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ラルフ・ミラーの功績を無視するトヨタ (その3)

マツダのミラーサイクルエンジンは過給器を用いたり、自然吸気でオットーサイクルに近づけたり、高膨張比サイクルの弱点を克服するために色々手を尽くしてきたようです。が、コスト的に引き合わなかったり、ミラーサイクルである必然性を見出せなかったり、これが成功しているかというと微妙な感じです。

一方、トヨタはプリウスの高度なハイブリッドシステムで電気モーターと組み合わせましたが、この相性が非常に良かったようで、ミラーサイクルエンジンはやっと本来のポテンシャルが発揮できるようになったのではないかというのが私の個人的な感想です。

しかし、トヨタは何を血迷ったのか、このミラーサイクルエンジンを「アトキンソンサイクル」と称しているんですね。当然のことながら前々回でご紹介したようなリンク機構とクランク機構を組み合わせピストンストロークそのものが変化する本来のアトキンソンサイクルの構造にはなっていません。バルブの遅閉じで実質的な吸気・圧縮行程を小さくし、膨張比に対して実効圧縮比を小さくしているだけですから、マツダが先鞭を付けたミラーサイクルそのものです。

1NZ-FXE.jpg
1NZ-FXE型エンジンのカットモデル
この写真は2代目プリウス用のエンジンですが、
ご覧のようにアトキンソンサイクルの
特徴的なリンク機構を設けたものではなく
普通のクランクシャフトしかありません。


広義には「アトキンソンサイクル=高膨張比サイクル」となりますから、当然ミラーサイクルはその一種です。なので、ミラーサイクルを「広義のアトキンソンサイクルだ」といえば間違いではありません。しかし、プリウスに採用されているエンジンの仕組みはミラーサイクルと呼ぶのが常識で、これをアトキンソンサイクルというのは恐らく世界中でトヨタだけでしょう。

この辺はもはや良識の問題になってくるでしょう。私はミラーサイクルというべきエンジンをアトキンソンサイクルと称すれば混乱を招くだけだろうと思いましたが、実際にネットで一般の方が書いている記事などを見てもそうした傾向が見られます。例えば、Wikipediaの「ガソリンエンジン」の項を見ますと、

一時期日本のマツダがリショルム・コンプレッサと組み合わせたミラーサイクル機関を量産していた。 トヨタのハイブリッドカーであるプリウスのエンジンはアトキンソンサイクル機関である。


と書かれています。これは両者を違うものと受け止めているのか、プリウスに採用されたエンジンが狭義のアトキンソンサイクル(クランクにリンク機構を組み合わせたオリジナルのアトキンソンサイクル←このようにいちいち説明しなければならないのですから、ミラーサイクルをアトキンソンサイクルと称することがいかに罪作りなことかトヨタは知るべきです)と勘違いしているのか、いずれにしても正しく理解されていない様子を窺わせるものだと思います。

恐らく、トヨタとしては「ミラーサイクル」という言葉を使って「マツダの後追い」というイメージで見られるのを嫌ったのでしょう。これは先日当blogで批判したホンダの福井社長の「ディーゼルという言葉を使わない方が良いかも」という発想と全く同じで、ユーザーを莫迦にした言葉遊びと見るべきです。メディアはこうした態度を大いに批判すべきですが、一般メディアはミラーサイクルが何なのか理解していないでしょうし、理解するつもりもないのでしょう。一方、専門メディアにとって自動車メーカーのスポンサーシップは命脈そのものですから、批判などできないのでしょう。

思えば、ABSが普及し始めた時もトヨタは「4-ECS」と称し、ホンダは「4W-ALB」と称し、日産は「4-WAS」と称し、他にも「WSP」だの「アンチスキッドブレーキ」だの「ファインスキッドブレーキ」だの、あたかも独自技術であるかのように各社各様の呼び名が付けられていました。が、結局のところ各社ともボッシュとナブコの合弁会社である日本ABSから部品を調達していたり、ボッシュにパテントの使用料を払っていたり、全然独自じゃなかったというハナシもあります。日本の自動車メーカーの虚栄心というのはこの頃から全く変わっていないということですね。

現実を見れば、ミラーサイクルと言っても大抵の人はピンと来ないでしょう。現に、デミオのテレビCMを見ていてもミラーサイクルエンジンを売りにはしていません。マツダ自身がそれほどのメリットを引き出せていないと自覚しているからかも知れませんが、ミラーサイクルエンジンと言われても何が凄いのか解らない人にわずか15秒ないし30秒のCMでその価値を理解してもらうのは不可能だと悟ったのでしょう。広告代理店もそんな蘊蓄などより戸田恵梨香さんのキレのないダンスのほうがまだ広告効果があると考えたのだと思います。

逆に、ミラーサイクルといっただけでそれが何だか解る人は、本来ミラーサイクルと称すべきエンジンをアトキンソンサイクルなどと称しているトヨタの言葉遊びに幻滅するか、怒りを覚えるか、失笑するか、いずれかになるでしょう(私は失笑しましたが)。

トヨタはミラーサイクルと称すべきこのエンジンをアトキンソンサイクルと称して発明者であるラルフ・ミラーの功績を無視しました。が、この選択はイメージ的にマイナスにはなってもプラスには働かないでしょう。ここはマツダが充分に引き出せなかったミラーサイクルエンジンの特性をトヨタはプリウスの高度なハイブリッドシステムで生かし切ったと胸を張るべきだったのです。

(おしまい)

コメント

初めまして
これは 面白いコラムですね!
メーカの実態
メディアの本質
それに関わる人間模様がある程度
判らないと 一寸書けませんが
乗り物には大方
政府も介入してる事を念頭に入れた方が良いと思いますよ

  • 2011/03/08(火) 06:39:42 |
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  • 安 #-
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