酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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この電気自動車ブームはメディアが創作している (その2)

リチウムイオン電池を搭載した電気自動車は12年も前に日産から市販されていましたし、性能的にも大して進歩しているわけではありません。政府や地方自治体、一般社団法人・次世代自動車振興センター(旧・日本自動車研究所電動車両普及センター)などの補助金も金額についてはともかく、支給そのものはいまに始まったことではありません。最近になってにわかに電気自動車が注目され、騒がれているのは、このエコブームに乗ってメディアが創作したシナリオによるものだと見るべきでしょう。

こうしてバイアスがかかりまくっている状態を認識した上で様々な報道を冷静に受け止めると、やはり偏りが実感できます。例えば、三菱のi-MiEV(アイミーブ)は「1kmあたりのコストが1円以下」だとか、「ガソリン車の何分の一で済む」とか、そのテの報道がそうですね。日経トレンディネットの記事には

例えば東京電力の「おとくなナイト10」プランの場合、午後10時から翌朝の午前8時までの電気料金は1kWhあたり9円17銭。i-MiEVのバッテリー容量は16kWhだから、単純計算するなら1充電あたりの電気代は160円以下だ。

 つまりi-MiEVは約160円で160km、約1円で1km走れる計算になる。ベース車「i」のターボモデルは10-15モード燃費が18.6km/Lだから、ガソリンが120円/Lとすると1km走るのにかかるガソリン代は約6.5円。あくまでも机上の計算だが、i-MiEVの燃料代はガソリン車よりも6倍以上安くなるわけだ。


と書かれていますが、やはり都合の良い数字を引き出していると言わざるを得ません。そもそも、「おとくなナイト10」はPM10時からAM8時までの10時間が1kWhにつき9.48円になります(記事の「9円17銭」は誤りで、「おトクなナイト8」の料金と取り違えています)が、このプランにすると電力需要の多いAM8時からPM10時までの電気料金は通常の概ね1.3倍になってしまうんですね。その分のコスト増は完全に無視されているというわけです。

また、i-MiEVはバッテリーが空の状態から満充電まで家庭用の充電器(100V・15A)で14時間かかりますから、「おとくなナイト10」の割引時間帯では満充電まで4時間足りません。ですから、一晩で空の状態から満充電にしようと思ったら、9.48円/kWh×10時間+30.74円/kWh×4時間で計算する必要があります。

これで計算しますと、「1充電あたりの電気代は160円以下」ではなく、188.5円くらいになります。1km走るのにかかるコストは1.18円ほどになり、記事の見積よりおよそ20%高くなってしまうことになるわけですね。もちろん、これも充電時に生じるエネルギー損失の一切が無視されていますから、現実的にはもっと大きな数字になるのは間違いありません。

また、燃費の悪いターボモデルと比較しているというところも数字を良く見せようという作為を感じずにはいられません。自然吸気なら19.2km/Lになりますから、ガソリンが120円/Lとすると1km走るのに6.25円となります。「6倍以上」ではなく、5.2倍まで縮まってしまうわけです。

さらに、ガソリン1Lのうち53.8円はガソリン税ですから、これを考慮してあげなければガソリンエンジン車にとって非常に不利な結果になるのは当然です。120円/Lなら、これを差し引いた正味価格は66.2円ということになり、1km走るのにかかるコストは3.45円ほどになります。すると、両者の差は2.9倍まで縮まり、「6倍以上」という数字とは倍以上違う結果になります。さらに言いえば、「i」のほぼ2倍の燃費を実現している新型プリウスとの比較なら、その差は1.5倍を切ってしまいます。

ここでふと思ったのですが、ガソリン税53.8円/Lのうち5.2円/Lは地方道路税です。この課税根拠は、「自動車の運転によって道路を毀損させる者に道路の整備、補修費用を負担させるもの」となっているわけですね。ガソリンを使って公道を走る乗り物は原付自転車も含め、すべからくこの税金が徴収されているわけですから、電気自動車についてもこれを課税しなければ不公平ということになります。

ハナシを戻しましょうか。このように税制の違いを考慮し、充電時のエネルギー損失や「おとくなナイト10」で契約すれば割引時間帯以外の電気代が約1.3倍になってしまうことなどを考慮すると、電気自動車のランニングコストが特別に優れているとは言い難くなってきます。ま、だいたい世の中というのは上手くバランスが取れているもので、やはり劇的な変化をもたらす魔法のような技術など、そんなに簡単に手に入れられるわけではないということですね。

いつものことではありますが、大衆メディアはこうした現実を見ず、推進派の示す一方的なメリットだけを取り上げる傾向が極めて強いように思います。電気自動車についても量産効果で価格が下がり、充電施設などのインフラが整えばすぐにでも普及していくのではないかと勘違いさせるような勢いで盛んに持ち上げています。

