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インサイトは日本でもジリ貧か? (その3)

トヨタがインサイト潰しに出たのは誰の目にも明らかでしょう。例えば、新型プリウスのメディア向け発表会の折、インサイトの簡易的なハイブリッドシステムとプリウスのそれとを比較する寸劇が展開されました(といっても具体的にインサイトとかホンダといった名が出てくることはなかったそうですが)。日本では昔から比較広告が馴染まないこともあってか、経済総合誌の週刊ダイヤモンドにも『業界騒然!ホンダ「インサイト」をコケにする トヨタ「プリウス」の容赦ない“比較戦略”』などと報道され、こうしたやり方に不快感を抱いた人も少なくなかったようです。

システムの違いを比喩的に表現した寸劇の様子
システムの違いを比喩的に表現した寸劇の様子
モーターだけでも走行可能なプリウスはエンジンとモーター双方の力強さをアピールする一方、
ライバルはエンジンのアシストに過ぎないモーターゆえ途中で力尽きるというお莫迦なストーリーだそうです。
ま、遊星歯車を介した合理的な動力混合/分割やミラーサイクルエンジン、補器類の電動化、
排気熱再循環システムなどなど技術的なハナシをしても一般メディアは記事にしないとトヨタは踏んだのでしょう。
私だったら幼児向け番組のごとき寸劇を見せられたら「莫迦にするな!」と激怒しているところですが、
やはりメディアの反応は日本でタブー視されている比較広告を問題にしたようです。


この内容はかつてペプシコーラがM.C.ハマーを起用したCMでコカコーラをコケにしたものと大差ないイメージ重視といったところでしょう。具体的なメカニズムの詳細を比較するようなものならともかく、このように他愛のない比較ならメディアには煽りのネタに使われ、ホンダファンや直感的にインサイトが気に入ったような消費者には良い印象を与えることもないでしょうから、あまりメリットはなかったように思います。

トヨタがここまで形振り構わずインサイト潰しにかかったのは、ホンダに対して強い怒りを抱き、メディアを味方に付けて勢いづいていたインサイトに危機感を抱いたからかも知れません。週刊ダイヤモンドの記事にある「明らかにホンダはトヨタの“虎の尾”を踏んだ」という業界関係者のコメントも正鵠を射ているように思います。

前回述べましたようにプリウスそっくりな外観も、トヨタにしてみれば自分たちが築き上げてきたハイブリッド専用車のイメージを横取りされたような不快感に繋がったでしょう。また、何よりホンダはメディアを上手く利用してかなり勢いづいていましたから、トヨタも通常ではあり得ないような早い段階でメディア向けの試乗会を催したり、テレビCMも発売までかなり時間があるにも拘わらず大量に流すなど、インサイトに注目が集中するのを何とか阻止しようと必死だった印象があります。

日本の自動車メーカーでマーケットリサーチをしていないというところはないでしょうから、トヨタも「どれくらいの価格ならどれくらい売れる」といった類のリサーチをやっていたに違いありません。もちろん、こうしたリサーチが必ず当たる保証もありませんから、トヨタも時々bBオープンデッキのような実験色の強いモデルを発売してマーケットのリアクションを見たりすることがあるわけですね。

今年3月初旬、ホンダはインサイトが発売1ヶ月で18,000台を受注したことを大々的に発表しました。世界的に新車の販売不振が続く昨今にあってこの爆発的な数字ですから、メディアもこれに食い付いて大きく報じました。トヨタにとって189万円という価格は想定内だったかも知れませんが、この受注台数に関しては想定を大きく上回っていたのかも知れません。

新型インサイトの当初販売目標は5,000台/月でしたから、18,000台という数字はそれを3倍以上も上回ったわけで、ホンダ自身の想定をも上回っていたと見るべきでしょう。一方、トヨタにとっても新型プリウスの当初目標10,000台/月の2倍に迫る数字ですから、ショックは小さくなかったと思います。もしかしたら、彼らがリサーチによって想定していた需要供給曲線とは一致しない結果だったかも知れません。

日本人はこうした上げ潮の勢いに影響されやすいところがあり、深く考えずブームに乗ってしまうことが往々にしてあります。そうした国民性も鑑みるとさすがのトヨタも危機感を抱いたかも知れませんし、この勢いを少しでも早い段階で削いでおきたいと考えたかも知れません。新型プリウスの価格が205万円からという第一報が朝日新聞から伝えられたのは、ホンダがあの18,000台受注という発表をした僅か3日後のことでした。

いま思えば、ホンダはプリウスとの違いをもっと強調し、車格の違いから直接競合するようなライバルではないということをアピールしておくべきだったんですね。しかし、ホンダは価格の安さを前面に出すばかりでシステムの違いはカタログなどの資料に概略だけを載せ、最も広告効果の高いテレビCMでは「エコカーは、作っただけじゃエコじゃない」「みんなに乗ってもらって初めてエコなんです」みたいな低価格路線をアピールするだけでした。(ま、見方によってはこれも比較広告といえるかも知れません。)

ハイブリッドシステムについてあまり積極的に説明することなくプリウスにそっくりなボディを被せれば、普通の人なら誰だって同じようなクルマだと思うでしょう。価格設定を低めに抑えたけれども中身は全然次元の異なるものだということは私みたいなクルマオタクでないとなかなか追求しないでしょうし、評価もしないでしょう。少なくとも一般メディアにはそんなところまでフォローするような責任感なんてありません。

これが救いようのない自動車オンチの一般メディアだけだったらまだしも、自動車の専門メディアにあっても「ハイブリッドカー頂上対決」とでも言わんばかりのライバル扱いが続いていますから(それだけ専門メディアの質も大きく低下しているということですが)、これはトヨタにしてみれば苦虫を噛み潰すような思いだったに違いありません。トヨタが莫迦みたいな値下げで徹底抗戦に出る決意をしたのも、冒頭でご紹介したようなえげつない比較広告を展開したのも、心情を汲めば解らなくはありません。ホンダはトヨタの心情を読み切れなかったゆえ、徹底抗戦の火蓋を切らせてしまったのかも知れません。

(つづく)

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