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プラットフォームを開発できなければ自動車メーカーとはいえない (その1)

最近、電気自動車に過度の期待を寄せている人たちの中には「クルマが電気で走るようになれば主要パーツを買い集めて簡単に作れるようになるから、誰でも自動車メーカーを立ち上げられるようになる」などという思い違いをしている人が少なくないようです。今週月曜日の日本経済新聞の社説もまさにそういう短絡思考に陥っていました。

電気自動車がもたらすチャンスと挑戦

 地球温暖化対策の切り札として、電気自動車が注目されている。三菱自動車が軽自動車をベースに開発した電気自動車「アイミーブ」を来月発売するほか、日産自動車も来年、商品化に踏み切り、2012年には米国でも量産を始める計画だ。

 世界に目を転じても、米国や中国の新興企業が次々に電気自動車市場に名乗りを上げている。

(中略)

 電気自動車の台頭は、自動車産業の競争の構図を一変するかもしれない。エンジンの生産には巨額の投資を要する鋳鍛造設備と熟練技術が必要だが、電気自動車は電池さえ調達できれば比較的簡単につくれる。

 自動車市場の参入障壁は低くなり、新たなライバルの登場は必至。「世界最強」とされた日本の自動車産業にとっても、大きな挑戦である。

(C)日本経済新聞 2009年6月29日


仮にCO2温暖化説が正しかったとしても、電気自動車が地球温暖化対策の切り札になるとは到底思えませんが、とりあえずここは今回の本題と関係ありませんのでスルーします。

日経の論説委員は「エンジンの生産には巨額の投資を要する鋳鍛造設備と熟練技術が必要だが、電気自動車は電池さえ調達できれば比較的簡単につくれる」などという甚だしい考え違いをしていますが、彼は自動車を構成する部品群で最も開発コストがかかり、最も製造コストがかかるのはパワートレーンなどではなく、プラットフォームだということを知らないようです。

ゴルフ場のカートに毛が生えたようなチープカーならいざ知らず、普通の人が普通に使う実用車はパワートレーンが調達できれば「比較的簡単につくれる」などという甘いものではありません。自動車産業の奥の深さ、裾野の広さをこの論説委員は何も知らず、クルマをショップブランドパソコンなどと同列に考えているようです。パワートレーンをCPUやマザーボードなどに見立て、プラットフォームはそれらを収める筐体くらいにしか思っていないからこそ、このような莫迦げた社説が書けるのでしょう。

近年、自動車業界でも合併や提携など再編の動きが続いてきました。その中で常にキーワードとなってきたのが「プラットフォームの共用」です。それは、この部品群が最もコストがかかるゆえ、同一のものあるいはそれにアレンジを加えたものを広く使い回すことで、かなりのコストを抑えられるからです。このプラットフォームを開発し、生産できる(もしくは自分で直接生産しないまでも委託先の生産を管理できる)ノウハウがなければ、既存の自動車メーカーのライバルにはなり得ません。

フロアパネルひとつとっても国際市場での競争力を持った性能を得るには大変なノウハウの蓄積が必要です。普通の乗用車はこれを鋼板のプレス加工とロボットによるスポット溶接で製作しますが、プレスに用いられる金型だけでも大変な技術力と資本が投入されています。同様に溶接ロボットなどの設備も大変な巨費が求められます。これがエンジンの開発や製造に比べて簡単なものだと思っている時点で自動車産業について語る資格などありません。

全般を見渡しても然りで、自動車が市場に投入されるまでには実走によって様々な走行パターンが試され、走行性能以外にも様々な環境や使用条件を想定したテストが重ねられ、評価され、改良を受けます。それが何度も繰り返されて最終仕様が決定されるわけですが、そこへ至るまでには莫大なコストとマンパワーを要するんですね。

例えば、クラッシュテストなども実際にクルマを潰し、様々なデータを取るわけですから、相応のコストがかかります。人体ダミー(本体だけで500万円くらい、センサが増えれば増えるほど価格もアップしますが、通常は数千万円程度でしょうか)のどの部位にどれだけの衝撃加速度が許されるなど様々な基準が設けられているわけですが、それも国によって微妙に異なります。グローバルに展開する大手メーカーなら仕向地の衝突安全基準をクリアしていなければならないのは言うまでもありません。

壊れ方もキチンとコントロールされ、潰れて衝突時のエネルギーを吸収/分散するゾーン、潰れずに乗員を守る空間を確保するゾーン、それぞれを正しく機能させる設計も求められます。エアバッグ関連の部品を買ってきてポンと付ければ一丁上がりなどというレベルでないことはクルマに関してあまり詳しくない人だって容易に想像できるでしょう。

近年の大手メーカーでは、あるレベルまでコンピュータシミュレーションで様々なテストを行い、試作車で行うテストを以前より減らしているかも知れません。しかし、そうしたバーチャルなテストが意味を持つレベルまで精度を高めるには、高度なプログラムの開発能力と、それまで蓄積してきた実験データなど様々なノウハウを注ぎ込み、高価なスーパーコンピュータの上でそれを走らせなければなりません。それこそ新参者がおいそれと踏み込める領域ではないでしょう。

パワートレーンさえ調達できればクルマを作るのは比較的簡単?

寝言は寝てから言ってもらいたいものです。

(つづく)

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