しかし、これは風力発電や太陽光発電のように問題山積の自然エネルギー利用を盲目的に崇拝しているのと全く同じことで、実情を直視しない夢物語に過ぎません。確かに、リチウムイオン電池の採用で蓄えておける電気エネルギーは倍増したかも知れませんが、それは「五十歩百歩」というレベルでしかない現実を知るべきです。

iMiEV用バッテリーLEV50
i-MiEV用のバッテリー「LEV50」
単セルの電流容量が50Ahになるこのリチウムイオン電池は、
GSユアサと三菱商事、三菱自動車の出資による
リチウムエナジージャパンの滋賀工場で生産されています。
1個の価格は約3万円、重量は約2kgと見られていますから、
これを100個搭載するi-MiEVはバッテリーの原価だけで約300万円、
その重量だけで約200kgになってしまうというわけですね。
これで160km走行可能とされますが、10-15モードでの値ですから、
実走行でかなり目減りするのは間違いないでしょう。
また、これが寿命を迎え、交換が必要になった場合、
やはり300万円ほどのコストがかかることになります。


そもそも、あれだけ大量のリチウムイオン電池が使われているからには、その生産から最終処分までライフサイクルを通じた環境負荷を無視すべきではありません。そこで調べてみましたところ、東京都市大(旧・武蔵工大)の環境情報学部が携帯電話用のリチウムイオン電池のLCA(←リンク先はPDFです)についてレポートしているのを見つけました。これによりますと、コバルト酸リチウムの製造にかかるCO2排出量が大きく、製造時にかかるトータルのCO2排出量は使用時の1.5倍におよぶと分析されています。

これをリサイクルするとそのまま廃棄したときに比べて20%もCO2排出量が増えてしまうそうです。リサイクルには適したものとそうでないものがありますが、リチウムイオン電池のCO2排出量を見た場合はリサイクルしないほうが良いことになります(i-MiEVのリチウムイオン電池はリサイクルされることになっているようです)。いずれにしても、きちんとLCAを検討し、評価しなければ、「電気自動車は環境に良い」と断定することは出来ないでしょう。

電気自動車の性能はモーターの能力や回生ブレーキなど効率を上げるマネジメントなども軽視できません。が、何といってもバッテリーの性能に縛られる部分が圧倒的です。そういう意味でリチウムイオン電池は従前のバッテリーに比べれば電気自動車の性能をそれなりに向上させたといって間違いないでしょう。

しかし、私はリチウムイオン電池で現在のガソリンやディーゼルに代替し得る実用的な自動車を成立させることは絶対に不可能だと確信しています。リチウムイオン電池とは桁違いのエネルギー密度で、またエネルギー容量当たりの単価も桁違いに安く抑えられるような、とんでもない技術革新による夢の新型バッテリーが開発されない限り、電気自動車が主流となる日は来ないでしょう。こうしたハナシは別の機会に改めて述べたいと思います。

(おしまい)

コメント

こんにちわ

はじめまして。記事を興味深く読ませていただきました。自分もこれまでアイミーブについて自分のブログでも取り上げているのですが、ガソリン自動車の黎明期と違い、今の時点で電気自動車を無理やり市場投入しようとしている状況には疑問を感じています。

  • 2009/06/21(日) 11:42:16 |
  • URL |
  • kameichi #-
  • [ 編集]

三菱自動車の株主総会で

私は三菱自動車の株を5年ほど前から所有しており、毎年三菱自動車の株主総会に参加しておりました。益子社長はあのクレーム事件以来、『いかにまっとうな商品を造って国民からの信頼を回復させるか』とこのことばかり総会でも発言されていました。
スポーツカーのランエボなどは一部のマニアのためのクルマであり一般人向けではないわけでいかに本当に本当の大衆車とは何かについて取り憑かれたように毎年語っていました。アイミーブ、まだまだ一般人が気軽に買える金額ではありませんがアイミーブこそが三菱自動車を担っていくクルマであると益子社長は総会でおっしゃっていました。
じりじりじりじりと今年に入って再びガソリン価格が上がってきています。財布に優しい電気自動車が普及してくると楽しいでしょうね。どうやることやら

  • 2009/06/22(月) 22:38:38 |
  • URL |
  • 林 宏 #GHYvW2h6
  • [ 編集]

kameichiさん>

初めまして。

>今の時点で電気自動車を無理やり市場投入しようとしている状況には疑問を感じています。

普通のガソリンエンジン車も地道な改良が重ねられて以前に比べれば排ガスはキレイになっていますし燃費もかなり良くなっています。が、それではインパクトがありませんから、メーカーも解りやすさを求めて従来とは異なる仕組みのクルマをアピールし、メディアも物珍しさを求めてそれに食い付き、昨今のエコブームに乗じたトピックを提供しなければならない雰囲気が出来上がってしまったような気がします。

