。

日本ではガソリン税より軽油税のほうが安いせいで軽油のほうが割安なのですが、最近はこれらを除いた正味の価格では軽油のほうが圧倒的に割高になっています。一方、ヨーロッパは国によっても違いますが、燃料にかかる間接税がなかったり需給関係も異なっていたりますので、日本との単純比較はできないでしょう。また、ヨーロッパで広く流通している北海油田産の原油は日本に流通しているアラブ産に比べると硫黄分が少ないため脱硫施設が比較的簡素で済むなど軽油の精製コストが安いといった条件の違いもあります。

しかしながら、近年ディーゼル車の普及で軽油の需要が高まっていることから、ヨーロッパでもやはりガソリンより割高になっている国が増えているそうで、そうした国ではガソリン車への回帰も始まっているといいます。結局、消費行動に一番効くのはコストなんですね。日本のメディアはヨーロッパをエコ先進国だと思い込み、イメージだけで盲目的に崇拝していますが、何だかんだ言っても一番割安になるところに落ち着くというわけです。これは今後も変わらないと思います。

  • 2009/06/19(金) 01:33:32 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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