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ラルフ・ミラーの功績を無視するトヨタ (その2)

ユーノス800に搭載されたKJ-ZEM型というエンジンは世界で初めて量産車に採用されたミラーサイクルエンジンでした。企画されたのがバブル期だったとはいえ、実にマツダらしい野心的なアプローチだったと思います。しかしながら、効率をあまり悪化させずにミラーサイクルエンジンの弱点である出力およびトルク特性を補うリショルム式コンプレッサーのスーパーチャージャーがアダとなった印象です。

マツダはこのコンプレッサーをIHIと共同開発したようですが、ローターの形状が比較的単純なルーツ式とは異なり、リショルム式は二つ組み合わされたローターに螺旋状の複雑な曲面加工を要するため、どうしても製造コストがかさんでしまうようなんですね。自動車用としてはメルセデスなどにも採用実績があるようですが、いずれにしても追加コストを吸収しやすい高級車以外での採用は厳しいように思います。

KJ-ZEM.jpg
KJ-ZEM型エンジンのCG
バンク内に見える星形断面と三つ葉型断面のローターが
件のリショルムコンプレッサーです。


このミラーサイクルエンジンを積んだユーノス800は2.3Lで3L並みの動力性能と謳われていましたが、メディアには「価格も3L並み」などと揶揄されたものです。2.3LのV6も3LのV6も部品のサイズなどが違う程度で、工場原価でいえば原材料費に多少の差は生じるかも知れませんが、加工費もアッセンブリーコストも大きな差はつかないでしょう。高価なリショルムコンプレッサーを奢った分だけコスト面で不利になっていたと思います。

ユーザーサイドとしてみれば、3L並みの動力性能で2L並みという燃費の良さに価値を見出せたかも知れませんが、FFの中型セダンにもうワンランク上の車格に匹敵する値段が付いているとなれば、なかなか食指は動かしにくかったと思います。また、メーカーサイドにしてみても、利益率を上げづらく、あまり旨みのない商売だったように思います。結局、後追いもなく、マツダ自身も諦めてしまったのは、双方にとってコストパフォーマンスがあまり良くなかった故でしょう。

現在、デミオの一部に搭載されているZJ-VEM型エンジンもやはりミラーサイクルですが、カタログ値の膨張比は11.0で、ミラーサイクルの本分である高膨張比とは言い難いレベルです。最近のエンジンでは珍しくない可変バルブタイミングが採用されていますから、条件によって吸気バルブを閉じるタイミングが異なっています。資料によりますと、ZJ-VEM型の実効膨張比は10.4、実効圧縮比は走行状況に応じて7.0~9.6になるとのことです。

恐らく、大きなトルクが欲しい低速時はバルブを早めに閉じて実効圧縮比で最大となる9.6にしているのでしょう。圧縮比:膨張比=9.6:10.4ということは、その差わずか0.8ですから、高膨張比であるミラーサイクル本来の特性を薄めてオットーサイクルにかなり近づけていると見ることもできます。こうすることで自然吸気でも実用レベルに仕上がったわけですね。

ZJ-VEM.jpg
ZJ-VEM型エンジンの透視図
吸気バルブの閉じるタイミングが普通より少し遅いだけですから、
見た目は普通の直列4気筒エンジンと全く変わりませんね。
ま、性能もほとんど変わらないようですが。


しかし、オットーサイクルに近づけ過ぎたせいか、このエンジンには熱効率に優れているハズのミラーサイクルである明確なアドバンテージが見当たりません。具体的には、同じデミオに搭載されている1.3Lエンジンでミラーサイクルが23.0km/Lなのに対し、オットーサイクルは21.0km/Lとなっています(いずれも10-15モードです)。

え?ミラーサイクルのほうが優れているじゃないかって?

いえいえ、この両者はトランスミッションが異なっていて、ミラーサイクルのほうには燃費面でも有利なCVTが奢られているのですが、オットーサイクルのほうは旧来のトルコン4速ATなんです。同じトランスミッションで比較できれば、その差は極めて小さかったでしょう。というより、直接比較できないようにトランスミッションの設定を変えたのだと思います(あくまでも個人的な憶測ですが)。

これが発表された当初、私は高速燃費に優れたエンジンに仕上がっているかも知れないと思いました。高速巡航時には低圧縮比になっていると想像されますので、吸気量が抑えられ、ポンピングロスも緩和されていると推測されたためです。しかしながら、専門誌などの比較テストを見てもフィットなど他社のオットーサイクルをリードしていたわけではありませんでした。といいますか、トータルでも高速燃費でもフィットに若干劣っているようで、結局これは何のためのミラーサイクルなのだろうと肩すかしを食った感じでした。

ま、ユーノス800のときのように製造段階で追加コストがかかっているわけでもないでしょうから、マツダとしては開発費以外に失うものなどないのでしょう。頭でっかちな自動車評論家や専門誌の記者などに付加価値だと判断してもらえれば御の字といったところなのかも知れません。ですから、個人的にはこのエンジンを「マイルド・ミラーサイクル」と呼ぶべきではないかと思ったりもします。

それに比べてプリウスのエンジンは膨張比が13.0と非常に大きく取られています。デミオの11.0などオットーサイクルでもハイオク仕様なら珍しくもない値ですが、13.0となるともはやレーシングエンジン並みです。オットーサイクルだったらレギュラーガソリンで無理なく動かせるレベルではないでしょう。同じ自然吸気ながらプリウスのエンジンはデミオのそれより遙かにミラーサイクル本来の素性を保っていると考えられるわけですね。

プリウスもデミオと同じく可変バルブタイミングですから、やはり条件によって吸気バルブを閉じるタイミングが変わります。吸気量も実効圧縮比も条件によって異なっているハズですが、トヨタはこの実効圧縮比を公表していないようです。とはいえ、レギュラーガソリンで動くエンジンですから、常識的に考えれば実効圧縮比が最も高い状態でも10.0程度にとどまるでしょう。

ここから推測しますと、プリウスは先代まで1200ccクラス、新型でも1400ccクラスの吸気で各々1500ccクラスと1800ccクラスの膨張比を得ており、燃焼ガスの圧力をより効率よく利用できるようになっていると考えられるわけです。(吸気量についてはあくまでも推測ですし、吸気バルブを閉じるタイミングによってもう少し小さな値に変化すると思いますが、原理的な解釈は間違いないハズです。)

では、ミラーサイクルにありがちな低速でのトルク不足にはどう対処しているのでしょうか? などと勿体を付けるまでもありませんね。低速は電気モーターが威力を発揮する領域ですから、プリウスはハイブリッドシステムの特性を大いに生かし、この熱効率の良いエンジンのメリットを遺憾なく発揮しているというわけです。

(つづく)

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