過去には日産ティーノやスズキ・ツインなど試験的に発売されたハイブリッド車もありましたが、現状としてトヨタとホンダ以外はこのハイブリッド人気に乗れるタマを持っていませんから、他社は別のカタチで何らかのアピールをしておきたいのでしょう。マツダは新しいアイドリングストップシステムを提案していますが、そういうトピックがないメーカーは昔からある「実用性の低い電気自動車」にリチウムイオン電池を沢山積んで数字上の見栄えを少し良くしてPRし、メンツを保とうとしているのかも知れません。

日産も来年を目処に追浜工場の主力車種(マーチなど)の生産をタイへ移管し、電気自動車の生産を始めるといいます。が、来月には市販を始める三菱や富士重工よりのんびりしているのは、ハイブリッド仕様のスカイラインの発売をひかえている分だけ、彼らほど焦っていないからかも知れません。

恐らく、日本のメーカーでハイブリッドの基礎研究をやっていないところはないでしょう。が、そのメリットを引き出すのは素人がイメージするほど簡単ではなく、追加コストがかさむため、なかなか商品として現実的なレベルに持って行けないのだと思います。トヨタとホンダ以外の日本のメーカーは、上記の試験的な例は別としてこの10年間ほとんど指をくわえて見ているだけという状況でした。それは要するにカタログに示されている解説のように単純な技術ではないということなのでしょう。

プリウスもインサイトも絶好調で(インサイトはアメリカでは不調のようですが)ハイブリッド車がますます注目を浴びる中、そうした土俵に上れないメーカーは電気自動車や燃料電池車や水素燃料自動車などでお茶を濁す格好になっているような印象です。いずれも実用性を度外視すれば大学の研究室レベルで試作できるものですから、メーカーがそこそこの予算を割り当てればこれらを作ること自体は朝飯前でしょう。

実用性でガソリンやディーゼルの代替となるレベルから程遠くても、コスト面で商売にはなり得ないようなレベルであっても「ウチはハイブリッドよりさらなる未来を見据えてコチラをやってますから」という弁解には使えます。メディアもこうしたハッタリには滅法弱いですから、簡単に載せられてしまうのでしょう。

昨年、当blogでも空気で走るクルマ(http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-154.html)とか、水で走るクルマ(http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-171.html)とか胡散臭いネタを取り上げましたが、大衆メディアにはこうしたインチキ臭いハナシを技術的に検討する能力がありません。そしてメリットばかり誇張して大衆をミスリードするわけですね。

  • 2009/06/23(火) 01:12:13 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

林 宏 さん>

>アイミーブこそが三菱自動車を担っていくクルマである

こういっては身も蓋もないかも知れませんが、少なくともi-MiEVがリチウムイオン電池で走っている間、こうした期待は夢想の域を出ないでしょうね。

もし、三菱自動車が将来を担う主力動力源を電気モーターに定めるのであれば、誰が何と言おうと現在の常識ではあり得ないような夢のバッテリーを発明しなければならないでしょう。リチウムイオン電池に対して重量エネルギー密度は少なくとも3倍以上、エネルギー容量あたりの単価は100分の1くらいに下がるような革命的なバッテリーが発明されなければ、普通の人が普通に買って普通に乗れるような普通のクルマは成立しないと思います。

正直なところ、私は電気自動車にかなり悲観的です。ケミカルバッテリーや燃料電池の他にもフライホイール蓄電装置のように全く発想の異なるものまで様々な技術が試されてきました。が、どれ一つとして現実的なレベルには至っていません。ガソリンやディーゼルといった燃料を用いる熱機関が百数十年もの長きにわたって自動車の動力源の主役であり続けたのは伊達ではありません。

もし、ケミカルバッテリーの電気自動車がガソリンやディーゼルエンジンのクルマに代替する未来を望むのなら、応援すべきは自動車メーカーではなく、電池メーカーです。全ての鍵を握っているのはコチラのほうです。

  • 2009/06/23(火) 01:15:47 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

石墨さんの記事を細かい分析に感心して読ませて頂きました.とくに,この回の地方道路税云々のところは今まで気がついたこともありませんでした.目から鱗でした.

  • 2009/07/22(水) 23:23:33 |
  • URL |
  • 色不異空 #mQop/nM.
  • [ 編集]

色不異空さん>

電気自動車に限らず、自然エネルギー開発やもっと一般的な公共事業、東京都が招致を目指しているオリンピックの経済効果など、こうした類の試算というのは都合の良い数字の積算になっていることが多いと思います。

i-MiEVのコスト計算に関してはあまり複雑な要素が絡んでいませんし、比較的簡単に確認できるものが殆どですから、私でもそれなりに精査できました。が、大抵は片手間の調査では追い切れませんから、色々トリックが仕掛けられていても実情を把握するのは難しかったりしますね。

私のようにプロのジャーナリストでも何でもない、単なる趣味でblogを書いているだけの素人でも見逃さないようなところを殆どのメディアがスルーしているのは大いに問題です。が、そもそも池原氏のコメントが排除されたくらいですから、予め用意されているストーリーにそぐわないこの種の情報が排除されたのも故意と見て間違いないでしょうね。

  • 2009/07/24(金) 00:02:28 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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